特開2016-71297(P2016-71297A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-71297(P2016-71297A)
(43)【公開日】2016年5月9日
(54)【発明の名称】トレーニング用具
(51)【国際特許分類】
   G09B 23/34 20060101AFI20160404BHJP
   G09B 19/24 20060101ALI20160404BHJP
【FI】
   G09B23/34
   G09B19/24 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-203510(P2014-203510)
(22)【出願日】2014年10月1日
(71)【出願人】
【識別番号】513188376
【氏名又は名称】有限会社サンラボ
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100111464
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 悦子
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 富士朗
【テーマコード(参考)】
2C032
【Fターム(参考)】
2C032CA06
(57)【要約】
【課題】カテーテル挿入手技を習得するためのトレーニング用具を提供する。
【解決手段】カテーテル挿入手技を習得するためのトレーニング用具であって、鼻腔または尿道口が形成された模擬身体部品と、前記模擬身体部品に形成された鼻腔または尿道に中空かつ液密に固設された中空管と、前記中空管の他端部に脱着自在に連設された袋状物とを有する。前記袋状物を胃袋や膀胱にみたて、鼻カテーテルによる栄養供給や尿道カテーテルによる採尿手技などをトレーニングすることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カテーテル挿入手技を習得するためのトレーニング用具であって、
鼻腔または尿道口が形成された模擬身体部品と、
前記模擬身体部品に形成された鼻腔または尿道に中空かつ液密に固設された中空管と、
前記中空管の他端部に脱着自在に連設された袋状物とを有する、トレーニング用具。
【請求項2】
更に、前記模擬身体部品を脱着可能に固定する台座を含む、請求項1記載のトレーニング用具。
【請求項3】
前記模擬身体部品は、真空成形により調製された面状の模擬顔面または模擬股間であることを特徴とする、請求項1または2記載のトレーニング用具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カテーテル挿入手技を習得するための、トレーニング用具に関する。
【背景技術】
【0002】
ネコなどのペットの飼育は人の心を癒し和ませ、孤独を解消し、いたわりの心を育むなどの利点がある。高齢化が進む今日、老齢者や認知症患者の間でも、ペットを飼育することで生活に張りが生じ、または生きがいを取り戻した等の報告がある。これらペットが病気になった場合には動物病院等で治療を受けることが一般的であるが、物言わぬ動物の診断・治療・看護は容易でない。
【0003】
一般に、動物の治療や看護、その他の取り扱いを学ぶ専門学校や獣医学部では、動物実習を行うことで、実際の動物の取り扱いを体得する。しかしながら、動物を拘束したり、命を犠牲にすること、動物に苦痛を与えることは動物愛護の見地から好ましくない。そこで、教育レベルの向上と動物愛護の双方を両立すべく、動物模型教材の開発がなされている。
【0004】
例えば、サル類の取り扱いの習熟のため、サル類の生体の形状を模して成形された外装材と、前記外装材の内部に詰められた充填材とからなり、少なくとも、首部、肩関節部、肘関節部、股関節部、膝関節部、および尾根部が可動に構成されたサル模型がある(特許文献1)。サル類は、げっ歯類を用いた実験では得られない実験データをもたらす貴重な動物であることに鑑み、サル類の取り扱い向上のためになされたものである。このサル模型を用いれば、訓練者がサル類の保定、採血、経口投与、気管挿入などの手技を、生きた動物を用いた操作に近い条件下で訓練できる、という。
【0005】
