【課題】形成した塗膜や被膜が、撥水性、撥油性、離型性、移行性、基材密着性及び耐汚染性のいずれにも優れるものになる塗料やコーティング剤の材料として有用なポリシロキサン基含有重合体及びその硬化被膜の提供。
【解決手段】下記一般式(1)で表される、ヒドロキシウレタン結合を介し、片末端にエチレン性不飽和基を有するポリシロキサン化合物を、単独重合或いは他の重合性モノマーと共重合することにより得られ、かつ、重量平均分子量が10000〜1000000であることを特徴とするポリシロキサン基含有重合体。
前記共重合体を形成するための前記他の重合性モノマーが、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルからなる群から選択される少なくともいずれか1種である請求項1又は2に記載のポリシロキサン基含有重合体。
前記反応性ポリシロキサン化合物が、片末端にアミノ基を有するポリシロキサン化合物と、片末端にエチレン性不飽和基を有する、エチレン性不飽和基及び5員環環状カーボネート構造の両方を有する化合物とを反応させて得られた請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリシロキサン基含有重合体。
前記重合体或いは共重合体の全質量のうち0.1〜20質量%が、二酸化炭素由来の−O−CO−結合から構成されたものである請求項7に記載のポリシロキサン基含有重合体。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、発明を実施するための好ましい形態を挙げて本発明を詳細に説明する。本発明のポリシロキサン基含有重合体は、下記一般式(1)で表される、ヒドロキシウレタン結合を介し、片末端にエチレン性不飽和基を有する反応性ポリシロキサン化合物を、単独重合、或いは、他のアクリルモノマー等の重合性モノマーと共重合することにより得られた重合体或いは共重合体であり、且つ、重量平均分子量が10000〜1000000であることを特徴とする。以下、上記一般式(1)で表される化合物を、単に、「反応性ポリシロキサン化合物」と呼ぶ場合もある。
【0020】
[一般式(1)中、mは0〜300のいずれかの整数であり、X
1は、水酸基とウレタン結合を有する下記式(2)〜(5)から選ばれるいずれかのヒドロキシウレタン結合であり、Zは、ないか、−CH
2−O−、−O−、−O−(CH
2)
n−O−(但し、nは1〜10の整数)、−CO−O−、−CO−O−(CH
2)
n−O−(但し、nは1〜10の整数)から選ばれるいずれかである。また、R
1及びR
2は、それぞれCH
3又はHであり、同一であっても異なっていてもよく、R
3は、CH
3又は式(6)の基であり、同一であっても異なっていてもよい。また、Y
1は、構造中に、O、S又はNのいずれかの元素或いは環状構造(例えば、フェニレン基、シクロヘキシレン基など)を含んでいてもよい、炭素数1〜30の、アルキレン基又はアリーレン基又は繰り返し単位1〜300のポリエチレングリコール鎖である。Wは、炭素数1〜30のアルコキシ基、或いは、構造中に、O、S又はNのいずれかの元素或いは環状構造(例えば、フェニル基、シクロヘキシル基など)を含んでいてもよい、炭素数1〜30のアルキル基又はアリール基である。]
【0021】
[式(2)中、R
4は、H又はCH
3である。]
[式(3)中、R
4は、H又はCH
3である。]
[式(6)中、mは0〜300のいずれかの整数であり、Wは、炭素数1〜30のアルコキシ基、或いは、構造中に、O、S又はNのいずれかの元素或いは環状構造(例えば、フェニル基、シクロヘキシル基など)を含んでいてもよい、炭素数1〜30の、アルキル基又はアリール基である。]
【0022】
本発明のポリシロキサン基含有重合体の特徴は、上記した反応性ポリシロキサン化合物を重合性モノマーとし、これを単独重合或いは他の重合性モノマーと共重合してなる、重合体或いは共重合体であることにある。本発明を特徴づける反応性ポリシロキサン化合物は、その末端に反応性(重合性)のエチレン性不飽和基を有し、このエチレン性不飽和基が、水酸基とウレタン結合とを有する特定の構造の1個のヒドロキシウレタン結合を介して、ポリシロキサン構造と結合されている点を特徴とし、例えば、下記に挙げるような方法で得ることができる。すなわち、上記構成の反応性ポリシロキサン化合物は、片末端にアミノ基を有するポリシロキサン化合物と、片末端にエチレン性不飽和基を有する、エチレン性不飽和基及び5員環環状カーボネート構造の両方を有する化合物とを反応させて、前記式(2)〜(5)から選ばれる構造のヒドロキシウレタン結合を形成することで得ることができる。また、上記反応に使用する化合物が持つ5員環環状カーボネート構造は、エポキシ基と二酸化炭素から合成することができるため、本発明の反応性ポリシロキサン化合物は、化合物の構造中に、環境負荷の低減にも貢献し得る二酸化炭素を固定化してなるものとできる。以下、上記した点について詳細に説明する。
【0023】
[反応性ポリシロキサン化合物]
前記した一般式(1)で示される本発明を特徴づける反応性ポリシロキサン化合物について説明する。この化合物を特徴づける、X
1で示される化学構造、すなわち、前記一般式(2)〜(5)で示されるような水酸基とウレタン結合を有するヒドロキシウレタン結合は、下記に述べるように、5員環環状カーボネート化合物とアミン化合物との付加反応により形成することができる。5員環環状カーボネート化合物とアミン化合物との反応においては、下記に示すように、5員環環状カーボネート基の開裂が2種類あるため、2種類の構造の生成物が得られることが知られている。また、この付加反応により得られる化学構造はウレタン結合であるが、水酸基を有した特異な構造を有したものであり、特に通常のウレタン結合と区別されヒドロキシウレタン結合(或いはヒドロキシウレタン構造)と呼ばれるものである。本明細書では、ヒドロキシウレタン結合と呼んでいる。
【0025】
