【解決手段】第1回転体3は、第1回転軸部31と、太陽ローラ33と、を備え、前記第2回転体4は、周方向に配置され、それぞれの外周面が前記太陽ローラ33の外周面および前記インターナルリング5の内周面に接する複数の遊星ローラ43と、前記複数の遊星ローラ43を遊星中心軸を中心として回転可能に支持する遊星キャリア部42と、前記遊星キャリア部42に接続される第2回転軸部41と、を備え、前記インターナルリング5の弾性変形を利用して、前記複数の遊星ローラ43は前記太陽ローラ33に向けて押圧され、前記インターナルリング5の取付内周面は、前記第1回転体3または前記第2回転体4を前記ケーシング2に対して支持するいずれかの軸受であるリング固定軸受24,25の外周面に固定される。
前記インターナルリングは、前記複数の遊星ローラと接する接触点と、前記取付内周面との間に、前記接触点における径方向の厚さよりも径方向の厚さが薄い薄肉部を含む、請求項1ないし3のいずれかに記載のトラクション動力伝達装置。
前記複数の遊星ローラの各遊星ローラと前記インターナルリングとの第1接触点において、前記インターナルリングの内周面の直径は、軸方向の一方側に向かうに従って漸次減少または増加し、
前記第1接触点と、前記各遊星ローラと前記太陽ローラとの第2接触点とは、軸方向に関して異なる位置に位置する、請求項1ないし4のいずれかに記載のトラクション動力伝達装置。
前記複数の遊星ローラの各遊星ローラと前記インターナルリングとの第1接触点と、前記各遊星ローラと前記太陽ローラとの第2接触点とは、軸方向に関して異なる位置に位置し、
前記各遊星ローラについて、当該遊星ローラの遊星中心軸と前記第1接触点と前記第2接触点とを含む面による断面において、前記インターナルリングから前記各遊星ローラに作用する第1押圧力を示す第1押圧力ベクトルは、前記第1接触点と前記第2接触点とを結ぶ直線に対して一方側に傾斜し、前記太陽ローラから前記各遊星ローラに作用する第2押圧力を示す第2押圧力ベクトルは、前記直線に対して他方側に傾斜する、請求項1ないし5のいずれかに記載のトラクション動力伝達装置。
前記第2キャリアに対して前記太陽ローラを、前記中心軸を中心に相対的に回転可能に支持する内側キャリア軸受、をさらに備える請求項8ないし10のいずれかに記載のトラクション動力伝達装置。
前記複数の遊星ローラと前記インターナルリングとが接する接触点での前記インターナルリングの内周の直径は、前記リング固定軸受の前記外周面の直径よりも大きい、請求項1ないし11のいずれかに記載のトラクション動力伝達装置。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、本発明の例示的な一の実施形態に係るトラクション動力伝達装置1の構成を示す縦断面図である。
図1では、トラクション動力伝達装置1の中心軸J1を含む面による断面を示す。トラクション動力伝達装置1は、例えば、精密加工機または3D測定装置等において減速機または増速機として利用される。
【0010】
トラクション動力伝達装置1は、ケーシング2と、第1回転体3と、第2回転体4と、インターナルリング5と、を含む。ケーシング2は、中心軸J1を中心とする略円筒状である。ケーシング2は、第1ケーシング21と、第2ケーシング22と、を含む。第1ケーシング21は、
図1中において上下方向を向く中心軸J1を中心とする略円筒状である。第2ケーシング22は、中心軸J1を中心とする略円筒状である。以下の説明では、便宜上、中心軸J1に沿って第1ケーシング21側を上側、第2ケーシング22側を下側として説明するが、中心軸J1の向きは必ずしも重力方向と一致する必要はない。また、以下の説明では、中心軸J1が向く方向である上下方向を、「軸方向」とも呼ぶ。
【0011】
第1ケーシング21は、第2ケーシング22の上側に配置される。第1ケーシング21の下部および第2ケーシング22の上部は中心軸J1に対して垂直に広がるフランジ部を含む。
図1の断面位置では、両フランジ部は示されない。両フランジ部にて、複数のボルトにより第1ケーシング21は第2ケーシング22に接続される。複数のボルトは、中心軸J1を中心とする周方向に、略等角度間隔にて配置される。以下の説明では、中心軸J1を中心とする周方向を、単に「周方向」という。
【0012】
第1ケーシング21は、軸受保持部211と、蓋部212と、円筒部213と、を含む。軸受保持部211は略円筒状であり、上方へと突出する。蓋部212は軸受保持部211の下部から中心軸J1を中心とする径方向外方へと広がる。以下の説明では、中心軸J1を中心とする径方向を、単に「径方向」という。円筒部213は蓋部212の外縁部から下方へと延びる。第2ケーシング22は、軸受保持部221と、円筒部222と、を含む。軸受保持部221は第2ケーシング22の下部である。円筒部222は軸受保持部221の外縁部から上方へと延びる。円筒部213の上端と円筒部222の下端とが接することにより、ケーシング2の内部空間が形成される。
