(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-82804(P2016-82804A)
(43)【公開日】2016年5月16日
(54)【発明の名称】電力価格決定装置および電力価格決定方法
(51)【国際特許分類】
H02J 3/00 20060101AFI20160411BHJP
G06Q 50/06 20120101ALI20160411BHJP
【FI】
H02J3/00 180
G06Q50/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】5
(21)【出願番号】特願2014-214392(P2014-214392)
(22)【出願日】2014年10月21日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 開催日:平成26年5月30日 研究集会名:一般社団法人電子情報通信学会 高信頼制御通信研究会 開催場所:東京都港区芝公園3−5−8 機械振興会館 開催日:平成26年6月6日 研究集会名 公益社団法人計測自動制御学会 第55回離散事象システム研究会 開催場所:宮崎県西臼杵郡高千穂町大字三田井1515 高千穂町コミュニティセンター
(71)【出願人】
【識別番号】304024430
【氏名又は名称】国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】100154966
【弁理士】
【氏名又は名称】海野 徹
(72)【発明者】
【氏名】小林 孝一
(72)【発明者】
【氏名】平石 邦彦
【テーマコード(参考)】
5G066
5L049
【Fターム(参考)】
5G066AA02
5G066AE05
5G066AE09
5G066JA07
5L049CC06
(57)【要約】
【課題】 現状では、電力価格は電力使用量の簡単な関数となっており、きめ細やかな調整が困難である。したがって、電力需給のひっ迫時に、適切な節電ができない、過剰な節電を要求してしまうなどの問題点が発生する。
【解決手段】 本発明の電力価格決定装置は以下の手順からなることを特徴とする。
ステップ1: 需要家のスマートメータから電力利用量の計測データを受信する。
ステップ2: 計測データおよび切替型離散時間マルコフ連鎖モデルを用いて価格決定問題を解き、電力価格を決定する。
ステップ3: スマートメータなどを用いて、電力価格を需要家に提示する。
ステップ4: 一定時間経過後、ステップ1に戻る。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の手順からなることを特徴とする電力価格決定装置。
ステップ1:需要家のスマートメータから電力利用量の計測データを受信する。
ステップ2:計測データおよび切替型離散時間マルコフ連鎖モデルを用いて価格決定問題を解き、電力価格を決定する。
ステップ3:スマートメータなどを用いて、電力価格を需要家に提示する。
ステップ4:一定時間経過後、ステップ1に戻る。
【請求項2】
式(1)で表される切替型離散時間マルコフ連鎖モデルを用いることを特徴とする電力価格決定方法。
【数3】
【請求項3】
式(2)で表される価格決定問題を用いることを特徴とする請求項2に記載の電力価格決定方法。
【数4】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力価格決定装置および電力価格決定方法に係り、特に電力需給ひっ迫時に適切な電力価格を決定することを可能とする電力価格決定装置および電力価格決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リアルタイムプライシング(RTP)とは、電力需給がひっ迫した際に、電力使用量に応じた電力価格をリアルタイムで決定することで、節電を促す方法である。社会実験によりその効果が明らかになっている。RTPの実験では、各需要家(一般家庭など)にスマートメータを配布し、電力使用量を計測する。また、電力価格を何らかの方法で可視化する。電力使用量を抑制したい場合は、電力価格を高く設定する。各需要家は、電力価格を確認して、節電の可否を判断する。現状では、電力使用量に応じて、電力価格を2倍、3倍に設定するなど簡単な方法が用いられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】O. Corradi, H. Ochsenfeld, H. Madsen, and P. Pinson, Controlling electricity consumption by forecasting its response to varying prices, IEEE Trans. on Power Systems, vol. 28, no. 1, pp. 421-429, 2013.
