賦形剤が、乳糖、ブドウ糖、白糖、トレハロース、蔗糖、エリスリトール、マンニトール、ソルビトール、結晶セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルメロースナトリウム、プルラン、デキストリン、アラビアゴム、寒天、ゼラチン、トラガント、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ステアリン酸あるいはその塩、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、酸化チタンおよび軽質無水ケイ酸からなる群から選択される、請求項3〜5のいずれかに記載の医薬組成物。
【背景技術】
【0002】
吸入療法は、経呼吸器の薬剤使用法として、肺および気道疾患への治療はもとより、疾病の診断、経気道および経肺全身薬剤投与、疾患の予防、並びに経気道免疫減感作療法などに適応されている。しかし、いずれの場合にも、この療法の適応決定法が十分に検討されておらず、また対応する吸入製剤の開発が望まれているところである。
一般的な吸入製剤の特徴としては、1)薬効が迅速に発現、2)漸進的な副作用の低減、3)小用量投与が可能、4)初回通過効果の回避等が認知されている。標的部位が肺である場合、小腸に匹敵するほどの広い表面積を有していることで、さらに優れた性質を備えている。
ターゲッティング療法として適用するにあたり、吸入製剤の選択基準方法は疾患への有効性だけではなく、薬剤粒子の発生法と到達部位、ならびにそれらと薬剤の基礎物性の関連性から考える必要がある。現在、吸入製剤は、気管支拡張剤、粘膜溶解剤、抗生物質、抗アレルギー剤、ステロイド剤、ワクチン、生理食塩水などに使用されており、これらの臨床への応用の際には吸入剤の作用部位、作用機構、組成と用法などが重要な因子と考えられている。
【0003】
近年、気管支喘息や慢性肺疾患の治療において、粉末吸入剤(Dry Powder Inhaler, DPI) が注目されるようになってきた。この形態は、上述の吸入製剤としての特長のほか、薬剤を長期間安定な形態で保存できるという利点を有する。DPIにおいては、患者が吸入する薬物粒子の粒径と気道への沈着に密接な関係 [ファルマシア (1997) Vol. 33, No.6, 98-102] があり、どのような薬物粒径が気管および肺内部に沈着するかという空気動力学的な相関が認められている。具体的には、気管支又は肺まで到達できる薬物粒子の最適サイズは、約1−6μm の空気力学径を有する粒子であることが一般的に知られている [Int. J. Pharm. (1994) 101, 1-13]。
好ましくは、数μm以下の粒子は肺胞に到達し、効率的に肺粘膜から吸収され血中に移行するため、この粒子サイズが重要となる。しかしながら、粒子を細かくすればするほど、粉体の流動性は悪化し、それに伴う生産時の充填精度やハンドリング性の低下が懸念される。そこで DPI 製剤を取り扱う中でこれらの問題を克服すべく、後述する微細化粒子を、担体となる乳糖、エリスリトール等の粗い粒子と混和する方法が良く知られている。これは微細化粒子を担体表面に分子間相互作用により吸着させることにより、微細化粒子の凝集力が弱められ、さらに全体として粒径が大きくなり、製剤として流動性が向上するものである。その他の方法としては薬物の造粒、表面改質法があげられる(特許文献1)。
【0004】
ここで、ピルフェニドン(以下、PFDともいう。)は、特発性肺線維症に対して世界で初めて承認取得された抗線維化剤である。その作用機序は、炎症性サイトカイン、抗炎症性サイトカイン等の各種サイトカインおよび線維化形成に関与する増殖因子に対する産生調節作用であり、線維芽細胞増殖抑制作用やコラーゲン産生抑制作用等複合的な作用に基づき抗線維化作用を示す。本剤とプレドニゾロンとの比較により、プレドニゾロンは抗炎症作用のみを示したのに対し、本剤は抗炎症作用と抗線維化作用の両方を示し、それ故、ステロイドよりも有効な治療結果をもたらすことができると期待されている。既に日本でも2008年より販売され、広く肺線維症に用いられているものの、本剤を服用した患者の多くが薬剤性光線過敏症の副作用を示しており、その発現頻度は約6割にも至る。この問題を回避するために肺局所で作用を示しやすい適切な投与形態が望まれるところであるが、現在までのところ、経口製剤のみが上市されており、安定かつ局所投与を目的としたより好ましい製剤設計についてはその高い需要にも拘わらず検討されていない。すなわち、ピルフェニドンの副作用である光線過敏症リスクを低減させ、より安全な肺線維症治療をもたらす新しい剤形の開発が強く望まれている。微細化粒子を担体表面に吸着させたDPI製剤としては、担体として乳糖を用いた製剤(特許文献2)、シクロスポリン製剤(非特許文献1)、トラニラスト製剤(特許文献3、非特許文献2〜3)などが報告されている。しかし、いずれの文献においても、前記DPI製剤による薬物の皮膚への移行制御、および光線過敏症リスク低下については記載されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