【0013】
第1回転体3は、第1回転軸部31と、太陽ローラ33と、を含む。第1回転軸部31および太陽ローラ33はそれぞれ、中心軸J1が中心に位置する略円筒状または略円柱状である。換言すれば、第1回転軸部31および太陽ローラ33は同軸上に配置される。第1回転軸部31は、第1ケーシング21の内部から上方に向かってケーシング2の外側へと突出する。太陽ローラ33は、第1回転軸部31の下端部に接続される。太陽ローラ33は、ケーシング2の内部に位置する。なお、太陽ローラ33は、他の部材を介して第1回転軸部31に間接的に接続されてもよい。
【0014】
第1回転軸部31の外周面と第1ケーシング21の軸受保持部211との間には、第1軸受24が設けられる。第1軸受24は、第1回転軸部31に対して、径方向外側に位置する。第1回転軸部31は、第1軸受24により、第1ケーシング21に対して回転可能に支持される。これにより、第1回転体3が、中心軸J1を中心としてケーシング2により回転可能に支持される。第1軸受24は、例えば、ボールベアリングである。第1軸受24として、ボールベアリング以外の様々な軸受機構が利用されてよい。
【0015】
第2回転体4は、第2回転軸部41と、遊星キャリア部42と、複数の遊星ローラ43と、を含む。第2回転軸部41の直径は第1回転軸部31の直径よりも大きい。遊星キャリア部42は、第1キャリア421と、複数の遊星軸部422と、第2キャリア423と、を含む。第2回転軸部41は、中心軸J1が中心に位置する略円筒状または略円柱状である。第2回転軸部41は、第2ケーシング22の内部から下方に向かってケーシング2の外側へと突出する。換言すれば、第2回転軸部41は、軸方向に関して第1回転軸部31とは反対側にてケーシング2から突出する。遊星キャリア部42は、ケーシング2内に配置される。
【0016】
第1キャリア421は、中心軸J1が中心に位置する略円板状である。第1キャリア421は、複数の遊星ローラ43の下方に位置する。第2回転軸部41の上端は、第1キャリア421に接続される。第2キャリア423は、複数の遊星ローラ43の上方に位置する。換言すれば、第1キャリア421は複数の遊星ローラ43の軸方向の一方側に位置し、第2キャリア423は複数の遊星ローラ43の軸方向の他方側に位置する。第2回転軸部41、第1キャリア421および第2キャリア423は、中心軸J1を中心として同軸上に配置される。
【0017】
第1キャリア421は、複数の遊星軸部422を下方から支持する。第2キャリア423は、複数の遊星軸部422を上方から支持する。複数の遊星軸部422は、太陽ローラ33の径方向外側にて、周方向に等角度間隔に配置される。
図1に示す例では、3つの遊星軸部422が、周方向に120°間隔にて配列される。
図1では、複数の遊星軸部422のうち、1つの遊星軸部422のみを示す。遊星ローラ43についても同様である。
【0018】
複数の遊星軸部422はそれぞれ、中心軸J1に沿う方向を向く略円柱状である。本実施形態では、遊星軸部422は中心軸J1に平行である。複数の遊星軸部422は、互いに同様の形状を有し、同じ大きさである。「中心軸J1に沿う方向」とは、中心軸J1が向く軸方向におよそ平行な方向を意味しており、軸方向に厳密に平行である必要はない。すなわち、各遊星軸部422の中心軸は、中心軸J1に平行であってもよく、中心軸J1に対して小さい角度だけ傾斜してもよい。
【0019】
トラクション動力伝達装置1では、第1キャリア421に、上下方向に貫通する複数の孔が設けられる。各孔に遊星軸部422の下部が挿入されることにより、複数の遊星軸部422が第1キャリア421に接続される。各遊星軸部422は、第1キャリア421に対して回転不能に固定される。各遊星軸部422の第1キャリア421から上方に突出する部位は、軸方向に関して太陽ローラ33とおよそ同じ位置に位置する。
【0020】
第1キャリア421には、周方向において、遊星軸部422の間に、上下方向に貫通する複数の他の孔が設けられる。これらの孔には、連結軸部424が固定される。連結軸部424は、第1キャリア421から上方へと突出する。本実施形態では、連結軸部424の数は3である。周方向において連結軸部424は遊星ローラ43の間に位置する。遊星軸部422および連結軸部424は、周方向において、60°間隔で位置する。
