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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-56429(P2016-56429A)
(43)【公開日】2016年4月21日
(54)【発明の名称】直流スパッタ装置用電源装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20160328BHJP
   H05H 1/46 20060101ALI20160328BHJP
   H05H 1/24 20060101ALI20160328BHJP
【FI】
   C23C14/34 U
   H05H1/46 R
   H05H1/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-185554(P2014-185554)
(22)【出願日】2014年9月11日
(71)【出願人】
【識別番号】392026888
【氏名又は名称】京都電機器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤吉 敏一
(72)【発明者】
【氏名】伏谷 周一
(72)【発明者】
【氏名】岡本 景太
(72)【発明者】
【氏名】木村 智
(72)【発明者】
【氏名】辻本 正志
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029CA05
4K029DC34
(57)【要約】
【課題】簡単な構成で以て直流スパッタ装置におけるプラズマ着火の確実性を高める。
【解決手段】スイッチング素子41がオフ状態であるとき、高電圧、小電流の補助直流電源45によりコンデンサ44は充電される。スイッチング素子41がターンオンされると、補助直流電源45による高電圧がチャンバ10の陽極10a、陰極10b間に印加され、その高電圧によってチャンバ10内のプラズマガスの一部が電離すると、コンデンサ44に蓄えられていたエネルギが瞬間的に放出されてチャンバ10内に大電流が供給される。それによってプラズマの生起が促進され着火する。コンデンサ44が放電し終えたあとも補助直流電源45から抵抗46を介してチャンバ10に電流が供給されることでプラズマが維持され、安定プラズマ状態に至る。コンデンサ44の放電時のエネルギ総量は小さいので、過剰なアーク放電は起こりにくく、ターゲットや基板の損傷を回避できる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流スパッタ装置のチャンバ内にプラズマを生成するために、該チャンバ内に配設された一対の電極間に直流電圧を印加する電源装置において、
a)主直流電源を含み、定常的なプラズマ維持のために前記一対の電極間に所定の電圧を印加する第1の電力供給部と、
b)前記第1の電力供給部の電圧出力端に並列に接続された、プラズマ着火を行うための第2の電力供給部と、
c)少なくともプラズマ着火時に前記第2の電力供給部を動作させる制御部と、
を備え、
前記第2の電力供給部は、ダイオードとコンデンサとが直列に接続されてなる第1の直列回路と、前記第1の電力供給部の前記主直流電源よりも高い電圧を発生する補助直流電源と抵抗とが直列に接続された回路であって、前記第1の直列回路の前記コンデンサに並列に接続されてなる第2の直列回路と、を含み、
前記制御部は、プラズマ着火時に前記第2の電力供給部の補助直流電源を動作させて、前記一対の電極間に直流電圧を印加するとともに前記コンデンサの充電電圧に基づくエネルギを前記一対の電極間に供給することを特徴とする直流スパッタ装置用電源装置。
【請求項2】
請求項1に記載の直流スパッタ装置用電源装置であって、
前記第2の電力供給部は、前記第1の直列回路と前記第1の電力供給部の正極側出力端との間に接続されたスイッチング素子をさらに含み、
