【解決手段】溶接ワイヤの送給速度Fwを正送期間と逆送期間とに交互に切り換える正逆送給制御を行って、短絡期間とアーク期間とを発生させて溶接するアーク溶接制御方法において、送給速度Fwが正送期間に変化した時点t3から逆送期間中の第1基準時点t41までの期間中がアーク期間であったときは、送給速度Fwを正送に切り換え、正送中に前記短絡期間に移行したとき(時刻t5)は逆送期間から正逆送給制御を再開する。これにより、アーク期間が異常に長い期間になり、溶接状態が不安定になる前に、短絡を強制的に発生させているので、溶接状態の安定性を向上させることができる。
【背景技術】
【0002】
一般的な消耗電極式アーク溶接では、消耗電極である溶接ワイヤを一定速度で送給し、溶接ワイヤと母材との間にアークを発生させて溶接が行なわれる。消耗電極式アーク溶接では、溶接ワイヤと母材とが短絡期間とアーク期間とを交互に繰り返す溶接状態になることが多い。
【0003】
溶接品質をさらに向上させるために、溶接ワイヤの正送と逆送とを周期的に繰り返して溶接する方法が提案されている。この溶接方法では、送給速度の正送と逆送との周期を設定することによって短絡とアークとの周期を所望値にすることができる。このために、この溶接方法を実施すれば、短絡とアークとの周期のばらつきを抑制して略一定にすることが可能となり、スパッタ発生量の少ない、かつ、ビード外観の良好な溶接を行なうことができる。
【0004】
しかし、送給速度の正送と逆送とを繰り返す溶接方法において、給電チップ・母材間距離、溶融池の不規則な運動、溶接姿勢の変化等の外乱によって、短絡期間からアーク期間への移行及びアーク期間から短絡期間への移行のタイミングが適正なタイミングで発生しない場合が生じる。このようになると、短絡とアークとの周期と正送と逆送との周期とが同期しなくなり、短絡とアークとの周期がばらつくことになる。この同期ズレ状態を元の同期状態に戻すための方法が、特許文献1に開示されている。
【0005】
特許文献1の発明では、溶接ワイヤの正送中で送給速度の減速中に、送給速度が所定の送給速度になるまでに短絡が発生しない場合には、周期的な変化を中止して送給速度を第1の送給速度に一定制御し、第1の送給速度による正送中に短絡が発生すると第1の送給速度から減速を開始して周期的な変化を再開して溶接を行うものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の発明では、短絡が適正なタイミングで発生しないときは、送給速度を正送の一定速度に切り換え、短絡が発生すると送給速度を元の周期的な変化に戻している。しかし、この制御では、外乱によって短絡の発生タイミングが少し変動しただけで、送給速度の周期を自ら変動させることになり、溶接状態が不安定状態に陥る場合が生じる。
【0008】
そこで、本発明では、送給速度の正送と逆送とを周期的に繰り返す溶接において、短絡又はアークの発生タイミングが変動したときに、短絡とアークとの周期と送給速度の正送と逆送との周期とが同期ズレ状態になることを抑制し、安定した溶接を行なうことができるアーク溶接制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、
溶接ワイヤの送給速度を正送期間と逆送期間とに交互に切り換える正逆送給制御を行って、短絡期間とアーク期間とを発生させて溶接するアーク溶接制御方法において、
前記送給速度が前記正送期間に変化した時点から前記逆送期間中の第1基準時点までの期間中が前記アーク期間であったときは、前記送給速度を正送に切り換え、前記正送中に前記短絡期間に移行したときは前記逆送期間から前記正逆送給制御を再開する、
ことを特徴とするアーク溶接制御方法である。
【0010】
請求項2の発明は、前記第1基準時点は、前記送給速度の位相が第1基準位相に達した時点又は前記送給速度が第1基準送給速度に達した時点である、
ことを特徴とする請求項1記載のアーク溶接制御方法である。
【0011】
請求項3の発明は、溶接ワイヤの送給速度を正送期間と逆送期間とに交互に切り換える正逆送給制御を行って、短絡期間とアーク期間とを発生させて溶接するアーク溶接制御方法において、
前記送給速度が前記逆送期間に変化した時点から前記正送期間中の第2基準時点までの期間中が前記短絡期間であったときは、前記送給速度を逆送に切り換え、前記逆送中に前記アーク期間に移行したときは前記正送期間から前記正逆送給制御を再開する、
ことを特徴とするアーク溶接制御方法である。
【0012】
請求項4の発明は、前記第2基準時点は、前記送給速度の位相が第2基準位相に達した時点又は前記送給速度が第2基準送給速度に達した時点である、
