【課題】ハーネスの組立性や信頼性を低下させることなく、ドアミラーが前倒状態であっても、回転体ケースとシャフト部材の間の隙間からの水の侵入をより確実に防止できる自動車のドアミラー構造を提供する。
【解決手段】回転体ケース(11)の開口部(14a)に嵌合される筒状のキャップ(16)を備え、キャップ(16)は、ドアミラー前倒時においても、その外周面が軸部(3c)の内周面から離間した状態で隙間(G)を内側から覆うように構成された下方延長部(17c)を備えることを特徴とする。
前記キャップは、その上部に前記回転体ケースの前記開口部と上下方向に当接するフランジ部と、該フランジ部の下方であって前記下方延長部よりも上方に前記開口部に圧入可能なリブ部と、を有する
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の自動車のドアミラー構造。
【背景技術】
【0002】
昨今、自動車のドアミラーとして、電動で車両後方に傾倒して格納する電動格納式のドアミラーが広く用いられている。
【0003】
この電動格納式のドアミラーは、
図8に示すように、各ドアDの側方に突設したベース部材Bに対して車体前方F及び後方Rへ回動可能に取り付けられ、運転時に各ドアDから外側方に広げられた使用状態aと、駐車時等に車両後方Rに格納された格納状態bとの間を電動で回動可能に構成されている。
【0004】
このドアミラーは、車両後側方を写すミラー本体と、該ミラー本体を収容するミラーハウジングと、を備えている。該ミラーハウジングの内部には、各ドアから突設するベース部材に固定され、その軸方向が上方に延びるシャフト部材と、該シャフト部材に対して回動可能に軸支され、ミラー本体及びミラーハウジングが取り付けられた回転体ユニットが設けられている。この回転体ユニットは、モータと、該モータの動力をシャフト部材に対して伝達するための動力伝達機構と、が回転体ケース内に収容して設けられており、モータの動力をシャフト部材に伝達することで、モータを内蔵した回転体ユニット自体をシャフト部材に対して回転させるように構成されている。また、この回転体ユニットには、動力伝達機構による動力伝達の切断またはドアミラーの可動範囲の規制を解除するためのクラッチ機構が設けられている。このクラッチ機構は、回転体ユニットを上方に持ち上げながら動力伝達の切断または可動範囲の規制解除を行うように構成されている。
【0005】
さらに、
図8に示すように、使用状態aのドアミラー1に後方からの衝突等により車両前方Fへ荷重が加わると、ドアミラーの破損防止または安全性向上のため、クラッチ機構によって動力伝達の切断または可動範囲の規制解除を行い、ドアミラーが前方Fに傾倒して前倒状態cとなるように構成されている。このドアミラー前倒時に、回転体ユニットは上昇しながら前方へ回転する。
【0006】
また、このドアミラーには、電動格納用のモータ以外に、ミラー角度調整用の電動ユニット、鏡面ヒータ、ターンランプ等の電装品が設けられており、これら電装品にドア側から電力供給するためのハーネスが配索されている。このハーネスHは、
図9(a)に示すように、ドア側から、シャフト部材102の軸方向に延びる貫通孔102aと、該貫通孔102aに対応して回転体ケース101の上面に設けられた開口部101aと、を挿通させて図示しない各電装品に配索されている。
【0007】
しかし、
図9(a)のドアミラーの場合、シャフト部材102の上端面102aと該上端面102aと対向する回転体ケース101の開口部101aの縁部101bとの間には隙間Gが存在する。そのため、ミラーハウジングとミラー本体の間からドアミラー内に水が入った際、この隙間Gを通って回転体ユニット内まで水が浸入しないように防水を行う必要がある。
【0008】
上述の課題に対して、従来技術として後述する同図(b)、(c)、(d)の解決手段がある。
図9(b)に示すように、例えば、特許文献1には、回転体ケース101の縁部101bにシール部材103を取り付けたドアミラーについて記載されている。該ドアミラーは、このシール部材103の先端をシャフト部材102の上端面102aに押し当てることによって隙間Gをシールするように構成されている。また、
図9(c)に示すように、例えば、特許文献2には、回転体ケース101の開口部101aから下方に延びてシャフト部材102の貫通穴102aに上方から挿入される挿入部101cを設けたドアミラーが記載されている。さらに、
図9(d)に示すように、回転体ケース101の開口部101aにグロメット104を嵌合したドアミラーがある。
