(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-59799(P2016-59799A)
(43)【公開日】2016年4月25日
(54)【発明の名称】中央で最大吸収作用を示すフィルタ要素を有するX線CT装置
(51)【国際特許分類】
A61B 6/03 20060101AFI20160328BHJP
【FI】
A61B6/03 320M
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-166679(P2015-166679)
(22)【出願日】2015年8月26日
(31)【優先権主張番号】14185226.9
(32)【優先日】2014年9月17日
(33)【優先権主張国】EP
(71)【出願人】
【識別番号】515234495
【氏名又は名称】ブルーカー マイクロシーティー エンフェー
【氏名又は名称原語表記】Bruker microCT NV
(74)【代理人】
【識別番号】100125254
【弁理士】
【氏名又は名称】別役 重尚
(74)【代理人】
【識別番号】100118278
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 聡
(72)【発明者】
【氏名】アレキサンダー サソフ
(72)【発明者】
【氏名】イェルーン オステン
【テーマコード(参考)】
4C093
【Fターム(参考)】
4C093AA22
4C093CA01
4C093CA34
4C093EA02
4C093EA11
4C093ED07
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高い画像品質を同時に維持しながら、調査すべき対象物への放射線量をさらに減少させることができるX線コンピュータ断層撮影装置を提供する。
【解決手段】発散X線ビーム1をビーム軸zに沿って射出するX線源11と、X線ビーム1を減衰するフィルタ要素2と、減衰されたX線ビーム1aによって調査すべき対象物のための載置台14と、検出領域15aを有する2D−X線検出器15と、X線源11、フィルタ要素2、及び2D−X線検出器15の全体、又は対象物の載置台14のいずれかを、ビーム軸zに垂直な回転軸xに関して回転させることができるガントリシステム16とを備え、フィルタ要素2は、ビーム軸z及び回転軸xの双方に垂直な横方向yに沿って空間的に変化するX線吸収能力を有し、空間的に変化するX線吸収能力は、横方向yに沿って零位置y0で最大吸収作用を示し、フィルタ要素2を零位置y0で通過するX線が回転軸xと交差する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線ビーム(1)、特に発散X線ビーム(1)をビーム軸(z)に沿って射出するX線源(11)と、
前記X線ビーム(1)を減衰するフィルタ要素(2)と、
前記減衰されたX線ビーム(1a)によって調査すべき対象物(3)のための載置台(14)と、
検出領域(15a)を有する2D−X線検出器(15)と、
前記X線源(11)、前記フィルタ要素(2)、及び前記2D−X線検出器(15)の全体、又は前記対象物(3)の前記載置台(14)のいずれかを、前記ビーム軸(z)に垂直な回転軸(x)に関して回転させることができるガントリシステム(16)と
を備え、
前記フィルタ要素(2)は、前記ビーム軸(z)及び前記回転軸(x)の双方に垂直な横方向(y)に沿って空間的に変化するX線吸収能力を有するX線コンピュータ断層撮影(=CT)装置(10)において、
前記空間的に変化するX線吸収能力は、前記横方向(y)に沿って零位置(y0)で最大吸収作用を示し、前記フィルタ要素(2)を前記零位置(y0)で通過するX線(18)が前記回転軸(x)と交差することを特徴とするX線コンピュータ断層撮影(=CT)装置(10)。
【請求項2】
前記フィルタ要素(2)は、高エネルギーX線に対するよりも低エネルギーX線に対して高い吸収作用を有する材質から製作されることを特徴とする請求項1記載のCT装置(10)。
【請求項3】
前記材質は、40keVのX線に対する吸収係数μより少なくとも10倍大きく、好ましくは少なくとも50倍大きい5keVのX線に対する吸収係数μを有することを特徴とする請求項2記載のCT装置(10)。
【請求項4】
前記フィルタ要素(2)は、アルミニウム又はアルミニウムを含有する材質から製作されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のCT装置(10)。
【請求項5】
