【課題】 水性インキ組成物と水性ワニス組成物とを用いた印刷方法であって、乾燥性、光沢値、耐摩擦性、密着性に優れた印刷物を得るための印刷方法を提供する。また、本発明の印刷方法に適した、光沢値、耐摩擦性、密着性に優れた印刷物を得るための水性インキ組成物および水性ワニス組成物を提供する。
【解決手段】 基材上に水性インキ組成物を用いて水なし平版印刷方法で印刷層を形成する印刷工程と、印刷層上に水性ワニス組成物を用いてオーバーコート層を形成する被覆工程と、を備える印刷方法。
前記被覆工程は、平版印刷ユニットを用いる方式、ロール式、チャンバー式、グラビア式、フレキソ式のいずれかにより行われることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の印刷方法。
前記被覆工程は、平版印刷ユニットを用いて、相対湿度70%以上の環境下で行われることを特徴とする請求項1乃至9、11乃至13のいずれか一項に記載の印刷方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の印刷方法は、水性インキ組成物により基材上に印刷層を設ける工程と、水性ワニス組成物により印刷層上にオーバーコート層を設ける工程と、を少なくとも含む。
【0015】
<組成物>
本発明の印刷方法の説明に先立ち、本発明の印刷方法に用いられる組成物について説明する。
【0016】
1.水性インキ組成物
本発明の印刷方法に用いられる水性インキ組成物は、顔料と、水分散性樹脂と、水とを含む水性インキ組成物であれば特に限定されないが、以下のいずれかの水性インキ組成物を用いることが好ましい。
(1)顔料と、水分散性樹脂と、水溶性有機溶媒と、水とを含む水性インキ組成物
(2)顔料と、水分散性樹脂と、有機溶媒と、水とを含む水性インキ組成物
(3)顔料と、水分散性樹脂と、水溶性有機溶媒と、有機溶媒と、水とを含む水性インキ組成物
【0017】
さらに上記の(1)〜(3)の組成の水性インキ組成物において、水分散性樹脂の質量を(A)、水溶性有機溶媒を(B)としたときに、質量比〔(A)/(B)〕が0.8以上2.2以下であることが好ましい。また、水性インキ組成物中に含まれる水の質量を(C)としたとき、水溶性有機溶媒の質量との関係〔(B)/(C)〕が、0.8以上2.5以下であることが好ましい。このような水性インキ組成物は、水なし平版印刷に特に好適に用いられる。以下、(1)〜(3)の組成の水性インキ組成物に用いる材料について詳述する。
【0018】
1.1 顔料
顔料としては特に限定されず、種々の無機顔料及び有機顔料を用いることができる。
無機顔料としては硫酸バリウム、酸化チタン、亜鉛華、弁柄、アルミナホワイト、炭酸カルシウム、群青、カーボンブラック、グラファイト、アルミニウム粉等が用いられる。
【0019】
有機顔料としては、溶性アゾ顔料(アゾレーキ顔料)、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、銅フタロシアニン顔料、無金属フタロシアニン顔料、縮合多環顔料、及び酸性若しくは塩基性染料のレーキ顔料が挙げられる。
【0020】
有機顔料を例示すれば、溶性アゾ顔料(アゾレーキ顔料)としてはアセト酢酸アニリド系、ピラゾロン系、β−ナフトール系、β−オキシナフトエ酸系及びβ−オキシナフトエ酸アニリド系が挙げられる。前記の不溶性アゾ顔料としてはアセト酢酸アニリド系モノアゾ、アセト酢酸アニリド系ジスアゾ、ピラゾロン系モノアゾ、ピラゾロン系ジスアゾ、β−ナフトール系、β−オキシナフトエ酸アニリド系モノアゾ及びβ−オキシナフトエ酸アニリド系ジスアゾが挙げられる。前記の縮合アゾ顔料としてはアセト酢酸アニリド系及びβ−オキシナフトエ酸アニリド系が挙げられる。前記の銅フタロシアニン顔料としては銅フタロシアニン、ハロゲン化銅フタロシアニン及びスルホン化銅フタロシアニンレーキが挙げられる。前記の縮合多環顔料としてはアントラキノン系、ペリレン系、ペリノン系、キナクリドン系、チオインジゴ系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系及び金属錯体系等の顔料が挙げられる。
【0021】
1.2 水分散性樹脂
水分散性の樹脂としては水分散性、或いは水溶性の合成樹脂であれは特に限定されないが、水分散性或いは水溶性のアクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、スチレンマレイン酸樹脂、α−オレフィンマレイン酸樹脂、ポリエステル樹脂(アルキド樹脂も含む)、ポリウレタン樹脂が好ましく用いられ、これらの樹脂からなる群から任意に選ばれる1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
アクリル樹脂は、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルから選ばれる1種以上のアクリルモノマーを付加重合して得ることができる。水酸基、エポキシ基、アミノ基等の官能基を分子構造中に有するコモノマーを用いることもできる。酢酸ビニル、塩化ビニル等のビニルモノマーと共重合してもよい。良好なインキ保存安定性、高速印刷適性が得られることから、アクリル樹脂の重量平均分子量は3000以上100000以下であることが好ましい。
