【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記義肢装具士は、厚生労働大臣の免許を受けて、医師の処方の下に、義肢及び装具の装着部位の採寸・採型、製作及び身体への適合を行う専門家であり、義肢の製作には使用者が義肢装具士のもとに出向して前記石膏による採型などの作業を行なう必要があるだけでなく、一般的に高額の費用が必要となることは避けられなかった。つまり、義肢を作成するときには使用者の負担が大きくならざるを得なかった。
【0006】
また、使用者の傷が完治していないときには前記石膏によってその断端の採型を行うことはできないという問題がある。加えて、使用者にアレルギーがある場合にも石膏による採型が行えないという問題がある。とりわけ、使用者が子供である場合、採型のため石膏が固まるまで断端を動かさないことが難しいという問題がある。さらには、石膏に押さえつけられた断端は圧力を受けることにより変形するので、正確な採型が行えないという問題もあった。
【0007】
そこで、引用文献1では義肢ソケットの形成の際に人体や型の形状を計測するための計測手段を用いることにより、専門的な技術や経験がなくても肢体の断端に適合する義肢ソケットを製造することができるようにしてあり、義肢の装着感を向上させることができる。それでも、前記義肢ソケットによって肢体に取り付けられる義肢の形状および色などに現れる質感は、既に失われている部分のものであるから、失われた後からその部分の採型を行うことはできなかった。
【0008】
とりわけ、使用者が成長期の子供である場合、成長に伴って義肢を大きくする必要があるが、失われた部分の義肢の形状を従来の石膏による採型では得ることができないため、現在の状態を予測しながら義肢を作成する必要があり、ある程度推測に基づく義肢の作成を行なう必要があった。それゆえ、現在においても義肢装具士による手作業の修正加工によって義肢の形状や色などの質感を調整する必要があり、義肢の製作が高価にならざるを得ないため、子供の成長に合わせて再々義肢の作り直しを行なうことはできないという問題があった。
【0009】
ところで、引用文献2には人間の手に近い動作範囲を得ることができる義手が記載されており、これによって失った機能の回復をある程度得ることができる。ところが、このような義手は人間の手と比較して、その外見が大いに異なるため、使用者の精神的な苦痛を軽減することはできないという問題がある。
【0010】
本発明は上述の事柄を考慮に入れてなされたものであり、簡単に製造可能であると共に装着感がよく、かつ、装着時の外観が健常な状態と酷似しており、使用者の精神的な苦痛を軽減することができる義肢および義肢作成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するため、第1発明は、三次元計測手段によって計測した人体の断端の立体形状に合わせて形成され、この断端に嵌合する形状の義肢ソケット部を備えると共に、三次元計測手段によって計測した健常な人体の立体形状に形成され、同三次元計測手段によって計測した色を再現した表面を有するように、三次元造形手段によって造形したものであることを特徴とする義肢を提供する。
【0012】
前記義肢は三次元計測手段によって計測した断端の立体形状に合わせて形成された義肢ソケットを備えることにより使用者の断端にストレス無く密着するように嵌合し、心地よい装着感を得ることができる。また、義肢の立体形状および色は三次元計測手段を用いて計測された健常な人体の立体形状に形成され、同三次元計測手段によって計測した色を再現した表面は健常な人体と酷似しているため、この義肢を装着する使用者の精神的な苦痛を大いに軽減することができる。
【0013】
三次元計測手段による測定と三次元造形手段による造形の組み合わせによって形成される義肢は従来のように特殊技能を有する義肢装具士の手を煩わせることなく行なうことができるので製造コストを可能な限り引き下げながら、高精度に形成することができる。