薬物は、一般に経口投与により血液を介して全身に移行し、従って、皮膚にもある程度移行し、これにより副作用を発現すると考えられている。そこで、発明の課題は、薬剤性光線過敏症の副作用を示す薬物の全身暴露、特に皮膚への移行を制御することができる製剤の提供である。さらに好ましくは、該薬物、特にピルフェニドンが十分な薬効を示し、かつ優れた吸入特性を示す吸入製剤の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、薬剤性光線過敏症の副作用を示す薬物であるピルフェニドンを、賦形剤共存下ジェットミル等の粉砕器により空気力学的に肺に到達できる粒径の微細化粒子を製造後、得られた微細化粒子と適合性のよい空気力学的に呼吸器系まで到達不可能な粒径を有する担体と混和することにより、極めて含量均一性の高い製剤を得ることに成功し、本発明を完成するに至った。また、実験的肺炎症モデルラットに本製剤を気道内投与したとき、コントロール群が極めて高い肺障害性と好中球性炎症を認めたのに対し、ピルフェニドン吸入製剤投与群ではこれらを強力に抑制することができた。さらに、抗炎症作用を示さない用量のピルフェニドン(30mg/kg)をラットに経口投与すると、光線過敏症を起こさないものの速やかに皮膚への移行を認めた。これに対し、薬理学的に有効な投与量、例えば0.1mg/kg以上のピルフェニドン粉末吸入製剤を気道内投与したとき、その皮膚移行率は経口投与と比較し、顕著に抑制された。本データから、本発明の粉末吸入製剤は、その薬理学的な標的組織に直接薬剤を送達することによって投与量を著しく減少させ、なおかつそれに伴って重篤な副作用である薬剤性光線過敏症リスクを低下させうる顕著な効果を示す製剤であるといえる。すなわち、本発明は以下の(1)〜(22)を提供する。
【0009】
(1)
薬剤性光線過敏症の副作用を示す薬物および賦形剤を含有する平均粒径が20μm以下の微細化粒子、並びに平均粒径が10〜200μmの担体を含有することを特徴とする、粉末製剤。
(2)
薬剤性光線過敏症の副作用を示す薬物が、抗生物質、抗癌剤、抗けいれん剤、抗うつ剤、抗真菌剤、抗ヒスタミン剤、抗マラリア剤、痛風治療剤、向精神薬、心血管治療薬、利尿剤、高脂血症治療剤、非ステロイド性抗炎症剤、光線療法剤、レチノイドおよび肺腺維症治療剤からなる群から選択される1または2以上である、上記(1)記載の粉末製剤。
(3)
薬剤性光線過敏症の副作用を示す薬物が、肺腺維症治療剤である、上記(1)記載の粉末製剤。
(4)
薬剤性光線過敏症の副作用を示す薬物がピルフェニドンである、上記(1)記載の粉末製剤。
(5)
微細化粒子と担体が複合体を形成している、上記(1)から(4)のいずれかに記載の粉末製剤。
(6)
微細化粒子の粒径が担体の平均粒径より小さい、上記(5)記載の粉末製剤。
(7)
賦形剤および/または担体が糖類である、上記(1)から(6)のいずれかに記載の粉末製剤。
(8)
糖類が乳糖である、上記(7)記載の粉末製剤。
(9)
賦形剤および/または担体が糖アルコール類である、上記(1)から(6)のいずれかに記載の粉末製剤。
(10)
糖アルコール類がエリスリトールである、上記(9)記載の粉末製剤。
(11)
賦形剤が高分子ポリマー類である、上記(1)から(6)のいずれかに記載の粉末製剤。
(12)
賦形剤がエリスリトールであり、担体が乳糖である、上記(1)から(6)のいずれかに記載の粉末製剤。
(13)
薬剤性光線過敏症の副作用を示す薬物と賦形剤との比率が重量比で1:5000〜10:1の範囲である、上記(1)から(12)のいずれかに記載の粉末製剤。
(14)
微細化粒子と担体との比率が重量比で1:100〜10:1の範囲である、上記(1)から(13)のいずれかに記載の粉末製剤。
(15)
微細化粒子の平均粒径が1〜9μmの範囲である、上記(1)から(14)のいずれかに記載の粉末製剤。
(16)
経肺吸入製剤である、上記(1)から(15)のいずれか1項に記載の粉末製剤。
(17)
ピルフェニドンの薬剤性光線過敏症が経口投与製剤と比較して軽減された、上記(4)記載の粉末製剤。
(18)
薬剤性光線過敏症の副作用を示す薬物および賦形剤を含有する平均粒径が20μm以下の微細化粒子を、10〜200μmの粒径を有する担体と混和することを特徴とする、上記(1)から(17)のいずれかに記載の製剤の製法。
(19)
薬剤性光線過敏症の副作用を示す薬物と賦形剤を混和し、ジェットミルによって微細化することにより微細化粒子を調製する、上記(18)記載の製法。
(20)
微細化粒子と担体をナイロン製またはポリエチレン製の容器内で混和する、上記(19)記載の製法。
(21)
微細化粒子と担体が複合体を形成する、上記(18)から(20)のいずれかに記載の製法。
(22)
