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特開2016-74978応力腐食特性にすぐれる高強度PC鋼撚線
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-74978(P2016-74978A)
(43)【公開日】2016年5月12日
(54)【発明の名称】応力腐食特性にすぐれる高強度PC鋼撚線
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20160408BHJP
   C22C 38/18 20060101ALI20160408BHJP
   C21D 8/08 20060101ALI20160408BHJP
【FI】
   C22C38/00 301Y
   C22C38/18
   C21D8/08 A
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-182674(P2015-182674)
(22)【出願日】2015年9月16日
(31)【優先権主張番号】10-2014-0135126
(32)【優先日】2014年10月7日
(33)【優先権主張国】KR
(71)【出願人】
【識別番号】515260601
【氏名又は名称】高麗製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098095
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 武志
(72)【発明者】
【氏名】鄭 鎭 永
(72)【発明者】
【氏名】諸 煥 承
(72)【発明者】
【氏名】金 辰 鎬
【テーマコード(参考)】
4K032
【Fターム(参考)】
4K032AA06
4K032AA07
4K032AA11
4K032AA16
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA32
4K032BA02
4K032CG01
4K032CH04
(57)【要約】
【課題】応力腐食特性にすぐれる高強度PC鋼撚線を提供する。
【解決手段】応力腐食特性にすぐれる高強度PC鋼撚線に係り、該高強度PC鋼撚線は、1本の中心線に6本の外層線を撚ってなるPC鋼撚線において、中心線及び外層線は、C:0.9〜1.2重量%、Mn:0.4〜0.7重量%、Si:1.0〜1.5重量%、Cr:0.4〜0.7重量%、S:0.01重量%以下(0%を含まず)、P:0.01重量%以下(0%を含まず)、並びに残りは、Fe及び不可避な不純物を含んだ高炭素鋼からなり、鋼撚線の表面から少なくとも10μmの深さまで球状化組織層を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1本の中心線に6本の外層線を撚ってなるPC鋼撚線において、
前記中心線及び前記外層線は、C:0.9〜1.2重量%、Mn:0.4〜0.7重量%、Si:1.0〜1.5重量%、Cr:0.4〜0.7重量%、S:0.01重量%以下(0%を含まず)、P:0.01重量%以下(0%を含まず)、並びに残りは、Fe及び不可避な不純物を含んだ高炭素鋼からなり、
前記鋼撚線の表面から少なくとも10μmの深さまで、球状化組織層を有することを特徴とする応力腐食特性にすぐれる高強度PC鋼撚線。
【請求項2】
前記中心線と前記外層線とが撚られて延線された後、410℃ないし500℃の温度で応力緩和熱処理を行い、前記応力緩和熱処理によって、水素含量が10ppm以下であることを特徴とする請求項1に記載の応力腐食特性にすぐれる高強度PC鋼撚線。
【請求項3】
前記中心線と前記外層線との伸線時、伸線加工率が14%ないし23%に加工されることを特徴とする請求項1に記載の応力腐食特性にすぐれる高強度PC鋼撚線。
【請求項4】
前記中心線と前記外層線との伸線工程が複数回にわたって遂行される場合、各回の伸線加工率は、14%ないし23%であることを特徴とする請求項1に記載の応力腐食特性にすぐれる高強度PC鋼撚線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、応力腐食特性にすぐれる高強度PC鋼撚線(strand)に係り、特に、高強度であり、耐応力腐食特性、及び水素脆性に対する抵抗性にすぐれる高強度PC鋼撚線に関する。
【背景技術】
【0002】
