(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-73947(P2016-73947A)
(43)【公開日】2016年5月12日
(54)【発明の名称】横型遠心薄膜蒸発装置
(51)【国際特許分類】
B01D 1/22 20060101AFI20160408BHJP
【FI】
B01D1/22 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-207201(P2014-207201)
(22)【出願日】2014年10月8日
(71)【出願人】
【識別番号】504005781
【氏名又は名称】株式会社日立プラントメカニクス
(74)【代理人】
【識別番号】100102211
【弁理士】
【氏名又は名称】森 治
(72)【発明者】
【氏名】田村 充
(72)【発明者】
【氏名】赤穴 太介
(72)【発明者】
【氏名】関田 啓介
(72)【発明者】
【氏名】小林 勝利
(72)【発明者】
【氏名】世良 克彦
【テーマコード(参考)】
4D076
【Fターム(参考)】
4D076AA24
4D076BA18
4D076CA03
4D076CA04
4D076CD08
4D076CD22
4D076CD42
4D076DA10
4D076DA25
4D076HA11
4D076HA20
4D076JA05
(57)【要約】
【課題】撹拌翼を取り付けた回転軸を取り外して行う清掃を簡易に行うことができるようにして用途の制約をなくした横型遠心薄膜蒸発装置を提供すること。
【解決手段】撹拌翼3を取り付けた回転軸2を、槽本体1に着脱可能にされた一方の端板部材5に軸受51及び軸封部52を介して片持ちで支持し、この一方の端板部材5を、支持ガイド部材8を介して回転軸2の軸方向に槽本体1に対して進退可能に配設する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
横置きの円筒状の槽本体の一端側に設けられた供給口から原料液を供給し、該原料液を回転軸に取り付けた撹拌翼によって槽本体の加熱された内壁に沿って液膜を形成して原料液に含まれる液体成分を蒸発させて濃縮し、槽本体の他端側に設けられた排出口及び排気口から、濃縮された材料及び蒸発した液体成分の蒸気をそれぞれ排出するようにした横型遠心薄膜蒸発装置において、前記撹拌翼を取り付けた回転軸を、槽本体に着脱可能にされた一方の端板部材に軸受を介して片持ちで支持し、該一方の端板部材を、支持ガイド部材を介して回転軸の軸方向に槽本体に対して進退可能に配設したことを特徴とする横型遠心薄膜蒸発装置。
【請求項2】
槽本体に、他方の端板部材をヒンジを介して開閉可能に配設するとともに、該端板部材に覗き窓を設けたことを特徴とする請求項1記載の横型遠心薄膜蒸発装置。
【請求項3】
槽本体及び一方の端板部材を支持する支持ガイド部材を、架台上に配設するとともに、該架台を、移動可能にしたことを特徴とする請求項1又は2記載の横型遠心薄膜蒸発装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原料液に含まれる液体成分を蒸発させて濃縮するために使用される遠心薄膜蒸発装置に関し、特に、横置きの円筒状の槽本体を備えた横型遠心薄膜蒸発装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、食品や化学品等の原料液に含まれる液体成分を蒸発させて濃縮するために、
図6に示すような、円筒状の槽本体1の一端側に設けられた供給口11から原料液M0を供給し、この原料液M0を回転軸2に取り付けた撹拌翼3によって槽本体1の加熱された内壁に沿って液膜を形成して原料液M0に含まれる液体成分を蒸発させて濃縮し、槽本体1の他端側に設けられた排出口12及び排気口13から、濃縮された材料M及び蒸発した液体成分の蒸気M1をそれぞれ排出するようにした遠心薄膜蒸発装置が汎用されている(例えば、特許文献1〜3参照。)。
【0003】
ところで、この種の遠心薄膜蒸発装置としては、特許文献1〜2に開示されたような(