前記フィルタ要素(2)は、前記横方向(y)に沿って空間的に変化する厚さ(d)を有し、前記零位置(y0)で最大厚さを有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のCT装置(10)。
【請求項6】
前記フィルタ要素(2)は、前記2D−X線検出器(15)の前記検出領域(15a)を影に蔽う前記フィルタ要素(2)の領域において、前記横方向(y)に沿って2倍以上、好ましくは5倍以上の厚さ変化を示すことを特徴とする請求項5記載のCT装置(10)。
【請求項7】
前記空間的に変化するX線吸収能力は、前記2D−X線検出器(15)の前記検出領域(15a)を影に蔽う前記フィルタ要素(2)の領域において、前記横方向(y)に沿って、5倍以上、好ましくは20倍以上、最も好ましくは50倍以上の吸収作用変化を示すことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のCT装置(10)。
【請求項8】
前記X線吸収能力は、前記2D−X線検出器(15)の前記検出領域(15a)を影に蔽う前記フィルタ要素(2)の領域において、前記横方向(y)に沿って前記零位置(y0)から両側に離れるに従って単調に減少する吸収作用、特に、厳密に単調に減少する吸収作用を示すことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載のCT装置(10)。
【請求項9】
前記空間的に変化するX線吸収能力は、前記2D−X線検出器(15)の前記検出領域(15a)を影に蔽う前記フィルタ要素(2)の領域において、前記横方向(y)に関して、前記零位置(y0)を中心とする少なくとも近似的にガウス型分布の吸収作用を示すことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載のCT装置(10)。
【請求項10】
前記X線源(11)は、特にタングステンアノードを有する、微小焦点X線管であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載のCT装置(10)。
【請求項11】
調査すべき対象物(3)が、特にその長手方向を前記回転軸(x)に沿わせて、前記載置台(14)上に配置されることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載のCT装置(10)。
【請求項12】
前記載置台(14)は、前記回転軸(x)に平行な長手方向軸(LA)に沿って移動可能であることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載のCT装置(10)。
【請求項13】
調査すべき対象物(3)を前記載置台(14)上に配置し、
前記対象物(3)の複数の投影画像を、前記ガントリシステム(16)の様々な回転位置で前記2D−X線検出器(15)を用いて記録し、
前記投影画像のデータセットから、断面写真のデータセットを逆投影再生アルゴリズムによって生成することを特徴とする請求項1乃至12のいずれか1項に記載のCT装置(10)の使用法。
【請求項14】
前記対象物(3)の前記複数の投影画像を、さらに、前記長手方向軸(LA)に沿った前記載置台(14)の様々な移動位置で記録することを特徴とする請求項11記載のCT装置(10)の請求項13記載の使用法。
【請求項15】
前記対象物(3)は、ラットの大きさまでの生きている動物、又は同じ大きさまでの生きていない対象物であることを特徴とする請求項13又は14記載の使用法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
−X線ビーム、特に発散X線ビームをビーム軸(z)に沿って射出するX線源と、
−X線ビームを減衰するフィルタ要素と、
−減衰されたX線ビームによって調査すべき対象物のための載置台と、
−検出領域を有する2D−X線検出器と、
−X線源、フィルタ要素、及び2D−X線検出器の全体、又は対象物の載置台のいずれかをビーム軸(z)に垂直な回転軸(x)に関して回転させることができるガントリシステムとを備え、
フィルタ要素は、ビーム軸(z)及び回転軸(x)の双方に垂直な横方向(y)に沿って空間的に変化するX線吸収能力を有するX線コンピュータ断層撮影(=CT)装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のCT装置は、米国特許出願公開第2012/0002782A1号明細書によって既知である。
【0003】