【0023】
得られたアクリル樹脂を水溶化又は水分散化するには、アクリル酸、メタクリル酸等の酸基含有モノマーを共重合した後に、塩基性化合物で中和することが必要である。アクリル樹脂の酸価は30以上350以下であることがインキ保存安定性の点で好ましい。或いは、分子内にポリオキシアルキレン骨格を有するモノマー類を共重合させて、ポリオキシアルキレン構造を導入することにより水溶化又は水分散化することもできる。
【0024】
重合した樹脂を水溶化又は水分散化するために用いる塩基性化合物としては、モノエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、N−エチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、ジエチルプロパノールアミン、N−n−ブチルエタノールアミン、N−t−ブチルエタノールアミン、N−n−ブチルジエタノールアミン、N−t−ブチルジエタノールアミン、4−アミノ−1−ブタノール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、N−(β−アミノエチル)エタノールアミン、N−(β−アミノエチル)イソプロパノールアミン、シクロヘキシルジエタノールアミン、ベンジルジエタノールアミン、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化バリウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム等が挙げられる。
以下に挙げる樹脂についても、同様の手法で水溶化又は水分散化することができる。
【0025】
スチレンアクリル樹脂は、上記アクリルモノマーと、スチレンとを共重合して得ることができる。スチレンアクリル樹脂の酸価は30以上350以下であることがインキ保存安定性の点で好ましい。良好なインキ保存安定性、高速印刷適性の点から、重量平均分子量は5,000以上100,000以下であることが好ましい。
【0026】
スチレンマレイン酸樹脂は、スチレンと無水マレイン酸を必須のモノマーとして、共重合して得られる樹脂である。他のモノマーを一部共重合することもできる。また、必要に応じて、さらに、水酸基含有化合物やアミノ基含有化合物で一部変性してもよい。酸無水物基又は変性後の酸基の一部又は全部を塩基性化合物で中和することにより水溶性又は水分散性樹脂を得ることができる。酸価は30以上450以下であることがインキ保存安定性の点で好ましい。重量平均分子量は5,000以上100,000以下であることが好ましい。
【0027】
α−オレインマレイン酸樹脂は、α−オレフィンと無水マレイン酸を必須のモノマーとして、共重合して得られる樹脂である。更に、他のモノマーを一部共重合することもできる。また、水酸基含有化合物やアミノ基含有化合物で一部変性してもよい。酸無水物基又は変性後の酸基の一部又は全部を塩基性化合物で中和することにより水溶性又は水分散性樹脂を得ることができる。酸価は30以上450以下であることがインキ保存安定性の点で好ましい。重量平均分子量は5,000以上100,000以下であることが好ましい。
【0028】
ポリエステル樹脂は、ポリエステル鎖の一部に親水性基を導入した樹脂、或いはカルボキシル基を有するアルキド樹脂等が挙げられる。重量平均分子量は5,000以上100,000以下であることが好ましい。
【0029】
ポリウレタン樹脂は、ポリイソシアネートと親水性基を有するアルコール成分とを反応したものが挙げられる。重量平均分子量は5,000以上100,000以下であることが好ましい。
【0030】
1.3 水溶性有機溶媒
水溶性有機溶媒としては、2価以上のポリオール化合物が好ましく用いられる。沸点が140℃以上であるものがより好ましく、20℃において水に任意の割合で溶解するものがさらに好ましい。このような水溶性有機溶媒は、良好な樹脂溶解性を有する。
【0031】
水溶性有機溶媒の具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、3−メチル1,5−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、グリセリン、ジグリセリン、アセチレンジオール、ポリエチレングリコール200、ポリエチレングリコール400、ポリエチレングリコール600等が挙げられる。これらの中でも、グリセリンが好ましい。
【0032】
また、水性インキ組成物中における水分散性樹脂の質量を(A)、水溶性有機溶媒の質量を(B)としたときに、質量比〔(A)/(B)〕が0.8以上2.2以下であることが好ましく、0.85以上2.0以下であることがより好ましい。〔(A)/(B)〕が0.8未満の場合、乾燥後のインキ皮膜中に残留する水溶性有機溶媒の比率が大きいため、表面のべたつきが残り、乾燥皮膜が得られない。このため、後述する印刷方法において水性ワニス組成物を塗布した際に、滲みが発生するおそれがある。〔(A)/(B)〕が2.2を超える場合、水性インキ組成物中の樹脂含有量が多くなり、インキ粘度及びタックが高くなりすぎて版の画線部への着肉が悪く、良好な印刷物が得られない。
