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特開2016-58523強誘電体キャパシタおよび電子デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-58523(P2016-58523A)
(43)【公開日】2016年4月21日
(54)【発明の名称】強誘電体キャパシタおよび電子デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/33 20060101AFI20160328BHJP
   H01L 41/257 20130101ALI20160328BHJP
   H01L 41/113 20060101ALI20160328BHJP
   H01L 41/187 20060101ALI20160328BHJP
   H01L 41/29 20130101ALI20160328BHJP
   H01L 41/047 20060101ALI20160328BHJP
   H01L 37/02 20060101ALI20160328BHJP
   C01G 33/00 20060101ALI20160328BHJP
   C01G 35/00 20060101ALI20160328BHJP
【FI】
   H01G4/06 102
   H01L41/257
   H01L41/113
   H01L41/187
   H01L41/29
   H01L41/047
   H01L37/02
   C01G33/00 A
   C01G35/00 A
   C01G35/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-183184(P2014-183184)
(22)【出願日】2014年9月9日
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】長田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】北村 健二
【テーマコード(参考)】
4G048
5E082
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AC01
4G048AC02
4G048AD01
4G048AD07
5E082FG03
5E082FG26
5E082FG27
5E082PP10
(57)【要約】      (修正有)
【課題】自然エネルギーにより発生する電荷を蓄積可能な強誘電体キャパシタ及びそれを用いた電子デバイスを提供する。
【解決手段】強誘電体キャパシタ100は、分極の方向が制御され、電荷蓄積領域110を有する強誘電体単結晶120であって、電荷蓄積領域110は、強誘電体単結晶120の表面の少なくとも一部の領域である、強誘電体単結晶120と、電荷蓄積領域110の周りに位置する金属層130と、少なくとも強誘電体単結晶120と金属層130との間に位置する誘電体層160とを備える。誘電体層160のバンドギャップは、強誘電体単結晶120のバンドギャップよりも大きく、強誘電体単結晶120に基づく電荷は、電荷蓄積領域110上に閉じ込められ、蓄積される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分極の方向が制御され、電荷蓄積領域を有する強誘電体単結晶であって、前記電荷蓄積領域は、前記強誘電体単結晶の表面の少なくとも一部の領域である、強誘電体単結晶と、
前記電荷蓄積領域の周りに位置する金属層と、
少なくとも前記強誘電体単結晶と前記金属層との間に位置する誘電体層と
を備え、
前記誘電体層のバンドギャップは、前記強誘電体単結晶のバンドギャップよりも大きく、
前記強誘電体単結晶に基づく電荷は、前記電荷蓄積領域上に閉じ込められ、蓄積される、強誘電体キャパシタ。
【請求項2】
前記強誘電体単結晶は、ニオブ酸リチウム単結晶またはタンタル酸リチウム単結晶である、請求項1に記載の強誘電体キャパシタ。
【請求項3】
前記金属層は、Al、CrおよびAuからなる群から選択される金属である、請求項3に記載の強誘電体キャパシタ。
【請求項4】
前記誘電体層および金属層は、前記電荷蓄積領域を包囲するように位置する、請求項1に記載の強誘電体キャパシタ。
【請求項5】
前記誘電体層は、前記強誘電体単結晶と前記金属層との間に加えて、前記電荷蓄積領域上に位置する、請求項1に記載の強誘電体キャパシタ。
【請求項6】
前記誘電体層は、SiO、AlおよびHfOからなる群から選択される誘電体材料である、請求項1に記載の強誘電体キャパシタ。
【請求項7】
前記誘電体層の厚さは、5nm以上1μm以下である、請求項1に記載の強誘電体キャパシタ。
【請求項8】
前記誘電体層は、3以上の比誘電率を有し、かつ、5nm以上1μm以下の範囲の厚さを有する、請求項5に記載の強誘電体キャパシタ。
【請求項9】
前記誘電体層は、3.5以上の比誘電率を有し、かつ、5nm以上200μm以下の範囲の厚さを有する、請求項8に記載の強誘電体キャパシタ。
【請求項10】
前記電荷は、前記強誘電体単結晶の自発分極により誘起された電荷、前記強誘電体単結晶の圧電効果により誘起された電荷、または、前記強誘電体単結晶の焦電効果により誘起された電荷である、請求項1に記載の強誘電体キャパシタ。
【請求項11】
前記電荷蓄積領域の直径は、1.5μm以上55μm以下の範囲である、請求項1に記載の強誘電体キャパシタ。
【請求項12】
前記強誘電体単結晶は、単一分極構造となるように分極の方向が制御されており、
前記電荷蓄積領域に対応する前記強誘電体単結晶の表面内部の極性は、+極性または−極性のいずれかである、請求項1に記載の強誘電体キャパシタ。
【請求項13】
前記強誘電体単結晶は、分極反転構造となるように分極の方向が制御されており、
前記電荷蓄積領域に対応する前記強誘電体単結晶の表面内部の極性は、+極性または−極性のいずれかである、請求項1に記載の強誘電体キャパシタ。
【請求項14】
強誘電体キャパシタと半導体素子とを備えた電子デバイスであって、
前記強誘電体キャパシタは、請求項1〜13のいずれかに記載の強誘電体キャパシタであり、
