【解決手段】複合回路10は、平衡信号のうち正相信号が通る第1ダイプレクサ部20Aと、平衡信号のうち逆相信号が通る第2ダイプレクサ部20Bとで構成される。バラン部40は、低周波帯域側の第1バラン要素41と高周波帯域側の第2バラン要素42とを有する。第1バラン要素41、第2バラン要素42は、第1ダイプレクサ部20Aに接続され異なる二つの周波数帯域の信号が通る複数の線路L12、15をそれぞれ有し、また、第2ダイプレクサ部20Bに接続され二つの周波数帯域の信号が通る複数の線路L13、16をそれぞれ有する。線路L12、L13により一対の平衡線路46が構成され、また、線路L15、L16により一対の平衡線路46が構成される。さらに、第1バラン要素41、第2バラン要素42は、不平衡線路45をそれぞれ有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の複合回路では、回路構成上、分波・合成回路部を通過する全ての周波数帯域の信号がバランを通過する。したがって、バラン部の通過特性を広帯域にする必要がある。近年では、周波数帯域の数の増加に伴い、バラン部の通過特性の益々の広帯域化が求められている。
【0010】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、広帯域化に対応した高性能な複合回路、回路素子、回路基板、および通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る複合回路は、分波/合成部と、バラン部とを具備する。
前記分波/合成部は、異なる複数の周波数帯域を持つ平衡信号のうち正相信号が通る第1分波/合成部と、前記平衡信号のうち逆相信号が通る第2分波/合成部とを有する。
前記バラン部は複数のバラン要素で構成される。それらバラン要素の各々は、前記第1分波/合成部および前記第2分波/合成部にそれぞれ接続された、一の周波数帯域の前記正相信号および逆相信号がそれぞれ通る線路で構成される一対の平衡線路と、一つの不平衡線路とを有する。
この複合回路では、第1分波/合成部により、それぞれ異なる複数の周波数帯域の信号に分波され、または/および、それらの信号が合成される。そして、それら複数の周波数帯域の信号がそれぞれ通過可能に構成された複数のバラン部により、平衡−不平衡変換が行われる。これにより、広帯域化に対応した高精度な平衡−不平衡変換を行うことができる複合回路を実現することができる。
「分波/合成部」は、信号を分波および合成することのうち少なくとも一方を行う機能を有する。
【0012】
前記第1分波/合成部は、第1ローパスフィルタと、第1ハイパスフィルタとを有してもよい。
前記第2分波/合成部は、前記第1ローパスフィルタのカットオフ周波数を持つ第2ローパスフィルタと、前記第1ハイパスフィルタのカットオフ周波数を持つ第2ハイパスフィルタとを有してもよい。
これにより、複数のバラン要素への信号の通過帯域を実質的にそれぞれ同じとすることができる。
【0013】
前記複合回路は、前記不平衡線路に接続され、前記周波数帯域ごとの減衰極を形成する減衰回路部をさらに具備してもよい。
【0014】
本発明に係る回路素子は、導電パターンがそれぞれ形成された複数のシートが積層された積層体を具備する。
前記積層体は、第1回路パターン部と、第2回路パターン部とを有する。
前記第1回路パターン部は、上記の分波/合成回路を構成する。
前記第2回路パターン部は、上記のバラン部を構成する。
これにより、広帯域化に対応した高精度な平衡−不平衡変換を行うことができる複合回路を実現することができる。
【0015】
前記積層体は、グランド電極が形成されたグランド電極シートを含んでいてもよい。また、前記グランド電極シートと、前記積層体のうち、前記第2回路パターン部の、前記グランド電極以外の導電パターンが形成された1以上のシートとの間に、前記積層体のうち、前記第1回路パターン部の、前記グランド電極以外の導電パターンが形成された1以上のシートが配置されてもよい。
これにより、バラン部を構成する第2回路パターン部の導電パターンを、グランド電極から離すことができる。その結果、バラン部を構成するストリップラインとグランド電極との寄生容量の発生が抑制される。したがって、回路素子の小型、薄型化を実現しながらも、広帯域化を達成することができる。
【0016】
少なくとも前記第2回路パターン部は、第1エリアと、第2エリアとを有してもよい。
前記第1のエリアは、前記複数の周波数帯域を持つ信号のうち第1周波数帯域の信号が通過する線路で構成される。
前記第2のエリアは、前記積層体の積層方向から見て前記第1エリアから分割されて配置され、前記複数の周波数帯域を持つ信号のうち前記第1周波数帯域とは異なる第2周波数帯域を信号が通過する線路で構成される。
通過帯域周波数によってエリアを分割することにより、第1周波数帯域信号と第2周波数帯域信号の電磁結合を抑制することができる。