撮像でのX線の使用法は、特に医療及び科学においては、十分に確立された技術である。その基本原理は、X線源によって生成されたX線が、調査しようとする対象物によって部分的に減衰され、対象物を通過するのに十分なエネルギーを有するX線が、(2D)X線検出器(カメラ)によって検出され、その結果、2次元(2D)画像になることである。この画像は、投影画像とも呼ばれる。様々なタイプのX線源が、様々なカメラと組み合わされて使用されるが、基本原理は変わらない。
【0004】
対象物の3次元(3D)画像を生成するためには、投影画像を様々な角度から取得する必要がある。これは、対象物を回転するか、又はX線源をカメラと共に対象物の周りに回転させることによって達成することができる。双方の場合とも、2D投影画像のデータセットが生成される。これら投影画像が、次いで、逆投影と呼ばれるプロセスによって断面写真の新しいデータセットを生成するために使用される。この第2の断面写真データセットから3D情報を得ることができる。この方法は、コンピュータ断層撮影法(CT)とも呼ばれる。
【0005】
前臨床研究において特に重要な分野は、マウスやラットなど、生きている小動物の調査である。生きている動物を扱うとき、この動物を回転することは望ましくないことが多い。したがって、特別なスキャナが開発されており、この場合、動物がベッド上に配置され、このベッドが、臨床スキャナにおけるのとまったく同様に、X線源及びカメラの双方がこのベッドの周りを回転して多数の角度で投影画像を取得している間、スキャナ内を移動する。
【0006】
X線を使用して生きている動物を撮像すると、必ずある程度の被放射線量になるが、X線なしでは画像は存在しない。生きている動物をスキャニングするときに考慮すべき重要な点は、あらゆる生物学的影響を最小限に抑え、さらには回避するために放射線量を低減することである。
【0007】
従来、フィルタがX線源と対象物との間に配置されており、このフィルタは、優先的に低エネルギーX線を吸収するように設計されている。通常、これらフィルタは、適切に定められた一様な厚さを有する金属(例えば、アルミニウム)板から製作されてきた。
【0008】
この種のフィルタを使用すると、低エネルギーX線は、大部分がフィルタによって減衰され、動物による減衰はなくなり、また、全放射線量が低減される。フィルタの厚さを増加するか、又はフィルタのタイプを変更(例えば、アルミニウムから銅へ)すると、より多くのX線を吸収し、これにより、放射線量がさらに減少する。しかし、X線強度が低くなり過ぎるか、又はX線エネルギーが高くなり過ぎると、画像品質が劣化する。したがって、画像解析を可能にする十分な情報を有する画像をなおも取得しながら総放射線量を最低限に抑えるために、X線エネルギーとフィルタとの最適な組合せが求められる。
【0009】
米国特許出願公開第2012/0002782A1号は、X線源及び2D−X線検出器が人間の患者用のベッドの周りを回転するCT装置を提案している。厚さが変化し、したがってX線吸収能力が変化する補正フィルタがX線源の前に配置されている。回転軸と交差するX線を遮る補正フィルタの中央が、最小の厚さを有し、したがって、最小のX線吸収作用を示す。基本的に3角形のフィルタがX線ビームに側方から導入され、これによって、X線ビームがその縁で最大限に減衰され、その中央ではより少なく減衰される別のCT装置が国際公開第2013/182928A1号から既知である。
【0010】
後者のフィルタ、又はむしろビーム成形インサート若しくは吸収体は、検出器アレイに達する放射の強度を均一化するように意図されている。この吸収体は、ビームの中央部分には薄い材質層を配置し、周辺領域にはより厚い層を配置する。このような吸収体の形状は、人間又は動物の身体が中央領域でより高いX線放射の吸収作用を示し、周辺領域でより低い吸収作用を示すという前提に基づく。一次ビームに適用される吸収層の形状は、スキャンする対象物の予想される局部厚さの逆になり、これにより、照射領域全体の検出器アレイ上の信号が最終的に均一化される。このようにして、断層撮影及び微小断層撮影機構に使用される検出器の必要ダイナミックレンジを減少させることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、高い画像品質を同時に維持しながら、調査すべき対象物への放射線量をさらに減少させることができるCT装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的は、空間的に変化するX線吸収能力が横方向(y)に沿って零位置(y0)で最大吸収作用を示し、フィルタ要素を零位置(y0)で通過するX線が回転軸(x)と交差することを特徴とする冒頭で紹介されたCT装置により、本発明によって達成される。
【0013】
