【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明のモータ回転子支持体の第1の形態は、モータの回転子に配置される磁性体を支持する支持体であって、比透磁率が1.005未満で、室温における0.2%耐力が650MPa以上の非磁性鋼からなる複数の支持体本体と、少なくとも二つの前記支持体本体間に介在する樹脂材とが積層されていることを特徴とする。
【0010】
本発明では、非磁性鋼が支持体本体に用いられ、支持体として構成された際に、支持体本体は、比透磁率が1.005未満で、室温(例えば5℃〜35℃)における0.2%耐力が650MPa以上の特性を有している。比透磁率が1.005未満であることにより、支持体において磁気に影響を与えることなく磁性体を支持することができる。また、室温における0.2%耐力が650MPa以上であることにより、素材を薄肉化した状態で高回転させても磁性体を確実に支持することができる。なお、支持体本体の0.2%耐力は、さらに700MPa以上であるのが望ましい。
【0011】
なお、樹脂材は、少なくとも二つの支持体本体間に介在しているものであれば良く、支持体には、それよりも多い支持体本体を有するものであってもよい。その場合、各支持体本体間に樹脂材が介在しているものでもよく、樹脂材を介在させない支持体本体が積層されているものを含むものであってもよい。単材の支持体本体同士を積層することにより、十分な加工率で製造した単材を使用して支持体の剛性を高めることができる。
【0012】
樹脂材は、樹脂素材において通常、比透磁率が通常1.0であり、比重は、通常0.8〜1.8程度であり、鋼よりも軽量であるため、非磁性特性を損なうことなく支持体の軽量化を図ることができる。また、非磁性鋼の電気抵抗は6〜9×10−
5Ωcm程度であり、絶縁性の樹脂材では、電気抵抗が10
9Ωcmを超えるため、支持体全体の電気抵抗を増加させることができる。なお、本発明としては、樹脂の比透磁率や比重、非磁性鋼、樹脂材の電気抵抗が上記記載内容に限定されるものではない。
【0013】
本発明の他の形態のモータ回転子支持体は、前記本発明において、前記支持体本体に、前記磁性体が嵌め込まれて前記磁性体周縁を支持する支持部を有し、前記樹脂材は、前記磁性体が貫通して少なくとも前記磁性体外周縁とは非接触である貫通部を有していることを特徴とする。
【0014】
強度の高い非磁性鋼を用いて支持体を薄肉化し過ぎると、磁石の固定が困難になったり、支持体の軸方向の剛性が低下したりすることが懸念される。磁石の保持は非磁性鋼、保持しない部分には樹脂を採用することで、磁石の固定、軸方向の剛性の確保、回転子の軽量化、電気抵抗の向上に伴うモータの更なる効率向上のすべてを実現することができる。
上記形態では、磁性体は、強度の高い支持体本体の支持部で支持される。
なお、支持部による磁性体の支持は、磁性体外周縁の全周などに亘って行われる必要はないが、支持体本体に対し磁性体が確実に保持されるような支持状態とするように、磁性体周縁の少なくとも複数箇所で支持が行われるのが望ましい。支持部としては、例えば支持穴が挙げられる。支持穴には、上記したように磁性体が嵌め込まれる穴形状を一部または全部で有していればよい。支持穴は、樹脂材を介在させる支持体本体間で対向するように配置されて、他方向側では磁性体が貫通する形状を有しないものであってもよい。すなわち、多方向側では、磁性体よりも小さい貫通孔が形成されたり閉塞されたりしているものであってもよい。なお、支持部による磁性体の支持は、支持部の形状保持などによって行ってもよく、接着などの固定手段を利用してもよい。なお、支持部は、上記のように支持穴に限定されるものではなく、適宜の方法により磁性体を保持することができる。
【0015】
また樹脂材に設けられる貫通部は、磁性体が貫通し、かつ少なくとも磁性体外周縁と非接触となる形状を有することで、支持体が回転する際に磁性体の遠心応力が樹脂材に加わらず、非磁性鋼に対し比較的強度の低い樹脂材への負荷を軽減して樹脂材の変形、損傷などを防止する。磁性体外周縁と樹脂材とが非接触となるために、磁性体外周縁と樹脂材とが隙間を有するようにしてもよく、また、磁性体外周縁の外側で樹脂材が開放されているものであってもよい。また、貫通部は、磁性体の周縁全体と接触しない形状とすることが望ましい。これによりいずれの方向においても樹脂材に磁性体からの負荷が加わることがない。