前記制御部は、プラズマ着火時に、前記第2の電力供給部の補助直流電源を動作させている状態で、前記スイッチング素子を所定時間オン動作させることにより、前記一対の電極間に直流電圧を印加するとともに前記コンデンサの充電電圧に基づくエネルギを前記一対の電極間に供給することを特徴とする直流スパッタ装置用電源装置。
【請求項3】
直流スパッタ装置のチャンバ内にプラズマを生成するために、該チャンバ内に配設された一対の電極間に直流電圧を印加する電源装置において、
a)主直流電源を含み、定常的なプラズマ維持のために前記一対の電極間に所定の電圧を印加する第1の電力供給部と、
b)前記第1の電力供給部の電圧出力端に並列に接続された、プラズマ着火を行うための第2の電力供給部と、
c)少なくともプラズマ着火時に前記第2の電力供給部を動作させる制御部と、
を備え、
前記第2の電力供給部は、第1の抵抗とダイオードとコンデンサとが直列に接続されてなる第1の直列回路と、前記第1の抵抗と前記ダイオードとの直列回路に並列に接続された第3の抵抗と、前記第1の電力供給部の前記主直流電源よりも高い電圧を発生する補助直流電源と第2の抵抗とが直列に接続された回路であって前記第1の直列回路に並列に接続されてなる第2の直列回路と、を含み、
前記制御部は、プラズマ着火時に前記第2の電力供給部の補助直流電源を動作させて、前記一対の電極間に直流電圧を印加するとともに前記コンデンサの充電電圧に基づくエネルギを前記一対の電極間に供給することを特徴とする直流スパッタ装置用電源装置。
【請求項4】
請求項3に記載の直流スパッタ装置用電源装置であって、
前記第2の電力供給部は、前記第1の直列回路と前記第1の電力供給部の正極側出力端との間に接続されたスイッチング素子をさらに含み、
前記制御部は、プラズマ着火時に、前記第2の電力供給部の補助直流電源を動作させている状態で、前記スイッチング素子を所定時間オン動作させることにより、前記一対の電極間に直流電圧を印加するとともに前記コンデンサの充電電圧に基づくエネルギを前記一対の電極間に供給することを特徴とする直流スパッタ装置用電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流スパッタ装置においてプラズマを生成するために用いられる電源装置に関する。なお、本明細書において直流スパッタ装置は、磁場を併用してスパッタリングを行う直流マグネトロンスパッタ装置を含むものとする。
【背景技術】
【0002】
半導体の成膜工程などに用いられるスパッタ装置には、陰極であるターゲットと陽極である基板(被成膜対象物)との間に、直流電圧を印加する直流(DC)スパッタ装置と、直流電圧でなく高周波電圧を印加する高周波(RF)スパッタ装置と、がある。いずれのスパッタ装置においても、ターゲットと基板との間に供給された電力によってアルゴン等のガスが電離してプラズマが生成され、主としてこのプラズマ中のイオンの作用によってターゲットからそのターゲット物質が叩き出され、該物質の粒子が基板に到達して基板表面に被膜を形成する。
【0003】
直流スパッタ装置は、絶縁性のターゲットが使用できないなどの制約はあるものの、高周波スパッタ装置に比べて装置構造が簡単であり、また比較的低温のプラズマを利用できるため基板表面の損傷を抑えられる、といった利点がある。
【0004】
この直流スパッタ装置では、陰極と陽極との間に印加する電圧によって、チャンバ内の空間にグロー放電を生起してプラズマを形成する。チャンバ内でプラズマの生成を開始するには着火が必要であり、通常、着火時には、陰極−陽極間に−1000V〜−1500V程度の比較的大きな電圧を印加する。そして、着火した後、つまりプラズマ放電が開始された後には、陰極−陽極間は、−200V〜−800V程度の相対的に低いプラズマ電圧を維持する。このように、着火時にはプラズマを維持するときに比べて高い電圧を印加する必要があるものの、着火するまでは電源側から陰極及び陽極をみると殆ど無負荷状態であるため、出力電流は小さくてよい。一方、プラズマを維持するときには、電圧は相対的に低くなり、電源側からみた負荷インピーダンスが下がるため、数A以上の大きな電流を供給する必要がある。
【0005】