前記半導体素子は、前記電荷蓄積領域と前記金属層との間に接続されており、前記電荷蓄積領域上に蓄積された電荷により動作するか、または、前記電荷蓄積領域上に蓄積された電荷の電荷量の変化を検出する、電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強誘電体キャパシタおよび電子デバイスに関し、詳細には、自然エネルギーにより発生する電荷を蓄積する強誘電体キャパシタおよびそれを用いた電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自然エネルギーを利用した環境発電(エナジーハーベスト)が注目されている。このような環境発電技術として、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いたキャパシタが知られている(例えば、非特許文献1および2を参照)。非特許文献1および2によれば、PZTバルク材料で作製されたキャパシタは、焦電効果を利用して発生した電荷を蓄積できることが開示されている。しかしながら、材料に鉛を含んでおり、自然環境への影響が懸念され、鉛フリーの材料の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】眞岩宏司ら,「Pb(Zr,Ti)O3セラミックスとその他材料からのエナジーハーベスト」,16p−B3−14,第59回応用物理学関係連合講演会,2012年3月
【非特許文献2】眞岩宏司,「強誘電体材料の焦電エナジーハーベスティングと電気熱量効果」、17p−F5−5,第59回応用物理学関係連合講演会,2012年3月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上より、本発明の課題は、自然エネルギーにより発生する電荷を蓄積する強誘電体キャパシタ、および、それを用いた電子デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による強誘電体キャパシタは、分極の方向が制御され、電荷蓄積領域を有する強誘電体単結晶であって、前記電荷蓄積領域は、前記強誘電体単結晶の表面の少なくとも一部の領域である、強誘電体単結晶と、前記電荷蓄積領域の周りに位置する金属層と、少なくとも前記強誘電体単結晶と前記金属層との間に位置する誘電体層とを備え、前記誘電体層のバンドギャップは、前記強誘電体単結晶のバンドギャップよりも大きく、前記強誘電体単結晶に基づく電荷は、前記電荷蓄積領域上に閉じ込められ、蓄積され、これにより上記課題を解決する。
前記強誘電体単結晶は、ニオブ酸リチウム単結晶またはタンタル酸リチウム単結晶であってもよい。
前記金属層は、Al、CrおよびAuからなる群から選択される金属であってもよい。
前記誘電体層および金属層は、前記電荷蓄積領域を包囲するように位置してもよい。
前記誘電体層は、前記強誘電体単結晶と前記金属層との間に加えて、前記電荷蓄積領域上に位置してもよい。
前記誘電体層は、SiO、AlおよびHfOからなる群から選択される誘電体材料であってもよい。
前記誘電体層の厚さは、5nm以上1μm以下であってもよい。
前記誘電体層は、3以上の比誘電率を有し、かつ、5nm以上1μm以下の範囲の厚さを有してもよい。
前記誘電体層は、3.5以上の比誘電率を有し、かつ、5nm以上200μm以下の範囲の厚さを有してもよい。
前記電荷は、前記強誘電体単結晶の自発分極により誘起された電荷、前記強誘電体単結晶の圧電効果により誘起された電荷、または、前記強誘電体単結晶の焦電効果により誘起された電荷であってもよい。
前記電荷蓄積領域の直径は、1.5μm以上55μm以下の範囲であってもよい。
前記強誘電体単結晶は、単一分極構造となるように分極の方向が制御されており、前記電荷蓄積領域に対応する前記強誘電体単結晶の表面内部の極性は、+極性または−極性のいずれかであってもよい。
前記強誘電体単結晶は、分極反転構造となるように分極の方向が制御されており、前記電荷蓄積領域に対応する前記強誘電体単結晶の表面内部の極性は、+極性または−極性のいずれかであってもよい。
本発明による強誘電体キャパシタと半導体素子とを備えた電子デバイスは、前記強誘電体キャパシタが上述の強誘電体キャパシタであり、前記半導体素子は、前記電荷蓄積領域と前記金属層との間に接続されており、前記電荷蓄積領域上に蓄積された電荷により動作するか、または、前記電荷蓄積領域上に蓄積された電荷の電荷量の変化を検出し、これにより上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0006】
本発明による強誘電体キャパシタは、強誘電体単結晶と金属層との間に強誘電体単結晶のバンドギャップよりも大きなバンドギャップを有する誘電体層が位置するので、フェルミ準位が強誘電体単結晶のバンド内に位置するように制御され、十分な障壁が形成される。その結果、電荷蓄積領域上に電荷を閉じ込め、蓄積することができる。また閉じ込め/蓄積される電荷は、強誘電体単結晶の自発分極、焦電効果または圧電効果に基づく、自然エネルギーにより発生する電荷である。これにより、本発明の強誘電体キャパシタは、自然エネルギーを利用した電源として機能し得る。また、本発明の強誘電体キャパシタは、サイズに制限がないので、ナノスケールからマイクロスケールサイズの超小型電源となり、電子デバイスのさらなる小型化を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の強誘電体キャパシタの構造を示す模式図
図2】本発明の強誘電体キャパシタにおける強誘電体単結晶と誘電体層と金属層とのバンド構造を示す模式図
図3】本発明の別の強誘電体キャパシタの断面図を示す模式図
図4】本発明の強誘電体キャパシタにおける電荷蓄積領域と金属層との種々のパターンを示す図
図5】本発明の強誘電体キャパシタが圧電効果により表面電荷を蓄積する様子を示す図
図6】本発明の強誘電体キャパシタが焦電効果により表面電荷を蓄積する様子を示す図
図7】本発明の強誘電体キャパシタを用いた電子デバイスを示す模式図
図8】比較例1の強誘電体キャパシタを製造するプロセスを示す図
図9】実施例3の強誘電体キャパシタを製造するプロセスを示す図
図10】比較例1の強誘電体キャパシタの形状像と電位像とを示す図
図11】比較例2の強誘電体キャパシタの形状像と電位像とを示す図
図12】実施例3の強誘電体キャパシタの形状像と電位像とを示す図
図13】実施例4の強誘電体キャパシタの形状像と電位像とを示す図
図14】実施例5の強誘電体キャパシタの形状像と電位像とを示す図
図15】比較例6の強誘電体キャパシタの形状像と電位像とを示す図
図16】実施例7の強誘電体キャパシタの形状像と電位像とを示す図
図17】実施例8の強誘電体キャパシタの形状像と電位像とを示す図
図18】参考例9の強誘電体キャパシタの形状像と電位像とを示す図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。
【0009】
図1は、本発明の強誘電体キャパシタの構造を示す模式図である。
【0010】
