【背景技術】
【0002】
カキは、良質なタンパク質、タウリン、ミネラル類、ビタミン類等、豊富な栄養素を含んでおり、従来より、このカキのエキスを利用した医薬組成物等が提案されている。
【0003】
例えば、ビタミンC25〜35W%を少なくとも含む抗酸化物質と、牡蠣肉エキス1〜3W%を少なくとも含む抗酸化増強物質とを含有する機能強化補助食品(特許文献1参照)や、卵殻膜又はその加水分解物、及びカキエキスを含有する肌改善用食品組成物(特許文献2参照)が提案されている。
【0004】
また、カキ抽出物を有効成分として含有する胃潰瘍予防用または治療用の医薬組成物(特許文献3参照)や、カキ抽出物を有効成分として含有する男性不妊予防用または治療用の医薬組成物(特許文献4参照)が提案されている。
【0005】
しかしながら、上記特許文献1及び2に示される組成物においては、カキエキスは補助的な成分として用いられているにすぎず、カキエキス単独の効能を追求したものではない。また、特許文献3及び4の組成物は、胃潰瘍や男性不妊といった特定の効能に関するものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の皮膚保湿剤を適用した雌性ヘアレスマウスのUVB照射前からUVB照射5日後における角質水分量の測定結果(実測値)を示す図である。
【
図2】本発明の皮膚保湿剤を適用した雌性ヘアレスマウスのUVB照射前からUVB照射5日後における角質水分量の測定結果(変化値)を示す図である。
【
図3】本発明の皮膚保湿剤を適用した雄性ヘアレスマウス(低タンパク食負荷)の28日目までの角質水分量の測定結果(変化値)を示す図である。
【
図4】本発明の皮膚保湿剤を適用した雄性ヘアレスマウス(低タンパク食負荷)のUVB照射後における角質水分量の測定結果(変化値)を示す図である。
【
図5】本発明の皮膚保湿剤を適用した雄性ヘアレスマウス(低タンパク食負荷)の28日経過後の表皮厚の測定結果を示す図である。左側から順に、ノーマル群、コントロール群、カキエキス10%群、カキエキス10%+コラーゲン1%群、コラーゲン1%群を示す。
【
図6】本発明の皮膚保湿剤を適用した雄性ヘアレスマウス(低タンパク食負荷)の28日経過後の皮膚中ヒアルロン酸(HA)量の測定結果を示す。左側から順に、ノーマル群、コントロール群、カキエキス5%群、カキエキス10%群、カキエキス5%+コラーゲン1%群、カキエキス10%+コラーゲン1%群、コラーゲン1%群を示す。
【
図7】本発明の皮膚保湿剤を適用した雄性ヘアレスマウス(低タンパク食負荷)の28日経過後の皮膚中mRNA量の測定結果を示す。左側から順に、ノーマル群、コントロール群、カキエキス5%群、カキエキス10%群、カキエキス5%+コラーゲン1%群、カキエキス10%+コラーゲン1%群、コラーゲン1%群を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の皮膚保湿剤としては、カキエキスを有効成分として含有するものであれば特に制限されるものではなく、本発明の皮膚保湿剤は、紫外線(UVB)照射により減少した角質水分を回復する角質水分回復促進作用(紫外線照射による角質水分の低減を抑制する角質水分低減抑制作用)により皮膚を保湿することができる。また、本発明の皮膚保湿剤は、皮膚中のヒアルロン酸の合成を促進する作用を有することから、ヒアルロン酸合成促進剤として機能する。
【0013】
本発明の皮膚保湿剤の有効成分となるカキエキスの原料となるカキ(牡蠣)としては、イタボガキ科に属する牡蠣であれば特に制限されるものではなく、マガキ属に属する牡蠣やイタボガキ属に属する牡蠣を例示することができる。
【0014】
本発明のカキエキスとしては、これらのカキの身(カキ肉)を溶剤で抽出したものや、カキ肉を酵素で加水分解したものを例示することができる。抽出溶剤としては、水、アルコール等を例示することができる。また、加水分解酵素としては、食品素材(タンパク質)を加水分解する酵素であればその種類は問わない。
【0015】
これら抽出処理、酵素処理は、必要に応じて加温及び/又は加圧して行うことができる。また、より多くの有効成分を得るために、カキ肉を抽出処理、酵素処理前に予め粉砕しておくことが好ましい。
【0016】
例えば、粉砕したカキ肉を40〜90℃程度の水で1〜5時間程度抽出し、カキ肉残渣を除去した後に濃縮し、必要に応じて噴霧乾燥、凍結乾燥等を行い、液状又は粉末状等のカキエキス(抽出濃縮物)を得ることができる。