即ち、直流スパッタ装置には、安定プラズマ状態に至るまでは高電圧を印加可能であり、定常のプラズマ放電動作時には大電流を供給可能である電源装置が必要である。そのため、直流スパッタ装置に使用される電源装置は、通常、安定プラズマ状態に移行させるための補助高圧発生回路部と、プラズマ放電を維持するための電力供給部と、を備える。そして、起動時には補助高圧発生回路部から高真空に減圧されたチャンバの陰極−陽極間に、例えば−1500V程度の電圧が加えられる。一般に、減圧されたチャンバ内にはアルゴン(Ar)などの不活性ガスが供給されている。そのため、このガスの分子は高電圧によって電離してイオンが生成され、微小な暗電流が流れる暗放電状態となり、さらにイオン密度が高くなるに伴い安定プラズマ状態に移行する。従来の電源装置において、着火用の補助高圧発生回路部は、電源容量を小さく抑えるために出力に高抵抗を挿入し、通常のプラズマ放電時の電流、さらにはアーク放電や短絡電流などを抑えるようにしている。
しかしながら、こうした回路では、負荷条件に合わせた電圧とエネルギとを供給することができるとは限らず、確実な安定プラズマ状態への移行に至らない場合があった。
【0006】
また、特許文献1に記載のように、交流−直流変換を行うインバータを備えた電源ブロックを複数用意し、着火動作時に複数の電源ブロックを直列接続し、定常動作時には複数の電源ブロックを並列接続するように接続を切り換える電源装置も従来知られている。
しかしながら、こうした構成を採ると、装置が大掛かりになり、コストが高くなるとともに装置サイズも大きくなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−42129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、簡単な構成及び制御によって、確実にプラズマ着火を行うことができる直流スパッタ装置用電源装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた本発明の第1の態様は、直流スパッタ装置のチャンバ内にプラズマを生成するために、該チャンバ内に配設された一対の電極間に直流電圧を印加する電源装置において、
a)主直流電源を含み、定常的なプラズマ維持のために前記一対の電極間に所定の電圧を印加する第1の電力供給部と、
b)前記第1の電力供給部の電圧出力端に並列に接続された、プラズマ着火を行うための第2の電力供給部と、
c)少なくともプラズマ着火時に前記第2の電力供給部を動作させる制御部と、
を備え、
前記第2の電力供給部は、ダイオードとコンデンサとが直列に接続されてなる第1の直列回路と、前記第1の電力供給部の前記主直流電源よりも高い電圧を発生する補助直流電源と抵抗とが直列に接続された回路であって、前記第1の直列回路の前記コンデンサに並列に接続されてなる第2の直列回路と、を含み、
前記制御部は、プラズマ着火時に前記第2の電力供給部の補助直流電源を動作させて、前記一対の電極間に直流電圧を印加するとともに前記コンデンサに充電した直流電圧に基づくエネルギを前記一対の電極間に供給することを特徴としている。
【0010】
また上記課題を解決するためになされた本発明の第2の態様は、直流スパッタ装置のチャンバ内にプラズマを生成するために、該チャンバ内に配設された一対の電極間に直流電圧を印加する電源装置において、
a)主直流電源を含み、定常的なプラズマ維持のために前記一対の電極間に所定の電圧を印加する第1の電力供給部と、
b)前記第1の電力供給部の電圧出力端に並列に接続された、プラズマ着火を行うための第2の電力供給部と、
c)少なくともプラズマ着火時に前記第2の電力供給部を動作させる制御部と、
を備え、
前記第2の電力供給部は、第1の抵抗とダイオードとコンデンサとが直列に接続されてなる第1の直列回路と、前記第1の抵抗と前記ダイオードとの直列回路に並列に接続された第3の抵抗と、前記第1の電力供給部の前記主直流電源よりも高い電圧を発生する補助直流電源と第2の抵抗とが直列に接続された回路であって前記第1の直列回路に並列に接続されてなる第2の直列回路と、を含み、