図1(A)は、本発明の強誘電体キャパシタの上面図であり、図1(B)および(C)は、本発明の強誘電体キャパシタの断面図である。
【0011】
本発明の強誘電体キャパシタ100は、分極の方向が制御され、電荷蓄積領域110を有する強誘電体単結晶120と、電荷蓄積領域110の周りに位置する金属層130と、少なくとも誘電体単結晶120と金属層130との間に位置する誘電体層160とを備える。電荷蓄積領域110は、強誘電体単結晶120の表面140の一部の領域である。本発明の強誘電体キャパシタ100において、誘電体層160のバンドギャップは、強誘電体単結晶120のそれよりも大きい。
【0012】
本発明の強誘電体キャパシタ100は、このような構成により、強誘電体単結晶120に由来する分極電荷を遮蔽するべく強誘電体キャパシタ100外部より集まる電荷150(すなわち、強誘電体単結晶120の自発分極により誘起された電荷)を、電荷蓄積領域110上に閉じ込め、蓄積できる。なお、以降では、分かりやすさのため、電荷蓄積領域110上に蓄積される電荷150を表面電荷150と呼ぶ。
【0013】
強誘電体単結晶120は、特に材料に制限がないが、環境に優しい材料から構成されているものがよく、分極の方向を制御しやすい一軸性の強誘電体単結晶が好ましい。より具体的には、強誘電体単結晶120は、好ましくは、ニオブ酸リチウム単結晶またはタンタル酸リチウム単結晶である。これらの材料は、結晶のZ方位に沿った一軸性の分極を有しており、その分極の方向を制御する技術が確立されている。また、これらの材料は、優れた圧電効果、焦電効果、電気光学効果、非線形光学効果を有しており、これらにより電荷蓄積領域110上により効率的に表面電荷150を蓄積できる。中でも、強誘電体単結晶120は、ニオブ酸リチウム単結晶が好ましい。ニオブ酸リチウム単結晶は、加工性に優れており、高品質な強誘電体キャパシタを提供できる。
【0014】
なお、本明細書において、用語「ニオブ酸リチウム単結晶(LN単結晶)」とは、コングルエント組成のLN単結晶(CLN)、定比組成のLN単結晶(SLN)、および、これらにドーパントを添加したLN単結晶を意図する。同様に、本明細書において、用語「タンタル酸リチウム単結晶(LT単結晶)」とは、コングルエント組成のLT単結晶(CLT)、定比組成のLT単結晶(SLT)、および、これらにドーパントを添加したLT単結晶を意図する。ドーパントは、例えば、Mg、Ca、Sr、Ba、Mn、Fe、Tb等であり、特性改善に適宜選択される。例えば、Mg、Ca、Sr、Ba等は、LNあるいはLTの耐光損傷性を向上させる。Mn、Fe、Tb等は、LNあるいはLTのフォトリフラクティブ効果を増大させる。
【0015】
強誘電体単結晶120の厚さは、特に制限がないが、1μm以上10mm以下が好ましい。この範囲であれば、取扱いが簡便であるとともに、後述する圧電効果あるいは焦電効果によって分極電荷を生じやすいので、より多くの表面電荷を蓄積できる。
【0016】
図1(B)は、図1(A)の強誘電体キャパシタ100の点線部分の断面図を示す。図1(B)中の矢印は分極の向きを示す。図1(B)では、強誘電体単結晶120が単一分極構造を有している。
【0017】
詳細には、図1(B)では、分極の方向がすべて電荷蓄積領域110の表面に対して実質的に垂直な方向であり、分極の向きが強誘電体単結晶120の下から上へとなるように制御されており、電荷蓄積領域110に対応する強誘電体単結晶120の表面内部の極性が+極性である例を示す。この場合、表面電荷150として、+極性を遮蔽するだけのマイナスの電荷が蓄積される。図示しないが、電荷蓄積領域110として、図1(B)の裏面である−極性の表面を使い、表面電荷150としてプラスの電荷を蓄積してもよい。なお、実質的に垂直とは、すべての分極の向きが完全に垂直である必要はないが、いわゆるZカット基板として利用できる程度であればよいことを意味する。
【0018】
図1(C)は、図1(B)とは別の強誘電体キャパシタの断面図を示す。ここでも、図1(C)中の矢印は分極の向きを示す。図1(C)では、強誘電体単結晶120が分極反転構造を有している。
【0019】
詳細には、図1(C)では、分極の方向がすべて電荷蓄積領域110の表面に対して実質的に垂直な方向であり、電荷蓄積領域110の分極の向きと、それ以外の領域の分極の向きとが反転するように制御されており、電荷蓄積領域110に対応する強誘電体単結晶120の表面内部の極性が−極性である例を示す。この場合、表面電荷150として、−極性を遮蔽するだけのプラスの電荷が蓄積される。図示しないが、電荷蓄積領域110の表面として、図1(C)の裏面である+極性の表面を使い、表面電荷150としてマイナスの電荷を蓄積してもよい。
【0020】
図1(B)および図1(C)に示すように、本発明の強誘電体キャパシタ100において、少なくとも電荷蓄積領域110の分極の方向は、電荷蓄積領域110の表面に対して実質的に垂直な方向となるように制御されていることが好ましい。これにより、強誘電体単結晶の自発分極、圧電効果、および、焦電効果により、より効率的に電荷蓄積領域110に対応する強誘電体単結晶120の表面内部に電荷(分極電荷とも呼ぶ)が発生する。その結果、本発明の強誘電体キャパシタ100は、これら分極電荷を遮蔽するだけの表面電荷150を有効に蓄積することができる。
【0021】
図2は、本発明の強誘電体キャパシタにおける強誘電体単結晶と誘電体層と金属層とのバンド構造を示す模式図である。
【0022】
図2(A)は、強誘電体単結晶と金属層とのバンド構造を示す模式図であり、図2(B)は、強誘電体単結晶と誘電体層と金属層とのバンド構造を示す模式図である。
【0023】
図2(A)では例示として強誘電体単結晶がLN単結晶である場合を示す。図2(A)によれば、金属層としてCrを選択した場合、LN単結晶とCrとを接触させると、p型ショットキー接合が形成される。この結果、LN単結晶とCrとの間にホールのキャリアパスが形成されないので、表面電荷150(図1)は中和されず、電荷蓄積領域110(図1)上に閉じ込められる。
【0024】
しかしながら、金属層としてAlを選択した場合、LN単結晶とAlとを接触させると、p型オーミック接合が形成される。この結果、LN単結晶とAlとの間にホールのキャリアパスが形成されるので、表面電荷150が中和され、電荷蓄積領域110上から消失する。
【0025】
このように、強誘電体単結晶と金属層とを直接接触させると、強誘電体単結晶と金属層との種類によって接合状態が変化するので、表面電荷を蓄積するには、金属層と強誘電体単結晶との組み合わせを適宜選択する必要があり、強誘電体キャパシタの設計を煩雑にする。
【0026】