今日の建築物や構造物に必須に使用されているコンクリートは、大きく見て、RC(reinforced concrete)とPC(pre-stressed concrete)とに区分され、最近では、徐々にPCを利用した土木建築が目立ち始めている。RCとは、構造物建築において、構造物の形態内に鉄筋を配し、鉄線で連結した後、その上にコンクリートを注いだ後、養生させて得られたものであり、PCは、鋼線や鋼撚線に引っ張り応力を付与した状態で、セメント混合物を注いだ後、養生させて得られたものである。前記鉄筋、鋼線などは、衝撃に脆弱な特性を有するコンクリートに耐性を付与する役割を行うという点においては同一である。
【0003】
また、PCは、内圧・外圧によって生じる引っ張り応力を、鋼撚線による圧縮応力によって相殺させるために、PC鋼撚線は、非常に大きい圧力にも十分に耐えられるように、耐久年限にかけて一定の圧縮応力を付与しなければならない。
【0004】
しかし、PC鋼撚線のクンクリトをなすセメントには、混和剤の一種であるAE(air entraining)減水剤が含有されるために、セメント内には、1,000〜3,000ppmのチオシアン酸イオン(SCN)が含有され、該チオシアン酸イオンが、応力下で鋼線の水素脆性及び応力腐食亀裂を引き起こすことにより、鋼線の早期破壊をもたらし、結局、PC鋼撚線の寿命を縮めるという問題がある。それにもかかわらず、最近のPC鋼撚線は、さらに高圧化、軽量化及び長長寿命化が要求されており、PC鋼撚線の水素脆性及び応力腐食亀裂に対する抵抗性向上は、非常に重要な解決課題になっている実情である。
【0005】
従来、応力腐食亀裂及び水素脆性に対する敏感度を低下させる方法として、特許文献1には、鋼線表面に、高防食合成樹脂被膜を形成する方法などが提示されているが、被膜の厚みが50μm以下である場合には、大きい防錆効果がないだけではなく、外部衝撃によって、容易に被膜が損傷される可能性がある。
【0006】
また、特許文献2には、ボロン及びチタンを添加させ、ボロン,チタン−炭窒化物を形成し、水素の拡散を抑制し、応力腐食亀裂抵抗性を向上させる技術が提案されたが、合金の追加によって、追加費用が生じるという短所がある。
【0007】
一方、特許文献3では、鋼線にショットピーニング処理を施すことにより、表面に圧縮残留応力を取り入れ、水素脆性及び応力腐食特性を改善させることができることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】韓国公開特許第1999−0055216号
【特許文献2】韓国公開特許第2004−0107786号
【特許文献3】韓国公開特許第2003−0045827号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、高強度であり、耐応力腐食特性、及び水素脆性に対する抵抗性にすぐれる高強度PC鋼撚線を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による応力腐食特性にすぐれる高強度PC鋼撚線は、1本の中心線に6本の外層線を撚ってなるPC鋼撚線において、前記中心線及び前記外層線は、C:0.9〜1.2重量%、Mn:0.4〜0.7重量%、Si:1.0〜1.5重量%、Cr:0.4〜0.7重量%、S:0.01重量%以下(0%を含まず)、P:0.01重量%以下(0%を含まず)、並びに残りは、Fe及び不可避な不純物を含んだ高炭素鋼からなり、前記鋼撚線の表面から少なくとも10μmの深さまで、球状化組織層を有することを特徴とする。
【0011】
前記中心線及び前記外層線が撚られて延線された後、410℃ないし500℃の温度で応力緩和熱処理を行い、前記応力緩和熱処理によって、水素含量が10ppm以下であることが望ましい。
【0012】
また、前記中心線及び前記外層線の伸線時、伸線加工率が14%ないし23%に加工されることが望ましい。
【0013】
また、前記中心線及び前記外層線の伸線工程が複数回にわたって遂行される場合、各回の伸線加工率は、14%ないし23%であることが望ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明による応力腐食特性にすぐれる高強度PC鋼撚線は、高強度ながら、応力腐食亀裂及び水素脆性に対する抵抗性にすぐれる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施例による高強度PC鋼撚線の断面図である。
図2】本発明の実施例及び比較例の実験的結果比較表である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明による望ましい実施例について、添付された図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施例による高強度PC(pre-stressed concrete)鋼撚線の断面図であり、図2は、本発明の実施例及び比較例の実験的結果比較表である。
【0018】
