(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-82118(P2016-82118A)
(43)【公開日】2016年5月16日
(54)【発明の名称】励起酸素発生器、及び酸素分子レーザ発振器
(51)【国際特許分類】
H01S 3/095 20060101AFI20160411BHJP
H01S 3/223 20060101ALI20160411BHJP
【FI】
H01S3/095
H01S3/223
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-213530(P2014-213530)
(22)【出願日】2014年10月20日
(71)【出願人】
【識別番号】507351702
【氏名又は名称】武久 究
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(74)【代理人】
【識別番号】100129953
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 康弘
(72)【発明者】
【氏名】武久 究
【テーマコード(参考)】
5F071
5F172
【Fターム(参考)】
5F071AA04
5F071HH01
5F071JJ02
5F172AD04
5F172DD02
5F172EE26
(57)【要約】
【課題】効率よく励起酸素を発生させることができる励起酸素発生器、及び酸素分子レーザ発振器を提供する。
【解決手段】本発明の一態様にかかる励起酸素発生器100は、中心軸周りに回転可能に設けられた円筒状の回転式円筒パイプ101と、回転式円筒パイプ101の内面にBHP溶液106を接触させる手段と、回転式円筒パイプ101の内部に配置され、回転式円筒パイプ101の内面に向けて塩素ガスを噴出する塩素ガス供給管105と、を備えたものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸周りに回転可能に設けられた円筒状のパイプと、
前記パイプの内面にBHP溶液を接触させる手段と、
前記パイプの内部に配置され、前記パイプの内面に向けて塩素ガスを噴出するガス供給管と、を備えた励起酸素発生器。
【請求項2】
前記BHP溶液の液温がマイナス10℃以下であることを特徴とする請求項1の励起酸素発生器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の励起酸素発生器と、
前記パイプの中心軸が光軸とほぼ一致になるように構成されたレーザ共振器と、を備えた酸素分子レーザ発振器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、励起酸素発生器、及び酸素分子レーザ発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
過酸化水素水(H
2O
2)と水酸化カリウム(KOH)または水酸化ナトリウム(NaOH)の混合溶液(BHP溶液と呼ばれる。BHPはBasic Hydrogen Peroxideの略である。)と、塩素ガス(Cl
2)との化学反応によって一重項の励起状酸素分子(通常、O
2(
1Δ
g)と示される。また、以下、励起酸素と呼ぶ。)を生成できることが知られており、O
2(
1Δ
g)のエネルギーをヨウ素原子(I)に移乗させる(すなわち基底状態のI(
2P
1/2)から励起状態のI(
2P
3/2)を生成する)ことでレーザ動作するヨウ素レーザ(一般にCOILと呼ばれている。COILは、Chemical Oxygen Iodine Laserの略である。)は、波長1.315ミクロンでレーザ発振する高出力レーザとして広く知られている。なお、ヨウ素レーザに関しては、下記非特許文献1〜4において説明されている。
【0003】
励起酸素を発生させる前記化学反応に関しては、例えば下記非特許文献5において概説されているように、BHP溶液中にバブル状の塩素ガスを供給するスパージャーと呼ばれる方式が過去に多用されていた。特にヨウ素レーザが発明された1977年から1990年代中頃までは主流であった。
【0004】
一方、BHP溶液で濡らされた壁面に塩素ガスを接触させるウェッテドウォールと呼ばれる方式(Rotating Diskと呼ばれる方式)も1980年代に用いられることがあった。特にこの方式の一形態である回転円板方式では、BHP溶液を供給する流量を増すことが容易なため、1990年代後半まで広く利用されていた。前記Rotating Disk方式の励起酸素発生器に関しては、下記非特許文献6〜7において説明されている。
【0005】
その後はジェットと呼ばれる方式が利用され、ヨウ素レーザの高出力化に貢献している。ジェット方式ではBHP溶液をノズルからジェットとして噴出させ、これを塩素ガスとを反応させる方式である。つまりジェットとなったBHP溶液の総表面積が広いことから、瞬時に大量の化学反応を促進できる特徴がある。