一方、図2(B)に示すように、強誘電体単結晶120と金属層130との間に強誘電体単結晶120のバンドギャップよりも大きなバンドギャップを有する誘電体層160が位置することにより、フェルミ準位(Ef)を強誘電体単結晶120のバンド内に位置するように制御することができる。これにより、強誘電体単結晶120と金属層130との間に十分な障壁が形成されるので、キャリアパスが形成されることはなく、電荷蓄積領域110上に表面電荷150を閉じ込め、蓄積することができる。
【0027】
このような誘電体層160の材料は、そのバンドギャップが強誘電体単結晶120のそれよりも大きければ、図2(B)に示すバンドアライメントが形成されるため、特に制限はなく、いわゆる誘電体材料から構成されていればよい。本明細書において、誘電体とは、少なくとも10−3(Ωcm)以下の固有抵抗値を有する絶縁性を備えており、かつ、少なくとも3以上の比誘電率を有する誘電性を備えている材料を意図する。表1および表2に、種々の強誘電体および種々の誘電体のバンドギャップおよび比誘電率をまとめて示す。
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
【0030】
当業者であれば、例えば、表1および表2を参照して、適宜、強誘電体単結晶120および誘電体層160の材料を設計可能であるが、誘電体層160は、好ましくは、SiO、AlおよびHfOからなる群から選択される誘電体材料からなる。これらの材料は、誘電体であることが分かっており、いわゆるワイドバンドギャップ材料であり、任意の強誘電体単結晶120と組み合わせても、図2(B)に示すバンドアライメントが形成されるので、強誘電体キャパシタの設計が容易である。また、これらの誘電体材料であれば、成膜技術が確立しており、高品質かつ厚さを制御した誘電体層160を形成できる。
【0031】
誘電体層160の厚さは特に制限がないが、5nm以上1μm以下が好ましい。上述の厚さに制御すれば、強誘電体単結晶120と誘電体層160と金属層130との間に望ましいバンドアライメントが形成され得るので、表面電荷の高い閉じ込め効果が期待できる。
【0032】
金属層130の材料は特に制限されないが、Al、CrおよびAuからなる群から選択される金属が好ましい。これらの材料は、入手が容易であるとともに、金属層130の成膜技術が確立しており、高品質な金属層130を形成できる。
【0033】
金属層130の厚さは、特に制限がないが、10nm以上1μm以下が好ましい。上述の厚さに制御すれば、強誘電体単結晶120と誘電体層160と金属層130との間に望ましいバンドアライメントが形成され得るので、表面電荷の閉じ込め効果が向上し得る。
【0034】
図3は、本発明の別の強誘電体キャパシタの断面図を示す模式図である。
【0035】
図3(A)の強誘電体キャパシタ100は、誘電体層160が、強誘電体単結晶120と金属層130との間に加えて、電荷蓄積領域110上にも位置する点が異なる以外は、図1(B)のそれと同じである。このような構成にすることにより、後述する製造プロセスにおいて、誘電体層を形成後、電荷蓄積領域110上に位置する誘電体層をエッチング等により除去する必要がないので、製造工程を省略でき、有利である。なお、図3(A)では、誘電体層160は、強誘電体単結晶120と金属層130との間、および、電荷蓄積領域110上に位置するが、強誘電体単結晶120全面に位置していてもよい。
【0036】
図3(B)は、図3(A)の強誘電体キャパシタ100の電荷蓄積領域110における強誘電体単結晶120と誘電体層160との接合部の様子を示す模式図である。図3(B)によれば、強誘電体単結晶120上に誘電体層160が位置する場合、強誘電体単結晶120および誘電体層160のコンデンサが直接に接続した状態である理解できる。
【0037】
例えば、強誘電体単結晶120の比誘電率をε、厚さをd、電気容量をCとし、誘電体層160の比誘電率をε、厚さをd、電気容量をCとし、電荷蓄積領域110の面積をSとし、真空の誘電率をεとすると、以下の関係が成り立つ。
=εε×(S/d
=εε×(S/d
これらから、合成電気容量Cは、次のように求められる。
C=C×C/(C+C
=εεεS/(ε+ε)・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
【0038】
(1)式において、強誘電体単結晶120の比誘電率ε、厚さd、および、電荷蓄積領域110の面積Sが一定である場合、誘電体層160は、比誘電率εが大きな誘電体材料からなり、厚さdは小さい方が、合成静電容量Cは大きくなることが分かる。合成静電容量Cを大きければ大きいほど、より大きな表面電荷150を蓄積できる。
【0039】
このような観点から、図3(A)のように、誘電体層160が、強誘電体単結晶120と金属層130との間に加えて、電荷蓄積領域110上にも位置する場合には、誘電体層160は、高誘電率を有し、かつ、その厚さは薄い方が好ましい。例示的には、誘電体層160は、3以上の比誘電率を有し、かつ、5nm以上1μm以下の範囲の厚さを有すれば、表面電荷150を蓄積できる。また、実施例に示すように、強誘電体単結晶120がLN単結晶の誘電率(85)と同様の誘電率を有する材料である場合は、誘電体層160は、3.5以上の比誘電率を有し、かつ、5nm以上200nm以下の範囲の厚さを有すれば、有効に表面電荷を蓄積できる。
【0040】
以降では、簡単のため、誘電体層160は、強誘電体単結晶120と金属層130との間にのみ位置するものとして説明する。
【0041】
図4は、本発明の強誘電体キャパシタにおける電荷蓄積領域と金属層との種々のパターンを示す図である。
【0042】
図4では、強誘電体単結晶120と金属層130との間に金属層130と同じ形状の誘電体層160(図示せず)が位置することに留意されたい。図1では、電荷蓄積領域110が円形であり、金属層130および誘電体層160が電荷蓄積領域110を包囲するように位置する例を示したが、金属層130および誘電体層160が、電荷蓄積領域110の周りに位置していればよく、これに限らない。例えば、図4(A)に示すように、電荷蓄積領域110が円形であり、その周りに位置する金属層130および誘電体層160は、一部が欠けていてもよい。しかしながら、金属層130および誘電体層160が電荷蓄積領域110を完全に包囲する方が、表面電荷の閉じ込め効果が向上するため好ましい。
【0043】
また、図4(B)に示すように、電荷蓄積領域110が矩形であってもよい。さらに、図4(C)に示すように、電荷蓄積領域110がドット状に複数あってもよいし、図4(D)に示すように、電荷蓄積領域110が線状に複数あってもよい。当然ながら、電荷蓄積領域と金属層および誘電体層とのパターンはこれらの組合せであってもよい。電荷蓄積領域と金属層および誘電体層との種々のパターンに、単一分域構造あるいは分極反転構造を組み合わせてもよい。