【0021】
第2キャリア423には、下面から上方に窪む複数の孔が設けられる。これらの孔は第2キャリア423を貫通しない。孔には、遊星軸部422の上部と連結軸部424の上部とが挿入される。遊星軸部422および連結軸部424により、第1キャリア421と第2キャリア423とが接続される。遊星軸部422および連結軸部424は、第1キャリア421と第2キャリア423とを軸方向に接続する接続部として機能する。
【0022】
複数の遊星ローラ43はそれぞれ、ケーシング2内にて複数の遊星軸部422を介して支持される。複数の遊星ローラ43は、太陽ローラ33の径方向外側にて周方向に配置される。
図1に示す例では、3つの遊星ローラ43が、3つの遊星軸部422を介して支持される。各遊星ローラ43は、遊星軸部422の周囲に位置する略円筒状である。複数の遊星ローラ43は、互いに同様の形状を有し、同じ大きさである。遊星ローラ43の内周面と遊星軸部422の外周面との間には、遊星軸受45が設けられる。遊星軸受45は、例えば、ニードルベアリングである。遊星軸受45として、ニードルベアリング以外の様々な軸受機構が利用されてよい。各遊星ローラ43は、遊星軸受45を介して、中心軸J1に沿う方向を向く中心軸を中心として、遊星キャリア部42にて遊星軸部422により回転可能に支持される。以下、遊星軸部422の中心軸を「遊星中心軸」という。遊星ローラ43の中心軸は、厳密な意味では遊星軸部422の中心軸に一致しないが、実質的には一致するため、遊星ローラ43の中心軸も「遊星中心軸」と呼ぶ。遊星ローラ43および第1キャリア421および第2キャリア423により、遊星軸部422の位置は正確に決定される。
【0023】
複数の遊星ローラ43のそれぞれの外周面は、太陽ローラ33の外周面に接する。詳細には、各遊星ローラ43と太陽ローラ33との間には微小間隙が存在し、当該微小間隙には、ケーシング2内に充填された潤滑油が存在する。各遊星ローラ43の外周面は、潤滑油の油膜を介して、太陽ローラ33の外周面に間接的に接する。
【0024】
第2回転軸部41の外周面と第2ケーシング22の軸受保持部221との間には、第2軸受25が設けられる。第2軸受25は、第2回転軸部41の径方向外側に位置する。第2回転軸部41は、第2軸受25を介して、第2ケーシング22に対して回転可能に支持される。これにより、第2回転体4が、中心軸J1を中心としてケーシング2により回転可能に支持される。第2軸受25は、例えば、ボールベアリングである。第2軸受25として、ボールベアリング以外の様々な軸受機構が利用されてよい。
【0025】
第2キャリア423の内周面と第1回転軸部31の外周面との間には、内側キャリア軸受26が配置される。内側キャリア軸受26により、第2キャリア423は、第1回転体3に対して回転可能に支持される。逆に言えば、内側キャリア軸受26は、第2キャリア423に対して太陽ローラ33を含む第1回転体3を、中心軸J1を中心に相対的に回転可能に支持する。第2キャリア423の外周面と第1ケーシング21の円筒部213の内周面との間には、外側キャリア軸受27が配置される。外側キャリア軸受27により、第2キャリア423は、第1ケーシング21に対して回転可能に支持される。外側キャリア軸受27は第1ケーシング21に対して隙間ばめにて挿入される。これにより、第2キャリア423に不必要な力が働くことが防止される。外側キャリア軸受27の外輪の上端面と、これに対向する第1ケーシング21の下面との間には、環状の弾性体であるOリング7が配置される。
【0026】
外側キャリア軸受27により、ラジアル方向の荷重に対する第2回転体4の剛性が向上する。外側キャリア軸受27および内側キャリア軸受26により、ラジアル方向の荷重に対する第1回転体3の剛性が向上する。また、内側キャリア軸受26により、第1回転体3と第2回転体4との同軸度を容易に向上することができる。内側キャリア軸受26と外側キャリア軸受27とは径方向に重なる。
【0027】
第2キャリア423は2段円筒形状である。第2キャリア423は、本体部461と、上方突出部462と、天板部463と、上端円筒部464と、を含む。本体部461は、中心軸J1を中心とする環状であり、内側キャリア軸受26と外側キャリア軸受27との間に挟まれる。上方突出部462は、本体部461の内周部から上方へと突出し、略円筒状である。天板部463は、上方突出部462の上端から径方向内方へと広がる環状略平板である。上方突出部462は、天板部463の内周縁から上方へと突出し、略円筒状である。
【0028】