【0006】
しかしジェット方式ではジェット状のBHP溶液から水しぶき状のBHP溶液(以下、ドロップレットと呼ぶ。)が生じてしまい、それがレーザ共振器まで運ばれて、レーザ発振に悪影響すると指摘されている。そこでエアロゾルと呼ばれる方式が開発され、比較的大きなドロップレットの生成が抑制できるため、最も進化した手法の一つであると考えられている。
【0007】
一方、ヨウ素レーザのように、励起酸素のエネルギーをヨウ素に移乗させてレーザ発振させる理由の一つとしては、励起酸素を直接レーザ発振させることが困難だと考えられてきたからである。実際に励起酸素を直接レーザ発振させたという報告は今までに皆無である。
【0008】
励起酸素を直接レーザ発振させることが困難な理由として考えられることは、励起酸素の自然放出寿命が極めて長いため、自然放出寿命に反比例する利得(ゲイン)が極めて低くなるからである。しかし、ゲインが低くなることは、レーザ発振が不可能ということではなく、レーザ発振しにくいだけである。そこで、ゲイン長を極めて長くすればレーザ発振できると考えられる。なお、励起酸素のレーザ発振を目指した実験も含めて理論考察された非特許文献8によると、レーザ発振の可能性が示されている。
【0009】
つまり大量の励起酸素を瞬時に発生させることができれば、レーザ共振器内を、一瞬の間、高い圧力の励起酸素で満たすことができるため、ゲインが高くなり、レーザ発振し易くなると考えられる。すなわちパルス動作であれば比較的容易にレーザ発振できると考えられる。なお、非特許文献8においても、パルス動作によるレーザ発振を目指した実験について報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Stephen C. Hurlick, et al., “COIL technology development at Boeing,” Proceedings of SPIE Vol. 4631, 101-115 (2002).
【非特許文献2】Masamori Endo, “History of COIL development in Japan: 1982-2002,” Proceedings of SPIE Vol. 4631, 116-127 (2002).
【非特許文献3】Edward A. Duff and Keith A. Truesdell, “Chemical oxygen iodine laser (COIL) technology and development, ” Proceedings of SPIE Vol. 5414, 52-68 (2004).
【非特許文献4】Jarmila Kodymova, “COIL--Chemical Oxygen Iodine Laser: advances in development and applications,” Proceedings of SPIE Vol. 5958, 595818 (2005).
【非特許文献5】Kevin B. Hewett, “Singlet oxygen generators - the heart of chemical oxygen iodine lasers: past, present and future,” Proceedings of SPIE Vol. 7131 (2009).
【非特許文献6】Wolfgang O. Schall, et al., “Fluid Mechanic Aspects for Rotating Disc Generators,” Proceedings of SPIE Vol. 3574, 265-272 (1998).
【非特許文献7】Charles A. Helms, “Review of the US Air Force Research Laboratory’s 10-kW RADICL laser,” Proceedings of SPIE Vol. 4184, 13-18 (2001).
【非特許文献8】Masamori Endo, et al., “Chemically Pumped O2(a-X) Laser,” Applied Physics B, Vol. 56, 71-78 (1993).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、非特許文献8によると、励起酸素の生成時に伴って発生するBHP溶液の微小なドロップレット(ミストと呼ぶ。)がレーザ光の散乱損失となって、レーザ発振を阻害すると指摘されている。特に、励起酸素発生器には多孔質パイプによるエアロゾル方式が用いられていたので、ミストの発生が避けられなかった。またこれを抑制するためにミストと励起酸素とを分離するフィルタを用いることも考えられるが、フィルタにより励起酸素分子が失活したり、酸素自体の透過率が低くなることが考えられるため、レーザ発振に十分な圧力の励起酸素をレーザ共振器内に満たすことが困難になる。