また、解剖学的、臨床学的トレーニングのために、模擬臓器、模擬器官を供えた等身大の哺乳動物模型もある(特許文献2)。獣医・畜産分野の教育現場では、参加型の産業動物臨床実習は必要不可欠な実習である。しかしながら、実習で利用される動物数が限られているために全員が参加型の動物臨床実習を行うことは困難である。また、動物福祉の観点からも、動物が多人数による長時間の実習に供されることは多大なストレスになるなどの問題もある。上記哺乳動物模型は、これらの点に鑑みてなされたものである。外科的手術、内視鏡、超音波診断、採血などの手段を模擬的に行えるように、動物模型の表面には体腔内の模擬臓器・器官の状態を確認するための開口を有し、触診を行う直腸検査に適するように、弾力性、重さなどが実際の動物の臓器に近似する模擬直腸、模擬卵巣、模擬子宮などが充填されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】登録実用新案第3152446号公報
【特許文献2】特開2014−32253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
動物模型の必要性は、サル類やウシ・ブタ・ヒツジなどの畜産分野に関連する動物に限定されない。イヌやネコはサル類よりも飼育数が多いが、動物愛護の必要性はサル類などと同様である。特に、愛玩動物の重要性が高まる中で、イヌやネコなどの動物模型があれば、治療・診断用具の取り扱いのトレーニングを簡便に行うことができる。特に、カテーテル挿入などは多用される手技の1つである。実際の動物を使用せずに、カテーテル挿入手技を習得しうるトレーニング用具があればいつでもトレーニングすることができ、習得者にも便宜である。しかも、安価に製造できれば、多くの学生が同じ手技について同時に学習することができる利点もある。従って、簡便かつ安価に製造できる、トレーニング用具の開発が望まれる。
【0008】
更に、動物病院などにおいては、動物の触診や採血、採尿方法のみならず、例えば、採取した尿の検査室への搬送、採尿後の尿の処理、尿成分の分析、疾病の検討などが一連の作業として行われる。動物看護・診断学などを習得する際にも、例えば、尿道カテーテルの準備、尿道カテーテルの挿入、採尿、採尿物の検査室への搬送、採尿物の検査などを一連の作業として体得できれば、実践的な習得が可能となる。しかしながら、従来の動物模型は、カテーテル挿入手技をトレーニングするものは少なく、動物模型に模擬胃液や模擬尿を収納することもできなかった。よって、動物の診断、看護や治療等に際し、実際の取り扱いに則した一連の作業を訓練しうるトレーニング用具の開発が望まれる。
【0009】
また、一連の工程を習得するには、各人がそれぞれ動物模型と接触できることが好ましい。しかしながら、従来の動物模型は、対象とする実際の全体を模したものであり、保定の習得を目的として関節部が形成され、または触診を可能とするため対象動物の臓器に近似する模擬臓器が充填されるものである。種々の手技を習得しうる利点はあるが、実際の動物に近似する重量で作成されているため持ち運びが困難であり、実際の動物に似せて造形するため高価なものとなっていた。このため、動物模型を使用する場合でもグループ学習となり、全員がそれぞれ個別にトレーニングできるものではなかった。従って、カテーテル挿入手技に限定して習得でき、一方、各種のカテーテル挿入手技を習得しうる汎用性を有する、トレーニング用具の開発が望まれる。
【0010】
上記現状に鑑み、本発明は、動物の診断、看護、治療などを行う際のカテーテル挿入手技を習得しうるトレーニング用具であって、各種のカテーテル挿入の手技を体得でき、かつカテーテル挿入のみならず、試料の採取から採取物の処理に至る一連の工程を習得しうる、トレーニング用具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、ネコの鼻カテーテル挿入について詳細に検討したところ、ネコの顔面形状に近似する模擬顔面の鼻腔に、食道に見立てた中空管を固設し、かつ前記中空管の端部に胃袋に見立てた袋状物を脱着可能に配設したものを台座に固定すると、鼻カテーテル挿入用に保定したネコの姿態に近似することを見出した。模擬顔面の鼻腔および中空管にカテーテルを挿入すると、鼻カテーテル挿入手技や経鼻栄養法のトレーニングを行うことができる。また、模擬顔面に代えて尿道口が形成された模擬股間に尿道に見立てた中空管および膀胱に見立てた袋状物を連設し、これを台座に固定すれば、ネコの尿道カテーテル挿入手技や排尿のトレーニング用具として使用できる。本発明は、上記知見に基づいて、完成されたものである。
