(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-56369(P2016-56369A)
(43)【公開日】2016年4月21日
(54)【発明の名称】ハードコート組成物、偏光子、および、これらを用いた表示装置
(51)【国際特許分類】
C09D 133/00 20060101AFI20160328BHJP
C09D 4/02 20060101ALI20160328BHJP
C09D 4/06 20060101ALI20160328BHJP
B32B 7/02 20060101ALI20160328BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20160328BHJP
G02B 1/14 20150101ALI20160328BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20160328BHJP
【FI】
C09D133/00
C09D4/02
C09D4/06
B32B7/02 103
B32B27/30 A
G02B1/14
G02B5/30
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-179916(P2015-179916)
(22)【出願日】2015年9月11日
(31)【優先権主張番号】103131314
(32)【優先日】2014年9月11日
(33)【優先権主張国】TW
(71)【出願人】
【識別番号】390023582
【氏名又は名称】財團法人工業技術研究院
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRIAL TECHNOLOGY RESEARCH INSTITUTE
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】林顯光
(72)【発明者】
【氏名】陳素梅
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ハードコート組成物、偏光子、これらを用いた表示装置の提供。
【解決手段】アクリル共重合体、多官能不飽和フォトモノマー若しくは多官能不飽和オリゴマー、光開始剤、および熱硬化剤を含むハードコート組成物。アクリル共重合体は、水酸基を有しており、15,000以上の重量平均分子量を有し、25℃を超えるガラス転移温度を有し、ヨウ素含浸ポリビニルアルコール(PVA)フィルムと、前記ヨウ素含浸PVAフィルムの少なくとも一方の面上に直接形成され且つ前記ハードコート組成物から作製されるハードコード層とを備えた偏光子、及びその偏光子を備えた表示装置。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基を有し、重量平均分子量が15,000以上であり、ガラス転移温度が25℃を超えるアクリル共重合体と、
多官能不飽和フォトモノマーまたは多官能不飽和オリゴマーと、
光開始剤と、
熱硬化剤とを含むことを特徴とするハードコート組成物。
【請求項2】
前記アクリル共重合体100重量部に対して、前記多官能不飽和フォトモノマーまたは多官能不飽和オリゴマーを30〜150重量部含むことを特徴とする請求項1に記載のハードコート組成物。
【請求項3】
前記多官能不飽和フォトモノマーまたは多官能不飽和オリゴマーは、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート、イソボルニルアクリレート、脂肪族ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、または、これらの組み合わせであることを特徴とする請求項1に記載のハードコート組成物。
【請求項4】
前記アクリル共重合体100重量部に対して、前記光開始剤を0.5〜20重量部含むことを特徴とする請求項1に記載のハードコート組成物。
【請求項5】
前記アクリル共重合体100重量部に対して、前記熱硬化剤を0.1〜60重量部含むことを特徴とする請求項1に記載のハードコート組成物。
【請求項6】
60〜110℃の温度で熱硬化して6日間熟成させた後のゲル分率が0.5〜75%であることを特徴とする請求項1に記載のハードコート組成物。
【請求項7】
前記アクリル共重合体は、親油性のアクリルモノマー若しくはビニル芳香族モノマーと、0.6〜20重量%のヒドロキシルアクリルモノマーとを含むことを特徴とする請求項1に記載のハードコート組成物。
