(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-69288(P2016-69288A)
(43)【公開日】2016年5月9日
(54)【発明の名称】クラリスロマイシン製剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7048 20060101AFI20160404BHJP
C07H 17/08 20060101ALI20160404BHJP
A61K 9/30 20060101ALI20160404BHJP
A61K 47/34 20060101ALI20160404BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20160404BHJP
【FI】
A61K31/7048
C07H17/08 B
A61K9/30
A61K47/34
A61P31/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-197259(P2014-197259)
(22)【出願日】2014年9月26日
(71)【出願人】
【識別番号】507219686
【氏名又は名称】静岡県公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100135909
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 和歌子
(72)【発明者】
【氏名】板井 茂
(72)【発明者】
【氏名】野口 修治
(72)【発明者】
【氏名】岩尾 康範
(72)【発明者】
【氏名】野沢 健児
(72)【発明者】
【氏名】青木 肇
【テーマコード(参考)】
4C057
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C057AA14
4C057BB02
4C057CC03
4C057DD01
4C057KK12
4C076AA44
4C076BB01
4C076CC32
4C076DD01A
4C076EE23A
4C076FF27
4C076GG16
4C086AA04
4C086AA10
4C086EA13
4C086GA15
4C086NA03
4C086ZB35
(57)【要約】
【課題】本発明は、クラリスロマイシンを含有する製剤の製造において、最安定形結晶であるII型結晶以外の結晶多形が混在するのを抑制し、クラリスロマイシンII型結晶を高純度で含有する、高品質なクラリスロマイシン製剤を提供することを目的とする。
【解決手段】クラリスロマイシン製剤の製造過程において、所定の添加剤を用いることにより、クラリスロマイシンII型結晶から他の結晶形への相転移を抑制し、あるいはクラリスロマイシンI型結晶からII型結晶への相転移を促進する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラリスロマイシンII型結晶を高純度で含有するクラリスロマイシン製剤の製造方法であって、
(i)クラリスロマイシンII型結晶に、界面活性剤もしくはポリアルキレングリコールと、エタノール、酢酸イソプロピル、イソプロパノールおよびテトラヒドロフランから選択される溶媒を含有する溶液とを加えて混合した後、乾燥させる工程、
(ii)クラリスロマイシンI型結晶に、界面活性剤もしくはポリアルキレングリコールと水とを加えて混合した後、乾燥させる工程、または
(iii)クラリスロマイシンI型結晶に、界面活性剤、脂肪酸、脂肪酸モノ−、ジ−もしくはトリグリセリド、あるいはポリアルキレングリコールを加えて混合した後、80℃以下で加熱する工程
のいずれかを含む、前記方法。
【請求項2】
工程(i)および(ii)において、界面活性剤が、それぞれ独立してポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルおよびレシチン類から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(iii)において、クラリスロマイシンI型結晶に、飽和ポリグリコール化グリセリド、炭素数12〜22の脂肪酸またはそのモノ−、ジ−もしくはトリグリセリド、あるいはポリエチレングリコールを加えて混合する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