【0009】
これら従来技術によれば、シャフト部材102と回転体ケース101の間の隙間Gから回転体ケース内に水が侵入するのを防止することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところが、
図9(b)に示したドアミラーの場合、使用状態から前倒状態になると、クラッチ機構の構造上、回転体ケース101がシャフト部材102に対して上昇する。そのため、回転体ケース101に取り付けられたシール部材103も上昇し、シール部材103の先端がシャフト部材102の上端面102aから離間して、このシール部材103の先端とシャフト部材102の上端面102aとの間に隙間ができる可能性がある。そのため、例えば、洗車機での洗車時にドアミラーに高圧の洗浄水が様々な方向から多量に噴射されるとき、洗浄ブラシの衝突によってドアミラーが前倒状態となった場合、シール部材103の離間による隙間から洗浄水がドアミラー内部に侵入し、この内部にあるばねや歯車等の金属部品を腐食するおそれがあった。
【0012】
また、
図9(c)に示したドアミラーの場合、ハーネスHの先端には図示しないコネクタが接続されており、このコネクタは通常、ハーネスHよりも断面形状が大きい。よって、ドアミラーの組立時にハーネスHを配索するには、挿入部101cをコネクタも挿入可能な内径とする必要がある。したがって、ハーネスの組立性を確保するために、この挿入部101cを貫通孔102aに内挿するシャフト部材102が大径化することとなり、その結果、ドアミラー全体が大型化するおそれがあった。
【0013】
さらに、
図9(d)に示したドアミラーの場合、ハーネスHは、ドアミラーが傾倒する度に、グロメット104により周囲が保持された部分の直下で局所的に捻られたり、引っ張られたりすることで接続不良となるおそれがあるので、ハーネスHの信頼性を低下させる可能性があった。
【0014】
そこで、本発明は、ハーネスの組立性や信頼性を低下させることなく、ドアミラーが前倒状態であっても、回転体ケースとシャフト部材の間の隙間からの水の侵入をより確実に防止できる自動車のドアミラー構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決するため、本発明に係る自動車のドアミラー構造は、次のように構成したことを特徴とする。
【0016】
まず、本願の請求項1に記載の発明は、
ドア側に固定された基部と、該基部の上方に延びてその軸方向に貫通孔が設けられた筒状の軸部と、を有するシャフト部材と、
前記シャフト部材に対して前記軸部の軸周りを回動可能に軸支され、その上面のうち前記軸部の上端面に対向する位置に、前記軸部の前記貫通孔に対応する開口部を備えた回転体ケースと、を備え、
前記回転体ケースには、前記回転体ユニット自体を前記シャフト部材に対して回転させる動力を発生させるためのモータと、該モータの動力を前記シャフト部材に対して伝達するための動力伝達機構と、がその内部に収容して設けられており、
当該ドアミラー前倒時に、前記回転体ケースを前記シャフト部材に対して上方に持ち上げて前記シャフト部材の前記軸部の上端面と該上端面に対向する前記回転体ケースの前記開口部の縁部との間の隙間を広げながら前記動力伝達機構による動力伝達の切断または当該ドアミラーの可動範囲の規制を解除するクラッチ機構を備え、
前記シャフト部材の前記軸部の前記貫通孔と前記回転体ケースの前記開口部とには、当該ドアミラーに搭載された電装品に電力を供給するためのハーネスが挿通して配索されている自動車のドアミラー構造において、
前記回転体ケースの前記開口部に嵌合される筒状のキャップを備え、
前記キャップは、ドアミラー前倒時においても、その外周面が前記軸部の内周面から離間した状態で前記隙間を内側から覆うように構成された下方延長部を備える
ことを特徴とする。
【0017】
また、本願の請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の自動車のドアミラー構造であって、
前記ハーネスは、その端部に前記電装品と電気的に接続するためのコネクタ、またはその途中の配線が結束された結束部を備えており、
前記キャップは、前記コネクタまたは前記結束部が挿通困難な内径を有し、
前記貫通孔と前記開口部に挿通される前記ハーネスは、前記キャップが取り付けられた後に前記コネクタが取り付けられた、または前記結束部が形成されたものである
ことを特徴とする。