天板部463は内側キャリア軸受26の上部を覆う。上端円筒部464は、第1回転軸部31の外周面に近接する。遊星軸部422の上部は、内側キャリア軸受26との干渉を避けるように切り欠かれている。切り欠かれた部位は、内側キャリア軸受26の外周面に近接または接する。潤滑油は、ケーシング2内において、内側キャリア軸受26、外側キャリア軸受27および第2キャリア423と、第2軸受25との間の空間に存在する。
【0029】
図2は、トラクション動力伝達装置1の一部を拡大して示す断面図である。インターナルリング5は、中心軸J1が中心に位置する略円筒状の部材である。インターナルリングは、第2回転体4の径方向外側に配置される。インターナルリング5は、取付部51と、薄肉部52と、押圧部53と、を含む。取付部51はインターナルリング5の下部である。取付部51は中心軸J1を中心とする環状である。
図1に示すように、取付部51の下面は、第2ケーシング22の下部である軸受保持部221の上面に接する。取付部51の上面は第1キャリア421と対向する。
図2に示すように、取付部51の外周部は、上方に向かって外方かつ上方に延びる。
【0030】
薄肉部52は、取付部51の外縁部から上方へ延びる。薄肉部52は中心軸J1を中心とする略円筒状である。薄肉部52は、第1キャリア421のおよそ径方向外方に位置する。押圧部53は薄肉部52の上端から上方へと延びる。押圧部53も中心軸J1を中心とする略円筒状である。薄肉部52の径方向の厚さは、押圧部53の径方向の厚さよりも小さい。トラクション動力伝達装置1の軸方向の大きさを小さくするために、第1キャリア421の下面と第2軸受25の上端との間の距離は、薄肉部52の内面と第1キャリア421の外周面との間の距離よりも小さい。
【0031】
図1に示すように、取付部51には、下面から上方へと窪むピン孔511が設けられる。第2ケーシング22の軸受保持部221にも、上面から下方へと窪むピン孔223が設けられる。本実施形態では、ピン孔511,223は、周方向に等間隔にてそれぞれ4個設けられる。ピン孔223,511にはピン224が挿入される。これにより、インターナルリング5に周方向の大きな力が作用したとしても、インターナルリング5のケーシング2に対する回転が防止される。なお、第2ケーシング22の軸受保持部221には第2軸受25は緩く嵌められている。
【0032】
インターナルリング5のケーシング2に対する回転は、ピン孔223やピン224等以外の構成要素により実現されてもよい。例えば、ケーシング2に凹部を設け、インターナルリング5に突起を設け、凹部と突起とが周方向に接することにより、インターナルリング5の回転が防止されてもよい。逆に、ケーシング2に突起が設けられ、インターナルリング5に凹部が設けられてもよい。ケーシング2に対するインターナルリング5の周方向の回転を防止する回り止め部は、様々な形態にて設けることができる。好ましくは、インターナルリング5の回り止め部がケーシング2またはケーシング2に固定された部位に周方向に接することにより、インターナルリング5の回転が防止される。
【0033】
図2に示すように、押圧部53の内周面は遊星ローラ43の外周面に接する。詳細には、各遊星ローラ43とインターナルリング5との間に存在する微小間隙に、ケーシング2内に充填された潤滑油が存在する。各遊星ローラ43の外周面は、潤滑油の油膜を介して、押圧部53に間接的に接する。押圧部53が遊星ローラ43に接する周方向位置では、押圧部53は径方向外方へと僅かに歪んでいる。これに倣うように、薄肉部52も弾性変形する。薄肉部52および押圧部53の復元力を利用して、すなわち、インターナルリング5の弾性変形を利用して、押圧部53は複数の遊星ローラ43を太陽ローラ33に向けて押圧する。
【0034】
インターナルリング5を弾性変形させるために、複数の遊星ローラ43の径方向外側において、インターナルリング5とケーシング2とは径方向に離間する。インターナルリング5とケーシング2との間の隙間は非常に小さく、好ましくは、当該隙間の径方向幅は、薄肉部52の径方向幅、すなわち、インターナルリング5の最薄部の厚さよりも小さい。
【0035】
薄肉部52は、インターナルリング5が遊星ローラ43と接する第1接触点61と、取付部51の内周面512との間であれば、様々な態様にて設けられてよい。以下、内周面512を「取付内周面512」という。薄肉部52は、第1接触点61における押圧部53の径方向の厚さよりも径方向の厚さは薄い。なお、インターナルリング5の外周面が窪むようにして薄肉部52が設けられてもよい。インターナルリング5の内周面および外周面が窪むようにして薄肉部52が設けられてもよい。
【0036】