上記(18)から(21)のいずれかに記載の製法により得られる、吸入製剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明の医薬組成物によれば、ピルフェニドン等の薬剤性光線過敏症の副作用を示す薬物粉末を容易にエアゾール化することが可能であり、肺に極めて特異的に該薬物を送達することによって、経口投与と比べて著しく低用量で炎症性肺疾患や肺線維症等の治療を可能とすると同時に、薬物の皮膚移行を防ぐことにより該薬物の主要な副作用である光線過敏症リスクを低減することが可能である。また本発明の医薬組成物は、より好ましくは含量均一な製剤として製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
[1]薬剤性光線過敏症の副作用を示す薬物
薬剤性光線過敏症の副作用を示す薬物としては、特に限られないが、具体的には、Current Drug Safety, (2009), vol 4, pp 123-126のTable2に記載された薬物、例えば、抗生物質、抗癌剤、抗けいれん剤、抗うつ剤、抗真菌剤、抗ヒスタミン剤、抗マラリア剤、痛風治療剤、向精神薬、心血管治療剤、利尿剤、高脂血症治療剤、非ステロイド性抗炎症剤、光線療法剤、レチノイドおよび肺腺維症治療剤などが挙げられる。抗生物質としては、シプロフロキサシン、エノキサシン、レメフロキサシン、スルファニラミド、スルファメトキサゾール、テトラサイクリン等がある。抗癌剤としては、フルオロウラシル、メトトレキサート等がある。抗けいれん剤としては、カルバマゼピン、フェノバルビタール等がある。抗うつ剤としては、アミトリプチリン、アモキサピン等がある。抗真菌剤としては、フルシトシン、イトラコナゾール等がある。抗ヒスタミン剤としては、ブロモフェニラミン、ジフェンヒドラミン等がある。抗マラリア剤としては、クロロキン、キニン等がある。痛風治療剤としては、ベンズブロマロン等がある。向精神薬としては、クロルプロマジン、ハロペリドール等がある。心血管治療剤としては、カプトプリル、クロフィブラート等がある。利尿剤としては、フロセミド、アセタゾラミド等がある。高脂血症治療剤としては、グリベンクラミド、トルブタミド等がある。非ステロイド性抗炎症剤としては、インドメタシン、イブプロフェン等がある。光線療法剤としては、8-MOP(キサントトキシン)、フォスカン、フォトフリン等がある。レチノイドとしては、アシトレチン、エトレチネート、イソトレチノイン等がある。肺線維症治療剤としては、例えばピルフェニドンがある。本発明において、特に好ましくは、ピルフェニドンである。本発明において使用されるピルフェニドンとしては、その製法が特に限定されるものではなく、結晶、非晶質、塩、水和物、溶媒和物等医薬品として使用され、または将来使用されるものが包含される。
【0013】
[2]賦形剤
賦形剤は、通常、散剤、錠剤などの固形製剤の増量、希釈、充填、補形等の目的で加えられるものが使用される。賦形剤は、薬剤の溶解性を高めるため、および/または自己凝集能を低減させるために効果的である。従って、賦形剤としては、水易溶性のものが好ましいが、著しく吸湿するものは本製剤の性質上好ましくない。賦形剤は、生物学的に不活性であり、かつある程度の代謝が期待されるものを用いても良い。また、水溶性高分子を用いることもでき、医薬として許容されるものであれば特に限定されない。具体的には、乳糖、ブドウ糖、白糖、トレハロース、蔗糖などの糖類、エリスリトール、マンニトール、ソルビトールなどの糖アルコール類、デンプン類、結晶セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルメロースナトリウム、プルラン、デキストリン、アラビアゴム、寒天、ゼラチン、トラガント、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールなどの高分子ポリマー類、ステアリン酸等の脂肪酸あるいはその塩、ワックス類、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、酸化チタン、軽質無水ケイ酸などを用いても良い。また、これらから選択される1種以上を適宜組み合わせて用いることもできる。本発明において好ましい賦形剤は、糖類、糖アルコール類、高分子ポリマー類、および炭酸カルシウムからなる群から選択される1以上であり、糖類としては、乳糖または白糖が好ましく、糖アルコール類としては、エリスリトール、ソルビトール、またはマンニトールが好ましく、高分子ポリマー類としては、カルメロースカルシウム、プルラン、ポリビニルピロリドン、またはメチルセルロースが好ましい。特に好ましい賦形剤は、乳糖またはエリスリトールである。
【0014】
[3]担体