クラリスロマイシンII型結晶を含有する製剤の製造における結晶多形混在の抑制方法であって、
(i)クラリスロマイシンII型結晶に、界面活性剤もしくはポリアルキレングリコールと、エタノール、酢酸イソプロピル、イソプロパノールもしくはテトラヒドロフランとを含有する溶液とを加えて混合した後、乾燥させる工程、
(ii)クラリスロマイシンI型結晶に、界面活性剤もしくはポリアルキレングリコールと水とを加えて混合した後、乾燥させる工程、または
(iii)クラリスロマイシンI型結晶に、界面活性剤、脂肪酸、脂肪酸モノ−、ジ−もしくはトリグリセリド、あるいはポリアルキレングリコールを加えて混合した後、80℃以下で加熱する工程
のいずれかを含む、前記方法。
【請求項5】
クラリスロマイシンII型結晶を含有する製剤のコーティング方法であって、界面活性剤もしくはポリアルキレングリコールと、エタノール、酢酸イソプロピル、イソプロパノールもしくはテトラヒドロフランとを含有するコーティング液を用いてコーティングを行うことを特徴とする前記方法。
【請求項6】
クラリスロマイシンI型結晶からクラリスロマイシンII型結晶を製造する方法であって、クラリスロマイシンI型結晶に、界面活性剤もしくはポリアルキレングリコールと、クラリスロマイシンI型結晶に対して60重量%以下の水とを混合した後乾燥させる工程を含む、前記方法。
【請求項7】
クラリスロマイシンI型結晶からクラリスロマイシンII型結晶を製造する方法であって、クラリスロマイシンI型結晶に、飽和ポリグリコール化グリセリド、炭素数12〜22の脂肪酸またはそのモノ−、ジ−もしくはトリグリセリド、あるいはポリエチレングリコールを加えて混合した後、80℃以下で加熱する工程を含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はクラリスロマイシンを含有する製剤の製造方法に関し、より詳細には、クラリスロマイシンII型結晶を高純度で含有するクラリスロマイシン製剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
14員環マクロライド系抗生物質であるクラリスロマイシン(clarithromycin:本明細書においてCAMとも称する)は、6−O−メチルエリスロマイシンAとも称され、広範な抗菌スペクトルを有することから、呼吸器系や皮膚、耳鼻科領域の感染症など、臨床現場での需要が高い医薬品の一つである。クラリスロマイシンには、I、II、III、IVおよびV型結晶などの結晶多形が存在することが知られている。このうち、市販の医薬品には最安定形結晶であるII型結晶が利用されている。
【0003】
II型結晶の製造方法としては、まずエタノール和物(エタノレート:ethanolate)である0型結晶を製造し、それを減圧乾燥することによりエタノールを除去して準安定型であるI型結晶へと相転移させ、さらに約150℃以上に加熱して安定型であるII型結晶へと相転移させる方法が知られている。しかし、そのような方法は、手間がかかる上に非常に大きなエネルギーコストも必要とするという問題がある。それに対し、例えば特許文献1では0型結晶を大量の水中に懸濁することによりII型結晶を製造する方法が開示されている。
【0004】
また、I型またはII型結晶粉末の湿式造粒(微粉末試料から、流動性が高く取り扱いが容易な大きな粒子を製造するために、微粉末試料に溶液を添加して造粒を行う操作)において、特許文献2に記載されているようにエタノール水溶液を用いると、相転移により0型結晶が生じ、得られる造粒物が結晶多形の混合物となってしまう現象が確認されている。一方、I型結晶粉末の湿式造粒の際にエタノール等を含まない水を用いると、少量の水ではI型結晶が完全にはII型に相転移しないため、乾燥後にはI型とII型とが混在した状態でクラリスロマイシンを含む造粒物が得られる現象も確認されている。このように、湿式造粒過程において結晶多形間の相転移が生じることが知られていたため、従来、クラリスロマイシンの湿式造粒はII型結晶粉末と水を用いる方法に限定されていた。しかし、後工程となる乾燥工程を考慮すれば、造粒に用いる水の量は極力減らし、より低沸点であるエタノールに置換することが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2003−516999号公報