【0044】
電荷蓄積領域110の直径Dは、好ましくは、1.5μm以上55μm以下の範囲である。直径Dが1.5μm未満であれば、電荷蓄積領域110が小さすぎるため、十分な表面電荷を蓄積できない場合がある。直径Dが55μmを超えると、電荷密度が小さくなり、非効率になり得る。なお、電荷蓄積領域110が矩形の場合には、長手方向の長さを直径Dとみなせばよい。
【0045】
図5は、本発明の強誘電体キャパシタが圧電効果により表面電荷を蓄積する様子を示す図である。
【0046】
図5(A)は、強誘電体単結晶120の初期状態を示しており、強誘電体単結晶120の分極の方向は、電荷蓄積領域110の表面に対して実質垂直な方向であり、分極の向きがすべての強誘電体単結晶120の下から上へとなるように制御されており、電荷蓄積領域110に対応する強誘電体単結晶120の表面内部の極性が+極性である例を示す。図5(A)では、本発明の強誘電体キャパシタ100は、強誘電体単結晶120の自発分極による分極電荷を遮蔽する表面電荷150を蓄積し得る。
【0047】
図5(B)は、強誘電体単結晶120を押し縮めた場合を示す。上述してきたように、本発明の強誘電体キャパシタ100は、自発分極に基づく表面電荷に加えて、圧電効果に基づく表面電荷(すなわち、強誘電体単結晶120の圧電効果により誘起された電荷)を蓄積することができる。
【0048】
詳細には、図5(B)に示すように、強誘電体単結晶120に圧力410を印加する(すなわち、強誘電体単結晶120を押し縮めたり、引っ張ったりする)と、強誘電体単結晶120内部では特定の方向に電荷が偏り、図5(A)と比較して、強誘電体単結晶120の上面側により多くのプラスの電荷が、下面側により多くのマイナスの電荷が誘起される。これにより、本発明の強誘電体キャパシタ100は、これら誘起されたプラスの電荷を遮蔽するより多くの表面電荷420を電荷蓄積領域110上に蓄積することができる。すなわち、本発明の強誘電体キャパシタ100は、圧電効果により、電荷蓄積領域110上に蓄積する表面電荷を増大することができる。
【0049】
図6は、本発明の強誘電体キャパシタが焦電効果により表面電荷を蓄積する様子を示す図である。
【0050】
図6(A)は、強誘電体単結晶120の初期状態を示しており、強誘電体単結晶120の分極の方向は、電荷蓄積領域110の表面に対して実質垂直な方向であり、分極の向きがすべての強誘電体単結晶120の下から上へとなるように制御されており、電荷蓄積領域110に対応する強誘電体単結晶120の表面内部の極性が+極性である例を示す。図6(A)では、本発明の強誘電体キャパシタ100は、強誘電体単結晶120の自発分極による分極電荷を遮蔽する表面電荷150を蓄積し得る。
【0051】
図6(B)は、強誘電体単結晶120を加熱した場合を示す。上述してきたように、本発明の強誘電体キャパシタ100は、自発分極に基づく表面電荷に加えて、焦電効果に基づく表面電荷(すなわち、強誘電体単結晶120の焦電効果により誘起された電荷)を蓄積することができる。
【0052】
詳細には、図6(B)に示すように、強誘電体単結晶120に赤外線等の光510を照射したり、ホットプレート等の加熱装置520により加熱したりすると、強誘電体単結晶120内部では特定の方向に電荷が偏り、図6(A)と比較して、強誘電体単結晶120の上面側により多くのプラスの電荷が、下面側により多くのマイナスの電荷が誘起される。これにより、本発明の強誘電体キャパシタ100は、これら誘起されたプラスの電荷を遮蔽するより多くの表面電荷530を電荷蓄積領域110上に蓄積することができる。すなわち、本発明の強誘電体キャパシタ100は、焦電効果により、電荷蓄積領域110上に蓄積する表面電荷を増大することができる。
【0053】
なお、図4図6では、誘電体層160は、強誘電体単結晶120と金属層130との間に位置する場合を例示したが、誘電体層160は、強誘電体単結晶120と金属層130との間、ならびに、電荷蓄積領域110上に位置していても、同様の効果が得られる。
【0054】
次に、本発明の強誘電体キャパシタの製造方法の一例を説明する。
【0055】
まず、分極の方向が制御された強誘電体単結晶を用意する。強誘電体単結晶の材料の選択は図1を参照して説明したとおりである。分極の方向が制御された強誘電体単結晶は、単一分極構造となるようにポーリング処理された単結晶基板であってもよいし、分極反転構造となるようにドメインエンジニアリング加工された単結晶基板であってもよい。このような単結晶基板は、例えば、登録3551242号を参照して、単一分極構造を有する、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム等に代表される酸化物からなる強誘電体単結晶を製造してもよいし、特開平05−2889137号を参照して、周期構造を有する分極反転構造を形成してもよいし、A.Gruvermanら,Appl.Phys.Lett.,69,3191(1996)、北村ら,応用物理学会薄膜・表面物理分科会,NEWS LETTER[120](2004),12−18を参照し、走査型フォース顕微鏡(SFM)あるいは原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、ナノスケールを有する分極反転構造を形成してもよい。
【0056】
強誘電体単結晶の表面に物理的気相成長法、化学的気相成長法等により誘電体層を付与する。次に、リソグラフィ技術により、誘電体層が付与された強誘電体単結晶の電荷蓄積領域の周りに金属層をパターニングする。金属層の材料の選択は図1を参照して説明したとおりである。
【0057】
金属層のパターニングの一例は次のとおりである。強誘電体単結晶の電荷蓄積領域を含む表面全体に電子線に感光するレジストを塗布する。次に、電子線(EB)をレジストに照射し、所望のパターンを描画した後、現像液に浸し、感光したレジストを除去する。これにより、金属層を付けたい部分のみが露出する。次いで、物理気相成長法、化学気相成長法等により金属層を付与する。最後に、リフトオフ過程により不要なレジストを除去する。これは、ポジ型のレジストを用いた場合であるが、ネガ型のレジストを用いた場合には、感光していない部分が除去される点が異なる以外、手順は同様である。このようにして、本発明の強誘電体キャパシタが製造される。
【0058】