本発明において、担体は、薬剤および賦形剤と複合体(後述)を形成することにより粉末製剤投与までの薬剤の凝集を防ぐと共に、投与時には、経肺吸入製剤として、吸収効率を高めるために使用する。特に、気管支又は肺への適用を目的とした吸入器を用いた吸入操作の際には、吸入後に薬剤と効率良く分離し、その結果、薬物の吸収効率を高めるために使用する。DPI処方設計に担体を使用する際は、薬剤がカプセルまたはデバイスから確実に放出され、担体表面から高い確率で薬物が分離されることが望ましく、十分配慮して製剤設計を行う必要がある。担体の使用に際しては、製剤の流動性および薬物凝集の予防、投与量増減の可否等が重要になる。この観点から、本発明において担体は粉末状であることが好ましい。さらに、担体の選択基準として毒性や物理化学的安定性はもちろんのこと、ハンドリングの際の容易性や作業性が問われる。この問題点をクリアすべく、従来その安定性も確立され、中性で反応性が少なくやや甘みもある乳糖は多くの点において有用であり、DPI 用の担体として有用性が確認されている [Int. J. Pharm. (1998) 172, 179-188]。本発明において使用し得る担体として、乳糖の他、ブドウ糖、果糖、蔗糖、麦芽糖およびデキストラン類の糖類、エリスリトール、ソルビトール、マンニトールなどの糖アルコール類、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、酸化チタン等の一般的な賦形剤も挙げることができ、特に限定するものではない。好ましい担体は、糖類または糖アルコール類であり、より好ましい担体は、乳糖またはエリスリトールであり、特に好ましくは乳糖である。
本発明の医薬組成物が吸入器を用いて投与される形態である場合には、担体は、空気力学的に許容される粒径を有するものである。具体的には、担体の平均粒径は10〜200μmの範囲である。
担体としてのみ製剤設計上作用させたい際には、その粒径を大きくすればよいことが知られているが、同時に粒径を大きくすれば担体は咽喉あるいは口腔にて留まることも周知の事実である。従って、担体自体は生物学的にみて不活性であるものの、肺にまで到達するのを防ぐ方が望ましい場合は、その平均粒径を少なくとも10μm以上にすれば問題ない。さらに最良の条件を求める場合には主剤と混和した賦形剤との適合性等をも考慮したうえでの素材選択が望まれるが、特に大きな問題が認められない限りは賦形剤と同様の材質の担体を選択することが好ましい。
【0015】
[4]薬剤性光線過敏症の副作用を示す薬物と賦形剤の混和・粉砕工程
本発明の吸入投与用の粉末製剤の製造は、まず、薬剤性光線過敏症の副作用を示す薬物および賦形剤の混和・粉砕工程を含む。粉砕は、例えば、賦形剤および薬剤性光線過敏症の副作用を示す薬物を空気力学的粉砕器によって混和と同時に行われる。本発明の粉末製剤の製造方法は特に限定されるものではなく、当業者が通常使用する方法を適宜使用することができる。いずれの方法を使用するかは、薬剤および賦形剤の種類、最終的な粒子の大きさ等によって適宜決定することができる。化合物の結晶状態と付着性・分散性等の製剤特性は相関することが多く、それ故本工程においては望ましくは後者の処理方法を選択するべきである。但し、薬剤性光線過敏症の副作用を示す薬物にピルフェニドン、賦形剤にエリスリトールを使用する場合においては、ピルフェニドンの極めて高い結晶配向性により、いずれの工程を選択しても良好な粉砕混和物を得ることができる。
【0016】
本明細書中、上述の工程により得られた薬物および賦形剤を含有する粒子を微細化粒子と呼ぶ。
本発明において、薬剤および賦形剤の粉砕には一般的な乾燥粉砕を用いることが出来るが、特に空気力学的粉砕器を使用することが好ましい。具体的には、一般的な乾燥粉砕器として、実験室用に乳鉢やボールミル等少量を効率的に粉砕する装置が繁用されている。ボールミルとしては転動ボールミル、遠心ボールミル、振動ボールミル、遊星ボールミルが知られており、これらは摩砕・回転・振動・衝撃などの原理で粉砕化を行うことが出来る。工業用としては媒体撹拌型ミル、高速回転摩砕・衝撃ミル、ジェットミルなどの大量の原料を効率的に粉砕することを目的とした装置が多い。高速回転摩砕ミルには、ディスクミル、ローラーミルがあり、高速回転衝撃ミルにはカッターミル(ナイフミル)、ハンマーミル(アトマイザー)、ピンミル、スクリーンミル等回転衝撃に加え、剪断力によっても粉砕を行うものが存在する。ジェットミルは主に衝撃にて粉砕を行うものが多いが、その種類としては最もオーソドックスな粒子・粒子衝突型、粒子・衝突板衝突型、ノズル吸い込み型(吹き出し)型がある。特に、ジェットミルで粉砕を行うのが好ましい。
本発明の製剤において、薬剤性光線過敏症の副作用を示す薬物と賦形剤との重量比は、1:5000〜10:1の範囲であるのが好ましい。この範囲よりも薬剤が多くなると含量均一性に支障が生じる可能性があり、賦形剤が多くなるとある種の薬剤では薬理活性の消失の恐れがある。薬剤性光線過敏症の副作用を示す薬物と賦形剤との重量比は、より好ましくは、1:100〜5:1であり、さらに好ましくは、1:10〜2:1であり、最も好ましくは、3:2である。
この粉砕工程によって、薬剤性光線過敏症の副作用を示す薬物は賦形剤と均一に混和され、その平均粒径が20μm以下の微細化粒子になるように粉砕される。この粒径とすることで、投与後に担体から分離し、気管支や肺等の目的の部位まで到達することができる。微細化粒子の平均粒径は、好ましくは、10μm以下であり、より好ましくは、1〜9μmであり、最も好ましくは、3〜8μmである。
