【課題】溶湯にインジェクションするときの生石灰に金属Mgを添加するにあたり、その金属MgによるSの捕捉率を向上させ、界面スラグにおけるCaSへの転換を促進することができるようにした精錬用粉状石灰を提供する。
【解決手段】強熱減量が可及的0になるように焼成されたCaOを、0.05mm以下の粉状としておく。この場合、CaOの純度が97%以上となるように焼成され、その強熱減量は純度93%以下のCaOに含まれる強熱減量より少なくしておく。このようなCaOと金属Mgからなる精錬剤にカルシウムアルミネート粉も添加すれば、それがスラグ融点の低下作用を発揮し、12CaO・7Al
前記CaOの純度が97%以上となるように焼成され、その強熱減量は純度93%以下のCaOに含まれる強熱減量より少なくされていることを特徴とする請求項1に記載された精錬用粉状石灰。
【背景技術】
【0002】
溶鉄に含まれる硫黄分を除去すべく、それと反応して脱硫しスラグを生成させる精錬剤として、最近では生石灰が多用される。製銑の際に使用するコークスに硫黄分が大なり小なり含まれているからであるが、これらを残存させておくと鋼質が低下して鉄の強度向上が阻害され、また加工性に影響する展性・延性を損なう。
【0003】
精錬剤としてのCaOは、石灰石CaCO
3 を焼成することにより二酸化炭素CO
2 を除去して生成される。精錬剤は溶湯面に流し落とす場合と、溶湯中に吹き込む場合とがある。前者は精錬剤が例えば50mm程度までの塊状物とされ、後者の場合には粉体として供される。
【0004】
CaOは溶湯中の硫黄分Sと反応してCaSを生成するから、これをスラグ化させて炉体から取り除けば、脱硫された溶鉄が精製される。炉上から溶湯面に向けて精錬剤を投げ入れると、比重の小さい精錬剤は溶湯面に浮かぶため精錬剤と溶湯との接触の機会は多いと言えない。インジェクション法により粉体を不活性キャリアガスに載せてインジェクションランスからもしくは炉底から吹き込むと、溶湯中を浮上する間に溶鉄中のSと触れる機会が多く、したがって精錬効率は一般的に高い。それは粉体のCaOが塊状の場合よりも比表面積が格段に大きいことに起因している。
【0005】
インジェクション法を採用する場合に、生石灰に金属Mgを付加することがある。CaOが溶湯中のSと反応してCaSを生成するにあたり、CaOがSを捕捉するよりも金属MgがSと反応する方が活発であることが知られているからである。生成されたMgSが界面に浮上した時点でCaOと反応してCaSを生成させるというプロセスは、CaOにとっても反応効率が高くなって都合がよい。このように、CaO粉をインジェクションランスから吹き込む際に金属Mg粉を混入させて精錬することは、特許文献1にも開示されているところである。
【0006】
ところで、CaOは、石灰石を例えば900℃で焼いてCO
2 を放出させることによって生成されるのであるが、金属精錬に対してはCaOの純度が92%前後となっているものが供される。残りの約8%はSiO
2 、Al
2 O
3 、Fe
2 O
3 、MgOと強熱減量分さらには極めて僅かなP等からなる。溶湯中にもSiO
2 、Al
2 O
3 、Fe
2 O
3 は含まれているからその存在は直ちに問題とならず、またMgOは塩基度の増大に寄与する。それら以外の強熱減量の大部分はCO
2 とH
2 Oであり、さらなる強熱に曝すと生石灰から消失する物質である。
【0007】
石灰石を焼成するにあたって強熱減量を無くしておこうとすれば、その焼成度を極めて高くする必要があり、生石灰の製造コストが増大する。加えて、焼締まりが生じて生石灰のポーラス性が低下するなど、精錬においては好ましからざるものとなり、現実には硬焼き化しない程度の焼成に留められている。生石灰は上記したように塊状で使用されたり粉体にして使用されるが、とりわけ前者の場合には焼締まり品でないことが望まれる。したがって、いずれに使用しても差し支えない生石灰が市場に供給され、通常は92・3%までの純度のものとなっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記した金属Mgの使用は、粉体であることからインジェクション法に適用される場合に限られる。この金属Mgは生石灰とは比較にならないほど高価であり、CaSを生成させる前段階で金属MgによるMgSの効率よい生成の可否は精錬の善し悪しを左右する。金属Mgの消費量の低減のためにもS分捕捉能力を上げることは不可欠であるが、投入量の大半をなすCaOとの係わりについてはほとんど研究されていないのが実情である。