【0017】
また、粉砕したカキ肉を40〜80℃程度の水中で酵素を作用させて加水分解し、酵素を失活させた後に、カキ肉残渣等の不要物を除去し、濃縮し、必要に応じて噴霧乾燥、凍結乾燥等を行い、液状又は粉末状等のカキエキス(抽出濃縮物)を得ることができる。
【0018】
本発明のカキエキスは、抽出液そのものであってもよいが、これを濃縮した液状、半固形状、固形状の濃縮物であることが好ましい。具体的に、カキエキスとしては、カキエキスを含有する市販品を用いることができ、例えば、カキ肉の酵素処理物である株式会社東洋新薬製「まるごと濃縮かきエキスパウダー」を用いることができる。
【0019】
本発明の皮膚保湿剤は、さらにコラーゲンを含有することが好ましい。カキエキスと共にコラーゲンを含有することにより、角質水分回復促進作用を同等以上に向上させることができる。本発明の皮膚保湿剤中におけるコラーゲンの含有量としては、特に制限されるものではないが、例えば、保湿剤中に0.1〜50質量%含有させることが好ましく、1〜30質量%含有させることがより好ましい。
【0020】
本発明の皮膚保湿剤に含まれるコラーゲンとしては、動物由来のコラーゲンであっても、合成コラーゲンであってもよく、コラーゲンタンパク質の他、コラーゲンタンパク質を加水分解して得られるコラーゲンペプチドや、コラーゲン分子をプロテアーゼで処理し、テロペプチド部分を取り除いたアテロコラーゲンが含まれる。動物由来のコラーゲンとしては、特に魚類由来のコラーゲンが好ましい。
【0021】
また、本発明のコラーゲンの平均分子量(重量平均分子量)としては、特に制限されるものではないが、例えば、500〜100000であることが好ましく、1000〜50000であることがさらに好ましく、2000〜15000であることが特に好ましく、3000〜10000が最も好ましい。
【0022】
本発明の皮膚保湿剤は、経口剤又は外用剤として用いることができ、医薬品等とすることができる。経口剤としては、カキエキスを含有し、経口から摂取して用いるものであれば、特に制限はない。外用剤としては、カキエキスを含有し、皮膚、頭皮、毛髪等に塗布して用いるものであれば、特に制限はない。
【0023】
本発明の皮膚保湿剤は、カキエキスを含有し、皮膚保湿用或いは角質水分回復促進用である点において、製品として他の製品と区別することができるものであれば特に制限されるものではなく、例えば、本発明に係る製品の本体、包装、説明書、宣伝物のいずれかに皮膚保湿作用や角質水分回復促進作用の機能がある旨を表示したものが本発明の範囲に含まれる。
【0024】
本発明の皮膚保湿剤を経口剤として用いる場合、必要に応じて、経口用として許容される基材や担体等を添加し、公知の製剤方法によって製造することができる。例えば、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、粒状剤、棒状剤、板状剤、ブロック状剤、固形状剤、丸状剤、液剤、ペースト状剤、クリーム状剤、カプレット状剤、ゲル状剤、チュアブル状剤、スティック状剤等の形態とすることができる。これらの中でも、錠剤、顆粒剤、カプセル剤の形態が特に好ましい。なお、本発明において顆粒剤とは、造粒等によって粉末を固めて成形した顆粒だけではなく、成形を行っていない粉末も含む概念である。
【0025】
また、本発明の経口剤としての皮膚保湿剤には、他の成分を配合することに特に制限はなく、必要に応じて、カキエキス以外の成分を配合してもよい。カキエキス以外の成分としては、例えば、アスコルビン酸(ビタミンC)、葉酸、β-カロテン等のビタミン類;カルシウム、マグネシウム、リン、鉄等のミネラル類;タウリン、ニンニク等に含まれる含硫化合物;ヘスペリジン、ケルセチン等のフラバノイド或いはフラボノイド類;コラーゲン等のタンパク質;ペプチド;アミノ酸;動物性油脂;植物性油脂;動物・植物の粉砕物又は抽出物等を挙げることができる。
【0026】
他方、本発明の皮膚保湿剤を外用剤として用いる場合、必要に応じて、薬学的に許容される基材や担体等を添加し、公知の製剤方法によって製造することができる。例えば、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、ペースト状剤等の形態とすることができる。本発明の皮膚保湿剤としては、具体的に、軟膏剤、クリーム剤、ジェル剤、ローション剤、乳液剤、パック剤、湿布剤等の皮膚外用剤や、注射剤等を挙げることができる。
