【解決手段】電気角1周期を所望の位相数で等分した擬似的な回転信号に基づいてd軸電圧指令を三相の整流波に変換し、その整流波に基づいてPWM制御を行い、PWM制御時におけるゲート回路部1のON・OFF時間を、各位相周期で等しく且つモータが始動しない程度の時間に制御し、ゲート回路部1からモータに流れる少なくとも二相の応答電流を所定のタイミングで検出し、それらの応答電流を、αβ軸の固定軸電流に変換し、電気角位相ごとの固定軸電流を示す各プロットの相座標の原点からのベクトルの大きさを特定し、最大ベクトルの方向を回転子の磁極方向と推定し、最大ベクトルの逆方向に対応する回転角度位置を回転子の初期磁極位置と推定する制御を行うように構成した。
前記初期磁極位置補正部は、前記所定の磁極補正量分だけ又は前記推定位置誤差に応じた補正量分だけ前記初期磁極推定位置を補正する処理を、前記q軸検出電流又は前記d軸検出電流がゼロ又はゼロを含む所定範囲内の値であることを直接または間接的に示す終了条件を満たすまで繰り返すものである請求項2記載のモータ制御装置。
請求項1乃至3の何れかに記載のモータ制御装置と、当該モータ制御装置によって制御され前記電源から電気が供給されるモータとを備えていることを特徴とするモータシステム。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0027】
本実施形態に係るモータ制御装置1は、
図1に示すように、突極性を有するモータMを位置センサレスで制御するものである。このモータ制御装置1は、直流電源(図示省略)から電力が供給されるものであり、インバータ装置に適用可能なものである。
【0028】
本実施形態では、モータMとして、例えば珪素鋼板からなる鉄心を主体としてなる回転子の内部に永久磁石を埋め込んだ埋込磁石構造の同期モータMであるIPMモータM(Interior Permanent Magnet Synchronous Motor)を適用している。モータMは、
図1に示すように、モータ制御装置1に接続された三相(U相、V相、W相)を有し、モータ制御装置1から出力される印加電圧に応答した電流がこれら三相に流れることで駆動する。
【0029】
モータ制御装置1は、モータMとともにモータシステムXを構成するものであり、モータMを直接駆動するゲート回路部2(主回路部)と、モータMの駆動を制御する電流制御部3(本発明の「制御部」に相当、以下では制御部と称す)や図示しない速度制御部等を備えている。
【0030】
ゲート回路部2は、各相にそれぞれ接続されている一対の上アームスイッチ及び下アームスイッチを有する。これらスイッチのON・OFFの切り替えによって、ゲートON時間が規定される。
【0031】
制御部3は、モータMの駆動状態を所定の制御パターンに従い制御するものである。ROMやRAMなどで構成された記憶部に、モータ制御装置1がモータMの駆動状態を制御する際の制御プログラムや制御パターンデータ等が格納されている。
【0032】
そして、本実施形態における制御部3は、擬似電気角指令生成部31と、二相−三相変換部32と、PWM制御部33と、ゲート制御部34と、電流検出部35と、初期磁極位置推定部36とを有するものである。
【0033】
擬似電気角指令生成部31は、電気角1周期を所望の位相数で等分した擬似的な回転信号である擬似電気角指令を生成するものである。この擬似電気角指令は、1回転内でのパルス数を複数回に規定するものである。なお、擬似電気角指令生成部31は、制御部3から独立したものであってもよいが、本実施形態では制御部3に属するものとしている。
【0034】
二相−三相変換部32は、入力されたd軸電圧指令、q軸電圧指令を三相(U相、V相、W相)の整流波に変換するものである。本実施形態では、二相−三相変換部32が、入力されたd軸電圧指令又はq軸電圧指令の少なくとも何れか一方の電圧指令を、擬似電気角指令に基づいて三相の整流波に変換できるように設定している。ここで、擬似電気角指令が、電気角1周期(T)を位相数n=16で等分した擬似的な回転信号である場合、二相−三相変換部32によってd−q座標上の電圧指令から三相交流座標系へ変換し、この二相−三相変換部32から出力される三相(U相、V相、W相)の電圧指令を
図2に示す。なお、二相−三相変換部32に入力されるd軸電圧指令又はq軸電圧指令の何れか一方が、ゼロ固定の電圧指令である場合、二相−三相変換部32に入力される電圧指令は、ゼロ固定ではない方の電圧指令であると捉えることができる。
【0035】
PWM制御部33は、二相−三相変換部32で変換された三相の整流波(三相の電圧指令)に基づいてPWM制御を行うものである。
【0036】
ゲート制御部34は、PWM制御部33によるPWM制御時のゲート回路部2のON・OFF時間を、各位相周期で等しく、モータMが始動しない(回転子が回転しない)程度の時間に制御するものである。このゲート制御部34で制御されたゲートON・OFF時間に基づいてゲート回路部2の作動を制御することで、モータMに電源電圧を印加して、モータMを駆動させることができる。
【0037】
電流検出部35は、ON・OFF時間によって制御されるゲート回路部2からモータMに流れる少なくとも二相の応答電流を所定の同一条件のタイミングで検出するものである。本実施形態では、ゲートON時間で巻線に流れる電流のピーク値を確実に検出できるように、検出対象とする二相の応答電流を、各相にそれぞれ接続されている一対の上アームスイッチ及び下アームスイッチのON・OFFの切替によってゲートがONからOFFになるタイミング(ゲートOFFタイミング)で検出するように設定している。
【0038】