【特許文献2】特開2006−232789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、クラリスロマイシンを含有する製剤の製造において、最安定形結晶であるII型結晶以外の結晶多形が混在するのを抑制し、クラリスロマイシンII型結晶を高純度で含有する、高品質なクラリスロマイシン製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、所定の添加剤を用いることにより、クラリスロマイシンII型結晶から他の結晶形への相転移を抑制し、あるいはクラリスロマイシンI型結晶からII型結晶への相転移を促進することができ、結晶多形の混在が抑制された、クラリスロマイシンII型結晶を高純度で含有する製剤を製造できることを見出した。本発明の要旨は以下のとおりである。
【0008】
(1)クラリスロマイシンII型結晶を高純度で含有するクラリスロマイシン製剤の製造方法であって、
(i)クラリスロマイシンII型結晶に、界面活性剤もしくはポリアルキレングリコールと、エタノール、酢酸イソプロピル、イソプロパノールおよびテトラヒドロフランから選択される溶媒を含有する溶液とを加えて混合した後、乾燥させる工程、
(ii)クラリスロマイシンI型結晶に、界面活性剤もしくはポリアルキレングリコールと水とを加えて混合した後、乾燥させる工程、または
(iii)クラリスロマイシンI型結晶に、界面活性剤、脂肪酸、脂肪酸モノ−、ジ−もしくはトリグリセリド、あるいはポリアルキレングリコールを加えて混合した後、80℃以下で加熱する工程
のいずれかを含む、前記方法。
【0009】
(2)工程(i)および(ii)において、界面活性剤が、それぞれ独立してポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルおよびレシチン類から選択される、(1)に記載の方法。
【0010】
(3)工程(iii)において、クラリスロマイシンI型結晶に、飽和ポリグリコール化グリセリド、炭素数12〜22の脂肪酸またはそのモノ−、ジ−もしくはトリグリセリド、あるいはポリエチレングリコールを加えて混合する、(1)または(2)に記載の方法。
【0011】
(4)クラリスロマイシンII型結晶を含有する製剤の製造における結晶多形混在の抑制方法であって、
(i)クラリスロマイシンII型結晶に、界面活性剤もしくはポリアルキレングリコールと、エタノール、酢酸イソプロピル、イソプロパノールもしくはテトラヒドロフランとを含有する溶液とを加えて混合した後、乾燥させる工程、
(ii)クラリスロマイシンI型結晶に、界面活性剤もしくはポリアルキレングリコールと水とを加えて混合した後、乾燥させる工程、または
(iii)クラリスロマイシンI型結晶に、界面活性剤、脂肪酸、脂肪酸モノ−、ジ−もしくはトリグリセリド、あるいはポリアルキレングリコールを加えて混合した後、80℃以下で加熱する工程
のいずれかを含む、前記方法。
【0012】
(5)クラリスロマイシンII型結晶を含有する製剤のコーティング方法であって、界面活性剤もしくはポリアルキレングリコールと、エタノール、酢酸イソプロピル、イソプロパノールもしくはテトラヒドロフランとを含有するコーティング液を用いてコーティングを行うことを特徴とする前記方法。
【0013】
(6)クラリスロマイシンI型結晶からクラリスロマイシンII型結晶を製造する方法であって、クラリスロマイシンI型結晶に、界面活性剤もしくはポリアルキレングリコールと、クラリスロマイシンI型結晶に対して60重量%以下の水とを混合した後乾燥させる工程を含む、前記方法。
【0014】
(7)クラリスロマイシンI型結晶からクラリスロマイシンII型結晶を製造する方法であって、クラリスロマイシンI型結晶に、飽和ポリグリコール化グリセリド、炭素数12〜22の脂肪酸またはそのモノ−、ジ−もしくはトリグリセリド、あるいはポリエチレングリコールを加えて混合した後、80℃以下で加熱する工程を含む、前記方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の方法によれば、クラリスロマイシンの最安定形結晶であるII型結晶を高純度で含有する製剤を容易に製造することが可能となる。本発明の方法では、従来法のように多量の水を用いずにクラリスロマイシンII型結晶の製剤を製造することができるため、乾燥に必要なエネルギーコストを削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】調製例1のポリソルベート80非存在下で得られたサンプルのX線回折スペクトル図である。
【