ことを特徴とする請求項3記載のアーク溶接制御方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、同期ズレ状態に陥らない溶接状態の小さな変動に対しては、正逆送給制御を継続するので、従来技術のように頻繁に正逆送給制御を中断することはない。さらに、本発明では、同期ズレ状態に陥る溶接状態の大きな変動(長期アーク期間又は長期短絡期間の発生)に対しては、正逆送給制御を中断して、同期状態に戻す制御を行い、その後に正逆送給制御を再開する。このために、本発明では、外乱による溶接状態の変動に対して、同期ズレ状態に陥ることを抑制して溶接状態を安定化することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0016】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1に係るアーク溶接制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0017】
電源主回路PMは、3相200V等の商用電源(図示は省略)を入力として、後述する駆動信号Dvに従ってインバータ制御等による出力制御を行い、出力電圧Eを出力する。この電源主回路PMは、図示は省略するが、商用電源を整流する1次整流器、整流された直流を平滑する平滑コンデンサ、平滑された直流を高周波交流に変換する上記の駆動信号Dvによって駆動されるインバータ回路、高周波交流を溶接に適した電圧値に降圧する高周波変圧器、降圧された高周波交流を直流に整流する2次整流器を備えている。
【0018】
リアクトルWLは、上記の出力電圧Eを平滑する。このリアクトルWLのインダクタンス値は、例えば200μHである。
【0019】
送給モータWMは、後述する送給制御信号Fcを入力として、正送と逆送とを周期的に繰り返して溶接ワイヤ1を送給速度Fwで送給する。送給モータWMには、過渡応答性の速いモータが使用される。溶接ワイヤ1の送給速度Fwの変化率及び送給方向の反転を速くするために、送給モータWMは溶接トーチ4の先端の近くに設置される場合がある。また、送給モータWMを2個使用して、プッシュプル方式の送給系とする場合もある。
【0020】
溶接ワイヤ1は、上記の送給モータWMに結合された送給ロール5の回転によって溶接トーチ4内を送給されて、母材2との間にアーク3が発生する。溶接トーチ4内の給電チップ(図示は省略)と母材2との間には溶接電圧Vwが印加し、溶接電流Iwが通電する。
【0021】
出力電圧設定回路ERは、予め定めた出力電圧設定信号Erを出力する。出力電圧検出回路EDは、上記の出力電圧Eを検出し平滑して、出力電圧検出信号Edを出力する。
【0022】
電圧誤差増幅回路EVは、上記の出力電圧設定信号Er及び上記の出力電圧検出信号Edを入力として、出力電圧設定信号Er(+)と出力電圧検出信号Ed(−)との誤差を増幅して、電圧誤差増幅信号Evを出力する。この回路によって、溶接電源は定電圧制御される。
【0023】
駆動回路DVは、上記の電圧誤差増幅信号Evを入力として、電圧誤差増幅信号Evに基づいてPWM変調制御を行い、上記の電源主回路PM内のインバータ回路を駆動するための駆動信号Dvを出力する。
【0024】
電圧検出回路VDは、上記の溶接電圧Vwを検出して、電圧検出信号Vdを出力する。短絡判別回路SDは、上記の電圧検出信号Vdを入力として、この値が短絡判別値(10V程度)未満のときは短絡期間であると判別してHighレベルとなり、以上のときはアーク期間であると判別してLowレベルとなる短絡判別信号Sdを出力する。
【0025】
平均送給速度設定回路FARは、予め定めた平均送給速度設定信号Farを出力する。周期設定回路TFRは、予め定めた周期設定信号Tfrを出力する。振幅設定回路WFRは、予め定めた振幅設定信号Wfrを出力する。
【0026】
送給速度設定回路FRは、上記の平均送給速度設定信号Far、上記の周期設定信号Tfr、上記の振幅設定信号Wfr、後述する長期アーク期間判別信号Lta及び後述する長期短絡期間判別信号Ltsを入力として、以下の処理を行ない、送給速度設定信号Frを出力する。
1)長期アーク期間判別信号Lta又は長期短絡期間判別信号LtsがHighレベルに変化するまでは、振幅設定信号Wfrによって定まる振幅Wf及び周期設定信号Tfrによって定まる周期Tfで正負対象形状に変化する予め定めた台形波を、平均送給速度設定信号Farの値だけ正送側にシフトした波形となる送給速度設定信号Frを出力する。これにより、正送期間と逆送期間とを交互に切り換える正逆送給制御が行われる。
