特開2016-56105(P2016-56105A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-56105(P2016-56105A)
(43)【公開日】2016年4月21日
(54)【発明の名称】医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/426 20060101AFI20160328BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20160328BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20160328BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20160328BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20160328BHJP
   A61K 31/525 20060101ALI20160328BHJP
【FI】
   A61K31/426
   A61P1/04
   A61P43/00 113
   A61K9/08
   A61K47/22
   A61K31/525
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-181230(P2014-181230)
(22)【出願日】2014年9月5日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 平成26年3月5日 日本薬学会第134年会組織委員会発行の「日本薬学会第134年会要旨集4、第170頁」を通じて発表 平成26年3月30日 熊本市総合体育館にて「日本薬学会第134年会」を通じて発表
(71)【出願人】
【識別番号】000006677
【氏名又は名称】アステラス製薬株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
(71)【出願人】
【識別番号】507219686
【氏名又は名称】静岡県公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100126985
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 充利
(72)【発明者】
【氏名】小口 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】内田 淳
(72)【発明者】
【氏名】寺島 朝子
(72)【発明者】
【氏名】寺松 剛
(72)【発明者】
【氏名】尾上 誠良
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA11
4C076BB11
4C076CC16
4C076CC29
4C076DD59Q
4C076FF65
4C076GG45
4C086AA10
4C086BC82
4C086CB09
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA16
4C086MA66
4C086NA03
4C086ZA68
4C086ZC44
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、ファモチジンを含有する医薬組成物の散光条件下における力価の低下を抑制する技術を提供することである。
【解決手段】ファモチジンまたはその製薬学的に許容される塩を含有する医薬組成物において、抗酸化物質を添加することによってファモチジンまたはその製薬学的に許容される塩の光化学的配合変化を抑制することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファモチジンまたはその製薬学的に許容される塩と抗酸化物質とを含む、医薬組成物。
【請求項2】
前記抗酸化物質が、ラジカルスカベンジャーである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記抗酸化物質が、活性酸素種を捕捉するラジカルスカベンジャーである、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記抗酸化物質が、スーパーオキサイド種を捕捉するラジカルスカベンジャーである、請求項1〜3のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記抗酸化物質が、アスコルビン酸を含む、請求項1〜4のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項6】
液体製剤である、請求項1〜5のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項7】
