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  • 特開2016060924-光電極 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-60924(P2016-60924A)
(43)【公開日】2016年4月25日
(54)【発明の名称】光電極
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/06 20060101AFI20160328BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20160328BHJP
   B01J 23/30 20060101ALI20160328BHJP
   H01G 9/20 20060101ALI20160328BHJP
   C25B 1/04 20060101ALI20160328BHJP
【FI】
   C25B11/06 B
   B01J35/02 J
   B01J23/30 M
   H01G9/20 113Z
   H01G9/20 111B
   C25B1/04
   H01G9/20 111C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-187671(P2014-187671)
(22)【出願日】2014年9月16日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 平成26年6月13日にhttp://abstracts.acs.org/chem/248nm/program/view.php?obj_id=287987&termsに掲載
(71)【出願人】
【識別番号】304024430
【氏名又は名称】国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】100080159
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 望稔
(74)【代理人】
【識別番号】100090217
【弁理士】
【氏名又は名称】三和 晴子
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(72)【発明者】
【氏名】松見 紀佳
(72)【発明者】
【氏名】ヴェーダラージャン ラーマン
(72)【発明者】
【氏名】池田 将人
【テーマコード(参考)】
4G169
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169BA04A
4G169BA04B
4G169BA48A
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BB06A
4G169BB09A
4G169BC03A
4G169BC12A
4G169BC13A
4G169BC25A
4G169BC35A
4G169BC36A
4G169BC50A
4G169BC55A
4G169BC56A
4G169BC59A
4G169BC60A
4G169BC60B
4G169BC66A
4G169CC31
4G169DA06
4G169EA08
4G169FA01
4G169FB27
4G169FB42
4G169HA01
4G169HB01
4G169HB06
4G169HB10
4G169HC14
4G169HD06
4K011AA20
4K011AA21
4K011AA22
4K011AA23
4K011AA66
4K011BA01
4K011BA09
4K011DA01
4K021AA01
4K021BA02
4K021BA17
4K021BB01
4K021BB03
4K021BC08
4K021CA06
4K021DA09
4K021DA13
4K021DC01
4K021DC03
(57)【要約】
【課題】光照射下にて、より低い印加電圧で水の電気分解を行うことができる光電極を提供する。
【解決手段】光触媒層と、光触媒層上に担持された、式(1)で表される繰り返し単位を有するポリマーと、を有する光電極。

(式(1)中、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子、または、アルコキシ基を表す。L1は、2価の連結基を表す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒層と、
前記光触媒層上に担持された、式(1)で表される繰り返し単位を有するポリマーと、を有する光電極。
【化1】

(式(1)中、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子、または、アルコキシ基を表す。L1は、2価の連結基を表す。)
【請求項2】
前記L1が、式(2)で表される連結基である、請求項1に記載の光電極。
式(2) −L2−L3−L2
(式(2)中、L2は、それぞれ独立に、単結合、−C(=O)−、−C(=O)NH−、または、−C(=O)O−を表す。L3は、2価の炭化水素基を表す。)