【0018】
また、本願の請求項3に記載の発明は、前記請求項1または2のいずれか1項に記載の自動車のドアミラー構造であって、
前記キャップと前記回転体ケースの間に、ドアミラー格納時または使用時に前記回転体ケースと前記シャフト部材の間をシールするためのシール部材を備える
ことを特徴とする。
【0019】
また、本願の請求項4に記載の発明は、前記請求項1から3のいずれか1項に記載の自動車のドアミラー構造であって、
前記キャップは、その上部に前記回転体ケースの前記開口部と上下方向に当接するフランジ部と、該フランジ部の下方であって前記下方延長部よりも上方に前記開口部に圧入可能なリブ部と、を有する
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
以上の構成により、本願各請求項に係る発明によれば、次の効果が得られる。
【0021】
請求項1に係る発明によれば、回転体ケースの開口部に嵌合される筒状のキャップは、ドアミラー前倒時に、軸部の内周面から離間した状態で隙間を覆うように構成された下方延長部を備えるので、後方からの衝突等によりドアミラーが前倒状態となっても、回転体ケースとシャフト部材の間の隙間から水が侵入するのをより確実に防止することができる。
【0022】
また、請求項1に係る発明によれば、回転体ケースと別体部品であるキャップを用いることで、コネクタを取り付ける前のハーネスに、コネクタを挿通不能な内径を有するキャップを予め組み付けておくことができる。これによれば、コネクタを挿通可能な内径を有するキャップを使用する場合に比べて、軸部の貫通孔の内径が小さくて済むので、シャフトを大型化せずに、ハーネス及びその先端のコネクタの軸部への挿通が容易になる。
【0023】
さらに、請求項1に係る発明によれば、筒状のキャップを用いており、このキャップ内でハーネスは回転や摺動が可能であるので、このキャップによってハーネスが局所的に捻られる、または引っ張られることで接続不良となったり、ドアミラーの回動の妨げとなったりするおそれがない。
【0024】
請求項2に係る発明によれば、ハーネスは、その端部に電装品と電気的に接続するためのコネクタ、またはその途中の配線が結束された結束部を備えており、キャップは、コネクタまたは結束部が挿通困難な内径を有し、貫通孔と開口部に挿通されるハーネスは、キャップが取り付けられた後にコネクタが取り付けられた、または結束部が形成されたものであるので、コネクタの取付後または結束部の形成後のハーネスは、このコネクタまたは結束部がストッパ部材となってキャップがハーネスから抜け落ちるのを防止してくれる。したがって、ハーネスの回転体ケースへの組付け時にキャップをハーネスから抜け落ちないように保持しておくためのストッパ部材が不要である。さらに、ハーネスがキャップと共にモジュール化されているので、部品管理や組付け作業がより容易となる。
【0025】
請求項3に係る発明によれば、ドアミラー格納時または使用時には、キャップと回転体ケースの間に設けられたシール部材によって、回転体ケースとシャフト部材の間がシールされるので、ドアミラー格納時または使用時には、キャップと共にシール部材によって内部への水の浸入が防止される。したがって、より確実に水の浸入を抑制することができる。
【0026】
請求項4に係る発明によれば、キャップは、その上部に回転体ケースの開口部と上下方向に当接するフランジ部を有するので、フランジ部と回転体ケースの開口部の間を密接させることで、キャップと回転体ケースの開口部の間からの水の浸入をより抑制することができる。さらに、キャップは、フランジ部の下方であって下方延長部よりも上方に開口部に圧入可能なリブ部を有するので、開口部にキャップを圧入する際に、リブ部の弾性変形によって十分な保持力を安定して得ることができる。これにより、圧入作業を円滑に行うことできる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の第1実施形態に係るドアミラー1の構造について、
図1〜
図5を参照しながら説明する。なお、
図1は、ドアミラー1の格納状態または使用状態を示している。
【0029】
図1に示すように、各ドアの側方に突設したベース部材Bに対して車体前方及び後方へ回動可能に取り付けられている電動格納式のドアミラー1は、車両後側方を写すミラー本体(図示しない)と、該ミラー本体を収容するミラーハウジング2と、を備えている。
【0030】