【0010】
本発明は上記の問題に鑑みなされたもので、その目的は、インジェクションにおいて金属Mgを使用するにあたり、その金属MgによるSの捕捉率を向上させ、界面スラグにおけるCaSへの転換を促進することができるようにした精錬用粉状石灰を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、溶鉄に含まれる硫黄分を除去するため、金属Mg粉とともに溶湯にインジェクションされるCaOに適用される。その特徴は、生成過程で強熱減量が可及的0になるように焼成され、0.05mm以下の粉状CaOとされていることである。
【0012】
そのCaOの純度が97%以上となるように焼成され、その強熱減量は純度93%以下のCaOに含まれる強熱減量より少なくしておく。
【0013】
CaOと金属Mgの粉体からなる精錬剤には、カルシウムアルミネート粉12CaO・7Al
2 O
3 が添加される。
【0014】
CaOと金属Mgの粉体からなる精錬剤に、CaO100重量部に対してAl
2 O
3 は80ないし120重量部、Na
2 Oは24ないし76重量部含まれているカルシウム・アルミネート・ソーダの混成固形物粉を添加するようにしてもよい。
【0015】
いずれの精錬用粉状石灰にあっても、カーボン粉を添加しておくことが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高い焼成温度としたり長い焼成時間とすることによってCaOを純度97%以上としておくので、SiO
2 、Al
2 O
3 、Fe
2 O
3 といった混成物とともに残存するCO
2 やH
2 Oの量を、純度92・3%以下のCaOに含まれるそれらよりも少なくしておくことができる。金属Mgは、溶湯中で酸素分を取得しやすいCaO中のCO
2 やH
2 Oと優先的に反応し、MgOを生成する。これによって溶湯中のSと反応させるべきMgが消耗される。しかし、生成過程で強熱減量のCO
2 やH
2 Oが可及的0となるように処理されたCaOからはMgO化が捗らず、溶湯中のSと反応するMgを多く残しておくことができる。
【0017】
カルシウムアルミネート12CaO・7Al
2 O
3 を精錬剤に追加しておく場合には、それがスラグの融点を低下させる効果を発揮し、このカルシウムアルミネートが存在するスラグ中へ浮上してきたMgSからは、復硫が抑制されるとともにMgSからのCaS化が促進される。
【0018】
CaOと金属Mgの粉体に、CaO100重量部に対してAl
2 O
3 は80ないし120重量部、Na
2 Oは24ないし76重量部含まれているカルシウム・アルミネート・ソーダの混成固形物粉を添加しておけば、CaO・金属Mgによる脱硫作用に、カルシウム・アルミネート・ソーダによる脱硫作用が加重され、脱硫効果が一段と向上する。
【0019】
カーボン粉が添加される場合には、カーボン分がスラグ中のFe
2 O
3 などの酸素分を除去してスラグの還元性雰囲気を醸成し、CaSの生成を助長する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明に係る精錬用粉状石灰を、その実施の形態に基づいて詳細に説明する。インジェクションされるCaOは0.05mm程度以下の粉体とされ、金属Mg(マグネシウム)粉の適宜の量がブレンドされる。この混成状態の精錬剤がインジェクションランス(サブランス)などから溶湯に供給される。CaOの粉体サイズは好ましくは325メッシュ(44μm)以下、場合によっては14μm以下とされ、炉頂から塊状投下される石灰とは比較にならないほど比表面積が大きくなっているものである。
【0021】