【0016】
本発明の他の形態のモータ回転子支持体は、前記本発明において、前記非磁性鋼が、質量%で、C:0.07%以下、Si:0.1〜2.0%、Mn:10〜25%、Cr:12〜25%、N:0.25〜0.8%、Al:0.005〜0.02%、Ni:5.0%以下、Mo+1/2W:3.0%以下、V、Nb:0.1%以下、Co:3%以下およびB:0.01%以下を含有し、残部がFeと不可避的不純物とからなる組成を有することを特徴とする。
【0017】
本発明は非磁性鋼の種別が特定のものに限定されるものではないが、好適には18Mn−18Cr系の材料を用いることができる。以下に、18Mn−18Cr系非磁性鋼について、好適とされる組成の各成分の作用と組成が定められる理由を説明する。なお、化学組成について、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0018】
Si:0.1〜2.0%
Siは脱酸材として使用するため0.1%以上必要である。しかし、Siはフェライト相形成元素であるため過剰に含有するとフェライト相が析出し、また冷間加工性も悪くなるため上限を2.0%とする。
【0019】
Mn:10〜25%
Mnはオーステナイト相形成元素であり、N溶解度を高くするのに10%以上が必要である。しかし、過剰に含有すると強度が低下するため上限を25%とする。同様の理由で下限を13%、上限を24%とするのが望ましく、さらに下限を16%、上限を21%とするのが一層望ましい。
【0020】
Cr:12〜25%
CrはN溶解度を確保するために12%以上必要である。しかし、Crはフェライト形成元素であるため過剰に含有するとフェライト相が析出するため上限を25%とする。なお、同様の理由で下限を14%、上限を23%とするのが望ましく、さらに下限を16%、上限を21%とするのが一層望ましい。
【0021】
N:0.25〜0.8%
Nは強度を確保するために0.25%以上が必要であるが、過剰に含有するとブローホール生成の原因となるため上限を0.8%とする。
【0022】
Al:0.005〜0.02%
Alは脱酸材として添加することができるが、過剰に含有すると窒化物を形成し靭性を低下させるため、上限を0.02%として所望により含有するものとする。なお、脱酸材としての作用を十分に得るため0.005%以上含有するのが望ましい。
【0023】
Ni:5.0%以下
Niは、オーステナイト相形成元素であり、所望により含有する。しかし5.0%を超えると強度が低下することから上限を5.0%とする。また、積極的な含有では、1.0%以上含有するのが望ましく、1.5%以上含有するのが一層望ましい。なお、不可避不純物として1.0%未満するものであってもよい。
【0024】
Mo+1/2W:3.0%以下
WおよびMoは強度を向上させる成分であり、所望により含有する。ただし、過剰に入れると冷間加工性を悪化させるため、所望によりそれぞれ単独であるいは複合してMo+1/2Wで3.0%以下の範囲で含有することができる。なお、いずれかを含有する場合にはその作用を十分に得るため、Mo+1/2Wで1.0%以上とするのが望ましい。
【0025】
V、Nb:各0.1%以下
VおよびNbは窒素と結合して窒化物を形成し、熱処理時の結晶粒粗大化を防止するので、所望により含有する。ただし、フェライト相形成元素であるため過剰に含有するとフェライト相が析出する。さらに、過剰に添加すると延靱性の低下を招く。そのため、それぞれ0.1%以下の範囲で含有することができる。なお、含有する場合にはその作用を十分に得るためそれぞれ0.01%以上含有するのが望ましい。
【0026】
Co:3%以下
Coはオーステナイト相形成元素であり、所望により含有する。ただし、高価な成分であるため3.00%を上限に含有することができる。なお、含有する場合にはその作用を十分に得るためそれぞれ0.5%以上含有するのが望ましい。
【0027】
B:0.01%以下
Bは固溶強化するとともに微細な窒化物による強化も期待でき強度、靭性を改善するので、所望により含有する。ただし、過剰に含有すると粗大な窒化物となり靭性を低下させる要因となる。そのため、0.01%以下の範囲で含有することができる。なお、含有する場合にはその作用を十分に得るためそれぞれ0.003%以上含有するのが望ましい。
【0028】
C:0.07%以下