【0017】
前記第1回路パターン部の一部を構成するインダクタ電極は、前記積層体の積層方向から見て前記第1エリアおよび前記第2エリアに分割されて設けられていてもよい。
第2回路パターン部だけでなく、第1回路パターン部の一部も同様に、通過帯域周波数によってエリアを分割することにより、上記電磁結合の抑制に寄与する。
【0018】
前記第2回路パターン部の前記第1エリアおよび第2エリアをそれぞれ構成する線路のの長さがそれぞれ異なっていてもよい。
すなわち、第1および第2バラン要素において、異なる周波数に応じた平衡線路長が設計される。これにより、第1エリアを構成する線路と、第2エリアを構成する線路とを、それぞれ同じ枚数のシートに形成することができ、素子の低背化(薄型化)を実現することができる。
【0019】
前記積層体は、第1シートと、第2シートとを含んでいてもよい。
前記第1シートは、前記第2回路パターン部の一部を構成し、第1の厚みを有する。
前記第2シートは、記1以上の第1シートと、前記第1回路パターン部を構成するシートとの間に配置され、前記第2回路パターン部の一部を構成し、前記第1の厚みより厚い第2の厚みを有する。
これにより、分波/合成部とバラン部との距離を所定以上に保つことができる。その結果、バラン部を構成する第2回路パターン部の線路と、分波/合成部を構成するインダクタが電磁結合して信号がリークし、減衰特性が悪化する、という事態を防ぐことができる。
【0020】
本発明に係る回路基板は、基板と、上記の第1回路パターン部と、上記の第2回路パターン部とを具備する。
前記基板に、前記第1回路パターン部および前記第2回路パターン部の少なくとも一方を構成する線路のうち少なくとも一部の線路が形成されている。
【0021】
本発明に係る通信装置は、異なる複数の周波数帯域の信号が入力され、または前記信号を出力するアンテナと、上記の複合回路とを具備する。
【発明の効果】
【0022】
以上、本発明によれば、広帯域化に対応した高性能な複合回路、回路素子、回路基板、および通信装置を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0025】
1.複合回路
(1)複合回路の機能的構成
図1Aは、本発明の一実施形態に係る複合回路を機能的、概念的に示すブロック図である。複合回路10は、周波数帯域ごとの信号の分波および/または合成を行うダイプレクサ部(分波/合成部)20を備える。具体的には、ダイプレクサ部20は、第1ダイプレクサ部(第1分波/合成部)20Aおよび第2ダイプレクサ部(第2分波/合成部)20Bとで構成されている。
【0026】
複合回路10は、平衡信号を不平衡信号に変換し、また、不平衡信号を平衡信号に変換するバラン部40を備える。バラン部40は、複数のバラン要素として、例えば第1バラン要素41および第2バラン要素42を有する。
【0027】
複合回路10は、不平衡信号がそれぞれ入力(出力でもよい。以下同じ。)される、低周波側端子53'および高周波側端子54'を備え、また、平衡信号が出力(入力でもよい。以下同じ。)される共通端子51'および52'を備える。
【0028】
外部から複合回路10に入力される不平衡信号は、異なる複数の周波数帯域をそれぞれ持つ信号である。本実施形態では、異なる複数の周波数帯域として、比較的低い低周波帯域の信号(低周波帯域信号)と、比較的高い高周波帯域の信号(高周波帯域信号)を想定している。低周波側端子53'には低周波帯域信号が入力され、高周波側端子54'には高周波帯域信号が入力される。
【0029】
第1バラン要素41は、低周波側端子53'に接続されている。第2バラン要素42は、高周波側端子54'に接続されている。
【0030】
共通端子51'、52'は、平衡信号端子であり、互いに逆相の信号(正相信号および逆相信号)が出力される端子である。以降では、説明の便宜上、共通端子51'は正相の信号が通る端子であり、共通端子52'はその逆相の信号が通る端子とする。
【0031】
第1ダイプレクサ部20A、第2ダイプレクサ部20Bの低周波側端子33は、第1バラン要素41の低周波側の平衡端子35に接続される。第1ダイプレクサ部20A、第2ダイプレクサ部20Bの高周波側端子34は、第2バラン要素42の高周波側の平衡端子36に接続される。
【0032】
(2)複合回路のハードウェア構成(回路構成)
図2は、複合回路10を示す回路図である。バラン部40は、対応する周波数範囲ごとに設けられた、低周波帯域側の第1バラン要素41と高周波帯域側の第2バラン要素42とを有する。第1バラン要素41、第2バラン要素42は、各々、一つの不平衡線路45と、一対の平衡線路46、46とを備えている。
【0033】