薄肉部52が設けられることにより、インターナルリング5の弾性変形を薄肉部52に集中させることができる。これにより、押圧部53の中心軸J1に対する傾きが抑制される。その結果、押圧部53と遊星ローラ43との第1接触点61を、軸方向において容易に所望の位置に位置させることができる。また、インターナルリング5が弾性変形する際に接触位置の軸方向への移動が少なくなるため、遊星ローラ43の軸方向の長さを短くすることができる。
【0037】
トラクション動力伝達装置1では、取付内周面512は、第2軸受25の外周面251に固定される。第2軸受25は、インターナルリング5が固定されるリング固定軸受である。好ましくは、取付部51は圧入または焼き嵌めにより、第2軸受25の外周面に固定される。これらの手法では、追加部材なしでインターナルリング5を第2軸受25に容易に固定することができる。これにより、遊星ローラ43を含む第2回転体4に対するインターナルリング5の同軸度を簡単な構造で向上することができる。
【0038】
仮に、インターナルリング5がケーシング2に取り付けられ、インターナルリング5の中心軸の位置および向きがケーシング2の取付面により決定される場合、ケーシング2の取付面と軸受保持部221の内周面との間に高い同軸度が求められる。その結果、ケーシング2の製造コストが増加する。また、インターナルリング5と第2回転体4との同軸度が低い場合、第2回転体4を一定速度で回転させることが困難となる。これに対し、トラクション動力伝達装置1では、第2軸受25の外周面251を利用してインターナルリング5の中心軸の位置および向きが決定されるため、トラクション動力伝達装置1の製造コストを削減することができる。
【0039】
複数の遊星ローラ43とインターナルリング5とが接する第1接触点61でのインターナルリング5の内周の直径は、第2軸受25の外周面の直径よりも大きい。これにより、トラクション動力伝達装置1の下部の外径の小型化が容易となる。
【0040】
図2では、各遊星ローラ43とインターナルリング5との第1接触点61と、各遊星ローラ43と太陽ローラ33との第2接触点62とを中実の丸印にて示す。第1接触点61および第2接触点62は、実際にはある程度の大きさを有する。また、第1接触点61においてインターナルリング5から各遊星ローラ43に作用する第1押圧力を示す第1押圧力ベクトルV1と、第2接触点62において太陽ローラ33から各遊星ローラ43に作用する第2押圧力を示す第2押圧力ベクトルV2とを矢印にて示す。
【0041】
各遊星ローラ43の第1接触点61と第2接触点62とは、軸方向に関して、異なる位置に位置する。なお、遊星軸部422が中心軸J1に対して傾斜する場合、以下の力に関する説明において、正確には、軸方向は遊星軸部422の遊星中心軸J2に平行な方向に対応する。しかし、遊星軸部422の傾斜は僅かであるたため、これらは厳密に区別される必要はない。
図1に示す例では、第2接触点62は、軸方向に関して第1接触点61よりも第1キャリア421に近い。第2接触点62は、軸方向に関して、遊星ローラ43の中心にほぼ一致する。第1接触点61は、軸方向に関して、遊星ローラ43の軸方向の中心と遊星ローラ43の上端との間に位置する。
【0042】
第1接触点61および第2接触点62において、中心軸J1を含む面による各遊星ローラ43の外周面の断面形状は凸である。換言すれば、各遊星ローラ43において、第1接触点61と中心軸J1とを含む面による各遊星ローラ43の外周面の第1接触点61における断面形状は、遊星中心軸J2を中心とする径方向において外方に凸である。また、第2接触点62と中心軸J1とを含む面による上記外周面の第2接触点62における断面形状は、遊星中心軸J2を中心とする径方向において外方に凸である。実際には、外周面の縦断面は、第1接触点61および第2接触点62において僅かに円弧状に凸であるため、凸形状は
図2では示されない。
【0043】
遊星ローラ43の外径は、遊星ローラ43の軸方向の略中心にて最大である。遊星ローラ43の外径とは、遊星中心軸J2を中心とする径方向において、各遊星ローラ43の外周面と遊星中心軸J2との間の距離である。遊星ローラ43の外径は、遊星ローラ43の遊星軸方向の略中心から離れるに従って漸次減少する。
【0044】
インターナルリング5において押圧部53の内周面の直径は、上方に向かって漸次減少する。減少量は僅かであるため、