ここで使用されるCaOは、焼成度を上げるなどして生成された純度が97%以上のものである。これはCaO生成過程で強熱減量(灼熱減量、Ig−loss)が可及的に0となるように焼成されたものである。このように処理されたCaOは、その強熱減量が純度93%程度のCaOに含まれる強熱減量よりは少なくされる。例えば純度93%、不純物(混成物)2%、強熱減量5%であったものが、強熱減量の5%を消失させてCaOと不純物だけになると、そのCaOの純度は93/(93+2)=0.979、すなわち98%となる。また、不純物(混成物)3%、強熱減量4%であったものが、強熱減量の4%を消失させてCaOと不純物だけにされると、そのCaOの純度は93/(93+3)=0.968、すなわち97%となる。なお、ここでいう%は重量比である。
【0022】
石灰石CaCO
3 は825℃以上で CaCO
3 →CaO+CO
2 の反応を呈し、CO
2 を放出して生石灰CaOとなる。通常は、石灰石を900℃ないし1,100℃、場合によってはそれ以上で焼成して作られるが、上記した97%もしくはそれ以上の純度のCaOを生成するためには、焼成時間を長くするか焼成温度を高めるなどしなければならない。当然のことながら焼成に費やされる燃料は増え、CaO製造コストが上昇するのはやむを得ない。
【0023】
なお、採掘された石灰石CaCO
3 は砕いて30〜80mm大にされたものが層状焼成方式をとるメルツ炉で、30mm大以下はガスの流通が阻害される目詰まりを懸念する必要のないロータリキルンで焼成される。後者では排ガスに乗って炉外へ持ち出されないようにするため、1mmより細かくならないものが投入される。それゆえ、いずれの窯で焼成されようとも、インジェクション用とするためには爾後的に細かく粉砕されることになる。
【0024】
強熱減量の大部分はCO
2 とH
2 Oであることはすでに述べたが、CaCO
3 から93%前後純度のCaOを生成する場合以上にCO
2 を放散させ、H
2 Oも飛ばすことになるから、通常は焼き締まり状態に近づく。すなわち、CO
2 等の抜けた跡は微細な空隙として残るが、純度が高くなるほど組織の緻密化によって空隙も狭められる。このCaOはインジェクションに供するためのものであるから、焼成後は上記したようなサイズに粉砕される。
【0025】
精錬剤の粉化はサイズが小さくなるほど単位重量あたりの表面積が増大するので、CaOの溶湯接触率は高まる。緻密化による空隙の狭小化は避けがたいとしてもポーラス性を全く失っているわけではなく、次に述べるごとく、金属Mgによる溶湯のS分捕捉能が発揮されるからこそ、硬焼きと化したCaOといえども投入精錬剤全体から見れば脱硫作用はおおいに向上したものとなる。なお、CaOがCaS化するよりも、融点が649℃と低く溶湯中での分散性が極めて良好でMgがMgSを生成しやすいことに着目して、金属Mgが添加されるようになったことはすでに上で触れた。
【0026】
ところで、CaOに金属Mgを混成させた精錬剤の場合、溶湯中で Mg+CaO+
S→CaS+MgO(下線は溶湯中にあるものを示す) なる反応を呈することは知られている。しかし、CaO中に強熱減量が存在する場合、金属Mgは、溶湯中でCaOやCaO中の不純物であるSiO
2 、Al
2 O
3 、Fe
2 O
3 、MgOからよりも遙かにOを奪いやすいCO
2 やH
2 Oと反応してMgOを生成する。これによって溶湯中のSと反応させるべく投入されたMgが目的外に消費されることとなり、結果的にはMgSの生成は阻害されたり抑制される。本発明においてはCO
2 やH
2 Oの残存量を可及的に無くしたCaOを投入することにしているから、金属MgがMgO化する量は格段に少なくなり、溶湯中のSとでMgSとなる機会を飛躍的に増やすことになる。
【0027】
インジェクションされてから浮上する過程で Mg+S→MgS により生成されたMgSは、界面スラグに到達すると、 MgS+CaO→CaS+MgO の反応を呈してCaSが生成され、これがスラグに固定される。これから分かるように、本発明は金属MgがCaO中の強熱減量CO
2 やH
2 Oと反応する点に着目し、それを排するようにして精錬効率の向上を期そうとする。すなわち、MgOの生成を減らすことでMgSの生成の機会を高めるようにしようとの知見に基づいたものである。なお、溶湯浮上中のCaOはCaSの生成