従来より、ポリシロキサン化合物にウレタン結合を介して不飽和基を導入した化合物は、例えば、ウレタンアクリレート化合物として報告されている。このウレタンアクリレート化合物がウレタン結合を含有することによる利点としては、機械強度、密着性、相溶性等の向上が挙げられ、本発明の重合体を特徴づける一般式(1)で示される化合物も、そのような化合物の仲間であるといえる。しかしながら、一般式(1)で示される反応性ポリシロキサン化合物は、従来のウレタン結合とは異なる前記したヒドロキシウレタン結合を有したものである点で大きく異なっている。ヒドロキシウレタン結合が、通常のウレタン結合と区別される理由は、上記に示したように、その構造中に水酸基を有することにある。これに対し、水酸基とイソシアネート基とを反応させてウレタン結合を形成する従来の合成方法では、このような化学構造を得ることはできない。本発明を特徴づける反応性ポリシロキサン化合物中に存在するヒドロキシウレタン結合は、この特有の結合を化合物の構造中に導入したことで、当該化合物は、従来のウレタン結合と同様に機械強度を向上させる効果を持つと同時に、従来の化合物では存在していなかった水酸基の効果で、十分に親水性を向上させることができる。このため、当該化合物を重合性モノマーとして用いて得られた重合体を、例えば、塗料やコーティング材等の原材料に適用することで、他の材料との相溶性の向上や、塗膜等を形成した場合における基材への密着性向上に寄与することができる。特に、通常のポリシロキサン化合物は疎水性が強い化合物であることから、水酸基の効果で親水性を向上させることができる本発明を特徴づける反応性ポリシロキサン化合物を用いて重合体とした場合のヒドロキシウレタン結合による改質効果は、より効果的に発揮される。
【0026】
本発明の重合体を形成する際に重合性モノマーとして使用する、前記一般式(1)で示される反応性ポリシロキサン化合物は、5員環環状カーボネート化合物とアミン化合物との反応を利用して合成することができる。そして、環境負荷の低減の観点から、ここで使用される5員環環状カーボネート化合物は、エポキシ化合物と二酸化炭素の反応により合成されたものであることが好ましい。その際の反応については後述する。すなわち、このようにして二酸化炭素を利用して合成した5員環環状カーボネート化合物を原材料に使用することで、得られるポリシロキサン化合物が有する、一般式(1)中に、X
1で示された、前記式(2)〜(5)から選ばれる化学構造部が有する−O−CO−結合が、原材料である二酸化炭素に由来したものとなる。この結果、1個のヒドロキシウレタン結合を有する本発明を特徴づける反応性ポリシロキサン化合物は、その構造中に二酸化炭素を多く取り込んで固定したものとなるので、この反応性ポリシロキサン化合物を重合してなる本発明の重合体を適用した製品は、環境問題への対応がされた価値あるものになる。
【0027】
上記特有の化学構造を有する本発明を特徴づける反応性ポリシロキサン化合物は、その重量平均分子量が1000〜20000のものが好ましい。また、この化合物中の水酸基量を示す水酸基価(JIS K1557)の好ましい範囲としては5〜100mgKOH/gであり、より好ましくは、5〜50mgKOH/gである。更に、本発明で使用する反応性ポリシロキサン化合物は、その原料である5員環環状カーボネート化合物を、上記したように、エポキシ化合物と二酸化炭素の反応により合成したものを用いた場合、反応性ポリシロキサン化合物の全質量のうちの0.1〜10質量%が、二酸化炭素に由来する−O−CO−結合から構成されたものになる。なお、この量はできるだけ多い方が環境対応性の点からはより好ましい。以下、上記したような特性を有する本発明を特徴づける反応性ポリシロキサン化合物を得る際に使用する成分及び製造方法等について説明する。
【0028】
<エチレン性不飽和基及び5員環環状カーボネート構造の両方を有する化合物>
本発明の重合体を構成する重合性モノマーに用いられる、上記した一般式(1)で示される反応性ポリシロキサン化合物は、例えば、末端に1個のアミノ基を有するポリシロキサン化合物と、片末端にエチレン性不飽和基を有する、エチレン性不飽和基及び5員環環状カーボネート構造の両方を有する化合物とを反応させることによって容易に得られる。まず、この際に使用される「エチレン性不飽和基と5員環環状カーボネート構造の両方を有する化合物」について説明する。このような構造の化合物としては、例えば、下記の一般式(7)又は(8)で示される化合物が挙げられ、いずれも本発明において好ましく使用できる。
【0029】
[一般式(7)及び(8)中の、R
1、R
2及びZは、前記一般式(1)中におけるこれらの記号と同義である。具体的には、Zは、ないか、−CH
2−O−、−O−、−O−(CH
2)
n−O−(但し、nは1〜10の整数)、−CO−O−、−CO−O−(CH
2)
n−O−(但し、nは1〜10の整数)のいずれかであり、また、R
1及びR
2は、それぞれCH
3又はHであり、同一であっても異なっていてもよい。また、一般式(7)中のR
4は、H又はCH
3である。]
【0030】
先に述べたように、上記一般式(7)又は(8)で示される化合物は、以下に示す式のように、対応するエポキシ化合物と、二酸化炭素との反応から合成されたものであることが好ましい。このようにして合成した一般式(7)又は(8)で示される化合物を用いることで、一般式(1)で示される反応性ポリシロキサン化合物は、その構造中に、原料として用いた二酸化炭素が取り入れられて固定化されたものとなり、これを用いた本発明の重合体もまた、二酸化炭素が取り入れて固定化された構造のものとなる。したがって、上記のように構成することで、本発明の重合体は、環境問題へ対応可能な、より価値のあるものとなる。一般式(7)又は(8)で示される化合物の具体例については後述する。
【0032】
上記したように、エポキシ化合物と二酸化炭素から、前記一般式(7)又は(8)で示されるような5員環環状カーボネート化合物を得る場合の製造条件としては、例えば、原材料であるエポキシ化合物を、触媒の存在下、0℃〜160℃の温度にて、大気圧〜1MPa程度に加圧した二酸化炭素雰囲気下で4〜24時間反応させることが挙げられる。この結果、原料に用いた二酸化炭素をエステル部位に固定化した5員環環状カーボネート化合物を得ることができる。