【0033】
1.4 水
水としては、水道水、イオン交換水、純水等を用いることができる。水性インキ組成物中に含まれる水の質量を(C)としたとき、水溶性有機溶媒の質量との関係〔(B)/(C)〕が、0.8以上2.5以下であることが好ましく、1.0以上2.5以下であることがより好ましい。水溶性有機溶媒と水との質量比〔(B)/(C)〕が0.8未満の場合、水性インキ組成物中の水分含有量が多く、また樹脂含有量が少なすぎるため、インキ粘度及びタックが低すぎて、版の非画線部からインキが剥がれにくくなり、安定な印刷物が得られない。さらに後述する印刷方法において水性ワニス組成物を塗布した際に、滲みが発生するおそれがある。〔(B)/(C)〕が2.5を超える場合、インキ中の水分含有量が少なすぎるため、印刷中にインキ中の水分含有量が蒸発等により減少した場合にインキ粘度及びタックが増大し、安定な印刷物が得られない。
【0034】
1.5 有機溶媒
有機溶媒としては、20℃において水の溶解度が5質量%以上80質量%以下であるものが好ましい。このような有機溶媒としては、下記式(1)〜(4)に示すような化合物が好ましく用いられ、これらのうち1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
【化1】
上記式(1)〜(4)中、X
tは炭素数3〜18の飽和もしくは不飽和炭化水素基、フェニル基又はベンジル基であり、Y
tは水素原子又はメチル基であり、Z
tは水素原子又はメチル基であり、m
uは0〜15の整数であり、n
vは0〜15の整数であり、m
u+n
vは1以上である。また、上記式(1)〜(4)中、t、u及びvは1以上4以下の任意の整数である。
【0036】
このような有機溶媒の具体例として、好ましく用いられるものを例示すれば、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル又はジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノラウリルエーテル、トリエチレングリコールモノラウリルエーテル、テトラエチレングリコールモノラウリルエーテル、ペンタエチレングリコールモノラウリルエーテル、テトラエチレングリコールモノオレイルエーテル及びオクタエチレングリコールモノオレイルエーテル等が挙げられる。
【0037】
これらの中でもジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノラウリルエーテル、トリエチレングリコールモノラウリルエーテル、テトラエチレングリコールモノラウリルエーテル、ペンタエチレングリコールモノラウリルエーテルが特に好ましい。
【0038】
このような有機溶媒を含む水性インキ組成物は耐地汚れを向上させることができる。これは、上記のような有機溶媒は水との適度な溶解性により水性インキ組成物中に均一に存在するが、完全には溶解しないため、水性インキ組成物中から離脱して印刷版面へ拡散し、水性インキ組成物と印刷版面との界面に剥離層が形成され、非画線部にインキが付着しにくくなるためと考えられる。
【0039】
また、このような有機溶媒は印刷中に蒸発揮散しにくいため、水性インキ組成物の物性の変動が少なく、機上安定性が向上する。このため画線部の欠損や用紙の紙むけ(エッジピック)を軽減させることができる。
【0040】
このような有機溶媒の含有量は、1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、3質量%以上7質量%以下であることがより好ましい。これにより、耐地汚れ適性に優れた水性インキ組成物を得ることができる。
【0041】
1.6 その他の添加物
本発明の印刷方法に用いられる水性インキ組成物は、必要に応じて界面活性剤を添加してもよい。カチオン系、アニオン系、ノニオン系の界面活性剤を用いることができる。
【0042】
本発明の印刷方法で用いる水性インキ組成物には、必要に応じて、植物油、植物油由来脂肪酸エステル及び植物油を原料とするエーテルから成る群から選ばれる一つ以上を単独で又は任意に併用して配合することができる。
【0043】
植物油としては、大豆油、亜麻仁油、キリ油、ひまし油、脱水ひまし油、コーン油、サフラワー油、南洋油桐油、再生植物油、カノール油等の油類及びこれらの熱重合油、酸化重合油が挙げられる。
【0044】
植物油由来脂肪酸エステルとしては、アマニ油脂肪酸メチルエステル、アマニ油脂肪酸エチルエステル、アマニ油脂肪酸プロピルエステル、アマニ油脂肪酸ブチルエステル、大豆油脂肪酸メチルエステル、大豆油脂肪酸エチルエステル、大豆油脂肪酸プロピルエステル、大豆油脂肪酸ブチルエステル、パーム油脂肪酸メチルエステル、パーム油脂肪酸エチルエステル、パーム油脂肪酸プロピルエステル、パーム油脂肪酸ブチルエステル、ひまし油脂肪酸メチルエステル、ひまし油脂肪酸エチルエステル、ひまし油脂肪酸プロピルエステル、ひまし油脂肪酸ブチルエステル、再生植物油のエステル、南洋油桐油のエステル等が挙げられる。
【0045】