C+CaO+
S→CaS+CO(下線は溶湯中に存在するの意) も並行して進行させるが、CaSとなることなく浮上した多くのCaOは、上記した式のごとくスラグ中でMgSのSを奪うようにしてCaS化する。
【0028】
ちなみに、MgSは不安定で復硫を起こしやすいが、CaSになると安定した性状となり、復硫を起こしにくくなる。MgSが浮上してきたところにいまだCaS化していない活性度の高いCaOが存在する界面スラグにおいては、CaSへの置き替えは極めて円滑に進む。なお、金属Mgの添加量は溶鉄中のSとの反応に見合う程度、すなわち石灰分を1とすれば0.1〜0.3としておけばよい。その石灰は塩焼き生石灰としてもよいが、上記のごとく強熱減量が可及的に少なくされているものでなければならないことは言うまでもない。生成されたCaOは保管中などにCO
2 を吸収することのないように、粉砕時には水分の混入をきたさないように管理しておくことが肝要である。CaOは0.05mmより大きいと不可というものでないが、焼き締まりの程度も配慮して、あくまでもインジェクションに相応しくキャリアガスに乗る程度のものにしておくことは当然である。
【0029】
ところで、上記した精錬剤はCaOと金属Mgからなる粉体であるが、これにカルシウムアルミネート粉12CaO・7Al
2 O
3 を添加しておくとよい。カルシウムアルミネートは溶融点が1,385℃であり、スラグの融点を低下させる効果を発揮し、カルシウムアルミネートが存在するスラグ中にMgSが入ると、MgSからの復硫も起こりにくくなる。したがって、界面スラグ中のCaOによってMgSのCaS化が促進され、安定的にスラグに固定される。このカルシウムアルミネートの投入は高価な金属Mgの消費を低減させることにも寄与する。詳しくは触れないが、このカルシウムアルミネートは脱酸能力を高めるようにも作用する。
【0030】
CaOと金属Mgの混合粉もしくはCaOと金属Mgとカルシウムアルミネートの混合粉に、カーボン粉も添加しておく。カーボンはスラグ中のFe
2 O
3 などから酸素分を除去してスラグの還元性雰囲気を醸成し、これによってもMgSからの復硫を起こしにくくして、 〔S〕+(CaO)+C→(CaS)+CO なる反応によりCaSの生成を助長する。なお、〔 〕は溶鉄中、( )はスラグ中にあることを意味する。その添加量は石灰分を1としてその0.1〜0.03としておけばよい。効果の出る範囲で0.1より少なくしておけば溶湯中のCの増加が抑えられ、後の脱炭操作の負担を大きくすることもない。
【0031】
以上述べた強熱減量の低含有化を図ったCaOに金属Mgを添加したインジェクション用精錬剤に対して、カルシウムアルミネートソーダCaO・Al
2 O
3 ・Na
2 Oを加えてもよい。そのカルシウムアルミネートソーダは、これを構成するCaO100重量部に対してAl
2 O
3 は80ないし120重量部、Na
2 Oは24ないし76重量部含まれているカルシウム・アルミネート・ソーダの混成固形物であって、それを粉化物にしてインジェクションに供しえるものにしておく。CaO・金属Mgよりなる脱硫剤の作用に、カルシウムアルミネートソーダによる脱硫作用を加重させることができ、脱硫効果が一段と向上する。
【0032】
というのは、カルシウムアルミネートソーダの一部を構成するNa
2 Oには、脱硫作用がひときわ強いことがよく知られているからである。炭酸ソーダNa
2 CO
3 がソーダ系精錬剤としてかっては多用されていたが、これは精錬中に分解してNa
2 Oを生じさせていることに基因している。しかし、炭酸ソーダNa
2 CO
3 は精錬中に分解して白煙が湯面を覆い、操業中の目視を阻害する。Na
2 CO
3 からは脱硫に寄与するNa
2 Oが生成されるものの、溶湯から離脱して脱硫反応への寄与率を落とす。それのみならず、Na
2 Oが炉壁や炉蓋に付着するなどして設備の劣化を早めたり、スラグが肥料に転化できなくなるなど幾つかの問題を抱えることになっていた結果、すっかり生石灰にとって代わられたという背景がある。
【0033】