金属層のパターニングは、電子線リソグラフィに限らず、フォトリソグラフィを用いてもよいし、リフトオフ過程に代えてエッチング過程を採用してもよい。電子線を用いたリソグラフィは、微細加工が可能なため、ナノスケールの強誘電体キャパシタを製造するに好ましい。所望のサイズや形状の電荷蓄積領域を有する強誘電体キャパシタを得るために、金属のパターニングは、既存の半導体技術等で知られるリソグラフィ技術を適宜採用できる。
【0059】
また、電荷蓄積領域上に位置する誘電体層は、反応性イオンエッチング(RIE)等によるドライエッチング、フッ酸等によるウェットエッチング、あるいは、プラズマ等によるプラズマエッチング等の既存のエッチング技術により、除去してもよい。
【0060】
このようにして得られた本発明の強誘電体キャパシタは、上述したように強誘電体単結晶に基づく表面電荷を蓄積することができる。このような表面電荷を利用して、本発明の強誘電体キャパシタは、センサや電荷移動スイッチ等の種々の素子と接続し、それらを動作させる電源として機能したり、特定の条件下(例えば、加圧下あるいは加熱下)において、蓄積される表面電荷の電荷量が変化するので、それ自身がセンサとしても機能したりする。
【0061】
図7は、本発明の強誘電体キャパシタを用いた電子デバイスを示す模式図である。
【0062】
本発明の電子デバイス600は、本発明の強誘電体キャパシタ100と、素子610とを備える。強誘電体キャパシタ100は、図1を参照して説明したとおりである。素子610は、強誘電体キャパシタ100の電荷蓄積領域110と金属層130との間に接続されており、電荷蓄積領域110上に蓄積された表面電荷により動作するか、または、電荷蓄積領域110上に蓄積された表面電荷の電荷量の変化を検出する。
【0063】
例えば、素子610がダイオード等である場合、電荷蓄積領域110上に蓄積された表面電荷により容易に動作するので、本発明の電子デバイス600は、外部電源を不要とするダイオードセンサ等として機能する。
【0064】
例えば、素子610がゴミ等の吸着物に対して抵抗値が変化するセンサである場合、本発明の電子デバイス600は、外部電源を不要とするゴミセンサとして機能する。本発明の電子デバイス600は、強誘電体キャパシタ100の電荷蓄積領域110上に蓄積された表面電荷を利用して、素子610間の抵抗値、あるいは、素子610を流れる電流値を測定することにより、その値に変化があれば、吸着物の存在を検出できる。
【0065】
例えば、素子610が電圧計あるいは電流計である場合、本発明の電子デバイス600は、外部電源を不要とするスイッチとして機能する。本発明の電子デバイス600は、電荷蓄積領域110上に蓄積された、熱(光)あるいは圧力による表面電荷の電荷量の変化を素子610が検出することにより、一定量以上の電荷量であればオン(あるいはオフ)と、一定量未満の電荷量であればオフ(あるいはオン)とするスイッチとして機能し得る。
【0066】
なお、図7では、誘電体層160は、強誘電体単結晶120と金属層130との間に位置する場合を例示したが、誘電体層160は、強誘電体単結晶120と金属層130との間、ならびに、電荷蓄積領域110上に位置していても、同様の効果が得られる。
【0067】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【実施例】
【0068】
[比較例1]
比較例1では、強誘電体単結晶120が単一分極構造を有する定比組成ニオブ酸リチウム(SLN)単結晶(厚さ0.5mm)であり、電荷蓄積領域110が+極性面(すなわち、電荷蓄積領域110に対応する強誘電体単結晶120の表面内部の極性が+極性である)を有する円形(直径2μm)の領域であり、金属層130がAl層であり、誘電体層160を有さない強誘電体キャパシタを製造した。
【0069】
図8は、比較例1の強誘電体キャパシタを製造するプロセスを示す図である。
【0070】
図8では、強誘電体キャパシタを製造するプロセスの様子を断面図で、製造した強誘電体キャパシタを上面図で示す。SLN単結晶120の+極性面(図7では上面)に電子線に感光するレジスト(NEB−22、SUMITOMOCHEMICAL Co.,LTD製)710を塗布した。レジスト710に、帯電を防止するためエスペーサ(図示せず)を塗布した。レジスト710を電子線リソグラフィによりドーナツ状に感光させ、水洗によりエスペーサを除去し、現像液(TMAH2.38%)に浸し、感光した領域720のレジストを除去した。その後、純水でリンスした。次に、レジストが一部除去されたSLN単結晶120に電子線蒸着法によりAl層730を蒸着した。Al層の厚さは150nmであった。次いで、N−メチルピロリドン(NMP)を用いたリフトオフ過程により領域720以外のレジスト710およびAl層730を除去した。その結果、円形の電荷蓄積領域110(直径:2μm)を有するSLN単結晶120と、電荷蓄積領域110の周りを包囲するように位置するAl層130とを備えた比較例1の強誘電体キャパシタが製造された。
【0071】
比較例1の強誘電体キャパシタの表面の形状像を、原子間力顕微鏡(AFM、SII製、NanoNavi II&E−sweep)により観察した。観察は、アルゴン雰囲気下にて、Siカンチレバーを用い、タッピングモードで行った。結果を図10(A)に示す。
【0072】
比較例1の強誘電体キャパシタの電荷蓄積領域における電位像の温度依存性を、ヒータを備えたケルビンフォース顕微鏡(KFM、SII製、NanoNavi II&E−sweep)により観察した。観察は、室温(25℃)、40℃、55℃、70℃および90℃の各温度、アルゴン雰囲気下(1気圧)にて、Rhコートカンチレバーを用い、印加電圧5V、サイクリックスキャンモードで行った。結果を図10(B)〜(F)に示す。
【0073】
[比較例2]
比較例2では、強誘電体単結晶120が単一分極構造を有する定比組成ニオブ酸リチウム(SLN)単結晶(厚さ0.5mm)であり、電荷蓄積領域110が−極性面(すなわち、電荷蓄積領域110に対応する強誘電体単結晶120の表面内部の極性が−極性である)を有する円形(直径2μm)の領域であり、金属層130がAl層であり、誘電体層160を有さない強誘電体キャパシタを製造した。電荷蓄積領域110の極性面が逆である以外は、比較例1と同様の手順で製造した。
【0074】
比較例2の強誘電体キャパシタの形状像および電位像を、比較例1と同様にして観察した。結果を図11に示す。
【0075】
[実施例3]
実施例3では、強誘電体単結晶120が単一分極構造を有する定比組成ニオブ酸リチウム(SLN)単結晶(厚さ0.5mm)であり、電荷蓄積領域110が+極性面を有する円形(直径2μm)の領域であり、誘電体層160がSiO層であり、金属層130がAl層である強誘電体キャパシタを製造した。実施例3の強誘電体キャパシタでは、図3を参照して説明したように、誘電体層160が、強誘電体単結晶120と金属層130との間に加えて、電荷蓄積領域110上にも位置する。