【0012】
本発明の目的は、以上に示した酸素分子レーザのレーザ発振を阻害する課題を解決した励起酸素発生器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するために、本発明の励起酸素発振器では、中心軸の周りに回転可能に取り付けられた円筒状のパイプの内面にBHP溶液を接触させ、かつ塩素ガスを供給する配管(ガス供給管)をパイプ内側に配置したものである。
【0014】
これによると前記パイプをある程度以上の速度で回転させることで、BHP溶液をパイプの内面に密着させることができる。すなわち回転による遠心力が発生するため、パイプ内面の上側でも溶液が落ちてくることはない。従って、BHP溶液と塩素ガスとの反応によって発生する励起酸素はパイプ内部の空間を直ぐに満たすことができる。なお、回転速度ω(rad)に関しては、遠心力が重力より大きくなる必要があり、下記(1)式で示される。
ω>(g/r)
0.5 (1)
【0015】
ここでgは重力加速度(9.8m/s
2)、rはパイプの半径(m)である。これによると、例えば、内径(直径)10cmの場合、14rad(=133.7rpm)以上の回転数で回転させる必要がある。
【0016】
このようにBHP溶液と塩素ガスとを接触させる励起酸素の発生法は、一種のWetted Wall方式であり、表面反応に基づく。従って、バブル方式やジェット方式のようにBHP溶液を吹き飛ばす手法、あるいはエアロゾル方式のようにBHP溶液のミストを発生させる方式に比べると、ドロップレットが発生しにくい。従って、前記パイプの中心軸を光軸とするようなレーザ共振器を有する酸素分子レーザ発振器を構成することで、酸素分子レーザを効率良く発振させることができる。
【0017】
ただし、ヨウ素レーザに用いられていたような従来の回転円板式励起酸素発生器をそのまま酸素分子レーザに適用すると、以下に説明するように効率良くレーザ動作できない場合があった。従来の回転円板式励起酸素発生器を用いた酸素分子レーザ900では、例えば、
図9に示したように、BHP溶液904と矢印906から供給される塩素ガスとが反応する回転円板902の表面から発生した励起酸素が、回転円板式励起酸素発生器901を抜け出して、レーザ共振器905内を満たすまでの輸送中に失活する割合が高くなることがあり、全酸素分子に対する励起酸素の割合であるイールドが50%程度まで低下することがあった。その結果、レーザの発振効率が悪くなることがあった。特に回転円板902における左側で発生する励起酸素は、回転円板902の右側に位置するレーザ共振器905から遠いため、輸送時間が比較的に長いからである。なお、レーザ光の光軸OA9は紙面に垂直方向であり、矢印907は排気方向、903は回転円板902の回転軸を示す。
【0018】
これに対して本発明の励起酸素発生器を構成するパイプの中心軸を光軸とするようなレーザ共振器を有する酸素分子レーザ発振器を構成することで、パイプの内部空間の大半をレーザ共振器内にできるため、発生する励起酸素で、レーザ共振器内が直ぐに満たされることから、満たされるまでに失活する励起酸素の割合は低い。従ってレーザ共振器内に満たされる励起酸素のイールドを80%程度まで高めることも可能になり、酸素分子レーザを効率良くレーザ発振できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、効率よく励起酸素を発生させることができる励起酸素発生器、及び酸素分子レーザ発振器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施形態1にかかる励起酸素発生器100の構成を模式的に示す断面図である。
【
図2】リング状チューブ107aの構成を示す斜視図である。
【
図3】励起酸素発生器100における励起酸素の発生に関する説明図である。
【
図6】塩素ガス供給管105cを用いた励起酸素発生器100の断面図である。
【
図7】励起酸素発生器を用いた酸素分子レーザ210の構成図である。
【
図8】実施形態2にかかる励起酸素発生器300の構成を示す断面図である。
【
図9】従来の一般的な回転円板式励起酸素発生器の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本実施の形態の具体的構成について図面を参照して説明する。以下の説明は、本発明の好適な実施の形態を示すものであって、本発明の範囲が以下の実施の形態に限定されるものではない。以下の説明において、同一の符号が付されたものは実質的に同様の内容を示している。
【0022】
実施形態1.