初期磁極位置推定部36は、電流検出部35によって検出した二相の応答電流を、相互に直交するα軸及びβ軸によって規定される二相座標系上の電流である固定軸電流に変換し、二相座標系上における電気角位相ごとの固定軸電流を示す各プロットの二相座標の原点からのベクトルの大きさを特定し、最大ベクトルの方向を回転子の磁極方向と推定し、最大ベクトルの逆方向に対応する回転角度位置を回転子の初期磁極位置と推定するものである。
【0039】
次に、このようなモータ制御装置1によって、回転子の初期磁極位置を推定する手順を説明する。
【0040】
本実施形態に係るモータ制御装置1は、フィードバック回路を成立させず、二相−三相変換部32に入力されたd軸電圧指令又はq軸電圧指令の少なくとも何れか一方の電圧指令に、擬似電気角指令生成部31で生成した擬似電気角指令を合成して三相(U相、V相、W相)の整流波に変換し、この整流波に基づいてPWM制御部33によりPWM制御を実行する。擬似電気角指令生成部31によって生成する擬似電気角指令は、周波数(擬似電気角周期T)で掃引させたものであり、電気角1周期を所望の位相数nで等分した擬似的な回転信号である。上述したように、位相数nを16に設定した場合の三相電圧指令を
図2に示す。本実施形態では、例えば、q軸電圧指令をゼロ固定に設定し、実質的にd軸電圧指令のみを二相−三相変換部32に入力するように設定している。
【0041】
そして、本実施形態に係るモータ制御装置1は、二相−三相変換部32から出力される三相電圧指令をそのまま三相の巻線に与えた場合に生じるモータMの暴走を回避すべく、ゲート制御部34によって、回転子が回転しない程度(モータMが始動しない程度)の時間だけ三相の巻線に電圧指令を与えるようにゲート回路部2のON・OFF時間を制御する。さらに、本実施形態に係るモータ制御装置1では、ゲート制御部34によって、ゲート回路部2のON・OFF時間を、各位相周期で等しい時間に制御する。ここで、擬似電気角指令における電気角位相数nを16に設定した場合において、ゲート回路部2のON時間を、各位相周期(T/16)の1/8時間に設定したゲートON制御信号を
図3に示す。
【0042】
続いて、本実施形態に係るモータ制御装置1は、同図に示すように、ゲート回路部2からモータMに流れる少なくとも二相の応答電流(モータM電流)を電流検出部35によってゲートOFFタイミングで検出する。本実施形態では、U相,V相の応答電流を電流検出部35によって検出する。ここで、検出した電流値は、回転子の磁極位置によって異なる。
【0043】
次いで、本実施形態に係るモータ制御装置1は、電流検出部35によって検出した二相の応答電流を、各電気角位相n=0乃至15のそれぞれでIu(n),Iv(n)として所定のメモリに格納し、
図4に示す変換式により、検出した二相の応答電流Iu(n),Iv(n)のピーク電流(ゲートOFFタイミング電流)を固定軸電流Iα,Iβに変換し、n点(本実施形態であれば16点)のデータをプロットすることで、
図5のような楕円形状の電流ベクトル軌跡を得ることができる。ここで、合成電流ベクトルは、I’=√(Iα
2+Iβ
2)で得ることができるため、n=0乃至15の各電気角位相によるIu(n),Iv(n)の自乗和を比較することで最大ベクトルを求め、
図5に示す数式により最大ベクトルが指す磁極角度を算出する。
【0044】
そして、本実施形態に係るモータ制御装置1では、同図において相対的に細い実線で示す最大ベクトルが指す磁極角度が、回転子の磁極方向と一致又は略一致していることから、最大ベクトルが指す磁極角度を回転子の磁極方向と推定し、引き続いて、最大ベクトルの逆方向を回転子のN極方向と推定し、このN極方向に対応する回転角度位置(同図において相対的に太い実線で示す回転角度位置)を回転子の初期磁極位置と推定する。最大ベクトルが指す磁極角度を、回転子の磁極方向と推定した上で、回転子の磁極磁石のN極、S極を判定することになるが、これは、一般的に電気角0度のd軸インダクタンスLd
Nと電気角180度のd軸インダクタンスLd
Sの関係は、Ld
N>Ld
Sであるので、d軸(θ=0deg,180deg)への単位時間当たりの電圧印加による二相の電流応答を比較した場合、相対的に検出電流値が小さい方を磁石のN極、つまり回転子のN極方向であると推定できるとの原理に基づくものである。
【0045】
本実施形態のモータ制御装置1は、電流検出部35によって二相の応答電流を検出した時点以降から、回転子のN極方向を推定するまでの処理を上述の初期磁極位置推定部36によって実行している。
【0046】
また、本実施形態では、モータ制御装置1を上述した各部に相当する各手段として機能させて、上述の処理(ステップ)のアルゴリズムを実行するモータ制御プログラムを、所定の記憶部に、処理に必要なデータ(制御パターンデータ等)とともに格納している。
【0047】
次に、本実施形態に係るモータ制御装置1による回転子の初期磁極位置推定処理精度を明らかにすべく、以下の条件で行った試験及びその試験結果について述べる。
【0048】
本試験は、PWMキャリア周波数、擬似電気角周期(T)、ゲートON時間(T/16/8)、電圧指令(d軸電圧指令)をそれぞれ所定値に設定し、電流PI制御ゲインをゼロに固定し、電流検出周期をゲートOFFタイミングと同期させた条件下で、上述の手順で初期磁極位置推定処理を任意の磁極位置で行った。その結果、電流ベクトル軌跡は、磁極位置ごとに長軸方向が変形していることが
図6から分かり、回転子の推定磁極位置と、位置センサによって検出した回転子の実際の磁極位置との差(推定位置誤差)を算出したところ、本発明者は、本試験によって、本実施形態に係るモータ制御装置1による回転子の初期磁極位置推定精度の最大誤差を、交番パルス電圧方式を採用した場合よりも低減できることを確認した。