図2】調製例2の5重量%ポリソルベート80存在下で得られたサンプルのX線回折スペクトル図である。
【
図3】調製例3のステアリン酸ポリオキシル40非存在下で得られたサンプルのX線回折スペクトル図である。
【
図4】調製例4の5重量%ステアリン酸ポリオキシル40存在下で得られたサンプルのX線回折スペクトル図である。
【
図5】調製例5の25重量%Gelucire43/01存在下で得られたサンプルのX線回折スペクトル図である。
【
図6】調製例6のGelucire43/01非存在下で得られたサンプルのX線回折スペクトル図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
まず、本発明の前提となるクラリスロマイシンの結晶多形について説明する。「クラリスロマイシン結晶形II」または「クラリスロマイシンのII型結晶」は、I型結晶を約150℃で加熱するか、あるいは0型またはI型結晶を大量の水中に懸濁させるかの方法により得られることが知られている。II型結晶は、粉末X線回折パターンにおける回折ピークが、2θ値:8.5°±0.2、9.5°±0.2、10.8°±0.2、11.5±0.2、11.9±0.2、12.4±0.2、13.7°±0.2、14.1°±0.2、15.2±0.2、16.5±0.2、16.9°±0.2、17.3°±0.2、18.1±0.2、18.4°±0.2、19.0°±0.2、19.9±0.2、および20.5±0.2の位置に存在することにより特徴付けられる。II型結晶は、223℃付近での融解、および示差走査熱量測定による283℃付近での吸熱ピーク、307℃付近での発熱ピークによっても特徴づけることもできる。
【0018】
「クラリスロマイシン結晶形I」または「クラリスロマイシンのI型結晶」は、例えば0型結晶粉末を0〜50℃の範囲、例えば室温下で減圧乾燥するか、あるいは加圧するなどして相転移させることにより得ることができる。I型結晶は、粉末X線回折パターンにおける回折ピークが、2θ値:5.2°±0.2、6.7°±0.2、10.2°±0.2、12.3±0.2、14.2°±0.2、15.4°±0.2、15.7°±0.2、および16.4±0.2の位置に存在することにより特徴付けられる。I型結晶は、示差走査熱量測定による130〜145℃付近での発熱(II型結晶への相転移)によっても特徴付けられる。
【0019】
「クラリスロマイシン結晶形0」または「クラリスロマイシンの0型結晶」は、クラリスロマイシンの溶媒和物であり、例えばII型結晶を、エタノール、酢酸イソプロピル、イソプロパノール、テトラヒドロフランまたはそれらの混合溶媒に溶解し再結晶化することにより得ることができる。0型結晶は、粉末X線回折パターンにおける回折ピークが、2θ値:4.6°±0.2、6.5°±0.2、7.6°±0.2、9.2°±0.2、10.2°±0.2、11.0°±0.2、11.6°±0.2、12.5°±0.2、13.8°±0.2、14.8°±0.2、17.0°±0.2、18.2°±0.2、18.9°±0.2および19.5°±0.2の位置に存在することにより特徴付けられる。ただし、このパターンは溶媒によって若干変動し、例えばエタノレートである場合、回折ピークは、2θ値:4.7°±0.2、6.6°±0.2、7.7°±0.2、9.3°±0.2、10.4°±0.2、11.1°±0.2、11.9°±0.2、12.7°±0.2、13.9°±0.2、15.0°±0.2、17.2°±0.2、18.5°±0.2、19.1°±0.2、19.7°±0.2、23.1°±0.2および24.0°±0.2の位置に存在する。
【0020】
本発明は、クラリスロマイシンII型結晶を高純度で含有するクラリスロマイシン製剤の製造方法に関するものであり、以下の(i)〜(iii)のいずれかの工程を含むことを特徴とする:
(i)クラリスロマイシンII型結晶に、界面活性剤もしくはポリアルキレングリコールと、エタノール、酢酸イソプロピル、イソプロパノールおよびテトラヒドロフランから選択される溶媒を含有する溶液とを加えて混合した後、乾燥させる工程;
(ii)クラリスロマイシンI型結晶に、界面活性剤もしくはポリアルキレングリコールと水とを加えて混合した後、乾燥させる工程;または
(iii)クラリスロマイシンI型結晶に、界面活性剤、脂肪酸、脂肪酸モノ−、ジ−もしくはトリグリセリド、あるいはポリアルキレングリコールを加えて混合した後、80℃以下で加熱する工程。
【0021】