【請求項8】
前記親油性のアクリルモノマーは、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、ドデシルアクリレート、メチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、シクロへキシルメタクリレート、2−エチルへキシルアクリレート、イソボルニルアクリレート、またはこれらの組み合わせであることを特徴とする請求項7に記載のハードコート組成物。
【請求項9】
前記ヒドロキシルアクリルモノマーは、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、またはこれらの組み合わせであることを特徴とする請求項7に記載のハードコート組成物。
【請求項10】
ヨウ素含浸ポリビニルアルコール(PVA)フィルムと、前記ヨウ素含浸PVAフィルムの少なくとも一方の面上に直接形成され且つハードコート組成物から作製されるハードコード層とを備え、
前記ハードコート組成物が、
水酸基を有し、重量平均分子量が15,000以上であり、ガラス転移温度が25℃を超えるアクリル共重合体と、
多官能不飽和フォトモノマーまたは多官能不飽和オリゴマーと、
光開始剤と、
熱硬化剤とを備えたことを特徴とする偏光子。
【請求項11】
前記ハードコート組成物は、前記アクリル共重合体100重量部に対して、前記多官能不飽和フォトモノマーまたは多官能不飽和オリゴマーを30〜150重量部含むことを特徴とする請求項10に記載の偏光子。
【請求項12】
前記多官能不飽和フォトモノマーまたは多官能不飽和オリゴマーは、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート、イソボルニルアクリレート、脂肪族ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、または、これらの組み合わせであることを特徴とする請求項10に記載の偏光子。
【請求項13】
前記ハードコート組成物は、前記アクリル共重合体100重量部に対して、前記熱硬化剤を0.1〜60重量部含むことを特徴とする請求項10に記載の偏光子。
【請求項14】
前記ハードコート組成物は、70〜110℃の温度で熱硬化して6日間室温で熟成させた後のゲル分率が0.5〜75%であることを特徴とする請求項10に記載の偏光子。
【請求項15】
薄型偏光子を備えた表示装置であって、
前記薄型偏光子が、
ヨウ素含浸ポリビニルアルコール(PVA)フィルムと、
前記ヨウ素含浸PVAフィルムの少なくとも一方の面上に直接形成され且つハードコート組成物から作製されるハードコード層とを備え、
前記ハードコート組成物が、
水酸基を有し、重量平均分子量が15,000以上であり、ガラス転移温度が25℃を超えるアクリル共重合体と、
多官能不飽和フォトモノマーまたは多官能不飽和オリゴマーと、
光開始剤と、
熱硬化剤とを備えたことを特徴とする表示装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術分野〕
本開示は、ハードコート組成物(hardcoat composition)、偏光子(polarizer)、および、これらを用いた表示装置に関する。
【0002】
〔関連技術の説明〕
従来の液晶表示装置において、偏光子の構成は、熱硬化型アクリル系感圧接着剤(thermal cured acrylic pressure sensitive adhesive)/トリアセテートセルロース(triacetate cellulose)(TAC)/ポリビニルアルコール(PVA)ハイドロゲル/ヨウ素含浸PVAフィルム(PVA偏光子)/PVAハイドロゲル/TACを含む。例えば、米国特許第6,074,729号は、液晶表示装置に使用される感圧接着シート(pressure sensitive adhesive sheet)と、感圧接着層(pressure sensitive adhesive layer)とを開示する。前記感圧接着シートは、液晶表示装置に使用される位相差シート(phase difference sheet)若しくは光偏光シート(light polarizing sheet)を形成する基材層を含むものであり、前記感圧接着層は、液晶表示装置の液晶セル上に前記基材層を固着(sticking)させるものである。偏光子の全体の厚みは、約150〜200マイクロメートル(μm)であり、偏光子の製造工程は、複雑であり、低収率である。
【0003】