ミラーハウジング2の内部には、ベース部材Bに支持固定され、その軸方向が上方に延びるシャフト部材3と、該シャフト部材3に対して回動可能に軸支され、ミラー本体及びミラーハウジング2が取り付けられた回転体ユニット4とが設けられている。
【0031】
シャフト部材3は、上下方向に軸芯を有し、その軸方向に貫通孔3aが設けられた水平断面が略円環状に形成された筒状の部材であり、その下側にベース部材Bに固定される基部3bと、該基部3bから上方に延びる軸部3cと、を有する。基部3bは、その上面に、回転体ユニット4を支持する環状の支持部3dを有し、その下面に、ベース部材Bにねじ(図示しない)によって固定するための複数のねじ止め孔部3eを有する。軸部3cは、その下側からギヤ取付部3f、スプリング取付部3g及び上端部3hを有する。なお、本実施形態では、これら基部3b及び軸部3cは、樹脂成形により一体的に形成されている。
【0032】
ギヤ取付部3fには、略円環状のサンギヤ5が外挿されている。このサンギヤ5は、
図3(a)に示すように、その下方の内周面に歯車5aと、その外周面に動力伝達機構10のウォームギヤ部12bと係合する歯車5bと、を備える。このサンギヤ5は、常にその上面に(
図3に図示しない)コイルスプリング7の押圧付勢力がかけられ、その下面はロアケース13によって支持されている。
【0033】
このギヤ取付部3fは、ドアミラー1が使用状態または格納状態では、
図3(a)に示すように、外挿されたサンギヤ5が相対回転しないように、サンギヤ5の歯車5aが軸方向に移動可能に係合される歯車3iがその外周面に形成されている。さらに、この歯車3iの直下の外周面には、サンギヤ5の落下を防止するための段付き部3jが形成されている。歯車3iの直上の軸部3cは縮径されており、サンギヤ5を上方に移動させると、歯車5aと歯車3iの係合が解除されるように構成されている。
【0034】
ここで、ドアミラー1が前倒状態となった場合、
図3(b)に示すように、可動範囲規制部15のクラッチ機能により、ロアケース13が上昇されるのに伴って、サンギヤ5はコイルスプリング7の押圧付勢力に抗して上昇され、歯車5aと歯車3iの係合が解除され、サンギヤ5はギヤ取付部3fに対して相対回転できるようになる。これにより、回転体ユニット4はシャフト部材3に対して回転方向にフリー状態となり、シャフト部材3の軸周りを荷重の作用方向に回動可能となる。
【0035】
スプリング取付部3gは、略円筒状に形成され、環状のスペーサリング6と、該スペーサリング6を介してサンギヤ5を下方に押圧付勢するためのコイルスプリング7が外挿されている。スプリング取付部3gの上部には、コイルスプリング7を上方から押さえるための押さえ部材8が外挿され、押さえ部材8の内周縁がスプリング取付部3gの外周面に形成された凹部3kに係止されている。
【0036】
この回転体ユニット4は、DCモータ等の回転式のモータ9と、該モータ9の回転動力をシャフト部材3に対して伝達するための動力伝達機構10と、これらのモータ9及び動力伝達機構10等を内部に収納する回転体ケース11と、を備えている。モータ9は、モータ9自体を内蔵する回転体ユニット4をシャフト部材3に対して回転可能な動力を発生することができるものである。
【0037】
本実施形態では、動力伝達機構10として、上述のようにギヤ取付部3fに歯車3iが設けられ、サンギヤ5が外挿されると共に、モータ9の回転軸にはウォームギヤ部9aが設けられ、モータ9とシャフト部材3の間には、モータ9のウォームギヤ部9aに噛合する平歯車部12aと、サンギヤ5に噛合するウォームギヤ部12bとが同軸上の両端に形成された伝達歯車12が設けられている。
【0038】
上述の動力伝達機構10によれば、モータ9の回転力は、この伝達歯車12の平歯車部12aに伝達され、この平歯車部12aの回転に伴って回転するウォームギヤ部12bの回転力がサンギヤ5に伝達される。このとき、サンギヤ5は、シャフト部材3のギヤ取付部3fに対して相対回転しないように係合しているので、モータ9を内蔵する回転体ユニット4及び該回転体ユニット4に取り付けられたミラー本体及びミラーハウジング2が回動する。
【0039】
回転体ケース11は、その下面がシャフト部材3によって支持されると共にシャフト部材3に対してその軸周りを回動可能に設けられた、その内部にモータ9及び動力伝達機構10を保持するロアケース13と、該ロアケース13の上部を覆うアッパカバー14と、から構成されている。
【0040】