注射用製剤である、請求項1〜6のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項8】
リボフラビンリン酸エステルナトリウムをさらに含有し、リボフラビンリン酸エステルナトリウム/抗酸化物質のモル比が0.5〜1000である、請求項1〜7のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項9】
ファモチジンまたはその製薬学的に許容される塩を含む医薬組成物において、抗酸化物質を添加することを含む、ファモチジンまたはその製薬学的に許容される塩の安定化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ファモチジンまたはその製薬学的に許容される塩を含む医薬組成物に関する。特に本発明は、ファモチジンまたはその製薬学的に許容される塩の光に対する安定性が高められた医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
注射薬による薬物治療において、多回穿刺による患者への侵襲軽減等を目的として、医薬品の混合が一般的に行われている。
【0003】
しかしながら、医薬品の混合によりいわゆる配合変化が生じる場合があり、薬物治療の施行に障害となることがある。配合変化は、(1)医薬品の溶解度、吸着・収着等の物理的要因、(2)医薬品間の化学反応等の化学的要因、などにより外観変化や含量低下が生じる現象である。特に配合変化によって含量低下が生じると、治療に対して大きな影響を及ぼすため、患者のQOL(quality of life)が低下することも危惧される。
【0004】
ファモチジンは、ヒスタミンH受容体拮抗薬(Hブロッカー)の1種であり、胃潰瘍や十二指腸潰瘍といった消化性潰瘍の治療薬として広く用いられている。ファモチジンは、消化性潰瘍および手術等による侵襲ストレスに起因した上部消化管出血の抑制に広く用いられており、高カロリー輸液や手術および検査後の輸液に混合されて汎用されている(特許文献1:特公昭60−56143号公報)。
【0005】
一方、リボフラビンリン酸エステルナトリウムは、リボフラビンのリン酸エステル体であり、ビタミンB欠乏症の予防や治療に用いられる。また、リボフラビンは、ビタミンBとして知られ、水溶性ビタミンに分類される生理活性物質であり、ラクトフラビンとも呼ばれる。リボフラビンリン酸エステルナトリウムは、水に可溶な橙黄色針状結晶で蛍光性が強く、水溶液は黄色を示す。そのため、塩化カリウムの急速静注による心停止などの重篤な医療事故を防止するための着色剤としても用いられている(非特許文献1:Powers H. J., Riboflavin (vitamin B-2) and health, Am J Clin Nutr., 77(6), 1352-1360 (2003))。
【0006】
ファモチジンとリボフラビンリン酸エステルナトリウムを混合することは、実際の医療現場でも行われているが、両者を配合すると特に室温散光下にてファモチジンの含量低下が生じ得ることが報告されている(非特許文献2:土屋千佳子他, 第 19 回日本医療薬学会年会講演要旨集, P2-303 (2009))。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭60−56143号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Powers H. J., Riboflavin (vitamin B-2) and health, Am J Clin Nutr., 77(6), 1352-1360 (2003)
【非特許文献2】土屋千佳子他, 第 19 回日本医療薬学会年会講演要旨集, P2-303 (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ファモチジンとリボフラビンリン酸エステルナトリウムの混合は、例えば注射剤を調製する際などに、医療現場において広く行われ得るにもかかわらず、上述したように、ファモチジンとリボフラビンリン酸エステルナトリウムを混合すると、特に散光条件において含量低下が生じることが報告されている。しかしながら、この含量低下機構の科学的かつ本質的な解明には至っておらず、そのメカニズムを解明し、含量低下などの配合変化を抑制する技術の開発が急務である。
【0010】
ファモチジンを含有する医薬組成物の散光条件下における配合変化を回避する方法として、例えば、別ルートでの投与および遮光条件での投与が挙げられる。しかしながら、前者の方法は、注射や輸液以外の投与ルートの確保が難しい新生児や高齢者等には適用できず、また、医療従事者の負担が増大する。一方、後者の方法は、遮光シートなどによって輸液の性状や配合変化等がマスキングされるため、投与におけるトラブルの発見の遅れが生じるおそれがある。
【0011】