【0049】
このように、本実施形態に係るモータ制御装置1であれば、電流フィードバック回路を成立させず、d軸電圧指令又はq軸電圧指令の少なくとも何れか一方の電圧指令を直接与えることを可能とし、1回転内でのパルス数を例えば16回に規定する擬似電気角指令に基づく三相の電圧指令でPMW制御部3のPMW制御により、ゲート制御部34により任意の時間でゲートON/OFF時間を調整することができるため、電気角1周期あたりの電流検出ポイントが6ポイントに限定される交番パルス電圧方式(交番パルス電圧の6位相を利用する方式)の場合と比較して、電気角1周期あたりの検出ポイント数を増やすことが可能になり、回転子の初期磁極位置を、専用の位置センサを用いなくとも高い精度で推定することができる。また、本実施形態に係るモータ制御装置によれば、初期磁極位置の推定に要する処理時間の高速化を実現することができ、擬似電気角周期Tを短くすればするほど処理時間のより一層の高速化を図ることができる。つまり、本実施形態に係るモータ制御装置1では、擬似電気角周期Tが初期磁極位置の推定に要する処理時間を調整するパラメータとなる。
【0050】
上述の試験は、電気角周期を一挙に16分割した条件で行ったものであるが、擬似電気角周期Tを所定数に分割する処理を複数回(数段階)に分けて行うことで、初期磁極位置推定精度をさらに向上させることも可能であると考えられる。例えば、電気角周期を8分割し(分割第1段階)、8位相に基づいて描かれる電流ベクトル軌跡から最大ベクトルを求め(粗推定処理)、その最大ベクトルを中心として、電気角周期を8分割し(分割第2段階)、電気角位相ごとの固定軸電流を示す各プロットの二相座標の原点からのベクトルの大きさを特定し、最大ベクトルの方向を回転子の磁極方向と推定し、その最大ベクトルの逆方向を回転子のN極方向と推定する処理(詳細推定処理)を実施すれば、電気角周期を一挙に所定数に分割する場合と同程度の処理時間で、推定位置誤差をより一層低減することが可能であると考えられる。
【0051】
さらにはまた、擬似電気角指令部によって生成する擬似電気角指令として、電気角1周期を16以外の所望の位相数(7以上であれば従来よりも高精度で初期磁極位置の推定が可能であるが、さらに望ましくは2
n(n≧3))で等分した擬似的な回転信号を用いることも可能である。
【0052】
また、二相−三相変換部32に入力される電圧指令は、d軸電圧指令又はq軸電圧指令の少なくとも何れか一方の電圧指令であればよく、q軸電圧指令のみ、d軸電圧指令及びq軸電圧指令の両方であってもよい。
【0053】
上述の実施形態では、初期磁極位置検出試験結果として述べたように、回転子の初期磁極位置を、実際の磁極位置に対して限定された範囲内の誤差で推定可能であるが、適用するシステムにおいてはさらに高精度な初期磁極位置の推定精度が要求される場合が考えられる。また、上述の実施形態では、回転子が静止していることを前提としているが、初期磁極位置を推定する動作で回転子が不意に動いてしまう事態も起こり得る。
【0054】
そこで、本実施形態に係るモータ制御装置1は、
図7に示すように、制御部3として、推定した初期磁極位置(初期磁極推定位置)を実際の磁極位置(実初期磁極位置)に一致または近付ける初期磁極推定位置補正部38を有するものを適用することができる。
【0055】
d−q軸ベクトル定義を示す
図8に、推定した初期磁極位置に基づく推定電気角からなる推定軸(γ−δ軸)と、d−q軸とγ−δ軸との誤差である推定位置誤差θ
errを示す。同図における推定d軸であるγ軸に電流指令Iγ
*を与えた場合、推定位置誤差θ
errにより、実際に流れるd軸電流及びq軸電流は、
図9に示す3パターンに限定される。すなわち、γ軸に電流指令Iγ
*を与えた場合、推定位置誤差θ
errにより、その誤差量に対する「Iγ
*sin(θ
err)」が、推定q軸であるδ軸に流れる電流Iδとして検出することができ、推定位置誤差θ
errがゼロである場合、δ軸検出電流Iδはゼロであり、推定位置誤差θ
errがゼロよりも大きい場合、δ軸検出電流Iδは正の値となり、推定位置誤差θ
errがゼロよりも小さい場合、δ軸検出電流Iδは負の値となる。以上より、推定位置誤差θ
errの正負の符号に応じたq軸検出電流Iqの符号の反転方向に、推定位置誤差θ
errに相当する角度分だけγ−δ軸をシフトさせれば、実際の磁極位置に一致するように補正可能であることがわかる。
【0056】
ここで、d軸のみに電圧指令を与えた場合、推定位置誤差θ
errがゼロであるときはq軸検出電流Iqもゼロとなり、発生するトルクがゼロとなることがわかる(
図9中に示すPMモータのトルク式(式1)参照)。また、僅かな推定位置誤差θ
errが存在する場合であっても、発生するトルクは微小とすることが可能になる。
【0057】
図10に、実際の磁極位置から電気角θ
errだけずらした磁極位置に、回転子が動き出さない微小時間だけd軸電圧指令を繰り返し印加し、それぞれのq軸検出電流のピーク値の平均をプロットしたもの示す。同図に示す電気角θ
errとd軸指令印加時のq軸電流検出値との相対関係から、同図中の式1に示す近似の線形性を確認できる。
【0058】
次に、このような原理を利用した本実施形態に係る初期磁極推定位置の補正処理について説明する。なお、この初期磁極推定位置の補正処理は、上述の初期磁極推定処理と同時ではなく、時間差をおいて実施可能な処理である。
【0059】