【0027】
本発明の外用剤としての皮膚保湿剤には、種々の添加剤を配合することができる。添加剤としては、例えば、賦形剤、香料、色素、保存剤、保湿剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、増粘剤、清涼剤、防腐剤等を挙げることができる。
【0028】
本発明の皮膚保湿剤におけるカキエキスの含有量としては、その効果の奏する範囲で適宜含有させればよいが、例えば、本発明の医薬品等としての皮膚保湿剤においては、カキエキスの乾燥質量換算で、カキエキスが全体の0.01〜70質量%含まれていることが好ましく、0.1〜50質量%含まれていることがより好ましく、0.5〜30質量%含まれていることがさらに好ましい。
【0029】
本発明の皮膚保湿剤の摂取量としては特に制限はないが、本発明の効果をより顕著に発揮させる観点から、1日当たりのカキエキスの摂取量が、0.1mg/日以上となるように摂取することが好ましく、0.5mg/日以上となるように摂取することがより好ましく、1mg/日以上となるように摂取することが最も好ましい。本発明の皮膚保湿剤は、1日の摂取量が前記摂取量となるように、1つの容器に、又は例えば2〜3の複数の容器に分けて、1日分として収容することができる。
【0030】
本発明の皮膚保湿剤におけるカキエキスとコラーゲンの重量比としては、その効果の奏する範囲で適宜含有させればよいが、カキエキス1重量部に対して、コラーゲンを0.01重量部以上含むことが好ましく、0.05重量部以上含むことがさらに好ましく、0.1重量部以上含むことが最も好ましい。また、カキエキス1重量部に対するコラーゲン含有量の上限としては、特に制限されるものではないが、例えば、100000重量部以下、50000重量部以下、30000重量部以下、10000重量部以下、5000重量部以下、1000重量部以下、500重量部以下、100重量部以下、50重量部以下、10重量部以下である。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例に基づき説明する。
[実施例1]
7週齢の雌性へアレスマウス(HR−1)を5日間馴化後、体重値がほぼ均一となるように5群に群分けした。UVB照射+カキエキス摂取群として、カキエキス1%、3%及び5%群を設定した。UVB照射の対照としてコントロール群を設定した。
【0032】
試験飼料は、MF粉末飼料(オリエンタル酵母工業株式会社製)に、「まるごと濃縮かきエキスパウダー」(株式会社東洋新薬製)が均一となるように乳鉢と乳棒を用いて混餌した。配合量は、以下の通りである。
【0033】
【表1】
【0034】
試験飼料をUVB照射7日前(0日目)からUVB照射5日後(12日目)まで摂取させた。給餌方法は原則として自由摂取とした。試験開始7日目に、UVB150mJ/cm
2を単回照射した。
【0035】
具体的に、UVB照射は、紫外線低圧水銀ランプ TL/12シリーズ UV−B領域(TL20W/12RS;フィリップス)にてマウス背部にUVBを照射した。マウスの頭部にUVBが当たらないように、頭部をアルミホイルで覆い、UVBを150mJ/cm
2照射した。UVB照射時は、マウスをチオペンタールナトリウム(10mg/mL)の腹腔内投与(5mL/kg)にて麻酔した。
【0036】
背部皮膚中水分量を、UVB照射日(7日目)からUVB照射5日後(12日目)まで連日測定した。
【0037】
具体的に、角質水分量の測定は、UVB照射日(7日目)からUVB照射5日後(12日目)までマウスの背部皮膚の中心をモイスチャーチェッカー(MY−808S:スカラ株式会社)にて行った。UVB照射日は、照射前に測定した。測定は5回実施し、最小および最大値を除く3つの値を平均する数値を測定値とした。
【0038】
図1に、UVB照射日(7日目)の照射前からUVB照射5日後(12日目)における角質水分量の測定結果(実測値)を示し、
図2に、角質水分量の測定結果(変化値)を示す。
【0039】
図1及び
図2に示すように、コントロール群と比較して、本発明のいずれの群も、UVB照射による角質水分量の減少が抑えられた(角質水分量が回復した)。
【0040】
[実施例2]
