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特開2016-55211ヨウ素酸イオン吸着剤及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-55211(P2016-55211A)
(43)【公開日】2016年4月21日
(54)【発明の名称】ヨウ素酸イオン吸着剤及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/06 20060101AFI20160328BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20160328BHJP
   C01F 17/00 20060101ALI20160328BHJP
   C01B 7/14 20060101ALI20160328BHJP
   G21F 9/12 20060101ALI20160328BHJP
【FI】
   B01J20/06 A
   B01J20/30
   C01F17/00 A
   C01B7/14 Z
   G21F9/12 501B
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-180789(P2014-180789)
(22)【出願日】2014年9月5日
(11)【特許番号】特許第5793230号(P5793230)
(45)【特許公報発行日】2015年10月14日
(71)【出願人】
【識別番号】000230593
【氏名又は名称】日本化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076532
【弁理士】
【氏名又は名称】羽鳥 修
(74)【代理人】
【識別番号】100101292
【弁理士】
【氏名又は名称】松嶋 善之
(74)【代理人】
【識別番号】100107205
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 秀一
(74)【代理人】
【識別番号】100112818
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 昭久
(74)【代理人】
【識別番号】100155206
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 源一
(72)【発明者】
【氏名】宮部 慎介
(72)【発明者】
【氏名】木ノ瀬 豊
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 清
(72)【発明者】
【氏名】小指 健太
(72)【発明者】
【氏名】徳武 茉里
【テーマコード(参考)】
4G066
4G076
【Fターム(参考)】
4G066AA12B
4G066BA09
4G066BA20
4G066CA12
4G066CA31
4G066DA07
4G066FA14
4G066FA21
4G066FA37
4G066FA38
4G066FA40
4G076AA10
4G076BA46
4G076BA50
4G076BD06
4G076BH01
4G076CA02
4G076CA26
4G076CA36
4G076DA25
(57)【要約】
【課題】ヨウ素酸イオンの吸着性能が優れ、かつ容易に製造することが出来るヨウ素酸イオンの吸着剤を提供する。
【解決手段】本発明のヨウ素酸イオンの吸着剤は、水酸化セリウム(IV)の含有量が90.0質量%以上である粒状体からなり、該粒状体が200μm以上1000μm以下の粒度を有する。水酸化セリウム(IV)の含有量が99.5質量%以上であることが好ましい。また、該粒状体が300μm以上600μm以下の粒度を有することも好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化セリウム(IV)の含有量が90.0質量%以上である粒状体からなり、該粒状体が200μm以上1000μm以下の粒度を有する、ヨウ素酸イオン吸着剤。
【請求項2】
粒状体の水酸化セリウム(IV)の含有量が99.5質量%以上である、請求項1に記載のヨウ素酸イオン吸着剤。
【請求項3】
請求項1に記載のヨウ素酸イオン吸着剤の製造方法であって、