2)上記1)の処理中に長期アーク期間判別信号LtaがHighレベルに変化すると、送給速度設定信号Frを予め定めた正の値(正送値)に切り換え、その後に短絡判別信号SdがHighレベル(短絡)に変化すると1)の処理に戻り、逆送期間から正逆送給制御を再開する。
3)上記1)の処理中に長期短絡期間判別信号LtsがHighレベルに変化すると、送給速度設定信号Frを予め定めた負の値(逆送値)に切り換え、その後に短絡判別信号SdがLowレベル(アーク)に変化すると1)の処理に戻り、正送期間から正逆送給制御を再開する。
【0027】
長期アーク期間判別回路LTAは、上記の送給速度設定信号Fr及び上記の短絡判別信号Sdを入力として、送給速度設定信号Frが正送期間に変化した時点から逆送期間中の予め定めた第1基準時点Tt1まで短絡判別信号SdがLowレベル(アーク)であったときは、短時間Highレベルとなる長期アーク期間判別信号Ltaを出力する。ここで、第1基準時点Tt1は、送給速度設定信号Frの位相が予め定めた第1基準位相に達した時点又は送給速度設定信号Frが予め定めた第1基準送給速度に達した時点である。長期アーク期間判別信号Ltaが短時間Highレベルになったときは、外乱によってアーク長が変動したために、正送期間中に通常発生する短絡が発生せず、かつ、続く逆送期間中の第1基準時点Tt1に達してもまだ短絡が発生していない状態である長期アーク期間になったことを示している。長期アーク期間が発生すると、上述した送給速度の正送期間と逆送期間と、短絡期間とアーク期間との同期ズレ状態に陥るおそれが高くなる。
【0028】
長期短絡期間判別回路LTSは、上記の送給速度設定信号Fr及び上記の短絡判別信号Sdを入力として、送給速度設定信号Frが逆送期間に変化した時点から正送期間中の予め定めた第2基準時点Tt2まで短絡判別信号SdがHighレベル(短絡)であったときは、短時間Highレベルとなる長期短絡期間判別信号Ltsを出力する。ここで、第2基準時点Tt2は、送給速度設定信号Frの位相が予め定めた第2基準位相に達した時点又は送給速度設定信号Frが予め定めた第2基準送給速度に達した時点である。長期短絡期間判別信号Ltsが短時間Highレベルになったときは、外乱によって溶融池が変動したために、逆送期間中に通常発生するアークが発生せず、かつ、続く正送期間中の第2基準時点Tt2に達してもまだアークが発生していない状態である長期短絡期間になったことを示している。長期短絡期間が発生すると、上述した送給速度の正送期間と逆送期間と、短絡期間とアーク期間との同期ズレ状態に陥るおそれが高くなる。
【0029】
送給制御回路FCは、上記の送給速度設定信号Frを入力として、送給速度設定信号Frの値に相当する送給速度Fwで溶接ワイヤ1を送給するための送給制御信号Fcを上記の送給モータWMに出力する。
【0030】
図2は、本発明の実施の形態1に係るアーク溶接制御方法を示す、
図1の溶接電源における定常溶接状態から長期アーク期間が発生したときの各信号のタイミングチャートである。同図(A)は送給速度Fwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(C)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(D)は短絡判別信号Sdの時間変化を示し、同図(E)は長期アーク期間判別信号Ltaの時間変化を示し、同図(F)は長期短絡期間判別信号Ltsの時間変化を示す。以下、同図を参照して各信号の動作について説明する。
【0031】
同図(A)に示すように、送給速度Fwは、0よりも上側が正送期間となり、下側が逆送期間となる。正送とは溶接ワイヤ1を母材2に近づける方向に送給することであり、逆送とは母材2から離反する方向に送給することである。
【0032】
同図(A)に示す送給速度Fwは、
図1の送給速度設定回路FRから出力される送給速度設定信号Frの値に制御される。時刻t3以前及び時刻t5以後の定常溶接状態中の送給速度設定信号Frは、振幅設定信号Wfrによって定まる振幅Wf及び周期設定信号Tfrによって定まる周期Tfで正負対象形状に変化する予め定めた台形波を、平均送給速度設定信号Farの値だけ正送側にシフトした波形となる。このために、同図(A)に示すように、送給速度Fwは、平均送給速度設定信号Farによって定まる破線で示す平均送給速度Faを基準線として、上下に対象となる振幅Wf及び周期Tfで予め定めた台形波状の送給速度パターンとなる。すなわち、基準線から上側の振幅と下側の振幅とは同一値であり、基準線より上側の期間と下側の期間とは同一値となっている。送給速度Fwは、正弦波又は三角波の送給速度パターンでも良い。
【0033】