そのため、ファモチジンを含有する医薬組成物の散光条件下における配合変化について、その機構を科学的に解明し、本質的な回避策を確立することが医療現場で強く求められている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題に対して本発明者らは、ファモチジンを含有する医薬組成物におけるファモチジンの光化学的配合変化について、その機構の科学的解明を行ったところ、光照射によって活性酸素種(ROS)が生じると、それによってファモチジンの力価が低下することを見出した。特に、リボフラビンリン酸エステルナトリウムなどの光反応性が高い物質が存在していると、光照射によって活性酸素種が生じやすいため、ファモチジンを含有する医薬組成物の配合変化が生じやすくなることが見いだされた。
【0013】
さらに本発明者らは、解明した機構を基盤として、ファモチジンを含有する医薬組成物におけるファモチジンの光化学的配合変化を抗酸化剤によって抑制することを検討したところ、抗酸化剤の添加によって、散光条件下におけるファモチジンの配合変化を効果的に抑制できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、これに限定されるものではないが、以下の態様を包含する。
(1) ファモチジンまたはその製薬学的に許容される塩と、および抗酸化物質とを含む、医薬組成物。
(2) 前記抗酸化物質が、ラジカルスカベンジャーである、(1)に記載の医薬組成物。
(3) 前記抗酸化物質が、活性酸素種を捕捉するラジカルスカベンジャーである、(1)または(2)に記載の医薬組成物。
(4) 前記抗酸化物質が、スーパーオキサイド種を捕捉するラジカルスカベンジャーである、(1)〜(3)のいずれかに記載の医薬組成物。
(5) 前記抗酸化物質が、アスコルビン酸を含む、(1)〜(4)のいずれかに記載の医薬組成物。
(6) 液体製剤である、(1)〜(5)のいずれかに記載の医薬組成物。
(7) 注射用製剤である、(1)〜(6)のいずれかに記載の医薬組成物。
(8) リボフラビンリン酸エステルナトリウムをさらに含有し、リボフラビンリン酸エステルナトリウム/抗酸化物質のモル比が0.5〜1000である、(1)〜(7)のいずれかに記載の医薬組成物。
(9) ファモチジンまたはその製薬学的に許容される塩とリボフラビンリン酸エステルナトリウムを含む医薬組成物において、抗酸化物質を添加することを含む、ファモチジンまたはその製薬学的に許容される塩の安定化方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ファモチジンを含有する医薬組成物におけるファモチジンの光化学的配合変化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、実験例1におけるファモチジン溶液およびリボフラビンリン酸エステルナトリウム溶液のUV/VISスペクトルである。破線がファモチジン溶液、実線がリボフラビンリン酸エステルナトリウム溶液のUV/VISスペクトルを示す。縦軸が吸光度(Absorbance)、横軸が波長(Wavelength:nm)である。
図2図2は、実験例2における光照射後の一重項酸素(Singlet oxygen)およびスーパーオキサイド(Superoxide)の産生プロファイルである(図2A:一重項酸素、図2B:スーパーオキサイド)。□:ファモチジン;○:リボフラビンリン酸エステルナトリウム;△:キニーネ(陽性対照);▽:スリソベンゾン(陰性対照)。平均±標準偏差(n=3)。
図3図3は、実験例3におけるファモチジンの光分解プロファイルである。○:ファモチジン単独群;□:ファモチジン/リボフラビンリン酸エステルナトリウム共存群。*, P<0.01 対ファモチジン/リボフラビンリン酸エステルナトリウム共存群。平均±標準偏差 (n=3)。
図4図4は、実験例4で測定したファモチジンの光分解プロファイルである。□:ファモチジン/リボフラビンリン酸エステルナトリウム共存群(ラジカルスカベンジャー非添加群);△:アジ化ナトリウム添加群;▽:アスコルビン酸添加群;◇:ジブチルヒドロキシトルエン添加群。*, P<0.05; **, P<0.01 対ファモチジン/リボフラビンリン酸エステルナトリウム共存系。平均±標準偏差 (n=3)。
図5図5は、実験例5で測定したファモチジン/リボフラビンリン酸エステルナトリウム共存系にラジカルスカベンジャー添加した場合の、擬似太陽光照射30分後のファモチジンの残存率を示すグラフである。FMT:ファモチジン単独群;FMT/RF:ファモチジン/リボフラビンリン酸エステルナトリウム共存群;VC:アスコルビン酸添加群;Tyr:L-チロシン添加群;Trp:L-トリプトファン添加群;Cys:L-システイン添加群;Na2SO3:亜硫酸ナトリウム添加群;NaN3:アジ化ナトリウム添加群;His:L-ヒスチジン添加群;BHT:ジブチルヒドロキシトルエン添加群;Mannitol:D-マンニトール添加群。*, P<0.05 対ファモチジン/リボフラビンリン酸エステルナトリウム共存群。平均±標準偏差 (n=3)。