原料である水酸化セリウム(IV)を湿式粉砕してスラリーを得る工程と、該スラリーを固液分離した後、得られた固形物を乾燥して乾燥物を得る工程と、該乾燥物を粉砕して粉砕物を得る工程と、該粉砕物を200μm以上1000μm以下の粒度に分級する工程とを有する、ヨウ素酸イオン吸着剤の製造方法。
【請求項4】
湿式粉砕において、水酸化セリウム(IV)を、平均粒子径が0.5μm以上5.0μm以下となるように粉砕する、請求項3に記載のヨウ素酸イオン吸着剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヨウ素酸イオンの吸着性に優れた吸着剤及びその製造方法に関するものであり、原子力発電所の事故により発生した汚染水の処理に有用なヨウ素酸イオン吸着剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力施設から排出される放射性ヨウ素は、ヨウ素(I)、ヨウ化水素酸(HI)及びヨウ化メチル(CHI)の3種類と言われている。
【0003】
これらの放射性ヨウ素の除去方法としては、次の方法が用いられている。
(1)ヨウ素含有気体又は液体を、銀ゼオライトに接触させてヨウ化銀として捕集する方法。(下記非特許文献1)
(2)ヨウ化カリウムを添着した添着活性炭を大量に使用して、放射性ヨウ素(ヨウ素131)を非放射性ヨウ素と同位体交換することによって捕集する方法。(下記特許文献1)
(3)ヨウ素含有気体又は液体を、アミノ基を有するイオン交換性繊維に接触させて、除去する方法。(下記特許文献2)
(4)不溶性のシクロデキストリン又はその誘導体を有効成分としてヨウ素を吸着する方法(下記特許文献3)
【0004】
また、セレンやホウ素、ヒ素等の吸着剤としてセリウム化合物が知られている。セリウム化合物を吸着剤として利用する具体的な方法としては、
(1)セリウムを多孔質の無機材料又は有機材料の表面に担持させて除去する方法(下記特許文献4)
(2)水酸化セリウム粉末をバインダー(シリカゾル、チタニアゾル、ジルコニアゾル)を使用して造粒し、この造粒品を使用して除去する方法(下記特許文献5)
(3)セルロースにセリウムを坦持させた吸着剤により除去する方法(下記特許文献6)などがあげられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−254446号公報
【特許文献2】国際公開第2012/147937号パンフレット
【特許文献3】特開2008−93545号公報
【特許文献4】特開2013−78711号公報
【特許文献5】特開2008−259942号公報
【特許文献6】国際公開第2011/052008号パンフレット
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】革新的実用原子力技術開発費補助事業 平成15年度成果報告書概要版 「放射性ヨウ素の処理処分に関する技術開発」 平成16年3月 独立行政法人 物質材料研究機構
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
最近、ヨウ素、ヨウ化水素酸、ヨウ化メチルの他に、ヨウ素酸(IO)イオンの除去が問題になっている。これは、原発汚染水の処理工程において、次亜塩素酸ソーダが使用されているため、汚染水中のヨウ素イオンが次亜塩素酸ソーダにより酸化されてヨウ素酸イオンが生成することに起因しているものと推定される。
【0008】
上述した特許文献1〜3に記載の従来のヨウ素除去技術は、ヨウ素酸の吸着剤としては不十分である。また、セレンやホウ素、ヒ素等の吸着剤として用いられる水酸化セリウムに係る特許文献4〜6に記載の技術をヨウ素酸の吸着に適用しても、やはり、吸着性能は満足のいくものではない。例えば、バインダーを使用して水酸化セリウムを造粒した吸着剤をヨウ素酸の除去に適用しようとすると、バインダー成分により、ヨウ素酸に対する吸着性能が低下しやすい。また他の無機材料及び有機材料にセリウム化合物を坦持させた吸着剤は、有効成分とするセリウム化合物の含有率が低いために、吸着性能が低いという問題もある。
【0009】
したがって、本発明はヨウ素酸イオンの吸着性能が優れ、かつ容易に製造することが出来るヨウ素酸イオンの吸着剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らはこのような課題を解決すべく鋭意検討の結果、水酸化セリウム(IV)を高含有量で含有する特定粒径の粒状体を得ることにより、ヨウ素酸イオンの吸着性能に優れた吸着剤を提供できることを見出したものである。