バラン部40の不平衡線路45は、伝送線路L11、L14で構成される。これら不平衡線路45の一端は不平衡端子53および54に接続され、他端はグランドに接続されている。一対の平衡線路46は、伝送線路L12、L13、伝送線路L15、L16で構成される。つまり一対の平衡線路46、46は複数組設けられ、この複合回路10は、複数対の平衡線路を備える。一対の平衡線路46の一端はグランドに接続され、他端は、ダイプレクサ部20に接続される。符号55、55はグランド端子である。
【0034】
伝送線路L11〜L16は、それぞれ所望の周波数に対して、おおよそ1/4波長に相当するような電気長を有している。L11とL12、L13が電磁結合しており、L14とL15、L16が電磁結合している。
【0035】
低周波側の不平衡線路45にはインダクタL3の一端が接続され、インダクタL3の他端は、キャパシタC5の一方の電極に接続されている。キャパシタC5の他方の電極はグランドに接続されている。高周波側の不平衡線路45にはキャパシタC6が接続され、これと並列にグランドとの間にインダクタL4が接続されている。これらインダクタL3、L4、キャパシタC5、C6の値により、バラン部40のインピーダンスマッチング設計が行われる。また、これらのインダクタL3、L4、キャパシタC5、C6により、各バラン部40のフィルタ通過特性ごとの適切な減衰極が形成され、これらは、「減衰回路部」として機能する。
【0036】
ダイプレクサ部20は、各々、2次のローパスフィルタ21と、1次のハイパスフィルタ22とで構成されている。第1ダイプレクサ部20Aの第1ローパスフィルタ21aは、インダクタL1とキャパシタC3とで構成される。第2ダイプレクサ部20Bの第2ローパスフィルタ21bは、インダクタL2とキャパシタC4とで構成される。第1ダイプレクサ部20Aの第1ハイパスフィルタ22aは、キャパシタC1で構成される。第2ダイプレクサ部20Bの第2ハイパスフィルタ22bは、キャパシタC2で構成される。
【0037】
ローパスフィルタ21の一端は、一対の平衡線路46の一方を構成する伝送線路L12、L13に接続され、他端は、平衡端子51、52に接続される。同様に、ハイパスフィルタ22の一端は、一対の平衡線路46の他方を構成する伝送線路L15、L16に接続され、他端は、平衡端子51、52に接続される。
【0038】
第1ローパスフィルタ21aおよび第2ローパスフィルタ21bのカットオフ周波数は実質同じになるように、インダクタL1、L2、キャパシタC3、C4が設計されている。同様に、第1ハイパスフィルタ22aおよび第2ハイパスフィルタ22bのカットオフ周波数は実質同じになるように、キャパシタC1、C2が設計されている。
【0039】
また、ローパスフィルタ21のインダクタL1、L2、キャパシタC3、C4は、ハイパスフィルタ22の通過帯域内でインピーダンスが増大するような設計となっている。また、ハイパスフィルタ22のキャパシタC1、C2は、ローパスフィルタ21の通過帯域内でインピーダンスが増大するような設計となっている。
【0040】
(3)複合回路の動作
不平衡端子53、54にそれぞれ不平衡信号S1、S2が入力される。そうすると、これら不平衡信号S1、S2は、バラン部40で平衡信号に変換され、ダイプレクサ部20に入力されて合成される。そして信号は、平衡端子51、52に平衡信号S3として出力される。
【0041】
逆に、平衡端子51、52に平衡信号S3が入力されると、ダイプレクサ部20にて低周波帯域信号と高周波帯域信号に分波されバラン部40に入力される。バラン部40で平衡信号が不平衡信号に変換され、不平衡信号S1、S2として不平衡端子53、54に出力される。
【0042】
このように、複合回路10を使用すれば、一つの平衡信号を低周波帯域信号および高周波帯域信号の2つの不平衡信号に分波することができる。また、逆に、2つの異なる周波数帯域の不平衡信号を一つの平衡信号に合成することができる。
【0043】
バラン回路には、平衡−不平衡変換を高精度に行うための最適な周波数帯域の通過特性が存在する。ローパスフィルタ21およびハイパスフィルタ22には、通過特性がそれぞれ最適化された第1バラン要素41および第2バラン要素42が接続される。これにより、挿入損失が低く、かつ。平衡−不平衡変換の精度が高い複合回路10が得られる。すなわち、本実施形態によれば、広帯域化に対応した高性能な複合回路10を実現することができる。
【0044】
図1Bは、上記特許文献1の
図1に示された複合回路を機能的に示すブロック図である。この特許文献1の複合回路では、一つのバランと一つのダイプレクサとが接続されるだけなので、本実施形態のような広帯域化を実現することはできない。
【0045】
2.従来の複合回路との比較
図3は、回路素子10Aの通過特性を示すグラフである。実線201が低周波帯域側の通過特性を示し、実線202が高周波帯域側の通過特性を示している。なお、本実施形態では低周波帯域側の通過帯域を699〜960MHz、高周波帯域側の通過帯域を1710〜2690MHzとした。比較のため、
図1Bに示した従来の複合回路を用いた場合の通過特性も、破線203、204で示している。
