(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-56612(P2016-56612A)
(43)【公開日】2016年4月21日
(54)【発明の名称】水平修復可能な建物の基礎構造
(51)【国際特許分類】
E02D 27/34 20060101AFI20160328BHJP
E02D 35/00 20060101ALI20160328BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20160328BHJP
【FI】
E02D27/34 Z
E02D35/00
E04G23/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-184618(P2014-184618)
(22)【出願日】2014年9月10日
(71)【出願人】
【識別番号】514230117
【氏名又は名称】住環境株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087491
【弁理士】
【氏名又は名称】久門 享
(74)【代理人】
【識別番号】100104271
【弁理士】
【氏名又は名称】久門 保子
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 健二
【テーマコード(参考)】
2D046
2E176
【Fターム(参考)】
2D046DA17
2E176AA07
2E176BB29
(57)【要約】
【課題】地震時の液状化や地盤沈下などで傾いたときでも、容易に水平修復できるようにした水平修復可能な建物の基礎構造を提供する。
【解決手段】地盤面下に形成された耐圧版1と当該耐圧版1の上に形成され建物5の地中梁2とから構成する。耐圧版1と地中梁2との間に絶縁材7を介在することにより、耐圧版1と地中梁2の両者を構造的に切り離す。耐圧版1の、地中梁2の底面部と接する位置にジャッキ設置用ピット8を形成する。ジャッキ設置用ピット8内に設置されたジャッキAによって耐圧版1と共に傾いた地中梁2を耐圧版1をジャッキアップの反力受けにして押し上げて水平に修復できるように構成する。ジャッキ設置用ピット8は、地中梁2の軸方向に間隔をおいて複数形成する。外壁4より飛び出したジャッキ用片持ち地中梁2aを作っての修復方法も同様である。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐圧版と当該耐圧版の上に形成され地中梁とからなる水平修復可能な建物の基礎構造において、前記耐圧版と地中梁は構造的に切り離して形成され、前記耐圧版の、前記地中梁の底面部と接する位置にジャッキ設置用ピットが形成され、かつ当該ジャッキ設置用ピット内に設置されたジャッキによって、耐圧版と共に傾いた地中梁を、前記耐圧版をジャッキアップの反力受けにして前記地中梁と一体の建物を押し上げることにより水平修復可能に構成されていることを特徴とする水平修復可能な建物の基礎構造。
【請求項2】
請求項1記載の水平修復可能な建物の基礎構造において、耐圧版と地中梁との間に絶縁材を介在することにより、耐圧版と地中梁が構造的にも物理的にも切り離されていることを特徴とする水平修復可能な建物の基礎構造。
【請求項3】
請求項1または2記載の水平修復可能な建物の基礎構造において、ジャッキ設置用ピットは、地中梁の軸方向に間隔をおいて複数形成されていることを特徴とする水平修復可能な建物の基礎構造。
【請求項4】
耐圧版と当該耐圧版の上に形成され地中梁とからなる水平修復可能な建物の基礎構造において、前記耐圧版と地中梁は構造的に切り離して形成され、前記建物の外壁より飛び出したジャッキ用片持ち地中梁が形成され、かつ当該ジャッキ用片持ち地中梁の下に設置されたジャッキによって、耐圧版と共に傾いた地中梁を、前記耐圧版をジャッキアップの反力受けにして前記地中梁と一体の建物を押し上げることにより水平修復可能に構成されていることを特徴とする水平修復可能な建物の基礎構造。
【請求項5】
請求項4記載の水平修復可能な建物の基礎構造において、耐圧版と地中梁との間に絶縁材を介在することにより、耐圧版と地中梁が構造的にも物理的にも切り離されていることを特徴とする水平修復可能な建物の基礎構造。
【請求項6】