図6図6は、実験例6で測定したファモチジン/リボフラビンリン酸エステルナトリウム共存系にアスコルビン酸を添加し、ラットに尾静脈投与後のファモチジンの血漿中濃度推移を示すグラフである。○:ファモチジン/リボフラビンリン酸エステルナトリウム共存群(アスコルビン酸非添加群);●:ファモチジン/リボフラビンリン酸エステルナトリウム/アスコルビン酸共存群。平均±標準偏差 (n=4)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の医薬組成物は、ファモチジンまたはその製薬学的に許容される塩と抗酸化物質とを含有する。
【0018】
ファモチジンまたはその製薬学的に許容される塩
ファモチジンは、下記の構造を有する[1−アミノ−3−[[[2−(ジアミノメチレンアミノ)−4−チアゾリル]メチル]チオ]プロピリデン]スルファミドであり、H受容体拮抗剤として優れた胃酸分泌抑制作用を示す。
【0019】
【化1】
【0020】
本発明の医薬組成物は、ファモチジンまたはその製薬学的に許容される塩を含有する。ファモチジンは、遊離の化合物としての態様以外に、酸と製薬学的に許容しうる塩を形成しうる。かかる塩は、製薬学的に許容できるものであれば特に制限されないが、例えば、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝
酸、リン酸等の無機酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、炭酸、ピクリン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、グルタミン酸等の有機酸との酸付加塩等を挙げることができる。
【0021】
また、医薬組成物を注射剤などの液体製剤の形態で使用する場合、ファモチジンの水への溶解性を高くなるような塩の形態を選択することもできる。また、ある態様においては、L−アスパラギン酸、L−グルタミン酸、クエン酸などの酸性物質を医薬組成物に配合することもできる。
【0022】
本発明の医薬組成物において、ファモチジンまたはその製薬学的に許容される塩の含有量は、例えば、液体製剤である場合、ファモチジンに換算して0.05mg/mL〜10mg/mLとすることができる。
【0023】
抗酸化剤
本発明の医薬組成物は、抗酸化剤を含有する。本発明者らによる検討によると、ファモチジンを含有する医薬組成物は、光照射によって活性酸素種が生じると、それによってファモチジンの配合変化が生じ得ることが確認された。それに対して本発明では、ファモチジンを含有する医薬組成物に抗酸化剤を含有させることによって、ファモチジンの配合変化が効果的に抑制することができる。上述したように、リボフラビンリン酸エステルナトリウムなどの光反応性が高い物質が医薬組成物に含まれる場合、散光条件下でファモチジンの力価の低下が生じやすくなるところ、本発明によれば、抗酸化剤を用いることによって力価の低下を効果的に抑制することが可能になる。
【0024】
本発明の医薬組成物に使用する抗酸化剤は、抗酸化作用を有するものであれば特に制限されないが、抗酸化剤としては、例えばアスコルビン酸、アジ化ナトリウム、ジブチルヒドロキシトルエン、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、アルファチオグリセリン、エデト酸ナトリウム、塩酸システイン、クエン酸、チオグリコール酸ナトリウム、チオリンゴ酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、ブチルヒドロキシアニソール、チロシン、トリプトファン、システイン、ヒスチジンなどのL−アミノ酸、D−マンニトールなどの糖などを挙げることができる。本発明においては、これらの抗酸化剤がラジカルスカベンジャーとして機能し、ファモチジンの配合変化を抑制するものと考えられる。
【0025】
一般に、光化学反応は、スーパーオキサイドを介した反応(Type I)と一重項酸素を介した反応(Type II)に大別される。本発明者らによる検討によれば、リボフラビンリン酸エステルナトリウムに光照射した際には、スーパーオキサイドおよび一重項酸素いずれもが生成しており、本発明においては、いずれの活性酸素種を捕捉できるラジカルスカベンジャーであっても、ファモチジンの配合変化を抑制することができる。
【0026】
本発明の医薬組成物における抗酸化剤の配合量は、ファモチジンおよびリボフラビンリン酸エステルナトリウムとの共存下にファモチジンの安定性を改善する量であれば特に制限されない。具体的には、例えば、ファモチジン/抗酸化物質のモル比を0.01〜1000とすることができ、望ましくは0.1〜100、さらに望ましくは0.5〜10である。また、リボフラビンリン酸エステルナトリウムを含有する医薬組成物の場合、使用する抗酸化剤の能力に応じて抗酸化剤の量を適宜調整することができるが、例えば、抗酸化剤/リボフラビンリン酸エステルナトリウムのモル比を0.5〜1000とすることができ、望ましくは1〜100、さらに望ましくは2〜100としてもよい。