【0014】
なお、前記三次元計測手段は例えば走査線状に対象物の距離と色を計測して取り込む三次元スキャナであることが考えられ、三次元造形手段は平面上に種々の合成樹脂を積層して形成する積層造形法によって造形するもの、基材を切削して形成する切削造形法によって造形するもの、光硬化樹脂を用いて光によって形成するものなどが考えられる。又、三
次元スキャナだけでなく、CTやMRIや写真のデータを変換してもよい。
【0015】
前記健常な人体の立体形状および色は、義肢の使用者本人の欠損が生じていない側の肢体を計測し、情報処理装置を用いて鏡像に変換して形成したものである場合(請求項2)には、欠損の生じた使用者の肢体の立体形状や色を計測できなくても、使用者自身の身体的な特徴に合わせた義肢の造形を極めて容易に行なうことができ、使用者にとって全く違和感のない義肢であるから、その使用にあたって使用者の精神的な苦痛がない。
【0016】
前記義肢ソケット部を用いて前記断端に固定されると共に人間の肢体の動きに近い動作を可能とする骨格ロボット部を有し、骨格ロボット部の表面に嵌合する骨格ロボット収容部を形成してある場合(請求項3)には、義肢としての見栄えのみならず、能動的な機能を得ることができ、この義手を用いて何らかの作業を行なうことが可能となる。
【0017】
なお、前記骨格ロボット部は、筋肉の収縮に使用される神経電流を感知するセンサと、この神経電流に伴って駆動されるアクチュエータとを備えるものであることが好ましいが、他にも残存する断端の動きをリンクやワイヤー等を用いて伝達して動作させるものなど種々の構成が考えられる。
【0018】
第2発明は、欠損が生じた人体の断端の立体形状を三次元計測手段によって計測し、かつ、健常な人体の立体形状を三次元計測手段によって計測し、前記断端に嵌合する義肢ソケット部と健常な人体の三次元形状を再現する義肢の立体モデルデータを情報処理装置の演算処理により算出し、この立体モデルデータに従った立体形状の硬質素材による立体モデルを三次元造形手段によって造形し、この立体モデルを用いて軟質素材による義肢を形成することを特徴とする義肢作成方法を提供する。(請求項4)
【0019】
前記義肢作成方法によれば、人体の断端の立体形状と健常な人体の立体形状を三次元計測手段を用いて計測するので、情報処理装置はより正確な立体形状の立体モデルデータを容易に作成することができ、この立体モデルデータに従って三次元造形手段によって義肢を造形することにより、良好な装着感と人体に酷似した形状の義肢を造形することができる。
【0020】
なお、本明細書における硬質素材とはJISK6253に基づいたデュロメータを用いた計測を行なうときに硬度数十度以上の硬さを有する素材を意味し、例えば、硬質樹脂を意味する。一方、軟質素材とは硬度数十度以下の硬さを有する素材を意味し、例えば、ゴムやシリコーンなどの軟質樹脂を意味する。
【0021】
軟質素材による義肢は、前記立体モデルから立体形状を写し取る型を形成し、この型に軟質素材として例えば使用者の肌の色に合わせて着色された樹脂を流し込んで硬化させることによって形成することができる。一旦硬質素材による立体モデルを作成してから、シリコーンなどの軟質素材による義肢を作成する方法は従来より慣れ親しんできた方法であるから、仮に立体モデルの造形から後の行程を義肢装具士が行なうとしても特別な技能を必要とせずに極めて容易に義肢を作成するができる。
【0022】
第3発明は、欠損が生じた人体の断端の立体形状を三次元計測手段によって計測し、かつ、健常な人体の立体形状および色を三次元計測手段によって計測し、前記断端に嵌合する義肢ソケット部と健常な人体の三次元形状および色を再現する義肢の立体モデルデータを情報処理装置の演算処理により算出し、この立体モデルデータに従った立体形状および色の軟質素材による義肢を三次元造形手段によって造形することを特徴とする義肢作成方法を提供する。(請求項5)
【0023】
