【解決手段】 本発明の浴室用内装シート1は、シート本体2と、前記シート本体2の表面に設けられた表層3と、を有し、前記表層3が、塩化ビニル系樹脂と、可塑剤と、熱安定剤と、を含み、前記熱安定剤が、液状熱安定剤と固体状熱安定剤を含み、前記液状熱安定剤の含有量が、前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対し1.5質量部〜8.5質量部である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について、適宜図面を参照しつつ説明する。
なお、本明細書において、「AAA〜BBB」という記載は、「AAA以上BBB以下」を意味する。また、本明細書において、浴室用内装シートを単に「内装シート」と表す場合がある。また、本明細書において、表層に含まれる各成分の含有量について言及する際は、塩化ビニル系樹脂の総含有量を100質量部とした場合を基準とする。
また、本発明の内装シートは、浴室の床面、浴室の壁面、及び浴室の天井面から選ばれる少なくとも1つの浴室の内面に使用される。特に、本発明の内装シートは、白化抑制効果に優れることから、水分が付着し易い浴室の床面に好適に使用できる。本明細書において、便宜上、浴室の床面に用いられる内装シートを、便宜上、床シートと称する場合がある。
【0012】
[浴室用内装シートの概要]
図1は、本発明の浴室用内装シートの1つの実施形態を示す平面図であり、
図2は、その拡大断面図である。
図2に示すように、本発明の内装シート1は、シート本体2と、前記シート本体2の表面に設けられた表層3と、を有する。なお、本発明の内装シートは、シート本体2と、表層3と、を有していればその形状は限定されず、その用途も特に限定されない。本実施形態では、内装シートを床シートとして用いる一例を説明する。
シート本体2は、浴室用内装シートの基本骨格となる層である。シート本体2は、単層体であってもよく、2以上の層を有する多層体であってもよい。
図2では、シート本体2は、例えば、下から順に、下層21、補強層22,上層23、及び意匠層24を有する多層体である。
表層3は、例えば、シート本体2の機械的衝撃によって損傷することや、シート本体2の内部に水分が浸潤することなどを目的として設けられる。かかる表層3は、シート本体2の保護層として機能し得る。
表層3はシート本体2の表面に設けられ、
図2では、シート本体2の最上層である意匠層24の表面に表層3が設けられている。表層3は、内装シート1の最も上に設けられた層であり、空気中に露出した層である。
以下、
図1及び
図2に示した本発明の1つの実施形態に係る内装シートの各層について説明する。
【0013】
[浴室用内装シートの形状]
本発明の内装シートの形状は特に限定されないが、内装シートが浴室の床面に使用される場合、その表面には、滑り止めのための凹凸部が形成されていることが好ましい。
例えば、
図1乃至
図3に示す内装シート1(床シート)は、その表面に、複数の凸部31及び凹部32からなる凹凸パターン領域4を有する。複数の凸部31は、縦横に隣接して配置され、複数の凹部32は、隣接する凸部31の間に形成されている。本実施形態では、複数の凸部31及び凹部32からなる凹凸パターン領域4を1つのユニットとし、そのユニット単位がシート本体2の縦横に複数配置されている。なお、図示例では、凸部31の形状は、平面視略正方形状であるが、この形状は任意の形状に適宜変更することができる。また、図示例では、複数の凸部31は同形同大に形成されているが、形状や大きさの異なる凸部31が混在していてもよい。
【0014】
図2及び
図3に示すように、凸部31は、突出端に略平坦な面を有し、この略平坦な面が凸部31の頂面である。頂面は傾斜面とされている。従って、凸部31の頂面に付着した水を、頂面の傾斜に従い1つの方向に流すことができ、排水性が向上する。
また、
図3に示すように、1つの凹凸パターン領域4中では、頂面の傾斜方向が異なる少なくとも2つの凸部31が設けられている。
各凸部31の頂面の傾斜角度は、適宜設定できるが、余りに小さいと、頂面に付着した水が凹部32の方へ流れ難くなり、余りに大きいと、足裏に感じる凹凸感が増し、入浴者に違和感を与えるおそれがある。このような観点から、各頂面の傾斜角度は、tan