【0027】
医薬組成物
本発明の医薬組成物は、上記成分の他にも、医薬組成物に添加することが知られている各種添加剤を含有してよい。
【0028】
一つの態様において、本発明の医薬組成物は、リボフラビンリン酸エステルナトリウムを含有してもよい。本発明者らの検討によると、リボフラビンリン酸エステルナトリウムなどの光反応性の高い物質が系に存在していると、散光条件下においてファモチジンの力価の低下が特に生じ易くなるものの、本発明によれば、これを効果的に抑制することができる。
【0029】
本発明においてリボフラビンリン酸エステルナトリウムは、水溶性ビタミンの一つであるビタミンBのリン酸エステル体であり、遊離型のリボフラビン、7,8−ジメチル−10−リビチルイソアロキサジンのみならず、その補酵素型であるフラビンモノヌクレオチド(FMN)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)をも含む概念である。したがって、本発明の医薬組成物は、リボフラビンリン酸エステルナトリウムだけでなく、遊離型のリボフラビン、FMN、FADのいずれを含有していてもよく、それらの複数を含有していてもよい。リボフラビンリン酸エステルナトリウムは、黄色で強い緑色蛍光を有しているため、一般に、塩化カリウム補正液の急速静注による心停止等の医療事故を防止するための着色剤としても用いられる。
【0030】
本発明の医薬組成物におけるリボフラビンリン酸エステルナトリウムの含有量は、例えば、液体製剤である場合、0.001〜1mg/mLとすることができ、0.01〜0.5mg/mLとしてもよい。また、ファモチジンまたはその製薬学的に許容される塩とリボフラビンリン酸エステルナトリウムとの相対比については、例えば、ファモチジン/リボフラビンリン酸エステルナトリウムのモル比を10〜1000とすることができ、20〜500としてもよい。
【0031】
本発明で使用するファモチジンは、pHによってその溶解度が異なることから、pHを調整するための物質、界面活性剤を初めとする溶解補助剤を添加してもよい。例えば、pH調整剤としては、塩酸やリン酸等の酸性物質、水酸化ナトリウム等の塩基性物質を挙げることができる。また、溶解補助剤としては、例えば、リン酸水素二カリウムなどの非イオン性界面活性剤を好適に使用することができる。
【0032】
また、本発明に係る医薬組成物は、投与に供する医薬製剤として予め製品として調製しておくこともでき、また、投与する際に医薬製剤を用時調製(現場調製)してもよい。本発明に係る医薬組成物の剤型は特に制限されないが、例えば、注射剤などの液体製剤に対して本発明を好ましく適用することができる。すなわち、液体製剤においては光への曝露によって配合変化が生じやすいため、液体製剤に本発明を適用すると、本発明の効果を大きく享受することが可能になるためである。本発明の医薬組成物を用時調製する場合、ファモチジンは凍結乾燥品などの粉末であってもアンプルなどの容器に充填された液体品であってもよい。また、本発明の医薬組成物は、医薬組成物を収納するのに一般的に用いられる容器に収納してもよい。
【0033】
本発明の医薬組成物が液体製剤である場合は、必要に応じて、塩化ナトリウム等の等張化剤、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム等の緩衝剤を添加剤として加えてもよい。その他にも、必要に応じて、防腐剤、無痛化剤などが挙げられる。
【実施例】
【0034】
以下、具体的な実験例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、本明細書において、特に記載されていない場合、濃度などは重量基準であり、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【0035】
実験例1:UV/VIS吸収特性評価
ファモチジンおよびリボフラビンリン酸エステルナトリウム(和光純薬株式会社)をそれぞれ20mMリン酸緩衝液に溶解し、さらに希釈して、ファモチジンおよびリボフラビンリン酸エステルナトリウムの20μM溶液を調製した。
【0036】
これらの溶液について、分光光度計(HITACHI U-2010)を用いてUV/VIS吸収特性を測定した。
【0037】
図1に、測定したUV/VISスペクトルを示す。リボフラビンリン酸エステルナトリウムは、UV/VIS領域にて高い吸収を示し、光感受性が高いことが確認された。
【0038】
実験例2:活性酸素種の確認
ファモチジンまたはリボフラビンリン酸エステルナトリウムの光照射時の挙動について確認した。一般に、光化学反応は、スーパーオキサイドを介した反応(Type I)と一重項酸素を介した反応(Type II)に大別される。本実験では、ファモチジンまたはリボフラビンリン酸エステルナトリウムに光照射した際の、スーパーオキサイドまたは一重項酸素の生成を測定した。