【0011】
すなわち本発明は、有効成分である水酸化セリウム(IV)の含有量が90.0質量%以上である粒状体からなり、該粒状体が200μm以上1000μm以下の粒度を有する、ヨウ素酸イオン吸着剤を提供するものである。
【0012】
また、本発明は、前記のヨウ素酸イオン吸着剤の製造方法であって、
原料である水酸化セリウム(IV)を湿式粉砕してスラリーを得る工程と、該スラリーを固液分離した後、得られた固形物を乾燥して乾燥物を得る工程と、該乾燥物を粉砕して粉砕物を得る工程と、該粉砕物を200μm以上1000μm以下の粒度に分級する工程とを有する、ヨウ素酸イオン吸着剤の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ヨウ素酸イオンの吸着除去特性に優れた吸着剤を提供できるとともに、該吸着剤として有効な水酸化セリウムを工業的に有利な方法で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のヨウ素酸イオン吸着剤について、その好ましい実施形態に基づき説明する。
【0015】
本発明のヨウ素酸イオン吸着剤(以下、単に本発明の吸着剤ともいう)は、水酸化セリウム(IV)の含有量が90質量%以上である粒状体からなることを特徴の一つとしている。本発明の吸着剤で用いる粒状体は、有効成分である水酸化セリウム(IV)を高含有量で含有しており、これにより高いヨウ素酸イオンの吸着性能を有するものである。粒状体におけるこのような水酸化セリウム(IV)の高い含有量は、バインダーを用いて水酸化セリウム(IV)を粒状としたり、担体に水酸化セリウム(IV)を担持させる場合、通常達成できない。本発明の吸着剤は、バインダーや担体を用いないか或いは仮に用いても極微量である。このため、本発明の吸着剤においては、バインダー成分によるヨウ素酸の吸着性能の低下は生じない。これらの観点から、粒状体における水酸化セリウム(IV)の含有量は、好ましくは、92質量%以上であり、より好ましくは、95質量%以上であり、特に好ましくは、98質量%以上である。粒状体における水酸化セリウム(IV)の含有量は、蛍光X線回析装置を用いた定量分析により、具体的には後述の実施例に記載の方法により測定することができる。粒状体からなる本発明の吸着剤における水酸化セリウム(IV)の含有量も、粒状体と同様であることが好ましい。
【0016】
本発明の吸着剤は、水酸化セリウム(IV)の含有量が90質量%以上である前記の粒状体が200μm以上1000μm以下の粒度を有することを別の特徴としている。この粒度の粒状体からなる本発明の吸着剤には、200μmよりも細かい粒子が存在しないか或いは存在しても極微量であるため、本発明の吸着剤を吸着塔に充填して通水した場合に、粒子が吸着塔内で詰まる問題を防止することができる。また、粒径が1000μmよりも大きい粒子は吸着能力が低く、全体の吸着性能を低下させるところ、前記の粒度の粒状体からなる本発明の吸着剤には、このような大きな粒子が存在しないか或いは存在しても極微量であるため、高い吸着性能を有する。
【0017】
具体的には、JIS Z8801規格による目開きが212μmの篩と、前記の目開きが1mmの篩とを用いたときに、本発明の吸着剤の98質量%以上、特に99質量%以上が目開き1mmの篩を通り且つ98質量%以上、特に99質量%以上が目開き212μmの篩を通らないことが好ましい。特に、本発明のヨウ素酸イオン吸着剤は、300μm以上600μm以下の粒度を有する粒状体からなることが好ましい。具体的には、JIS Z8801規格による目開きが300μmの篩と、目開きが600μmの篩とを用いたときに、本発明の吸着剤の98質量%以上、特に99質量%以上が前記の600μmの篩を通り且つ98質量%以上、特に99質量%以上が前記の300μmの篩を通らないことが好ましい。
【0018】
本発明の吸着剤は、前記の特定の粒度と水酸化セリウムの含有量とを有する粒状体のみからなるものであってもよいが、この粒状体に加えて、必要に応じて他の粒子を含有していてもよい。例えば、本発明の吸着剤は、本発明の効果を損ねない微量の範囲であれば、前記の粒状体の一部が粉砕して微粒となった粒子や、前記の粒度よりも若干大きな粒子を含有していても良い。これらの場合のように、他の粒子は、通常、前記の粒状体と同じ組成であるが、異なっていてもよい。粒状体とは異なる組成の成分の例としては、水酸化セリウム(III)Ce(OH)が挙げられる。