【0076】
図9は、実施例3の強誘電体キャパシタを製造するプロセスを示す図である。
【0077】
図9では、強誘電体キャパシタを製造するプロセスの様子を断面図で、製造した強誘電体キャパシタを上面図で示す。SLN単結晶120の+極性面(図7では上面)全体に、化学気相成長法(CVD)により誘電体層160としてSiO層(厚さ200nm)を形成した。その後の手順は、図8と同様であるため、説明を省略する。なお、実施例3では、電荷蓄積領域110上の誘電体層160であるSiO層を除去しないが、SiO層は、種々の既存のエッチング技術により容易に除去できることは言うまでもなく、強誘電体単結晶120と金属層130との間にのみ誘電体層160を有する強誘電体キャパシタも製造できることは当業者であれば理解する。
【0078】
このようにして得られた実施例3の強誘電体キャパシタの形状像および電位像を、比較例1と同様にして観察した。結果を図12に示す。
【0079】
[実施例4]
実施例4では、強誘電体単結晶120が単一分極構造を有する定比組成ニオブ酸リチウム(SLN)単結晶(厚さ0.5mm)であり、電荷蓄積領域110が−極性面を有する円形(直径2μm)の領域であり、誘電体層160がSiO層であり、金属層130がAl層である強誘電体キャパシタを製造した。電荷蓄積領域110の極性が異なる以外は、実施例3と同様の手順で製造した。
【0080】
実施例4の強誘電体キャパシタの形状像および電位像を、比較例1と同様にして観察した。結果を図13に示す。
【0081】
[実施例5]
実施例5では、強誘電体単結晶120が単一分極構造を有する定比組成ニオブ酸リチウム(SLN)単結晶(厚さ0.5mm)であり、電荷蓄積領域110が+極性面を有する矩形(長手方向の長さ50μm)の領域であり、誘電体層160がSiO層であり、金属層130がAl層である強誘電体キャパシタを製造した。実施例5では、電子線を照射するパターンが異なる以外は、実施例3と同様の手順で製造した。
【0082】
実施例5の強誘電体キャパシタの形状像および電位像を、比較例1と同様にして観察した。結果を図14に示す。
【0083】
[比較例6]
比較例6では、強誘電体単結晶120が単一分極構造を有する定比組成ニオブ酸リチウム(SLN)単結晶(厚さ0.5mm)であり、電荷蓄積領域110が+極性面を有する円形(直径2μm)の領域であり、金属層130がCr層であり、誘電体層160を有さない強誘電体キャパシタを製造した。金属層が異なる以外は、比較例1と同様の手順で製造した。
【0084】
比較例6の強誘電体キャパシタの形状像および電位像を、比較例1と同様にして観察した。結果を図15に示す。
【0085】
[実施例7]
実施例7では、強誘電体単結晶120が単一分極構造を有する定比組成ニオブ酸リチウム(SLN)単結晶(厚さ0.5mm)であり、電荷蓄積領域110が+極性面を有する円形(直径2μm)の領域であり、誘電体層160がSiO層であり、金属層130がCr層である強誘電体キャパシタを製造した。金属層が異なる以外は、実施例3と同様の手順で製造した。
【0086】
実施例7の強誘電体キャパシタの形状像および電位像を、比較例1と同様にして観察した。結果を図16に示す。
【0087】
[実施例8]
実施例8では、強誘電体単結晶120が単一分極構造を有する定比組成ニオブ酸リチウム(SLN)単結晶(厚さ0.5mm)であり、電荷蓄積領域110が+極性面を有する円形(直径2μm)と矩形(長手方向の長さ3μm)とを組み合わせた領域であり、誘電体層160がSiO層であり、金属層130がCr層である強誘電体キャパシタを製造した。また、金属層130は、電荷蓄積領域110を包囲することなく、一部が開放するように蒸着した。電子線を照射するパターンおよび金属層が異なる以外は、実施例3と同様の手順で製造した。
【0088】
実施例8の強誘電体キャパシタの形状像および電位像を、比較例1と同様にして観察した。結果を図17に示す。
【0089】
[参考例9]
参考例9では、強誘電体単結晶120が単一分極構造を有する定比組成ニオブ酸リチウム(SLN)単結晶(厚さ0.5mm)であり、電荷蓄積領域110が−極性面を有する円形(直径2μm)の領域であり、金属層130がAu層である強誘電体キャパシタを製造した。金属層の種類が異なり、電荷蓄積領域110の極性面が逆である以外は、比較例1と同様の手順で製造した。
【0090】
参考例9の強誘電体キャパシタの形状像および電位像を、比較例1と同様にして観察した。結果を図18に示す。
【0091】
以上の実施例、比較例および参考例の実験条件の一覧を簡単のために表3に示す。
【表3】
【0092】
図10は、比較例1の強誘電体キャパシタの形状像と電位像とを示す図である。
図11は、比較例2の強誘電体キャパシタの形状像と電位像とを示す図である。
【0093】
形状像において、明るく示される領域と暗く示される領域とは物体の高低差があることを示しており、明るく示される領域の高さは、暗く示される領域の高さよりも高い。図10(A)および図11(A)によれば、比較例1および比較例2の強誘電体キャパシタは、円形(直径2±0.5μm)の電荷蓄積領域を有しており、その周りに金属層が位置することにより高低差が生じていることを確認した。
【0094】
電位像において、明るく示される領域と暗く示される領域とは電位の高低差があることを示しており、明るく示される領域の電位は、暗く示される領域の電位と異なる。図10(B)〜(F)および図11(B)〜(F)によれば、比較例1および比較例2の強誘電体キャパシタは、いずれも、SLN単結晶を加熱しても電荷蓄積領域内に電位の上昇を示さず、表面電荷が蓄積されないことが分かった。
【0095】
図12は、実施例3の強誘電体キャパシタの形状像と電位像とを示す図である。
図13は、実施例4の強誘電体キャパシタの形状像と電位像とを示す図である。
【0096】
図12(A)および図13(A)によれば、実施例3および実施例4の強誘電体キャパシタが、円形(直径2±0.5μm)の電荷蓄積領域を有することを確認した。
【0097】
図12(B)および図13(B)によれば、実施例3および実施例4の強誘電体キャパシタの、電荷蓄積領域の電位と金属層の電位とは、ほぼ等しかった。このことから、実施例3および実施例4の強誘電体キャパシタは、室温において、電荷蓄積領域内の電位の上昇を示し、誘電体層を含む電荷蓄積領域上に自発分極により誘起された表面電荷を蓄積することが分かった。