本発明の基本的思想は、ガントリシステムの回転軸に近いX線の強度を意図的に低下させることであり、他方で、回転軸から離れると、X線強度は高いまま維持される。さらに、本発明によれば、回転軸に近い平均X線エネルギーは増加され得、他方で、回転軸から離れると、平均X線エネルギー強度は低く保たれ得、好ましくは殆んど変化しない。これは、空間的に変化するX線吸収能力を有する対応フィルタ要素を用いて行われる。このフィルタは、回転軸に対応する(すなわち回転軸を影に蔽う)領域おいて、すなわち零位置y0において、通常そこでの最大厚さにより、最大限の吸収作用を有し、より高い平均X線エネルギーへの最大限の偏位を生じることができる。一般に、このフィルタ要素は、低エネルギーX線を、高エネルギーX線よりも高度に吸収し、好ましくは遥かに高度に吸収する。
【0014】
回転軸に近いX線強度を低下させることにより、2D−X線検出器の検出領域の対応領域の(通常2D−X線検出器の検出領域の中央での)信号対雑音比、及びこれに対応する投影画像の信号対雑音比をそれぞれ低下させることになり、これにより、断面写真の画像品質も劣化させる。しかしながら、再生アルゴリズムの過程で(逆投影、特にフィルタ補正逆投影によって)断面写真を計算するとき、回転軸に近付くほど様々な投影画像からより多くの情報が利用可能になり、そこでの断面写真の画像品質を向上させる。したがって、信号対雑音比における損失は、回転軸に近いほど情報が増加することによって補償されることになる。好ましくは、強度の減少が、情報の増加にほぼ釣り合い、これによって、断面内(その中央から端まで)で一様な画像品質が得られる。
【0015】
この結果、回転軸近くのX線強度の低減及び平均X線エネルギーの増加が、断面写真全体の画像品質を低下させることなく、調査すべき対象物(生きている人間若しくは動物の身体、又はこれらの一部分など)に対する、特に放射損傷に対して極めて敏感なことの多い領域(骨髄又は腸など)における総放射線量を減少させることになる。
【0016】
CT装置の各要素は、X線源によって射出されたX線ビームが先ずフィルタ要素を通過し、次いで載置台上の対象物を通過し、次いで2D−X線検出器に達するように配置されていることに留意されたい。また、通常、フィルタ要素のX線吸収能力は、回転軸(x)の方向に一定であることに留意されたい。
【0017】
本発明の好ましい変形形態
本発明のCT装置では、フィルタ要素が、高エネルギーX線に対するよりも低X線エネルギーに対して高い吸収作用を有する材質から製作される。これによって、X線源のエネルギースペクトルが変調され、高エネルギーX線の部分が、低エネルギーX線に比較して増加する。低エネルギーX線は、人間又は動物の組織に高エネルギーX線よりも多く吸収され、したがって、身体組織及び/又はDNAにより多くの損傷を蓄積する原因になりやすい。高エネルギーX線は、対照的に、頭又は胸などの比較的厚い身体部分を貫通させるのに十分に適しており、それでもなお良好なコントラストが得られる。
【0018】
上記の実施の形態のさらに別の好ましい発展形態では、材質が、40keVのX線に対する吸収係数μより少なくとも10倍大きく、好ましくは少なくとも50倍大きい5keVに対する吸収係数μを有する。これにより、対象物への損傷が減少し、同時に良好な深度コントラストが得られる。材質の吸収挙動は、詳細には含有されている元素の原子数を介して調節することができることに留意されたい。本発明によれば、フィルタ要素の材質は、μ(5keV)が、μ(40keV)よりも少なくとも20倍大きく、好ましくは少なくとも100倍大きくなるように選択することもできることに留意されたい。
【0019】
別の好ましい実施の形態では、フィルタ要素は、アルミニウム又はアルミニウムを含有する材質から製作される。アルミニウム(Al)は、X線エネルギーに強く依存する吸収作用を示す。好ましくは、材質は、少なくとも30wt%(重量パーセント)のAl、より好ましくは少なくとも50wt%のAl、最も好ましくは少なくとも80wt%のAlを含有する。
【0020】
特に好ましくは、フィルタ要素が、横方向(y)に沿って空間的に変化する厚さを有し、零位置(y0)で最大厚さを有する実施の形態である。これは、通常、フィルタ要素の材質が一様な(空間的に一定の)吸収係数を有する状態で、フィルタ要素の空間的に変化するX線エネルギー分布及び吸収能力を確立する最も簡単な方式ある。厚さは、ビーム軸(z)に平行に測定される。通常、厚さは、回転軸(x)の方向に沿っては変化しないことに留意されたい。この代わりに又はこれに加えて、変化するX線吸収能力を確立するために、フィルタ要素の材質の密度及び/又は組成を、横方向(y)に沿って変化させてもよいことにさらに留意されたい。
【0021】