【0017】
[5]担体と微細化粒子の混和工程
上記混和・粉砕工程で得られた微細化粒子は、次いで担体と混和し、投与時まで安定な複合体を形成するようにする。本明細書中、複合体は、薬物の分子間相互作用による自己凝集能により、薬物が賦形剤および担体と凝集して生じる分子集合体を表す。担体と微細化粒子の混和は、一般的に知られている混合機を用いることが出来る。主に回分式と連続式があり、回分式にはさらに回転型と固定型の二種が存在する。回転型には水平円筒型混合機、V型混合機、二重円錐型混合機、立方体型混合機があり、固定型にはスクリュー型(垂直、水平)混合機、旋回スクリュー型混合機、リボン型(垂直、水平)混合機が存在する。連続式もやはり回転型と固定型の二種に分かれ、回転型は水平円筒型混合機、水平円錐型混合機、そして固定型にはスクリュー型(垂直、水平)混合機、リボン型(垂直、水平)混合機、回転円盤型混合機が知られている。この他に、媒体撹拌型ミル、高速回転摩砕・衝撃ミル、ジェットミル等の空気力学的粉砕器を利用した混和方法や、ナイロン製、ポリエチレン製、またはそれに準ずる性質からなる容器を利用し、撹拌することにより均一な混合製剤を作ることが可能である。
微細化粒子と担体の重量比は、1:100〜10:1の範囲とすることが好ましい。この範囲よりも微細化粒子が多くなると含量均一性に支障が生じる可能性があり、担体が多くなるとある種の薬剤では薬理活性の消失の恐れがある。微細化粒子と担体の重量比は、より好ましくは、1:50〜1:1であり、さらに好ましくは、1:20〜1:5であり、最も好ましくは、1:10である。
微細化粒子と担体の平均粒径の比率は、1:1〜1:50の範囲が好ましく、1:5〜1:20の範囲がより好ましい。
【0018】
[6]吸入器
上記工程で得られた本発明を吸入投与用の粉末製剤として投与する場合は、経肺投与、経鼻投与などの経粘膜投与により、被験体に投与することができる。具体的には、投与経路が経肺投与である場合、当分野で使用されるいずれかの吸入器を使用して投与することができる。
吸入器としては、スピンヘラー、イーヘラー、FlowCaps、ジェットヘラー、ディスクヘラー、ローターヘーラー、インスパイヤーイース、インハレーションエイト等の吸入経肺用デバイスや定量的噴霧器等を使用することができるが、これらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0019】
(1)粉末吸入製剤に用いる微細化粒子の調製
ピルフェニドン結晶(約60mg)について、各種賦形剤(約40mg)と混和した後、ジェットミルによって微細化を行って、微細化粒子を調製した。賦形剤としては、エリスリトール(日研化成)、乳糖(DMV)、カルメロースカルシウム(ダイセル化学工業)、プルラン(林原)、ポリビニルピロリドン(BASF)、メチルセルロース(信越化学工業)、ソルビトール(花王)、炭酸カルシウム(関東化学)、または白糖(三井製糖)を用いた。
(粉砕条件)
使用機器: A-O-Jet Mill (セイシン企業)
原料供給方法: オートフィーダー
供給エアー圧力: 6.0 kg/cm
2G
粉砕エアー圧力: 6.5 kg/cm
2G
集塵方法: アウトレットバグ(ポリエチレン)
収率はそれぞれ次の通りであった。
微細化粒子1(賦形剤:エリスリトール) 75.8%
微細化粒子2(賦形剤:乳糖) 61.0%
微細化粒子3(賦形剤:カルメロースナトリウム) 59.9%
微細化粒子4(賦形剤:プルラン) 74.6%
微細化粒子5(賦形剤:ポリビニルピロリドン) 68.5%
微細化粒子6(賦形剤:メチルセルロース) 71.3%
微細化粒子7(賦形剤:ソルビトール) 88.3%
微細化粒子8(賦形剤:マンニトール) 68.4%
微細化粒子9(賦形剤:炭酸カルシウム) 72.9%
微細化粒子10(賦形剤:白糖) 60.8%
(2)粉末吸入製剤の調製
(1)で得た微細化粒子と担体とともに ポリエチレン製のSTAT-3S 帯電防止袋(20×30 cm、 浅沼産業株式会社)に入れ、空気を満たした後に密封し、約3分間手で振ることで混和し、表1に示す製剤1から20を製造した。混和後、任意に5カ所からサンプリングし、含有薬物量を UPLC/ESI-MS によって測定し、含量が均一であることを確認した。この時、担体としては、エリスリトール(日研化成、平均粒径:20〜30μm)または乳糖(DMV、平均粒径:50〜60μm)を用いた。また、微細化粒子と担体との重量比は1:10であった。
【実施例2】
【0020】
粉末吸入製剤の粒度分布測定
微細化粒子と担体との混合物を乾式レーザー回折装置(LMS-300、セイシン企業)にて評価したところ、0.2MPa の圧力下でいずれの製剤も容易にエアゾール化した。