【0012】
すなわち本発明は、カテーテル挿入手技を習得するためのトレーニング用具であって、
鼻腔または尿道口が形成された模擬身体部品と、
前記模擬身体部品に形成された鼻腔または尿道に中空かつ液密に固設された中空管と、
前記中空管の他端部に脱着自在に連設された袋状物とを有する、トレーニング用具を提供するものである。
【0013】
また本発明は、更に、前記模擬身体部品を脱着可能に固定する台座を含む、前記トレーニング用具を提供するものである。
【0014】
また本発明は、前記模擬身体部品が、真空成形により調製された面状の模擬顔面または模擬股間であることを特徴とする、前記トレーニング用具を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明のトレーニング用具は、鼻カテーテルや尿道カテーテルの手技を習得することができ、かつ安価に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】ネコの鼻腔、食道、胃袋を模式的に説明する断面図である。
図2】本発明のトレーニング用具の一例を示す図である。図2(a)は、鼻カテーテル挿入のトレーニング用具の一例であって、台座に模擬顔面が固設された態様の側面図であり、図2(b)はその正面図である。
図3】ネコの尿道口、尿道、膀胱を模式的に説明する断面図である。
図4】本発明のトレーニング用具の一例を示す図である。図4(a)は、尿道カテーテル挿入のトレーニング用具の一例であって、台座に模擬股間が固設された態様の側面図であり、図4(b)はその正面図である。
図5】本発明のトレーニング用具の一例の他の態様を示す図である。台座が底板に連設する固定面と支持板とからなり、固定面と支持板とを貫通する支持棒が配設され、支持棒の長さを固定することで固定面の角度が固定されるように構成されている。
図6】本発明のトレーニング用具の一例の他の態様を示す図である。模擬股間に肛門が配設され、結腸に見立てた袋状物が配設される態様であり、台座の肛門近傍に結腸に見立てた袋状物を貫通しうる貫通孔が形成されている。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、カテーテル挿入手技を習得するためのトレーニング用具であって、鼻腔または尿道口が形成された模擬身体部品と、前記模擬身体部品に形成された鼻腔または尿道に中空かつ液密に固設された中空管と、前記中空管の他端部に脱着自在に連設された袋状物とを有する、トレーニング用具である。カテーテルは、胸腔や腹腔などの体腔、消化管や尿管などの管腔部、血管などに挿入し、体液の排出や、薬液・造影剤・流動食の注入などに用いる医療用具である。挿入臓器により、鼻カテーテル、尿道カテーテル、中央静脈カテーテル、心臓カテーテルなどと称される。本願発明は、少なくとも鼻カテーテル挿入手技または尿道カテーテル挿入手技を習得するトレーニング用具である。被挿入動物に限定はなく、イヌ、ネコ、ウサギなどの哺乳類のほか、鳥類、爬虫類その他であってもよい。本願発明では、便宜のため、ネコ用のトレーニング用具の場合で説明する。
【0018】
(1)トレーニング用具
図1は、ネコの鼻腔から胃袋までを説明する横断面模式図である。顔面中央の鼻腔(nasal cavity)Nは食道(esophagus)Eおよび図示しない気管(trachea)Tに連通し、食道Nは袋状の胃袋(stomach)Sに連通している。鼻カテーテルを使用する場合は、鼻腔Nから鼻カテーテルを挿入し、気管Tと食道Eとの枝分かれ部で食道E側を選択する。鼻カテーテルは、食道E内に留置してもよく、胃袋S内まで挿入してもよい。
【0019】