【0019】
以上、詳述したように、特定粒度の水酸化セリウム(IV)の粒状体からなる本発明の吸着剤を充填塔に充填してヨウ素酸イオンを含む原発汚染水を通水した場合、充填塔内で汚染水が詰まる問題を防止でき、且つ効率的に汚染水からのヨウ素酸イオンを吸着除去することが可能である。
【0020】
次いで、本発明の吸着剤の好ましい製造方法について説明する。
本製造方法は、原料である水酸化セリウム(IV)を湿式粉砕してスラリーを得る工程と、該スラリーを固液分離した後、得られた固形物を乾燥して乾燥物を得る工程と、該乾燥物を粉砕して粉砕物を得る工程と、該粉砕物を200μm以上1000μm以下の粒度に分級する工程とを有する。
【0021】
原料である水酸化セリウム(IV)は、市販のものを用いてもよいし、製造してもよく、その製造方法は限定されない。通常、市販の水酸化セリウム(IV)等はその粒径が小さいため、そのままの状態では吸着剤としては吸着塔に充填するうえで問題がある。本発明者らは、水酸化セリウム(IV)を特定の条件で湿式粉砕した後、得られたスラリーを固液分離し、得られた固形物を乾燥すると、硬い乾燥物(以下、乾燥ケーキともいう)が得られ、この乾燥物を、求める粒度に細分化することにより、本発明の吸着剤を好適に得られることを見出した。
【0022】
湿式粉砕における粉砕粒度としては、平均粒子径で0.5μm以上5μm以下の範囲が好ましい。平均粒子径が0.5μm以上であることは、湿式粉砕後の固液分離で濾過を行う際に濾過の時間が短くなり吸着剤の製造効率を向上させることができるため好ましい。また平均粒子径が5μm以下であると、固液分離して得られた固形物を乾燥して得られる乾燥ケーキが硬くなりやすく、その後の粉砕及び分級工程で、好適な粒状品が得やすいため好ましい。この観点から平均粒子径は0.6μm以上2.0μm以下であることがより好ましく、0.7μm以上1.5μm以下であることが特に好ましい。前記の平均粒子径は例えば、日機装(株)社製のレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置であるマイクロトラック(例えば、マイクロトラックMT3000II)により測定できる。測定の際には、イオン交換水にヘキサメタリン酸ソーダを0.3質量%溶解させた溶液をマイクロトラックの試料循環器のチャンバーに入れる。このチャンバーに乾燥させた粒子を、装置が表示する適正濃度となるまで添加して分散させる。
【0023】
湿式粉砕に用いる粉砕機としては、湿式粉砕可能なものであれば特に限定はされないが、例えば粉砕媒体を使用する粉砕機が用いられ、具体例としては、ビーズミル、アトライタ(登録商標)、サンドグラインダーなどが挙げられる。粉砕媒体としては球状(ボール)、円筒形等種々のものが使用可能であるが、球状のものが好ましい。粉砕媒体の材質としては、ガラス、アルミナ、ジルコニア等を挙げることができる。粉砕媒体の直径としては0.5mm以上5mm以下が好ましく、1mm以上3mm以下がより好ましい。湿式粉砕における分散媒は、水のほか、水と極性有機溶媒との混合溶媒等を用いることができる。極性有機溶媒としては、アルコールが好ましく、例えばメタノールやエタノール等が挙げられる。更に、湿式粉砕に供する水酸化セリウム(IV)及び分散媒の量比は水酸化セリウム(IV)100質量部に対して分散媒を150質量部以上200質量部以下とすることが好ましく、165質量部以上185質量部以下とすることがより好ましい。また、湿式粉砕に供する水酸化セリウム(IV)及び粉砕媒体の量比は、水酸化セリウム(IV)100質量部に対して粉砕媒体を110容量部以上とすることが好ましく、130容量部以上170容量部以下とすることがより好ましく、140容量部以上160容量部以下とすることが更に好ましい。この水酸化セリウム(IV)と粉砕媒体との量比における質量部とはg基準の量であり、容量部とはml基準の量である。
【0024】
湿式粉砕後の固液分離は濾過による行うことが好ましく、フィルタープレスや遠心分離機など、分離した水酸化セリウム(IV)がブロック状で得られる分離設備により行うことが好ましい。
【0025】
固液分離により得られた固形物の乾燥は箱型乾燥機等で行うことができる。固形物を乾燥する乾燥温度は100℃以上120℃以下が好ましい。乾燥温度を120℃以下とすることは、水酸化セリウム(IV)のイオン交換可能なヒドロキシル基が減少することを防止しやすい観点から好ましい。乾燥した水酸化セリウムの粉砕は、例えばローラーミル等で幅0.5mm以上2mm以下のスリットを通過させる方法が好ましい。