ロアケース13は、上方に開口した空洞部13aを有し、該空洞部13aは、モータ9の回転軸5aを下向きにして収納すると共に、伝達歯車6をその回転軸5aを水平方向に向けて回動可能に支持して収納している。また、この空洞部13aには、ロアケース13に下方から挿入されたシャフト部材3に外挿されるサンギヤ5、コイルスプリング7及び押さえ部材8が、空洞部13aの内壁面に接触しないように収納されている。また、ロアケース13は、その下面にシャフト部材3を挿通するための開口部13bを備え、該開口部13bはその上方にある空洞部13aと連通している。
【0041】
この開口部13bの下面には、シャフト部材3の基部3b上面の支持部3dと対向し、この支持部3dによって支持される環状の被支持部13cと、被支持部13cの周縁には、その下方のシャフト部材3との間からの水の浸入を防止するためのシール部13dと、が設けられている。
【0042】
さらに、ロアケース13には、ミラーハウジング2をねじ等により取り付けるミラー本体取付部13eと、ミラー本体をねじ(図示しない)によって取り付けるための複数のねじ止め孔部13fが設けられている。
【0043】
アッパカバー14は、その上面にハーネスHを挿通するための開口部14aを備える。この開口部14aは、アッパカバー14の上面のうちシャフト部材3の上端部3hの上端面3mに対向する位置に軸部3の貫通孔3aに対応して設けられている。
【0044】
これらロアケース13とアッパカバー14には、図示しない係止穴と係止突起がそれぞれ設けられており、ロアケース13の係止穴にアッパカバー14の係止突起が係止されることで、ロアケース13及びアッパカバー14が回転体ケース11として一体的に構成されている。なお、本実施形態では、ロアケース13及びアッパカバー14は、樹脂成形品にねじ止め孔部3e、13f等の後加工を行って形成されている。
【0045】
上述のシャフト部材3の支持部3dとロアケース13の被支持部13cによって、ドアミラー1の可動範囲を規制する可動範囲規制部15が構成されている。以下、この可動範囲規制部15について
図4を参照しながら説明する。なお、
図4(a)は、シャフト部材3の支持部3dを上方から見た平面図であり、
図4(b)は、可動範囲規制部15を側方(
図4(a)を矢印B)から見た側面図である。また、
図1の可動範囲規制部15は、
図4(a)のA−A線から見た断面図を示している。
【0046】
図4(a)に示すように、シャフト部材3の支持部3dの水平な上面3d1には、上方に突出する複数(本実施形態では2つ)の上方係合凸部3nが一体的に設けられている。これら上方係合凸部3nは、平面視で略同形の円弧形状を有し、シャフト部材3の軸心に対して略対称に配置されている。
図4(b)に示すように、上方係合凸部3nは、側面視で上方に向かって縮幅する略台形状を有し、その両側に滑らかな傾斜面3n1を有し、その上面3n2は水平に形成されている。
【0047】
また、ロアケース13の被支持部13cの水平な下面13c1には、下方に突出する複数(本実施形態では2つ)の下方係合凸部13gが一体的に設けられている。これら下方係合凸部13gは、平面視で略同形の円弧形状を有し、シャフト部材3の軸心に対して略対称に配置されている。
図4(b)に示すように、下方係合凸部13gは、側面視で上方に向かって拡幅する略逆台形状を有し、その両側に滑らかな傾斜面13g1を有し、その下面13g2は水平に形成されている。
【0048】
ここで、ドアミラー1が格納状態にあるとき、ロアケース13の下方係合凸部13gは、
図4(a)において二点鎖線で示すように、上方係合凸部3nの一方の傾斜面3n1にその一方の傾斜面13g1が接する位置にある。また、ロアケース13の下方係合凸部13gの下面13g2がシャフト部材3の支持部3dの上面3d1に当接することで、シャフト部材3がロアケース13を支持している。
【0049】
次に、ドアミラー1がモータ12によって回動されると、ロアケース13の下方係合凸部13gは、2つの上方係合凸部3nの互いに対向する傾斜面3n1の間で、すなわち、
図4(a)の角度θの範囲で、本実施形態では円周方向へ時計回りに移動し、
図4(a)において実線で示すように、上方係合凸部3nの他方の傾斜面3n1に下方係合凸部13gの他方の傾斜面13g1が接して、上方係合凸部3nと下方係合凸部13gとが互いに係合する。この上方係合凸部3nと下方係合凸部13gの係合によってドアミラー1の回動が停止され、ドアミラー1は使用状態となる。
【0050】