請求項4または5記載の水平修復可能な建物の基礎構造において、ジャッキ用片持ち地中梁は、地中梁の軸方向に間隔をおいて複数形成されていることを特徴とする平修復可能な建物の基礎構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震時の液状化や不等地盤沈下などで傾いたときでも、容易に水平修復可能な建物の基礎構造に関し、主としてRC構造の2〜5階建て程度の低層階建物で支持杭までは必要としない建物の基礎に適用される。
【背景技術】
【0002】
RC構造の建物であっても、比較的安定した地盤の上に建てられる2〜5階程度の低層階建物の基礎にはRC構造の耐圧版を用いることが多くある。
【0003】
耐圧版は建物全体を支える「人口地盤」のようなもので、杭基礎に比べて施工が容易な上に工事費も安くて済む。
【0004】
この場合、耐圧版とその上に建つ建物の地中梁(布基礎含む)、さらに柱・梁・壁などの上部構造体はRC構造によって一体に構築されており、一般に独立基礎や布基礎の上に建つ建物より安定性に優れている。
【0005】
しかし、建設当初安定した地盤であっても、特に造成地などの場合にあっては、地震時の液状化や不等地盤沈下などによって、建物が耐圧版と共に傾くことがある。
【0006】
建物が傾くと居住者は物理的に支障をきたし、また精神的にも苦痛が生じる。また修復しないと傾きが進行し柱や壁などの構造体にきれつが発生してきわめて危険な状態に陥る場合もある。
【0007】
従来、地震時の液状化や地盤沈下などで傾いた建物を修復する方法として、(1)傾いた位置の耐圧版下の地盤中に薬液やグラウト等を注入し、注入材の注入・膨張圧によって建物の沈んだ部分を浮き上がらせる方法、(2)傾いた位置の耐圧版の下に油圧ジャッキを設置して建物全体をジャッキアップする方法、但しこの場合、ジャッキの反力受けが無いために建物のコーナーの外側2辺にそれぞれ杭を打ち、その杭の頭を梁で結ぶなどし、その梁を耐圧版の下で作り、その梁をジャッキの反力受けとする方法、(3)傾いた位置の耐圧版の下にアンダーピニング工法によって支持地盤まで連続する支持杭を施工する方法などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010-144503号公報
【特許文献2】特開2010-156186号公報
【特許文献3】特開2013-40439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、(1)の薬液やグラウト等の注入材を注入する方法は、注入材の注入量が多すぎたり注入速度が速すぎたりすると、建物が上がりすぎたり地中梁や柱等の構造体にキレツが発生する恐れがあり、注入管理が非常に面倒であった。
【0010】
なお、引用文献1,2にはべた基礎とその下の地盤との間にセメントミルク等の流動体を充填して沈下した部分を浮き上がらせる方法が開示されているが、同様の問題がある。
【0011】
また、近くに注入材を製造し注入するための装置を設置するためのスペースを必要とし、さらに適用可能な建物の規模に限界があり、RC構造の3階建て以上の建物には重すぎて利用できない等の課題があった。
【0012】
(2)のジャッキを用いてジャッキアップする方法は、ジャッキの反力受けを作るために杭打ちが必要となり、外壁と隣地境界の敷地に杭打機が入るゆとりがない場所では実施できない、また施工コストが嵩む等の課題があった。
【0013】
そして、(3)のアンダーピニング工法は、耐圧版の下に作業用ピットを形成し、その中で長さ1m程度の鋼管を、溶接によって順次継ぎ足しながら建物自体を反力受けに地盤中に押し込むという作業を繰り返して支持地盤に到達する杭を形成するため、作業が危険であり、またコストが大幅に嵩む等の課題があった。
【0014】
本発明は、以上の課題を解決するためになされたもので、地震時の液状化や地盤等で傾いた時でも、容易にかつ安価に水平修復できるようにした建物の基礎構造を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、地震時の液状化や不等地盤沈下などで傾いた建物であっても、水平修復を容易に行えるようにした水平修復可能な建物の基礎構造の発明であり、建物を支える人口地盤ともいえる耐圧版とその耐圧版の上に位置する建物の地中梁を構造的にも物理的にも切り離して形成し、前記耐圧版と、地中梁の底面部との間にジャッキ設置用ピットを形成し、当該ピット内に設置するジャッキによって、前記耐圧版をジャッキの反力受けにして、耐圧版と共に傾いた地中梁を含む上部構造体を押し上げて水平修復可能に構成されていることを特徴とするものである。
【0016】