−1(1/100)度〜tan
−1(10/100)度の範囲が好ましく、tan
−1(2/100)度〜tan
−1(8/100)度の範囲がより好ましく、tan
−1(3/100)度〜tan
−1(7/100)度の範囲がさらに好ましい。なお、頂面の傾斜角度は、浴室用内装シート1の裏面を水平面上に載せた状態で、水平面と頂面の成す角度をいう。
なお、凸部31の表面には、無数の微細突起が形成されていてもよい。
図3において、凸部3の頂面に付した無数のドットは、前記微細突起を示している。
このように、内装シート1は、表面の凹凸部が、滑り止めとして機能するだけでなく、排水性をも向上させている。これによって、特に凸部31の表面に水分が長時間接触することを防止し、表層3の白化を抑制することができる。
以下、
図2に示した本発明の1つの実施形態に係る内装シート1の各層について説明する。
【0015】
[シート本体]
シート本体2は、柔軟性を有するシートから形成されていることが好ましい。これによって、内装シート1に柔軟性を付与できる。柔軟な内装シート1は、簡易に保管・運搬でき且つ施工時に浴室内に容易に搬入できる。
なお、柔軟性を有するとは、例えば、シート本体2や内装シート1が、直径10cmの円柱状の巻芯に巻き取ることができることを意味する。
シート本体2は、非発泡体のみから構成されていてもよいが、発泡体を含むものが好ましい。発泡体を含むシート本体2を有する内装シート1は、クッション性に優れ、さらに、浴室床面に膝を付いた際などの痛みを緩和できる上、浴室におけるヒートショックの低減し、温感を高めることもできる。また、一般に浴室内は音が響きやすいが、発泡体を含んでいることにより、洗面器などを床面に落下させた場合でも、衝撃音を抑制できる。特に、シート本体2が発泡体を含むシートの場合、その表面における柔軟性も高くなるため、前記痛みを緩和する効果及び衝撃音の抑制効果も良好となる。
シート本体2の厚みは、特に限定されないが、例えば、1.5mm〜10mmであり、好ましくは、1.8mm〜7mmである。
【0016】
上層23及び下層21は、シート本体2を主として構成する層である。
上層23及び下層21の形成材料は、特に限定されず、軟質合成樹脂、半硬質合成樹脂、硬質合成樹脂、ゴム、FRPなどが挙げられる。前記軟質、半硬質及び硬質は、JIS K6900(1994)のプラスチック−用語に記載の通りである。好ましくは、上層23及び下層21は、柔軟性を有する内装シート1を構成するために、軟質合成樹脂、半硬質合成樹脂、ゴムなどから形成される。
上層23及び下層21は、発泡体又は非発泡体の何れでもよいが、少なくとも何れか一方が発泡体からなることが好ましい。
上層23及び下層21は、同じ材料で形成されていてもよいし、異なる材料で形成されていてもよい。例えば、上層23及び下層21は、合成樹脂を含む層から形成される。上層23及び下層21を形成する樹脂としては、塩化ビニル系樹脂;ポリオレフィン系樹脂;エチレン−酢酸ビニル共重合体などの酢酸ビニル系樹脂;エチレン−メタクリレート樹脂などのアクリル系樹脂;アミド系樹脂;ポリエステル系樹脂;オレフィンエラストマー、スチレンエラストマーなどの各種エラストマーなどの熱可塑性樹脂が用いられる。優れた柔軟性を有し、且つ表層3との密着性に優れることから、上層23及び下層21の主たる樹脂成分としては、塩化ビニル系樹脂が好ましい。
なお、本明細書で、ある層の主たる樹脂成分とは、層中に含まれる樹脂成分全体に対して(樹脂成分全体を100質量%とした場合)、60質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上を占める樹脂を意味する。
【0017】
補強層22は、シート本体2の剛性を高め、且つシート本体2に寸法安定性を付与するための層である。
シート本体2中における補強層22の配置は特に限定されないが、
図2に示すように、上層23と下層21の間に埋設されることが好ましい。図示しないが、補強層22は、下層21の裏面に設けられていてもよい。また、図示しないが、補強層22は複数設けられていてもよく、例えば、補強層22が、上層23と下層21の間及び下層21の裏面にそれぞれ設けられていてもよい。