すなわち、可動範囲規制部15は、通常時は、ドアミラー1が格納状態から使用状態まで回動できるように、ドアミラー1の可動範囲を規制している。
【0051】
上述の使用状態において、ドアミラー1に車両後方から荷重が加わった場合、
図4(b)に示すように、上方係合凸部3nの傾斜面3n1と下方係合凸部13gの傾斜面13g1が互いに摺動しながら、下方係合凸部13gが上方係合凸部3nの傾斜面3n1に沿って斜め上方に上昇する。やがて、下方係合凸部13gの下面13g2は、上方係合凸部3nの上面3n2に乗り上げる。この乗り上げによって、上方係合凸部3nと下方係合凸部13gの係合が解除され、ドアミラー1の可動範囲の規制が解除される。
【0052】
さらに、下方係合凸部13gの上昇に伴って、ロアケース13によって支持されているサンギヤ5が上昇し、サンギヤ5とシャフト部材3のギヤ取付部3fとの間の係合が解除される。この係合の解除によって、モータ9とシャフト部材3の間の動力伝達が切断され、ドアミラー1はシャフト部材3が固定されたベース部材Bに対してその回転がフリー状態となる。フリー状態となったドアミラー1は、荷重により回動されて前倒状態となる。
【0053】
すなわち、可動範囲規制部15は、ドアミラー1に車両後方から荷重が加わった際には、ドアミラー1が前倒状態となるように、可動範囲の規制が解除し、動力伝達の切断を行うクラッチ機能を有している。なお、特許請求の範囲に記載した「クラッチ機構」は、前述のように、クラッチ機能を有した「可動範囲規制部15」に相当する。
【0054】
次に、アッパカバー14の開口部14aの周辺部の構造について、
図2を参照しながら説明する。なお、
図2(a)はドアミラーの格納または使用状態、
図2(b)は前倒状態を示している。
【0055】
アッパカバー14の開口部14aの内側には、例えば、TPE(熱可塑性エラストマー)、ゴム等で形成された環状のシール部材16が設けられている。このシール部材16は、その外周面が開口部14aの内周面に密着するように形成されており、その下端に先細りのリップ部16aを有する。なお、シール部材16は、アッパカバー14の開口部14aに密着して形成するため、樹脂によってアッパカバー14と二色成形により一体的に形成してもよい。
【0056】
このシール部材16は、ドアミラー1が使用状態または格納状態では、
図2(a)に示すように、リップ部16aがその下方にあるシャフト部材3の上端部3hの上端面3mに押し当てられている。したがって、このシール部材16によって、使用状態または格納状態では、シャフト部材3の上端部3hとアッパカバー14の開口部14aの間から水が浸入できないように、この周辺部が構成されている。
【0057】
さらに、このシール部材14の内側には、本願発明の特徴となるキャップ17が嵌合されている。
【0058】
このキャップ17は、
図2(a)に示すように、その軸方向にハーネスHを挿通するための貫通穴17aを備えた筒状の部材であり、その中央を構成する筒部17bと、該筒部17bの下方に延びる下方延長部17cと、筒部17bの上端部から外方へ半径方向に広がるフランジ部17dと、を一体的に備えている。
【0059】
キャップ17の筒部17bは、その内径が後述するハーネスHのコネクタCまたは結束部Tが挿通困難な大きさに設けられている。また、この筒部17bは、その外径がシール部材16の内径よりも若干小さく設けられており、シール部材16を介してアッパカバー14の開口部14aに圧入されている。また、キャップ17のフランジ部17dは、その下面がシール部材16の上端面及びアッパカバー14の開口部14aの上端面に密接して設けられている。さらに、キャップ17の下方延長部17cは、その外周面が上端部3hの内周面から離間しており、ドアミラー1が前倒状態であっても、その下端がシャフト部材3の上端部3hの上端面3mよりも下方に位置するように設けられている。
【0060】
ここで、ドアミラー1が前倒状態になった場合、
図2(b)に示すように、可動範囲規制部15によってアッパカバー14がシャフト部材3に対して上昇する。このアッパカバー14の上昇に伴って、アッパカバー14の開口部14aに形成されたシール部材16と該シール部材16に嵌合されたキャップ17も上昇する。これらの上昇により、シール部材16のリップ部16aが上端部3hの上端面3mから離間され、上端面3mとリップ部16aの間に隙間Gが生じる。
【0061】