【0033】
上記したエポキシ化合物と二酸化炭素との反応に使用される触媒としては、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウムなどのハロゲン化塩類や、4級アンモニウム塩が好ましいものとして挙げられる。その使用量は、原料のエポキシ化合物100質量部当たり1〜50質量部が好ましく、より好ましくは1〜20質量部である。また、これら触媒となる塩類の溶解性を向上させるために、トリフェニルホスフィンなどを同時に使用してもよい。
【0034】
また、上記したエポキシ化合物と二酸化炭素との反応は、有機溶剤の存在下で行うこともできる。この際に用いる有機溶剤としては、前述の触媒を溶解するものであればいずれも使用可能である。具体的には、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどのアミド系溶剤、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶剤が、好ましい有機溶剤として挙げられる。
【0035】
エチレン性不飽和基及び5員環環状カーボネート構造の両方を有する化合物でいうエチレン性不飽和基としては、例えば、二重結合を有する、アリル基、アクリル基、メタクリル基が挙げられる。本発明においては、これらのいずれの基であってもよい。本発明で好適な、エチレン性不飽和基と5員環環状カーボネート構造の両方を1個ずつ有する化合物である、先述した一般式(7)又は(8)で示される具体的な化合物としては、例えば、以下の化合物(7−1)〜(7−8)、(8−1)、(8−2)が挙げられる。
【0037】
上記に例示した、片末端にエチレン性不飽和基を有する、エチレン性不飽和基及び5員環環状カーボネート構造の両方を有する化合物、特に、一般式(7)又は(8)で示される化合物の製造においては、必要に応じて、反応時に不飽和結合の重合を抑制するための重合禁止剤の存在下で行うこともできる。この際の、重合禁止剤として使用できる化合物に特に制限はなく、例えば、p−メトキシフェノール等のフェノール系重合禁止剤、ベンゾキノン等のキノン系重合禁止剤、2,2’−メチレン−ビス(6−tert−ブチル−4−エチルフェノール)等のヒンダートフェノール系重合禁止剤、フェノチアジン等の芳香族アミン系重合禁止剤、ジフェニルチオ尿素等の硫黄系重合禁止剤、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシル等の安定ラジカル化合物のいずれも使用可能である。
【0038】
<片末端にアミノ基を有するポリシロキサン化合物>
本発明の重合体は、一般式(1)で示される反応性ポリシロキサン化合物を重合或いは共重合してなるが、本発明を特徴づける反応性ポリシロキサン化合物は、上記した「エチレン性不飽和基及び5員環環状カーボネート構造の両方を有する化合物」と、下記で説明するような「片末端のアミノ基を有するポリシロキサン化合物」との反応物として得られる。すなわち、上記の反応の結果、その構造中に1個のヒドロキシウレタン結合を有する、ポリシロキサン鎖と、末端に重合性のエチレン性不飽和基を併せ持つ構造の、本発明を特徴づける反応性ポリシロキサン化合物となる。
【0039】
本発明で使用する、「片末端にアミノ基を有するポリシロキサン化合物」としては、従来公知の化合物を特に制限なく使用可能であるが、勿論、本発明の目的に応じて新たに合成したものも用いることができる。特に、下記に示したような構造の、片末端に1個のアミノ基を有するポリシロキサン化合物を用いることが好ましい。市場から入手できるものとしては、例えば、官能基当量2500mg/molの片末端アミノ基変性シリコーンオイル(商品名:TSF−4701、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン製)、官能基当量3000mg/molの片末端アミノ基変性シリコーンオイル(商品名:TSF−4700、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン製)等が挙げられる。これらの化合物はいずれも、下記に示した構造を有する。なお、官能基当量は、官能基であるアミノ基1モルに結合している主骨格(ポリジメチルシロキサン)の質量を意味する。
【0040】
[上記式中の、Y
1、R
3、W及びmは、前記一般式(1)中におけるこれらの記号と同義である。]
【0041】
<反応>
上記したような片末端に1個のアミノ基を有するポリシロキサン化合物と、先述したような、エチレン性不飽和基及び5員環環状カーボネート構造の両方を有する化合物とを用い、5員環環状カーボネート構造(基)とアミノ基とを反応させることで、本発明を特徴づける反応性ポリシロキサン化合物を得ることができる。上記反応は、例えば、溶剤の存在下或いは非存在下で、40〜200℃の温度で、4〜24時間反応を行うことで、本発明の重合体の構成成分である反応性ポリシロキサン化合物を得ることができる。
【0042】
上記反応において使用可能な溶剤としては、使用する原料及び得られる化合物に対して不活性な有機溶剤であれば、いずれも使用可能である。好ましいものを例示すると、メチルエチルケトン、メチル−n−プロピルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、トルエン、キシレン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、パークロルエチレン、トリクロルエチレン、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどが挙げられる。
【0043】