【請求項3】
前記L3が、アルキレン基である、請求項2に記載の光電極。
【請求項4】
前記光触媒層が、酸化チタン、酸化タングステン、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化ニオブ、チタン酸ストロンチウム、タンタル酸カリウム、硫化モリブデン、硫化カドミウム、チタン酸バリウム、および、酸化ビスマスからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の光電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電極に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光触媒を利用して、光照射によって水を電気分解して水素および酸素を製造することに関心が集まっている。
例えば、特許文献1においては、水の電気分解によって水素を発生させるために、光触媒を組み合わせる方法が開示されている。特に、特許文献1(段落0021)においては、光触媒を陽極に使用することにより、水の電気分解に必要な印加電圧を下げることができる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−275598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、エネルギー問題の点からより一層の省電力化が求められており、水の電気分解に関しても必要な印加電圧の一層の低減が求められている。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みて、光照射下にて、より低い印加電圧で水の電気分解を行うことができる光電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、クルクミン由来の構造を有する繰り返し単位を含むポリマーを使用することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、以下に示す手段により上記課題を解決し得る。
【0007】
(1) 光触媒層と、光触媒層上に担持された、後述する式(1)で表される繰り返し単位を有するポリマーと、を有する光電極。
(2) L1が、後述する式(2)で表される連結基である、(1)に記載の光電極。
(3) L3が、アルキレン基である、(2)に記載の光電極。
(4) 光触媒層が、酸化チタン、酸化タングステン、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化ニオブ、チタン酸ストロンチウム、タンタル酸カリウム、硫化モリブデン、硫化カドミウム、チタン酸バリウム、および、酸化ビスマスからなる群から選択される少なくとも1種を含む、(1)〜(3)のいずれか1つに記載の光電極。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、光照射下にて、より低い印加電圧で水の電気分解を行うことができる光電極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】暗所下および光照射下、光電極を用いた直線走査ボルタンメトリー測定の測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の光電極の好適実施態様について説明する。
まず、本発明の従来技術と比較した特徴点について詳述する。
上述したように、本発明の特徴点の一つとしては、クルクミン由来の構造を有する繰り返し単位を含むポリマーを使用している点が挙げられる。このポリマーは、いわゆる光増感剤として機能していると予想される。そのため、このポリマーが光触媒層上に担持されることにより、光エネルギーがより効率的に光触媒層に伝達され、結果として、水の電気分解の理論電圧(1.23V)と比べて、より低電圧にて水の電気分解を実施できると考えられる。つまり、光エネルギーを有効に利用することにより、電気分解に使用する電力を大きく低減することができる。
【0011】
本発明の光電極は、光触媒層と、光触媒層上に担持された、後述する式(1)で表される繰り返し単位を有するポリマーとを有する。
以下では、光電極を構成する部材・材料について詳述する。
【0012】
<光触媒層>
光触媒層は、紫外光や可視光を吸収することにより触媒として機能する光触媒を含む層である。
光触媒としては、例えば、紫外光や可視光の照射により光触媒作用を発現する半導体であり、具体的には、X線分析法などで特定の結晶構造を決定できる、金属元素と酸素元素、窒素元素、硫黄元素、フッ素元素との化合物などが挙げられる。
金属元素としては、例えば、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Ga、In、Tl、Ge、Sn、Pb、Bi、La、Ceなどが挙げられる。
その化合物としては、これら金属の1種類または2種類以上の酸化物、窒化物、硫化物、酸窒化物、酸硫化物、窒弗化物、酸弗化物、酸窒弗化物などが挙げられる。