本実施形態に係るモータ制御装置1では、実際の磁極位置と推定軸であるγ軸との軸誤差をq軸電流として検出し、補正処理に利用するため、d軸電圧指令のみを与え、q軸電圧指令をゼロ固定に設定し、実質的にd軸電圧指令のみを二相−三相変換部32に入力するように設定している。二相−三相変換部32では、入力された直流の電圧指令であるd軸電圧指令を、二相−三相変換部32に入力される電気角指令に基づいて三相の整流波に変換する。ここで、二相−三相変換部32に入力されるd軸電圧指令は、三相電圧指令とのPWM比較において、100%電圧指令を作り出せるように飽和レベル以上与える。また、初期磁極推定位置補正処理時に、二相−三相変換部32に入力される電気角指令は、初期磁極位置補正部38から出力される電気角指令である。この電気角指令の具体的な電気角は、上述の初期磁極位置推定処理で求めた初期磁極推定位置(推定値)と、所定の磁極補正量によって規定される電気角指令であり、初期磁極推定位置補正処理中に変動する値でもある。したがって、初期磁極位置補正処理を実行する上では、
図1に示す擬似電気角指令生成部31は不要であり、省略することができる(
図7参照)。
【0060】
本実施形態に係るモータ制御装置1は、二相−三相変換部32から出力される三相電圧指令をそのまま三相の巻線に与えた場合に生じるモータMの暴走を回避すべく、ゲート制御部34によって、回転子が回転しない程度(モータMが始動しない程度)の時間だけ三相の巻線に電圧指令を与えるようにゲート回路部2のON・OFF時間を制御する。さらに、本実施形態に係るモータ制御装置1では、ゲート制御部34によって、ゲート回路部2のON・OFF時間を各位相周期で等しく制御する。
【0061】
続いて、本実施形態に係るモータ制御装置1は、ゲート回路部2からモータMに流れる少なくとも二相の応答電流を電流検出部35によってゲートOFFタイミングで検出する。ここで、ゲート回路部2のON時間を、各位相周期Tの1/8時間に設定した場合のゲートON制御信号及び応答電流の検出タイミングを
図11に示す。
【0062】
次いで、本実施形態に係るモータ制御装置1は、制御部3として、三相−二相変換部37及び初期磁極推定位置補正部38を有するものを適用し、電流検出部35によって検出した二相の応答電流を三相−二相変換部37に入力する。三相−二相変換部37は、二相−三相変換部32に入力されたd軸電圧指令又はq軸電圧指令の何れか一方のみの電圧指令(本実施形態ではd軸電圧指令)に基づいてゲート回路部2からモータMに流れる少なくとも二相の応答電流であって且つ電流検出部35によって検出した応答電流を、相互に直交するd軸及びq軸によって規定される回転座標系上の電流(d−q軸電流)に変換するものである。
図12に、三相電流からα−β軸電流への変換する際の演算処理内容を示し、
図13に、α−β軸電流からd−q軸電流への変換する際の演算処理内容を示す。
【0063】
続いて、本実施形態に係るモータ制御装置1は、q軸電流検出値に基づき、初期磁極位置補正部38によって初期磁極推定位置を補正する処理を行う。初期磁極位置補正部38は、三相−二相変換部37によって変換して検出されたq軸検出電流の正負の符号から、初期磁極位置推定部36で推定した回転子の初期磁極位置である初期磁極推定位置を実際の磁極位置に一致又は近付ける補正方向を判定し、補正方向であるq軸検出電流の正負の符号の反対方向に、所定の磁極補正量分だけ初期磁極推定位置を補正するものである。なお、以下の説明で用いる位置推定値は、初期磁極推定位置と同義である。
【0064】
この初期磁極位置補正部38での制御応対は、
図14に示すように、補正処理に関する制御を開始するState0と、単位時間ΔT当たりのq軸電流Iqの平均値を算出するState1と、算出したq軸電流Iqの平均値Iq
ave(平均q軸電流Iq
ave)が予め設定している条件(既定値)を満たしていると判定した場合に、補正処理に移行し、所定の終了条件(設定精度)に収まるまで繰り返し補正処理を実行した後に、制御を終了するState2に段階分けすることができる。なお、後述する
図15には、説明の便宜上、単位時間ΔT当たりのq軸電流Iqの平均値を算出するState1以降、補正処理に関する制御を終了するState2までの制御応対であって、所定の終了条件(設定精度)に収まるまで補正処理を繰り返し実行する制御応対はState1に属するものとする。
【0065】
ここで、本実施形態における補正処理は、q軸検出電流Iqの正負の符号の反転方向(逆方向)に位置推定値を所定の磁極補正量分だけシフトし、q軸検出電流Iqの正負の符号反転を終了条件とするものである。なお、平均q軸電流Iq
aveは、上述のとおり、単位時間ΔT当たりのq軸電流Iqの平均値であり、平均値ではないq軸電流Iqを利用する場合よりも、検出電流値のばらつきを抑えることができ、検出精度の向上が期待できる。もちろん本発明が、平均値ではないq軸電流Iqを利用する態様を積極的に排除するものでないことを付言しておく。
【0066】
また、本実施形態では、初期磁極位置補正部38において、算出したq軸電流Iqの平均値Iq
aveが予め設定している条件(既定値)より大きい場合、補正範囲外にあると判定して補正処理に関する制御を中止するように設定している(
図14のState3参照)。
【0067】
本実施形態における補正処理に関する制御の一具体例を
図15に示す。同図では、補正処理を実行する直前の推定位置誤差θ
errが「ある負の値」である場合において、補正処理実行時にそれぞれ変化する平均q軸電流Iq
ave(同図下段)、推定位置誤差θ
err(同図中段)、制御応対State0乃至State3(同図上段)を同一のタイムライン上に模式的に示している。
【0068】
図14及び
図15に示すように、本実施形態に係るモータ制御装置1では、初期磁極位置推定部36で推定した初期磁極推定位置を検出し(初期磁極推定位置検出ステップS1、