上記(i)の工程は、クラリスロマイシンII型結晶に溶液を加えて湿式造粒を行う際やクラリスロマイシンII型結晶の粒子にコーティングを施す際に行う工程である。エタノール、酢酸イソプロピル、イソプロパノールまたはテトラヒドロフランはクラリスロマイシンと溶媒和物を形成する。水よりも沸点が低いそれらを含む溶液を使用すると、水を用いた場合と比較して造粒後の乾燥温度を低くすることができるものの、0型結晶への相転移を引き起こし結晶多形混在の原因となる。そのため、これまで湿式造粒には水のみが用いられていた。しかし、界面活性剤、脂肪酸、脂肪酸モノ−、ジ−もしくはトリグリセリド、またはポリアルキレングリコールを併用することにより、上記の溶媒を含む溶液を用いた場合でも0型結晶への相転移を抑制することができ、クラリスロマイシンII型結晶を高純度で含有する製剤を、水の使用量を低減して、あるいは水を使用せずに製造することが可能となる。
【0022】
工程(i)において用いる溶液において、クラリスロマイシンと溶媒和物を形成する上記溶媒は、用いるクラリスロマイシンII型結晶の重量に対して10重量%以上、15重量%以上、30重量%以上、45重量%以上、50重量%以上、60重量%以上、70重量%以上、80重量%以上または90重量%以上の量で用いることができる。クラリスロマイシンII型結晶と混合する溶液は、クラリスロマイシンと溶媒和物を形成する上記溶媒と水との混合物としてもよく、あるいは上記溶媒のみからなるものとしてもよい。クラリスロマイシンと溶媒和物を形成する上記溶媒は、単独で、または2以上の混合物として用いることができる。工程(i)において用いる溶媒としては、物性および毒性の観点からエタノールが最も好ましい。
【0023】
上記(ii)の工程は、クラリスロマイシンI型結晶を原料としてII型結晶を含有する製剤を調製する際などに行う工程である。クラリスロマイシンI型結晶は、II型結晶を調製する際の中間生成物であり、約150℃で加熱するか、あるいは大量の水中に懸濁させるかの方法によりII型結晶に相転移させることができるが、前者の方法における加熱工程や、後者の方法における水を除去するための乾燥工程には高いエネルギーコストがかかる。しかし、上記(ii)の工程によれば、界面活性剤またはポリアルキレングリコールを水と併用することにより、I型結晶のII型結晶への相転移を促進することができ、高温での加熱や多量の水の使用を伴うことなく、II型結晶を高純度で含有する製剤をI型結晶から製造することが可能となる。
【0024】
なお、I型結晶を原料としてII型結晶を含有する製剤を調製する場合、出発原料として、0〜50℃の範囲、例えば室温下で減圧乾燥するか、あるいは加圧するなどしてI型結晶に相転移させることができる0型結晶を用いてもよい。0型結晶を出発原料とする場合は、I型結晶に相転移させるための減圧乾燥または加圧,あるいはII型に転移させるための加熱などの工程をさらに含むことが好ましい。また、0型結晶を出発原料とする場合は、0型結晶に直接、界面活性剤もしくはポリアルキレングリコールと水とを混合してもよい。(後述の(iii)の工程においても同様である。後述の(iii)の工程においては、0型結晶に直接、界面活性剤、脂肪酸、脂肪酸モノ−、ジ−もしくはトリグリセリド、あるいはポリアルキレングリコールを混合してもよい。)
【0025】
工程(ii)において、クラリスロマイシンI型結晶と混合する水は、用いるクラリスロマイシンI型結晶の重量に対して、60重量%以下、50重量%以下、40重量%以下、35重量%以下、30重量%以下、25重量%以下または20重量%以下とすることができる。
【0026】
工程(i)および(ii)において用いることができる界面活性剤としては、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(例えばポリソルベート20、ポリソルベート60、ポリソルベート65およびポリソルベート80などのポリソルベート類、ポリソルベートはTweenとも称される)、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル(例えばステアリン酸ポリオキシル(モノステアリン酸ポリエチレングリコール)、モノラウリン酸ポリエチレングリコール、モノオレイン酸ポリエチレングリコールなど)、ショ糖脂肪酸エステル(例えばショ糖とラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸またはオレイン酸などの脂肪酸とのエステル)、レシチン類(例えば大豆レシチンや卵黄レシチンなど)が挙げられる。工程(i)において、II型結晶の相転移を抑制する性質の面から特に好ましい界面活性剤としては、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、とりわけポリソルベート80が挙げられる。工程(ii)において、I型結晶からII型結晶への相転移を促進する性質の面から特に好ましい界面活性剤としては、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、特にステアリン酸ポリオキシル40が挙げられる。