前記制御部は、プラズマ着火時に前記第2の電力供給部の補助直流電源を動作させて、前記一対の電極間に直流電圧を印加するとともに前記コンデンサの充電電圧に基づくエネルギを前記一対の電極間に供給することを特徴としている。
【0011】
本発明の第1の態様の電源装置において、制御部は、チャンバ内にプラズマが生成されていない状態から着火を行う際に、第2の電力供給部の補助直流電源を動作させる。もちろん、これと同時に第1の電力供給部の主直流電源を動作させるとよい。第2の電力供給部の補助直流電源が動作すると、チャンバ内に配設された一対の電極間に補助直流電源による高電圧が印加されるとともにコンデンサが充電される。チャンバ内のガスは電極間に印加された高電圧により電離し始め、その電離によってイオンと電子とが生成されて電流が或る程度通り易い状態になると、上記充電によってコンデンサに蓄えられたエネルギは瞬間的に放出される。着火時、プラズマの励起を容易にするには、比較的大きな電流を負荷(チャンバ内の電極対及びその電極間の空間に存在するガスなど)に供給する必要があるが、上述したように、コンデンサの急峻な放電を利用して、瞬間的に大きな電流をチャンバ内空間に流すことができる。
【0012】
このときにチャンバ内に供給されるエネルギ量が大きすぎると、着火時にアーク放電が生じて電極、つまりは基板やターゲットが損傷を受けるおそれがある。これに対し、本発明に係る電源装置では、瞬間的に放出されるエネルギの総量はコンデンサのキャパシタンスと充電電圧とに依存しているから、それらを適切に定めることでエネルギ総量を適当に抑えることができる。このようにエネルギ総量を抑えても、コンデンサから瞬間的にエネルギを放出することができるので、その瞬間的なエネルギ量はプラズマ放電を生起させるのに十分なものとなる。それによって、ターゲットや基板等に損傷を与えることなく、プラズマを確実に生起させることができる。
プラズマが生起された以降は、第1の電力供給部からチャンバ内の電極対に適当なプラズマ電圧が印加され続けるため、プラズマは安定的に維持される。
【0013】
なお、第1の態様において、第1の直列回路に含まれるダイオードは、主直流電源からコンデンサへ充電電流が流れることを阻止するものである。それによって、コンデンサが放電されたあとに主直流電源からコンデンサへの充電電流は流れないため、主直流電源による電力は生起されたプラズマを維持するために有効に利用されることになる。
【0014】
一方、本発明の第2の態様の電源装置では、第1の直列回路に含まれるダイオードに並列に第3の抵抗が接続されているため、この第3の抵抗を通して主直流電源からコンデンサへ充電電流が流れることになる。しかしながら、第3の抵抗の値を或る程度大きくしておけば、充電電流は制限されるため、主直流電源による電力は生起されたプラズマを維持するために有効に利用されることになる。
【0015】
本発明の第1、第2の態様のいずれにおいても、好ましくは、前記第2の電力供給部は、前記第1の直列回路と前記第1の電力供給部の正極側出力端との間に接続されたスイッチング素子をさらに含み、
前記制御部は、プラズマ着火時に、前記第2の電力供給部の補助直流電源を動作させている状態で、前記スイッチング素子を所定時間オン動作させることにより、前記一対の電極間に直流電圧を印加するとともに前記コンデンサの充電電圧に基づくエネルギを前記一対の電極間に供給する構成とするとよい。
【0016】
この構成では、制御部によりスイッチング素子がターンオンされると、そのターンオンしたスイッチング素子を通して第2の電力供給部が第1の電力供給部に接続され、該第2の電力供給部と負荷とを含む閉回路が形成される。これによって、チャンバ内の一対の電極間には高電圧が短時間印加され、さらにコンデンサに蓄えられたエネルギが瞬間的に放出される。それによって、上記閉回路に含まれるチャンバ内でのプラズマの生起が促進され安定プラズマ状態に移行する。安定プラズマ状態に移行するしたあとに、スイッチング素子がオフされると、第2の電力供給部は第1の電力供給部から実質的に切り離される。このとき、第2の電力供給部において少なくとも補助直流電源とコンデンサと抵抗とを含む閉回路が形成されている。そのため、補助直流電源が動作され続けていれば、コンデンサは該補助直流電源によって所定電圧、つまり補助直流電源の出力電圧とほぼ等しい電圧まで充電される。