前記植物油を原料とするエーテルとしては、ジ−n−オクチルエーテル、ジ−ノニルエーテル、ジヘキシルエーテル、ノニルヘキシルエーテル、ノニルブチルエーテル、ジヘプチルエーテル、ジデシルエーテル、ノニルオクチルエーテル等が挙げられる。
【0046】
本発明の印刷方法に好ましく用いられる水性インキ組成物は、水分散性樹脂を含有するワニスを調整し、次にそのワニスおよび顔料その他の原料を混合し、ロールミル等の練肉分散機を用いて製造される。
【0047】
2.水性ワニス組成物
本明細書において水性ワニス組成物とは、水や、水及び水と混じり合う有機溶剤の混合溶媒、混合分散媒に、水性の樹脂を溶解又は分散させたものを主成分としたものをいう。本発明の印刷方法に用いられる水性ワニス組成物は任意のものを用いることができるが、ガラス転移温度が−10℃以上120℃以下の水性アクリル樹脂を必須成分として含むものが好ましい。さらに、シリコーン、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド及びリン酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含んでいてもよい。
【0048】
水性アクリル樹脂は、ガラス転移温度が−10℃以上120℃以下であれば好適に用いることができるが、30℃以上60℃以下であることがより好ましい。さらに、ガラス転移温度が上記の範囲内であり、且つ最低造膜温度が−5℃以上60℃以下の水性アクリル樹脂を用いることがより好ましい。以下、水性ワニス組成物に用いる材料について詳述する。
【0049】
2.1 水性アクリル樹脂
水性アクリル樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステルを主成分とし、これと、カルボキシル基含有ビニルモノマーと、これらのモノマーと共重合可能な他のビニルモノマーとを含むモノマー成分を共重合させて得られる共重合体を使用することができる。共重合体は、エマルション型樹脂、自己分散型樹脂、アルカリ可溶型樹脂及びヒドロゾル型樹脂のいずれであってもよい。
【0050】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸メチルカルビトール、(メタ)アクリル酸エチルカルビトール等が挙げられる。
【0051】
カルボキシル基含有ビニルモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸等が挙げられる。
【0052】
(メタ)アクリル酸エステル、カルボキシル基含有ビニルモノマーと共重合可能なモノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン系モノマー、アクリロニトリル、酢酸ビニル、塩化ビニル等が挙げられる。
【0053】
水性アクリル樹脂としては、重量平均分子量が100,000〜500,000のコア部と、重量平均分子量が5,000〜50,000のシェル部を有するコアシェル型水性エマルションのアクリル樹脂が好ましい。このような樹脂は、両面印刷時や、片面印刷反転時などに、圧胴に付着しにくい非付着性の皮膜を急速に形成することができる。
【0054】
さらに、水性アクリル樹脂として、上記のようなコアシェル型水性エマルションのアクリル樹脂と、重量平均分子量が5,000〜50,000の水溶性アクリル樹脂とを組み合わせて用いることがより好ましい。このような組み合わせにより、両面印刷時や、片面印刷反転時などに、より圧胴に付着しにくい皮膜を急速に形成することができる。この場合、コアシェル型水性エマルションのアクリル樹脂の固形成分80〜99質量%に対し、水溶性アクリル樹脂の固形成分が1〜20質量%となるよう混合して用いることが好ましい。
【0055】
このような水性アクリル樹脂は、水性ワニス組成物の全量に対して、15〜55質量%の割合で含まれることが好ましい。
【0056】
水性アクリル樹脂の酸価は、水性アクリル樹脂がコアシェル型エマルションである場合には20〜150であることが好ましく、水性アクリル樹脂が水溶性である場合には80〜240であることが好ましい。水性アクリル樹脂の酸価をこの範囲とすることで、水性溶媒に対する水性アクリル樹脂の溶解性や分散性を良好なものとすることができる。
【0057】
2.1 シリコーン、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、リン酸エステル
水性ワニス組成物は、シリコーン、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド及びリン酸エステルの少なくとも1種を含んでいることが好ましい。
【0058】
シリコーンとしては、無変性シリコーンオイル;カルビノール、アルキルポリエーテル、アルキルアリールポリエーテル等で変性された変性シリコーンオイル;及びそれらの水性乳化物等を使用することができる。これらの中でもアルキルポリエーテル変性のシリコーンオイルを用いることが特に好ましい。シリコーンの含有量は、全固形成分に対して0.1〜7質量%であることが好ましく、1〜5質量%であることがより好ましく、1〜3質量%であることがさらに好ましい。シリコーンを添加することにより、耐ブロッキング性に優れた印刷物を得ることができる。シリコーンの含有量が0.1質量%未満である場合には、棒積み時における印刷面同士のブロッキングを防止する効果が薄くなる。一方その含有量が7質量%を超えると印刷物の滑り性が過度になり、後加工適性が悪化し、オーバーコート層にハジキが発生する等の悪影響が顕著となる。