(1)一重項酸素の測定
ノニオン系界面活性剤(ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、Tween 20)を0.5v/v%含有する20mMリン酸ナトリウム緩衝液(NaPB、pH7.4)に、ファモチジンまたはリボフラビンリン酸エステルナトリウム(各50μM)とパラニトロソジメチルアニリン(RNO、50μM)およびイミダゾール(50μM)を溶解させて、試験溶液を調製した。
【0039】
試験溶液に、キセノンアーク燈(1,500W)を搭載したAtlas Suntest CPS+太陽光シミュレーター(Atlas Material Technology LLC, Chicago, IL, USA)を用いて擬似太陽光(250W/m2)を照射し、一重項酸素の生成を確認した。
【0040】
イミダゾールが一重項酸素の特異的アクセプターとして働くため、440 nm におけるRNOの吸光度を測定することによって、一重項酸素の生成を確認することができる。
(2)スーパーオキサイドの測定
ノニオン系界面活性剤(ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、Tween 20)を0.5v/v%含有する20mMリン酸ナトリウム緩衝液(NaPB、pH7.4)に、ファモチジンまたはリボフラビンリン酸エステルナトリウム(各50μM)とニトロブルーテトラゾリウム(NBT、200μM)を溶解させて、試験溶液を調製した。
【0041】
試験溶液に、キセノンアーク燈(1,500W)を搭載したAtlas Suntest CPS+太陽光シミュレーター(Atlas Material Technology LLC, Chicago, IL, USA)を用いて擬似太陽光(250W/m2)を照射し、スーパーオキサイドの生成をNBTの減少により追跡した。NBTの減少は、560 nmにおける吸光度を測定することによって評価した。
【0042】
また、実験の陽性対照としてキニーネ、陰性対照としてスリソベンゾンを用い、上記と同様な方法にて一重項酸素およびスーパーオキサイドの生成を確認した。
(3)実験結果
測定結果を図2に示す(図2A:一重項酸素、図2B:スーパーオキサイド)。図2から明らかなように、リボフラビンリン酸エステルナトリウム溶液は、擬似太陽光照射後にスーパーオキサイドおよび一重項酸素が著しく産生しており、高い光反応性を有することが確認された。
【0043】
実験例3:ファモチジンの光安定性試験
ファモチジン(300μM)およびリボフラビンリン酸エステルナトリウム(2μM)を含有する20mMリン酸緩衝液を調製した。また、対照として、ファモチジン(300μM)を含有する20mMリン酸緩衝液を調製した。
【0044】
これらの溶液に、キセノンアーク燈(1,500W)を搭載したAtlas Suntest CPS+太陽光シミュレーター(Atlas Material Technology LLC, Chicago, IL, USA)を用いて擬似太陽光(250W/m2)を照射し、ファモチジンの残存率を高速液体クロマトグラフィー/エレクトロスプレーイオン化質量分析(UPLC/ESI-MS; Waters社製Acquity UPLC system)によって経時的に測定した。
【0045】
カラムはWaters社製Acquity UPLCTMBEH C18カラムを用い、カラム温度は60℃とした。移動相としては、(A) 5 mM 酢酸アンモニウム、(B) アセトニトリルを用い、移動相の濃度勾配は、0-0.5min、5% (B); 0.5-2.5min、20% (B); 2.5-4.0min、95% (B)とした(流速0.25mL/min)。ファモチジンのm/z 値は338.16 [M+H+] を用い、上記条件下では保持時間として2.0min付近に検出した。
【0046】
測定結果を表1および図3に示す。30分間、擬似太陽光を照射した時点におけるファモチジン残存率は、リボフラビンリン酸エステルナトリウム共存群で16%、リボフラビンリン酸エステルナトリウム非共存群で92%であった。
【0047】
また、縦軸(% of remaining famotidine)にファモチジン残存率の対数、横軸(min)に時間を取り、線形近似によりファモチジンの一次光分解速度定数を算出したところ、リボフラビンリン酸エステルナトリウム共存群のファモチジンの光分解速度定数は著しく高値を示した。
【0048】
これらの結果から、ファモチジンは、光化学反応によって分解しうることが明らかとなり、特にリボフラビンリン酸エステルナトリウムなどの光反応性の高い物質が存在する系において光依存的な分解が生じ易いことが明らかとなった。
【0049】
【表1】
【0050】
実験例4:光安定性試験(スカベンジャーによる安定化効果1)
ファモチジンの光安定性に関して、スカベンジャー添加による影響を検討した。
【0051】