パネルメーカーは、LCDデバイスに対する偏光子の積層工程を簡素化するために、新たな工程を求め続け且つ開発し続けている。最近、日東電工株式会社や住友化学株式会社等の会社が、偏光子の新たな構成を提供した。偏光子の新たな構成としては、例えば、TACフィルムを新規な透明高分子フィルムに置き換えた構成や、PVAハイドロゲルを紫外線硬化型PVA材料(UV curable PVA material)に置き換えた構成等である。また、前記の会社は、LCDデバイスに偏光子を積層するためのロールツーロール(roll-to-roll)工程を開発した。
【0004】
〔概要〕
本開示は、従来の偏光子のPVAハイドロゲルおよびTACフィルムをハードコート組成物に置き換えた偏光子および表示装置に関するものである。
【0005】
本開示のいくつかの実施形態では、ハードコート組成物が提供される。ハードコート組成物は、水酸基を有するアクリル共重合体と、多官能不飽和フォトモノマー若しくは多官能不飽和オリゴマーと、光開始剤と、熱硬化剤とを含む。アクリル共重合体は、15,000以上の重量平均分子量を有する。また、アクリル共重合体は、25℃を超えるガラス転移温度を有する。
【0006】
本開示の別の実施形態では、薄型偏光子が提供される。薄型偏光子は、ヨウ素含浸ポリビニルアルコール(PVA)フィルムと、前記ヨウ素含浸PVAフィルムの少なくとも一方の面上に直接形成され且つハードコート組成物から作製されるハードコート層とを含む。ハードコート組成物は、水酸基を有するアクリル共重合体と、多官能不飽和フォトモノマー若しくは多官能不飽和オリゴマーと、光開始剤と、熱硬化剤とを含む。アクリル共重合体は、15,000以上の重量平均分子量を有する。また、アクリル共重合体は、25℃を超えるガラス転移温度を有する。
【0007】
本開示のさらなる実施形態では、表示装置が提供される。表示装置は、薄型偏光子を含む。薄型偏光子は、ヨウ素含浸ポリビニルアルコール(PVA)フィルムと、前記ヨウ素含浸PVAフィルムの少なくとも一方の面上に直接形成され且つハードコート組成物から作製されるハードコート層とを含む。ハードコート組成物は、水酸基を有するアクリル共重合体と、多官能不飽和フォトモノマー若しくは多官能不飽和オリゴマーと、光開始剤と、熱硬化剤とを含む。アクリル共重合体は、15,000以上の重量平均分子量を有する。また、アクリル共重合体は、25℃を超えるガラス転移温度を有する。
【0008】
本開示は、その好ましい実施形態に基づき、これから記述される。
【0009】
〔詳細な説明〕
本開示の実施形態において、熱硬化されているハードコート組成物(thermally cured hardcoat composition)から形成されているハードコート層(hardcoat layer)は、結合剤(binders)または接着剤(adhesives)を少しも必要とせず、TAC保護フィルムを必要とせずに、ヨウ素含浸ポリビニルアルコール(PVA)フィルム(iodine-impregnated polyvinyl alcohol film)の少なくとも一方の面の上に直接形成可能である。その結果、製造工程を簡素化でき、コストを削減でき、偏光子の全体の厚みを顕著に減少させることができる。本開示の実施形態の詳細は、以下に示すとおりである。なお、本実施形態は説明のためのものに過ぎず、本開示は本実施形態に限定されるものではない。当業者であれば、当該実施形態の応用に対応する修正および変更が可能である。
【0010】
本開示の実施形態では、ハードコート組成物が提供される。ハードコート組成物は、水酸基を有するアクリル共重合体(acrylic copolymer)と、多官能不飽和フォトモノマーまたは多官能不飽和オリゴマー(multi-functional unsaturated photomonomer or oligomer)と、光開始剤(photoinitiator)と、熱硬化剤(thermal curing agent)とを含む。アクリル共重合体は、例えば15,000以上の重量平均分子量(Mw)を有しており、例えば25℃を超えるガラス転移温度(Tg)を有している。
【0011】