図1は微細化粒子1と乳糖担体との混合物(製剤1)の粒度分布であるが、主に2つの主要なピークを示し、平均粒径7μm のピークが微細化粒子に由来、そして平均粒径60μm のピークは担体に由来する。他の製剤についても微細化粒子は、平均粒径は3.0〜8.0μm の範囲であった。吸入時、担体は気道内にとどまり、微細化粒子は吸入時に気管支又は肺に到達しうると考えられる。分析により得られた製剤1から20における微細化粒子の平均粒径を表1に示す。
また、実際に担体(ラクトース)に微細化粒子(賦形剤およびピルフェニドン粒子)が複合化した様子を撮影したSEM画像を示す(
図2)。ジェットミルによってミクロ化され、単一の球状の粒子となったピルフェニドン粒子は、顕著な凝集をすることなくラクトースに付着していることがわかる。
【表1】
【実施例3】
【0021】
光感受性試験および光安定性試験
図3(A)は、ピルフェニドンの光感受性を測定するために行った反応性酸素種(ROS)アッセイの結果である。このアッセイは、光照射を受けた化合物からのROS、例えば一重項酸素およびスーパーオキシドの発生をモニターするために開発され、ROSが試験化合物の光感受性の指標となる。スリソベンゾンは、強力なUV吸収体であり、キセノンランプを用いた模擬太陽光(250W/m
2)によってROSを放出しない。このことから、スリソベンゾンは光感受性がないことがわかる。一方、8−メトキシソラレン(MOP)は、光毒性および光感受性化合物であることが知られている。
図3(A)に示すとおり、8−MOPは、ピルフェニドンよりわずかに多くROSを生成するが、8−MOPおよびピルフェニドンはともに光感受性があることがわかる。このような光感受性と光過敏性とを考慮すると、ピルフェニドンは光安定性に問題があると言える。
ここで、ピルフェニドン吸入製剤は、理論上、液体製剤および乾燥粉末製剤が考えられる。そこで、いずれが適切かを明確にするため、光安定性を試験した。まず、ピルフェニドン粉末を、クロマトグラフィーにより分析したところ、25℃で1時間の遮光下では分解性を示さなかった。
図3(B)に示すとおり、ピルフェニドン水溶液は、模擬太陽光(250W/m
2)により0.31±0.03時間
−1で表される見かけの1次反応速度で分解した。一方、同様の照射条件下でピルフェニドン粉末およびピルフェニドン粉末吸入製剤は顕著な分解性を示すことなく安定であった。一般に、溶液中では光の浸透性が高く、光感受性化合物では光励起分子および反応性化学種の運動性が増加するため、固体よりも光分解性が高い。このことおよび
図3(B)に示した結果を考慮すると、ピルフェニドン吸入製剤は、液体製剤よりも、乾燥粉末製剤が好ましい。
【実施例4】
【0022】
カスケードインパクターによる粉末吸入製剤(製剤1)評価
粉体の空気力学的粒径に関して調査を行うため、人工気道および肺モデルであるカスケードインパクターにて検討を行った。本体は8段のステージと最終フィルターを重ねたものであり、これに流速計と吸引ポンプを組み合わせたものである。基本的な方法はUSP 2000 ”Physical Tests and Determinations/Aerosols”中”Multistage Cascade Impactor Apparatus”記載の手法を適用した。具体的な方法は次の通りである。
(方法)
装置:アンダーセンサンプラー(AN-200、柴田化学製)
ポンプ流量:28.3 L/min
使用デバイス:ジェットヘラー((株)ユニシアジェックス製)
検体:(i)製剤1粉末吸入製剤
(混和比、ジェットミルで粉砕した微細化粒子1:担体=1:10)
(ii)微細化粒子1
(ジェットミルで粉砕したもので、担体と混和していない)
検体(i)、(ii)をそれぞれ日局2号カプセルに適量充填し、デバイスに設置した。
薬物定量方法:(UPLC-MS 分析条件)
使用カラム: Acuity UPLC BEH C 18 カラム (Waters)
検出器: SQ Detector (Waters)
ポンプ: Binary Solvent Manager (Waters)
移動相流速: 0.25 mL/min
移動相: A: 100 % アセトニトリル、B: 5 mM 酢酸アンモニウム
0−1 分: A 20%
1−3 分: A 20−95%
3−4 分: A 95%
カラム温度: 40℃
(結果)カスケードインパクター本体における各ステージ上のピルフェニドン量を
図4に示す。
図4(A)のグラフに示すとおり、検体(i)の製剤1粉末吸入製剤は、カスケードインパクターによる空気力学的粒径の評価から、粉末吸入製剤(製剤1)は主にステージ0とステージ2〜4に分布していることがわかる。ステージ0に分布する粒子は解離していない微細化粒子と担体の複合体に含まれるピルフェニドンであると推測される。解離した微細化粒子は主にステージ2〜4に分布していることが示された。ステージ2〜7に分布する粒子に対するパーセント量は、「微細化粒子が標的部位である気管支又は肺にたどりつく割合」として RF 値で定義される。本実施例における RF 値は45%を超えるものであり、このことから微細化粒子および担体の複合体である本吸入製剤は、気道内にとどまり、複合体から解離した微細化粒子のみが、標的部位である気管支又は肺に十分に到達するものと考えられる。