【0046】
従来の複合回路を用いた場合、低周波通過帯域内で最大2dB、高周波通過帯域内で最大6dBの挿入損失を生じる。これは、一つのバランを用いて低周波帯域および高周波帯域の信号を不平衡・平衡変換するために起こり、一つのバランの通過特性の広帯域にすることが困難であることに起因する。
【0047】
一方、本実施形態に係る回路素子10Aでは、低周波通過帯域内で最大1.2dB、高周波通過帯域内で最大1.1dBの挿入損失となった。この複合回路10を使用した回路素子10Aにより最大4.9dB(6dBから1.1dBへの改善)もの挿入損失が改善され、高性能の複合回路部品を得ることができる。
【0048】
3.複合回路を具現化する回路素子
(1)回路素子の全体構成
図4は、
図2に示した複合回路10を構成する回路部品である回路素子の例を示す斜視図である。
図5は、この回路素子10Aの分解斜視図である。回路素子10Aは、後述するように複数の誘電体シートが積層された積層体100を備える素子である。
【0049】
図4に示すように、例えばこの回路素子10Aの積層体100の一面(実装基板に搭載される面である被実装面)には、上述した平衡端子51、52、不平衡端子53、54およびそのグランド端子55が設けられている。
【0050】
図5に示すように、回路素子10Aは、ドクターブレード(Doctor Blade)方式など種々の方式により作製されたシート状の誘電体シート101〜111の上に、導電性ペーストを使い所望の導電パターン(電極パターン)が形成される。説明の便宜上、導電パターンが形成された誘電体シートを、以下では単に「シート」と言う。積層体100は、最下部のシート101から最上部のシート111まで順に積層されて構成されている。
【0051】
誘電体は、例えば、LTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics)やHTCC(High Temperature Co-fired Ceramics)などから適宜選択される。
【0052】
積層体100は、主にダイプレクサ部20を構成する第1回路パターン部11と、バラン部40を構成する第2回路パターン部12とを備える。なお、
図5において、グランド電極99が形成されたシート101であるグランド電極シートは、作図の都合上、第1回路パターン部11側に配置されている。グランド電極99は図示しないビアホール(Via hole)等を介してグランド端子55、55に電気的に接続される。
【0053】
誘電体シート102の上にキャパシタC3、C4、C5をそれぞれ構成するキャパシタ電極83、84、85が形成される。キャパシタ電極81b、82b、86bは、誘電体シート103上に形成されるキャパシタ電極81a、82a、86aと対を成して上記キャパシタC1、C2、C6を構成する。
【0054】
なお、キャパシタ電極86bは、接続電極93を介して不平衡端子54に接続される。キャパシタ電極81a、82aは、ビアホールを介して平衡端子51、52に接続される。
【0055】
誘電体シート105上には、インダクタL1、L2、L3をそれぞれ構成するインダクタ電極71、72、73が形成されている。インダクタ電極74は、インダクタL4を構成する。
【0056】
インダクタ電極71、72の一端は、誘電体シート104上に形成された接続電極91、92を介して平衡端子51、52に接続される。それらの他端は、キャパシタ電極83、84に接続される。インダクタ電極73の一端は、不平衡端子53に接続され、他端はキャパシタ電極85に接続される。インダクタ電極74の一端は、キャパシタ電極86bに接続され、他端は、グランド電極99に接続される。
【0057】
インダクタ電極71、74、73は、共通の一つの誘電体シート上に形成されているが、複数の誘電体シートにわたって形成されていても同様の効果が得られる。このことはバラン部について同様である。インダクタのQ値の改善を見込んで、インダクタ電極を二重に形成し導電率を低くする構造も考えられる。
【0058】
シート104の厚みが、他のシート101〜103、105の厚みより厚くなっている。このような構成により、例えばインダクタ電極71、74、73が、シート101上のグランド電極99に近接することによってインダクタのQ値(Q factor)が劣化する、という懸念を解消することができる。シート104の厚みは、100μm以上あることが好ましい。
【0059】
バラン部40を構成するシート106〜111のうち、シート106(第2のシート)の厚み(第2の厚み)は、他のシート107〜111(1以上の第1のシート)の厚み(第1の厚み)より厚くなっている。その理由については後述する。第2の厚みを有するシートは、1枚だけでなく複数あってもよい。
【0060】