前記義肢作成方法によれば、人体の断端の立体形状と健常な人体の立体形状および色を三次元計測手段を用いて計測するので、情報処理装置はより正確な立体形状および色の立体モデルデータを容易に作成することができ、この立体モデルデータに従って三次元造形手段によって義肢を造形することにより、良好な装着感と人体に酷似した形状および色の義肢を造形することができる。
【0024】
前記第2発明および第3発明の義肢作成方法によれば、前記断端の三次元計測から義肢の造形までの工程に、従来専門家の手作業による特殊な加工を行っていたような工程をなくすことができるので、義肢の製造コストを引き下げることができ、それだけ、義肢を頻繁に作り直すことができる。とりわけ、使用者が成長期の若者である場合などには、成長にあわせて義肢の大きさを徐々に大きくすることも可能であり、それだけ、使用者の精神的な負担を軽減できる。
【0025】
また、従来のように石膏を用いた採型を行なう必要がないので、石膏が固まる時間を待つ必要がなく、石膏アレルギーを持つ使用者も容易に義肢を作成できる。加えて、治療が完了していない状態でも、断端の採型を行なうことができ、圧力が加わっていない状態の断端の形状を採型できるので、より正確な断端の形状を採型できる。なお、前記断端の立体形状は使用者本人の断端の立体形状を採型する必要があるが、健常な人体の立体形状はほぼ同じ大きさの肢体を持つ別人のものであってもよく、予め、幾らかの基本的な人体の各肢体の三次形状を計測して集めたライブラリを形成し、立体モデルデータを作成する際にライブラリに登録されている立体形状の中から選択して行なってもよい。
【0026】
前記三次元計測手段は例えば走査線状に対象物の距離と色を計測して取り込む三次元スキャナであることが考えられ、三次元造形手段は平面上に種々の合成樹脂を積層して形成する積層造形法によって造形するもの、基材を切削して形成する切削造形法によって造形するもの、光硬化樹脂を用いて光によって形成するものなどが考えられる。なお、三次元計測手段および三次元造形手段の解像度は年々向上するものであるから、基本的な義肢作成方法は同じでも、三次元計測手段および三次元造形手段の性能向上に伴って、年々よりリアルな義肢を製造することが可能となる。
【0027】
前記三次元計測手段による計測は採型対象の周りに配置した三次元計測手段を用いて、採型対象に対する三次元計測手段の位置情報、計測方向情報および距離情報を採型測定情報として取得し、採型対象に対する複数の位置において前記採型計測情報を取得することにより、採型対象の立体形状の採型を行う場合(請求項6)には、使用者の断端などの採型対象に対して三次元計測手段を動かすことによりその立体形状を採型する、いわゆるハンディタイプの三次元計測手段であるから、使用者は手軽にその断端の採型を行なうことができる。つまり、使用者は従来のように石膏を用いた採型を行なうために専門家のもとに赴いて採型を行なう必要がないので、それだけ使用者に掛ける負担を軽減できる。
【0028】
健常な人体の表面の立体形状および色は、人体の一部を欠損した使用者本人の欠損が生じていない側の肢体を計測し、前記情報処理装置を用いて鏡像に変換することにより計測する場合(請求項7)には、既に失っている肢体の立体形状を、義肢の使用者の健常な側の肢体の立体形状の鏡像によって得ることができるので、使用者自身の身体的な特徴に合わせた義肢の造形を極めて容易に行なうことができ、使用者にとって全く違和感のない義肢であるから、その使用にあたって使用者の精神的な苦痛がない。なお、情報処理装置にとって鏡像の作成は3次元情報の何れかの座標情報を正負逆転するだけであるから極めて容易に行なうことができる演算処理である。
【0029】
前記義肢ソケット部を用いて前記端部に固定されると共に人間の肢体の動きに近い動作を可能とする骨格ロボット部を形成し、義肢に骨格ロボット部の表面に嵌合する内面部を形成する場合(請求項8)には、義肢としての見栄えのみならず、能動的な機能を有する義肢を容易に形成することができ、使用者はこの義手を用いて何らかの作業を行なうことが可能となる。