耐圧版と当該耐圧版の上に形成された地中梁は、両者の間に土やゴムシート等の絶縁材を敷設することで構造的に切り離すことができる。また、ジャッキ設置用ピットは、地中梁の軸方向に適当な間隔をおいて複数設ける。特に、建物の各コーナ部(出隅部)などにおける柱などの近く等が適している。さらに、建物外周の地中梁の底部と接する位置に限らず、必要に応じて建物内側の地中梁の底部と接する位置に設けてもよい。
【0017】
構造計算上地中梁を本来の耐圧版のように一体化する必要があるときは地中梁上部に作られる床スラブで耐圧版の代わりをする。
【0018】
また、建物の外壁より飛び出したジャッキ用片持ち地中梁を形成し、かつ当該ジャッキ用片持ち地中梁の下にジャッキを設置して、耐圧版と共に傾いた地中梁を、耐圧版をジャッキアップの反力受けにして前記地中梁と一体の建物を押し上げるようにすることもできる。この方法によれば、ジャッキ設置用ピットが不要になる。なお、この場合、ジャッキ用片持ち地中梁は、地中梁の軸方向に間隔をおいて複数形成しておくのが望ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、地盤時の液状化や地盤沈下などで建物が傾いたとしても、耐圧版に形成されたジッキ設置用ピット内にジャッキを据え付け、当該耐圧版をジャッキの反力受けにして地中梁を含む上部構造体を押し上げることにより容易に水平修復することができる。
【0020】
また、耐圧版は、普段は地中梁を含む上部構造体を支えるという基礎本来の機能を有し、傾いた上部構造体をジャッキアップする際は、ジャッキの反力受けとしての機能を有するように構成されているため、きわめて合理的で経済的な建物の基礎を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】耐圧版とその上に建つRC構造の建物を示し、
図1(a)はその一部平面図、
図1(b)は縦断面図である。
【
図2】地震時の液状化などで傾いた
図1に図示するRC構造の建物の縦断面図の一部である。
【
図3】
図2に図示するRC構造の建物のピット内にジャッキを据え付けたときの一部縦断面図である。
【
図4】
図3に図示するRC構造の建物がピット内に据え付けたジャッキによって押し上げられて水平に修復されたときの一部縦断面図である。
【
図5】
図4に図示するRC構造の建物の耐圧版の上に充填材を充填することにより耐圧版を水平に嵩上げしたときの一部縦断面図である。
【
図6】
図2に図示する建物の水平修復が完了した後の状態を示す一部縦断面図である。
【
図7】地震時の液状化などで傾いた
図1に図示するRC構造の建物の縦断面図の一部である。
図2と違うのは図の左のピット側でなく、図の右の外壁より飛び出したジャッキ用片持ち地中梁側である。
【
図8】
図2に図示するRC構造の建物の外壁より飛び出したジャッキ用片持ち地中梁側にジャッキを据え付けたときの一部縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1(a),(b)は、本発明の実施形態を示し、図において、地盤面下の所定深さの位置に耐圧版1が主にRC構造によって構築され、当該耐圧版1の上に地中梁2、さらに地中梁2の上に柱3や壁4等といった建物5の上部構造体がRC構造によって一体に構築されている。
【0023】
耐圧版1は、建物5の建築面積よりやや大きい面積の平版状に構築され、その周縁部は地中梁2の外側に所定幅はみ出している。また、耐圧版1は地中梁2と構造的に切り離して構築されており、耐圧版1と各地中梁2との間には耐圧版1と地中梁2を構造的に切り離すために絶縁材7が地中梁下に介在されている。なお、この場合の絶縁材7として土やゴムシート等が敷設されている。
【0024】
また、耐圧版1には地中梁2の底面部と接する位置にジャッキ設置用ピット(以下「ピット」)8がジャッキが入る所定深さに形成されている。ピット8は、地中梁2の軸方向に適当な間隔をおいて適切な位置に設けられ、例えば、建物5の各コーナ部(出墨部)などにおける柱3の近くに形成されている。
【0025】
また、ピット8は、平面に見て地中梁2の軸直角方に長辺を有する矩形状に形成され、その一部が地中梁2の外側にはみ出して、ピット8内にジャッキAを挿入して据え付けるための開口部8aになっている。開口部8aには防水を施したハッチ8cが開閉自在に取り付けられている。
【0026】
このように形成されたジャッキ設置用ピット8は、普段は地盤面下に埋設されている。
【0027】