誘電体シート106上には、ストリップライン電極63a、65aが形成される。ストリップライン電極63a、65aは、誘電体シート107上に形成されるストリップライン電極63b、65bに接続される。ストリップライン電極63a、63bは、伝送線路L13を構成し、その一端はインダクタ電極72に接続され、その他端はグランド電極99に接続される。ストリップライン電極65a、65bは、伝送線路L15を構成し、その一端はキャパシタ電極81bに接続され、その他端はグランド電極99に接続される。
【0061】
誘電体シート108上には、ストリップライン電極61a、66aが形成される。ストリップライン電極61a、66aは、誘電体シート109上に形成されるストリップライン電極61b、66bに接続される。ストリップライン電極61a、61bは、伝送線路L11を構成し、その一端はインダクタ電極73に接続され、その他端はグランド電極99に接続される。ストリップライン電極66a、66bは、伝送線路L16を構成し、その一端はキャパシタ電極82bに接続され、その他端はグランド電極99に接続される。
【0062】
誘電体シート110上には、ストリップライン電極62a、64aが形成される。ストリップライン電極62a、64aは、誘電体シート111上に形成されるストリップライン電極62b、64bに接続される。ストリップライン電極62a、62bは、伝送線路L12を構成し、その一端はインダクタ電極71に接続され、他端はグランド電極99に接続される。ストリップライン電極64a、64bは、伝送線路L14を構成し、その一端はキャパシタ電極86aに接続され、その他端はグランド電極99に接続される。
【0063】
上記各電極は、スクリーン印刷法や転写方式などにより誘電体シート上に形成される。電極材料としては、Ag、Pd、Pt、Cu、Ni、Au、Ag-Pd、Ag-Pt等からなる。これらの電極が誘電体シートに形成された後、熱加圧による積層や、接着剤を用いた密着積層が行われることにより、積層体100が得られる。
【0064】
積層体100が例えば700℃以上の高温で焼成される。必要に応じて積層体100にスクリーン印刷法や転写方式などで外部端子電極が形成されてもよい。その後、必要に応じてメッキが施されて、回路素子10Aが得られる。
【0065】
ここで、先行文献1の複合回路では、バラン部がグランド電極に挟まれており、バランに使用されるストリップライン電極はグランド電極との間に寄生容量を生じる。この寄生容量はバラン部の通過特性を広帯域にすることを阻害し、かつ、素子の小型化、薄型化によりこの寄生容量が増大する。よって先行文献1の複合回路では、れ以上、素子を小型化、広帯域化にすることが難しく、近年のマルチバンド向け携帯端末においては、挿入損失の大きい複合回路となる。
【0066】
そこで、本実施形態に係る回路素子10Aでは、グランド電極99が形成されたシート101と、バラン部40との間に、ダイプレクサ部20が配置されている。より詳細には、シート101と、バラン部40を構成する第2回路パターン部12のシート106〜111(シート101以外)との間に、ダイプレクサ部20を構成する第1回路パターン部11のシート102〜105(シート101以外)が配置されている。
【0067】
この構成により、バラン部40を構成する各ストリップライン電極およびグランド電極99間で生じる寄生容量を最小限にすることができる。したがって、回路素子10Aの小型、薄型化を実現しながらも、バラン部40の通過特性の広帯域化を達成することができる。
【0068】
もちろん、次に列挙するような場合には、バラン部40とグランド電極99との間に、ダイプレクサ部20を配置しなくても、上記のような問題は生じない。
グランド電極99とバラン部40の充分な距離を確保できる場合、
誘電体シートの材料として、低誘電率材料、例えば比誘電率が5以下の材料等を使用し、寄生容量を抑えることができる場合、
バラン部40、もしくはバラン部40とグランド電極99との間に部分的に誘電率の低い材料(例えば異種材料)を挿入してこれらを接合する場合。
【0069】
(2)周波数帯域ごとの導電パターンのエリアの設定
図6は、回路素子10Aの積層方向で見た透視図である。図では、わかりやすいように、導電パターンとして、バラン部40のストリップライン電極、およびダイプレクサ部20のインダクタ電極のみを示している。
【0070】
これらストリップライン電極およびインダクタ電極は、第1周波数帯域としての低周波帯域エリア(第1エリア)と、第2周波数帯域としての高周波帯域エリア(第2エリア)に分割されている。すなわち、低周波帯域の回路に用いられるバラン部40を構成するストリップライン電極61〜63、およびローパスフィルタ21等を構成するインダクタ電極71〜73は、低周波帯域エリアに形成されている。高周波帯域の回路に使用されているバラン部40を構成するストリップライン電極64〜66、およびハイパスフィルタ22等を構成するインダクタ電極74は、高周波帯域エリアに形成されている。
【0071】