また、カプセルからの放出についても、製剤の98.6%がカプセルから排出されていることが確認され、その高い流動性・分散性も示された。
一方、担体を使用していない検体(ii)微細化粒子1を分析した際、
図4(B)のグラフに示すとおり、約99%がステージ0およびステージ1に留まり、RF値は1%未満であった。担体が無い状態では十分な分散性が得られないこと、および微細化粒子が凝集を形成することによって吸入特性の低下に繋がったものと考える。
以上から、標的部位である気管支又は肺に微細化粒子を到達させるには担体を用いた吸入粉末製剤が好ましい。
【実施例5】
【0023】
(1)卵白由来ovalbumin (OVA) 感作モデル動物の作製および粉末吸入製剤(製剤1)の気道内投与
典型的な喘息・慢性閉塞性肺疾患モデルである OVA 感作動物モデルを用いて製剤1の粉末吸入製剤の薬効を評価した。本モデルは、肺において好中球性炎症および好酸球増加症を起こす抗原となる OVA で感作した動物に対し、OVA粉末吸入製剤を気道内投与することで、呼吸器における局所的な炎症を惹起させるモデルである。以下にモデル作製および製剤1の粉末吸入製剤の気道内投与の具体的な方法を示す。
(方法)
動物: Sprague-Dawley rat (8-11 週齢)
試薬: 卵白由来 ovalbumin (SIGMA)、水酸化アルミニウムゲル (SIGMA)
気道内投与器具: DP-4 (株式会社イナリサーチ)
0、7、14日目において、 OVA 溶液 (OVA: 0.33mg/kg、水酸化アルミニウム: 16.6mg/kgを含む) を腹腔内投与し、最終感作の24時間後に、OVA 粉末吸入製剤6mg (OVA 量として100μg) を気道内投与した。気道内投与は、ペントバルビタール麻酔下、DP-4 を気道内に挿入し、圧縮空気を送ることで行った。なお、コントロール群に対しては、乳糖を用いて作製した粉末吸入製剤を用いた。
製剤1(1mg/kg)の前投与は、OVA 粉末吸入製剤の投与1時間前に行った。
【表2】
【0024】
(2)気管支肺胞洗浄液 (BALF) 採取、BALF 中総細胞数
BALF は呼吸器疾患の診断に有用であるとされ、本実施例ではBALF 中総細胞数の計数を行うことにより炎症・組織障害の評価を行った。OVA 投与24時間後にネンブタール麻酔下、腹部大動脈より脱血させた後、気道にカニューレを挿入し生理食塩水5mL にて洗浄を行い、BALFを採取した。採取した BALF は1000rpm で5分間遠心にかけ上清を除き、PBS1mL で再び懸濁した。BALF 中総細胞数の計数は、手動血球計数器を用いて鏡検下で行った。
図5に製剤1(1mg/kg)による実験的喘息・慢性閉塞性肺疾患モデル動物における炎症性細胞浸潤抑制活性を測定した結果を示す。縦軸は、BALF 中の総細胞数を示す。なお、総細胞数は、主として単球および好中球で構成されている。
最終感作24時間後のOVA群は、コントロール群に比べ、総細胞数は約6.5倍増加した。一方、製剤1群では、コントロール群と比較し、BALF 中の総細胞数が約90%減少した。
なお、当該炎症は、製剤1の前処置によって、用量依存的に減少し(0.1−3.33mg/kg)、3.33mg/kgで処置した場合におけるBALF 中の総細胞数は、1mg/kgで処置した場合とほぼ同等であった。
これらのデータから、製剤1は肺線維症や喘息等において認められる肺局所での炎症を有意に抑制できることを示唆している。
(3)BALF 中の肺炎症傷害バイオマーカーの測定
製剤1の薬理効果をより詳細に検討するため、BALF 中の各種バイオマーカーを測定した。肺障害のバイオマーカーとして乳酸脱水素酵素(LDH)を、好中球炎症のバイオマーカーとしてミエロペルオキシダーゼ(MPO)をそれぞれ選択した。気道の炎症および線維化においては、好中球/マクロファージから分泌されるMPOが前炎症性メディエータとして働く。それゆえMPOの酵素活性は、好中球のバイオマーカーとして機能する。
LDH活性およびMPO活性の測定結果を
図6に示す。
最終感作24時間後のOVA群におけるLDH活性およびMPO活性は、コントロール群と比較し、いずれも増加した。一方、製剤1群では、最終感作24時間後のOVA群と比較し、各バイオマーカーの減少を認めた。具体的には、製剤1投与によって、OVA 感作により各バイオマーカーがコントロール群から増加する割合を、LDH活性で約52%、MPO活性で約67%、それぞれ抑制した。したがって製剤1は、好中球性炎症やそれに伴う酵素系のインバランスを抑制するのに有効であると考えられる。
このデータは、BALFにおける炎症性細胞の動員における阻害効果と一致しており、製剤1粉末吸入製剤の局所投与による肺の炎症および線維化疾患の治療に有効であることを示唆する。
(参考例1)
【0025】
ピルフェニドンの経口投与における光毒性反応試験