この実施の形態のさらに別の発展形態では、フィルタ要素が、2D−X線検出器の検出領域を影に蔽うフィルタ要素の領域において、横方向(y)に沿って、2倍以上、好ましくは5倍以上の厚さ変化を示す。このような変化は、容易に製造することができ、投影画像での透過高エネルギーX線の強度変化を成立させ、この変化は、通常の測定条件の下で十分に補償することができる。ただし、厚さの変化は、通常、20倍を超えないことに留意されたい。
【0022】
有利な実施の形態では、空間的に変化するX線吸収能力が、2D−X線検出器の検出領域を影に蔽うフィルタ要素の領域において、横方向(y)に沿って、5倍以上、好ましくは20倍以上、最も好ましくは50倍以上の吸収作用変化を示す。これら倍率は、少なくとも5keVのX線(及び好ましくは約1keV〜10keVの全ての低エネルギーX線)に適用され、かつ高エネルギーX線(約10keV〜100keVのX線エネルギーを有する)にもできる限り適用される。ただし、絶対的吸収作用は、低エネルギーX線に対するよりも高エネルギーX線に対する方が通常遥かに小さいことに留意されたい。これらの倍率は、フィルタ要素の背後で、フィルタ処理後の最も強いX線強度をフィルタ処理後の最も弱いX線強度と比較する(フィルタ要素の一様な照射を前提とする)。この実施の形態では、実際に、良好な放射線量の減少とそれでもなお高画像品質を示している。投影画像に対する約50(しばしばこれ以上)の強度倍率は、それでもなお、通常の測定条件の下では、断面写真を計算するときの逆投影によって補償される。
【0023】
また、好ましくは、X線吸収能力が、2D−X線検出器の検出領域を影に蔽うフィルタ要素の領域において、横方向(y)に沿って零位置(y0)から両側に離れるに従って単調に減少する吸収作用、特に、厳密に単調に減少する吸収作用を示す実施の形態である。回転軸から遠くなるに従って、諸投影画像の全体からの情報が少なくなり、したがって、フィルタ要素のより少ない吸収作用が相殺され得る。この実施の形態では、回転軸から離れると対象物でのX線強度が次第に増えるので、結局は、一様な断面写真画像品質を得ることができる。厳密に単調に減少する吸収作用によって、フィルタ要素の吸収能力の急激な変化が排除されるので、画像再生における疑似現象が回避される。この実施の形態は、通常、2D−X線検出器の検出領域を影に蔽うフィルタ要素の領域において、横方向(y)に沿って零位置(y0)から両側に離れるに従って単調に減少する厚さ、特に、厳密に単調に減少する厚さを示す、フィルタ要素の厚さ変化によって実現されることに留意されたい。
【0024】
別の好ましい実施の形態では、空間的に変化するX線吸収能力が、2D−X線検出器の検出領域を影に蔽うフィルタ要素の領域において、横方向(y)に関して、零位置(y0)を中心として少なくとも近似的にガウス型分布の吸収作用を示す。ガウス型分布によって、回転軸に向かっての強度の減少が情報の増加にほぼ釣り合い、これによって、断面内(その中央から端まで)で一様な画像品質が得られる。2D−X線検出器の検出領域を影に蔽うフィルタ要素の領域において、実際の吸収作用が正確なガウス分布から最大でも10%(正確なガウス分布を基準として)しか外れない場合、吸収能力は近似的にガウス型であると考えられる。同様に好ましいのは、2D−X線検出器の検出領域を影に蔽うフィルタ要素の領域において、横方向(y)に関して、零位置(y0)を中心として少なくとも近似的にガウス型分布の厚さを示すフィルタ要素の厚さ変化であることに留意されたい。2D−X線検出器の検出領域を影に蔽うフィルタ要素の領域において、実際の厚さが、正確なガウス分布から最大でも10%(正確なガウス分布を基準として)しか外れない場合、厚さ変化は近似的にガウス型であると考えられる。やはり、断面内(その中央から端まで)で基本的に一様な画像品質を得ることができる。
【0025】
さらに好ましくは、X線源は、特にタングステンアノードを有する微小焦点X線管である実施の形態である。これによって、最大約65keV、さらに最大100keVの高エネルギーX線による高強度の多色放射を達成することができる。
【0026】
別の好ましい実施の形態では、調査すべき対象物が、特にその長手方向を回転軸(x)に沿わせて、載置台上に配置される。これによって、対象物を、最小放射線量によって調査することができる。対象物は、放射損傷に特に敏感な部分(例えば、生きている人間又は動物の器官)が回転軸を横切るか、又は回転軸の近傍に位置するように配置することができる。さらに、対象物は、対象物を長手方向に配向することによって、回転軸の方向に沿う並進移動により容易にスキャンすることができる。
【0027】
