【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明の中心的課題は、3行5列の固定鍵盤によって、五十音の原理に基づく字母配列を採用する入力方式において、とりわけ〔特許文献2〕において、すでに確立している和語と漢語の入力に加えて、カタカナ語の入力に必要な方策を用意することによって、現今の日本語表記体系を全面的に反映する携帯入力端末の入力方式を確立することである。
【0023】
すなわち、〔特許文献2〕においては、3行5列の切替を行わない鍵盤に五十音図を構成する5個の母音、a、i、u、e、o、と9個の子音k、s、t、n、h、m、y、r、wを設定し、残った1個の鍵に、子音鍵と組み合わせて濁音と半濁音を設定する機能を持たせるのであるが、この方式においては、すでに指摘したようにカタカナ語の合理的な入力は不可能である。
【0024】
そこで、森田方式あるいはそれを一層展開させた諸方式において、日本語の中の漢語の音韻構造を全面的に検討して、和語、漢語を合わせた日本語の合理的な入力方式が追求されたのと同様に、日本語の中のカタカナ語の音韻構造を全面的に検討する必要が生じる。
【0025】
本発明が、この点の検討に際して採用した資料は、(1)角川書店、角川外来語辞典第2版44刷、1981.9.10.(2)ぎょうせい、現代実用外来語辞典第4版、1986.3.20.(3)柏書房、宛字外来語辞典新装版第1刷、1991.2.25.(4)小学館、例文で読むカタカナ語の辞典第2版第1刷、(5)自由国民社、カタカナ 外来語 略語辞典(現代用語の基礎知識)第5版第1刷、の5種の辞典である。
【0026】
これらの辞典のなかで、(3)柏書房、宛字外来語辞典が最も古い形のカタカナ語を記録しており、(5)自由国民社、カタカナ 外来語 略語辞典(現代用語の基礎知識)が最も新しい形のカタカナ語を記録している。
【0027】
これらの辞典を通観すると、日本語のカタカナ語の表記は、外来語の表記を完全に従来の日本語表記の枠内にとどめようとする1954年の国語審議会報告の「外来語の表記」を一つの軸としながら、もう一つの軸に原語の音韻あるいは音韻表記により忠実であろうとする傾向を置いて展開してきたことが観察される。
【0028】
たとえば、(1)角川書店、角川外来語辞典の凡例によれば、イ、撥音は「ン」と書き表した。ロ、拗音は小さく「ゃ」「ゅ」「ょ」を書き添えて示した。ハ、長音は「―」をもって示した。ニ、「テュ」「デュ」「ファ、フィ、フェ、フォ」「フュ、ヴュ」「ヴァ、ヴィ、ヴ、ヴェ、ヴォ」「ティ」「ディ」などは、原則として、それぞれ「チュ、ジュ」「ハ、ヒ、ヘ、ホ」「ヒュ、ビュ」「バ、ビ、ブ、ベ、ボ」「チジ」を主見出しとし、前者は副見出しとして添えて示した。とある。
【0029】
この角川版辞典が依拠する国語審議会の報告は、外来語の音韻概念に拗音、撥音等の日本語の音韻認識を示す言葉をそのまま採用する点に明瞭に現れているように、また、外来語の原語の音韻に忠実であろうとする、「テュ、デュ」「ファ、フィ、フェ、フォ」「フュ、ヴュ」「ヴァ、ヴィ、ヴ、ヴェ、ヴォ」「ティ、ディ」などの表記を退け、これをカタカナ語以外の日本語表記の常道である「チュ、ジュ」「ハ、ヒ、ヘ、ホ」「ヒュ、ビュ」「バ、ビ、ブ、ベ、ボ」「チジ」の表記に変えようとする点に見られるように、カタカナ語の表記を日本語の音韻体系に従属させて表記しようとするものである。
【0030】
一方、このような国語審議会の報告とは別に、実際の日本語のなかのカタカナ語の表記としては、(3)柏書房、宛字外来語辞典には旧かなづかいにのみ使用されるワ行のイ段、エ段の表記がWilliam等のカタカナ語の場合に使用されており、ヴァ、ヴィ、ヴ、ヴェ、ヴォ、等のVを一種の母音とみなす表記も見えている。
【0031】
また、(4)小学館、例文で読むカタカナ語の辞典等では、国語審議会の報告に敬意を払いながらも、その見出し語に「ファ、フィ、フェ、フォ」の表記を使用している。
【0032】
そこで、森田方式とその展開における入力方法では、国語審議会の報告に完全に忠実なカタカナ語ならば表記できるが、この表記原則に従わない表記も相当に有力であり、そもそもパソコンの入力は、現実に存在しているカタカナ語のすべての表記を許容すべきものであるから、「テュ、デュ」「ファ、フィ、フェ、フォ」「フュ、ヴュ」「ヴァ、ヴィ、ヴ、ヴェ、ヴォ」「ティ」「ディ」などの表記を可能にするものでなければならない。
【0033】
そこで、あらためて日本語中のカタカナ語の場合に、和語(大和言葉)漢語(中国漢字由来の日本語)の表記原則によっては包括できない点を確定する。
【0034】
まず、いわゆる長音記号がある。
【0035】
これは、今では時にはカタカナ語でない日本語の表記にまで用いられることがあるが、本来、カタカナ語以前には無かった表記方式である。
【0036】
今ひとつは、「ファ、フィ、フェ、フォ」「ヴァ、ヴィ、ヴ、ヴェ、ヴォ」「ティ」「ディ」の例に見られるような小型のア行音、ァ、ィ、ゥ、ェ、ォ、の表記の採用あるいは表記への対応である。
【0037】
第三に、「ヴァ、ヴィ、ヴ、ヴェ、ヴォ」の場合のV行の音の表記がある。
【0038】