7週齢の雄性へアレスマウス(HR−1)を5日以上馴化後、TEWLおよび体重値に基づいて群分けした(優先順位:TEWL>体重値)。本発明の対象群として、カキエキス10%群、カキエキス10%+コラーゲン1%群を設定し、各群に対応した試験飼料(低タンパク飼料)を試験終了まで自由摂取させた。また、この他、普通飼料を摂取させるノーマル群、及び低タンパク飼料を摂取させるコントロール群、コラーゲンのみを添加したコラーゲン1%群を設定した(以下、これらをあわせて比較群ということがある)。用いた飼料の配合は、以下の通りである。
【0041】
【表2】
【0042】
本発明の対象群及び比較群について、試験飼料摂取0、7、14、21、28日目、及びUVB照射後(28日目に照射を開始し、30〜32日目の3日間)に、実施例1と同様の方法で角質水分量の測定を行った。また、試験飼料摂取28日目のマウスを頚椎脱臼後直ちに開腹後、背部皮膚組織を採取し、表皮厚の測定を行った。具体的には、画像解析により、1個体あたり15ヶ所の長さを測定し、表皮の厚さを求めた。
図3及び
図4に、角質水分量の測定結果を示し、
図5に、表皮厚の結果を示す。
【0043】
図3及び
図4に示すように、コントロール群と比較して、本発明の群は、低タンパク食負荷及びUVB照射による角質水分量の減少が抑えられた(角質水分量が回復した)。また、
図5に示すように、コントロール群と比較して、本発明の群は、表皮厚が有意に増加し、角質表皮の菲薄化を抑制することができた。特に、カキエキスと共にコラーゲンを組み合わせて摂取することにより、より高い効果が得られた。
【0044】
[実施例3]
実施例2と同様に試験飼料を摂取した28日目のマウスに対して、皮膚中ヒアルロン酸(HA)量および皮膚中mRNA量の測定を行った。本実施例においては、カキエキス5%群、及びカキエキス5%+コラーゲン1%群も加えて実験を行った。なお、試験飼料におけるカキエキス及びコラーゲンの増減の調整は、βコーンスターチの量を調整することにより行った。
【0045】
皮膚中ヒアルロン酸(HA)量の測定は、皮膚剥離後、背部皮膚をパンチで切り抜き、HA抽出後、市販のキット(Hyaluronan Quantikine ELISA Kit:R&D SYSTEMS)の手順に従って行った。また、皮膚中mRNA量の測定は、皮膚剥離後、背部皮膚をパンチで切り抜き、RNAを抽出し、cDNAを合成して、得られたcDNAを用いて行った。具体的には、Has2、Has3について測定を行った。
図6に、皮膚中ヒアルロン酸(HA)量の測定結果を示し、
図7に、皮膚中mRNA量の結果を示す。
【0046】
図6及び
図7に示すように、本発明の群においては、皮膚中ヒアルロン酸(HA)量及び皮膚中Has遺伝子の発現が上昇した。なお、Has遺伝子はヒアルロン酸の合成に関与する遺伝子である。したがって、本発明はヒアルロン酸合成促進剤としても効果を発揮する。また、本発明の皮膚保湿剤は、HA量及び皮膚中Has遺伝子の発現に作用し、皮膚保護作用を発揮していると推察される。
【0047】
[実施例4](ソフトカプセルの製造)
下記表1に示す配合の内容液を調製し、表2に示す配合で調製したカプセル皮膜に充填することによりソフトカプセルとした(1粒当たりの内容液の量は500mg)。カプセル化は、カプセル皮膜液を流延しフィルム化すると共に、内部に内容液を充填しヒートシールし、成形されたソフトカプセルを乾燥させて行った。なお、カキエキスとしては、「まるごと濃縮かきエキスパウダー」(株式会社東洋新薬製)を用いた。
本ソフトカプセルを1日当たり1粒摂取(1日当たりのカキエキスの摂取量1mg)することにより、皮膚の保湿効果を得られることが期待される。
【0048】
【表3】
【0049】
【表4】
【0050】
[実施例5](顆粒剤の製造)
下記表5に示す割合で各成分を混合し、流動層造粒によって造粒を行った。得られた造粒物を30メッシュの篩いにて篩別し顆粒剤とした。
本顆粒剤を1日当たり1000mg摂取(1日当たりのカキエキスの摂取量1mg)することにより、皮膚の保湿効果を得られることが期待される。
【0051】
【表5】
【0052】
[実施例6](錠剤の製造)
下記表6に示す割合で各成分を混合し、打錠機によって打錠を行った(1錠当たり300mg)。
本錠剤を1日当たり1錠(1日当たりのカキエキスの摂取量0.1mg)することにより、皮膚の保湿効果を得られることが期待される。
【0053】
【表6】