ここで、0を基準線として送給速度Fwの台形波を見ると、同図(A)に示すように、時刻t1〜t2の正送期間Tsは、それぞれ所定の正送加速期間、正送ピーク期間、正送ピーク値及び正送減速期間から形成され、時刻t2〜t3の逆送期間Trは、それぞれ所定の逆送加速期間、逆送ピーク期間、逆送ピーク値及び逆送減速期間から形成される。
【0034】
ここで、送給速度の位相Ba(°)の算出方法について説明する。送給速度の位相Baは、時刻t1で0°となり、時刻t2で180°となり、時刻t3で360°となる。時刻t1〜t2の正送期間をTs(ms)とし、時刻t2〜t3の逆送期間をTr(ms)とする。周期の開始時点である時刻t1からの経過時間Ta(ms)を計時し、下式によって送給速度の位相Baを算出することができる。
Ta≦TsのときはBa=(Ta/Ts)×180
Ta>TsのときはBa=((Ta−Ts)/Tr)×180+180
【0035】
同図では、第1基準時点Tt1を時刻t21及び時刻t41の逆送期間加速期間中に設定し、第2基準時点Tt2を時刻t11及び時刻t31の正送期間加速期間中に設定した場合である。第1基準時点Tt1は、逆送ピーク期間の開始時点の前後に設定されることが望ましい。第2基準時点Tt2は、正送ピーク期間の開始時点の前後に設定されることが望ましい。送給速度Fwが正弦波又は三角波である場合には、第1基準時点Tt1は逆送期間中のピーク値の前後に設定され、第2基準時点Tt2は正送期間中のピーク値の前後に設定されることが望ましい。このように設定することが望ましい理由は、以下のとおりである。第1基準時点Tt1は長期アーク期間を判別する時点であり、逆送期間のピーク値から時間が経過するほど逆送によってアーク長がますます長くなり、ますます短絡が発生しにくくなるからである。第2基準時点Tt2は長期短絡期間を判別する時点であり、正送期間のピーク値から時間が経過するほど正送によって溶接ワイヤが溶融池に押し込められ、ますますアークが発生しにくくなるからである。
【0036】
同図(E)に示すように、長期アーク期間判別信号Ltaは時刻t41以前の期間中はLowレベルのままである。また、同図(F)に示すように、長期短絡期間判別信号Ltsは同図においては全期間中Lowレベルのままである。すなわち、同図においては、長期短絡期間は発生しなかった場合である。
【0037】
時刻t3以前の定常溶接状態中は、短絡は正送ピーク期間の後半部に発生することが多く、少なくとも正送減速期間中には発生する。同図においては、正送ピーク期間中の後半部である時刻t12に短絡が発生した場合である。時刻t12以前の期間中はアーク期間となっているので、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは次第に減少し、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数十Vのアーク電圧値となっている。また、同図(D)に示すように、短絡判別信号SdはLowレベル(アーク)になっている。
【0038】
時刻t12において短絡が発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数Vの短絡電圧値に急減し、これに応動して、同図(D)に示すように、短絡判別信号SdはHighレベル(短絡)に変化する。同時に、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは次第に増加する。同図(A)に示すように、時刻t2からは、送給速度Fwは逆送期間となり、溶接ワイヤ1は逆送される。
【0039】
定常溶接状態中は、アークは逆送ピーク期間の後半部に発生することが多く、少なくとも逆送減速期間中までに発生する。同図においては、逆送ピーク期間の後半部である時刻t22にアークが発生した場合である。上述したように、逆送加速期間中に設定された第1基準時点Tt1である時刻t21において、時刻t1の正送期間の開始時点からアーク期間が継続している状態ではないので、同図(E)に示すように、長期アーク期間判別信号LtaはLowレベルのままである。時刻t22において、逆送及び溶接電流Iwの通電によるピンチ力によってアークが発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数十Vのアーク電圧値に急増し、これに応動して、同図(D)に示すように、短絡判別信号SdはLowレベル(アーク)に変化する。同時に、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは次第に減少する。時刻t12〜t22の期間が短絡期間となり、同図(D)に示すように、短絡判別信号SdはHighレベルとなる。