以下、本発明の実施の形態を
図1に基づいて説明する。
図1は本発明の励起酸素発生器100構成を模式的に示す断面図である。
図1(a)はレーザの光軸OA1に垂直な断面構造を模式的に示しており、
図1(b)は光軸OA1に平行な断面構造を模式的に示したものである。なお、
図1においては、XYZ直交座標系を示しており、Z方向が光軸OA1の方向と平行であり、水平な方向になっている。また、Y方向は鉛直方向であり、X方向はZ方向と直交する水平方向である。
【0023】
励起酸素発生器100を構成する主要部品である回転式円筒パイプ101が、BHP溶液皿102の直上に配置しており、ローター103、及び104で支えられている。回転式円筒パイプ101はZ方向に沿って配置されている。BHP溶液皿102は、BHP溶液106aを貯留する容器である。ローター103は(図示されていない)モーターによって、矢印A2−1の方向に回転するようになっている。その結果、回転式円筒パイプ101は矢印A1の方向に回転することになる。回転式円筒パイプ101はその中心軸を回転軸として回転する。なお、回転式円筒パイプ101の中心軸は、光軸OA1とほぼ一致している。なお、ローター104はA2−2の方向に回転するが、こちらは単に回転式円筒パイプ101の回転を補助するためのものであり、モーター駆動していない。回転式円筒パイプ101は、中空状になっており、両端が開口している。
【0024】
BHP溶液皿102にはBHP溶液106aが満たされているが、回転式円筒パイプ101の下部のみがBHP溶液106aに浸されるようになっている。回転式円筒パイプ101の内面下部がBHP溶液106aと接触する。回転式円筒パイプ101がローター103の回転によって回転させられると、回転式円筒パイプ101の内面全体にBHP溶液106bが付着するようになる。ただし回転式円筒パイプ101の内面全体にBHP溶液106bが付着するように、BHP溶液106bには十分な遠心力が加わっている。ここでは回転式円筒パイプ101の直径が30cmであるため、前述の(1)式より77rpm以上で回転させる必要がある。もちろん、回転式円筒パイプ101の直径と、回転速度は上記の値に限られるものではない。ローター103は、上記の式(1)を満たす回転速度で、回転式円筒パイプ101を回転させている。
【0025】
使用するBHP溶液は、マイナス10℃以下、好ましくはマイナス20℃程度に冷却されていることが好ましい。液温が低いと粘度が高くなって表面張力が高まるからである。その結果、回転式円筒パイプ101の内面に付着するBHP溶液の液面は滑らかになり、BHP溶液106bの液面の近傍に配置されている塩素ガス供給管105との隙間が均一になるからである。しかも、それだけではなく、液温が低い方が、酸素分子レーザの発振に悪影響を及ぼす水蒸気圧が低くなる効果も生じる。
【0026】
回転式円筒パイプ101の内面近傍には、多数の塩素ガス供給管105が並べられている。複数の塩素ガス供給管105は、回転式円筒パイプ101の内面に沿って配列されている。ここでは、XY平面視において、複数の塩素ガス供給管105が周方向に等間隔で配列されている。それぞれの塩素ガス供給管105は、円筒のパイプ状になっており、Z方向に沿って配置されている。なお、パイプ状の塩素ガス供給管105にはスリットが設けられている。Z方向に沿って設けられたスリットは、回転式円筒パイプ101の内面に対向している。そして、スリットから塩素ガスが噴き出すようになっている。なお、
図1の(a)と(b)では、描かれている塩素ガス供給管105の本数が異なり、(b)では判り易くするために少ない本数が描かれている。
【0027】
多数の塩素ガス供給管105は、回転式円筒パイプ101から外に出ているところでリング状チューブ107a、及び107bに繋がっており、従って、これらリング状チューブ107a、及び107bのそれぞれ一か所に設けられた注入管108a、及び注入管108bから、矢印C1−1、C1−2のように塩素ガスが注入される。こうすることで、塩素ガス供給管105内に塩素ガスが流れ込むようになっている。すなわち塩素ガス供給管105内で塩素ガスは、
図1(b)中の点線の矢印で示したように流れる。このように、リング状チューブ107a、107bを介して、塩素ガス供給管105の両端から塩素ガスを供給することができる。
【0028】
斜めからリング状チューブ107aを見ると、
図2に示すような構成となっている。
図2は、リング状チューブ107aの構成を示す斜視図である。Z方向に沿った複数の塩素ガス供給管105がリング状チューブ107aに接続されている。なお、リング状チューブ107bもリング状チューブ107aと同様の構成になっており、塩素ガス供給管105を取り付ける向きが反対になっている。したがって、リング状チューブ107aとリング状チューブ107bとの間には、Z方向に沿って塩素ガス供給管105が配置されている。リング状チューブ107aとリング状チューブ107bが複数の塩素ガス供給管105を介して接続される。なお、前述したように塩素ガス供給管105には、スリットが設けられているが、