ファモチジン(300μM)およびリボフラビンリン酸エステルナトリウム(2μM)を含有する20mMリン酸緩衝液に、種々のスカベンジャーを添加して試験溶液を調製した。ラジカルスカベンジャーとしては、アジ化ナトリウム、アスコルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエンを、それぞれ500μMの濃度となるように添加した。
【0052】
試験溶液に、キセノンアーク燈(1,500W)を搭載したAtlas Suntest CPS+太陽光シミュレーター(Atlas Material Technology LLC, Chicago, IL, USA)を用いて擬似太陽光(250 W/m2)を照射し、実験例3と同様にしてファモチジンの残存率を経時的に測定した。
【0053】
測定結果を表2および図4に示す。ラジカルスカベンジャー添加群の擬似太陽光照射後30分のファモチジン残存率は、スカベンジャー非添加群と比較して高く、リボフラビンリン酸エステルナトリウム共存下でのファモチジンの光安定性がラジカルスカベンジャーによって改善されることが示された。一部の活性酸素種(ROS:reactive oxygen species)を抑制することによって、リボフラビンリン酸エステルナトリウム共存下でのファモチジンの光安定性が高まったものと考えられる。
【0054】
ラジカルスカベンジャー添加群のファモチジン残存率は、アジ化ナトリウム添加群では25%、アスコルビン酸添加群では81%、ジブチルヒドロキシトルエン添加群では27%であり、特にアスコルビン酸添加群ではファモチジンの光安定性が顕著に改善された。
【0055】
縦軸にファモチジン残存率の対数、横軸に時間を取り、線形近似によりファモチジンの一次光分解速度定数を算出した結果、実験例3におけるリボフラビンリン酸エステルナトリウム共存群(ラジカルスカベンジャー非添加群)と比較し、ラジカルスカベンジャー添加群の光分解速度定数は著しく低値を示し、特にアスコルビン酸添加群では顕著な低値を示した。すなわち、ラジカルスカベンジャーの添加により、ファモチジンの光安定性が向上することを確認した。
【0056】
【表2】
【0057】
実験例5:光安定性試験(スカベンジャーによる光安定化効果2)
ファモチジンの光安定性に関して、実験例4と同様にしてスカベンジャー添加による影響を検討した。ラジカルスカベンジャーとしては、アスコルビン酸(VC)、アジ化ナトリウム(NaN3)、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)の他に、L-チロシン(Tyr)、L-トリプトファン(Trp)、L-システイン(Cys)、亜硫酸ナトリウム(Na2SO3)、L-ヒスチジン(His)、D-マンニトール(Mannitol)を、それぞれ500μMの濃度で添加した。
【0058】
試験溶液に、キセノンアーク燈(1,500W)を搭載したAtlas Suntest CPS+太陽光シミュレーター(Atlas Material Technology LLC, Chicago, IL, USA)を用いて擬似太陽光(250 W/m2)を30分間照射し、光照射後のファモチジンの残存率を測定した。
【0059】
結果を図5に示すが、ラジカルスカベンジャーを投与することによって、ファモチジンの光安定性が改善されることが確認された。
【0060】
実験例6:体内動態評価(アスコルビン酸添加による体内動態への影響)
アスコルビン酸は薬物の代謝などに影響を及ぼすことが示唆されているため、ファモチジンの体内動態について、アスコルビン酸添加の影響を精査した。
【0061】
投与群をアスコルビン酸添加群および非添加群に分け、添加群にはファモチジン(1 mg/kg)、リボフラビンリン酸エステルナトリウム(0.01mg/kg)およびアスコルビン酸(1 mg/kg)を生理食塩水に溶解して混合した溶液、非添加群にはファモチジン(1 mg/kg)、リボフラビンリン酸エステルナトリウム(0.01mg/kg)を生理食塩水にて溶解して混合した溶液を用いた。
【0062】
この溶液を、8〜10 週齢の Sprague Dawley 系雄性ラットに尾静脈投与し、経時的採血を行った。採血したサンプルは、メタノールにて除タンパクおよび 0.22μm フィルターろ過にて処理後、血漿中ファモチジン濃度を実験例3と同様にして測定した。また、2-コンパートメントモデル解析を用い、ファモチジンの各薬物動態学的パラメーターを算出した。測定における内標準物質としてキニーネ (m/z 値, 325.4 [M+H+]; 保持時間3.7 min付近に検出) を用いた。
【0063】
測定結果を表3および図6に示す。アスコルビン酸添加群、非添加群を比較したところ、全ての採血ポイントで血漿中濃度の有意な差はなく、ほぼ同様な血漿中濃度推移を示した。また、AUC0-6, kαおよびkβに有意な差はなかった。すなわち、アスコルビン酸添加はファモチジンの体内動態に影響しないことを確認した。
【0064】
【表3】
図1
図2
図3
図4
図5
図6