【実施例】
【0035】
次に実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものでは無い。以下において、特に断りのない限りは、「部」、「%」は、すべて「重量部」、「重量%」を意味するものとする。
【0036】
<紫外線硬化型下刷りワニス(下刷りワニス−D1)の調製>
炭酸マグネシウム5.0部、エポキシアクリレート40.0部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート27.0部、EO変性トリメチロールプロパントリアクリレート15.0部、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン8.0部、シリコーンアクリレート5.0部を手で簡単に混合した後、3本ロールミルで粒径が10ミクロン以下になるまで錬肉した。粘度はTV5〜7になるように調整した。
【0037】
<酸化重合型の油性下刷りワニス(下刷りワニス−D2)の調製>
炭酸カルシウム20.0部、ロジン変性フェノール樹脂30.0部、植物油25.0部、軽油25.0部を手で簡単に混合した後、3本ロールミルで粒径が10ミクロン以下になるまで錬肉した。粘度はTV9〜11になるように調整した。
【0038】
<水性紫外線硬化型オーバープリントワニス(上刷りワニス−U1)の調製>
ガラス転移点(Tg)が−80℃、平均粒子径1.5μmの水系脂肪族ポリウレタンディスパージョン27.0部、水54.0部、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド(HEAA)17.5部、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)0.5部の配合で混合し、ミキサーを使用して撹拌分散し、更に2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル-プロパン−1−オン(DAROCUR1173)1.0部を添加し、完全に溶解させることで、上刷りワニス−U1を調製した。尚、A:ポリウレタンディスパージョンとC:N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド(HEAA)の重量比A/C=1.54である。
【0039】
<水性紫外線硬化型オーバープリントワニス(上刷りワニス−U2〜U6)の調製>
原材料を表1に示す配合で混合し、ミキサーを使用して撹拌分散し、光重合開始剤を完全に溶解させることで、上刷りワニス−U1と同様の方法で調製し、各々について、A:ポリウレタンディスパージョンとC:N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド(HEAA)の重量比A/Cを記載した。
【0040】
【表1】
原料A:平均粒子径約1.5μmのウレタン樹脂を含む脂肪族ポリウレタンディスパージョンの固形分
原料B:水
原料C:N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド(HEAA)
原料D:トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)
原料E:2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル-プロパン−1−オン(DAROCUR1173)
【0041】
また、上刷りワニス−U1〜U6とは別に、紫外線硬化型エンボスクリアによる上刷りワニス−C1及びC2を下記の調整を経て準備した。
【0042】
<紫外線硬化型エンボスクリア(上刷りワニス−C1)の調製>
ポリエステルアクリレート60.0部、EO変性トリメチロールプロパントリアクリレート30.0部、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン10.0部をミキサーを使用して混合、溶解して調整した。粘度はザーンカップ粘度(#4)で35秒程度に調整した。
【0043】
<紫外線硬化型エンボスクリア(上刷りワニス−C2)の調製>
アミン変性ポリエステルアクリレート50.0部、EO変性トリメチロールプロパントリアクリレート40.0部、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン10.0部をミキサーを使用して混合、溶解して調整した。粘度はザーンカップ粘度(#4)で35秒程度に調整した。
【0044】
尚、平均粒子径測定法としては、日立製作所製操作型電子顕微鏡S−3400Nを用いて測定した度数分布の状況から算出した。
【0045】
<本発明の印刷物の作製>
ローランド700印刷機を用いA全サイズの印刷物を作製し、はじき効果と上刷り層によるソフトなしっとりとした手触り効果、及び印刷作業で重要となる棒積み適性を確認した。まず、印刷ユニットを用い下刷りのカラーインキとしてDICグラフィックス(株)製「ダイキュアアビリオプロセス墨」にて(