第四に、(4)小学館、例文で読むカタカナ語の辞典等が許容するクヮルテットの表記に見られるような小型のワ行音の問題もある。
【0039】
第五に、「テュ、デュ」「フュ、ヴュ」の問題がある。国語審議会の報告は、この「ゅ」をも拗音の範疇でとらえているが、入力方式として見た場合は、たとえばTYUの打鍵では「チュ」の音しか生まれないし、HYUでは同じく「ヒュ」の音しかうまれないので、日本語の拗音の入力方法では、これらの小型のヤ行音は入力できないのである。
【0040】
以上をまとめると、旧かなづかいにの使用されるワ行のイ段、エ段の表記とクヮルテットの場合の「ヮ」と言った例外的な場合を除くと、長音記号、小型のア行の文字ァィゥェォと小型のヤ行の文字「ュ」、および「V」の入力を3行5列の鍵盤の枠内に設定すれば、カタカナ語入力の問題は解決される。
【0041】
この問題は、〔特許文献2〕における、「濁音・半濁音」鍵の機能をさらに拡充することで実現できる。
【0042】
すなわち、この発明における「濁音・半濁音」鍵は、本来の固定鍵盤に設定されていた、K、S、T、H、の字母を入力する鍵を、この「濁音・半濁音」鍵の打鍵と関連付けることによって、G、Z、D、B、P、の字母を入力する鍵に変えるのであるが、この機能を、残された字母鍵にも応用するのである。
【0043】
そこで、本発明においては、残されア行の字母を入力する鍵を、この「濁音・半濁音」鍵の打鍵と関連付けることによって、小型のア行の字母すなわちァィゥェォの字母を入力する鍵に変え、Mの字母を入力する鍵を、この「濁音・半濁音」鍵の打鍵と関連付けることによって、長音記号を入力する鍵に変え、Yの字母を入力する鍵を、この「濁音・半濁音」鍵の打鍵と関連付けることによって、小型のヤ行の字母「ュ」を入力する鍵に変え、Wの字母を入力する鍵を、この「濁音・半濁音」鍵の打鍵と関連付けることによって、Vの字母を入力する鍵に変えるとともに、残されたNの字母を入力する鍵を、この「濁音・半濁音」鍵の打鍵と関連付けることによって、読点「、」を入力する鍵に変え、Rの字母を入力する鍵を、この「濁音・半濁音」鍵の打鍵と関連付けることによって、句点「。」を入力する鍵に変えるのである。
【0044】
本発明においては、〔特許文献2〕における、この「濁音・半濁音」鍵に由来するシフト鍵を、その機能に即して、以下「変字母記号鍵」と呼ぶことにする。
【0045】
そして、字母入力中に、この「変字母記号鍵」を2度連続して打鍵すれば、!、?、や「」、『』等の記号を含む鍵盤が呼び出されるように設定する。
【0046】
また、字母入力中に、この「変字母記号鍵」を2度を越えて連続して打鍵すれば、それ以外の文字、記号を含む鍵盤が呼び出されるように設定する。
【0047】
また、本発明は、数字入力については言及していないが、数字入力については、普通の携帯電話の場合のように、字母入力鍵盤を数字入力鍵盤に設定し直すことによって、対応できる。
【0048】
本発明は、3行5列の鍵盤において、清音の子音である、K、S、T、N、H、M、Y、R、W、の9字母と母音のA、I、U、E、O、の5字母を各鍵に配置し、シフト鍵を3行5列の鍵盤の枠内に置いて濁音と半濁音の設定を行い、かつ字母鍵と一種のシフト鍵である「濁音・半濁音」鍵を順次打鍵する〔特許文献2〕の方式を基礎として、この一種のシフト鍵を変字母記号鍵として、子音と関連付ける半濁音と濁音の設定以外に、母音と関連付ける小型の母音字母あるいは小型の「ュ」の字母の設定を行い、またW鍵をV鍵に関連づけるとともに句点、読点の入力をN鍵とR鍵に関連づけるのであるが、その入力過程をより具体的に述べれば以下のようになる。
【0049】
まず、アルファベットと入力する場合の、小型の字母アの入力を含む場合は、この変字母鍵を「変」と表示し、その他の字母は、本来の鍵盤に置かれている字母の状態で表示すれば、A、R、U、H、U、A、変、H、変、E、T、T、O、の13打鍵で入力されるが、これは通常のパソコンでの入力の場合の10回よりも3回打鍵数が多くなる。
【0050】
同様に、プロデュースの場合の、小型の半母音+母音の字母ュの入力の場合には、長音記号をーで示せば、H、変、変、U、R、O、D、E、Y、変、ー、S、U、の13打鍵で入力されるが、これは通常のパソコンでの入力の場合の12回よりも1回打鍵数が多くなる。
【0051】
ヴォイスの場合には、W、変、O、I、S、U、の6打鍵であり、この 場合には、W鍵の入力の直後に変字母鍵を打鍵してこれをV鍵に変えるので、改めてオをォに変える必要はないのであるが、これは通常のパソコンでの入力の場合の5回よりも1回打鍵数が多くなる。
【0052】
以上のように、本発明は、〔特許文献2〕の方式を基礎として、そのシフト鍵を変字母鍵として、その機能を拡張することによって、3行5列の枠内において、和語、漢語、カタカナ語を統一的に入力する方式を提示したが、3行5列の枠内にこの変字母鍵を設定する余裕がなければ、〔特許文献1〕のように、3行5列の枠外にこれを設定するしかない。
【0053】
逆に言えば、〔特許文献10〕のように、3行5列の枠内にこの変字母記号鍵を設定する余裕がない場合も、〔特許文献1〕のように、3行5列の枠外に変字母記号鍵を設定することによってカタカナ語の入力に対応することができるのである。