図2ではスリットを省略して図示している。
【0029】
塩素ガス供給管105は、回転式円筒パイプ101と平行になっている。各塩素ガス供給管105に設けられたスリットは、回転式円筒パイプ101の内面側を向いている。塩素ガス供給管105は、回転式円筒パイプ101の内面に向けて塩素ガスを噴出する。上記のように、回転式円筒パイプ101の内面には、BHP溶液106bが付着している。このため、
図3に示したように、噴き出した塩素ガス(Cl
2)は直ぐにBHP溶液106bと反応して、励起酸素(O
2(
1Δ
g))が発生するようになっている。発生した励起酸素は回転式円筒パイプ101の内側の空間全体を直ぐに満たすことなる。すなわち、回転式円筒パイプ101の内部空間とほぼ同一であるレーザ共振器内の空間に満たされる励起酸素は、ほとんど失活しておらず、80%前後の高いイールドになっている。従って、酸素分子レーザとしては、効率良くレーザ発振できるようになる。なお、
図3は
図1(a)の一部を拡大した説明図である。
【0030】
回転式円筒パイプ101の端部の形状としては、
図1(b)に示されたように、内側に向いた短いツバ101aが周囲に沿って設けられている。ツバ101aは、円筒状の回転式円筒パイプ101の側壁から内側に突出している。このツバ101aによって、回転式円筒パイプ101の内面に付着したBHP溶液106(b)が回転式円筒パイプ101の端部から溢れることを抑制している。
【0031】
また、回転式円筒パイプ101の材質としては、BHP溶液や塩素ガスに対して耐食性を有するモネル、インコネル、ハステロイなどのニッケル合金が耐食性の高いため好ましい。ただし同様に耐食性を有する塩ビ管を用いても良い。
【0032】
ここで、塩素ガス供給管105の構造の一例を
図4、及び
図5を用いて説明する。先ずは
図1(a)にも示されているが、
図4に示すように、塩素ガス供給管105は、チューブの一部にスリット105aを設けた構造でも良いが、
図5に示した塩素ガス供給管105bのように、一定間隔で穴105dを空けたチューブを用いても良い。
【0033】
また、
図6に示すように、断面が長方形のチューブ状の塩素ガス供給管105cを用いても良い。塩素ガス供給管105cでは、長方形の長辺面の中央にスリットが設けられており、これを励起酸素発生器100に用いる場合は、スリットが回転式円筒パイプ101の内面を向くように配置する必要がある。
【0034】
次に本発明の励起酸素発生器100を用いた酸素分子レーザ発振器の構成を、
図7を用いて説明する。
図7は酸素分子レーザ210の構成図である。酸素分子レーザ210の共振器は全反射鏡211と出力鏡212とで構成されており、この共振器間に2台の励起酸素発生器100、及び200が直列に配置している。励起酸素発生器100は
図1を用いて前述した構成になっており、励起酸素発生器200も励起酸素発生器100と全く同じ構成になっている。そのため、励起酸素発生器200の構成については説明を省略する。
【0035】
これら全反射鏡211、出力鏡212、励起酸素発生器100、及び励起酸素発生器200の全体を覆うように気密性を有する円筒状のハウジング(ただし図示せず)が配置している。ハウジングは内部を真空排気するために必要であるが、また、発生する励起酸素分子を内部に満たすためにも必要である。
【0036】
酸素分子レーザ210における2台の励起酸素発生器100、及び200において励起酸素を発生させるとレーザ発振する。このため、出力鏡212からレーザ光213が取り出される。なお、本実施形態では2台の励起酸素発生器を用いているが、レーザ出力を増やすためには、同様な構造の励起酸素発生器をさらに多数直列に配置すれば良い。もちろん、1台の励起酸素発生器によって酸素分子レーザ210を構成してもよい。
【0037】
なお、共振器の光軸は、回転式円筒パイプ101、201の中心軸とほぼ一致にしている。したがって、レーザ光の光路が回転式円筒パイプ101、201内に設けられたチューブ107a、107b、207a、207bや、塩素ガス供給管105、205によって妨げられることはない。
【0038】
本実施の形態の構成によれば、効率よく励起酸素を発生させることができる。すなわち、レーザ共振器内に塩素ガス及びBHP溶液を供給して励起酸素を発生させることができるため、励起酸素の利用効率を高くすることができる。酸素分子レーザの共振器内部に満たす励起酸素のイールドを高くできるため、酸素分子レーザの発振効率を高めることができる。
【0039】
実施の形態2.