上記した5員環環状カーボネート基とアミノ基との反応は、特に触媒を使用せずに行うことができるが、反応を促進させるために、下記に挙げるような触媒の存在下で行うことも可能である。この際に使用する触媒としては、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、トリエチレンジアミン(DABCO)、ピリジンなどの塩基性触媒、テトラブチル錫、ジブチル錫ジラウリレートなどのルイス酸触媒などが使用できる。これらの触媒の好ましい使用量は、反応に使用するカーボネート化合物とアミン化合物の総量(100質量部)に対して、0.01〜10質量部の範囲内とすることが好ましい。
【0044】
[ポリシロキサン基含有重合体]
上記した本発明で規定する一般式(1)で表される反応性ポリシロキサン化合物は、分子内にポリシロキサンセグメントと反応性の不飽和結合を有するため、単独重合或いは他の重合性モノマー(不飽和基を有する化合物)と共重合することができる。本発明のポリシロキサン基含有重合体は、上記で説明した、この反応性ポリシロキサン化合物を、単独重合或いは他の不飽和基を有する化合物と共重合してなる重合体或いは共重合体であることを特徴とする。
【0045】
共重合体とする場合に使用可能な重合性モノマーに特に制限はなく、公知の不飽和基を有する化合物であれば使用することができる。このような重合性モノマーとしては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、オクチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、スチレン、αメチルスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、シトラコン酸、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジアセトンアクリルアミド、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、アリルアルコールなどが挙げられる。
【0046】
また、重合性モノマーとして、先に示した一般式(7)或いは(8)で示される化合物を使用することもでき、下記の理由から、これらの化合物を使用することは好ましい実施形態である。すなわち、一般式(1)で示される化合物とともに、一般式(7)で示される化合物や、一般式(8)で示される化合物を共重合することで、得られる本発明のポリシロキサン基含有重合体の構造中に占める、二酸化炭素に由来する含有量を高くすることができる。より具体的には、本発明のポリシロキサン基含有重合体の全質量のうちの0.1〜20質量%が、二酸化炭素由来の−O−CO−結合から構成されたものとできる。本発明のポリシロキサン基含有重合体中の二酸化炭素含有量は、使用する重合性モノマーの種類と比率により、適宜にコントロールできるが、環境負荷を低減する観点からは、より原料に用いた二酸化炭素に由来する−O−CO−結合の含有量が高くなるようにすることが好ましい。
【0047】
上記したように、本発明を特徴づける反応性ポリシロキサン化合物は、必要に応じて他の重合性モノマーと共重合することができるが、下記に述べるように、その場合に、水酸基やカルボキシル基といった反応性官能基を有する重合性モノマーを共重合させることも好ましい実施形態である。本発明を特徴づける反応性ポリシロキサン化合物は、本発明で規定する一般式(1)に示される通り、反応性の水酸基を有するため、ポリイソシアネート等の架橋剤と反応させて架橋することで、本発明の熱硬化被膜とすることができる。更に、この反応性ポリシロキサン化合物を、水酸基やカルボキシル基といった反応性官能基を有する化合物と共重合させることで、重合体の官能基量を増やすことができ、このようにすることで、ポリイソシアネート等の架橋剤と反応させてなる本発明の熱硬化被膜は、架橋密度を更に向上させたものになる。すなわち、上記のように構成することで、本発明の熱硬化被膜は、架橋密度が適宜に異なる要求性能に応じたものにできるため、より広範な用途への適用が可能になる。
【0048】
本発明のポリシロキサン基含有重合体中におけるポリシロキサン鎖(ポリシロキサンセグメント成分)の濃度は、特に制限はないが、重合体100質量%中に、0.1〜20質量%程度の範囲で含まれることが好ましい。0.1質量%以下では、本発明の重合体を用いて塗膜を形成した場合、表面へのポリシロキサン鎖の配向が不十分となるおそれがある。一方、20質量%以上では、本発明の重合体を用いて塗膜を形成した場合、塗膜が柔らかくなりスクラッチ性等が悪くなる傾向がある。なお、本発明の重合体は、他の樹脂の添加成分として使用することもできるが、そのような用途においては、上記したポリシロキサン鎖の濃度は、20質量%より多くても特に問題はなく、ポリシロキサン鎖の濃度は、他の樹脂とのブレンド比率により制御することができる。
【0049】
[重合反応]
本発明のポリシロキサン基含有重合体を得るための重合反応は、無溶剤下で行うこともできるが、得られる重合体の融点以上の温度で行う必要があり、また、反応時の粘度が高くなると重合が不均一化する場合があるため、その場合には溶剤中で行うことが好ましい。反応に使用する溶剤の使用量は、反応溶液100質量%中に10〜80質量%の範囲であることが好ましい。
【0050】
上記で使用できる溶剤には特に制限がなく、下記に挙げるような有機溶剤を適宜に使用できる。例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、酢酸イソブチル等のエステル系溶剤、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール等のアルコール系溶剤、テトラヒドロフラン、エチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶剤などが挙げられる。
【0051】