補強層22としては、繊維を含んでいれば特に限定されないが、例えば、ガラスマット、ガラスネット、樹脂製マット、樹脂製ネット、無機繊維又は有機繊維からなる不織布又はフェルト、及び、織布などが挙げられる。
補強層22に用いられる繊維は、上層23及び下層21との接着性が高いものが好ましく、例えば、ガラス繊維、ビニロン繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリイミド繊維を例示できる。特に、強度に優れ且つ寸法変化が小さいことから、ガラス繊維が好ましい。ガラス繊維を用いる場合、10g/m
2〜100g/m
2のガラス繊維織布又は不織布がより好ましい。また、例えば、ポリエステルなどの他の繊維を用いた織布又は不織布の目付量についても、ガラス繊維と同程度の目付量が好ましい。
補強層22の厚みは、特に限定されないが、通常、0.1mm〜0.4mm程度である。
【0018】
意匠層24は、内装シート1の表面に柄を表出させる機能を有する。意匠層は、例えば、デザイン(意匠)を印刷又は転写する、着色された樹脂シートを積層する、或いは、シート本体2(上層23)に着色剤を含ませることによりシート本体2の表面自体をデザインとする、などの方法によって形成できる。
意匠層24が、印刷、転写又は樹脂シートなどの樹脂によって形成される場合、好ましくは、意匠層24は、上記上層23及び下層21の欄で例示したような熱可塑性樹脂から形成される。意匠層24の主たる樹脂成分としては、塩化ビニル系樹脂が好ましい。
意匠層24の厚みは、特に限定されないが、好ましくは0.05mm〜0.3mmである。
【0019】
なお、シート本体2は、
図2で示される層構成に限定されず、例えば、意匠層24や補強層22が設けられていなくてもよく(図示せず)、さらに、下層21の裏面にスパンボンドからなる他の補強層が設けられていてもよい(図示せず)。
【0020】
[表層]
表層3は、内装シート1の最も上(最も外側)に設けられた層である。表層3の表面は空気中に露出しているため、浴室内の水や湯に晒される。表層3は、透明性を有していてもよく透明性を有していなくてもよいが、好ましくは透明性を有する。表層3が透明性を有していれば、その下側に上述の意匠層24を設けることで、内装シート1の外側から表層3を通じて意匠層24のデザインを視認することができる。
本発明では、表層3は、塩化ビニル系樹脂と、可塑剤と、熱安定剤を含んでいる。以下、表層3に含まれるこれらの成分について説明する。
【0021】
(塩化ビニル系樹脂)
塩化ビニル系樹脂は、製造容易で且つ適度な柔軟性を有し、コスト的にも優れることから、内装シートの表層の形成材料として好適である。
塩化ビニル系樹脂は、少なくとも塩化ビニルの単量体(クロロエチレン)を重合させることで形成された重合体(ポリマー)である。塩化ビニル系樹脂には、クロロエチレンを単独重合させてなる重合体(ホモポリマー)だけでなく、クロロエチレン及びクロロエチレンと共重合し得る他の単量体の共重合体(コポリマー)、ホモポリマー及びコポリマーの混合物、並びに2種以上のコポリマーの混合物が含まれる。なお、混合物とは、ホモポリマーとコポリマーが、又は、コポリマー同士が実質的に重合せずに混練された重合体を意味する。
塩化ビニル系樹脂としては、具体的には、塩化ビニル重合体(ホモポリマー);部分架橋塩化ビニル;塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−エチレン共重合体、塩化ビニル−プロピレン共重合体、塩化ビニル−スチレン共重合体、塩化ビニル−イソブチレン共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル−ブタジエン共重合体、塩化ビニル−イソプレン共重合体、塩化ビニル−塩素化プロピレン共重合体などの塩化ビニルを含む共重合体(コポリマー);ホモポリマーと1種以上のコポリマーの混合物、2種以上のコポリマーの混合物;などが挙げられる。
【0022】