次に実施形態2に係る励起酸素発生器について
図8を用いて説明する。
図8は励起酸素発生器300の構成を示す断面図である。励起酸素発生器300では、
図1に示した励起酸素発生器100と同様、回転式円筒パイプ301の内面近傍の周囲に沿って塩素ガス供給管302が配置している。BHP溶液306が塩素ガス供給管302と同様な注入管(BHP溶液注入管303)から供給される点が異なっている。なお、回転式円筒パイプの内面と接触するBHP溶液306を供給する手段以外の構成については、上記の構成と同様であるため、適宜説明を省略する。例えば、
図8においては、回転式円筒パイプ301を回転させるローター等を省略している。
【0040】
実施形態1では、回転式円筒パイプ101の内面にBHP溶液306を接触させる手段として、BHP溶液皿102が設けられていたが、実施形態2では、BHP溶液注入管303が、BHP溶液を回転式円筒パイプ101の内面に接触させる手段となっている。BHP溶液注入管303は、回転式円筒パイプ101の内部に配置され、回転式円筒パイプ101内にBHP溶液306を供給する。従って回転式円筒パイプ301が矢印A3の方向に回転することで、BHP溶液306は回転式円筒パイプ301の内面全体に付着するようになる。
【0041】
ここでは、実施の形態1の複数の塩素ガス供給管105の内、最も下にある塩素ガス供給管105がBHP溶液注入管303に置き換えられた構成となっている。よって、BHP溶液注入管303から流れ出したBHP溶液306が回転式円筒パイプ301の内面下部に接触する。そして、BHP溶液注入管303からBHP溶液306を供給しながら、回転式円筒パイプ301を回転させることで、回転式円筒パイプ301の内周面全体がBHP溶液306と接触する。
【0042】
回転式円筒パイプ301を1周したBHP溶液306の一部は、BHP溶液注入管303にぶつかる。このため、BHP溶液306は、BHP溶液注入管303の両端側から少しずつ溢れて、BHP溶液皿305で回収されるようになっている。
【0043】
なお、以上に説明した本発明の励起酸素発生器における回転式円筒パイプ101、及び301の内面は滑らかな円筒面になっているが、あるいは内面にリング状のフィンを多数並べた構造としても良い。その場合、それらフィンの両面もBHP溶液で濡れることになるため、BHP溶液の表面積が増えることから、励起酸素の発生量を増やすことができる。
【0044】
なお、本実施形態のように、BHP溶液をチューブから供給する場合、BHP溶液の回収にもチューブ等で吸引することも可能である。このようにすることで、重力を利用せずにBHP溶液の供給と回収が行うことが可能になる。この結果、宇宙等の無重力状態でも利用できるようになる。これに関して、従来の回転式ディスク方式では、容器にBHP溶液を溜めておく必要があるため、無重力状態での利用は困難であった。従って、本実施の形態の構成によって、無重力状態でも利用できることも従来から進歩した点でもある。
【0045】
本発明によると、酸素分子レーザの共振器内部に満たす励起酸素のイールドを高くできるため、酸素分子レーザの発振効率を高めることができる。
【0046】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はその目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含み、更に、上記の実施形態よる限定は受けない。
【符号の説明】
【0047】
100、201、300 励起酸素発生器
101、301 回転式円筒パイプ
102、305 BHP溶液皿
103、104 ローター
105、105b、105c、302 塩素ガス供給管
106a、106b、306 BHP溶液
107a、107b リング状チューブ
108a、108b 注入管
210 酸素分子レーザ
131 全反射鏡
132 出力教
200 酸素分子レーザ発振器
211 全反射鏡
212 出力鏡
213 レーザ光
303 BHP溶液供給管
900 従来の酸素分子レーザ
901 回転円板式励起酸素発生器
902 回転円板
903 回転軸
904 BHP溶液
905 レーザ共振器
906 塩素ガスの流れの方向
907 排気方向
A1、A2−1、A2−2、A3、A4 回転方向
C1−1、C1−2、C2−1、C2−2 塩素ガスの流れの方向
OA1、OA2、OA3、OA9 光軸