本発明のトレーニング用具を図2を用いて説明する。図2(a)は、ネコの鼻カテーテル挿入を習得するための、本願発明のトレーニング用具の側面図であり、図2(b)はその正面図である。ネコの顔面の輪郭を模して形成された面状の模擬顔面1Aが、模擬身体部品として台座5に固定されている。模擬顔面1Aの鼻部には、鼻腔1aが形成されており、当該鼻腔1aは面状の模擬顔面1Aの表面側から裏側まで貫通している。鼻腔1aは模擬顔面1Aの裏側で中空管2と液密に固設されている。また、中空管2の他端部は連結部材3を介して袋状物4と連設されている。図2に示す台座5は、模擬顔面1Aが固定される固定面5a、底板5b、中板5c、および支持板5dとから構成され、前記固定面5aと中板5cにはそれぞれ貫通孔5e、5fが形成されている。固定面5aの表面に固定された模擬顔面1Aには中空管2が固定されているが、この中空管2、連結部材3および袋状物4は、固定面5aに形成された貫通孔5eを貫通して前記底板5bの上に載置されている。なお、符合6で示される突起は、中板5cの自由端を載置する突起であり、突起を変更することで固定面5aの角度を変更することができる。
【0020】
前記中空管2は、ネコの鼻腔Nおよび食道Eに見立てることができ、袋状物4は胃袋Sに見立てることができる。中空管2よりも細径のカテーテルを鼻腔1aを経て中空管2内に挿入することで、鼻カテーテルの挿入手技をトレーニングすることができる。また、挿入するカテーテルの非挿入側の端部にシリンジを連設し、シリンジに流動食を充填し、袋状物4内に注入すれば、経鼻栄養法のトレーニングを行うことができる。
【0021】
また、図3は、ネコの尿道口から膀胱までを説明する横断面模式図である。股間中央の尿道口(meatus urethra)Mは尿道(urethra)Uを介して膀胱(bladder)Bに連通している。尿道カテーテルを使用する場合は、尿道口Mから尿道カテーテルを挿入する。尿道カテーテルの先端は、尿道内に留置してもよく、膀胱まで挿入してもよい。
【0022】
図4は、図2に示す模擬顔面1Aに代えて、尿道口1bが形成された面状の模擬股間1Bを固定した態様を示す図である。図4(a)に示すように、尿道口1bは模擬股間1Bの裏面側で中空管2と液密に固設されている。この中空管2の他端部は、連結部材3を介して袋状物4と連設されている。模擬股間1Bの尿道口1bは、固定面5aの表面側にあるが、中空管2と袋状物4とは、固定面5aに形成された貫通孔5eを貫通して固定面5aの裏面側にある。更に、中板5cに設けた貫通孔5fをくぐらせると、袋状物4を中板5cの上部に載置することができる。これにより、尿道カテーテル挿入手技や排尿方法などをトレーニングすることができる。
【0023】
(2)模擬身体部品
模擬身体部品とは、身体の一部を模した部品である。ネコ全体の模型を使用することなく、カテーテル挿入を目的とする臓器を含む身体の一部の模型を使用することで、安価かつ簡便にトレーニング用具を製造することができる。実際の動物と略同じサイズで身体の一部を模した模擬身体部品であることが好ましい。実際の動物と近似した環境で、目的とする手技のトレーニングをすることができる。
【0024】
模擬身体部分には、カテーテルを挿入する腔が形成されている必要がある。例えば、鼻カテーテル挿入のトレーニング用具を構成する模擬身体部品としては、鼻腔が存在し、かつ鼻腔を含むその周辺部位が含まれるものを例示することができる。鼻のほかに目、耳、頬、額などを含む顔面の輪郭を、ネコと略同サイズで模した模擬顔面であることがより好ましい。これにより、実際の動物と対向して操作する場合と近似した環境でトレーニングを行うことができる。なお、模擬顔面の形状は、カテーテル挿入の際に動物の顔面を想定できればよい。従って、顔面の輪郭は、実際のネコの形状に限定されず、デフォルメされたものであってもよい。
【0025】
尿道カテーテル挿入用のトレーニング用具の場合は、少なくともカテーテルを挿入する尿道口が存在すればよい。図4(b)に示すように、尿道口1bに加えて陰嚢1cや肛門1dが含まれるものであってもよく、更には図示しない尾部が含まれてもよい。
【0026】
模擬身体部品の素材には限定がない。例えば、紙、木、合成樹脂、金属、布帛、繊維、不織布、及びこれらの複合物を使用することができる。本発明のトレーニング用具は、カテーテル挿入を目的とするため、挿入用の鼻腔や尿道口が存在すればよい。従って、例えば模擬顔面1Aにおいて、動物の顔面の触感に近似する部材を使用する必要はなく、実際のネコのような体毛などなくてもよい。例えば、木材を顔面形状に削り出したもの、紙や不織布をネコの顔面形状に圧縮成形したもの、または金属や布帛、合成樹脂を顔の輪郭線に沿って面状に成形したものに、鼻腔に該当する貫通孔を形成したものを模擬顔面として例示することができる。