本開示の実施形態では、ハードコート組成物は、保護が必要とされるあらゆる表面(surface)に適用可能である。例えば、ハードコート組成物は、ヨウ素含浸PVA偏光子(iodine-impregnated PVA polarizers)の表面に適用可能である。本実施形態において、ハードコート組成物の成分(components)は、よく混ぜられ、その後にペットリリースフィルム(PET release film)上を覆う。次に、ペットリリースフィルム上のハードコート組成物は、例えば60〜110℃の温度にて加熱される。この段階で、アクリル共重合体と熱硬化剤とは、熱架橋反応(thermal-crosslink reaction)を起こすが、残りの成分(例えば、多官能不飽和フォトモノマーまたは多官能不飽和オリゴマーと、光開始剤)は反応しない。熱硬化されているハードコート組成物は、粘性の増加とともにゲルの状態に変わり、感圧接着剤(pressure sensitive adhesive)として作用する。これにより、PVAハイドロゲル、接着剤、またはTACフィルムを添加せずに、ハードコート組成物から形成されているハードコート層を、ヨウ素含浸PVAフィルムの少なくとも一方の面の上に直接形成可能である。
【0012】
本実施形態において、ハードコート組成物は、100重量部のアクリル共重合体に対して、0.1〜60重量部の熱硬化剤を含む。本実施形態において、熱硬化剤は、脂肪族ポリイソシアネート(aliphatic polyisocyanate)であってもよい。本実施形態において、脂肪族ポリイソシアネートは、100重量部のアクリル共重合体に対して、例えば0.3重量部である。
【0013】
本実施形態において、アクリル共重合体は、親油性のアクリルモノマー(lipophilic acrylic monomer)若しくはビニル芳香族モノマー(vinyl aromatic monomer)と、ヒドロキシルアクリルモノマー(hydroxyl acrylic monomer)とから合成されてもよい。ヒドロキシルアクリルモノマーは、熱硬化剤と反応して、アクリル共重合体の機械的強度および耐熱性を増加させる架橋構造を形成できる。本実施形態において、ヒドロキシルアクリルモノマーのモル比は、適切な範囲内にすべきである。ヒドロキシルアクリルモノマーのモル比が低すぎると、加熱後の架橋の程度が低くなり、ハードコートの凝集力(cohesion)が低くなりすぎてフィルムが形成されないであろう。ヒドロキシルアクリルモノマーのモル比が高すぎると、加熱後の架橋の程度が高くなり、ハードコートが粘性を失って感圧接着剤として使用できなくなるであろう。本実施形態において、アクリル共重合体は、例えば0.6〜20重量%(wt%)のヒドロキシルアクリルモノマーを含む。好ましい実施形態において、アクリル共重合体は、例えば0.8〜15重量%のヒドロキシルアクリルモノマーを含む。
【0014】
本実施形態において、親油性のアクリルモノマーは、(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマー((meth)acrylic acid alkyl ester monomer)であってもよく、例えば、メチルアクリレート(methyl acrylate)、エチルアクリレート(ethyl acrylate)、ブチルアクリレート(butyl acrylate)、ドデシルアクリレート(dodecyl acrylate)、メチルメタクリレート(methyl methacrylate)、ブチルメタクリレート(butyl methacrylate)、シクロへキシルメタクリレート(cyclohexyl methacrylate)、2−エチルへキシルアクリレート(2-ethylhexyl acrylate)、イソボルニルアクリレート(isobornyl acrylate)、または、これらの組み合わせであってもよい。本実施形態において、ビニル芳香族モノマーは、例えばスチレン(styrene)であってもよい。本実施形態において、ヒドロキシルアクリルモノマーは、例えば、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(2-hydroxyethyl methacrylate)、2−ヒドロキシエチルアクリレート(2-hydroxyethyl acrylate)、4−ヒドロキシブチルアクリレート(4-hydroxybutyl acrylate)、または、これらの組み合わせであってもよい。但し、親油性のアクリルモノマー、および、ヒドロキシルアクリルモノマーは、実際のニーズに応じて選択されてもよく、前述した例に限定されるものではない。
【0015】