前記塩化ビニル重合体(ホモポリマー)は、乳化重合法、懸濁重合法、溶液重合法、塊状重合法などで製造されたものを用いることができる。加工し易く且つ取り扱い易く、また白化し難いことから、懸濁重合法で得られる塩化ビニル樹脂が好ましい。
懸濁重合法で得られる塩化ビニル樹脂は、好ましくは20〜100μmの微細粉末である。前記懸濁重合法による塩化ビニル樹脂は、その平均重合度が700〜1500程度のものが好ましく、更に700〜1000程度のものがより好ましい。塩化ビニル重合体(ホモポリマー)は、サスペンションタイプの重合体であってもよく、ペーストタイプの重合体であってもよい。
前記塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体などのクロロエチレンを含む共重合体は、ブロック状又はランダム状の何れの重合形態のものでも構わない。前記共重合体の平均重合度は700〜1000程度が好ましく、更に700〜800程度がより好ましい。
【0023】
表層には、塩化ビニル系樹脂が含まれているが、好ましくは、表層には、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体が実質的に含まれない。ここで、実質的に塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体を含まないとは、表層に塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体が完全に含まれていない場合だけでなく、微量(例えば、1質量部以下)の塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体が含まれている場合を含む。
また、表層が塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体を含む場合、その含有量は、塩化ビニル系樹脂の総量(100質量部)に対して、25.0質量部以下であることが好ましく、より好ましくは20.0質量部以下であり、さらに好ましくは10.0質量部以下であり、特に好ましくは8.0質量部以下である。
塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体の配合量が少なければ少ないほど、製造時における熱安定性を維持しつつ、表層の白化をより効果的に抑制することができる。この理由は明らかではないが、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体の構造は内部に水分を保持し易いため塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体の含有量が少なければ少ないほど内装シートの白化を抑制できる、と本発明者は推定している。
【0024】
(可塑剤)
可塑剤は、主として表層に含まれる塩化ビニル系樹脂の柔軟性を向上させることを目的に添加される添加剤である。塩化ビル系樹脂は、表層の主成分であるため、塩化ビニル系樹脂の柔軟性が向上すれば、表層の柔軟性も向上する。なお、表層が柔軟性を有するとは、例えば、表層が、直径10cmの円柱状の巻芯に巻き取ることができることを意味する。
可塑剤としては、例えば、ポリエステル系可塑剤、グリセリン系可塑剤、多価カルボン酸エステル系可塑剤、ポリアルキレングリコール系可塑剤などが挙げられる
【0025】
ポリエステル系可塑剤としては、例えば、アジピン酸、セバチン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ロジンなどの酸成分と、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどのジオール成分からなるポリエステルや、ポリカプロラクトンなどのヒドロキシカルボン酸からなるポリエステルなどが挙げられる。
グリセリン系可塑剤としては、例えば、グリセリンモノアセトモノラウレート、グリセリンジアセトモノラウレート、グリセリンモノアセトモノステアレート、グリセリンジアセトモノオレート及びグリセリンモノアセトモノモンタネートなどが挙げられる。