【0027】
模擬股間1Bも模擬顔面1Aと同様に調製することができる。合成樹脂板や金属板をネコの股間の輪郭線に沿った凹凸を有する面状に成形し、これらに尿道口1bに該当する貫通孔を形成すればよい。ネコの股間の輪郭をネコの股間と略同サイズで模した模擬股間1Bを使用することで、実際の動物と近似した環境でトレーニングを行うことができる。なお、模擬股間1Bは、尿道カテーテル挿入手技のトレーニングの際に、ネコの股間であることが想定できればよく、デフォルメされたものであってもよい。
【0028】
本発明で好適に使用する模擬股間1Bは、模擬顔面1Aと同様に、合成樹脂板を股間の輪郭に沿って真空成形した面状物の尿道口部分に貫通腔を形成したものや、金属板を股間の形状にプレス加工したものに、尿道口として貫通孔を形成したものなどを好適に使用することができる。面状物は軽量であり、かつプレスや真空加工により安価かつ大量に製造することができる。
【0029】
合成樹脂板としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリスチレン、塩化ビニル、アクリル樹脂などを使用することができる。予め着色した合成樹脂板を使用して成形してもよく、成形後に着色してもよく、顔面や股間に近似した着色を行うこともできる。なお、着色は任意であり、合成樹脂板色や金属板色であってもよく、合成樹脂製の場合は無色透明であってもよい。
【0030】
(3)中空管
本発明で使用する中空管2は、鼻腔、食道、尿道として機能する管状物である。ただし、模擬食道として使用する場合でもネコの食道に近似した太さやカーブなどが形成される必要はない。鼻腔1aに固設された管状部が存在すれば、鼻カテーテル挿入手技の実習には十分である。なお、中空管2の材質は、液密が確保できれば特に制限はないが、上記組織に近似する柔軟性があることがより好ましい。例えば、ポリウレタンやゴム、シリコン、塩化ビニル、フッ素樹脂、ポリエチレン、ナイロンなどの管状物を使用することができる。中空管2の太さや長さは、適宜選択することができるが、ネコを対象とする場合は、内径が1.50〜2.50mmである。鼻カテーテルや尿道カテーテルに使用するカテーテルの外径が1.00〜1.35mmであるため、上記範囲であれば、挿入に十分な太さを確保できるからである。また、中空管2は全長に亘って同一径である必要はなく、異なる径の2つ以上の中空管を連結して一体としたものでもよい。中空管2の長さは、ネコ、イヌ、トリ、その他、トレーニングを目的とする動物その他によって適宜選択することができる。一般には、中空管2の長さは、20〜40cmである。例えば、ネコの鼻カテーテルのトレーニングでは、カテーテル先端を胃袋内や胃袋近傍に到達させる場合があるが、上記長さがあれば、鼻カテーテルによる経鼻栄養法のトレーニングにも十分対応することができる。
【0031】
中空管2は、模擬顔面1Aや模擬股間1Bに形成した鼻腔1aや尿道口1bとみなされる貫通孔と液密に固定される。模擬身体部分と中空管2との固設は、例えば模擬身体部分と中空管2が類似する熱可塑性の合成樹脂で構成されている場合には、熱溶着により固設することができる。また、接着剤を介して接着してもよい。これにより、鼻腔1aから挿入したカテーテルを、固設した中空管2内に導入することができる。また、液密に固定されているため、袋状物4に流動物を収納した場合でも、接続部から遺漏させることがない。
【0032】
(4)袋状物
袋状物4は、胃内容物を保持する胃袋Sや、尿を収納する膀胱Bの代用物である。実際の胃袋Sは太い管状であり、食物などが流入される噴門部と排出する幽門部との2つの開口部を有する。膀胱Bも腎臓から排出された尿を膀胱に導入する尿管と、膀胱内の尿を排出する尿道という2以上の開口部を有する。しかしながら、本願発明で使用する袋状物4は、中空管2と連設される袋状物であればよい。中空管2から導入された流動物を収納し、または袋状物4に収納した流動体を挿入したカテーテルによって排出できれば十分だからである。
【0033】
袋状物4は、トレーニングの際に袋状に拡幅すれば、それ自体が伸縮し、または膨張する必要はない。ただし、伸縮性を有すれば、実際の胃袋や膀胱に近似した環境となり、かつ未使用時にコンパクトに収納できる利点がある。