【0017】
この構成によれば、プラズマ開始をスイッチング素子のターンオンのタイミングで決めることができるので、制御の自由度が増す。また、安定プラズマ状態に移行したあとには、第1の電力供給部及びチャンバを含む閉回路から第2の電力供給部が切り離されるため、安定プラズマ状態での動作の安定性が一層高くなる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る直流スパッタ装置用電源装置によれば、プラズマ着火時に短時間だけ高電圧をチャンバ内の電極対に印加するとともに、予め決まった着火に必要なエネルギ量に対応した電流を瞬間的にそれら電極間に供給することができる。それによって、電極である基板やターゲットを損傷してしまうような、アーク放電などの過剰な放電の発生を抑制しつつ、プラズマ放電が開始されるのに十分な電圧を印加し、確実にプラズマ着火を行うことができる。また、補助直流電源はコンデンサを充電する能力及び抵抗(第3の抵抗)で制限した着火後のグロー放電を維持させる能力さえあればよいので、比較的簡易な構成で済み、それによって装置コストを抑えるとともに装置を小形化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1の実施例である直流スパッタ装置用電源装置の構成図。
図2】第1の実施例の直流スパッタ装置用電源装置における動作を説明するためのタイミング図及び波形図。
図3】第1の実施例の直流スパッタ装置用電源装置における電流の流れを説明するための図。
図4】本発明の第2の実施例である直流スパッタ装置用電源装置の構成図。
図5】本発明の第1の実施例の変形例である直流スパッタ装置用電源装置の構成図。
図6】本発明の第2の実施例の変形例である直流スパッタ装置用電源装置の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の第1の実施例である直流スパッタ装置用電源装置について、添付図面を参照して説明する。
図1は本実施例の直流スパッタ装置用電源装置の構成図、図2は本実施例の直流スパッタ装置用電源装置における動作タイミング及び波形図、図3は本実施例の直流スパッタ装置用電源装置における電流の流れを説明するための図である。
【0021】
本電源装置の正極側電圧出力端7及び負極側電圧出力端8は、スパッタ装置のチャンバ10内に設置された陽極10a及び陰極10bにそれぞれ接続されている。即ち、陽極10a、陰極10bを含むチャンバ10内空間全体が本電源装置の負荷である。通常、陽極10aは被成膜対象である基板であり、陰極10bはスパッタされるターゲットである。
【0022】
本電源装置において、負極側電圧出力端8と正極側電圧出力端7との間には、順方向に接続されたダイオード3、リアクトル2、及び主直流電源1を含む直列回路が接続されている。主直流電源1の正極側出力は接地されているから、正極側電圧出力端7の電位は0Vであり、負極側電圧出力端8の電位はマイナスとなる。一例として、主直流電源1の出力電圧は650V、出力定格電力は5kWである。この主直流電源1を含む直列回路は、チャンバ10内にプラズマが発生したあとの定常動作時に該プラズマを維持するために該プラズマに電力を供給するための第1の電力供給部である。
【0023】
一方、負極側電圧出力端8と正極側電圧出力端7との間には、第2の電力供給部であるプラズマ着火回路4Aとして、上記第1の電力供給部と並列に、パワーMOSFET等のスイッチング素子41、第1の抵抗42、順方向に接続されたダイオード43、及びコンデンサ44を含む直列回路が接続され、さらに、そのコンデンサ44に対し並列に、第2の抵抗46と補助直流電源45との直列回路が接続されている。一例として、補助直流電源45の出力電圧は1500V、出力定格電流は数十mAである。