高度に有利な実施の形態では、載置台が、回転軸(x)に平行な長手方向軸(LA)に沿って移動可能である。これによって、より大きい体積の対象物を、長手方向軸に沿ってスキャンすることによって調査することができる。長手方向軸に沿う並進移動は、通常、モータ駆動且つ自動化されていることに留意されたい。
【0028】
また、本発明の範囲内にあるのは、調査すべき対象物を載置台上に配置し、対象物の複数の投影画像を、ガントリシステムの様々な回転位置で2D−X線検出器を用いて記録し、投影画像のデータセットから、断面写真のデータセットを逆投影再生アルゴリズムによって生成することを特徴とする上記の本発明のCT装置の使用法である。これによって、対象物、特に生きている対象物に対する放射線量を低減させて、対象物の良好な品質の3D画像を得ることができる。逆投影(特にフィルタ補正逆投影)再生アルゴリズムは、回転軸近傍の中央領域で強度が減少することによる信号対雑音比の低下を補償する。ボリューム画素が回転軸に近いほど、より多くの投影画像がこのボリューム画素からの情報を含み、このことが補償のために役立つ。
【0029】
特に好ましくは、可動載置台を備える本発明のCT装置に関する本発明の使用法の変形形態であって、対象物の複数の投影画像をさらに長手方向軸(LA)に沿った、載置台の様々な移動位置で記録する使用法である。これによって、長手方向に沿って任意の長さで延在する大きさの対象物を調査することができる。
【0030】
さらに好ましくは、対象物が、ラットの大きさまでの生きている動物、又は同じ大きさまでの生きていない物である本発明の使用法の変形形態である。ラット(直径約8cm、長さ20cmの円筒の大きさに匹敵する)までのような比較的小さなサイズの対象物では、対象物の比較的大きな部分が、回転軸の近傍のより高い情報密度を活用することができ、したがって、この場合、達成可能な放射の低減量が特に大きくなる。ただし、本発明は、人間全体をスキャンする大きさのCT装置に適用することもできることに留意されたい。
【0031】
さらに別の利点を、本説明及び添付図面から導き出すことができる。上記及び下記の特徴は、個々に又は任意の組合せで集合的にのいずれでも、本発明によって使用することができる。言及される実施の形態は、網羅的な列挙と理解されるべきではなく、本発明を説明するための例示的性格を有する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明に関する、調査すべき対象物の前方におけるX線ビーム中のフィルタ要素の配置状態の概略図である。
【
図2】本発明のCT装置の実施の形態の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
概要
X線コンピュータ断層撮影では、多数のX線画像(投影画像)が記録され、各記録形成は調査すべき対象物をX線に曝すことを伴う。X線は、曝された物質を特にイオン化によって損傷することがある。人間又は動物の組織では、X線は、特に発癌を誘起する可能性がある。したがって、本発明は、X線コンピュータ断層撮影において調査される対象物への放射線量を減少することを目指す。
【0035】
吸収線量は、対象物内の物質の吸収係数と、対象物質の厚さと、一次ビームの強度及びエネルギー分布とに依存する。最初の2つの因子は、スキャニング機構によって変えることはできないが、本発明によれば、一次ビームのエネルギースペクトル及び強度分布は、断層撮影再生の結果の品質に著しい影響を与えずに吸収線量を減少させるように、調節することができる。
【0036】
動物又は人間の身体などの調査すべき対象物の一般に最も厚い中央部分が、身体を通るX線の経路がより短い周辺部分より、遥かに多くの放射を吸収する。同時に、身体の中央部分は放射線損傷を最も受けやすい器官を擁する。
【0037】
本発明は、身体の中央部分がより弱い強度且つより高いエネルギーのX線放射を受けるように、一次ビームのエネルギースペクトル及び強度を空間変調する考えに基づいている。強度の低減及びより高いエネルギーへのスペクトル偏位の双方が、身体のこの最も敏感な部分によって吸収される線量率を低下させることになる。一次ビームのこのような強度の低下は、対象物の背後の検出器アレイの中央部分上の信号を低下させることになり得るが、これは、逆投影手順に際し再生領域の中央部分はより高密度の光線パターンによって蔽われるので、一般に、断層撮影再生中に少なくとも部分的に、そしてほとんどの場合に実際的に完全に補償される。
【0038】
ビーム成形フィルタ要素
本発明の核心は、ビーム成形フィルタ要素であり、この実施の形態は
図1に示される。