図6に示すような)横置きの円筒状の槽本体1を備えた横型遠心薄膜蒸発装置と、特許文献3に開示されたような縦置きの円筒状の槽本体を備えた縦型遠心薄膜蒸発装置(図示省略。)とがあるが、いずれの場合も、遠心薄膜蒸発装置は、槽本体1の加熱された内壁に沿って形成する液膜の薄膜化により蒸発面積や伝熱効率を高めて短時間で原料液を高濃縮するために、槽本体の内壁と撹拌翼の外縁とのクリアランスを1〜数mm程度の寸法に、かつ、高精度に設定する必要があった。
【0004】
このため、特に、
図6に示すような、横型遠心薄膜蒸発装置においては、撹拌翼3を取り付けた回転軸2が、重力や撹拌力による影響により撓みやすいことから、回転軸2を、槽本体1に着脱可能にされた前後両方の端板部材5、6に、それぞれ軸受51、61及び軸封部52、62を介して両持ちで支持する構造を採用し、回転軸2が撓みにくいようにしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実公昭43−32212号公報
【特許文献2】特開2007−23号公報
【特許文献3】特開2000−24402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、従来の横型遠心薄膜蒸発装置は、回転軸2を、槽本体1に着脱可能にされた前後両方の端板部材5、6に、それぞれ軸受51、61及び軸封部52、62を介して両持ちで支持する構造を採用するようにされていたため、槽本体1の内部の清掃、特に、撹拌翼3を取り付けた回転軸2を取り外して清掃を行うためには、軸受51、61を分解した上で端板部材5、6を槽本体1から離脱させて行う必要があることから、多大な手数を要し、実質的には、撹拌翼を取り付けた回転軸を取り外して行う清掃が困難なため、1台の装置を多種製品の製造に使用する場合や、ファインケミカルや医薬品といったコンタミネーションを極度に嫌う技術分野には採用することが困難であった。
【0007】
本発明は、上記従来の横型遠心薄膜蒸発装置の有する問題点に鑑み、撹拌翼を取り付けた回転軸を取り外して行う清掃を簡易に行うことができるようにして用途の制約をなくした横型遠心薄膜蒸発装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の横型遠心薄膜蒸発装置は、横置きの円筒状の槽本体の一端側に設けられた供給口から原料液を供給し、該原料液を回転軸に取り付けた撹拌翼によって槽本体の加熱された内壁に沿って液膜を形成して原料液に含まれる液体成分を蒸発させて濃縮し、槽本体の他端側に設けられた排出口及び排気口から、濃縮された材料及び蒸発した液体成分の蒸気をそれぞれ排出するようにした横型遠心薄膜蒸発装置において、前記撹拌翼を取り付けた回転軸を、槽本体に着脱可能にされた一方の端板部材に軸受を介して片持ちで支持し、該一方の端板部材を、支持ガイド部材を介して回転軸の軸方向に槽本体に対して進退可能に配設したことを特徴とする。
【0009】
この場合において、槽本体に、他方の端板部材をヒンジを介して開閉可能に配設するとともに、該端板部材に覗き窓を設けることができる。
【0010】
また、槽本体及び一方の端板部材を支持する支持ガイド部材を、架台上に配設するとともに、該架台を、移動可能にすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の横型遠心薄膜蒸発装置によれば、撹拌翼を取り付けた回転軸を、槽本体に着脱可能にされた一方の端板部材に軸受を介して片持ちで支持し、該一方の端板部材を、支持ガイド部材を介して回転軸の軸方向に槽本体に対して進退可能に配設するようにすることにより、槽本体の内部の清掃を行う際に、撹拌翼を取り付けた回転軸を、一方の端板部材に取り付けた状態で、一方の端板部材ごと、支持ガイド部材を介して回転軸の軸方向に槽本体に対して後退させることによって、撹拌翼が槽本体の内壁等に接触することなく、槽本体から簡易に取り外すことができる。
これにより、槽本体の内部の清掃を、コンタミネーションのない、確実なものとすることができ、横型遠心薄膜蒸発装置を、1台の装置を多種製品の製造に使用する場合や、ファインケミカルや医薬品といったコンタミネーションを極度に嫌う技術分野にも適用することができるものとなる。
【0012】