図2では示されない。押圧部53の内周面を傾斜面とすることにより、第1接触点61の軸方向の位置と第2接触点62の軸方向の位置とを容易に異ならせることができる。さらに、設計上、押圧部53の内周面の傾斜角を変更するのみで、第1接触点61と第2接触点62との軸方向の距離を変更することができる。また、第1接触点61においてインターナルリング5から遊星ローラ43に作用する力の向きも変更することができる。すなわち、遊星ローラ43を傾斜させる力の大きさを、設計上容易に変更することができる。これにより、トルク伝達効率とバックラッシュとのバランスを容易に調整することができる。
【0045】
押圧部53の内周面の直径は、押圧部53の軸方向全長において漸次変化させる必要はない。また、押圧部53の内周面の直径は、上方に向かって漸次減少してもよい。一般的に表現すれば、第1接触点61において、インターナルリング5の内周面の直径は、軸方向の一方側に向かうに従って漸次減少または増加する。なお、押圧部53の内周面の傾斜をなくし、インターナルリング5が弾性変形した状態で第1接触点61と第2接触点62との軸方向位置をほぼ一致させる設計も可能である。
【0046】
トラクション動力伝達装置1が減速機として利用される場合、高速軸である第1回転軸部31と共に、太陽ローラ33が中心軸J1を中心として回転する。換言すれば、第1回転体3が、中心軸J1を中心として回転する。太陽ローラ33の回転により、太陽ローラ33と各遊星ローラ43との間の微小間隙に存在する潤滑油にトラクションが発生する。当該トラクションにより、各遊星ローラ43は、遊星中心軸J2を中心として回転する。各遊星ローラ43の回転により、各遊星ローラ43とインターナルリング5との間の微小間隙に存在する潤滑油にトラクションが発生する。インターナルリング5は間接的にケーシング2に固定されているため、当該トラクションにより、複数の遊星ローラ43は中心軸J1を中心として回転する。
【0047】
以下の説明では、各遊星ローラ43の遊星中心軸J2を中心とする回転を「自転」と呼び、複数の遊星ローラ43の中心軸J1を中心とする回転を「公転」と呼ぶ。上述のように、第1キャリア421および第2キャリア423は、複数の遊星軸部422を介して複数の遊星ローラ43に接続され、低速軸である第2回転軸部41は第1キャリア421に接続される。このため、複数の遊星ローラ43の公転に伴い、第1キャリア421、第2キャリア423および第2回転軸部41も、中心軸J1を中心として回転する。すなわち、第2回転体4が中心軸J1を中心として回転する。
【0048】
トラクション動力伝達装置1が増速機として利用される場合は、減速機として利用される場合とは反対に、第2回転体4の第2回転軸部41、第1キャリア421、複数の遊星ローラ43および第2キャリア423が中心軸J1を中心として回転する。各遊星ローラ43は、公転時にインターナルリング5との間に発生するトラクションにより自転する。各遊星ローラ43の自転により、各遊星ローラ43と太陽ローラ33との間にトラクションが発生する。そして、当該トラクションにより、第1回転体3の太陽ローラ33および第1回転軸部31が、中心軸J1を中心として回転する。
【0049】
このように、トラクション動力伝達装置1が減速機として利用される場合も、増速機として利用される場合も、第1回転体3と第2回転体4との間で、トラクションによる動力伝達が行われる。
【0050】
図2に示すように、各遊星ローラ43の第1接触点61と第2接触点62とは、軸方向に関して異なる位置に位置する。これにより、各遊星ローラ43の中心軸は、厳密な意味で、遊星軸部422の中心軸に対して僅かに傾く。その結果、遊星ローラ43の内周面の上端部は、遊星軸部422の外周面のうち、中心軸J1を中心とする径方向の外側の部位に、遊星軸受45を介して押圧される。また、遊星ローラ43の内周面の下端部は、遊星軸部422の外周面のうち、中心軸J1を中心とする径方向の内側の部位に、遊星軸受45を介して押圧される。
【0051】
第1接触点61と第2接触点62の上下関係は反対でもよい。一般的に表現すれば、遊星ローラ43の内周面の上端部および下端部の一方が、遊星軸部422の外周面のうち、中心軸J1を中心とする径方向の外側の部位に、遊星軸受45を介して押圧される。また、遊星ローラ43の内周面の上端部および下端部の他方が、遊星軸部422の外周面のうち、中心軸J1を中心とする径方向の内側の部位に、遊星軸受45を介して押圧される。その結果、トラクション動力伝達装置1では、遊星ローラ43が遊星軸部422に対して傾斜し、遊星軸部422と自転中の遊星ローラ43との間のバックラッシュを低減することができる。
【0052】
図2に示すように、遊星中心軸J2と第1接触点61と第2接触点62とを含む面による各遊星ローラ43の断面において、第1押圧力ベクトルV1は、第1接触点61と第2接触点62とを結ぶ仮想的な直線L1に対して一方側に傾斜する。第2押圧力ベクトルV2は、上記直線L1に対して他方側に傾斜する。