本実施形態において、アクリル共重合体は、溶液重合によって合成されてもよい。適切な溶剤としては、ジクロロメタン(dichloromethane)、クロロホルム(chloroform)、テトラクロロメタン(tetrachloromethane)、アセトン(acetone)、メチルエチルケトン(methyl ethyl ketone)、ジエチルケトン(diethyl ketone)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(propyleneglycol monomethyl ether acetate)、エチルアセテート(ethyl acetate)、ブチルアセテート(butyl acetate)、トルエン(toluene)等である。もし、反応温度が使用される溶剤の沸点よりも高い場合、重合反応は、適切な冷却器と共に、若しくは、圧力下で行われるべきである。或いは、二種以上の溶剤を混合した混合溶剤を前記の反応に用いることが可能である。本実施形態では、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートとアセトンとの混合溶剤を使用して、反応溶液の粘性および揮発性を調整している。
【0016】
本実施形態において、ハードコート組成物は、70〜110℃の温度で熱硬化して室温で6日間熟成(aging)させた後のゲル分率(gel fraction)が、例えば0.5〜75%である。他の実施形態において、ハードコート組成物は、60〜110℃若しくは70〜110℃の温度で熱硬化して室温で6日間熟成した後のゲル分率が、例えば5〜50%である。さらに他の実施形態において、ハードコート組成物は、60〜110℃の温度で熱硬化して室温で6日間熟成した後のゲル分率が、例えば15〜40%である。熱硬化されているハードコート組成物における未反応の多官能不飽和フォトモノマーまたは多官能不飽和オリゴマーは、アクリル共重合体の希釈剤(diluents)として活用され得、そのためハードコート組成物が感圧接着剤として作用する。
【0017】
また、感圧接着剤のガラス転移温度は、一般的には負であり、例えば−50℃〜20℃であって(the glass transition temperature of a pressure sensitive adhesive is generally negative, such as -50℃-20℃)、ハードコートのガラス転移温度は正である。本開示の実施形態によれば、アクリル共重合体のガラス転移温度は、25℃より高く、例えば40℃であり、従来(通常)の感圧接着剤のガラス転移温度よりもはるかに高い。それゆえ、後に形成されるハードコートに硬さを与えることになる。
【0018】
ハードコート組成物は、ペットリリースフィルム上を覆い、加熱されて熱硬化され、その後、ヨウ素含浸PVAフィルムの少なくとも一方の面に直接積層され、続いてハードコート組成物に対する紫外線照射(UV irradiation)が行われる。紫外線照射工程において、多官能不飽和フォトモノマーまたは多官能不飽和オリゴマーは、光開始剤とともに光架橋反応(photo-crosslinking reaction)を起こす。熱硬化されたアクリル共重合体と、光硬化された(photo-cured)多官能不飽和フォトモノマーまたは多官能不飽和オリゴマーの重合体構造とは、相互貫入する。その結果、結合剤や接着剤を少しも利用することなく、ヨウ素含浸PVAフィルム上にハードコート層を直接形成できる。
【0019】
言い換えると、光硬化の前にて、ヨウ素含浸PVAフィルム上に本実施形態のハードコート組成物を直接積層できる。PVAフィルムに対する積層後、ハードコート組成物は、紫外線が照射され、その結果、光硬化されたハードコート組成物は1H以上の硬度を有し、そのため、TACフィルムが全く無くても、ヨウ素含浸PVAフィルムの保護が可能になる。
【0020】
本実施形態において、多官能不飽和フォトモノマーまたは多官能不飽和オリゴマーは、エトキシ化(3)トリメチロールプロパントリアクリレート(ethoxylated (3) Trimethylolpropane Triacrylate)、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(dipentaerythritol hexaacrylate)、トリプロピレングリコールジアクリレート(tripropylene glycol diacrylate)、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(pentaerythritol tetraacrylate)、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレート(tris (2-hydroxy ethyl) isocyanurate triacrylate)、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート(ethoxylated bisphenol A diacrylate)、イソボルニルアクリレート(isobornyl acrylate)、脂肪族ウレタンアクリレート(aliphatic urethane acrylate)、エポキシアクリレート(epoxy acrylate)、または、これらの組み合わせであってもよい。