【0027】
工程(i)および(ii)において用いることができるポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコールなどが挙げられ、ポリエチレングリコールが特に好ましい。
【0028】
工程(i)および(ii)において、界面活性剤またはポリアルキレングリコールは、原料であるクラリスロマイシンII型結晶またはI型結晶の重量に対して1重量%以上、特に2重量%以上、とりわけ3重量%以上とすることが得られる効果の面から好ましく、またコストや製剤効率などの面から20重量%以下、18重量%以下、特に15重量%以下、とりわけ10重量%以下の量とすることが好ましい。
【0029】
工程(i)および(ii)において、クラリスロマイシンと液体とを混合した後に行う乾燥の工程は、水や各種溶媒などの液体を蒸発により除去するのに十分な温度であればよく、過度に高温とする必要はない。例えば70℃以下、60℃以下、または50℃以下の温度で行うことができる。
【0030】
上記(iii)の工程は、工程(ii)と同様に、クラリスロマイシンI型結晶を原料としてII型結晶を含有する製剤を調製する際などに行う工程である。上述のとおり、クラリスロマイシンI型結晶は約150℃で加熱しなければII型結晶へ相転移させることはできないが、クラリスロマイシンI型結晶に界面活性剤、脂肪酸、脂肪酸モノ−、ジ−もしくはトリグリセリド、あるいはポリアルキレングリコールを加えて混合した後に加熱すると、加熱温度が80℃以下、70℃以下、60℃以下、50℃以下または43℃以下であっても、II型結晶への相転移を速やかに完了させることができる。加熱は静置状態で行ってもよいが、撹拌しながら行うと、より相転移が速やかに進行するため好ましい。この工程によれば、I型結晶を原料として、高温での加熱を必要とせずに、低エネルギーコストでII型結晶を高純度で含有する製剤を製造することが可能となる。
【0031】
工程(iii)において用いる界面活性剤は、常温(20±15℃)で固体の界面活性剤を用いると、例えば造粒後に冷却した際に固まり、取扱い性が向上するため好ましい。(この点については後述の脂肪酸および脂肪酸モノ−、ジ−もしくはトリグリセリドについても同様である。)そのような界面活性剤としては、例えば飽和ポリグリコール化グリセリドを含むもの、具体的にはGelucire(登録商標)の名称で市販されている、モノ−、ジ−、およびトリグリセリド(グリセロ−ルの脂肪酸エステル)とポリエチレングリコ−ル(PEGまたはマクロゴ−ル)のモノ−、及びジ−脂肪酸エステルとの混合物が挙げられる。Gelucireはその名称に続く数字により融点とHLB値が表されるが、工程(iii)で用いることができる界面活性剤としては、より具体的にはGelucire43/01、39/01、37/02、37/06、46/07、48/09、50/02などが挙げられる。
【0032】
工程(iii)において用いることができる脂肪酸および脂肪酸モノ−、ジ−もしくはトリグリセリドとしては、炭素数12〜22の脂肪酸またはそのモノ−、ジ−もしくはトリグリセリドが挙げられる。炭素数12〜22の脂肪酸は、より好ましくは直鎖飽和脂肪酸、すなわちラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ノナデシル酸、アラキジン酸、ヘンイコシル酸、またはベヘン酸である。炭素数12〜22の脂肪酸またはそのモノ−、ジ−もしくはトリグリセリドとしては、ステアリン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸、ステアリン酸グリセリル、トリベヘン酸グリセリル、あるいはそれらの混合物である水添ヒマシ油などの硬化油が特に好ましい。
【0033】