図2に示す例では、第1押圧力ベクトルV1は直線L1に対して上側に傾斜し、第2押圧力ベクトルV2は直線L1に対して下側に傾斜する。第1押圧力ベクトルV1と、第2押圧力ベクトルV2とは、略平行である。
【0053】
このように、各遊星ローラ43では、第1押圧力ベクトルV1と第2押圧力ベクトルV2とは、直線L1を挟んで互いに逆向きに傾斜する。これにより、第1押圧力ベクトルV1の遊星中心軸J2に垂直な方向の成分と、第2押圧力ベクトルV2の遊星中心軸J2に垂直な方向の成分とを大きくすることができる。
【0054】
上述のように、各遊星ローラ43の第1接触点61において、中心軸J1を含む面による各遊星ローラ43の外周面の断面形状は凸である。第1接触点61では、必ずしも遊星ローラ43の外周面の断面形状は凸である必要はなく、中心軸J1を含む面によるインターナルリング5の押圧部53の内周面の断面形状が凸であってもよい。換言すれば、各遊星ローラ43の第1接触点61では、中心軸J1を含む面による各遊星ローラ43の外周面の断面形状、および、中心軸J1を含む面による押圧部53の内周面の断面形状のうち、少なくとも一方の断面形状が凸である。これにより、遊星ローラ43が遊星軸方向に僅かに移動する場合等に第1接触点61の位置を滑らかに変化させることができる。
【0055】
また、トラクション動力伝達装置1では、各遊星ローラ43の第2接触点62において、中心軸J1を含む面による各遊星ローラ43の外周面の断面形状は凸である。第2接触点62では、必ずしも遊星ローラ43の外周面の断面形状は凸である必要はなく、中心軸J1を含む面による太陽ローラ33の外周面の断面形状が凸であってもよい。換言すれば、各遊星ローラ43の第2接触点62では、中心軸J1を含む面による各遊星ローラ43の外周面の断面形状、および、中心軸J1を含む面による太陽ローラ33の外周面の断面形状のうち、少なくとも一方の断面形状が凸である。これにより、遊星ローラ43が遊星軸方向に僅かに移動する場合等に第2接触点62の位置を滑らかに変化させることができる。
【0056】
図3は、第1ケーシング21と第2ケーシング22との境界近傍を拡大して示す縦断面図である。第1ケーシング21は、ケーシング2の第1回転体3側の部位であり、第2ケーシング22は、ケーシング2の第2回転体4側の部位である。第1ケーシング21と第2ケーシング22とは軸方向に接する。インターナルリング5の上端は、第2ケーシング22の上端よりも下方に位置する。したがって、インターナルリング5の上端は、第2ケーシング22内に位置する。インターナルリング5の上端は、インターナルリング5の
図2に示す取付内周面512とは軸方向反対側の端部である。
【0057】
トラクション動力伝達装置1の組立の最終工程では、第1ケーシング21と第2ケーシング22との締結が行われる。このとき、インターナルリング5の上端は、第2ケーシング22内に位置するため、第1ケーシング21とインターナルリング5とが接触することが確実に回避される。第1ケーシング21と第2ケーシング22との締結作業では、作業者により最終的に第1回転体3の中心軸と第2回転体4との中心軸とが正確に一致するように調整が行われる。このとき、
図1に示すOリング7が外側キャリア軸受27の外輪を下方に押す与圧効果により、第2回転体4を支持する第2軸受25のラジアルギャップが小さくなる。これにより、第2回転体4の軸芯の自由度がなくなる。その結果、第1ケーシング21の中心軸と第2ケーシング22の中心軸とが合うようになり、第1回転体3の中心軸と第2回転体4の中心軸とを容易に一致させることができる。
【0058】
トラクション動力伝達装置1では、軸方向の大きさを小さくするために、インターナルリング5と外側キャリア軸受27との軸方向の隙間をできるだけ小さくすることが好ましい。そのため、第1ケーシング21と第2ケーシング22との間の境界は外側キャリア軸受27と径方向に重ねられる。一方、第1ケーシング21と第2ケーシング22との間には、径方向に相対位置を調整するゆとりが求められる。そこで、外側キャリア軸受27の外周面と、第2ケーシング22の内周面との間には隙間が存在するように、第2ケーシング22の上端の内径は、外側キャリア軸受27の外周面の直径よりも僅かに大きい。
【0059】
図4は、遊星ローラ43の他の例を示す縦断面図であり、
図2と同様の部分のみを示す。遊星ローラ43は、上部の直径は下部の直径より小さい。遊星ローラ43の上部にはインターナルリング5の押圧部53が接し、下部には太陽ローラ33が接する。遊星ローラ43では、上部の直径は下部の直径よりも大きくてもよい。また、押圧部53と太陽ローラ33が遊星ローラ43の上部に接するか下部に接するかは任意に設計可能である。