【0098】
さらに、図12(C)〜(F)および図13(C)〜(F)によれば、実施例3および実施例4の強誘電体キャパシタは、SLN単結晶を加熱しても、電荷蓄積領域内の電位の上昇を示した。より詳細には、+極性面からなる電荷蓄積領域を有する実施例3の強誘電体キャパシタは、SLN単結晶の温度上昇に伴い、90℃まで電位の上昇を示し、一方、−極性面からなる電荷蓄積領域を有する実施例4の強誘電体キャパシタは、SLN単結晶の温度上昇に伴い、55℃付近で電位の上昇がもっとも大きくなり、その後、電位が減少した。このことから、実施例3および実施例4の強誘電体キャパシタは、焦電効果により誘起された表面電荷を蓄積することが分かった。
【0099】
以上の比較例1〜2および実施例3〜4によれば、本発明の強誘電体キャパシタは、少なくとも強誘電体単結晶と金属層との間に誘電体層を位置させることにより、電荷蓄積領域上に電荷を閉じ込め、蓄積することができることが分かった。また、蓄積される電荷は、強誘電体単結晶の自発分極、焦電効果等に基づく自然エネルギーにより発生する表面電荷であることを確認した。
【0100】
図14は、実施例5の強誘電体キャパシタの形状像と電位像とを示す図である。
【0101】
図14(A)によれば、実施例5の強誘電体キャパシタが、矩形(長手方向の長さ50±5μm)の電荷蓄積領域を有することを確認した。
【0102】
図14(B)および(C)によれば、実施例5の強誘電体キャパシタは、室温において、電荷蓄積領域内の金属層近傍において電位の上昇を示し、自発分極に起因する表面電荷を蓄積することが分かった。このことから、効率的に表面電荷を蓄積可能な電荷蓄積領域の直径(あるいは長手方向の長さ)は、55μm以下であると示唆される。
【0103】
図15は、比較例6の強誘電体キャパシタの形状像と電位像とを示す図である。
図16は、実施例7の強誘電体キャパシタの形状像と電位像とを示す図である。
【0104】
図15(A)および図16(A)によれば、比較例6および実施例7の強誘電体キャパシタが、円形(直径2±0.5μm)の電荷蓄積領域を有することを確認した。
【0105】
図15(B)および図16(B)によれば、比較例6および実施例7の強誘電体キャパシタは、いずれも、室温において、電荷蓄積領域内の電位の上昇を示し、自発分極に起因する表面電荷を蓄積することが分かった。比較例6および実施例7の強誘電体キャパシタの、電荷蓄積領域の電位と金属層の電位とは、ほぼ等しかった。このことから、比較例6および実施例7の強誘電体キャパシタは、室温において、電荷蓄積領域内の電位の上昇を示し、金属層がCrである場合には、誘電体層の有無にかかわらず、電荷蓄積領域上に自発分極により誘起された表面電荷を蓄積することが分かった。
【0106】
さらに、図15(C)〜(F)および図16(C)〜(F)によれば、比較例6および実施例7の強誘電体キャパシタは、SLN単結晶を加熱することにより、電荷蓄積領域内の電位の上昇を示した。より詳細には、誘電体層を有する実施例7の強誘電体キャパシタは、誘電体層を有さない比較例6の強誘電体キャパシタよりも、より高温まで電位の上昇を示した。
【0107】
以上の比較例6および実施例7によれば、少なくとも強誘電体単結晶と金属層との間に誘電体層が位置することにより、強誘電体キャパシタの電荷蓄積能を向上させることができることが分かった。
【0108】
図17は、実施例8の強誘電体キャパシタの形状像と電位像とを示す図である。
【0109】
図17(A)によれば、実施例8の強誘電体キャパシタが、円形(直径2±0.5μm)と矩形(長手方向の長さ3±0.5μm)とを組み合わせた電荷蓄積領域を有することを確認した。この場合、電荷蓄積領域の直径は、5μmと見積もることができる。
【0110】
図17(B)によれば、実施例8の強誘電体キャパシタが、室温において、電荷蓄積領域内の電位の上昇を示し、自発分極に起因する表面電荷を蓄積することが分かった。実施例8の強誘電体キャパシタでは、金属層が電荷蓄積領域を完全に包囲することなく、一部開放した状態であるが、表面電荷の蓄積に影響がないことを確認した。
【0111】
以上の実施例8によれば、本発明の強誘電体キャパシタにおいて、金属層は、電荷蓄積領域を完全に包囲する必要はなく、少なくとも電荷蓄積領域の周りに位置していればよいことが示された。また、本発明の強誘電体キャパシタにおいて、電荷蓄積領域の形状は、円形に制限されるものではなく、任意の形状であってもよいことが示された。
【0112】
図18は、参考例9の強誘電体キャパシタの形状像と電位像とを示す図である。
【0113】
図18(A)によれば、参考例9の強誘電体キャパシタが、円形(直径2±0.5μm)の電荷蓄積領域を有することを確認した。図18(B)によれば参考例9の強誘電体キャパシタは、室温において、電荷蓄積領域内の電位の上昇を示し、自発分極により誘起された表面電荷を蓄積することが分かった。
【0114】
図15および図16を参照して、説明したように、本発明の強誘電体キャパシタが、金属の種類に関わらず、少なくとも金属層と強誘電体単結晶との間に強誘電体単結晶よりもバンドギャップの大きな誘電体層を位置させることにより、効率的に表面電荷を蓄積することから、金属層がAuの場合も同様に、Auと強誘電体単結晶との間に誘電体層を位置させることで、さらに効率的な表面電荷の蓄積が期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明の強誘電体キャパシタは、強誘電体単結晶に由来する分極電荷を遮蔽するだけの電荷(表面電荷)を蓄積することができるので、自然エネルギーを利用した電源として機能し得る。また、本発明の強誘電体キャパシタは、焦電効果あるいは圧電効果に誘起して蓄積される表面電荷の電荷量が変化するので、このような電荷量の変化を利用したスイッチとしても機能し得る。さらに、本発明の強誘電体キャパシタを電源として、センサや電荷移動スイッチ等と接続し、電子デバイスを構築できる。また、本発明の強誘電体キャパシタは電子線リソグラフィなど選択した製造技術によりナノスケール化が可能であるので、ナノスケールの電源あるいは電子デバイスを提供できる。
【符号の説明】
【0116】
100 強誘電体キャパシタ
110 電荷蓄積領域
120 強誘電体単結晶
130 金属層
140 強誘電体単結晶の表面
150、420、530 表面電荷
160 誘電体層
410 圧力
510 光
520 加熱装置
600 電子デバイス
610 素子
710 レジスト
720 領域
730 Al層
図1
図2
図3
図4
図5
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