【0034】
袋状物4の素材は、例えば、ポリウレタンやゴム、シリコン、塩化ビニルなど、液密を確保することができるものが好適である。模擬胃液や模擬尿などを収納することができる。また、経鼻栄養法のトレーニングにおいては、カテーテルに連設したシリンジから流動食を注入することができる。袋状物4が膨張する素材からなる場合は、袋状物の容積は、拡張時に胃袋や膀胱と同程度になればよい。ネコの場合は、30〜150mlである。なお、袋状の形状は球体に限定されるものではない。
【0035】
袋状物4は、中空管2と脱着自在に連設できる構成となっている。袋状物4が伸縮性を有する場合には、中空管2の端部に中空管2の外周よりも細い開口径の袋状物4を装着すればよい。その際、袋状物4と中空管2との連結部をクリップなどの把持具で固定してもよい。更に、中空管2と袋状物4とを把持具を含む他の連結部材3を介して連結してもよい。本発明では、袋状物4を脱着自在に中空管2に連設できる点に特徴があり、これによって袋状物4へ擬似胃液や擬似尿などを収納した場合、使用後に洗浄を簡便に行うことができる。
【0036】
このような連結部材3としては、例えば一端が中空管2と、他端が袋状物4と連設しうる両端の径が異なる管状物を例示することができる。なお、連結部材3は、一体物に限定されない。連結部材3の材質は、液密が確保されれば特に限定はなく、合成樹脂、金属、ガラス、これらの複合体を使用することができる。
【0037】
(5)台座
本発明のトレーニング用具は、前記した模擬身体部品を脱着自在に固定しうる台座5を含むものであってもよい。台座5は、少なくとも模擬身体部品を脱着自在に固定することができる固定面5aと、前記固定面5aを支持する支持部材とを有する。
【0038】
固定面5aは、模擬身体部品を脱着自在に固定する部材である。図2(a)、図2(b)では、方形の平面板で示されているがこれに限定するものではない。模擬身体部品を脱着自在に固定できれば、平面に限定されず湾曲面であってもよく、方形に代えて円形や楕円形、三角、四角その他の多角形であってもよい。また、模擬身体部品を脱着自在に固定する手段も特に限定されず、台座が模擬身体部品を脱着自在に固定するための何らかの固定機構を有する必要もない。従って、前記固定面5aに、粘着テープ、面ファスナー、その他の部材を介して模擬身体部品を脱着可能に固定してもよく、使用の際にゴムやバンドなどの紐状物で模擬身体部品を固定してもよい。また、模擬身体部品の一部に予め粘着層を形成し、固定面5aに前記粘着層を介して固定するものであってもよい。一方、固定面5aに、模擬身体部品を脱着可能に固定するための溝、フックその他の固定部を形成し、この固定部を介して固定してもよい。固定面5aは、少なくとも模擬顔面1Aと模擬股間1Bとの何れかを脱着自在に固定できればよいが、これら双方を固定できることが好ましい。固定面5aが固定部を有する場合には、模擬顔面1Aと模擬股間1Bとをそれぞれ固定できるように固定部が共通して、または別個に形成されることが好ましい。これにより、台座5を共通させ、鼻カテーテルと尿道カテーテルの双方の挿入手技をトレーニングすることができる。
【0039】
台座5の固定面5aには、図2(a)に示すように、模擬身体部品に固設された中空管2と袋状物4とを貫通させる貫通孔5eが形成されている。模擬身体部品を固定する側を表面、その裏側を裏面とすれば、中空管2と袋状物4とを貫通孔5eを介して固定面5aの裏面側に移動させることができる。なお、固定面5aに形成される貫通孔は、模擬身体部品に固設される中空管の近傍である。図4(a)に、固定面5aに模擬股間1Bを固定した態様が示されているが、固定面5eの表面に模擬股間1Bが位置し、裏面側に中空管2と袋状物4とが位置している。貫通孔5eは、模擬顔面1Aと模擬股間1Bの双方に共通して使用し得る位置に形成されることが好ましい。
【0040】