ちなみに、カルシウムアルミネートソーダ粉の精錬剤は、CaOに金属Mgを添加した精錬剤と同時に溶湯に供給される場合にかぎらない。例えば精錬前半にはCaOに金属Mgを添加した精錬剤を、後半にはカルシウムアルミネートソーダ粉を供給するといったように、分別してもしくは交互にインジェクションしてもよい。この分別供給の場合のカルシウムアルミネートソーダには、金属Mgを添加することもできる。同時供給する場合には、金属Mgの一部をカルシウムアルミネートソーダによる脱硫に寄与させることができるのと同じ効用が発揮される。
【0034】
ここで、カルシウムアルミネートソーダCaO・Al
2 O
3 ・Na
2 Oについて触れる(詳しくは特開2012−012680をも参照)。この精錬剤の主たる造滓作用をするのはCaOであることは、これまでの説明の精錬剤と変わるところはない。しかし、それはカルシウムアルミネートソーダCaO・Al
2 O
3 ・Na
2 Oの焼成品もしくは固溶体の形態をとった混成固形物としたものであって、インジェクション用精錬剤として供することができるように粉砕したものである。その製法は後述するが、構成は上記したとおりであり、その数値的意味合いは特開2003−253315(特許第4150194号公報)では不可能としたNa
2 Oの混成量を実現していることである。ここでいうカルシウムアルミネートソーダは、Na
2 OをCaOに固定させておくという形態をとらせている。そして、ソーダ分の過大比率化を避け、Na
2 Oの炉壁・炉蓋付着を断ち、またスラグの肥料転化が許容される程度にとどめられる。
【0035】
次に、カルシウム・アルミネート・ソーダの混成固形物を焼成品として得る場合の製法について述べる。使用される原料はCaOのための石灰石CaCO
3 、Al
2 O
3 のためのボーキサイト(ばん土頁岩)もしくはアルミ精錬灰、Na
2 Oのための炭酸ソーダNa
2 CO
3 である。まず、前二者を水練り可能な状態すなわち例えば0.2ミリメートル以下に粉砕しておき、これに元来粉状の炭酸ソーダを加える。そして水と粘着助成用の水酸化カルシウムを添加して混練する。
【0036】
混練物を枠体に充填し、自然乾燥もしくは強制乾燥するなどしてブロックに成形する。これらのブロックを台車に静置した状態で非回転式のトンネルキルンを通過させると熱ガスとの接触により焼成品(カルシウム・アルミネート・ソーダ)が得られる。炉体が回転しないキルンが使用されるので、混練ブロックが形崩れすることがなく破損することもない。しかも、トンネルキルンでは被焼成物をゆっくりと移動させながら焼成するので、焼成むらが生じるなど品質の低下を招くようなことも可及的に少なくなる。
【0037】
焼成品を得るに際しては、焼成速度は遅いが、台車上で何段にも組んだ井桁に載せるなどするから、小滝運動(カスケードモーション)させるロータリキルンの場合よりも極めて多量の処理物を収容して焼成することができる。なお、キルン雰囲気が400℃を超えたところからNa
2 CO
3 →Na
2 O+CO
2 の反応が進む。CO
2 はキルン排ガスとなるが、Na
2 Oの結晶はブロックに残る。その結果、Na
2 OはCaOに固定されざるを得ない。CaO、Al
2 O
3 、Na
2 CO
3 が個々に粉体もしくは粒体の状態で混成されたものをフラックスとした場合には、Na
2 CO
3 が溶銑に接触した時点で気化して脱硫に寄与しないまま直ちに消失してしまうものが出るが、そのようなことを起こさせなくて済む。
【0038】
こうして生成された焼成品を破砕・粉砕して精錬用フラックスとする。このインジェクション用フラックスは、CaO、Al
2 O
3 、Na
2 Oが一体化された混成焼成状態にあるから、Na
2 Oは溶湯に投入されて溶融するまでの間CaOやAl
2 O
3 に拘束された状態に置かれ、Na
2 Oが早々に消失してしまうのを抑えておくことができる。Na
2 CO
3 が高温でかつC濃度が高い溶銑と接触して気化損失を起こすなどといった造滓作用前消失現象はほとんど起こらない。
【0039】
このように脱硫効果の著しい向上はNa
2 Oの顕在率が高いことによるが、その寄与の高さは上記したとおりNa
2 Oが反応前に消散しないからにほかならない。すなわち、カルシウム・アルミネート・ソーダの混成固形物としてNa