Cは、Nとともに強度向上に寄与するが、耐食性を悪化させるため、その上限を0.07質量%とする。
【0029】
不可避的不純物
P、S:各0.03%以下
P、Sは延靭性や熱間加工性に影響を及ぼす。そのため、P、Sはそれぞれ0.03%以下とすることが望ましい。
【0030】
本発明の他の形態のモータ回転子支持体は、前記本発明において、前記支持体本体が前記非磁性鋼の冷間加工材からなることを特徴とする。
【0031】
支持体本体には、冷間加工を経た冷間加工材を用いることができ、冷間加工による加工強化で、一層の高強度化を図ることができる。
【0032】
本発明の他の形態のモータ回転子支持体は、前記本発明において、前記樹脂材が、樹脂と強化材とを含むことを特徴とする。
【0033】
樹脂材は、ガラス繊維やナイロン、ビニロン、アラミド繊維やビニロン繊維などの有機繊維などを強化材として加えて成形したもので構成することができる。また、強化材としてカーボン繊維を用いることができるが、絶縁性の点で好ましくない。
また、樹脂素材としては特に限定されるものではなく、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などを用いることができる。また、樹脂は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれであってもよい。
また、樹脂材には、強化材とともに、硬化剤や硬化促進剤などの助材を含むものであってもよい。
【0034】
本発明の他の形態のモータ回転子支持体は、前記本発明において、前記樹脂材が、1.8MPaの曲げ応力に対し、100℃以上の荷重たわみ温度を示すことを特徴とする。
【0035】
モータはエンジンやディスクブレーキなど、温度が上昇する装置の周辺に配置される可能性が高い。さらに、モータの動作においては、支持体はモータの動作熱や電磁誘導によって昇温する。その場合、使用する樹脂材は想定される使用環境に耐えうるように、100℃以上でも形状を保持している必要がある。100℃以上の強度、剛性が確保されるか否かを判断する基準としては、JIS K7191などで定められた荷重たわみ温度がある。1.8MPaの荷重を付加した際のたわみ温度が100℃以上の樹脂は好適なものとして使用可能と判断される。
荷重たわみ温度が100℃以上となる樹脂としては、PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂、PPSU(ポリフェニルサルホン)樹脂、PBT(ポリブチレンテレフタレート)樹脂、66ナイロン、PC樹脂などがある。ガラス繊維で強化されたPPSガラス繊維強化樹脂、PEEKガラス繊維強化樹脂、PBTガラス繊維強化樹脂、66ナイロンガラス繊維強化樹脂、6ナイロンガラス繊維強化樹脂などがある。以上の樹脂は一例であり、それらに限定するものではない。
【0036】
本発明の他の形態のモータ回転子支持体は、前記本発明において、前記樹脂材が、射出成形体であることを特徴とする。
【0037】
高強度の非磁性鋼は高強度ゆえに薄肉化が可能となるが、薄肉化すると支持体の軸方向に沿った方向での剛性が不足する可能性がある。その際には、樹脂材は適宜の複雑な構造とすることで、支持体全体の剛性を確保する役割を担うことができる。樹脂材の形状については軸方向の剛性を確保するためにも、支持体本体間では径方向に沿って多数の梁が配置される構造が有効と考えられる。例えば、配置される磁性体間の一部または全部に梁を有する構造とする。梁は、磁性体の内周側または/および外周側で周方向に沿って設けた樹脂材におけるリング状の部位に連続するのが望ましい。ただし、剛性を確保できる形状であれば、本発明としては樹脂材の形状が特に限定されるものではない。樹脂材は、射出成形体を用いれば各種の形状にすることが容易である。ただし、成形方法がこれに限定されるものではない。
【0038】
本発明の他の形態のモータ回転子支持体は、前記本発明において、前記磁性体が、希土類系磁石と非希土類系磁石の少なくとも一方であることを特徴とする。
本発明の他の形態のモータ回転子支持体は、前記本発明において、前記非希土類系磁石が、フェライト磁石を含むことを特徴とする。
本発明の他の形態のモータ回転子支持体は、前記本発明において、前記磁性体として、圧粉鉄心を含むことを特徴とする。
【0039】
