【実施例】
【0034】
以下、具体的な実験例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、本明細書において、特に記載されていない場合、濃度などは重量基準であり、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【0035】
実験例1:UV/VIS吸収特性評価
ファモチジンおよびリボフラビンリン酸エステルナトリウム(和光純薬株式会社)をそれぞれ20mMリン酸緩衝液に溶解し、さらに希釈して、ファモチジンおよびリボフラビンリン酸エステルナトリウムの20μM溶液を調製した。
【0036】
これらの溶液について、分光光度計(HITACHI U-2010)を用いてUV/VIS吸収特性を測定した。
【0037】
図1に、測定したUV/VISスペクトルを示す。リボフラビンリン酸エステルナトリウムは、UV/VIS領域にて高い吸収を示し、光感受性が高いことが確認された。
【0038】
実験例2:活性酸素種の確認
ファモチジンまたはリボフラビンリン酸エステルナトリウムの光照射時の挙動について確認した。一般に、光化学反応は、スーパーオキサイドを介した反応(Type I)と一重項酸素を介した反応(Type II)に大別される。本実験では、ファモチジンまたはリボフラビンリン酸エステルナトリウムに光照射した際の、スーパーオキサイドまたは一重項酸素の生成を測定した。
(1)一重項酸素の測定
ノニオン系界面活性剤(ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、Tween 20)を0.5v/v%含有する20mMリン酸ナトリウム緩衝液(NaPB、pH7.4)に、ファモチジンまたはリボフラビンリン酸エステルナトリウム(各50μM)とパラニトロソジメチルアニリン(RNO、50μM)およびイミダゾール(50μM)を溶解させて、試験溶液を調製した。
【0039】
試験溶液に、キセノンアーク燈(1,500W)を搭載したAtlas Suntest CPS+太陽光シミュレーター(Atlas Material Technology LLC, Chicago, IL, USA)を用いて擬似太陽光(250W/m
2)を照射し、一重項酸素の生成を確認した。
【0040】
イミダゾールが一重項酸素の特異的アクセプターとして働くため、440 nm におけるRNOの吸光度を測定することによって、一重項酸素の生成を確認することができる。
(2)スーパーオキサイドの測定
ノニオン系界面活性剤(ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、Tween 20)を0.5v/v%含有する20mMリン酸ナトリウム緩衝液(NaPB、pH7.4)に、ファモチジンまたはリボフラビンリン酸エステルナトリウム(各50μM)とニトロブルーテトラゾリウム(NBT、200μM)を溶解させて、試験溶液を調製した。
【0041】
試験溶液に、キセノンアーク燈(1,500W)を搭載したAtlas Suntest CPS+太陽光シミュレーター(Atlas Material Technology LLC, Chicago, IL, USA)を用いて擬似太陽光(250W/m
2)を照射し、スーパーオキサイドの生成をNBTの減少により追跡した。NBTの減少は、560 nmにおける吸光度を測定することによって評価した。
【0042】
また、実験の陽性対照としてキニーネ、陰性対照としてスリソベンゾンを用い、上記と同様な方法にて一重項酸素およびスーパーオキサイドの生成を確認した。
(3)実験結果
測定結果を
図2に示す(
図2A:一重項酸素、
図2B:スーパーオキサイド)。
図2から明らかなように、リボフラビンリン酸エステルナトリウム溶液は、擬似太陽光照射後にスーパーオキサイドおよび一重項酸素が著しく産生しており、高い光反応性を有することが確認された。
【0043】
実験例3:ファモチジンの光安定性試験
ファモチジン(300μM)およびリボフラビンリン酸エステルナトリウム(2μM)を含有する20mMリン酸緩衝液を調製した。また、対照として、ファモチジン(300μM)を含有する20mMリン酸緩衝液を調製した。
【0044】
これらの溶液に、キセノンアーク燈(1,500W)を搭載したAtlas Suntest CPS+太陽光シミュレーター(Atlas Material Technology LLC, Chicago, IL, USA)を用いて擬似太陽光(250W/m
2)を照射し、ファモチジンの残存率を高速液体クロマトグラフィー/エレクトロスプレーイオン化質量分析(UPLC/ESI-MS; Waters社製Acquity UPLC system)によって経時的に測定した。
【0045】
カラムはWaters社製Acquity UPLC
TMBEH C
18カラムを用い、カラム温度は60℃とした。移動相としては、(A) 5 mM 酢酸アンモニウム、(B) アセトニトリルを用い、移動相の濃度勾配は、0-0.5min、5% (B); 0.5-2.5min、20% (B); 2.5-4.0min、95% (B)とした(流速0.25mL/min)。ファモチジンのm/z 値は338.16 [M+H
+] を用い、上記条件下では保持時間として2.0min付近に検出した。
【0046】
測定結果を表1および
図3に示す。30分間、擬似太陽光を照射した時点におけるファモチジン残存率は、リボフラビンリン酸エステルナトリウム共存群で16%、リボフラビンリン酸エステルナトリウム非共存群で92%であった。
【0047】