【0059】
脂肪酸エステルとしては、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸、リシノレン酸、エチルヘキサン酸、トリエチルヘキサン酸等の低級又は高級脂肪酸と、プロピルアルコール、ブチルアルコール、オクチルアルコール、ステアリルアルコール、コレステリルアルコール等の低級又は高級アルコールとのエステルが挙げられる。中でも炭素原子数6以上の脂肪酸と、炭素数4以上のアルコールとのエステルが好ましい。脂肪酸エステルの含有量は、全固形成分に対して0.1〜8質量%であることが好ましい。脂肪酸エステルを添加することにより、耐ブロッキング性、耐熱性、耐水性、後加工性に優れた印刷物を得ることができるが、脂肪酸エステルの含有量が0.1質量%未満では、棒積み時における印刷面同士のブロッキングを防止する効果が薄くなる。8質量%を超えると、印刷面の耐ブロッキング性、耐熱性、耐水性、後加工性が悪化する。
【0060】
脂肪酸アミドとしては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、エチルヘキサン酸、トリエチルヘキサン酸等の高級脂肪酸と、アンモニア、1級又は2級のアミンとの反応により得られるアミドが挙げられる。脂肪酸アミドの含有量は、全固形成分に対して0.1〜8質量%であることが好ましい。これにより、耐ブロッキング性、耐熱性、耐水性、後加工性が優れた印刷物を得ることができる。
【0061】
リン酸エステルとしては、炭素原子数1〜30のアルキル基を有するリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルのリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルのリン酸エステル、及びこれらの乳化物又はアルカリ中和物等を用いることができる。これらの中でも、炭素原子数1〜20のアルキル基を有するリン酸エステルが好ましく、炭素原子数4〜13のアルキル基を有するリン酸エステルがより好ましく、炭素原子数8〜13のアルキル基を有するリン酸エステルがさらに好ましい。リン酸エステルの含有量は、全固形成分に対して0.01〜8質量%であることが好ましく、0.05〜6質量%であることがより好ましく、0.5〜3質量%であることがさらに好ましい。リン酸エステルの添加により、金属面に対しての剥離性が向上するため、金属ローラーによるプレス加工時などに不具合が生じにくくなるなど後加工性が向上するが、8質量%を超えると印刷物の滑り性が過度になりすぎ、後加工性が悪化する。
【0062】
2.3 その他の構成材料
水性ワニス組成物に用いられる溶媒、分散媒としては、水;メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のグリコールモノエーテル等或いはそのエステル類;及びグリコールジエーテル類等が挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、2種類以上を併用して用いてもよい。
【0063】
水性ワニス組成物は、上記成分以外に必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。着色剤、ワックス、高沸点溶剤、界面活性剤、消泡剤等を、適当量含みうる。
【0064】
<印刷方法>
次に、本発明の印刷方法について説明する。本発明の印刷方法は、上記したような水性インキ組成物により基材上に印刷層を設ける印刷工程と、水性ワニス組成物により印刷層上にオーバーコート層を設ける被覆工程と、を少なくとも含む。
【0065】
3.1 印刷工程
印刷工程では、基材上に上述したような水性インキ組成物を用いて印刷層を形成する。基材としては、オフセット印刷に用いられる各種原反が挙げられる。
【0066】
本発明の印刷方法で使用する印刷装置は、印刷層を形成するための水なし平版印刷ユニットと、印刷ユニットの下流側に設けられる、水性ワニス組成物を塗布するためのインラインコーターユニットとを備える印刷機である。水なし平版印刷ユニットとしては、オフ輪印刷機や平版枚葉印刷機が例示される。コーターユニットとしては、アロニックスロールや二軸ロール等のロール式、チャンバー式、グラビア式、フレキソ式等の各種コーターが例示される。水性ワニス組成物の塗布は、これらのコーターユニットに換えて平版印刷ユニットを用いて行ってもよい。
【0067】
なお、水性ワニス組成物の粘度は、塗布方法に応じて以下のように調整しておくことが好ましい。すなわち、印刷機の壺に水性ワニス組成物を入れて、版面、ブランケットへとオフセットさせてコーティングする場合(平版印刷ユニットを用いる場合)には、水性ワニス組成物の粘度が200〜4000dPa・s(B型粘度計(25℃))となるよう調整しておくことが好ましい。ロールコーター、フレキソコーター、グラビアコーターで塗布する場合には、ザーンカップ4番で10〜30秒となるよう粘度を調整しておくことが好ましい。チャンバーコーターで塗布する場合には、ザーンカップ4番で5〜25秒となるよう粘度を調整しておくことが好ましい。