また、本発明の重合体の合成においては、必要に応じて重合開始剤を使用することができるが、その際に特に制限なく、従来公知の化合物を使用することができる。例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド、クメンパーオキサイドなどの過酸化物や、アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ系化合物が挙げられ、いずれも使用することができる。その使用量は、0.1〜10質量%の範囲であることが好ましく、必要に応じて2種以上を併用することもできる。
【0052】
また、本発明の重合体の合成において、反応温度は特に制限はないが、使用する溶剤や開始剤に合わせた条件設定を行うことが好ましい。例えば、50℃〜150℃の範囲であることが好ましい。また、反応時間は2〜12時間であることが好ましい。
【0053】
上記のようにして得られる本発明のポリシロキサン基含有重合体は、重量平均分子量が10000〜1000000の範囲内にあることを要する。その理由は、本発明の重合体を利用して得られる被膜(塗膜)の性能を考慮したことによる。
【0054】
[その他の成分]
上記した特徴を有する本発明の重合体は、そのまま使用することができるが、他の樹脂とブレンドして使用してもよい。この際の他の樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、フェノキシ樹脂、スチレン系エラストマー(SBS、SEBS、マレイン酸変性SEBSなど)、オレフィン系エラストマー(EPR、EPDMなど)、スチレン系樹脂(PS、HIPS、AS、ABS、AESなど)、塩素系樹脂(PVC、塩素系ポリエチレンなど)、オレフィン系樹脂(PE、PP、EVAなど)などが挙げられる。
【0055】
[熱硬化被膜]
本発明のポリシロキサン基含有重合体は、熱可塑性であり、被膜を形成することができる。また、被膜を形成する際に必要に応じて、その被膜形成時に、そのヒドロキシウレタン結合が有する水酸基の一部を利用して種々の架橋剤によって架橋させて、熱硬化被膜とすることができる。架橋により分子鎖が固定されることで、被膜の耐久性、耐熱性、耐汚染性といった性能が向上する。特に本発明のポリシロキサン基含有重合体は、シロキサン鎖に直結した水酸基を有することから、架橋させることにより、シロキサン鎖が表面配向した状態で固定されるので、架橋によって得られる上記効果が大きい。
【0056】
上記において使用する架橋剤としては、本発明のポリシロキサン基含有重合体の有する水酸基と反応するものであればいずれも使用することができる。例えば、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイソシアネート、酸無水物、有機チタン化合物などを用いることができる。これらの中でも特に好ましい架橋剤としては、ポリイソシアネートが挙げられる。上記したような架橋剤の使用量は、本発明のポリシロキサン基含有重合体の有する水酸基の10〜90%が反応する程度の量であることが好ましい。
【0057】
また、本発明のポリシロキサン基含有重合体から被膜を得る方法としては、例えば、溶融成型させる方法、或いは、溶液状態からのコーティング法によって樹脂層を基材上に形成させる方法、のいずれの方法によっても得ることができるが、表面性能に優れた架橋被膜を得るためにはコーティング法にて行うことが好ましい。具体的な手法として、グラビアコーター、ナイフコーター、リバースコーター、バーコーター、スプレーコーター、スリットコーター等によって基材に塗布し、溶剤を揮発させ、架橋剤の存在下であれば、更に熱硬化させることにより、乾燥被膜或いは熱硬化被膜を得ることができる。
【実施例】
【0058】
次に、具体的な合成例、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の例における「部」及び「%」は特に断りのない限り質量基準である。
【0059】
(合成例1)[一般式(1)で表される反応性ポリシロキサン化合物HS−1の製造]
(5員環環状カーボネート化合物C−1の製造)
グリシジルメタクリレート(三菱レイヨン製、商品名:アクリエステルG、分子量142.1)100部と、触媒として臭化リチウム(和光純薬製)5.4部と、N−メチル−2−ピロリドン100部とを、撹拌装置及び大気開放口のある還流器を備えた反応容器内に仕込んだ。次いで、撹拌しながら二酸化炭素を連続して吹き込み、100℃にて10時間反応を行った。反応終了後の溶液に、水200部とトルエン200部を添加し、混合した。得られた混合液を分液ロートに移し、分離した水槽(下層)を除去し、その後、同様にして分液ロート中で水50部にて3回の洗浄を行うことにより、反応液から触媒を除去した。洗浄後のトルエン層(上層)から、ロータリーエバポレーターにてトルエンを蒸発留去し、淡黄色の液状物質を得た(収率93%)。
【0060】
上記で得られた液状物質を、IR(堀場製作所製の赤外分光光度計FT−720にて測定した。以下においても同様に測定。)にて分析したところ、910cm
-1付近の原材料のエポキシ基由来の吸収は消失しており、1800cm
-1付近に、原材料には存在し得ないカーボネート基のカルボニル由来の吸収が確認された。
図1に、そのIRチャートを示した。また、ガスクロマトグラフィー(島津製作所製、商品名:GC−2014、カラムDB−1)による分析の結果、原材料のグリシジルメタクリレートのピークが消失し、原材料より保持時間の長い新たなピークの出現が確認され、出現したピーク物質は、単純面積百分率法による純度が97%であった。
【0061】
以上の結果から、上記で得られた液状物質は、エポキシ基と二酸化炭素の反応により環状カーボネート基が導入された、下記式で表わされる構造の化合物であると確認された。これをC−1と略称した。C−1の化学構造中に、原料として用いた二酸化炭素由来の成分が占める割合を算出したところ、23.6%であった。この値は、化学構造式上の分子量から求めた計算値である。以下の実施例についても、化合物の構造に占める二酸化炭素の量は、すべて同様に算出した。
【0062】
【0063】
(一般式(1)で表される反応性ポリシロキサン化合物HS−1の製造)