ラットの体毛をバリカンで注意深く剃り、ピルフェニドンをラットに経口投与(160mg/kgあるいは30mg/kg)し、ブラックライトで光照射した。光照射前後の皮膚の色を色差計で評価した。その結果を表3に示す。コントロール群に比べて、ピルフェニドン160mg/kg投与群では有意に皮膚色の変化を認めたが、30mg/kgでは有意な変化を認めなかった。
【表3】
【実施例6】
【0026】
製剤1の気道内投与時におけるピルフェニドン体内動態(1)
粉末吸入製剤化により必要とされるピルフェニドン用量は経口投与と比較して、減少した。しかし、光線過敏症のリスク減少の可能性は明確ではない。前述のとおり、一般には、薬物誘導性光線過敏症は、皮膚および/または目に現れるため、皮膚および/または目における薬物分子の特定の分布が光線過敏症のリスクを検討する鍵となる。そこで、製剤1の光安全性を確認するため、薬理学的に有効な用量(1mg/kg)における製剤1を気道内投与し、薬力学試験を行った。加えて、経口投与においては、薬理作用を示す用量であって光線過敏症を示す用量(160mg/kg)および薬理作用を示さない用量であって光線過敏症を示さない用量(30mg/kg)が知られていることから、経口投与において両用量をラットに投与し、薬力学係数を求めた。気道内および経口投与により血漿、皮膚、肺および目におけるUPLC/ESI−MS分析を行い、濃度−時間曲線を得た。ピルフェニドンの関連する薬力学係数(C
max、T
1/2、AUC
0→∞、MRT)を表4にまとめる。
ピルフェニドンの経口投与後、ピルフェニドンの血漿および肺濃度は、5分以内にC
maxに達し、半減期が約0.3−0.8時間で定常的に減少した。皮膚および目における濃度については投与後約0.5時間で最大値を示し、続く消失相においては半減期が約0.7−1.1時間となった。このことから、皮膚および目からの消失は血漿中に比べ遅く、光に暴露される領域(皮膚および目)においては、慢性投与で蓄積し、より光線過敏症のリスクが大きい結果となることが予測される。一方、製剤1の気道内投与後における場合、ピルフェニドンの血漿および各組織濃度は、いずれも5分以内にC
maxに達し、続いて、これらの薬物は1.5時間以内に急速に検出限界以下に消失した。
製剤1の気道内投与(1mg/kg)については、経口投与における光線過敏症発現用量(160mg/kg)に対して、血漿、皮膚および目において、C
maxがそれぞれ約440分の1、約90分の1および130分の1に減少した。また、AUCがそれぞれ約1800分の1、約370分の1および490分の1に減少した。これらのことからも気道内投与した場合、経口投与した場合と比較して、ピルフェニドンの全身暴露が減少することが確認できた。
さらに、光線過敏症を発現しない用量における経口製剤(30mg/kg)と吸入製剤1(1mg/kg)は、皮膚と目においても、AUCにそれぞれ63、70倍の差がある。これらの薬力学係数の差は、経口投与におけるピルフェニドンに対し、吸入での使用が皮膚および目におけるピルフェニドンの蓄積および全身暴露を顕著に減少させることを示している。経口による光線過敏症を発現しない用量と比べても、製剤1吸入後の血中濃度は顕著に低い値を示しており、このことは本製剤技術の適用によって本剤の肺局所での効果を高め、さらに副作用である光線過敏症発症のリスクを著しく低下させることが可能になることを示唆している。
【表4】
【実施例7】
【0027】
製剤1の気道内投与時におけるピルフェニドン体内動態(2)
実施例5と同様、ラットにピルフェニドンの経口および製剤1の吸入による単回投与を行い、ピルフェニドンの各組織への移行量をUPLC/ESI-MSによってモニタリングした。
図7に結果を示す。抗炎症作用を有する用量(160mg/kg)において比較した場合、投与1時間後におけるピルフェニドンの皮膚移行量は、吸入(1mg/kg)においては約50ng/g組織であったのに対し、経口(160mg/kg)においては約20μg/g組織である。このことから、吸入における薬物投与量は経口の場合の160分の1であるのに対し、吸入における皮膚移行量は、経口製剤の400分の1に減少する。このようなピルフェニドンの皮膚移行量の顕著な減少は、本発明による副作用の大幅な軽減を示唆し、本発明の吸入製剤は優れた効果である。
【0028】
製剤1の気道内投与時におけるピルフェニドン体内動態(3)
経口および吸入による反復投与におけるピルフェニドンの皮膚移行量をモニタリングした結果を
図8に示す。12時間毎の反復投与においてもピルフェニドン経口投与(30,160 mg/kg)によって一時的な皮膚中ピルフェニドン濃度の上昇を認めたが、いずれも投与後6時間程度で消失した.また,反復投与においてピルフェニドンは蓄積傾向を示さなかった。また、製剤1の吸入時には光線過敏症を示さない用量(30mg/kg)を経口投与した際よりも著しく低い皮膚移行性を認め、同じく蓄積傾向を示さなかった。このことから、吸入製剤をくり返して使用した場合においても全身性の副作用は回避可能であると考える。