また、これにより、他方の端板部材には、従来の横型遠心薄膜蒸発装置のように軸受を設ける必要がなくなることから、他方の端板部材を、槽本体にヒンジを介して開閉可能に配設するとともに、該端板部材に覗き窓を設けることができ、装置の操作性及び使用性を向上することができる。
【0013】
また、槽本体及び一方の端板部材を支持する支持ガイド部材を、架台上に配設するとともに、該架台を、移動可能にすることにより、装置の機動性を向上し、設備機器のレイアウトの変更等を容易に行うことができるようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の横型遠心薄膜蒸発装置の一実施例を示す全体図である。
【
図6】従来の横型遠心薄膜蒸発装置を示し、(a)は全体図、(b)は(a)のC−C断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の横型遠心薄膜蒸発装置の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【0016】
図1〜
図5に、本発明の横型遠心薄膜蒸発装置の一実施例を示す。
この横型遠心薄膜蒸発装置は、横置きの円筒状の槽本体1の一端側に設けられた供給口11から原料液M0を供給し、この原料液M0を回転軸2に取り付けた撹拌翼3によって槽本体1の加熱された内壁に沿って液膜を形成して原料液M0に含まれる液体成分を蒸発させて濃縮し、槽本体1の他端側に設けられた排出口12及び排気口13から、濃縮された材料M及び蒸発した液体成分の蒸気M1をそれぞれ排出するようにしている。
【0017】
そして、撹拌翼3を取り付けた回転軸2を、槽本体1に着脱可能にされた一方の端板部材5に軸受51及び軸封部52を介して片持ちで支持し、この一方の端板部材5を、支持ガイド部材8を介して回転軸2の軸方向に槽本体1に対して進退可能に配設するようにしている。
【0018】
この場合において、槽本体1の内壁及び撹拌翼3の外縁は、槽本体1の内壁に沿って形成される液膜に対して、撹拌翼3の回転による遠心力による背圧力(液膜を逆向きに押し戻そうとする力)を付与することで、原料液M0の滞留時間を調整できるようにするために、供給口11から排出口12に向けて、回転軸2の中心軸に対して、テーパー角度が1°〜5°、本実施例においては、2°程度となるように、縮径する方向に傾斜させて形成するようにしている。
【0019】
槽本体1の内壁と撹拌翼3の外縁とのクリアランスは、実施例においては、1〜数mm程度の寸法に設定するようにしている。
【0020】
槽本体1の内壁を加熱するために、槽本体1の外周側には、ジャケット4を形成し、槽本体1とジャケット4との間に形成された空間に蒸気等の熱媒Sを、熱媒供給口41から供給し、熱媒排出口42から排出するようにしている。
【0021】
蒸発した液体成分の蒸気M1を排出する排気口13は、吸引減圧装置(図示省略。)によって槽本体1の内部を減圧できるようにすることによって、原料液M0に含まれる液体成分の蒸発を促進し、槽本体1の内壁を加熱することと併せて、短時間で高濃縮、例えば、数倍から数十倍、具体的には、20倍程度まで濃縮された材料Mを得ることができるようにしている。
【0022】
槽本体1に着脱可能にされた一方の端板部材5に回転軸2を片持ちで支持する軸受51には、汎用の軸受を用いることができるが、電動機7によって高速回転、例えば、数十〜数百回転/分される回転軸2を、重力や撹拌力による影響により撓むことなく、槽本体1の内壁と撹拌翼3の外縁とのクリアランスを一定に維持して、片持ちで支持できるものを用いる必要がある。
【0023】
一方の端板部材5と回転軸2との間の軸封部52には、油溝シール、ラビリンスシール、ガスシール等の非接触方式又は回転軸2に摺接するシール部材を用いた接触方式の汎用の軸封機構を、単独で又はこれらを組み合わせて用いることができる。
【0024】
槽本体1と一方の端板部材5との連結機構は、フランジ同士の連結等に用いられる汎用の連結機構を用いることができるが、本実施例においては、工具が不要で、迅速に着脱作業を行うことができるクラッチリング機構を用いるようにしている。
【0025】
一方の端板部材5を、回転軸2の軸方向に槽本体1に対して進退可能に配設するための支持ガイド部材8には、本実施例において用いている直動軸受機構81のほか、レール・車輪機構、その他の汎用の支持ガイド機構を用いることができる。