【0040】
同図(A)に示すように、時刻t22〜t3の期間中は逆送期間であるので、溶接ワイヤ1は逆送されてアーク長は次第に長くなる。時刻t3からは正送期間となるので、溶接ワイヤ1は正送されてアーク長は次第に短くなる。上述したように、正送加速期間中に設定された第2基準時点Tt2である時刻t31において、時刻t2の逆送期間の開始時点から短絡期間が継続している状態ではないので、同図(F)に示すように、長期短絡期間判別信号LtsはLowレベルのままである。
【0041】
通常であれば、時刻t3〜t4の正送期間中に正送によって短絡が発生するが、外乱が発生したためにアーク長が変動して長くなり、短絡が発生しなかった場合である。時刻t4からは、同図(A)に示すように、送給速度Fwは逆送期間となり、溶接ワイヤ1は逆送されるので、アーク長はこれ以降は長くなる。この状態を放置しておくと、アーク期間がまだまだ長く継続することになる。この結果、時刻t3からの周期中がすべてアーク期間となり、送給速度の正送期間と逆送期間と、短絡期間とアーク期間との同期ズレ状態に陥ることになる。ここで、短絡が逆送加速期間に設定された第1基準時点Tt1である時刻t41において、時刻t3の正送期間の開始時点からアーク期間が継続しているために、同図(E)に示すように、長期アーク期間判別信号Ltaが短時間Highレベルになる。
【0042】
時刻t41において、長期アーク期間判別信号Ltaが短時間Highレベルになると、同図(A)に示すように、送給速度Fwは逆送期間から正送期間へと切り換えられて、予め定めた一定値の正送値となる。これにより、溶接ワイヤ1は正送されるので、アーク長は次第に短くなる。この正送状態は、短絡が時刻t5に発生するまで継続される。時刻t22〜t5の期間がアーク期間となり、同図(D)に示すように、短絡判別信号SdはLowレベルとなる。上記の正送値が小さ過ぎるとなかなか短絡が発生せずに溶接状態が不安定になり、大き過ぎると短絡は直ぐに発生するが短絡状態が不安定になる。したがって、正送値は、定常溶接状態中の正送ピーク値の前後に設定されることが望ましい。
【0043】
時刻t5において短絡が発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数Vの短絡電圧値に急減し、これに応動して、同図(D)に示すように、短絡判別信号SdはHighレベル(短絡)に変化する。同時に、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは次第に増加する。短絡判別信号SdがHighレベルに変化したことに応動して、同図(A)に示すように、送給速度Fwは逆送期間に切り換えられて、逆送期間から正逆送給制御に復帰する。したがって、時刻t5〜t6の逆送期間中にアークが発生し、時刻t6〜t7の正送期間中に短絡が発生する定常溶接状態に戻る。
【0044】
上述したように、本実施の形態では、外乱によって長期アーク期間が発生したときは、送給速度を正送状態に切り換えて短絡が発生するまで継続し、短絡が発生すると正逆送給制御に復帰させている。これにより、定常溶接状態へと迅速に戻している。このときに、従来技術では、長期アーク期間が発生したかの判別を、正送期間中の特定時点までに短絡が発生しなかったことによって行っていた。このために、従来技術では、溶接状態の少しの変動で長期アーク期間が発生したと判別するので、頻繁に正逆送給制御が中断されていた。これに対して、本実施の形態では、正送期間の開始時点から逆送期間の第1基準時点までアーク期間が継続しているかによって長期アーク期間の発生を判別する。このようにすると、同期ズレ状態に陥るおそれがあるときにのみ正逆送給制御を中断することになる。すなわち、できる限り正逆送給制御を継続し、正逆送給制御の中断は必要最小限にしているので、全体として溶接状態の安定性が向上する。
【0045】
図3は、本発明の実施の形態1に係るアーク溶接制御方法を示す、
図1の溶接電源における定常溶接状態から長期短絡期間が発生したときの各信号のタイミングチャートである。同図(A)は送給速度Fwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(C)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(D)は短絡判別信号Sdの時間変化を示し、同図(E)は長期アーク期間判別信号Ltaの時間変化を示し、同図(F)は長期短絡期間判別信号Ltsの時間変化を示す。同図は上述した
図2と対応しており、同一の動作についての説明は繰り返さない。以下、同図を参照して各信号の動作について説明する。