しかし、このキャップ17の下方延長部17cは、前倒状態においても、その下端がシャフト部材3の上端部3hの上端面3mよりも下方に位置し、この隙間Gを内側から覆うのに十分な長さを有している。そのため、キャップ17の開口部17aを介して上方から水が隙間Gに浸入するのを抑制することができる。
【0062】
さらに、ドアミラー1には、電動格納用のモータ9以外に、図示しないミラー角度調整用の電動ユニット、鏡面ヒータ、ターンランプ等の電装品が設けられ、これら電装品にドア側から電力供給するためのハーネスHが配索されている。
【0063】
ハーネスHは、ドア側からシャフト部材3の貫通孔3aとアッパカバー14の開口部14aを挿通して各電装品に接続されている。
【0064】
このハーネスHは、
図5に示すように、各端部に、電源制御部または各電装品と電気的に接続するための複数のコネクタCが設けられている。また、ハーネスHは、その途中の配線がチューブ等により結束された結束部Tを備えている。さらに、ハーネスHは、その途中にキャップ17を外挿して取り付けることでモジュール化されている。
【0065】
このキャップ17はコネクタCまたは結束部Tを挿通困難な内径を有しているので、ハーネスHは、先にキャップ17を取り付けておき、その後、各端部にコネクタCを取り付け、その途中の配線に結束部Tを形成することで製造することができる。
【0066】
以上の構造を有するドアミラー1のドアミラー前倒時の動作について以下にまとめる。
【0067】
ドアミラー1が使用状態において、ドアミラー1に車両後方から荷重が加わると、
図4(b)に示すように、可動範囲規制部15において、ロアケース13の下方係合凸部13gの下面13g2がシャフト部材3の上方係合凸部3nの上面3n2に乗り上げるまで、下方係合凸部13gが上方係合凸部3nの傾斜面3n1に沿って斜め上方に上昇する。このロアケース13の上昇により、上方係合凸部3nと下方係合凸部13gの係合が解除され、ドアミラー1の可動範囲の規制が解除される。
【0068】
ロアケース13の上昇に伴って、
図3(b)に示すように、ロアケース13に支持されているサンギヤ5がコイルスプリング7の押圧付勢力に抗して上昇する。サンギヤ5の上昇により、サンギヤ5とシャフト部材3のギヤ取付部3fとの間の係合が解除される。この係合の解除によって、モータ9とシャフト部材3の間の動力伝達が切断され、ドアミラー1はシャフト部材3が固定されたベース部材Bに対してその回転がフリー状態となる。フリー状態となったドアミラー1は、荷重により回動されて前倒状態となる。
【0069】
また、ロアケース13と共にアッパカバー14が上昇し、
図2(b)に示すように、アッパカバー14の開口部14aに形成されたシール部材16と該シール部材16に嵌合されたキャップ17が上昇する。このシール部材16とキャップ17の上昇により、シール部材16のリップ部16aがシャフト部材3の上端部3hの上端面3mから離間され、上端面3mとリップ部16aの間に隙間Gが生じる。
【0070】
キャップ17が十分な長さの下方延長部17cを有するため、ドアミラー1の前倒状態であっても、この隙間Gは上昇したキャップ17の下方延長部17cによって内側から覆われている。
【0071】
次に、他の実施形態のドアミラー1の構造について、
図6、
図7を参照しながら説明する。なお、後述する他の実施形態は、上述の第1実施形態とキャップ17の形状のみが異なるので、共通する構成については説明を省略する。
【0072】
図6に示すように、第2の実施形態のキャップ17は、筒部17bの外周面から半径方向に突設し、その長手方向が軸方向に延びる複数のリブ部17eが円周方向に等間隔に設けられている。なお、本実施形態では、複数のリブ部17eは、同一高さに設定されている。
【0073】
第2の実施形態によれば、開口部14aにキャップ17を嵌合する際に、リブ部17eの弾性変形によって十分な保持力を安定して得ることができる。これにより、圧入作業を円滑に行うことできる。
【0074】
さらに、筒部17bの代わりにリブ部17eが変形するので、筒部17bの一部が内側に凹んで変形するのを抑制することができる。したがって、ドアミラー1の製造工程において、ハーネスHを挿通されるキャップ17の開口部17aについて、その内径の交差の管理が容易になる。
【0075】
なお、図示したキャップ17には、リブ部17eが4つ設けられているが、これに限るものではない。シール部材16との間で十分な保持力が得られるように、リブ部17eの個数とリブ部17eの高さを適宜設定すればよい。
【0076】