図1は、ビーム成形フィルタ要素2上へ導かれるX線ビーム1(ここでは平行タイプ)を示す。フィルタ要素2は調査すべき対象物3を影に蔽い、すなわち、X線1は、フィルタ要素2を通過するとき、減衰される(ただし完全に遮蔽はされない)。フィルタ要素2は、可変の局部厚さd(X線ビーム1がそれに沿って伝播するz方向で測定される)を有し、その中央4で最大厚さとなり、この場合、中央4は対象物3の中央5とy方向に関して整列し、厚さdは、両側端に向かって対称的に減少し、両端部12、13で最小厚さに達する。
【0039】
x及びy両方向でのビーム成形フィルタ要素2の大きさ(幅)は、フィルタ要素2が対象物に近く、X線源(図示せず)から遠くに配置されている場合、対象物3の大きさと類似であり、この状況が
図1に示されている。この種のビーム成形フィルタ要素2とX線源内部の射出点との距離が短い場合、フィルタ要素2の大きさは、これに対応して縮小されることになる。フィルタリングされていないX線は検出器に達しないことが一般に好ましく、必要なら、小さ過ぎるフィルタ要素は、開口によって補完してX線ビームの断面に適合させることもあることに留意されたい。フィルタ材質の選択は、X線源からの放射のエネルギー分布に依存する。小さな実験室動物の生体内微小断層撮影用の、40〜100keVの最も典型的なエネルギー範囲については、材質はAl又はAl合金でよい。ビームを横切る(y方向の)フィルタ要素2の最大厚さ及び厚さ分布は、ビームの中央部分でのX線スペクトルの低エネルギー部分の大幅な低減が達成され、他方で、対象物の背後の検出器上で妥当な信号対雑音比を得るためのこの部分の一次ビームの十分な強度を維持するように選択される。対象物が所定位置にあることによって、対象物の中央部分でのX線スペクトルの低エネルギー部分の低減(減衰)が、検出器に到達する信号分布(強度及びエネルギーの双方に関し)を顕著に変化させることはなく、この理由は、中央部分の対象物もまた低エネルギー放射に対する強力なフィルタとして働くからである。しかしながら、低エネルギー光子が、対象物に達する「前に」、ビーム成形フィルタ要素2によって吸収されることによって、身体内部、特に一次ビームの方に面している部分に吸収される線量が大きく改善(すなわち低減)される。フィルタ要素表面の形状は、急な強度及びスペクトル変化を避けるのに十分な滑らかさにすべきであり、これら急な変化は再生での疑似現象を生じる恐れがある。
【0040】
小動物生体内断層撮影システム用としての、本発明に係るこの種のビーム成形フィルタ要素の実際の実装形態では、フィルタ要素の両側部分での0.5〜0.8mmから中央部分での最大値5〜6mmまで厚さが変化するフィルタ材として、Alが使用されている。一次ビームとしては、最大65keVのピークエネルギー及びタングステンアノードを有する微小焦点X線管からの多色放射が使用されている。動物によって吸収される線量率の測定値が、「マウスサイズ」のプラスチック模型によってプローブが囲まれている計数率計を使用して計測されている。上記のビーム成形フィルタ要素を使用することによって、厚さ0.5〜1mmの平坦な標準的Alフィルタによるスキャニング、及びフィルタなしの一次ビームによるスキャニングと比較して、吸収線量を2〜5倍減少させることが可能になる。このように吸収線量が減少しても、断層撮影再生後に得られる結果の品質には極めて僅かな影響しか生じない。
【0041】
CT装置の機構
図2は、本発明に係るX線CT装置10の実施の形態を示す。
【0042】
X線源11が、この場合には発散タイプのX線ビーム1を、(中央)ビーム軸zに沿って射出する。次いで、X線ビーム1は、この場合アルミニウム製のフィルタ要素2に達し、そこで、X線ビーム1が、ビーム軸zに垂直に延在する横方向yでの位置の関数として減衰される。中央4、すなわちy方向での零位置y0では、フィルタ要素2の厚さ(zで測定された)が最大であり、両側(
図2で上方及び下方)又は端部12、13の夫々に向かって、厚さが厳密に単調に減少する。yの関数としてのzでの厚さは、この場合、y0を中央とする近似的にガウス型である。z及びyの双方に垂直である長手方向では(xと比較されたい)、フィルタ要素2の厚さは変化しない(ただし、X線源11又はX線ビーム1それぞれのx方向での強度分布が一様でない場合には、フィルタ要素2の厚さは、これに対応してx方向に変化し得ることに留意されたい)。フィルタ要素2の形状は、中央4の近くで、X線ビーム1を特に低エネルギー部分について強く減衰させ、両端部12、13に向かって減衰を減少させる。中央での厚さが、この場合、両端部12、13での厚さより約5倍大きいので、吸収作用の変化は少なくとも約5倍になるはずであり、通常、指数関数的な吸収挙動によりこれより遥かに高くなる。
【0043】