【0026】
また、固形物を乾燥し、次いで乾燥物を粉砕する各工程においては、含水状態の固形物をそのまま粉砕、乾燥させることに替えて、含水状態の固形物を複数の開孔が形成された開孔部材から押出成形して成形体を得、得られた該成形体を乾燥させた後、粉砕して粒子状としてもよい。この場合の粉砕は、ランデルミルにより行うことができる。開孔部材に形成された孔の形状としては、円形、三角形、多角形、環形等を挙げることができる。開孔の真円換算径は0.4mm以上1.0mm以下が好ましい。ここでいう真円換算径は、孔一つの面積を円面積とした場合の該面積から算出される円の直径である。
【0027】
前記で得られた粉砕物は、篩で所定の粒度に分級する。好ましい粒度範囲は、212μm〜1000μmであり、更に好ましい粒度範囲は300〜600μmである。これらの粒度への分級は、上述した公称目開きの篩を用いればよい。
【0028】
以上の工程を経ることにより、ヨウ素酸イオンの吸着能を低下させることなく吸着塔に充填可能な粒度の揃った水酸化セリウム(IV)の粒状体を得ることが出来る。この粒状体は、その高いヨウ素酸吸着性能を生かして、放射性物質吸着材を充填してなる吸着容器及び吸着塔を有する水処理システムの吸着剤として好適に使用することが出来る。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例により説明する。特に断らない限り「%」は「質量%」を表す。実施例で使用した評価装置は以下のとおりである。
<評価装置>
・水酸化セリウム(IV)含有量:蛍光X線分析装置として、リガク社製 ZSX100eを用いた。測定条件は、管球:Rh(4kW)、雰囲気:真空、分析窓材:Be(厚み30μm)、測定モード:SQX分析(EZスキャン)、測定径:30mmφとして全元素測定を行った。測定結果よりCO2成分を除去し、更に全成分から全不純物(セリウム化合物以外の成分、例えばAl23、SiO2、P25、CaO、SO3、ZrO2、Nd23、Au2O、Cl、F)を引いた量を求め、水酸化セリウム(IV)の量とした。なお、測定用の試料は、粒状体をアルミリング等の適当な容器に入れ、ダイスで挟みこんでからプレス機で10MPaの圧力をかけてペレット化することにより調製した。
・ヨウ素酸の吸着試験におけるヨウ素濃度:イオンクロマトグラフ測定装置(DIONEX社製ICS−1600)により測定した。
【0030】
<実施例1>
水酸化セリウム(IV)の乾燥品(市販品、(株)高南無機社製)をローラーミル(スリット幅1mm)を通過させて1mm以下の粉粒体とした。この粉粒体をサンドグラインダーで以下の粉砕条件により湿式粉砕して、平均粒子径が0.91μmの粉砕スラリーを得た。この平均粒子径は、前記の方法により測定したものである(以下の実施例2以降も同様)。このスラリーを、ブフナーロートを用いることにより濾過して固形物を得た。この固形物を箱型乾燥機により105℃で乾燥して乾燥物を得た。次いで該乾燥物を乳鉢により粉砕して粉砕物を得た。その後、該粉砕物を、前記の公称目開き600μmの篩に通し、この篩を通った粒子を、前記の公称目開き300μmの篩で分級した。300μmの篩を通らない粒子を、粒度が300〜600μmの粒状体とした。得られた粒状体における、水酸化セリウム(IV)の含有量を測定したところ、99.5%であった。
【0031】
<サンドグラインダーの粉砕条件>
2mmφアルミナビーズ 300ml
水酸化セリウム 200g
イオン交換水 350g
粉砕時間 2時間
【0032】
<実施例2>
水酸化セリウム(IV)の乾燥品(製造品)をペイントシェーカーで以下の粉砕条件により粉砕して、平均粒子径1.0μmの粉砕スラリーを得た。このスラリーについて、実施例1と同様の固液分離及び乾燥を行った。得られた乾燥物を乳鉢で粉砕した。得られた粉砕物をJIS Z8801規格における公称目開きが840μmの篩に通し、この篩を通ったものを、前記の公称目開きが300μmの篩に通した。この300μmの篩を通らなかった粒状体を、粒度300〜840μmの粒状体とした。得られた粒状体における、水酸化セリウム(IV)の含有量を測定したところ、99.7%であった。
【0033】
<ペイントシェーカーの粉砕条件>
水酸化セリウム乾燥品 35g
イオン交換水 50g
2mmφガラスビーズ 60g(40ml)