多価カルボン酸系可塑剤としては、例えば、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジベンジル、フタル酸ブチルベンジルなどのフタル酸エステル、トリメリット酸トリブチル、トリメリット酸トリオクチル、トリメリット酸トリヘキシルなどのトリメリット酸エステル、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸n−オクチル−n−デシル、アジピン酸メチルジグリコールブチルジグリコール、アジピン酸ベンジルメチルジグリコール、アジピン酸ベンジルブチルジグリコールなどのアジピン酸エステル、アセチルクエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチルなどのクエン酸エステル、アゼライン酸ジ−2−エチルヘキシルなどのアゼライン酸エステル、セバシン酸ジブチル、及びセバシン酸ジ−2−エチルヘキシルなどが挙げられる。
ポリアルキレングリコール系可塑剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(エチレンオキサイド・プロピレンオキサイド)ブロック及び/又はランダム共重合体、ポリテトラメチレングリコール、ビスフェノール類のエチレンオキシド付加重合体、ビスフェノール類のプロピレンオキシド付加重合体、ビスフェノール類のテトラヒドロフラン付加重合体などのポリアルキレングリコールなどが挙げられる。
可塑剤としては、好ましくは、多価カルボン酸系可塑剤が用いられ、より好ましくはフタル酸エステルが用いられ、特に好ましくはフタル酸ジオクチルが用いられる。多価カルボン酸系可塑剤は、塩化ビニル系樹脂に対する可塑化効率が高い。そのため、多価カルボン酸系可塑剤を用いることで内装シートの製造コストをより抑制することができる。
【0026】
表層に含まれる可塑剤の含有量の下限値は、特に限定されないが、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、好ましくは24.0質量部であり、より好ましくは26.0質量部であり、さらに好ましくは32.0質量部であり、特に好ましくは33.0質量部である。また、表層に含まれる可塑剤の含有量の上限値は、特に限定されないが、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、好ましくは41.0質量部であり、より好ましくは38.0質量部であり、特に好ましくは35.0質量部である。
可塑剤の含有量を上記範囲とすることで、白化し難く熱安定性に優れた内装シートを得ることができる。特に、可塑剤の含有量が、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して26.0質量部〜38.0質量部であれば、さらに柔軟性に優れた内装シートを得ることができる。
【0027】
(熱安定剤)
熱安定剤は、主として内装シート製造時の熱によって表層に変色や硬化などの形質変化が生じることを防止するために添加される添加剤である。本発明の内装シートでは、熱安定剤として、液状熱安定剤と固体状熱安定剤が用いられる。液状熱安定剤と固体状熱安定剤を併用することにより、内装シートの白化を効果的に抑制できる。
液状熱安定剤は、その態様が液状(ゾル状を含む)であって、常温常圧(25℃の大気圧下)にて流動性を有する安定剤である。液状熱安定剤は、流動性を有する状態で流通し、使用される。固体状熱安定剤は、常温常圧にて流動性を有さない安定剤である。固体状熱安定剤は、流動性を有さない状態で流通し、使用される。
【0028】
液状熱安定剤は、エポキシ系熱安定剤及び金属系熱安定剤から選ばれる少なくとも1種を含んでいることが好ましい。
液状のエポキシ系熱安定剤としては、例えば、エポキシ化植物油、エポキシ化脂肪酸アルキルエステルなどが挙げられる。
エポキシ化植物油としては、例えば、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油などが挙げられる。また、エポキシ化脂肪酸アルキルエステルとしては、例えば、エポキシステアリン酸メチル、エポキシステアリン酸ブチル、エポキシステアリン酸2−エチルヘキシルなどが挙げられる。