2 OがCaOに固定され、溶湯に投入されて精錬剤の融解が進むとNa
2 Oが離脱し、その時点から活性化すると考えられる。Na
2 Oの脱硫作用とCaOによるそれらとが重畳する結果、一方が捕捉し得なかった例えばサルファ分を他方が捕捉するといったように補完しあう。そのフラックス構成物が接触する箇所で溶湯の脱硫は促進され、その結果、フラックスの分散が図られれば、それに伴って溶湯の脱硫効果が向上することは言うを待たない。
【0040】
ところで、カルシウム・アルミネート・ソーダの混成固形粉砕物に、脱硫機能を向上させるべく粉状金属Mgを混入させ、混成前CaO100重量部に対して10ないし20重量部に相当する量にしておく。金属Mgは、すでに示した式のごとくの反応によりCaSの生成を促し、結果的に脱硫作用を発揮する。この場合、一部のCaOのOと結合して生じたMgOは、生石灰、アルミナや溶銑などに多量に含まれるSiO
2 とともに、 CaO−SiO
2 −Al
2 O
3 −MgO の四元系相もしくはそれに準じた相状態になり、CaOの融点低下をますます助長するようにも作用する。常に30重量%前後を超えるCaOや常に29重量%を超えるAl
2 O
3 、常に10重量%前後を超えるNa
2 Oによる脱硫のみならず、常に3重量%を超える金属Mgによる脱硫が加重する。その一方で、反応で生じたMgOは塩基度の増大にも寄与するが、マグネシア系耐火物に対するスラグ侵蝕を抑制する点も見逃せない。なお、Mgは溶湯での分散性が極めて高いが、これはすでに触れた。
【0041】
金属Mgは1,090℃で気化するから、カルシウム・アルミネート・ソーダ混成固形物を粉砕してからマグネシウムを金属粉の状態で混合させることになる。こうして得られる粉状のフラックスは、サブランスを介してもしくは炉底から不活性ガスに伴わせるインジェクション操作によって溶湯に供給する場合極めて好適である。
【0042】
カルシウム・アルミネート・ソーダの混成固形物の粉砕品には、粉状カーボンを添加することもできる。これも脱硫機能を向上させるが、その反応もすでに述べた。なお、カーボンは焼成すれば消失し、溶融させようとしても溶融するものでないから、カルシウム・アルミネート・ソーダ混成固形物を粉砕してから粉体として混合させることになる。こうして得られる粉状のフラックスも、サブランスを介してもしくは炉底から不活性ガスに伴わせるインジェクション操作によって溶湯に供給する場合に極めて好適となる。
【0043】
次に、上記した構成のカルシウム・アルミネート・ソーダの混成固形物を固溶体として得る場合の製法について述べる。使用される原料は石灰石とボーキサイト(ばん土頁岩)もしくはアルミ精錬灰と炭酸ソーダであることは、焼成品の場合と変わらない。これらを溶融炉例えば平炉に投入して溶融させ、生成された混成溶融体(カルシウム・アルミネート・ソーダ)を冷却して得た固溶体は破砕・粉砕して精錬用フラックスとされる。粉砕の程度によって、溶湯に投入するフラックスとしても、インジェクション用フラックスとしても使用することができる。
【0044】
固溶体を得るに際しては、石灰石は898℃で CaCO
3 →CaO+CO
2 となるが、融点が2,572℃とはいえ生成したばかりのポーラスで脆い(焼きしまっていない)生石灰は擬似軟化状態にあり、融点が2,050℃のAl
2 O
3 も生石灰が生じた時点で融合しやすい状態におかれる。一方、炭酸ソーダの融点は851℃であるが、400℃付近からCO
2 を失ってNa
2 Oとなり、その融点は1,132℃である。溶融したNa
2 OはCaOやAl
2 O
3 を凝集させ、時間を掛けて溶融もしくは半溶融化が進むと1,400℃程度で混成状態になる。これを冷却して砕けば、一旦融化を経たプリメルト品であるゆえ、精錬剤として溶湯に投入したとき、その溶融は容易かつ迅速になされる。
【0045】
まずは精錬剤表層を形成するNa
2 Oが脱硫作用を進行させ、Na
2 Oが表面から消失したCaOはその性状を利してサルファ分をポーラス化で生じた微細な孔に進入させて捕捉する。このCaOとAl
2 O
3 とはカルシウム・アルミネート類似の挙動も発揮して、脱硫効果を助長する。