【0024】
スイッチング素子41は、制御部5からの指示に基づいてスイッチング素子駆動部6により生成される駆動信号によりオン・オフ制御される。また、主直流電源1や補助直流電源45はDC−DCコンバータなどであり、制御部5からの制御信号に応じて動作する。制御部5は後述する特徴的な動作を実施するために、CPUや制御用プログラムが格納されたメモリ(例えばフラッシュROM)などを備える。
なお、第1の抵抗42は若干の限流が目的であるので、数Ω程度の小さな抵抗値のものでよい。また、第2の抵抗46は着火開始時点でのプラズマを保持するための電流を流す役割とコンデンサ44の充電電流を制限する機能を有する。
【0025】
図1に加え、図2図3も参照しつつ、本実施例の直流スパッタ装置用電源装置を用いてスパッタ装置においてプラズマを生成する際の動作を説明する。
【0026】
初期状態はチャンバ10内でプラズマ放電(グロー放電)が生じていない状態である。スイッチング素子41がオフした状態で、制御部5は主直流電源1及び補助直流電源45を動作させる。このとき、スイッチング素子41はオフ状態であるために、プラズマ着火回路4Aは実質的に電圧出力端7、8から切り離されている。ただし、図3(a)に示すように、プラズマ着火回路4Aでは、補助直流電源45、第2の抵抗46、及びコンデンサ44を含む閉回路が形成されているため、補助直流電源45からこの閉回路に流れる電流i2によって、コンデンサ44はその両端電圧が補助直流電源45の出力電圧とほぼ等しい1500V程度になるまで充電される。
【0027】
チャンバ10内にプラズマガスが導入された状態で、制御部5が出力開始指示をスイッチング素子駆動部6に与えると、スイッチング素子駆動部6はスイッチング素子41のゲート端子の電圧をハイレベルに立ち上げる(図2(c)の時刻t1)。これにより、スイッチング素子41はターンオンするから、図3(b)に示すように、プラズマ着火回路4Aが電圧出力端7、8の間に接続される。上述したように、この直前の時点でコンデンサ44は補助直流電源45の出力電圧とほぼ同じ電圧に充電されているから、スイッチング素子41がターンオンすると、この高電圧が陽極10a−陰極10b間に印加される。この電圧の印加によってプラズマガスは電離し始めるが、その当初は電離により生成されたイオンや電子の密度は低いため、流れる電流はごく僅かである。そして、イオンや電子の密度が或る程度高くなると、コンデンサ44に蓄えられていたエネルギが短時間の間に放出され、コンデンサ44→チャンバ10→スイッチング素子41→第1の抵抗42→ダイオード43→コンデンサ44という経路で急峻に大きな電流i3が流れる(図2(c)の時刻t2の直後)。
【0028】
このときにコンデンサ44から放出されるエネルギの総量は該コンデンサ44のキャパシタンスと充電電圧に依存し、コンデンサ44のキャパシタンスはそれほど大きくないため、エネルギ総量も大きくはない。しかしながら、コンデンサ44に充電された1500V程度の高電圧から瞬間的にエネルギが放出されるために、チャンバ10内の陽極10aと陰極10bとの間には短時間だけ大きな電流が流れる(図2(a)参照)。それによって、チャンバ10内のプラズマガスの電離は促進され、プラズマが生起される。図2(a)に示すように、コンデンサ44からチャンバ10内に供給される電流はすぐに減少するが、スイッチング素子41がオン状態である間は、補助直流電源45による電圧が陽極10a−陰極10b間に印加されるため、プラズマを維持する電流が確保される。また、主直流電源1の電圧は当初、リアクトル2にエネルギを蓄積するために利用されるが、リアクトル2に十分なエネルギが蓄積されると、主直流電源1からの電流がプラズマが維持される。
【0029】
スイッチング素子41がターンオフするまでは、プラズマ着火回路4Aが電圧出力端7、8に接続されているが、ダイオード43によって、主直流電源1がコンデンサ44を充電する充電電流は流れない。そのため、主直流電源1から供給される電力はコンデンサ44の充電には利用されず、プラズマの維持に有効に利用されることになる。