【0068】
平版印刷機を用いて印刷層を形成することで、印刷層の膜厚を2μm以下と薄くすることができ、水性インキ組成物を用いて形成された印刷層上に水性ワニス組成物を用いてオーバーコート層を形成したとしても、印刷物の滲みを抑制することができる。
【0069】
印刷装置は、印刷ユニットの下流側であり、かつコーターユニットの上流側に第1乾燥ユニットを備えていてもよい。また、印刷装置はコーターユニットの下流側に第2乾燥ユニットをさらに備えていてもよい。第1乾燥ユニットは、印刷ユニットから送られてきた印刷用紙上に形成された印刷層を、乾燥又は半乾燥の状態にする。第2乾燥ユニットは、印刷層上に形成されたオーバーコート層を乾燥させる。これらの乾燥ユニットとしては、近赤外線式、遠赤外線式、熱風方式のいずれも好ましく用いられる。ここでは、印刷ユニットと、第1乾燥ユニットと、コーターユニットと、第2乾燥ユニットとを備える印刷装置を例に挙げて本発明の印刷方法の一例を説明する。
【0070】
印刷機の給紙部から供給された印刷用紙は、まず印刷ユニットに送られ、水性インキ組成物で印刷され、これにより印刷用紙上に印刷層が形成される。印刷層が形成された印刷用紙は、第1乾燥ユニットに送られる。
【0071】
3.2 第1乾燥工程
第1乾燥工程では、50〜120℃に保たれた第1乾燥ユニットが、印刷用紙を搬送しながら印刷層を乾燥又は半乾燥の状態にする。第1乾燥ユニットを通過した印刷用紙は、コーターユニットに送られる。
【0072】
3.3 被覆工程
被覆工程では上述したような水性ワニス組成物を用いてオーバーコート層を形成する。具体的には、印刷機の下流側に付設されたコーターを用いて、水性ワニス組成物を印刷層上に塗布していく。このとき、1回の塗布で形成されるオーバーコート層の膜厚が1〜10μm程度になるよう調整することが好ましい。オーバーコート層の膜厚が1〜4μmで形成した場合は、乾燥性と耐摩擦性とを両立させることができる。4〜10μmとした場合は、1〜4μmとした場合よりも乾燥性は劣るが実用上は問題なく、耐摩擦性をさらに向上させることができる。よりオーバーコート層の膜厚を厚くしたい場合は、印刷機にコーターユニットを複数設けるなどして被覆工程を複数回(例えば2回)繰り返してもよい。オーバーコート層が形成された印刷用紙は、第2乾燥ユニットに送られる。
【0073】
3.4 第2乾燥工程
第2乾燥工程では、50〜120℃に保たれた第2乾燥ユニットが、印刷用紙を搬送しながらオーバーコート層を乾燥させる。また、第1乾燥工程において印刷層が半乾燥であった場合、第2乾燥工程でオーバーコート層とともに乾燥される。第2乾燥ユニットを通過した印刷用紙は排紙部に排紙される。以上の工程により、印刷物が得られる。
【0074】
本発明の印刷方法によれば、印刷インキ組成物も、オーバーコート層を形成するためのワニス組成物も水性であるので、印刷過程におけるVOCの発生を抑制しつつ、耐摩擦性に優れた印刷物を得ることができる。また、印刷インキ組成物、ワニス組成物のいずれも水性であるので、乾燥工程を設けたとしても乾燥に必要なエネルギーが少なくて済む。
【0075】
本発明の印刷方法に用いられる水性インキ組成物、水性ワニス組成物はそれぞれ、任意のものを用いることができることは既に述べたが、これらのなかでも上述したような水性インキ組成物と水性ワニス組成物とを用いて印刷することが好ましい。
【0076】
中でも、上述した水性インキ組成物のうち、水分散性樹脂としてアクリル樹脂またはスチレンアクリル樹脂を用いた水性インキ組成物と、上述した水性ワニス組成物とを用いて印刷することが好ましい。これらの水性インキ組成物と水性ワニス組成物とを用いることにより、オーバーコート層を形成する際に、印刷層上で水性ワニス組成物がはじかれることを抑制することができる。また、これらの水性インキ組成物と水性ワニス組成物とを用いることにより、印刷層とオーバーコート層との密着性がよく、耐摩擦性に優れた印刷物を得ることができる。
【0077】
また、上述した水性インキ組成物のうち、水分散性樹脂の質量(A)と、水溶性有機溶媒の質量(B)とが、〔(A)/(B)〕=0.8以上2.2以下であり、水溶性有機溶媒の質量(B)と水の質量(C)とが、〔(B)/(C)〕=0.8以上2.5以下であるインキを用い、水性ワニス組成物としてガラス転移温度が30℃以上60℃以下の水性アクリル樹脂を含むものを用いて印刷することが好ましい。これにより、印刷物の乾燥性、光沢、耐摩擦性、印刷層とオーバーコート層の密着性にバランスよく優れた印刷物を得ることができる。
【0078】
また、上述した水性インキ組成物のうち、水分散性樹脂の質量(A)と、水溶性有機溶媒の質量(B)とが、〔(A)/(B)〕=0.8以上2.2以下であり、水溶性有機溶媒の質量(B)と水の質量(C)とが、〔(B)/(C)〕=0.8以上2.5以下であるインキを用い、水性ワニス組成物としてガラス転移温度が−10℃以上30℃以下の水性アクリル樹脂を含むものを用いて印刷することが好ましい。これにより、印刷物の乾燥性、光沢、耐摩擦性に特に優れた印刷物を得ることができる。