脂肪族ウレタンアクリレートは、サートマー(Sartomer)が提供している商品名CN964、CN9010およびCN968のウレタンジアクリレートオリゴマー(urethane diacrylate oligomer)がベースの脂肪族ポリエステル(aliphatic polyester)であってもよい。また、エポキシアクリレートは、サートマーが提供している商品名CN131およびCN132の化合物でもよい。しかしながら、多官能不飽和フォトモノマーまたは多官能不飽和オリゴマーは、実際のニーズに応じて選択されてもよく、前述した例に限定されるものではない。
【0021】
本実施形態において、ハードコート組成物は、アクリル共重合体100重量部に対して、多官能不飽和フォトモノマーもしくは多官能不飽和オリゴマー30〜150重量部を含んでもよい。好ましい実施形態では、ハードコート組成物は、アクリル共重合体100重量部に対して、多官能不飽和フォトモノマーもしくは多官能不飽和オリゴマー60〜100重量部を含んでもよい。
【0022】
本実施形態において、ハードコート組成物は、アクリル共重合体100重量部に対して、0.5〜20重量部の光開始剤を含んでもよい。光開始剤は、例えば、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(1-hydroxycyclohexyl phenyl ketone)(Ciba IRGACURE 184)、および/または、KB1(Ciba IRGACURE 651)であってもよい。好ましい実施形態において、前述した光開始剤は、アクリル共重合体100重量部に対し、例えば2〜10重量部であってもよい。
【0023】
本実施形態において、ハードコート組成物は、さらに、ジブチル錫ジラウレート(dibutyltin dilaurate)のような触媒を含んでいてもよい。本実施形態において、触媒は、アクリル共重合体100重量部に対して、例えば0.001重量部である。
【0024】
本実施形態において、消泡剤、レベリング剤および/または可塑剤のような添加剤が、ハードコート組成物へ加えられてもよい。
【0025】
本開示の一実施形態によれば、ハードコート組成物を硬化させることによって形成されるハードコート層を、結合剤あるいは接着剤を少しも利用せず、また、TACフィルムを必要とせずに、ヨウ素含浸PVAフィルムの少なくとも一方の面上に直接形成できる。言いかえると、ハードコート組成物から作製されたハードコート層は、従来の偏光子のPVAハイドロゲルおよびTACに取って代わることが可能である。その結果、製造工程を簡略化でき、コストを削減でき、偏光子の全体の厚みを顕著に減少させることができる。例えば、従来の構造(TAC/PVAハイドロゲル/ヨウ素含浸PVA偏光子/PVAハイドロゲル,TAC,および感圧接着剤)の偏光子は、全体の厚みが約210μmであり、TACフィルムの厚みは約40〜80μmである。PVAハイドロゲルおよびTACフィルムを、本実施形態のハードコート層に置き換えると、偏光子の全体の厚みを、90μm未満に著しく減少させることができ、これは超薄型の液晶ディスプレイの製造に有利である。さらに、ハードコート組成物から作製されたハードコート層は、低い複屈折性(birefringence)を有しており、それゆえ、本実施形態の偏光子は、高い複屈折性を有する従来のTACフィルムから作製されている偏光子の視野角(viewing angle)よりも広い視野角を有するであろう。
【0026】
以下の実施例はさらなる説明を提供する。アクリル共重合体およびハードコート組成物の成分、および、その試験結果が挙げられ、ハードコート組成物、および、それから形成されているハードコート層の特徴を示す。しかしながら、以下の実施例は、特定の形態のみを説明したものであり、限定されることを意図したものではない。
【0027】
アクリル共重合体1の合成:
最初に、240.37gのプロピレングリコールモノメチルエーテル(propyleneglycol monomethylether)(PM)を四ツ口反応フラスコに加える。その後、四ツ口反応フラスコを窒素ガスにて充填し、フラスコの温度を90℃に昇温する。