図7に示すように、第3の実施形態のキャップ17は、フランジ部17dの周縁から下方に延びる円筒状の周壁部17fが設けられている。この周壁部17fは、筒部17bと周壁部17fの間の空間にアッパカバー14とシール部材16が挿入可能であって、カッパカバー10の開口部14aの外周面にできるだけ近接するように、その内径を設定するのが望ましい。
【0077】
第3の実施形態によれば、キャップ17とアッパカバー14の間から内部へ侵入しようとする水は、キャップ17の周壁部17fとアッパカバー14の開口部14aの外周面との間を通る必要があり、水の侵入経路がより長くなるので、防水性能をより向上することができる。
【0078】
以上により、これら実施形態によれば、アッパカバー14の開口部14aに嵌合される筒状のキャップ17は、ドアミラー前倒時に、軸部3cの内周面から離間した状態で隙間Gを覆うように構成された下方延長部17cを備えるので、後方からの衝突等によりドアミラー1が前倒状態となっても、回転体ケース11とシャフト部材3の間の隙間Gから水が侵入するのをより確実に防止することができる。
【0079】
これら実施形態によれば、回転体ケース11と別体部品であるキャップ17を用いることで、コネクタCを取り付ける前のハーネスGに、コネクタCを挿通不能な内径を有するキャップ17を予め組み付けておくことができる。これによれば、コネクタCを挿通可能な内径を有するキャップ17を使用する場合に比べて、軸部3cの貫通孔3aの内径が小さくて済むので、シャフト部材3を大型化せずに、ハーネスH及びその先端のコネクタCの軸部3cへの挿通が容易になる。
【0080】
これら実施形態によれば、筒状のキャップ17を用いており、このキャップ17内でハーネスHは回転や摺動が可能であるので、このキャップ17によってハーネスHが局所的に捻られる、または引っ張られることで接続不良となったり、ドアミラー1の回動の妨げとなったりするおそれがない。
【0081】
これら実施形態によれば、ハーネスHは、その端部に電装品と電気的に接続するためのコネクタC、またはその途中の配線が結束された結束部Tを備えており、キャップ17は、コネクタCまたは結束部Tが挿通困難な内径を有し、貫通孔3aと開口部14aに挿通されるハーネスHは、キャップ17が取り付けられた後にコネクタCが取り付けられた、または結束部Tが形成されたものであるので、コネクタCの取付後または結束部Tの形成後のハーネスHは、このコネクタCまたは結束部Tがストッパ部材となってキャップ17がハーネスGから抜け落ちるのを防止してくれる。
【0082】
したがって、ハーネスHの回転体ケース11への組付け時にキャップ17をハーネスHから抜け落ちないように保持しておくための保持部材が不要である。さらに、ハーネスHがキャップ17と共にモジュール化されているので、部品管理や組付け作業がより容易となる。
【0083】
これら実施形態によれば、ドアミラー格納時または使用時には、キャップ17と回転体ケース11の間に設けられたシール部材16によって、回転体ケース11とシャフト部材3の間がシールされるので、ドアミラー格納時または使用時には、キャップ17と共にシール部材16によって内部への水の浸入が防止される。したがって、より確実に水の浸入を抑制することができる。
【0084】
また、第3実施形態によれば、キャップ17は、その上部に回転体ケース11の開口部14aと上下方向に当接するフランジ部17dを有するので、フランジ部17dと回転体ケース11の開口部14aの間を密接させることで、キャップ17と回転体ケース11の開口部14aの間からの水の浸入をより抑制することができる。
【0085】
さらに、キャップ17は、フランジ部17dの下方であって下方延長部17cよりも上方に開口部14aに圧入可能なリブ部17eを有するので、開口部14aにキャップ17を圧入する際に、リブ部17eの弾性変形によって十分な保持力を安定して得ることができる。これにより、キャップ17の圧入作業を円滑に行うことできる。
【0086】
なお、本発明は例示された実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計上の変更が可能であることは言うまでもない。
【0087】
例えば、これら実施形態に記載された技術は、キャップ17とアッパカバー14の間には、アッパカバー14とシャフト部材3の間をシールするためのシール部材16が設けられているが、これに限るものではない。キャップ17のみで必要な防水性能が得られるのであれば、シール部材16を設けなくてもよい。