本発明で支持する磁性体の種別は本発明としては特に限定されるものではなく、希土類系磁石、非希土類系磁石のいずれであってもよい。非希土類系磁石としてはフェライト磁石などを用いることができ、また圧粉鉄心などを用いることもできる。
【0040】
本発明の他の形態のモータ回転子支持体は、前記本発明において、前記支持体本体および前記樹脂材が、カシメ、ねじ、溶接、接着、リング材による外周焼き嵌めの少なくとも一つによって積層固定されていることを特徴とする。
【0041】
支持体本体および樹脂材は、種々の方向によって積層固定することができる。本発明としては、固定方法は特に限定されない。
【0042】
本発明の他の形態のモータ回転子支持体は、前記本発明において、前記樹脂材は、当該支持体を回転させる回転軸が取り付けられる軸受部の外周側において、前記支持体本体間に介在していることを特徴とする。
【0043】
樹脂材は、支持体本体間に介在させるが、支持体本体間の一部空間のみに介在させるようにしてもよい。磁性体は、通常、支持体の外周側に周方向に沿って間隔を置いて複数が配置される。この磁性体周辺で支持体には剛性が特に必要とされる。また、支持体では、回転軸が固定されて回転動作がなされるため、軸受部を有したものがあり、樹脂材は少なくともこの軸受部の外周側に配置することができる。さらに、磁性体が配置される周囲に樹脂材を位置させるようにしてもよい。
【0044】
本発明の他の形態のモータ回転子支持体は、前記本発明において、前記樹脂材が介在している前記支持体本体間に、当該支持体を回転させる回転軸が取り付けられる軸受部を有することを特徴とする。
本発明の他の形態のモータ回転子支持体は、前記本発明において、前記軸受部は非磁性特性が要求されず、一般鋼、アルミニウム合金、マグネシウム合金のいずれかで構成されて、前記支持体本体と前記樹脂材の少なくとも一方に固定されていることを特徴とする。
【0045】
軸受部の材料は、非磁性特性が特に要求されないため、一般的な材料を用いることができる。また、軸受部の素材として、非磁性の材料、絶縁性を有する材料を用いるようにしてもよい。
【0046】
本発明の他の形態のモータ回転子支持体は、前記本発明において、前記樹脂材が介在している前記支持体本体の少なくとも一方には、その周縁の一部または全部に、前記樹脂材側に延びて前記樹脂材の外周面外側に位置する曲がり部を有することを特徴とする。
【0047】
上記曲がり部は、樹脂材の外周側に位置することで樹脂材に破損などが生じた場合に、破損物がモータ内などに飛散するのを防止する。また、樹脂材を保護する機能も有する。
曲がり部は、樹脂材が介在している支持体本体の一方に設けられているものでもよく、また、両方に設けられているものであってもよい。
【0048】
本発明の一つの形態のモータ回転子支持体の製造方法は、非磁性鋼を冷間加工して比透磁率が1.005未満で、室温における0.2%耐力が650MPa以上の複数の支持体本体を作成し、少なくとも二つの前記支持体本体間に樹脂材を介在させて積層し、互いに固定することを特徴とする。
【0049】
本発明のモータ回転子支持体は、製造工程が格別なものに限定されるものではなく、熱間加工を経た冷間加工材に機械加工を経て鋼板を製造し、これを樹脂材と積層して結束することでモータ回転子支持体を構成することができる。
【0050】
本発明の他の形態のモータ回転子支持体の製造方法は、前記本発明において、前記冷間加工の冷間加工率が10〜40%であることを特徴とする。
【0051】
冷間加工は、加工率10〜40%で行うことができる。加工率が低いと、加工強化が十分に得られず、加工率が高いと延靭性を十分に得ることができない。
【0052】
本発明の他の形態のモータ回転子支持体の製造方法は、前記本発明において、前記冷間加工後に、前記非磁性鋼に、300〜600℃×0.5時間以上の焼鈍処理を行うことを特徴とする。
【0053】
冷間加工後は、形状を安定化させるため、300〜600℃で0.5時間以上の焼鈍処理を施すことができる。
【0054】
本発明の他の形態のモータ回転子支持体の製造方法は、前記本発明において、前記支持体本体は、支持体本体となる粗形材に対する機械加工が施されていることを特徴とする。
【0055】
粗形材に対し、切り出し、冷間打ち抜き加工、切削加工、レーザー加工、ウォータージェット加工、放電加工、深絞り加工および溶接などの1以上の機械加工を施すことができる。