固定面5aを支持する支持部材は、固定面5aを所定の角度に固定できればよい。一部材で構成してもよく、複数の部材によって構成してもよい。例えば図2(a)に示す台座5では、底板5b、中板5c、支持板5dの全てが一体となり支持部材として機能している。この場合、固定面5a、底板5b、支持板5dおよび中板5cを、全てが連設する合成樹脂の射出成形による一体物として形成することができる。一方、固定面5a、底板5b、支持板5d、中板5cがこの順に連接する長尺物として形成してもよい。この長尺物に、図2(a)に示すように、固定面5aの裏面に3つの突起6を形成した場合、中板5cの自由端をいずれかの突起6の上部に載置し、突起6と中板5cの自由端部を面ファスナーなどで固定すれば、固定面5aの角度を調整しつつ、その角度を固定することができる。
【0041】
また、他の態様として、固定面5a、底板5bと支持板5dとがこの順に連設された長尺物あって、例えば図5に示すように、固定面5aと支持板5dとが支持棒5hで固定されるものなどであってもよい。固定面5aと支持板5dとには、貫通孔8aが形成されている。この貫通孔8aに支持棒5hを係止し、支持棒5hの両端をそれぞれ一対のナット8bによって固定すれば、固定面5aの角度を調整しつつ当該角度を固定することができる。固定面5aと支持板5dとに複数の貫通孔8aを形成して支持棒5hを支持する位置を変化させたり、またはナット8bの固定位置を変えて支持棒5hの長さを変化させることで、固定面5aの角度を調整しつつその角度を固定することができる。なお、固定面5aと支持板5dに係止される支持棒5hは2本以上であってもよい。2本の支持棒5hを同じ高さで係止した場合には、その上部に中板5cを載置することもできる。
【0042】
固定面5aの角度(θ)は、固定する模擬身体部品に応じて適宜選択することができる。水平面と固定面5aの裏面とのなす角度(θ)は45〜90°の範囲であることが好ましい。台座5が固定面5aの角度(θ)を調整する機構を有すれば、実際の動物に対向した状態に近い環境でトレーニングを行うことができる。
【0043】
更に、台座5には、固定した模擬身体部品の鼻腔や尿道口より上部となる位置に、袋状物4を載置する載置部が形成されるものであってもよい。例えば、図4(a)に示す中板5cは載置部として機能する。固定面5aに模擬股間1Bを固定した場合に、尿道口1bより上部となる中板5cの上部に袋状物4を載置する。中板5cには、その下部にある袋状物4が中板5cの上方に移動できるように貫通孔5fや切込みその他が形成されるものであってもよい。尿道カテーテルの際に保定されたネコの膀胱Bは尿道口Mより上方等にあり、上記態様によれば、実際の動物を取り扱う態様に近似した環境で尿道カテーテルの導入手技をトレーニングすることができ、膀胱からの排尿をトレーニングすることができる。
【0044】
台座5は、木、合成樹脂、金属、これらの複合品で構成することができる。合成樹脂であれば、ポリプロピレン、ポリスチレン、塩化ビニル、ABS樹脂、ポリカーボネート、ポリアセタールなどを好適に使用することができる。
【0045】
なお、底板5bは、台座5を机上に載置する際に、机との接触部となる。このような接触部やその一部にすべり防止機構を配設すれば、カテーテル挿入手技の実習に際して台座5を固定できる。このようなすべり防止機構としては、すべり防止剤の塗工、すべり防止用テープの添付などがある。
【0046】
本発明で使用する台座5は、少なくとも固定面5aを有するが、収納や搬送の便宜のため、台座5は折り畳める構成であることが好ましい。このような折畳み機構は、従前公知の方法によって構成することができる。
【0047】
(6)トレーニング方法
ネコの鼻カテーテル挿入手技をトレーニングする方法を説明する。
まず、図2(a)に示すように、台座5の固定面5aを、70〜85°の角度(θ)に固定する。模擬身体部品を構成する袋状物4を、模擬顔面1Aに固設された中空管2に連結部材3を介して連設する。連設した袋状物4を、固定面5aの表面から、貫通孔5eを貫通させて裏面側に移動させ、底板5bの上に載置する。次いで、模擬顔面1Aの耳部を固定面5aの表面に両面テープで固定する。また、模擬顔面1Aのあご部を粘着テープで固定する。台座5の固定面5aに模擬顔面1Aが固定されたトレーニング用具を、机の上に載置する。なお、台座5の底板5bに滑り止め機構が配設されていない場合には、机上にすべり防止マットを広げ、このマットの上に台座5を載置してもよい。
【0048】
模擬顔面1Aの鼻腔1aから鼻カテーテルを挿入し、食道に見立てた中空管2内に導入する。これにより、鼻カテーテル挿入の手技をトレーニングすることができる。更に、鼻腔1aに挿入した鼻カテーテルの端部にシリンジを連設させ、シリンジに流動食を充填してシリンジを押圧し流動食を袋状物4に導入すれば、経鼻栄養法をトレーニングすることができる。