液状のエポキシ系熱安定剤としては、好ましくは、エポキシ化植物油が用いられ、より好ましくはエポキシ化大豆及び/又はエポキシ化亜麻仁油が用いられる。
液状のエポキシ系熱安定剤は、熱安定剤として機能するだけでなく表層に柔軟性を付与することもできる。従って、液状のエポキシ系熱安定剤を用いることで、可塑剤の含有量を減らすことができる。
【0029】
液状の金属系熱安定剤は、分子内に金属原子を有する有機金属化合物を含んだ液状の熱安定剤である。
液状の金属系熱安定剤は、1種の金属原子を有する有機金属化合物を含んでおり、好ましくは1種のみの金属原子を有する有機金属化合物を含んでいる。なお、1種のみの金属原子を有する有機金属化合物には、分子内に1種の金属原子が単数又は複数含まれている有機金属化合物が含まれる。
ここで、金属系熱安定剤は、一般的に、有機金属化合物に含まれる金属原子の種類によって分類される。例えば、バリウム原子を含む熱安定剤は、バリウム系熱安定剤と称され、バリウム原子と亜鉛原子を含む熱安定剤は、バリウム−亜鉛系熱安定剤と称される。この場合、バリウム系熱安定剤は1種の金属原子を有する有機金属化合物を含んでおり、バリウム−亜鉛系熱安定剤は2種の金属原子を有する有機金属化合物を含んでいる。
【0030】
液状の金属系熱安定剤は、特に限定されないが、好ましくは、バリウム系熱安定剤、亜鉛系熱安定剤、カルシウム系熱安定剤、錫系熱安定剤、ナトリウム系熱安定剤、鉛系熱安定剤などの1種のみの金属原子を有する有機金属化合物を含んだ熱安定剤が用いられる。
バリウム系熱安定剤には、例えば、ステアリン酸バリウム、ラウリン酸バリウム、リシノール酸バリウム、ナフテン酸バリウム、2−エチルヘキソイン酸バリウムなどが含まれる。亜鉛系熱安定剤には、例えば、ステアリン酸亜鉛、オクチル酸亜鉛などが含まれる。カルシウム系熱安定剤には、例えば、ステアリン酸カルシウム、ラウリン酸カルシウムなどが含まれる。錫系熱安定剤には、例えば、ブチル錫ラウレート、ブチル錫マレートなどが含まれる。ナトリウム系熱安定剤には、例えば、オレイン酸ナトリウム、バルミチン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウムなどが含まれる。鉛系熱安定剤には、例えば、塩基性亜硫酸鉛、三塩基性硫酸鉛、二塩基性亜リン酸鉛、二塩基性フタル酸鉛、三塩基性マレイン酸鉛などが含まれる。
液状の金属系熱安定剤として、好ましくはバリウム系熱安定剤が用いられる。バリウム系熱安定剤は、臭気が少ないことから、熱安定剤に起因する不快臭が浴室に充満することを効果的に防止できる。
【0031】
液状熱安定剤の含有量の下限値は、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、1.5質量部であり、好ましくは2.5質量部であり、特に好ましくは3.0質量部である。また、液状熱安定剤の含有量の上限値は、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、8.5質量部であり、好ましくは6.5質量部であり、より好ましくは5.5質量部であり、さらに好ましくは5.0質量部であり、特に好ましくは4.5質量部である。
また、液状熱安定剤は、好ましくは、液状のエポキシ系熱安定剤と液状の金属系熱安定剤を含む。両熱安定剤を併用することで、塩化ビニル系樹脂の熱安定性を向上させることができ、生産性に優れた内装シートを形成することができる。
特に、液状熱安定剤の含有量が、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して1.5質量部〜6.5質量部であれば、塩化ビニル系樹脂の熱安定性を向上できるだけでなく、さらに、塩化ビニル系樹脂の白化を防止してその透明性を向上させることができる。
両熱安定剤を併用する場合、液状のエポキシ系熱安定剤と液状の金属系熱安定剤の質量比(エポキシ系熱安定剤:金属系熱安定剤)は、特に限定されないが、好ましくは2:3〜3:2であり、より好ましくは4:5〜5:4であり、特に好ましくは略1:1である。
【0032】