図2)に示す墨ベタ部を印刷した後、胴間UVランプを使用して硬化させた。その後インラインで印刷ユニットを用い下刷り層を(
図3)に示す様に印刷し、未硬化のままで水性紫外線型オーバープリントワニス、あるいは紫外線硬化型エンボスクリアを印刷機のコーターを用いて(
図4)に示す要領で塗工した。胴間UVランプには空冷120w/cmメタルハライドランプを1灯使用し、デリバリのUVランプには空冷120w/cmメタルハライドランプを2灯使用した。
印刷スピードは8,000枚/時で行った。上塗り層を塗工する際にコーターユニットで使用するアニロックスローラーとしては、200線/inch、セルボリューム13.0gのものを使用した。下刷りの墨ベタ画像や、下刷りニス部分の転写に用いる印刷ユニットに装着するブランケットとしては、UVオレンジ(DAY社製)を使用した。水性紫外線硬化型オーバープリントワニスは常温塗工した。紫外線硬化型エンボスクリアは液温を40℃まで加温して塗工した。湿し水のH液はソライヤ507(光陽化学製)を水道水で希釈した2%濃度で使用した。用紙はOKトップコート+(57.5kg/A全)を使用した。印刷枚数は4,000枚とした。
【0046】
<評価方法>
(印刷物の評価方法1:動摩擦係数の測定)
動摩擦係数の測定は、ASTMD1894−90(同一材料または他の材料の上を滑らせたときのプラスチックフィルムおよびシートの摩擦係数を測定するための試験条件)に準拠し、Stable MicroSystems社製の装置を用いて測定した。
接触面は63.5mmX63.5mm、加重は200g、表面は装置標準のフエルト地、引っ張り速度は 2mm/s及び20mm/sの2点で行った。
動摩擦係数上昇率の算出方法は、100×(20mm/s時の動摩擦係数−2mm/s動摩擦係数)/2mm/時の動摩擦係数とした。尚、印刷物の測定箇所は、下塗り層と上塗り層が重ならない平滑部分である(
図1)に示す図符号7とした。
尚、下地のUVインキによる印刷物のベタ部と水性紫外線硬化型オーバープリントワニスによる上刷り層が重なる部分(図符号7)と、印刷物の非画線部と水性紫外線硬化型オーバープリントワニスによる上刷り層が重なる部分(図符号6)との間に、20mm/s時、2mm/s時共にその動摩擦係数に差異が認められなかった為、UVインキによる印刷物のベタ部と水性紫外線硬化型オーバープリントワニスによる上刷り層が重なる部分(図符号7)を測定箇所とした。
【0047】
(印刷物の評価方法2:しっとりとした手触り感)
本発明の印刷物の手触り感の評価として、下塗り層が存在しない上塗り層部分のみの部分について、被験者は、本研究と関係の無い従業員10名へのアンケート調査による評価方法を用いた。被験者は塗工面を手、指で触り、その「しっとりしたソフトな手触り感」を10人中何人感じたか集計をとり、これを評価基準とした。
◎:10人中10人がしっとり感じた。
○:10人中 7〜9人がしっとり感じた。
△:10人中 3〜6人がしっとり感じた。
×:10人中、しっとり感を感じたのは0〜2人であった。
【0048】
(印刷物の評価方法3:下塗り層による上塗り層のハジキ性)
下塗り層による上塗り層のハジキ性の良否を目視で評価した。
◎:十分ハジキ効果が発揮している。
○:ハジキ効果が発揮している。
△:ハジキ効果がみられるが十分であるとは言えない。
×:ハジキ効果が見られない。
【0049】
(印刷物の評価方法4:意匠性)
下塗り層と上塗り層が重なるセミマット部と、下塗り層が存在しない上塗り層によるマット部のコントラストの差異を目視評価し、コントラストの強いもの程、意匠性ありと評価した。
◎:明確なコントラストにより意匠性が非常に高い。
○:コントラストがあり意匠性あり。
△:ややコントラストに不足し意匠性が十分であるとは言えない。
×:殆どコントラストがなく意匠性の効果がない。
【0050】
(印刷物の評価方法5:棒積み適性)
印刷時のハンドリング面で重要となる棒積み適性について、刷了直後に棒積みの最底部の印刷物の表裏を引き剥がした際に剥離音の有無で判定した。
◎:剥離音がしない。
○:僅かに剥離音がする。
△:明瞭に剥離音がする。
×:剥がれない。
【0051】
表2に実施例1〜6、及び比較例1〜3に評価用印刷物の構成とその評価結果を示す。
【0052】
【表2】
【0053】
実施例が示す本発明の印刷物は、下刷り層と上刷り層が重なる部分の十分な弾き効果による微細な凹凸で生じるセミマット部(完全にマット部に至らない部分)と、下刷り層の存在しない上刷り層のしっとりしたソフトな手触り感を持つマット部を形成することで、視覚と感触の両面から意匠性の効果を発揮し、棒積み適性も良好でありハンドリング適性も優れる。
一般的な紫外線硬化型エンボスクリア(C1)、(C2)を用いた比較例1、2では、しっとりした手触り感は得られず、本願が目指す特異な意匠性は得られない。
酸化重合型の油性下刷りワニス(D2)を用いた比較例3では、下塗り層のハジキ効果が
充分でなく、乾燥性に劣る事から棒積み適性も劣る。