【0049】
予め、袋状物4に擬似胃液を収納し、これを模擬顔面1Aに固設された中空管2に連結部材3を介して連設した場合には、鼻腔1aから鼻カテーテルを袋状物4まで挿入し、挿入した鼻カテーテルによって擬似胃液を採取して胃液採取のトレーニングを行うことができる。
【0050】
動物病院における実際の診断、看護、治療においては、胃液内容物の検査なども行われる。予め袋状物4に、疾患に特有の成分を含ませた擬似胃液を収納し、鼻カテーテルを袋状物4の中まで導入して擬似胃液を採取させ、採取した胃液を検査室へ搬送させ、胃液成分の検査、疾病の検討などを行うことで、実際の看護・診断・治療に近い環境で、一連の工程をトレーニングすることができる。
【0051】
尿道カテーテル挿入手技のトレーニングも、鼻カテーテル挿入のトレーニングと同様にして行うことができる。模擬股間1Bに固設された中空管2に袋状物4を連設する。台座5を、尿道カテーテル導入に適した角度(θ)で組み立て、前記袋状物4を固定面5aの表面側から貫通孔5e、および中板5cの貫通孔5fを貫通させて、中板5cの上に載置する。次いで、台座5の固定面5aに模擬股間1Bを固定する。模擬股間1Bに形成された尿道口1bに尿道カテーテルを挿入すれば、尿道カテーテルの挿入手技をトレーニングすることができる。なお、模擬股間1Bを固定する固定面5aの傾斜角は、水平から45〜90°であることが好ましい。
【0052】
予め、袋状物4に模擬尿を収納し、尿道カテーテルを袋状物4まで導入させ、袋状物4に収納した擬似尿を採取させると、尿道カテーテルによる尿採取のトレーニングを行うことができる。
【0053】
模擬尿に、予め疾患に特有の成分を含ませ、尿道カテーテルによる尿の採取、採取した尿の検査室への搬送、尿成分の検査、疾病の検討などを行うことで、尿道カテーテルを用いた診断の一連の工程をトレーニングすることができる。
【0054】
本発明では、図6に示すように、模擬股間に肛門1dに見立てた貫通孔を形成し、この肛門1dに結腸に見立てた袋状物7を脱着自在に連設したものを模擬股間1Bとして使用してもよい。この場合には、台座5として、固定面5aの肛門1d近傍に更に貫通孔5gが形成されたものを使用する。袋状物4を中板5cに載置した後に、結腸に見立てた袋状物7を固定面5aの表面側から貫通孔5gを経て裏面側に貫通させ、次いで模擬股間1Bを固定面に固定する。この肛門1dに連設される袋状物7を使用して直腸の触診のトレーニングを行うことができる。また、予め袋状物7に擬似便を充填すれば、摘便のトレーニングを行うことできる。
【0055】
上記は、本発明のトレーニング用具を用いたトレーニング方法の一例であり、これに限定されるものではない。中空管2に脱着自在の袋状物4が連設され、袋状物4には種々の流動物を収納することができるため、中空管2、袋状物4、流動物を種々に見立てて、各種のトレーニングを行うことができる。流動物に、疾患に特有の成分を含有させることで、生体成分の採取手技をトレーニングすることができ、採取後の分析などの一連の作業も、実地に近い状態でトレーニングすることができる。
【0056】
上記は、ネコの場合で説明したが、ネコに限定されるものではなく、各種の動物用に変形することができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、カテーテル挿入手技を習得するためのトレーニング用具であり、動物病院、獣医学部、動物看護師養成校その他で利用でき、またトレーニング用具製造業などの産業に利用することができる。
【符号の説明】
【0058】
1A・・・模擬顔面、
1B・・・模擬股間
1a・・・鼻腔、
1b・・・尿道口、
1c・・・陰嚢、
1d・・・肛門、
2・・・中空管、
3・・・連結部材、
4、7・・・袋状物、
5・・・台座、
5a・・・固定面、
5b・・・底板、
5c・・・中板、
5d・・・支持板、
5e、5f、5g・・・貫通孔、
5h・・・支持棒、
6・・・突起、
8a・・・貫通孔、
8b・・・ナット、
N・・・鼻腔、
E・・・食道、
S・・・胃袋、
M・・・尿道口、
U・・・尿道、
B・・・膀胱
図1
図2
図3
図4
図5
図6