なお、本実施例においては、一方の端板部材5の進退操作を、作業者が行うようにしているが、電動機やシリンダ等の任意の駆動機構を設けるようにすることもできる。
【0026】
そして、このように、槽本体1に着脱可能にされた一方の端板部材5に回転軸2を片持ちで支持するようにすることにより、他方の端板部材6には、従来の横型遠心薄膜蒸発装置のように軸受を設ける必要がなくなることから、他方の端板部材6を、槽本体1にヒンジ64を介して開閉可能に配設するとともに、この他方の端板部材6に覗き窓65を設けるようにしている。
なお、槽本体1と他方の端板部材6との連結機構63には、フランジ同士の連結等に用いられる汎用の連結機構を用いることができる。
これにより、装置の操作性及び使用性を向上することができる。
【0027】
槽本体1及び一方の端板部材5を支持する支持ガイド部材8は、架台9上に配設するようにし、この架台9を、接地部材91及びキャスター92を選択的に使用して、移動可能にするようにしている。
これにより、装置の機動性を向上し、設備機器のレイアウトの変更等を容易に行うことができるようにしている。
【0028】
次に、この横型遠心薄膜蒸発装置の運転方法について説明する。
(1)槽本体1とジャケット4との間に形成された空間に蒸気等の熱媒Sを、熱媒供給口41から供給し、熱媒排出口42から排出することにより、槽本体1の内部を加熱する。
(2)槽本体1の他端側に設けられた排気口13から、吸引減圧装置(図示省略。)により排気を行うことによって、槽本体1の内部を減圧する。
(3)電動機7により回転軸2を高速回転することによって、槽本体1の内壁と撹拌翼3の外縁とのクリアランスを一定に維持しながら撹拌翼3を旋回させながら、槽本体1の一端側に設けられた供給口11から原料液M0を供給し、この原料液M0を撹拌翼3によって槽本体1の加熱された内壁に沿って液膜を形成して原料液M0に含まれる液体成分を連続的に蒸発させて濃縮する。
(4)槽本体1の他端側に設けられた排出口12から、濃縮された材料Mを排出する。
(5)槽本体1の他端側に設けられた排気口13から、吸引減圧装置(図示省略。)により排気を行うことによって、蒸発した液体成分の蒸気M1を排出する。
【0029】
そして、この横型遠心薄膜蒸発装置は、撹拌翼3を取り付けた回転軸2を、槽本体1に着脱可能にされた一方の端板部材5に軸受51及び軸封部52を介して片持ちで支持し、この一方の端板部材5を、支持ガイド部材8を介して回転軸2の軸方向に槽本体1に対して進退可能に配設するようにすることにより、槽本体1の内部の清掃を行う際に、撹拌翼3を取り付けた回転軸2を、一方の端板部材5に取り付けた状態で、一方の端板部材5ごと、支持ガイド部材8を介して回転軸2の軸方向に槽本体1に対して後退させることによって、撹拌翼3が槽本体1の内壁等に接触することなく、槽本体1から簡易に取り外すことができる。
これにより、槽本体1の内部の清掃を、コンタミネーションのない、確実なものとすることができ、横型遠心薄膜蒸発装置を、1台の装置を多種製品の製造に使用する場合や、ファインケミカルや医薬品といったコンタミネーションを極度に嫌う技術分野にも適用することができるものとなる。
【0030】
以上、本発明の横型遠心薄膜蒸発装置について、その実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の横型遠心薄膜蒸発装置は、撹拌翼を取り付けた回転軸を取り外して行う清掃を簡易に行うことができるようにして用途の制約をなくすようにしたものであることから、1台の装置を多種製品の製造に使用する場合や、ファインケミカルや医薬品といったコンタミネーションを極度に嫌う技術分野を始めとして、食品や化学品等の技術分野において、原料液に含まれる液体成分を蒸発させて濃縮するための用途に広く用いることができる。
【符号の説明】
【0032】
1 槽本体
11 供給口
12 排出口
13 排気口
2 回転軸
3 撹拌翼
4 ジャケット
5 端板部材
51 軸受
52 軸封部
6 端板部材
64 ヒンジ
65 覗き窓
7 電動機
8 支持ガイド部材
9 架台
91 接地部材
92 キャスター
M0 原料液
M 濃縮された材料
M1 蒸気