これらストリップライン電極およびインダクタ電極は電磁結合を生じやすい。したがって、これらのストリップライン電極やインダクタ電極を同一エリアに形成した場合、電磁結合により信号がリークしダイプレクサ部の機能を損なうおそれがある。そこで、通過帯域周波数によってエリアを分割することにより高周波帯域信号と低周波帯域信号の電磁結合を抑制することができる。
【0072】
また、低周波帯域信号の波長が高周波帯域信号の波長に比べて長いことから、低周波帯域エリアのストリップライン電極およびインダクタ電極の長さが、高周波帯域エリアのそれに比べ、長く設計される。その結果、積層方向から見て、低周波帯域エリアの導電パターンを包絡する面積(包絡面積)は、高周波帯域エリアの導電パターンを包絡する面積(包絡面積)より大きくなる。このような構成によれば、低周波帯域エリアを構成する線路と、高周波帯域エリアを構成する線路とを、それぞれ同じ枚数のシートに形成することができ、素子の低背化(薄型化)を実現することができる。
【0073】
(3)ダイプレクサ部とバラン部との距離の設定
ここで上述したように、バラン部40を構成するシート106〜111のうち、シート106の厚みを厚くした理由について述べる。シート106は、バラン部40を構成する1以上のシート107〜111と、ダイプレクサ部20の一部を構成するシート105との間に配置される。すなわち、このシート106は、バラン部40の、最もダイプレクサ部20寄りに配置されるシートである。
【0074】
このシート106の厚みを他のものより厚くすることにより、ダイプレクサ部20とバラン部40との距離を所定値以上に保つことができる。以下、これについて説明する。
【0075】
ここでいう距離とは、バラン部40を構成する線路の包絡部(包絡表面)と、ダイプレクサ部20を構成する線路の包絡部(包絡表面)との間の最も近い位置での距離である。
【0076】
図7は、ダイプレクサ部とバラン部との距離を変動させた際の減衰特性を示すグラフである。ダイプレクサ部を構成するローパスフィルタは、高周波帯域周波数(本実施形態では1710MHz〜2690MHz)を減衰させ、ハイパスフィルタは、低周波帯域周波数(本実施形態では699〜960MHz)を減衰させる。グラフ上、減衰量が負の無限大(negative infinity)方向に向かうほど、高い減衰特性を得られていることを意味し、良好な性能を持つダイプレクサといえる。
【0077】
図7から、ダイプレクサ部とバラン部との距離が短いほど減衰特性が悪く、距離が長いほど減衰特性が良好であることが確認できる。これは、ダイプレクサ部とバラン部との距離が近接すると、バラン部を構成するストリップライン電極と、ダイプレクサ部を構成するインダクタ電極とが電磁結合し、信号がリークすることにより減衰特性が悪化すると考えられるからである。
【0078】
ダイプレクサ部の減衰特性が充分に確保されていたとしても信号のリークによって結果的にダイプレクサ部の減衰特性が悪化したようになってしまう。この減衰特性の悪化を防ぐためには、ダイプレクサ部とバラン部との距離を少なくとも50μm以上確保する必要がある。本実施形態では、上述のようにシート106の厚みを所定の厚みとすることにより、ダイプレクサ部とバラン部との距離を所定値以上に確保することができる。本実施形態では、ダイプレクサ部20とバラン部40との距離を100μm確保されている。
【0079】
以上のように、良好な減衰特性を得るためには、ダイプレクサ部20とバラン部40との距離は、50μm以上、100μm以上、さらには200μm以上確保されることが望ましい。その上限としては、回路素子が大型化しすぎない程度の値が考慮され、例えば500μm〜1mmである。
【0080】
図8は、ダイプレクサ部とバラン部との距離を所定値以上に保つための回路素子の変形構成例を示す。この図では、回路素子160Aを、主にバラン部を構成する第1積層体161と、主にダイプレクサ部を構成する第2積層体161とに分離して示す。第1積層体161、第2積層体162は、上述のように複数のシートが積層されてそれぞれ構成される。
【0081】
バラン部を構成する第1積層体161は、積層方向(図中縦方向)から見て、例えば仮想的に4つのエリアに分割されている。4つのエリアのうち例えば対角線に沿って配置された2つのエリアに低周波帯域エリア161aおよび高周波帯域エリア161bがそれぞれ配置され、これらのエリア161a、161bに導電パターンが形成されている。
【0082】
ダイプレクサ部を構成する第2積層体162も同様に、第1積層体161の4つのエリアに対応するように、仮想的に4つのエリアに分割されている。4つのエリアのうち、第1積層体161の対角線と交わる別の対角線に沿って配置された2つのエリアに、低周波帯域用のインダクタ電極が形成されるエリア162aおよび高周波帯域用のインダクタ電極が形成されるエリア162bがそれぞれ配置されている。
【0083】