また、縦軸(% of remaining famotidine)にファモチジン残存率の対数、横軸(min)に時間を取り、線形近似によりファモチジンの一次光分解速度定数を算出したところ、リボフラビンリン酸エステルナトリウム共存群のファモチジンの光分解速度定数は著しく高値を示した。
【0048】
これらの結果から、ファモチジンは、光化学反応によって分解しうることが明らかとなり、特にリボフラビンリン酸エステルナトリウムなどの光反応性の高い物質が存在する系において光依存的な分解が生じ易いことが明らかとなった。
【0049】
【表1】
【0050】
実験例4:光安定性試験(スカベンジャーによる安定化効果1)
ファモチジンの光安定性に関して、スカベンジャー添加による影響を検討した。
【0051】
ファモチジン(300μM)およびリボフラビンリン酸エステルナトリウム(2μM)を含有する20mMリン酸緩衝液に、種々のスカベンジャーを添加して試験溶液を調製した。ラジカルスカベンジャーとしては、アジ化ナトリウム、アスコルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエンを、それぞれ500μMの濃度となるように添加した。
【0052】
試験溶液に、キセノンアーク燈(1,500W)を搭載したAtlas Suntest CPS+太陽光シミュレーター(Atlas Material Technology LLC, Chicago, IL, USA)を用いて擬似太陽光(250 W/m
2)を照射し、実験例3と同様にしてファモチジンの残存率を経時的に測定した。
【0053】
測定結果を表2および
図4に示す。ラジカルスカベンジャー添加群の擬似太陽光照射後30分のファモチジン残存率は、スカベンジャー非添加群と比較して高く、リボフラビンリン酸エステルナトリウム共存下でのファモチジンの光安定性がラジカルスカベンジャーによって改善されることが示された。一部の活性酸素種(ROS:reactive oxygen species)を抑制することによって、リボフラビンリン酸エステルナトリウム共存下でのファモチジンの光安定性が高まったものと考えられる。
【0054】
ラジカルスカベンジャー添加群のファモチジン残存率は、アジ化ナトリウム添加群では25%、アスコルビン酸添加群では81%、ジブチルヒドロキシトルエン添加群では27%であり、特にアスコルビン酸添加群ではファモチジンの光安定性が顕著に改善された。
【0055】
縦軸にファモチジン残存率の対数、横軸に時間を取り、線形近似によりファモチジンの一次光分解速度定数を算出した結果、実験例3におけるリボフラビンリン酸エステルナトリウム共存群(ラジカルスカベンジャー非添加群)と比較し、ラジカルスカベンジャー添加群の光分解速度定数は著しく低値を示し、特にアスコルビン酸添加群では顕著な低値を示した。すなわち、ラジカルスカベンジャーの添加により、ファモチジンの光安定性が向上することを確認した。
【0056】
【表2】
【0057】
実験例5:光安定性試験(スカベンジャーによる光安定化効果2)
ファモチジンの光安定性に関して、実験例4と同様にしてスカベンジャー添加による影響を検討した。ラジカルスカベンジャーとしては、アスコルビン酸(VC)、アジ化ナトリウム(NaN
3)、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)の他に、L-チロシン(Tyr)、L-トリプトファン(Trp)、L-システイン(Cys)、亜硫酸ナトリウム(Na
2SO
3)、L-ヒスチジン(His)、D-マンニトール(Mannitol)を、それぞれ500μMの濃度で添加した。
【0058】
試験溶液に、キセノンアーク燈(1,500W)を搭載したAtlas Suntest CPS+太陽光シミュレーター(Atlas Material Technology LLC, Chicago, IL, USA)を用いて擬似太陽光(250 W/m
2)を30分間照射し、光照射後のファモチジンの残存率を測定した。
【0059】
結果を
図5に示すが、ラジカルスカベンジャーを投与することによって、ファモチジンの光安定性が改善されることが確認された。
【0060】
実験例6:体内動態評価(アスコルビン酸添加による体内動態への影響)
アスコルビン酸は薬物の代謝などに影響を及ぼすことが示唆されているため、ファモチジンの体内動態について、アスコルビン酸添加の影響を精査した。
【0061】
投与群をアスコルビン酸添加群および非添加群に分け、添加群にはファモチジン(1 mg/kg)、リボフラビンリン酸エステルナトリウム(0.01mg/kg)およびアスコルビン酸(1 mg/kg)を生理食塩水に溶解して混合した溶液、非添加群にはファモチジン(1 mg/kg)、リボフラビンリン酸エステルナトリウム(0.01mg/kg)を生理食塩水にて溶解して混合した溶液を用いた。
【0062】
この溶液を、8〜10 週齢の Sprague Dawley 系雄性ラットに尾静脈投与し、経時的採血を行った。採血したサンプルは、メタノールにて除タンパクおよび 0.22μm フィルターろ過にて処理後、血漿中ファモチジン濃度を実験例3と同様にして測定した。また、2-コンパートメントモデル解析を用い、ファモチジンの各薬物動態学的パラメーターを算出した。測定における内標準物質としてキニーネ (m/z 値, 325.4 [M+H
+]; 保持時間3.7 min付近に検出) を用いた。
【0063】
測定結果を表3および
図6に示す。アスコルビン酸添加群、非添加群を比較したところ、全ての採血ポイントで血漿中濃度の有意な差はなく、ほぼ同様な血漿中濃度推移を示した。また、AUC
0-6, k
αおよびk
βに有意な差はなかった。すなわち、アスコルビン酸添加はファモチジンの体内動態に影響しないことを確認した。
【0064】
【表3】