分散時間 20分
【0034】
<実施例3>
水酸化セリウム(IV)の乾燥品(製造品)について、実施例2と同様の湿式粉砕、固液分離及び乾燥を行った。得られた乾燥物を乳鉢により粉砕した。得られた粉砕物を前記の公称目開きが1mmの篩に通し、この篩を通ったものを、前記の公称目開きが300μmの篩に通した。この300μmの篩を通らなかった粒状体を、粒度300〜1000μmの粒状体とした。得られた粒状体における、水酸化セリウム(IV)の含有量を測定したところ、99.6%であった。
【0035】
<比較例1>
水酸化セリウム(IV)の乾燥品(市販品、(株)高南無機社製)をローラーミル(スリット幅1mm)を通過させて1mm以下の粉粒体とした。この粉粒体について、実施例1と同様の湿式粉砕を行い、平均粒子径が0.91μmの粉砕スラリーを得た。このスラリーをブフナーロートでろ過後、得られたろ過ケーキにシリカゾル(日本化学工業製シリカドールSD40)を加えて混錬した。得られた混練物は、実施例1と同様の方法で、乾燥、粉砕及び分級して、粒度が300〜600μmの水酸化セリウム(IV)の粒状体を得た。この粒状体における、水酸化セリウム(IV)の含有量を測定したところ、76.8%であった。
【0036】
<比較例2>
水酸化セリウム(IV)の乾燥品(市販品、(株)高南無機社製)を目開き105μmの篩にかけて、篩下品を得た。この篩下品87gとベントナイト(クニミネ工業(株)製ネオクニボンド)10g及びカルボキシメチルセルロースアンモニウム(和光純薬工業)3gを混合し、適量の水を加えて混錬した。混錬したものを押し出し成型機により、口径1mmφのノズルより押し出し、120℃で乾燥した。乾燥品を実施例1と同様の方法で粉砕及び分級して粒度が300〜600μmの水酸化セリウム(IV)粒状品を得た。この粒状品における、水酸化セリウム(IV)の含有量を測定したところ、83.6%であった。
【0037】
実施例1〜3で得られた粒状水酸化セリウム(IV)並びに比較例1及び2の粒状品を使用して、以下の<吸着試験方法>により、ヨウ素酸の吸着試験を行った。
【0038】
<吸着試験方法>
試薬としてヨウ素酸(HIO)0.176gをイオン交換水1000mlに溶解して、ヨウ素酸のヨウ素換算濃度が100ppmである試験液を調整した。この試験液100mlと粒状水酸化セリウム(IV)0.5gとを100mlポリプロピレン製容器に入れて密栓したものを2セット用意した。密栓後の2個のポリ容器は、いずれも10回倒立させた後に静置した。静置1時間後にポリ容器1個を10回倒立させた後、内部の試験液をろ過し、得られたろ液中のヨウ素酸量としてヨウ素濃度を測定した。静置24時間後にもうひとつのポリ容器を10回倒立させた後、内部の試験液をろ過し、同様に、得られたろ液のヨウ素濃度を測定した。試験前の100ppmから得られたヨウ素濃度を引くことにより、ヨウ素酸の除去率を求めた。また、下記式により、分配係数Kdを求めた。これらの結果を表1に示す。
【0039】
【数1】
【0040】
【表1】
【0041】
表1の結果から明らかな通り、特定の粒度を有し水酸化セリウム(IV)を高い含有量で含む各実施例の粒状体は、ヨウ素酸の除去率が大きく、吸着剤として好適な性能を有することが判る。これに対し、水酸化セリウム(IV)の含有量が低い比較例1及び2の粒状体は、ヨウ素酸の除去率に劣ることが判る。
【手続補正書】
【提出日】2015年7月9日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化セリウム(IV)の含有量が90.0質量%以上である粒状体からなり、該粒状体が300μm以上600μm以下の粒度を有する、ヨウ素酸イオン吸着剤。
【請求項2】
粒状体の水酸化セリウム(IV)の含有量が99.5質量%以上である、請求項1に記載のヨウ素酸イオン吸着剤。
【請求項3】
請求項1に記載のヨウ素酸イオン吸着剤の製造方法であって、
原料である水酸化セリウム(IV)を湿式粉砕してスラリーを得る工程と、該スラリーを固液分離した後、得られた固形物を乾燥して乾燥物を得る工程と、該乾燥物を粉砕して粉砕物を得る工程と、該粉砕物を300μm以上600μm以下の粒度に分級する工程とを有する、ヨウ素酸イオン吸着剤の製造方法。
【請求項4】
湿式粉砕において、水酸化セリウム(IV)を、平均粒子径が0.5μm以上5.0μm以下となるように粉砕する、請求項3に記載のヨウ素酸イオン吸着剤の製造方法。