【0060】
図4のトラクション動力伝達装置1の他の構造は、
図1と同様である。押圧部53の内周面の直径は、軸方向の一方に向かって漸次増大または減少する。さらに、第1接触点および第2接触点における第1押圧力ベクトルおよび第2押圧力ベクトルの関係も
図2と同様である。
【0061】
図5は、インターナルリング5の他の取付例を示す縦断面図である。
図5のインターナルリング5は、取付部51、薄肉部52および押圧部53が、
図1とは逆の順に上から並ぶ。取付部51の取付内周面512は、第1軸受24の外周面に固定される。また、
図1の第2キャリア423、内側キャリア軸受26および外側キャリア軸受27は省かれる。他の構造は、
図1のトラクション動力伝達装置1と同様である。
【0062】
図5のトラクション動力伝達装置1では、第1軸受24の外周面を利用して、第1回転体3とインターナルリング5との高い同軸度が容易に得られる。組立時の調整により、第1回転体3の中心軸と、第2回転体4の中心軸とは正確に一致するため、組立後に、第2回転体4とインターナルリング5との間に高い同軸度が得られる。
【0063】
図5のように、インターナルリング5の取付内周面512が固定される外周面を含むリング固定軸受は、第1軸受24でもよい。さらには、
図1の外側キャリア軸受27がリング固定軸受として利用されてもよい。一般的に表現すれば、インターナルリング5の取付内周面512が、第1回転体3または第2回転体4をケーシング2に対して支持するいずれかの軸受であるリング固定軸受の外周面に固定されることにより、第2回転体4とインターナルリング5との間の高い同軸度が容易に得られる。
【0064】
図5に示す例においても、インターナルリング5は第1軸受24に圧入または焼き嵌めにより固定される。インターナルリング5は第1ケーシング21との間に周り止め部が設けられることが好ましい。押圧部53の内周面の直径は、軸方向の一方に向かって漸次増大または減少する。さらに、第1接触点および第2接触点における第1押圧力ベクトルおよび第2押圧力ベクトルの関係も
図2と同様である。第1接触点でのインターナルリング5の内周の直径は、取付部51の内周面の直径よりも大きい。
【0065】
上記トラクション動力伝達装置1では、様々な変更が可能である。
【0066】
ケーシング2は、3以上の部品から構成されてもよい。第1軸受24や第2軸受25の数は適宜変更されてよい。第1回転体3または第2回転体4を支持する他の軸受が設けられてもよい。
【0067】
インターナルリング5は環状であればよく、円筒形には限定されない。インターナルリング5が弾性変形するのであれば、インターナルリング5に薄肉部52は設けられなくてもよい。インターナルリング5の取付部51は、リング固定軸受の外周面の全周に固定される必要はない。例えば、取付部51の内周部に軸方向に平行に延びる溝が設けられ、部分的にリング固定軸受に接してもよい。インターナルリング5とリング固定軸受との固定には、接着剤が利用されてもよい。例えば、圧入および接着剤により、リング固定軸受にインターナルリング5が固定されてもよい。
【0068】
遊星キャリア部42において第1キャリア421と第2キャリア423とを軸方向に接続する接続部は、遊星軸部422のみまたは連結軸部424のみであってもよい。遊星ローラの数は3には限定されない。遊星キャリア部42において、第1キャリア421または第2キャリア423は省かれてもよい。第1キャリア421が省かれる場合、例えば、第2回転軸部41は第2キャリア423に接続される。
【0069】
上述のトラクション動力伝達装置では、第1回転軸部31および第2回転軸部41は、ケーシング2内に配置されてもよい。第1回転軸部31と第2回転軸部41とは、必ずしも、ケーシング2から互いに反対向きに突出する必要はなく、例えば、第1回転軸部31および第2回転軸部41のうち一方の部材が中空であり、他方の部材が当該一方の部材の径方向内側に位置してもよい。
【0070】
第2回転体4では、遊星ローラ43が遊星軸部422に固定され、遊星軸部422と第1キャリア421または第2キャリア423との間に遊星軸受45が設けられてもよい。換言すれば、遊星ローラ43は、遊星軸部422および遊星軸受45を介して遊星キャリア部42により回転可能に支持される。遊星ローラ43は遊星軸部422と共に回転する。
【0071】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。