次いで、減衰されたX線ビーム1aが、調査すべき対象物(図示せず)としてのラットの大きさまでの生きている動物のベッドとしてこの場合設計された載置台14に近付く。対象物が配置される領域に、載置台14に近接して、CT装置10の回転軸xがある。回転軸xは、ビーム方向z及び横方向yの双方に対して垂直に延在する。X線ビーム1の、フィルタ要素2を中央4で通過する部分が回転軸xを通り、言い換えれば、X線源11の射出点11a、中央(というよりは中央ライン)4、及び回転軸xが同一平面内にある。
【0044】
載置台14(及び図示されていない対象物)を通過後のX線ビーム1bは、最終的に、対象物の投影画像を記録する2D−X線検出器15(カメラとも呼ばれる)に達する。載置台14上に対象物が無ければ、検出領域15a上のX線強度分布は、フィルタ要素2の中央4での零位置y0又は回転軸xそれぞれに対応する中央面内で最小レベル(暗く示されている)を示し、y方向に関して上昇又は下降するとレベルが上がる(より明るく示されている)ことになる。したがって、載置台14に対象物を置くと、対象物の、回転軸xが横切る部分は最小放射線量を示し、回転軸xからy方向に離れるにつれて放射線量が増加する。より具体的には、ビーム軸zに沿って(又は対応するxz面内を)伝播するX線源11の中央部分X線18は、フィルタ要素2をy方向の零位置y0で通過し、回転軸xを横切り、検出領域15aに、この場合その中央19に到達し、この中央部分X線18は、フィルタ要素2において最大の吸収作用を受ける。対照的に、フィルタ要素2においてy0に比較して高いか又は低いy位置を取るX線は、フィルタ要素2において、より小さい吸収作用を受ける。フィルタ要素2は、2D−X線検出器15の検出領域15aを完全に蔽うことが好ましいことが留意されるべきである。
【0045】
対象物に関して様々な角度からの投影画像を得るために、ガントリシステム16が設けられる。図示の実施の形態では、ガントリシステム16は、X線源11と、フィルタ要素2と、2D−X線検出器15とを結合し、これらアイテムの全体が、回転軸xに関して、すなわち非回転載置台14の周りに回転することを可能にする。回転矢印17を比較されたい。本発明によれば、夫々固定されたX線源11、フィルタ要素2、及び2D−X線検出器15の全体に対して載置台14を回転させるガントリシステム16を有することも可能であることに留意されたい。載置台14は、さらに、長手方向軸LA(この軸は回転軸xと平行である)に沿って移動可能であり、これによって、ガントリシステム16の様々な回転位置、及び載置台14の長手方向軸LAに沿った様々な平行移動位置に関して、投影画像を取得することができる。
【0046】
要約すると、本発明は、CT装置10のX線源11と載置台14上の対象物との間に配置されるフィルタ要素2の特別な設計を提示する。X線1がフィルタ要素2によって減衰されると、フィルタ要素2の3D形状の結果、横方向yに沿ったフィルタ要素2の中央4が、周辺部分と比較してより多くの低X線エネルギーを減衰し除去する形で、一様でない分布を生じる。フィルタ要素2の3D形状は、y軸に沿った中央4でのX線の減衰を最大にするようになっている。X線がフィルタ要素2を通過するとき、X線がフィルタ要素2を中央4のより近くで通過するほど、カメラに達するX線に指数関数的減衰があり、この中央4ではフィルタ要素2が最大の厚さ(y軸に沿った)を有する。これは、ランベルト・ベールの法則I=I
0e
−μdに基づき、式中のdは材質の厚さであり、μは材質の吸収係数であり、Iは透過された強度であり、I
0は初期強度である。中央位置(y軸に沿った)でカメラに到達するX線の指数関数的減少により、放射線量が減少する結果になる。この一様でない分布は、また、投影画像上で、カメラの中央において信号対雑音比が低下する結果を生じるが、これは、断面写真を計算するときの再生アルゴリズム(逆投影)によって克服される。これは、逆投影に際し、回転の中心のより近くを再生するとき、より多くの情報があることに基づく(車輪のスポーク間の距離に似ており、この場合、中心に近付くほど間隔が小さくなる)。フィルタの3D形状と使用される逆投影アルゴリズムとを組み合わせることによって、画像品質を損なうことなく放射線量を減少させる結果になる。
【符号の説明】
【0047】
1 X線ビーム
1a 減衰されたX線ビーム
1b 載置台及び対象物を通過後のX線ビーム
2 フィルタ要素
3 対象物
4 フィルタ要素の中央
5 対象物の中央
10 X線CT装置
11 X線源
11a 射出点
12,13 端部
14 載置台
15 2D−X線検出器
15a 検出領域
16 ガントリシステム
17 回転矢印
18 中央部分X線
19 検出領域の中央
d 局部厚さ
LA 長手方向軸
x CT装置の回転軸
y 横方向
y0 零位置
z ビーム軸
【外国語明細書】