合成例1で得たC−1を7.4部と、官能基当量2500g/molの片末端アミノ基変性シリコーンオイル(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン製、商品名:TSF−4701)を100部、トルエンを46部、重合禁止剤としてp−メトキシフェノールを0.007部(和光純薬製)、撹拌装置及び大気開放口のある還流器を備えた反応容器内に仕込んだ。次いで、撹拌しながら60℃にて反応を行った。反応の進行は、反応途中でサンプリングした反応液のアミン濃度を中和滴定により確認し、アミン濃度が測定限界以下まで減少した時点で反応を終了した。反応時間は8時間であった。
【0064】
反応後の溶液のIR分析では、1800cm
-1付近の環状カーボネートのカルボニル由来のピークは消失しており、1760cm
-1付近に、ウレタン結合のカルボニルに由来する新しいピークが確認された。
図2に、そのIRチャートを示した。反応終了を確認した後に、反応容器を減圧してトルエンを完全に除去し、淡黄色透明な液状の化合物を得た。
【0065】
得られた化合物の水酸基価(JIS K1557−1)は18.9mgKOH/gであり、GPC測定による重量平均分子量(ポリスチレン換算)は4300であった。以上のことから、得られた化合物は、ヒドロキシウレタン結合を介し、片末端に不飽和基を含有する本発明で規定した一般式(1)で表される反応性ポリシロキサン化合物であることが確認された。これをHS−1と略称した。HS−1の化学構造中に、反応に使用したC−1由来の二酸化炭素成分が占める割合は、1.6%である(化学構造式上の分子量からの計算値である)。
【0066】
(合成例2)[一般式(1)で表される反応性ポリシロキサン化合物HS−2の製造]
(片末端にアミノ基を有するポリシロキサン化合物S−1の製造)
分子量約900の片末端水素ポリジメチルシロキサン(商品名:MCR−H07、gelest社製)90g、N,N−ビス(トリメチルシリル)アリルアミンを48.4g、白金1,3−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体(3%キシレン溶液)0.03gを仕込み、60℃まで昇温させ2時間の反応を行った。次いで、メタノールの60gを加え、還流条件下で6時間の反応を行った。反応終了後に、メタノール及び未反応のN,N−ビス(トリメチルシリル)アリルアミンを減圧留去し、透明なオイル状物質を得た。このオイル状物質の全アミン価(JIS−K7237)は、58mgKOH/gであった。このことから、この物質は下記構造式で表される片末端にアミノ基を有するポリシロキサン化合物と確認され、これをS−1と略称した。なお、上記の製造方法は、特許3666551に記載の方法を利用した。
【0067】
【0068】
(一般式(1)で表される反応性ポリシロキサン化合物HS−2の製造)
合成例1で得たC−1を19.2部、上記で得たS−1を100部、トルエン51部、p−メトキシフェノールを0.019部使用した以外は、合成例1におけるHS−1の製造と同様の操作により淡黄色透明な液状化合物を得た。得られた化合物の水酸基価(JIS K1557−1)は47.5mgKOH/gであり、GPC測定による重量平均分子量(ポリスチレン換算)は1100であった。以上のことから、得られた化合物は、ヒドロキシウレタン結合を介し、片末端に不飽和基を含有する、本発明で規定した一般式(1)で表される反応性ポリシロキサン化合物であることが確認された。これをHS−2と略称した。HS−2の化学構造中に、得られた化合物の化学構造中に、反応に使用したC−1由来の二酸化炭素成分が占める割合は、3.8%であった(化学構造式上の分子量からの計算値)。
【0069】
(実施例1)[反応性ポリシロキサン化合物と他の重合性モノマーとの共重合体の例]
(ポリシロキサン基含有重合体−1の製造)
合成例1で得られたHS−1を10部、メチルメタクリレート(商品名:アクリエステルM、三菱レイヨン(株)製)を60部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(以下「2−HEMA」と略記)(三菱ガス化学(株)製)を30部、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(商品名:V−60、和光純薬(株)製)を1部、トルエンを33部、メチルイソブチルケトンを33部、撹拌装置及び大気開放口のある還流器を備えた反応容器内に仕込んだ。窒素気流下で撹拌しながら70℃にて8時間の反応を行った。反応終了後に、トルエンを42部及びメチルイソブチルケトンを42部加えて希釈した後、室温まで冷却し、透明粘稠な樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液を、THFを移動相としたGPC分析(東ソー製、GPC−8020(商品名);カラムSuper AW2500+AW3000+AW4000+AW5000;以下においても同様に測定。)によって分子量を測定した。その結果、その重量平均分子量(ポリスチレン換算)は62000であり、また、水酸基価(JIS K1557−1)は59mgKOH/gであった。この値は樹脂単独での値に換算すると148mgKOH/gであった。
図3に、得られた樹脂のIRチャートを示した。この樹脂中に二酸化炭素の占める割合は0.2%である(樹脂配合組成からの計算値)。
【0070】
(硬化被膜の形成)
上記で得られた樹脂溶液100部に対して、架橋剤としてビウレット型のヘキサメチレンジイソシアネート系ポリイソシアネートであるデュラネート24A−100(商品名:旭化成(株)製)を8部添加し、更にトルエンで固形分を40%に合わせて希釈し、塗料を作製した。得られた塗料を、基材として厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(商品名:ルミラーS10、東レ(株)製、以下、PET或いはPETフィルムと略記。)を用い、該基材にNo.8バーコーターを用いて塗布し、100℃にて60分間乾燥させ、PET上に膜厚約5μmの架橋被膜を作成し、これを評価試料とした。