図14参照)、検出した初期磁極推定位置に対応する電気角を、補正処理中に変動する値である推定電気角としてセットし(電気角セットステップS2)、制御を開始する(制御開始ステップS3)ことにより、補正処理に関する制御を開始し(State0、
図15中のP1)、上述した手順により平均q軸電流Iq
aveを算出する(平均q軸電流算出ステップS4,State1)。なお、上述の「補正処理を実行する直前の推定位置誤差θ
err」が、初期磁極位置推定部36で推定した初期磁極推定位置と実際の磁極位置との差といえる。
【0069】
続いて、本実施形態に係るモータ制御装置1は、算出した平均q軸電流Iq
aveが、予め設定している既定値(補正処理に関する制御開始の閾値IQ
MAX)よりも小さいか否かを判定し(制御開始判定ステップS5)、小さい場合(制御開始判定ステップS5;Yes)は、その平均q軸電流Iq
aveが、予め設定している既定値(補正処理に関する制御要否の閾値IQ
MIN)以下であるか否かを続けて判定し(制御要否判定ステップS6)、平均q軸電流Iq
aveが、予め設定している既定値IQ
MIN以下でない場合(制御要否判定ステップS6;No)、補正実行ステップS7に移行する。
図15に示すケースでは、平均q軸電流Iq
aveが、予め設定している補正処理に関する制御開始の閾値IQ
MAXよりも小さく、且つ予め設定している補正処理に関する制御要否の閾値IQ
MIN以下であり、補正実行ステップS7に移行する(
図15中のP2)。なお、制御開始判定ステップS5及び制御要否判定ステップS6では、平均q軸電流Iq
aveの絶対値を、制御開始の閾値IQ
MAX(より正確には、
図15に示す絶対値が等しい正の制御開始閾値IQ
MAXと負の制御開始閾値IQ
MAXのうち正の制御開始閾値IQ
MAX)や、制御要否の閾値IQ
MIN(より正確には、同図に示す絶対値が等しい正の制御要否閾値IQ
MINと負の制御要否閾値IQ
MINのうち正の制御要否閾値IQ
MIN)と比較している。
【0070】
補正実行ステップS7では、まず、平均q軸電流Iq
aveがゼロよりも大きいか否かを判定し(平均q軸電流符号判定ステップS71)、大きい場合(平均q軸電流符号判定ステップS71;Yes)、つまり、平均q軸電流Iq
aveが正の符号である場合は、正符号補正実行ステップS72乃至S74に進み、平均q軸電流Iq
aveがゼロよりも大きくないと判定した場合、つまり、平均q軸電流Iq
aveが負の符号である場合(平均q軸電流符号判定ステップS71;No)は、負符号補正実行ステップS75乃至S77に進む。
図15に示すケース、つまり、補正処理を実行する直前の推定位置誤差θ
errが「ある負の値」であるケースでは、算出される平均q軸電流Iq
aveも推定位置誤差θ
errに応じた符号と同じ負の符号であるため、平均q軸電流符号判定ステップS71においてゼロよりも大きくないと判定され、負符号補正実行ステップS75乃至S77に進む。
【0071】
正符号補正実行ステップでは、
図9より、推定軸(γ−δ軸)を実軸(d−q軸)に一致または近付けるために、推定軸座標を遅らせる処理、すなわち、電気角セットステップS2でセットした電気角(補正処理中に変動する値である推定電気角)から、補正処理に関する制御を開始する前に予め設定している磁極補正量Δθ
3に応じた角度分を引いた値を、推定電気角とする処理(電気角変更ステップS72)を実行し、その推定電気角に基づく平均q軸電流Iq
aveを算出し(電気角変更後平均q軸電流算出ステップS73)、その算出した平均q軸電流Iq
aveがゼロまたはゼロ未満であるか否かを判定する(平均q軸電流符号反転判定ステップS74)。そして、算出した平均q軸電流Iq
aveがゼロまたはゼロ未満である場合(平均q軸電流符号反転判定ステップS74;Yes)は補正処理に関する制御を終了し、算出した平均q軸電流Iq
aveがゼロまたはゼロ未満でない場合(平均q軸電流符号反転判定ステップS74;No)は、電気角変更ステップS72に戻り、算出した平均q軸電流Iq
aveがゼロ未満となるまで上述の出力電気角変更後平均q軸電流算出ステップS73、平均q軸電流符号反転判定ステップS74を繰り返す。
【0072】
負符号補正実行ステップでは、
図9より、推定軸(γ−δ軸)を実軸(d−q軸)に一致または近付けるために、推定軸座標を進ませる処理、すなわち、電気角セットステップS2でセットした推定電気角に、補正処理に関する制御を開始する前に予め設定している磁極補正量Δθ
3に応じた角度分を足した値を、推定電気角とする処理(電気角変更ステップS75)を実行し、その推定電気角に基づく平均q軸電流Iq
aveを算出し(電気角変更後平均q軸電流算出ステップS76)、その算出した平均q軸電流Iq
aveがゼロまたはゼロより大きい否かを判定する(平均q軸電流符号反転判定ステップS77)。そして、算出した平均q軸電流Iq
aveがゼロまたはゼロより大きい場合(平均q軸電流符号反転判定ステップS77;Yes)は補正処理に関する制御を終了し、算出した平均q軸電流Iq
aveがゼロまたはゼロより大きくない場合(平均q軸電流符号反転判定ステップS77;No)は、電気角変更ステップS75に戻り、算出した平均q軸電流Iq
aveがゼロまたはゼロより大きくなるまで上述の電気角変更後平均q軸電流算出ステップS76、平均q軸電流符号反転判定ステップS77を繰り返す。
【0073】
図15に示すケース、つまり、補正処理を実行する直前の推定位置誤差θ
errが「ある負の値」であるケースでは、負符号補正実行ステップS75乃至S77に進み、1回目の電気角変更ステップS75、電気角変更後平均q軸電流算出ステップS76に続く平均q軸電流符号反転判定ステップS77において、算出した平均q軸電流Iq