なお、ピット8の一部を地中梁2の内側にはみ出させて、建物5の室内側に開口部8aを設けてもよい。 また、ピット8の側壁部と底部は厚く形成することにより強度的に耐圧版と一体になるように補強され、内周は地下水が浸入しないように防水処理が施され、さらに底部にはピット8内に流れ込んだ雨水などを排水するための水抜き穴8bが形成されている。
【0028】
建物の周辺は排水管や配管などが通るのを邪魔しないために地中梁は建物外壁までで止めたいところであるが、支障が無い場合は梁の高さの下端を上げて外壁より突き出させることにより、その外壁より飛び出した背丈(梁成)の低いジャッキ用片持ち地中梁2aと前記建物5の建築面積よりやや大きい面積の平版状に構築された耐圧版9との間にジャッキBの入る隙間を作ることによってピット8は作らない方法もある。
【0029】
また、地中梁2の下端部を上げて図示するような背丈の低いジャッキ用片持ち地中梁2aを形成してジャッキ用片持ち地中梁2aと耐圧版9との間にジャッキBの入る隙間を作ることにより、その部分の耐圧版9を水平に形成することができる。
【0030】
さらに、地中梁2の下端部を上げて図示するようなジャッキ用片持ち地中梁2aを形成し、かつその部分の耐圧版9を下げてジャッキBの入る隙間を作ることにより、ジャッキ用片持ち地中梁2aの上り量と耐圧版9の下がり量を小さくすることができる。
【0031】
また、ジャッキ用片持ち地中梁2aを地中梁2と同じ背丈(梁成)に形成し、かつその部分の耐圧版9を前記ピット8の低さまで下げれば外壁より飛び出したジャッキ用片持ち地中梁2aの背丈は変える必要がなく、ジャッキ用片持ち地中梁2aの施工が容易になる。
【0032】
このような構成において、地震時の液状化や地盤沈下などで傾いた建物5を水平に修復する方法について説明する(
図2〜6参照)。
【0033】
(1).最初に、沈下した側の建物5に接する部分を耐圧版1まで地盤を掘り起こしてピット8を地表に露出させる。そして、ハッチ8cを開け、開口部8aよりピット8内にジャッキAを入れ込み、地中梁2の真下に位置するように据え付ける(
図3参照)。
【0034】
(2).ジャッキAの据え付けが完了したら、次に、ジャッキAを作動させて地中梁2より上を水平になるまでジャッキアップする。
【0035】
(3).次に、地中梁2より上の部分をジャッキアップしたことで生じた耐圧版1と地中梁2間の間隙を埋めるべく、耐圧版1の上の絶縁材7の上と地中梁下の間に無収縮モルタル等の充填材10を充填する。
【0036】
(4).次に、無収縮モルタル等の充填材10の強度が出たのを確認しジャッキAを緩めてジャッキAを取り出す。その後、ハッチ8cを閉め、耐圧版1上部を元の状態に埋め戻す。これで建物5を水平に修復する作業は完了する(
図6参照)。
【0037】
尚、ジャッキアップした時に絶縁材7を取り除いてから耐圧版1と地中梁2下の間に無収縮モルタル等の充填材10を入れることもある。その場合は無収縮モルタル等の充填材10の上に絶縁材7を設置する。その場合はジャッキアップは絶縁材の圧縮による沈み込みを考慮して水平よりさらに微小上げることもある。
【0038】
ピット8の方法でなく外壁より飛び出した背丈の低い地中梁2aと前記建物5の建築面積よりやや大きい面積の平版状に構築された耐圧版1との間にジャッキBの入る隙間を作ることによって行う場合も切土12、ジャッキ設置、ジャッキアップ、無収縮モルタル等の充填材10施工、ジャッキ撤去、埋め戻しなど同じ手順である。
【0039】
なお、実施形態では、耐圧版とその上に位置する地中梁とから構成され、主としてRC構造の建物の基礎を例に説明したが、べた基礎とその上に位置する布基礎とから構成される木造建物の基礎にも適用可能なことはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、地震時の液状化や不等地盤沈下などで建物が傾いても容易に水平に修復することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 耐圧版
2 地中梁
2a 外壁より飛び出したジャッキ用片持ち地中梁
3 柱
4 壁
5 建物
6 地盤
7 絶縁材
8 ピット(ジャッキ設置用ピット、耐圧版の一部)
8a 開口部
8b 水抜き穴
8c ハッチ
9 下がったジャッキ受け耐圧版の一部
10 充填材
11 床スラブ
12 切土
A ピットのジャッキ設置位置に設置されたジャッキ
B 下がった耐圧版のジャッキ設置位置に設置されたジャッキ