このように、高周波帯域側のエリアと低周波帯域側のエリアとが分けられることにより、上記実施形態と同様に、低周波帯域信号と高周波帯域信号の電磁結合を抑制することができる。また、このような構成によれば、回路素子160Aのフットプリントは大きくなるが、ダイプレクサ部のインダクタ電極とバラン部との距離を所定値以上に保つことができ、減衰特性の悪化を防ぐことができる。
【0084】
4.他の実施形態に係る複合回路
上記実施形態では、ダイプレクサ部20として、異なる二つの周波数帯域の信号をそれぞれ分波・合成するダイプレクサ部20が用いられた。しかし、これに限定されるものではなく、異なる三つ以上の周波数帯域を持つ信号を分波・合成するマルチプレクサ等を用いることもできる。例として、
図9は、主に三つの周波数帯域を持つ信号を分波および合成することのうち少なくとも一方を行うマルチプレクサ部220を備えた複合回路210の構成を示す。マルチプレクサ部220は、第1分波/合成部としての第1マルチプレクサ部220A、第2分波/合成部としての第2マルチプレクサ部220Bを有する。
【0085】
また、複合回路210は、バラン部240を備える。バラン部240は、低周波帯域、高周波帯域、およびそれらの間の周波数帯域(以下、中周波という。)を持つ信号(の正相信号および逆相信号)が通る平衡線路にそれぞれ接続された3つのバラン要素を有する。具体的には、バラン部240は、低周波帯域の信号が通る第1バラン要素241、中周波帯域信号が通る第2バラン要素242、および高周波帯域の信号が通る第3バラン要素243を有する。
【0086】
図10A、Bは、
図9に示す複合回路210の回路素子210A、210Bの導電パターンが形成される各エリアの配置例を示す。これらの図に示すように、低周波、中周波、高周波の各帯域の信号が通る線路がエリア211、212、213ごとに分割されて配置される。これら低周波エリア211、中周波エリア212、高周波エリア213の面積、つまり線路が形成される領域の包絡面積は、上述のように、周波数が低い信号が通るエリアほど、大きくなる(線路が長くなる)。
【0087】
図10Aに示す回路素子210Aの例では、一方向に、低周波帯域エリア211、中周波帯域エリア212、高周波帯域エリア213がこの順で配列される。
【0088】
図10Bに示す回路素子210Bの例では、最も短い線路を有する高周波帯域エリア213と、その次に短い線路を有する中周波帯域エリア212とが一方向に配列されている。また、その中、高周波帯域エリア212、213の配列方向に直交する方向に、最も長い線路を有する低周波帯域エリア211が、中、高周波帯域エリア212、213の組に対して配置されている。
【0089】
このような構成の複合回路210および回路素子210A,Bであっても、上記実施形態に係る複合回路と同様の効果が得られる。
【0090】
5.通信装置
図11は、上記実施形態に係る複合回路10、または回路素子10Aを搭載した通信装置の一例として、携帯電話機に代表される無線通信端末機の構成を示すRFブロックである。
【0091】
この無線通信端末機1の構成は、W−CDMA(Wideband Code Division Multiple Access)およびLTE通信方式に対応した携帯電話端末の構成である。ここでは、W−CDMAおよびLTEを例に挙げているが、例えば、GSM(登録商標)(Global System for Mobile Communications)に対応した回路ブロックがあってもよい。
【0092】
本実施形態におけるW−CDMAおよびLTE通信方式では、Low Band AはBand-5(824〜894Hz)に、Low Band BはBand-8(880〜960Hz)に、Low Band CはBand-20(791〜845Hz)に対応し、High Band AはBand-1(1920〜2170Hz)に、High Band BはBand-3(1710〜1880Hz)に、High Band CはBand-7(2500〜2690Hz)に対応している。
【0093】
無線通信端末機1は、アンテナ301、ダイプレクサ302、カプラ303、アンテナスイッチ304、デュプレクサ305、スイッチ306、PA307(パワーアンプ)、IC308(RF Chipset)、バランスダイプレクサ310等を備える。バランスダイプレクサ310が、上記実施形態に係る複合回路10に相当する。
【0094】
カプラ303、アンテナスイッチ304、スイッチ306、PA307については、それぞれ、低周波帯域信号用および高周波帯域信号用がある。図中、上半分に示した要素が低周波帯域信号用であり、下半分に示した要素が高周波帯域信号用である。
【0095】
無線通信端末機1は、
図11に示す構成以外にマイクロホン、スピーカ、ディスプレイ、各種センサなどを備えているが、本実施形態における説明では不要であるため図示を省略した。
【0096】