【0046】
同図において、時刻t1〜t2の正送期間、時刻t2〜t3の逆送期間及び時刻t3〜t4の正送期間は、定常溶接状態にあるので、動作についての説明は繰り返さない。すなわち、時刻t1〜t2の正送期間中に短絡が発生し、時刻t2〜t3の逆送期間中にアークが発生し、時刻t3〜t4の正送期間中に短絡が発生している。同図においては、長期アーク期間は発生しないので、同図(E)に示すように、長期アーク期間判別信号Ltaは全期間中Lowレベルのままである。
【0047】
通常であれば、時刻t4〜t5の逆送期間中に逆送によってアークが発生するが、外乱が発生したために溶融池が変動して、アークが発生しない場合である。時刻t5からは、同図(A)に示すように、送給速度Fwは正送期間となり、溶接ワイヤ1は正送されるので、短絡期間がまだまだ長く継続することになる。この結果、時刻t4からの周期中が全て短絡期間となり、送給速度の正送期間と逆送期間と、短絡期間とアーク期間との同期ズレ状態に陥ることになる。ここで、正送加速期間に設定された第2基準時点Tt2である時刻t51において、時刻t4の逆送期間の開始時点から短絡期間が継続しているために、同図(F)に示すように、長期短絡期間判別信号Ltsが短時間Highレベルになる。
【0048】
時刻t51において、長期短絡期間判別信号Ltsが短時間Highレベルになると、同図(A)に示すように、送給速度Fwは正送期間から逆送期間へと切り換えられて、予め定めた一定値の逆送値となる。これにより、溶接ワイヤ1は逆送されるので、溶接ワイヤ1は引き上げられる。この逆送状態は、アークが時刻t6に発生するまで継続される。時刻t32〜t6の期間が短絡期間となり、同図(D)に示すように、短絡判別信号SdはHighレベルとなる。上記の逆送値が小さ過ぎるとなかなかアークが発生せずに溶接状態が不安定になり、大き過ぎるとアークは直ぐに発生するがアーク状態が不安定になる。したがって、逆送値は、定常溶接状態中の逆送ピーク値の前後に設定されることが望ましい。
【0049】
時刻t6においてアークが発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数十Vのアーク電圧値に急増し、これに応動して、同図(D)に示すように、短絡判別信号SdはLowレベル(アーク)に変化する。同時に、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは次第に減少する。短絡判別信号SdがLowレベルに変化したことに応動して、同図(A)に示すように、送給速度Fwは正送期間に切り換えられて、正送期間から正逆送給制御に復帰する。したがって、時刻t6〜t7の正送期間中に短絡が発生し、時刻t7〜t8の逆送期間中にアークが発生する定常溶接状態に戻る。
【0050】
上述したように、外乱によって長期短絡期間が発生したときは、送給速度を逆送状態に切り換えてアークが発生するまで継続し、アークが発生すると正逆送給制御に復帰させている。これにより、定常溶接状態へと迅速に戻している。従来技術では、長期短絡期間の発生に対する対応制御は行っていない。本実施の形態では、逆送期間の開始時点から正送期間の第2基準時点まで短絡期間が継続しているかによって長期短絡期間の発生を判別する。このようにすると、同期ズレ状態に陥るおそれがあるときにのみ正逆送給制御を中断することになる。すなわち、できる限り正逆送給制御を継続し、正逆送給制御の中断は必要最小限にしているので、全体として溶接状態の安定性が向上する。
【0051】
上述した実施の形態1によれば、送給速度が正送期間に変化した時点から逆送期間中の第1基準時点までの期間中がアーク期間であったときは、送給速度を正送に切り換え、正送中に短絡期間に移行したときは逆送期間から正逆送給制御を再開する。さらに、実施の形態1によれば、送給速度が逆送期間に変化した時点から正送期間中の第2基準時点までの期間中が短絡期間であったときは、送給速度を逆送に切り換え、逆送中にアーク期間に移行したときは正送期間から前記正逆送給制御を再開する。これにより、本実施の形態では、同期ズレ状態に陥らない溶接状態の小さな変動に対しては、正逆送給制御を継続するので、従来技術のように頻繁に正逆送給制御を中断することはない。さらに、本実施の形態では、同期ズレ状態に陥る溶接状態の大きな変動(長期アーク期間又は長期短絡期間の発生)に対しては、正逆送給制御を中断して、同期状態に戻す制御を行い、その後に正逆送給制御を再開する。このために、本実施の形態では、外乱による溶接状態の変動に対して、同期ズレ状態に陥ることを抑制し、溶接状態を安定化することができる。