【0079】
また、上述した水性インキ組成物のうち水分散性樹脂の質量(A)と、水溶性有機溶媒の質量(B)とが、〔(A)/(B)〕=0.8以上2.2以下であり、水溶性有機溶媒の質量(B)と水の質量(C)とが、〔(B)/(C)〕=0.8以上2.5以下であるインキを用い、水性ワニス組成物としてガラス転移温度が60℃以上120℃以下の水性アクリル樹脂を含むものを用いて印刷することが好ましい。これにより、印刷物の光沢、耐摩擦性、印刷層とオーバーコート層の密着性に特に優れた印刷物を得ることができる。
【0080】
<変形例>
以下、本発明の印刷方法の変形例について説明する。
【0081】
(変形例1)
上記実施形態では、平版印刷機とコーターとが一体となったインライン方式を例に挙げて説明したが、本発明の印刷方法はこれに限定されない。印刷機とは別にコーティング作業を行うオフラインコーターで被覆工程を行ってもよい。このとき、コーターの種類はロール式やチャンバー式、グラビア式、フレキソ式等いずれの方式であってもよい。コーターに換えて平版印刷機で水性ワニス組成物を塗布してもよい。
【0082】
(変形例2)
上記の実施形態では、第1乾燥工程と第2乾燥工程とを含む印刷方法について説明したが、本発明の印刷方法はこれに限定されない。第1乾燥ユニットを備えない印刷機を用いるなどして、第1乾燥工程を省略してもよい。本発明の印刷方法においては、印刷インキ組成物、ワニス組成物のいずれも水性であるので、第2乾燥工程のみを実施した場合であっても先に印刷された印刷層の乾燥が妨げられることなく、印刷層とオーバーコート層の乾燥を行うことができる。第2乾燥工程のみを備える場合、第2乾燥ユニットは印刷装置と一体となっていてもよいし、別の装置で第2乾燥工程を実施してもよい。また、第1乾燥工程を省略した場合であっても、自然乾燥などにより印刷物を乾燥させてから被覆工程に移ってもよい。
【0083】
(変形例3)
本発明の印刷方法は、被覆工程の後に、プレス板を加熱圧着してオーバーコート層の表面の平滑度を高める加熱圧着工程を有していてもよい。これにより、より高光沢な印刷物とすることができる。
【0084】
(変形例4)
本発明の印刷方法は、70%RH(相対湿度)以上に維持された状態で印刷工程を行うことが好ましく、80〜100%RHに維持された状態で行うことがより好ましい。これにより、印刷過程における印刷インキ組成物の物性の変動を抑制することができ、安定して高品質の印刷を行うことができる。また、上記のような条件で印刷工程を行うために、印刷機は、被覆部材と加湿部材とを備えていることが好ましい。被覆部材は印刷機を完全に密閉していなくてもよく、具体例としてビニールシートやプラスチックケース等が挙げられる。加湿部材は少なくとも水供給部、加湿器及び加湿センサーを備えることが好ましい。加湿部材が備える加湿器としては、水を加熱せずに加湿するものが好ましく用いられ、気化式加湿器や超音波加湿器等が例示される。なかでも超音波加湿器であることが好ましい。
【0085】
(変形例5)
本発明の印刷方法において、平版印刷ユニットで被覆工程を行う場合には、相対湿度が70%RH以上に維持された状態で被覆工程を行うことが好ましく、80〜100%RHに維持された状態で行うことがより好ましい。これにより、被覆工程における水性ワニス組成物の物性に変動を抑制することができ、安定して高品質の印刷を行うことができる。このような条件で被覆工程を行うための印刷機は、変形例4と同様のものを用いることができる。
【0086】
<印刷物>
本発明の印刷方法によって得られた印刷物は、耐摩擦性に優れた高光沢な印刷物とすることができる。
【実施例】
【0087】
以下、実施例と比較例により本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、以下の実施例において部及び%は特に断りのない限り質量基準である。
【0088】
1.水性インキ組成物の調整
1.1 水分散性樹脂の合成
還流冷却器、攪拌機、温度計、滴下ロート及び窒素導入管を備えた反応容器に、イソプロピルアルコール500部を仕込んで撹拌を開始し、80℃まで昇温した。ここに窒素気流下で、スチレン100部、メチルメタクリレート160部、ブチルアクリレート140部、アクリル酸100部及びt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート30部を5時間かけて連続滴下した。80℃で2時間攪拌後、イソプロピルアルコールを減圧脱溶剤にて留去することにより固形アクリル樹脂を得た。この固形アクリル樹脂の酸価は156mgKOH/gであった。
【0089】
1.2 ワニスの調整
1.1で調整した固形アクリル樹脂を用い、表1に示す組成でワニス1−3を調整した。なお、表中のDMEAはジメチルメタノールアミンを表す。
【0090】
【表1】
【0091】
1.3 水性インキ組成物の調整
1.2で調整したワニスを用い、表2に示す組成で水性インキ組成物1−5を調整した。なお、顔料はFASTOGEN BLUE FDB15(DIC株式会社製)を用い、有機溶媒はトリプロピレングリコールモノブチルエーテルを用いた。