【0071】
(実施例2)[反応性ポリシロキサン化合物と他の重合性モノマーとの共重合体の例]
(ポリシロキサン基含有重合体−2の製造)
合成例2で得られたHS−2を10部、メチルメタクリレート(商品名:アクリエステルM、三菱レイヨン(株)製)を60部、2−HEMAを30部、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(商品名:V−60、和光純薬(株)製)を1部、トルエンを33部、メチルイソブチルケトンを33部、撹拌装置及び大気開放口のある還流器を備えた反応容器内に仕込んだ。窒素気流下で撹拌しながら70℃にて8時間の反応を行った。反応終了後に、トルエンを42部及びメチルイソブチルケトンを42部加えて希釈した後、室温まで冷却し、透明粘稠な樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液について、THFを移動相としたGPC分析によって、実施例1と同様にして分子量を測定した。その結果、その重量平均分子量(ポリスチレン換算)は59000であり、また、水酸基価(JIS K1557−1)は58mgKOH/gであった。この値は樹脂単独での値に換算すると145mgKOH/gであった。この樹脂中に二酸化炭素の占める割合は0.4%である(樹脂配合組成からの計算値)。
【0072】
(硬化被膜の形成)
上記で得られた樹脂溶液100部に対して、架橋剤としてビウレット型のヘキサメチレンジイソシアネート系ポリイソシアネートであるデュラネート24A−100(商品名:旭化成(株)製)を8部添加し、更にトルエンで固形分を40%に合わせて希釈し、塗料を作製した。得られた塗料を、基材として厚み100μmのPETフィルムを用い、該基材にNo.8バーコーターを用いて塗布し、100℃にて60分間乾燥させ、PET上に膜厚約5μmの架橋被膜を作成し、これを評価試料とした。
【0073】
(実施例3)[反応性ポリシロキサン化合物と他の重合性モノマーとの共重合体の例]
(ポリシロキサン基含有重合体−3の製造)
合成例2で得られたHS−2を10部、2−HEMAを30部、合成例1で得たC−1を60部、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(商品名:V−60、和光純薬(株)製)を1部、トルエンを33部、メチルイソブチルケトンを33部、撹拌装置及び大気開放口のある還流器を備えた反応容器内に仕込んだ。窒素気流下で撹拌しながら70℃にて8時間の反応を行った。反応終了後に、トルエンを42部及びメチルイソブチルケトンを42部加えて希釈した後、室温まで冷却し、透明粘稠な樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液について、THFを移動相としたGPC分析によって、実施例1と同様にして分子量を測定した。その結果、その重量平均分子量(ポリスチレン換算)は42000であり、また、水酸基価(JIS K1557−1)は55mgKOH/gであった。この値は樹脂単独での値に換算すると138mgKOH/gであった。この樹脂中に二酸化炭素の占める割合は14.5%である(樹脂配合組成からの計算値)。
【0074】
(比較例1)
実施例1で使用した反応性ポリシロキサン化合物であるHS−1に代えて、官能基当量2300g/molのメタクリル変性シリコーンオイル(信越化学工業(株)製、商品名:X22−174BX)を10部使用した以外は、実施例1と同様の配合組成により、本比較例の樹脂溶液を作製した。得られた樹脂溶液は、均一ではなく、静置すると分離する状態であった。
【0075】
上記で得られた樹脂溶液を撹拌し、懸濁させた状態で実施例1と同様にして、樹脂溶液100部に対して架橋剤としてデュラネート24A−100を8部添加し、更にトルエンで固形分を40%に合わせて希釈し、塗料を作製した。この塗料も静置すると分離する状態であった。作製した塗料を、十分に撹拌して、分離する前に厚み100μmのPETフィルムにNo.8バーコーターを用い塗布し、100℃にて60分間乾燥させ、PET上に膜厚約5μmの架橋被膜を作成し、これを評価試料とした。
【0076】
(比較例2)
実施例1で使用した反応性ポリシロキサン化合物であるHS−1に代えて、官能基当量900g/molのメタクリル変性シリコーンオイル(商品名:X22−174ASX、信越化学工業(株)製)を10部使用した以外は、実施例1と同様の配合組成により、本比較例の樹脂溶液を作製した。得られた樹脂溶液は、均一ではなく、静置すると分離する状態であった。
【0077】
上記で得られた樹脂溶液を撹拌し、懸濁させた状態で実施例1と同様にして、樹脂溶液100部に対して架橋剤としてデュラネート24A−100を8部添加し、更にトルエンで固形分を40%に合わせて希釈し、塗料を作製した。この塗料も静置すると分離する状態であった。作製した塗料を、十分に撹拌して、分離する前に厚み100μmのPETフィルムにNo.8バーコーターを用い塗布し、100℃にて60分間乾燥させ、PET上に膜厚約5μmの架橋被膜を作成し、これを評価試料とした。
【0078】
(比較例3)
実施例1で使用した反応性ポリシロキサン化合物であるHS−1に代えて、官能基当量900g/molのメタクリル変性シリコーンオイル(商品名:X22−174ASX)を1部使用し、メチルメタクリレート(商品名:アクリエステルM)を69部、2−HEMAを30部、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(商品名:V−60)1部、トルエンを33部、メチルイソブチルケトンを33部用いて、実施例1同様に反応を行い、半透明粘稠な樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液は均一な状態であった。
【0079】