本発明による、応力腐食特性にすぐれる高強度PC鋼撚線30は、1本の中心線10に、6本の外層線20を撚ってなるPC鋼撚線に係り、前記中心線10と外層線20とに使用される線材の組成物によって強度を高め、球状化組織を深く確保し、水素が内部で侵透することができないように、表面に閉じ込めるトラップピング作用を行い、応力腐食亀裂及び水素脆性に対する抵抗性を顕著に向上させる。
【0019】
また、応力緩和熱処理の温度条件を強化し、水素含量を制限して応力腐食特性を向上させ、中心線10及び外層線20の伸線工程時、伸線加工量を一定範囲内に限定し、ねじれ特性にすぐれ、螺旋亀裂を発生させない高強度PC鋼撚線30に関する。
【0020】
具体的には、前記中心線10及び前記外層線20は、C:0.9〜1.2重量%、Mn:0.4〜0.7重量%、Si:1.0〜1.5重量%、Cr:0.4〜0.7重量%、S:0.01重量%以下(0%を含まず)、P:0.01重量%以下(0%を含まず)、並びに残りは、Fe及び不可避な不純物を含んだ高炭素鋼からなり、前記鋼撚線の表面から少なくとも10μmの深さまで、球状化組織層を有するように形成される。
【0021】
前記炭素(C)は、鋼の強度を高める最も効果的でありながら、経済的な元素であり、鋼がパーライト組織中のセメンタイトを形成する元素である。炭素含量が増加するほど、高強度であるセメンタイトの分率が増大し、パーライトラメラ間隔が微細になって強度が上昇する。
【0022】
本発明の実施例によれば、炭素含量を0.9重量%以上にし、2,160MPa以上の高引っ張り強度を確保する。炭素含量が1.2重量%を超える場合、初析(pro-eutectoid)セメンタイトの析出が憂慮され、伸線に必要な軟性が急激に低下するために、炭素の含量範囲は、0.9重量%ないし1.2重量%にする。
【0023】
マンガン(Mn)は、フェライト組織に、鋼の強度を強化させ、小粒性を増大させてパーライト変態を遅延させる元素であり、若干遅い冷却速度でも、微細パーライト組織を確保しやすくするために、0.4重量%以上添加し、過度なマンガンは、中心に偏析が発生し、中心部にマルテンサイト組織を発生させ、伸線性を阻害するために、その上限を0.7%とする。
【0024】
ケイ素(Si)は、パーライト中のフェライトを固溶強化する元素であり、高強度化に効果的であり、亜鉛または亜鉛−アルミニウム合金のメッキ時、セメンタイトの分解を抑制し、強度低下を防止する役割を行う。従って、高強度化のために1.0重量%以上添加することが必要であり、1.5重量%を超える場合には、フェライトの軟性を急激に低下させ、表面組織欠陥を誘発するので、その上限を1.5重量%にする。
【0025】
クロム(Cr)は、パーライトラメラ層状間隔を微細化させ、強度及び軟性と共に、セメンタイトの分解を抑制する効果があり、クロムの含量が0.4重量%未満である場合には、十分な強度を得ることができず、0.7重量%超過時には、恒温変態終了時間が長くなって生産性が落ち、マルテンサイト組織を誘発する可能性が高くなる。従って、クロムは、0.4〜0.7重量%範囲で添加する。
【0026】
硫黄(S)は、0.01重量%を超える場合、低融点析出物の形態で結晶粒界に析出され、熱間脆化を誘発するので、0.01重量%以下に添加することが望ましい。
【0027】
リン(P)は、0.01重量%を超える場合、柱状晶間に偏析されて熱間脆化を起こし、冷間伸線内に亀裂を誘発するので、0.01重量%以下で添加することが望ましい。
【0028】
本発明の高強度PC鋼撚線30を構成する中心線10及び外層線20は、前記組成物以外の残りは、鉄(Fe)、及びその他不可避に添加される不純物からなる。
【0029】
前記のような成分によって製造される中心線10及び外層線20を利用して、鋼撚線を製造する。1本の中心線10に、6個の外層線20を撚って延線して鋼撚線が製造され、本実施例による応力腐食特性にすぐれる高強度PC鋼撚線30は、表面から10μmまで、球状化組織層を有するように形成される。
【0030】
前記球状化組織層は、中心線10に外層線20を撚って延線した後、応力緩和(stress relieving)熱処理を行う過程で形成され、表面組織を球状化させて形成される粒状セメンタイト炭化物が水素浸透を防止し、応力腐食特性を向上させる。本発明によれば、PC鋼撚線は、表面から10μmまで球状化組織層を有するように形成される。
【0031】
また、本発明の実施例による応力腐食特性にすぐれる高強度PC鋼撚線30は、鋼撚線を構成する中心線10及び外層線20の伸線時、伸線加工率が14%ないし23%に加工される。
【0032】