工程(iii)において用いることができるポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールおよびポリブチレングリコールなどが挙げられ、ポリエチレングリコールが特に好ましい。
【0034】
上記の界面活性剤、脂肪酸、脂肪酸モノ−、ジ−もしくはトリグリセリド、あるいはポリアルキレングリコールは、結合剤としての役割も果たす。工程(iii)では水や各種有機溶媒(エタノール、酢酸イソプロピル、イソプロパノール、テトラヒドロフランなど)を用いないことが好ましい。また、工程(iii)では,微結晶セルロースのような賦形剤を共存させることもできる。
【0035】
工程(iii)において、界面活性剤、脂肪酸、脂肪酸モノ−、ジ−もしくはトリグリセリド、あるいはポリアルキレングリコールは、原料であるクラリスロマイシンI型結晶の重量に対して1重量%以上、5重量%以上、10重量%以上、15重量%以上または20重量%以上用いることが効果の面から好ましく、またコストや製剤効率などの面から40重量%以下、35重量%以下または30重量%以下の量とすることが好ましい。
【0036】
工程(i)〜(iii)のいずれかを含む本発明の方法によって得られる、クラリスロマイシンII型結晶を高純度で含有する製剤とは、製剤が含有するクラリスロマイシンの全量のうち、II型結晶形を有する成分が70重量%以上、75重量%以上、80重量%以上、特に90重量%以上、とりわけ95重量%以上であるものを意味し、好ましくは実質的にII型結晶形以外のクラリスロマイシンを含有しない製剤を意味する。
【0037】
上述の知見に基づき、本発明はさらに以下に説明する発明をも包含する。
【0038】
第一に、本発明は別側面において、上述した工程(i)〜(iii)のいずれかを含む、クラリスロマイシンII型結晶を含有する製剤の製造における結晶多形混在の抑制方法に関する。工程(i)〜(iii)の詳細については、上述のとおりである。
【0039】
第二に、本発明は別側面において、界面活性剤もしくはポリアルキレングリコールと、エタノール、酢酸イソプロピル、イソプロパノールもしくはテトラヒドロフランとを含有するコーティング液を用いてコーティングを行うことを特徴とする、クラリスロマイシンII型結晶を含有する製剤のコーティング方法に関する。当該方法は、上述した工程(i)に関連する。当該方法によれば、クラリスロマイシンII型結晶がコーティング液と接触した際に生じうる相転移を抑制し、最安定型であるII型結晶を高純度で含有するクラリスロマイシンのコーティング製剤を得ることができる。また、当該方法によれば、エタノール等の溶媒は、乾燥が容易なうえにコーティングに用いるポリマーの溶解度も高いため、従来実現できなかったクラリスロマイシンの新規の機能性コーティング製剤の製造も可能とする。なお、当該方法でコーティングするクラリスロマイシン製剤は、上述の工程(i)〜(iii)のいずれかを含む方法に従って調製したものであってもよい。
【0040】
第三に、本発明は別側面において、クラリスロマイシンI型結晶からクラリスロマイシンII型結晶を製造する方法に関する。当該方法は、上述した工程(ii)および(iii)に関する。当該方法は、クラリスロマイシンI型結晶に、界面活性剤もしくはポリアルキレングリコールと、クラリスロマイシンI型結晶に対して60重量%以下、50重量%以下、40重量%以下、35重量%以下、30重量%以下、25重量%以下または20重量%以下との水とを混合した後乾燥させる工程、あるいはクラリスロマイシンI型結晶に、界面活性剤、脂肪酸、脂肪酸モノ−、ジ−もしくはトリグリセリド、あるいはポリアルキレングリコール、より具体的には飽和ポリグリコール化グリセリド、炭素数12〜22の脂肪酸またはそのモノ−、ジ−もしくはトリグリセリド、あるいはポリエチレングリコールを加えて混合した後、80℃以下で加熱する工程のいずれかを含む。当該方法によれば、従来よりもエネルギー効率に優れたクラリスロマイシンII型結晶の製造方法を提供することができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0042】
[試験1]
(調製例1:比較例)
クラリスロマイシンII型結晶粉末5.0gに、エタノールを0.75g、1.5g、または3.0g(それぞれ,CAM重量の15重量%、30重量%および60重量%に相当)添加し、乳棒と乳鉢で2分間練合した。練合した試料を50℃で40〜75分間乾燥させ、16号篩で篩過した。
【0043】
(調製例2:実施例)