上記で得られた樹脂溶液を100部に対して、架橋剤としてデュラネート24A−100を8部添加し、更にトルエンで固形分を40%に合わせて希釈し、塗料を作製した。作製した塗料を用いて、実施例1同様にしてPET上に膜厚約5μmの架橋被膜を作成し、これを評価試料とした。
【0080】
(比較例4)
反応性ポリシロキサン化合物であるHS−1に代えて、官能基当量2300g/molのメタクリル変性シリコーンオイル(商品名:X22−174BX)を10部使用し、合成例1で得たC−1を60部、2−HEMAを30部、アゾビスイソブチロニトリル(商品名:V−60)を1部、トルエンを33部、メチルイソブチルケトンを33部用いた以外は、実施例1同様に反応を行い、本比較例の樹脂溶液を作製した。得られた樹脂溶液は、均一ではなく、静置すると分離する状態であった。
【0081】
上記で得られた樹脂溶液を100部に対して、架橋剤としてデュラネート24A−100を10部添加し、塗料を作成した。実施例1と同様にしてPET上に膜厚約5μmの架橋被膜を作成し、これを評価用試料とした。架橋被膜成分中に二酸化炭素成分が占める割合は8.1%である(全配合からの計算値)。
【0082】
表1に、上記した実施例と比較例の樹脂溶液の配合及び物性をまとめて示した。なお、表1中の水酸基価は、上段が樹脂溶液の値であり、下段は、樹脂単独での換算値であり、単位は、mgKOH/gである。
【0083】
【0084】
(評価)
上記の実施例1及び比較例1〜4で得られた評価試料を以下の項目及び評価基準により評価した。結果を表1にまとめて示す。
【0085】
[撥水性]
各評価用試料表面の20℃における水の接触角を、接触角計(商品名:CA−A型、協和界面科学(株)製)を用いて測定した。得られた測定値を表2に示した。
【0086】
[撥油性]
各評価用試料表面の20℃におけるn−ドデカンの接触角を、上記と同様の接触角計を用いて測定した。得られた測定値を表2に示した。
【0087】
[離型性]
各評価用試料の塗膜に24mm幅のセロハンテープを貼り付けて、2kgローラーにて1往復圧着させた。オートグラフを用いて180°剥離における剥離強度を測定した。24mm幅における実測の剥離強度をgfにて示した。上記で測定した結果を、表2に示した。
【0088】
[移行性]
離型性の試験に使用したセロハンテープを、試料から剥離した後に、再度PETフィルムに貼り付けて離型性試験と同様にして、PETフィルムに対する剥離強度を測定した。そして、先に測定した未使用のセロハンテープとPETフィルムの剥離強度に対する残留接着率を以下の式より求め、下記の基準により評価して、その結果を表2に示した。
残留接着率=離型性の測定に使用したセロハンテープのPETフィルムに対する剥離強度
÷未使用のセロハンテープのPETフィルムに対する剥離強度×100
<評価基準>
○:残留接着率95%以上
△:残留接着率80%以上95%未満
×:残留接着率80%未満
【0089】
[基材密着性]
基材としたPETフィルムを含む硬化塗膜を3cm×3cmに切り取った物を評価用試料とした。この試料の中央部を、塗布面を上とし反対側に180度に折り目が付くまで折り曲げ、目視にて塗膜の状態を観察した。そして、以下基準で3段階に評価して、その結果を表2に示した。
<評価基準>
○:塗膜の割れや剥がれは確認できない。
△:塗膜は剥がれていないが折り曲げ部に亀裂が発生している。
×:塗膜の一部が剥がれ落ちた。
【0090】
[汚染除去性]
塗膜に黒マジック(寺西化学工業(株)製、商品名:マジックインキ No.500)で線を引き、5分間放置した後、乾いたティッシュペーパーにて拭き取りを行い、インクの残り具合を目視で観察した。そして、下記の基準で3段階に評価して、その結果を表2に示した。
<評価基準>
○:インクが完全に除去できる。
△:インクの大部分を除去できるが跡が残る。
×:インクが除去できない。
【0091】
[環境対応性]
各架橋被膜の二酸化炭素含有量(%)を用い、以下の基準により、環境対応性を4段階で評価した。そして、結果を表2に示した。
<評価基準>
◎:10質量%以上
○:3質量%以上10質量%未満
△:0.1質量%以上3質量%未満
×:0.1質量%未満
【0092】
【0093】
表2から明らかなように、本発明の実施例の重合体によれば、撥水性、撥油性、離型性、移行性、基材密着性、耐汚染性(汚染除去性)のいずれにも優れたポリシロキサン基含有の硬化被膜を形成することができることが確認された。このような顕著な効果が得られた理由は、特に、本発明の重合体を特徴づける、一般式(1)で表される反応性ポリシロキサン化合物は、その構造中に不飽和基を有するポリシロキサン化合物であり、更に、水酸基を有するヒドロキシウレタン結合によって、この不飽和基とポリシロキサン構造とを結合していることから、この化合物を重合性モノマーとして利用したことで、本発明の重合体は、ポリシロキサン構造の根本に水酸基を有する化学構造となり、その結果、疎水性のポリシロキサン鎖の空気界面(塗膜表面)への配向が促進され、その機能が十分に発揮されたことによると考えられる。また、本発明の重合体構造中に存在する水酸基は、架橋反応にも利用でき、架橋剤によってポリシロキサン鎖の根本部分を架橋させることで、上記ポリシロキサン鎖の配向が固定化されることも、機能性の発現に寄与していると考えられる。
【0094】
一方、表2の比較例では、疎水性の強いアクリル変性ポリシロキサンを用いたため、オリゴマー化したセグメントが共重合反応中で相分離を起こし、ランダムな配列を有する共重合体が合成できていなかったものと考えらえる。それにより、セロハンテープの剥離強度が小さく、一見離型性がよく見えるが、表面にはシロキサン成分がブリードしており、移行性や汚染除去性が悪い結果となった。また、密着性の評価も、シロキサンセグメントが分離していることから、樹脂自体の可撓性がなく、基材の曲げに追従できなかったものと考えらえる。
【0095】
更に、本発明の重合体は、重合性モノマーとして使用する、一般式(1)で表される反応性ポリシロキサン化合物を、二酸化炭素を原材料の一部に使用して製造することが可能であるので、優れた環境対応性を有するものにできる。