aveがゼロまたはゼロより大きくないと判定され(平均q軸電流符号反転判定ステップS77;No、
図15中のP3)、電気角変更ステップS75に戻り、2回目の電気角変更ステップS75、電気角変更後平均q軸電流算出ステップS76に続く平均q軸電流符号反転判定ステップS77において、算出した平均q軸電流Iq
aveがゼロまたはゼロより大きいと判定され(平均q軸電流符号反転判定ステップS77;Yes、
図15中のP4)、補正処理に関する制御を終了し、この時点で制御応対はState1からState2に移行する(
図15参照)。
図15から把握できるように、負符号補正実行ステップS75乃至S77を経ることで、補正処理中に変動する推定電気角に応じた推定位置誤差θ
errは、補正処理実行前よりもゼロに近付き、平均q軸電流Iq
aveが負の符号から正の符号に反転するまで(平均q軸電流符号反転判定ステップS77において平均q軸電流Iq
aveがゼロまたはゼロより大きいと判定するまで)、繰り返し補正処理(負符号補正実行ステップS75乃至S77)を実行することで、全ての補正処理を終了した時点の推定位置誤差θ
err(
図15に示す2回目の平均q軸電流符号反転判定ステップS77終了時点P4の推定位置誤差θ
err)を、直前の補正処理終了時点の推定位置誤差θ
err(同図に示す1回目の平均q軸電流符号反転判定ステップS77終了時点P3の推定位置誤差θ
err)よりもゼロに近付けることが可能である。
【0074】
また、本実施形態では、
図16に示すように、制御開始判定ステップS5において、算出した平均q軸電流Iq
aveが予め設定している制御開始の閾値IQ
MAXよりも小さくないと判定した場合(制御開始判定ステップS5;No、
図16中のP2)には、それ以降のステップに進まずに中止(State1からState3に移行)して、補正処理に関する制御を行わないように設定している。その結果、ノイズ等の原因によって初期磁極位置の推定処理を適切に行うことができなかった場合や、何らかの理由で回転子が大きく動いてしまった場合は、制御開始判定ステップS5において、算出した平均q軸電流Iq
aveが予め設定している制御開始の閾値IQ
MAXよりも大きいと判定して、補正処理に関する制御を行わず、推定位置誤差が大きいこと、つまり、補正処理前の初期磁極推定位置が実際の磁極位置から大きくずれている事象を検出することができ、初期磁極位置の推定処理を再度実行する等の対策を施すことで、モータMの暴走を回避し、スムーズに始動することができる。
【0075】
ここで、本実施形態に係るモータ制御装置1による回転子の磁極位置補正処理精度を明らかにすべく以下の条件で行った試験及びその試験結果について述べる。
【0076】
本試験は、PWMキャリア周波数、ゲートON時間、電圧指令(d軸電圧指令)をそれぞれ所定値に設定し、電流PI制御ゲインをゼロに固定して、電流検出周期をゲートOFFタイミングと同期させた条件下で、初期磁極位置検出処理とは切り離して行ったものである。本試験では、位置センサによって検出した電気角θ
resに対してオフセットを持たせた値を回転子の初期磁極推定値(例えば、真値に対して「ある正の値の位置誤差」と「ある負の値の位置誤差」)とし、平均化時間ΔT、制御開始の閾値IQ
MAX、制御要否の閾値IQ
MIN、磁極補正量Δθ
3をそれぞれ所定値に設定した当該試験の結果を
図17に示す。同図では、補正処理実行時にそれぞれ変化する推定位置誤差θ
err(同図下段)、平均q軸電流Iq
ave(同図中段)、制御応対State0乃至State3(同図上段)を同一のタイムライン上に模式的に示している。
【0077】
初期の磁極誤差が「ある負の値」の状態から制御を開始した場合、同図(a)に示すように、補正処理実行前のq軸検出電流Iqの符号も初期磁極誤差と同じ符号、つまり負の符号であり、負符号補正実行ステップS75乃至S77に進む。そして、同図(a)に示すように、初期の磁極誤差が「ある負の値」である場合、負符号補正実行ステップS75乃至S77を3回繰り返し、3回目の電気角変更ステップS75、電気角変更後平均q軸電流算出ステップS76に続く平均q軸電流符号反転判定ステップS77において、平均q軸電流Iq
aveがゼロまたはゼロより大きいと判定したタイミング(平均q軸電流符号反転判定ステップS77;Yes、同図中のPa)で、補正処理に関する制御を終了している。同図(a)より、3回のゲート通電の平均q軸電流Iq
aveが磁極誤差に対して線形性を持ち、3回目の推定位置シフト後の判定で平均q軸電流Iq
aveの符号が反転したタイミングで制御を完了し、最終的な推定位置誤差は、補正処理前よりも小さくなった。本試験において初期磁極誤差が「ある負の値」である場合には、同図(a)に示すように、補正処理完了後の推定位置誤差θ
errの符号は反転し、補正処理前よりも磁極誤差(推定位置誤差θ
err)がゼロに近付いている。なお、同図(a)におけるポイントP1は、制御開始時点であり、ポイントP2は、制御開始判定ステップ(及び制御要否判定ステップ)終了時点であり、ポイントP3は、1回目の推定位置シフト後のq軸電流符号反転判定ステップ終了時点であり、ポイントP4は、2回目の推定位置シフト後のq軸電流符号反転判定ステップ終了時点である。
【0078】
初期の磁極誤差が「ある正の値」の状態から制御を開始した場合、同図(b)に示すように、補正処理実行前のq軸検出電流Iqの符号も初期磁極誤差と同じ符号、つまり正の符号であり、正符号補正実行ステップS72乃至S74に進む。そして、同図(b)に示すように、初期の磁極誤差が「ある正の値」の場合、正符号補正実行ステップS72乃至S74を2回繰り返し、2回目の電気角変更ステップS72、電気角変更後平均q軸電流算出ステップS73に続く平均q軸電流符号反転判定ステップS74において、平均q軸電流Iq