【非特許文献2】C. Vivekananthan, Y. Mishra, and G. Ledwich, A novel real time pricing scheme for demand response in residential distribution systems, Proc. of the 38th Annual Conf. of the IEEE Industrial Electronics Society, pp. 1954-1959, 2013.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1では、電力使用量の時間変化を過去の電力使用量や価格の線形回帰モデルによって表現している。しかし、実際の電力使用量の時間変化は非線形であり、実用的モデルとはいえない。非特許文献2では、電力価格は電力使用量の簡単な関数となっており、きめ細やかな調整が困難である。したがって、従来手法では、電力需給のひっ迫時に、適切な節電ができない、過剰な節電を要求してしまうなどの問題点が発生する。
本発明はこのような問題に鑑み、電力需給ひっ迫時に適切な節電が実現できる、電力価格決定装置および電力価格決定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の電力価格決定装置は、以下のステップから成ることを特徴とする。
ステップ1: 需要家のスマートメータから電力利用量の計測データを受信する。
ステップ2: 計測データおよび切替型離散時間マルコフ連鎖モデルを用いて価格決定問題を解き、電力価格を決定する。
ステップ3: スマートメータなどを用いて、電力価格を需要家に提示する。
ステップ4: 一定時間経過後、ステップ1に戻る。
また、本発明の電力価格決定方法は、式(1)で表される切替型離散時間マルコフ連鎖モデルを用いることを特徴とする。
また、式(2)で表される価格決定問題を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によって、電力需給ひっ迫時に適切な節電が実現できる、電力価格決定装置および電力価格決定方法が得られた。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明では、各需要家に対する電力使用量の数理モデルを提案している。数理モデルを用いることで、電力使用量の予測が可能となる。電力需給がひっ迫する数時間の間の電力使用量を数理モデルにより予測し、最適な電力価格を計算することが可能となる。本発明では、数理モデルとして、切替型離散時間マルコフ連鎖モデルを提案する。電力使用量の時間変化はモデル化が困難な要因が含まれており、確率的なモデルとして表現することが適切である。確率モデルとして代表的な離散時間マルコフ連鎖を用い、電力価格などに応じて離散時間マルコフ連鎖を切り替えることとする。また、最適な電力価格の計算方法は最適化問題に帰着される。この問題を繰り返し解くことで、時々刻々変化する電力使用量に対して、最適な価格を計算することが可能になる。
【0009】
本発明の切替型離散時間マルコフ連鎖モデルについて、以下に説明する。需要家の数をnとする。時刻kの需要家の状態x(k)は、電力使用量は計測値に基づき、d個の要素からなる有限集合{λ1,λ2,...,λd}から選択されることとする。たとえば、電力使用量の計測値が0W以上200W未満であれば状態は100W、200W以上400W未満であれば状態は300Wと、適切にしきい値を導入することとする。次に、需要家iが時刻kでxi(k)=λjとなる確率をπi,j(k)と表記する。このとき、πi,j(k)の時間変化を次式の離散時間マルコフ連鎖で表現することとする。
【数1】
【0010】
上記式(1)において、p(k)は有限集合{1,2,...,P}から選択される正数であり、電力価格に対応している。Ai,p(k)は遷移確率行列、ai,p(k)は確率分布である。需要家1,2,...,nと電力価格1,2,...,Pに対して、遷移確率行列と確率分布を求めることとする。なお、遷移確率行列Ai,p(k)がゼロ行列のときのみ、確率分布ai,p(k)は適切な値をもつこととする。同様に、確率分布ai,p(k)がゼロベクトルのときのみ、遷移確率行列Ai,p(k)は適切な値をもつこととする。電力価格を大幅に高く設定変更したとき、確率分布はある分布にリセットされる場合がある。したがって、上式は電力使用量の変化を適切に表現した数理モデルとなっている。なお、上式の数理モデルは、実際の電力使用量の計測データから求めることができる。
【0011】
上式の数理モデルを用いた電力価格決定方法について説明する。電力価格を調整することで、需要家の総電力使用量を目標とする電力使用量に近づけることを考える。すなわち、次の価格決定問題を考える。
【0013】
上記式(2)の価格決定問題では、評価関数Jを最小化する電力価格の時系列を求めている。評価関数Jは現時刻から未来の電力使用量や電力価格を評価している。Nはどこまでの未来を考慮するかを決めるパラメータである。評価関数Jの第1項は、総電力使用量の期待値と目標値x
*の差の絶対値の時系列に重みqを掛けている。第2項は、電力価格p(k)と適正価格p
*の差の絶対値に重みrを掛けている。重みq、rを適切に選定することで、総電力使用量を調整することができる。
【0014】
価格決定問題を解くために、0−1変数を用いる。すなわち、p(k)がiのときは、δi(k)=1、そうでなければδi(k)=0と定義する。このとき、価格決定問題は混合整数線形計画問題に帰着される。
【0015】
各需要家に対する遷移確率行列Ai,p(k)および確率分布ai,p(k)が同じ場合、電力使用量の時間変化はd通りしか存在しない。したがって、価格決定問題は、需要家数nに依存しない問題となる。
【0016】
電力価格は以下の手順に従って求めることができる(
図1参照)。
ステップ1: 需要家のスマートメータから電力利用量の計測データを受信する。
ステップ2: 計測データおよび切替型離散時間マルコフ連鎖モデルを用いて価格決定問題を解き、電力価格を決定する。
ステップ3: スマートメータなどを用いて、電力価格を需要家に提示する。
ステップ4: 一定時間経過後、ステップ1に戻る。
なお、ステップ3では価格の時系列p(0),p(1),...,p(N-1)ではなく、p(0)のみを需要家に提示する。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明の方法は、再生可能エネルギーが大量導入された社会における、エネルギー管理システムの基盤技術の一つとして期待される。