伸線加工率を前記範囲内にすることにより、引っ張り強度が2,160Mpa以上である中心線10及び外層線20を製造することができる。望ましくは、該伸線は、複数回にわたって遂行され、各回当たり伸線加工率(パス当たり伸線加工率)が14%ないし23%で加工される。パス当たり伸線加工率が14%以上である場合、引っ張り強度2,160Mpaを確保することができる。一方、パス当たり伸線加工率が23%を超える場合には、小線のねじれ特性が低下し、螺旋亀裂が発生し、鋼撚線を製造した場合、疲労特性と延伸率とが低下する。従って、中心線10と外層線20との伸線時、伸線加工率は、14%ないし23%にする。
【0033】
また、本発明の実施例による応力腐食特性にすぐれる高強度PC鋼撚線30は、前記のように製造される中心線10に外層線20を撚って延線した後、410℃ないし500℃の温度で応力緩和熱処理を行い、前記応力緩和熱処理によって、水素含量を10ppm以下にする。
【0034】
従来、応力緩和熱処理の温度は、300℃ないし400℃の範囲内で行われていたところに比べ、本発明の実施例による応力腐食特性にすぐれる高強度PC鋼撚線30は、応力緩和熱処理温度を昇温させ、水素含量を10ppm以下になるように制限し、応力腐食特性を向上させる。
【0035】
以下、前述のような応力腐食特性にすぐれる高強度PC鋼撚線30の作用及び効果について、下記比較例を参考にして詳細に説明する。
【0036】
本発明の実施例及び比較例1ないし3で使用された中心線10及び外層線20としては、重量%で、炭素(C):0.98%、マンガン(Mn):0.5%、ケイ素(Si):1.3%、クロム(Cr):0.6%、リン(P):0.009%、硫黄(S):0.01%を含み、残りが、鉄(Fe)及びその他不可避な不純物からなる鋼を使用した。前記成分からなる線材に対して、恒温変態熱処理を施して冷間伸線を実施する。冷間伸線後、1本の中心線10と、6本の外層線20とを撚る延線工程を介して、適当な型付率、ピッチ、荷重を付与した。
【0037】
比較例1ないし3の応力緩和熱処理温度は、従来のPC鋼撚線製造時の熱処理温度である300℃ないし400℃の範囲内で選択され、本発明の実施例による応力緩和熱処理温度は、従来のPC鋼撚線製造時の応力緩和熱処理温度より昇温された410℃ないし500℃の条件で熱処理を行った。
【0038】
また、本発明の実施例による線材の伸線加工量を23%以下にし、延線工程時、応力緩和熱処理の温度を410℃〜500℃で処理し、引っ張り荷重、延伸率、FIT試験結果を測定した。また、比較例1ないし3の伸線加工量は、本発明の実施例と類似して、3%以下にした。
【0039】
図2は、実施例、及び比較例1ないし3の測定結果を記録したものであり、鋼撚線の引っ張り荷重(kN)、延伸率(%)測定は、Instron 50トン引っ張り試験機器で測定し、水素含量はLeco RH−402 hydrogen Determinatorと利用し、ppm単位で測定した。また、表面組織は、FE−SEM(Hitachi S−4800)で観察した。
【0040】
そして、鋼撚線使用中にその寿命が来るまで受ける鋼撚線の水素脆性及び応力腐食亀裂の環境に対する抵抗性を評価する試験方法として、FIP(FIP:Federation Internationale de la Precontrainte)試験方法が広く使用されている。FIP試験は、ISO 15630−3及びprEN10138−3を参考にし、50±1℃に維持される鋼撚線を、20% NHSCN(チオシアン酸)溶液に沈積させた後、規格切断荷重(UTS)の80%に該当する引っ張り荷重を付与した状態を維持しながら、鋼撚線が破断に至る時間(最小2時間)で、水素脆性及び応力腐食亀裂に対する抵抗性を評価する試験である。
【0041】
図2から分かるように、実施例は比較例1ないし3に比べて高い延伸率を示し、球状化組織の深さが比較例1ないし3に比べて深く、水素含量が10ppm以下であるということを確認することができる。低い水素含量、及び深く形成される球状化組織は、水素脆性及び応力腐食亀裂に対する抵抗性を向上させ、FIP試験の最小破断時間を延長させるという効果を提供する。また、高い延伸率は、高い耐性を示し、ねじれにすぐれるという効果を提供する。
【0042】
以上、本発明について、望ましい実施例を挙げて詳細に説明したが、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、本発明の範疇を外れない範囲内でさまざまな多くの変形が提供される。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の応力腐食特性にすぐれる高強度PC鋼撚線は、例えば、建築構造関連の技術分野に効果的に適用可能である。
【符号の説明】
【0044】
10 中心線
20 外層線
30 高強度PC鋼撚線
図1
図2