【0092】
【表2】
【0093】
2.オーバーコート層形成用ワニス組成物の調整
2.1 水性ワニス組成物の調整
表3に示す組成で水性ワニス組成物1−3を調整した。なお、表3の水性アクリル樹脂A−Cの組成は以下の通りである。
【0094】
(水性アクリル樹脂A)
アクリル酸、α−メチルスチレン、スチレン、アクリル酸2−エチルヘキシルをモノマー成分とするコアシェル型水性アクリル樹脂エマルションであり、その不揮発分は45%、酸価は51、ガラス転移温度は56℃、重量平均分子量はシェル部が10,000、コア部が200,000である。
(水性アクリル樹脂B)
アクリル酸、α−メチルスチレン、スチレン、アクリル酸エチルカルビトール、アクリル酸ヘキシルをモノマー成分とするコアシェル型水性アクリル樹脂エマルションであり、その不揮発分は45%、酸価は82、ガラス転移温度は25℃、重量平均分子量はシェル部が8,000、コア部が400,000である。
(水性アクリル樹脂C)
アクリル酸、スチレン、α−メチルスチレンをモノマー成分とする水溶性アクリル樹脂であり、不揮発分33%、酸価150、ガラス転移温度76℃、重量平均分子量は10,000である。
【0095】
【表3】
【0096】
2.2 油性ワニス組成物の調整
ロジン変性フェノール樹脂36部、大豆油17部、石油系溶剤44部、固形パラフィン2部、四フッ化エチレン樹脂1部を用いて、油性ワニス組成物を調整した。
【0097】
3.印刷
上記1、2で調整した水性インキ組成物、ワニス組成物を用いて印刷し、実施例1−7、比較例1、2の印刷物を得た。
【0098】
(実施例1)
印刷版を水なし版TAC(東レ(株)製)、印刷機をローランドR704(ローランド社製)、用紙をOKトップコート+(王子製紙(株)製)とし、調整した水性インキ組成物1を用い、印刷速度1万枚/時にて印刷を行った。引き続いて、水性ワニス組成物1をバーコーター#6にて塗布し、60℃に設定した熱風方式の乾燥機で20秒間乾燥してオーバーコート層を形成し、実施例1の印刷物を得た。
【0099】
(実施例2)
水性インキ組成物1に換えて、水性インキ組成物2を用いた以外は実施例1と同様にして実施例2の印刷物を得た。
(実施例3)
水性インキ組成物1に換えて、水性インキ組成物3を用いた以外は実施例1と同様にして実施例3の印刷物を得た。
(実施例4)
水性インキ組成物1に換えて、水性インキ組成物4を用いた以外は実施例1と同様にして実施例4の印刷物を得た。
(実施例5)
水性インキ組成物1に換えて、水性インキ組成物5を用いた以外は実施例1と同様にして実施例5の印刷物を得た。
【0100】
(実施例6)
水性ワニス組成物1に換えて、水性ワニス組成物2を用いた以外は実施例1と同様にして実施例6の印刷物を得た。
(実施例7)
水性ワニス組成物1に換えて、水性ワニス組成物3を用いた以外は実施例1と同様にして実施例7の印刷物を得た。
【0101】
(比較例1)
水性ワニス組成物の塗布を省略した以外は実施例1と同様にして比較例1の印刷物を得た。
(比較例2)
水性ワニス組成物1に換えて、油性ワニス組成物を用いた以外は実施例1と同様にして比較例2の印刷物を得た。
【0102】
4.評価
実施例1−7、比較例1、2の印刷物について、以下の方法で評価を行い、評価結果を表4、5にまとめた。
【0103】
4.1 乾燥性
印刷物を触診にて判定した。オーバーコート層または印刷層に触れた際にベタつきがなく、指で表面を擦っても抵抗感がないレベルを5、指で表面を擦ると若干の抵抗感があるがベタつきはないレベルを4、指で表面を擦ると抵抗感があるがベタつきはなく実用上問題ないレベルを3、ベタつきがあり、指で擦ると跡が残るレベルを2、ベタつきがあり、指で擦ると塗膜が付着するレベルを1として、5段階で評価した。
【0104】
4.2 光沢
印刷物の光沢値を、BYK Gardner社製micro−TRI−gloss光沢計(入射/反射=60°/60°)を用いて測定した。
【0105】
4.3 耐摩擦性
得られた印刷物を完全に乾燥させた後、学振型摩擦試験機を用い、あて紙を上質紙、荷重を500g、摩擦回数500回にて試験を行い、オーバーコート層または印刷層の状態を判定することで印刷物の耐摩擦性を評価した。オーバーコート層に全く傷がないレベルを5、オーバーコート層に若干の傷があるレベルを4、オーバーコート層に傷はあるが、印刷層に到達しない程度であるレベルを3、印刷層に到達する程度の傷があるが、実用上問題ないレベルを2、印刷層の大部分に傷があり、実用レベルにないものを1として、5段階で評価した。
4.4 密着性
得られた印刷物を完全に乾燥させた後、下地に画線部がある部分にセロハンテープを貼り、剥がした際のオーバーコート層の剥離の程度を目視にて観察し、印刷層とオーバーコート層の密着性を評価した。剥離が全くないレベルを5、剥離がほぼないレベルを4、部分的な剥離はあるが実用上問題ないレベルを3、大部分が剥離し実用レベルにないものを2、完全に剥離するレベルを1として、5段階で評価した。
【0106】
【表4】
【0107】
【表5】
【0108】
表から明らかなように、本発明の印刷方法による印刷物は、乾燥性、光沢値、耐摩擦性のいずれにも優れた印刷物を得られた。