aveがゼロまたはゼロより小さいと判定したタイミング(平均q軸電流符号反転判定ステップS74;Yes、同図中のPb)で、補正処理に関する制御を終了している。同図(b)より、2回のゲート通電の平均q軸電流Iq
aveが磁極誤差に対して線形性を持ち、2回目の推定位置シフト後の判定で平均q軸電流Iq
aveの符号が反転したタイミングで制御を完了し、最終的な推定位置誤差は、補正処理前よりも小さくなった。なお、本試験において初期磁極誤差が「ある正の値」である場合には、同図(b)に示すように、補正処理完了後の推定位置誤差θ
errの符号は反転していない。これは、推定位置誤差θ
errがゼロ近辺の微小値では検出がばらつく影響で、推定位置誤差θ
errと平均q軸電流Iq
aveの符号は必ずしも一致しないことを意味する。同図(b)におけるポイントP1は、制御開始時点であり、ポイントP2は、制御開始判定ステップ(及び制御要否判定ステップ)終了時点であり、ポイントP3は、1回目の推定位置シフト後のq軸電流符号反転判定ステップ終了時点である。
【0079】
このような初期磁極誤差が「ある正の値」、「ある負の値」である状態から制御を開始する試験をそれぞれ3回ずつ行った結果、制御終了時(State1からState2に移行した時点)の推定位置誤差θ
errの平均値は補正処理前よりも小さく、正符号補正実行ステップ又は負符号補正実行ステップの繰り返し回数は2回、または3回であった。
【0080】
上記試験結果より、推定した初期磁極位置が真の初期磁極位置(実初期磁極位置)に対して「ある正の値」の推定位置誤差を有していても、磁極補正量(補正シフト量)Δθ
3を推定位置誤差の「ある正の値」よりも小さい任意の値に設定することで、本実施形態に係る初期磁極位置補正部38によって、推定位置誤差θ
errを確実に縮小(補正)することができ、位置推定精度の向上を実現できることが分かった。
【0081】
このように、本実施形態に係るモータ制御装置1によれば、初期磁極位置を推定した後に、d軸にのみ電圧指令を与え、回転子が作動しない程度に指令印加時間を制御し、q軸検出電流Iqの符号から回転子の位置補正の方向を決定し、実初期磁極位置(目標磁極位置)に対する推定位置誤差の有無をq軸検出電流Iqの大きさから決定することで、回転子の初期磁極位置を補正し、初期磁極位置の推定精度を向上させることができる。
【0082】
したがって、初期磁極位置推定部36で推定した初期磁極位置の精度が所定の精度条件を満たさない場合や、初期磁極位置の推定処理時に回転子が不意に動いてしまっている場合であっても、上述の補正処理を実行することによって、推定精度をさらに高めることができる。
【0083】
また、補正処理完了後の最終的な推定位置誤差θ
errと補正シフト量(磁極補正量)Δθ
3には、「0≦θ
err≦Δθ
3」という関係が成立する。したがって、本実施形態のモータ制御装置1の初期磁極位置補正部38によれば、磁極補正量を変化させることで目標誤差に対する精度を自由に決定することができる。例えば、磁極補正量を小さくすると、終了条件(q軸検出電流Iqの正負の符号が反転)となるまでの補正実行回数(正符号補正実行ステップ又は負符号補正実行ステップの繰り返し回数)が多くなり、補正完了までに要する時間が増大するものの、目標誤差に対する精度は向上する(
図18参照)。
図18におけるポイントP1は、制御開始時点であり、ポイントP2は、制御開始判定ステップ(及び制御要否判定ステップ)終了時点であり、ポイントP3は、1回目の推定位置シフト後のq軸電流符号反転判定ステップ終了時点であり、ポイントP4は、2回目の推定位置シフト後のq軸電流符号反転判定ステップ終了時点であり、ポイントP5は、3回目の推定位置シフト後のq軸電流符号反転判定ステップ終了時点であり、ポイントP6は、4回目の推定位置シフト後のq軸電流符号反転判定ステップ終了時点である。
【0084】
上述した実施形態では、「q軸検出電流Iqの正負の符号が反転」することを補正処理の終了条件としている。この場合の終了条件は、q軸検出電流がゼロ又はゼロを含む所定範囲内の値であることを間接的に示す条件であるといえる。
【0085】
また、
図19に示すように、「q軸検出電流Iqの正負の符号が反転」することを補正処理の終了条件としつつ、q軸検出電流Iqの正負の符号が反転した後、一度だけ逆方向にシフトさせる補正を実行し、その際、逆方向への磁極補正量を、正負の符号が反転する以前の磁極補正量よりも小さい値(例えば0.5倍等)にすると、このような正負の符号反転後に逆方向へシフトさせる補正処理を実行しない態様と比較して、補正実行回数を増やさずとも実際の磁極位置により一層近付けることができ、目標誤差に対する精度が上がる。
図19におけるポイントP1は、制御開始時点であり、ポイントP2は、制御開始判定ステップ(及び制御要否判定ステップ)終了時点であり、ポイントP3は、1回目の推定位置シフト後のq軸電流符号反転判定ステップ終了時点であり、ポイントP4は、2回目の推定位置シフト後のq軸電流符号反転判定ステップ終了時点であり、ポイントP5は、2回目の推定位置シフト後のq軸電流符号反転判定ステップ終了と同時または略同時に行う推定位置逆方向シフト処理完了時点である。
【0086】
また、推定位置誤差θ
errの誤差量に対する「Iγ
*sin(θ
err)」がq軸電流として検出できるため、
図20に示すように、算出した平均q軸電流Iq
aveが、予め設定している既定値(補正処理に関する制御要否の閾値IQ