アンテナ301を介して入力される受信信号は、ダイプレクサ302によって低周波帯域信号および高周波帯域信号に分波され、分波された各信号がカプラ303を通過する。これら低周波帯域信号、高周波帯域信号は、アンテナスイッチ304によって選択された周波数帯域の回路(デュプレクサ305等)を介して、IC308に入力される。デュプレクサ305に入力される受信信号(RX)は、所定の周波数帯域に制限されて、バランス型の受信信号が図示しないローノイズアンプに出力される。デュプレクサ305は、受信信号および送信信号(TX)を分波および合成する機能を有する。ローノイズアンプは、入力される受信信号を増幅し、これをIC308に出力する。IC308は、入力される受信信号に基づいて音声信号への復調処理を行い、また、無線通信端末機1内の各部の動作を制御する。
【0097】
一方、信号を送信する場合は、IC308は送信信号を生成する。生成された送信信号は、PA307で増幅されてデュプレクサ305に入力される。デュプレクサ305は、入力される送信信号のうち所定の周波数帯域の信号を通過させる。デュプレクサ305から出力される送信信号は、アンテナスイッチ304を介してカプラ303を通過し、ダイプレクサ302によって他の周波数帯域の送信信号と合成されアンテナ301から外部に出力される。
【0098】
送信時において、各信号がカプラ303を通過する際に、微量ではあるが一定の割合(1%程度)で送信信号の中から電力が抽出される。抽出された電力は、バランスダイプレクサ310(複合回路10)で他の周波数帯域の抽出信号と合成され、不平衡−平衡変換される。バランスダイプレクサ310から出力された平衡信号は、IC308の電力検出部309へフィードバックされる。IC308は、この抽出された電力をモニタリングしながらPA307の増幅度を調整し安定した送信信号を得る。
【0099】
このように無線通信端末機1がバランスダイプレクサ310(複合回路10)を備えることで、複数の周波数帯域に対応した通信装置を実現することができる。
【0100】
図12は、
図11に示した無線通信端末機1の変形例に係る構成のRFブロックである。この例に係る無線通信端末機2は、
図11に示した無線通信端末機1のモノポールアンテナ301に代えて、ダイポールアンテナ311が利用される。この場合、ダイポールアンテナ311の端子にも、上記バランスダイプレクサ310(複合回路10)が接続される。
【0101】
6.他の実施形態、変形例
本発明は、以上説明した実施形態に限定されず、他の種々の実施形態を実現することができる。
【0102】
上記実施形態では、インダクタ電極71、72、73、74は、渦巻き状の形状でかつ誘電体シート105上のみに形成された。しかし、より高いインダクタンス値を得るために、インダクタ電極を複数の誘電体シートに形成し螺旋状(螺旋状とは積層方向に立体的なものを意味する。)に形成することによっても、上記実施形態と同様の効果が得られる。また、インダクタのQ値の改善のため、インダクタ電極を二重に形成し導電率を低くする構造も実現可能である。
【0103】
ダイプレクサ部20では、例えば、各ローパスフィルタ21やハイパスフィルタ22の次数(段数)を必要に応じて変更することもできる。バラン部40として、上記実施形態のようにストリップライン等を使用した分布定数型バランだけでなく、チップインダクタやチップキャパシタを使用した集中定数型バランを用いることもできる。
【0104】
同様に、キャパシタ電極81〜86においても本実施例では2つの誘電体シート102、103上に形成したが、必要とされる容量値に応じて3つ以上の誘電体シートにキャパシタ電極を形成することも可能である。
【0105】
上記実施形態では省略したが、誘電体シート111上にさらに誘電体シートを積み重ね、その上に方向確認用の認識マークなどが形成されてもよい。
【0106】
上記実施形態では、導電パターンが形成された誘電体シートが積層されて一つの回路素子10Aが構成され、これにより複合回路10が構成された。しかし、複合回路10の導電部の一部を構成するインダクタ、キャパシタ、その他の電極が、例えば回路基板(半導体基板、樹脂実装基板等)上に形成されてもよい。この場合、基板上に形成される素子は、インダクタ、キャパシタ、SAW(Surface Acoustic Wave)素子、その他のフィルタ素子として形成され得る。
【0107】
誘電体シートの素材はセラミックスに限定されるものではなく、樹脂材料やガラス材料などシート化が可能なものであれば、同様の効果が得られることは明白である。
【0108】
図11、12の無線通信端末機は単なる例示であり、少なくとも本実施形態に係る複合回路を備えた通信装置であれば、他の構成を有する通信装置であっても本実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0109】
以上説明した各形態の特徴部分のうち、少なくとも2つの特徴部分を組み合わせることも可能である。