そして、安定した着火が可能な時間が経過すると(時刻t4)、スイッチング素子41はターンオフされ、プラズマ着火回路4Aは電圧出力端7、8から切り離される。
【0030】
以上のようにして、本実施例の直流スパッタ装置用電源装置は、簡単な回路で以て着火時に陽極10aと陰極10bとの間に高電圧を印加し、確実にプラズマの生成を開始させることができる。また、その際に、過剰なアーク放電は生じにくいので、ターゲットや基板の損傷を回避することができる。
【0031】
図4は本発明の第2実施例である直流スパッタ装置用電源装置の構成図である。上記実施例と同じ構成要素には同じ符号を付している。
基本的には、上記第1実施例の構成と同じであるが、プラズマ着火回路4Bの構成が若干相違している。即ち、この実施例の電源装置では、スイッチング素子41、第1の抵抗42、ダイオード43、コンデンサ44の直列回路の中の第1の抵抗42、ダイオード43、及びコンデンサ44からなる直列回路に並列に、第2の抵抗46と補助直流電源45との直列回路が接続されている。また、第1の抵抗42、とダイオード43との直列回路には、第3の抵抗47が並列に接続されている。
【0032】
この第2実施例の電源装置を用いたスパッタ装置におけるプラズマ生成動作は上記第1実施例とほぼ同じである。異なるのは、スイッチング素子41がオフ状態であるときに、補助直流電源45によるコンデンサ44の充電電流が、第3の抵抗47を通して流れることである。上述したように、第1の抵抗42は放電時の限流が目的であるため、数Ω程度の小さい値の抵抗でよい。一方、第3の抵抗47は、主直流電源1によるコンデンサ44の充電電流を制限するものであるから、或る程度大きな値としたほうがよい。
【0033】
また、上記第1、第2の実施例の電源装置では、スイッチング素子41のオン・オフ動作により、着火用の第2の電力供給部をチャンバ10に接続したり切り離したりすることができるようになっているが、スイッチング素子41を省くことで第2の電力供給部が常にチャンバ10に接続されている状態としてもよい。図5は第1実施例の電源装置においてスイッチング素子41を省いた変形例の構成図、図6は第2実施例の電源装置においてスイッチング素子41を省いた変形例の構成図である。いずれも、スイッチング素子41を除いた以外は第1、第2実施例の構成と同じである。
【0034】
これら変形例による電源装置では、制御部5が補助直流電源45を起動し、補助直流電源45が動作し始めると、すぐにその出力電圧がチャンバ10の陽極10a−陰極10b間に印加され始める。ただし、補助直流電源45からの電流は、当初、コンデンサ44の充電に利用される。そして、コンデンサ44に十分なエネルギが蓄積され、チャンバ10内でプラズマガスの一部が電離されて大きな電流を流し得る状態になると、コンデンサ44の放電による急峻な電流がチャンバ10内に供給され、プラズマの生成が促進されることになる。安定プラズマ状態に移行したあとも、第2の電力供給部は第1の電力供給部やチャンバ10に接続された状態であるが、補助直流電源45の出力電圧は主直流電源1の出力電圧よりも高いため、コンデンサ44の充電には補助直流電源45が利用され、主直流電源1の出力電流はプラズマの維持に有効に利用される。
【0035】
なお、上記実施例はいずれも本発明の一例にすぎず、本発明の趣旨の範囲で適宜変形、修正、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは当然である。
【符号の説明】
【0036】
1…主直流電源
2…リアクトル
3…ダイオード
4A、4B…プラズマ着火回路
41…スイッチング素子
42、46、47…抵抗
43…ダイオード
44…コンデンサ
45…補助直流電源
5…制御部
6…スイッチング素子駆動部
7…正極側電圧出力端
8…負極側電圧出力端
10…チャンバ
10a…陽極
10b…陰極
図1
図2
図3
図4
図5
図6