クラリスロマイシンII型結晶粉末5.0gに、界面活性剤ポリソルベート80を0.25g(CAM重量の5重量%に相当)、およびエタノールを0.75g、1.5g、または3.0g(それぞれ,CAM重量の15重量%、30重量%および60重量%に相当)添加し、乳棒と乳鉢で2分間練合した。練合した試料を50℃で40〜75分間乾燥させ、16号篩で篩過した。
【0044】
(調製例3:比較例)
クラリスロマイシンI型結晶粉末5.0gに、精製水を0.75g、1.5g、または3.0g(それぞれ,CAM重量の15重量%、30重量%および60重量%に相当)添加し、乳棒と乳鉢で2分間練合した。練合した試料を50℃で40〜75分間乾燥させ、16号篩で篩過した。
【0045】
(調製例4:実施例)
クラリスロマイシンI型結晶粉末5.0gに、界面活性剤ステアリン酸ポリオキシル40を0.25g(CAM重量の5重量%に相当)、精製水を0.75g、1.5g、または3.0g(それぞれ,CAM重量の15重量%、30重量%および60重量%に相当)添加し、乳棒と乳鉢で2分間練合した。練合した試料を50℃で40〜75分間乾燥させ、16号篩で篩過した。
【0046】
(粉末X線回折データ測定)
調製例1〜4のそれぞれで得られた試料について、粉末X線回折装置(D8 ADVANCE、ブルカー・エイエックスエス)を用いて粉末X線回折データを測定した。得られたスペクトル図を
図1〜4に示す。
【0047】
図1に示したスペクトル図より、ポリソルベート80を用いていない調製例1では、エタノールと接触したサンプル(C〜E)では0型結晶に固有の回折ピークが表れ、クラリスロマイシンI型結晶が0型結晶に相転移していることが確認された。一方、
図2に示したスペクトル図より、クラリスロマイシン重量の5%のポリソルベート80を用いた調製例2では、同様にエタノールと接触させても0型結晶に固有の回折ピークは見られず、相転移が生じていないことが確認された。
【0048】
また、
図3に示したスペクトル図より、ステアリン酸ポリオキシル40を用いていない調製例3では、クラリスロマイシン重量の30%の水を用いた場合にI型結晶に固有の回折ピークが依然として観察され、II型結晶への相転移が完了していないことが確認された。一方、
図4に示したスペクトル図より、クラリスロマイシン重量の5%ステアリン酸ポリオキシル40を用いた調製例4では、クラリスロマイシン重量の30%の水を用いた場合であってもI型結晶に固有の回折ピークはほぼ消失し、II型結晶への相転移が完了していることが確認された。
【0049】
[試験2]
(調製例5:実施例)
クラリスロマイシンI型結晶粉末40g、界面活性剤Gelucire43/01(融点43℃)10g(CAM重量の25重量%に相当)をポリエチレン製の袋に入れ、5分間予備混合した。側面にラバーヒーター(シリコンラバーヒーターMC−100−300−180、ミズホクラフト)を、および撹拌槽内部に温度センサーを取り付けて加熱撹拌を可能にした攪拌機(MECHANOMILL、岡田精工)を用意し、予め50℃に加熱しておいた攪拌機に混合物を投入し、加温しながら1000rpmで撹拌した。紛体温度が造粒物の融点である43℃に達した後(約5分後)、加熱を止め、撹拌速度を400rpmに下げて1分間撹拌した。造粒物をトレイに取り出し、常温まで冷ました。
【0050】
(調製例6:比較例、クラリスロマイシンI型結晶粉末単独での加熱撹拌)
クラリスロマイシンI型結晶粉末12gを、予め95℃に加熱しておいた攪拌機に投入し、加温しながら1000rpmで14分間撹拌した。8分後には紛体温度は92℃に達し、その後は92℃を維持したまま撹拌を行った。
【0051】
(粉末X線回折データ測定)
調製例5および6のそれぞれで得られた試料について、粉末X線回折データを測定した。得られたスペクトル図を
図5および6に示す。
図5に示したスペクトル図より、クラリスロマイシン重量の25%Gelucire43/01を加えて加熱撹拌したサンプル(D)では、加熱撹拌前のサンプル(C)と比較すると、I型結晶の標品スペクトル(A)に認められる固有の回折ピークが消失していることが認められる。一方、II型結晶の標品のスペクトル(B)と相同性を有するスペクトルが得られていることも認められ、Gelucire43/01を加えて加熱撹拌を行ったことによりI型結晶からII型結晶への相転移が完了していることが確認された。一方、
図6に示したスペクトル図により、Gelucire43/01を加えずに92℃で加熱撹拌を行ってもI型結晶からII型結晶への相転移は生じないことが確認された。