MIN)以下であるか否かを判定し(制御要否判定ステップS6)、平均q軸電流Iq
aveが、予め設定している既定値IQ
MIN以下でない場合(制御要否判定ステップS6;No)、補正実行ステップS7’に移行し、この補正実行ステップS7’において、まず、推定位置誤差θ
errを、制御要否判定ステップS6で利用する平均q軸電流Iq
aveに基づいて推定する(推定位置誤差推定ステップS70’)。そして、平均q軸電流Iq
aveがゼロよりも大きいか否かを判定し(平均q軸電流符号判定ステップS71’)、大きい場合(平均q軸電流符号判定ステップS71’;Yes)、つまり、平均q軸電流Iq
aveが正の符号である場合は、正符号補正実行ステップS72’乃至S74’に進み、平均q軸電流Iq
aveがゼロよりも大きくないと判定した場合、つまり、平均q軸電流Iq
aveが負の符号である場合は、負符号補正実行ステップS75’乃至S77’に進む。
【0087】
正符号補正実行ステップでは、電気角セットステップS2でセットした電気角から、推定位置誤差推定ステップS70’で推定した推定位置誤差θ
errに応じた角度分を引いた値を、電気角とする処理(電気角変更ステップS72’)を実行し、その電気角に基づく平均q軸電流Iq
aveを算出し(電気角変更後平均q軸電流算出ステップS73’)、その算出した平均q軸電流Iq
aveが、予め設定している目標精度に対応するq軸電流の値となっているか否か(目標精度の下限値に対応するq軸電流の値○○以上であって且つ目標精度の上限値に対応するq軸電流の値△△以下であるか否か)を判定する(平均q軸電流判定ステップS74’)。そして、算出した平均q軸電流Iq
aveが予め設定している目標精度に対応するq軸電流の値となっている場合(平均q軸電流判定ステップS74’;Yes)は補正処理に関する制御を終了し、算出した平均q軸電流Iq
aveが予め設定している目標精度に対応するq軸電流の値となっていない場合(平均q軸電流判定ステップS74’;No)は、推定位置誤差推定ステップS70’に戻り、算出した平均q軸電流Iq
aveが予め設定している目標精度に対応するq軸電流の値となるまで上述のステップを繰り返す(
図20参照)。
【0088】
負符号補正実行ステップでは、電気角セットステップS2でセットした電気角に、推定位置誤差推定ステップS70’で推定した推定位置誤差θ
errに応じた角度分を足した値を、電気角とする処理(電気角変更ステップS75’)を実行し、その電気角に基づく平均q軸電流Iq
aveを算出し(電気角変更後平均q軸電流算出ステップS76’)、その算出した平均q軸電流Iq
aveが、予め設定している目標精度に対応するq軸電流の値となっているか否か(目標精度の下限値に対応するq軸電流の値○○以上であって且つ目標精度の上限値に対応するq軸電流の値△△以下であるか否か)を判定する(平均q軸電流判定ステップS77’)。そして、算出した平均q軸電流Iq
aveが予め設定している目標精度に対応するq軸電流の値となっている場合(平均q軸電流判定ステップS77’;Yes)は補正処理に関する制御を終了し、算出した平均q軸電流Iq
aveが予め設定している目標精度に対応するq軸電流の値となっていない場合(平均q軸電流判定ステップS77’;No)は、推定位置誤差推定ステップS70’に戻り、算出した平均q軸電流Iq
aveが予め設定している目標精度に対応するq軸電流の値となるまで上述のステップを繰り返す(
図20参照)。
【0089】
このように、q軸検出電流Iqの正負の符号の反転方向に、推定位置誤差θ
errに相当する角度分だけシフトさせ、目標精度に応じたq軸検出電流Iqの値となっているかを判定する。これにより、理想状態であれば、正符号補正実行ステップ又は負符号補正実行ステップの回数が1回で推定位置誤差θ
errがゼロになる。
【0090】
このような実施形態では、「目標精度の下限値に対応するq軸電流の値○○以上であって且つ目標精度の上限値に対応するq軸電流の値△△以下であること」を補正処理の終了条件としており、この終了条件は、q軸検出電流がゼロ又はゼロを含む所定範囲内の値であることを直接的に示す条件であるといえる。
【0091】
また、推定d軸であるγ軸に指令を与えるのではなく、推定q軸であるδ軸に指令を与えることでも位置補正を行うことが可能である。推定位置誤差θ
errを
図21に示すように定義すると、Iδ
*sin(θ
err)がd軸電流として検出できる。以降は、これまでに示した手法においてIqを用いていた部分をIdに置換することで、位置補正を行う。ただし、モータMのトルクTは前記
図9中の式1で求められることから、δ軸に指令を与えることでモータMが回転するリスクが高まることに注意する必要がある。
【0092】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、上述した実施形態では、突極性を有するモータとして代表的なIPMモータを例示したが、回転子の表面に永久磁石を貼り付ける等して一体的に設けた表面磁石構造の同期モータであるSPMモータ(Surface Permanent Magnet Synchronous Motor)を適用することもできる。SPMモータには突極性がないか殆どないと考えられてはいるが、磁気抵抗やインダクタンスが回転角度の依存性を持つ突極性が少しではあるが存在し、上述の実施形態で述べた楕円形状の電流ベクトル軌跡を得ることができ、本発明の初期磁極位置推定処理や、初期磁極位置補正処理を実行することが可能である。
【0093】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。