【0013】
なかでも、光触媒層に含まれる半導体光触媒としては、水の電気分解を行う際の印加電圧をより低減させることができる点(以後、単に「本発明の効果がより優れる点」とも称する)で、酸化チタン、酸化タングステン、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化ニオブ、チタン酸ストロンチウム、タンタル酸カリウム、硫化モリブデン、硫化カドミウム、チタン酸バリウム、および、酸化ビスマスからなる群から選択される少なくとも1種が好ましく挙げられ、特に、酸化チタンおよび/または酸化タングステン、並びに、それらの複合体がより好ましい。
なお、上述した半導体光触媒は、2種以上を混合して使用してもよい。
上記半導体光触媒には、必要に応じて、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウムなどの白金族金属や、酸化ニッケル、酸化ルテニウム、酸化ロジウムなどが助触媒として担持されていてもよい。
【0014】
光触媒の形態は特に制限されず、粒状、チューブ、またはロッドでもよく、これらが後述する基板上に担持された態様であってもよい。
【0015】
光触媒層の厚みは特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、5〜60μmが好ましく、10〜30μmがより好ましい。
【0016】
光触媒層の製造方法は特に制限されず、公知の方法が採用できるが、本発明の効果がより優れる点で、陽極酸化法を用いて光触媒層を作製することが好ましい。陽極酸化法により形成される光触媒層は、表面にナノチューブアレイ構造が含まれる。すなわち、陽極酸化法によれば、表面から光触媒層内へと延びる、径がナノサイズの多数の細孔または窪みが、均一に配列されたアレイ構造を有する層が得られる。
なお、陽極酸化法を実施する際に使用される基板としては、後述する基板が挙げられ、例えば、酸化チタンナノチューブを形成した場合は、基板としてチタン基板が使用される。
【0017】
<式(1)で表される繰り返し単位を有するポリマー>
式(1)で表される繰り返し単位を有するポリマーは、クルクミン由来の構造単位を有する。
【0018】
【化1】
【0019】
式(1)中、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子、または、アルコキシ基を表す。
アルコキシ基中のアルキル部分の炭素数は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、炭素数1〜6が好ましく、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシルが挙げられる。
【0020】
式(1)中、L1は、2価の連結基を表す。2価の連結基の種類は特に制限されず、例えば、−O−、−C(=O)−、−NH−、−C(=O)NH−、−C(=O)O−、アルキレン基、アリーレン基、ヘテロアリーレン基、および、それらの組み合わせが挙げられる。
なかでも、本発明の効果がより優れる点で、L1としては、式(2)で表される連結基が好ましい。
式(2) −L2−L3−L2
式(2)中、L2は、それぞれ独立に、単結合、−C(=O)−、−C(=O)NH−、または、−C(=O)O−を表す。
3は、2価の炭化水素基を表す。炭化水素基としては、アルキレン基(例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基など)、アリーレン基(例えば、フェニレン基など)、または、これらの組み合わせが挙げられる。炭化水素基中の炭素原子の数は特に制限されないが、合成がより容易であり、本発明の効果がより優れる点で、1〜20が好ましく、4〜12がより好ましい。なかでも、L3としては、本発明の効果がより優れる点で、アルキレン基が好ましい。
【0021】
上記ポリマーの重量平均分子量は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、2000〜100000が好ましく、5000〜50000がより好ましい。
【0022】
上記ポリマーの製造方法は特に制限されず、公知の方法を採用できるが、例えば、クルクミンと脂肪族ジカルボン酸またはその誘導体とを反応させる方法や、クルクミンと脂肪族ジイソシアネートまたは芳香族ジイソシアネートとを反応させる方法などが挙げられる。
なお、ポリマー中には、本発明の効果を損なわない範囲で、式(1)で表される繰り返し単位以外の繰り返し単位が含まれていてもよいが、本発明の効果がより優れる点で、式(1)で表される繰り返し単位が主成分として含まれていることが好ましい。なお、ここで主成分とは、ポリマー中に含まれる全繰り返し単位に対して、式(1)で表される繰り返し単位の含有量が50モル%以上であることを意図し、70モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましい。上限は特に制限されず、100モル%が挙げられる。
【0023】
<その他の部材>