【0028】
次に、98.12gのメチルメタクリレート(MMA)、130.64gのブチルメタクリレート(BMA)、11.61gの2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2.07gの1−ドデカンチオール(1-dodecanethiol)(1−DT)、および0.9114gのAIBNからなる反応溶液を四ツ口反応フラスコへ加える。反応を7時間進める。反応が完了すると、希釈のために53.42gのアセトンを加える。得られたアクリル共重合体溶液は、約26,109の重量平均分子量(Mv)を有している。
【0029】
アクリル共重合体2〜4の合成は、アクリル共重合体1の合成と同様である。アクリル共重合体1〜4の成分(構成要素)を〔表1〕に挙げる。
【0031】
実施例1〜10のハードコート組成物は、前述したアクリル共重合体1〜4を含有する。実施例1〜10のハードコート組成物の成分および特徴を〔表2〕に挙げる。
【0033】
〔表2〕に挙げられている実施例1のハードコート組成物の成分は、よく混合され、その次に、ハードコート組成物は、ペットリリースフィルム上を覆い、その次に、100℃で2分間加熱され、溶剤が取り除かれて熱架橋反応が起こる。その結果、ハードコート組成物およびペットフィルムから作製された二重層構造(double layer structure)のフィルムが形成される。この段階では、ハードコート組成物の成分が熱架橋反応を起こすだけであり、光架橋反応は未だ生じておらず、このためハードコート組成物をPVAフィルム上に積層させることが可能である。実施例1のハードコート組成物は、熟成後のゲル分率が1%を示す。
【0034】
ハードコート組成物のゲル分率の測定は以下に述べるとおりである。ハードコート組成物/ペットリリースフィルムの乾燥した二重層構造を6日間室温で熟成する。ペットリリースフィルムから約0.3gのハードコート組成物をこすり落とし、こすり落としたハードコート組成物を、10gのエチルアセテート(EA)に加える。エチルアセテート溶液をよく混合し、その次に、250メッシュのステンレス鋼メッシュ(stainless steel mesh)でエチルアセテート溶液をろ過する。10gのエチルアセテートでサンプルフラスコをすすぎ、当該エチルアセテートをろ過する。ステンレス鋼メッシュおよびゲル残留物(gel fraction)を100℃で30分間乾燥させる。ハードコート組成物のゲル分率を計算し重み付けを行う。
【0035】
その次に、前述したハードコート組成物/ペットリリースフィルムの二重層構造は、ヨウ素含浸PVAフィルムの少なくとも一方の面に積層され、その次に、ペットリリースフィルム上を覆う感圧接着剤が、PVAフィルムのうち、ハードコート組成物/ペットリリースフィルムの二重層構造の側とは反対側に積層される。換言すると、ヨウ素含浸PVAフィルムの両面がハードコート組成物および熱硬化された感圧接着剤と直接接着する。次に、ハードコート組成物は光硬化用の紫外光(UV light)にて露光される。このようにして、薄型の偏光子が製造される。光硬化されたハードコート層は、100%の光透過率、H〜2Hの硬度、および、100/100碁盤目試験(100/100 cross-cut test)に合格という特徴を有する。
【0036】
比較例1は、アクリル共重合体4のヒドロキシルアクリルモノマーの比率が低すぎるため、熱架橋の程度が低すぎ、そのためハードコート組成物の凝集力が低すぎてフィルムを形成できない。
【0037】
さらに、本開示の実施形態のハードコート組成物は、薄型偏光子を含む表示装置の製造に使用されてもよい。光架橋反応が完了すると、感圧接着剤上のペットリリースフィルムが取り除かれ、次に薄型偏光子が表示装置に積層され、次にハードコート上のペットリリースフィルムが取り除かれる。このようにして、本実施形態によって製造される薄型偏光子と一体となる表示装置が作製される。
【0038】
実施例2〜10は前述した方法によって合成され、実施例2〜10によって作製される薄型偏光子の特徴は〔表2〕に挙げられる。実施例2のハードコート組成物は、熟成後のゲル分率が23%を示す。
【0039】
本開示は、好ましい実施形態として記載されているが、当該実施形態は、本開示を限定することを意図したものでない。当業者は、本開示の範囲および精神から離れることなく、様々な変更および変形を行うことができる。
【外国語明細書】