光電極には、上記光触媒層と上記ポリマーとが少なくとも含まれるが、他の部材が含まれていてもよい。
例えば、光電極には、光触媒層を支持するための基板が含まれていてもよい。つまり、光電極は、基板と、基板上に配置された光触媒層と、光触媒層に担持された上記ポリマーとを有する構成であってもよい。
基板の種類は特に制限されず、金属、カーボン(グラファイト)等の非金属、または、導電性酸化物等の導電材料により形成された導電性基板を用いることが好ましい。なかでも、良好な加工性を有することから、金属基板を用いることが特に好ましい。金属基板としては、良好な電気伝導性を示す原子の単体、または、合金を用いることができる。原子の単体とは、具体的には、Au、Ti、Zr、Nb、Taなどを挙げることができる。合金とは、具体的には、炭素鋼、チタン合金などを挙げることができるが、電気化学的に安定なものであれば、例示した材料に限定されるものではない。
基板の形状は特に制限されず、例えば、パンチングメタル状、メッシュ状、格子状、または、貫通した細孔を持つ多孔体であってもよい。
また、基板は、複数の層が積層した積層体(例えば、ガラス基板と金属層との積層体)であってもよい。
【0024】
<光電極の製造方法>
光電極の製造方法は特に制限されず、公知の方法を採用でき、例えば、光触媒層とポリマーとを接触させることにより、光触媒層上にポリマーを担持させることができる。光触媒層とポリマーとを接触させる方法としては、例えば、ポリマーを溶解させた溶液に光触媒層を浸漬する方法や、光触媒層上にポリマーを溶解させた溶液を塗布する方法などが挙げられる。
【0025】
<用途>
上述した、光電極は、種々の用途に適用でき、例えば、水の電気分解や、色素増感太陽電池などが挙げられる。なかでも、水の電気分解に適用することが好ましい。
光電極を水の電気分解に適用する場合、光照射下にて、この光電極と水とを接触させ、電圧を印加することにより、水の分解が進行し、酸素または水素が生成される。なお、光電極は、陰極および陽極のいずれで使用されてもよい。
なお、照射される光は、使用される光触媒層の種類に応じて適宜選択されるが、例えば、紫外光、可視光が挙げられる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例により、本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0027】
(ポリマーの合成)
二口フラスコに、クルクミン(0.63g、1.7mmol)とマグネチックスターラーを入れ、窒素置換を行った。次に、クロロホルム(12ml)を添加してクルクミンを溶解させて反応液を調製し、反応液にさらにトリエチルアミン(0.48ml、3.7mmol)を添加した。次に、セバシン酸クロリド(0.36ml、1.7mmol)をクロロホルム(6.0ml)に溶解させた溶液を別途用意し、0℃に冷却した上記反応液に3時間かけて滴下した。得られた反応液にクロロホルム(40ml)を加えて、純水で3回洗浄を行った後、ろ過を行い、回収された固形分を真空乾燥して、所定のポリマーを得た(収率60%、0.55g、重量平均分子量:15000)(以下、反応スキーム)。
【0028】
【化2】
【0029】
(光触媒層の製造)
チタン基板を洗浄液(HF:HNO:HO(質量比)=1:3:16)に30秒浸漬した後、純粋で洗浄して、チタン基板の表面を洗浄した。
得られたチタン基板を用いて、陽極酸化を実施して、酸化チタンと酸化タングステンとからなるナノチューブアレイ構造を有する光触媒層(厚み:15μm)を作製した。なお、陽極酸化の方法としては、まず、エチレングリコールと、水と、NHFとを9:1:0.5(体積比)で含む溶液を用意し、溶液にタングステンリン酸をその含有量が2.4質量%となるように添加して、電解液を調製した。得られた電解液に、陽極としてチタン基板、陰極として白金基板を浸漬し、50Vにて2時間半電圧を印加することにより、光触媒層を作製した。なお、陽極と陰極との距離は2cmであった。
【0030】
(光電極の製造)
上記で作製したポリマーを含むクロロホルム溶液(ポリマー濃度:10−3〜10−4ユニットモル)に、光触媒層が配置されたチタン基板を24時間浸漬し、所定のポリマーが担持された光触媒層を製造した。
【0031】
(電圧の測定)
上記で得られた光電極を用いて、ソーラーシュミレーターによる疑似太陽光照射下(AM1.5)における直線走査ボルタンメトリー測定と、暗所下における直線走査ボルタンメトリー測定とを実施した。電圧範囲は0〜1.6V(vs Ag/AgCl)、走査速度は10mV/sであった。なお、上記で得られた光電極を作用電極、Ag/AgCl電極を参照電極、白金基板を対電極として使用し、電解液としては0.1M NaHPO水溶液を使用した。
得られた結果を、図1に示す。
図1に示すように、暗所下では1.75V付近から次第に電流値が上昇し、水素の発生が確認された。一方、光照射下では0.2〜0.3V付近から急激に電流値が上昇し、水素の発生が確認された。これらの結果より、本発明の光電極を使用すると、より低い電位で効果的に水の電気分解を実施できることが確認された。
図1