固体状熱安定剤は、好ましくは粉状熱安定剤である。粉状熱安定剤は、固体状熱安定剤のうち、その形態が粉状である熱安定剤である。ここで、熱安定剤が粉状であるとは、平均粒径が0.5mm未満の固体状熱安定剤が固体状熱安定剤全体の90質量%以上を占めることをいう。本明細書における平均粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)で粒子を観察して得た像から任意に選んだ200個の粒子(固体状熱安定剤)の最大幅の平均値を意味する。固体状熱安定剤が粉状であれば、表層全体にむらなく固体状熱安定剤を分散させることができる。
固体状熱安定剤は、好ましくは、2種以上の金属原子を有する金属系熱安定剤である。2種以上の金属原子を有する熱安定剤は、一般的に、複合熱安定剤と称される。複合熱安定剤は、その分子内に含まれる金属原子の種類によって分類される。例えば、バリウム原子と亜鉛原子を含む熱安定剤は、バリウム−亜鉛系熱安定剤と称される。
固体状の複合熱安定剤としては、例えば、カルシウム−亜鉛系熱安定剤、バリウム−亜鉛系熱安定剤、亜鉛−ナトリウム系熱安定剤などが挙げられる。なお、固体状の複合熱安定剤は、上に列挙した有機金属化合物を2種以上複合することで形成し得る。
固体状熱安定剤は、粉状の複合熱安定剤であることが好ましく、より好ましくは粉状のバリウム―亜鉛系熱安定剤である。
【0033】
固体状熱安定剤の含有量の下限値は、特に限定されないが、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、例えば、1.0質量部であり、好ましくは2.0質量部であり、特に好ましくは2.5質量部である。また、固体状熱安定剤の含有量の上限値は、特に限定されないが、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、例えば、5.0質量部であり、好ましくは4.0質量部であり、特に好ましくは3.5質量部である。
【0034】
本発明者は、内装シートの吸水白化は、塩化ビニル系樹脂中に存在する微細な空隙に水分が入り込むことにより、内装シートの外側から入射した光がその内部で乱反射を生じることに起因することを新たに見出し、さらに液状安定剤の使用が内装シートの吸水白化を促す一因であることをも見出した。
しかしながら、液状熱安定剤は、塩化ビニル系樹脂に優れた耐熱性を付与できる。そのため、白化を防止するために、液状熱安定剤の含有量を少なくすればするほど、塩化ビニル系樹脂の耐熱性が低下する。従って、塩化ビニル系樹脂を内装シートに成形することが困難となり、内装シートの生産性が著しく低下する。
これに対し、本発明者は、液状熱安定剤と固体状熱安定剤を上記含有量にて併用することで内装シートの白化を抑制でき且つ塩化ビニル系樹脂に十分な耐熱性を付与できることを見出した。
【0035】
液状熱安定剤と固体状熱安定剤を含む熱安定剤の総量は特に限定されないが、その下限値は、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、例えば、2.5質量部であり、好ましくは4.5質量部であり、より好ましくは5.5質量部であり、特に好ましくは6.0質量部である。また、熱安定剤の総量の上限値は、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、例えば、13.5質量部であり、好ましくは10.5質量部であり、より好ましくは9.0質量部であり、特に好ましくは8.0質量部である。
【0036】
このように、本発明の内装シートの表層は、塩化ビニル系樹脂と、可塑剤と、熱安定剤と、を含んでいるが、これ以外に任意の添加剤を含んでいてもよい。このような任意の添加剤としては、例えば、顔料、難燃剤、酸化防止剤、滑剤、発泡剤、防黴剤、抗菌剤、無機粒子などが挙げられる。各添加剤の含有量は特に限定されず、必要に応じて適宜添加される。
【0037】
本発明の内装シートの表層は、その厚みが0.05mm〜0.45mmであることが好ましく、より好ましくは0.05mm〜0.35mmであり、さらに好ましくは0.1mm〜0.35mmであり、特に好ましくは0.2mm〜0.3mmである。
表層の厚みが0.05mmよりも小さければ、シート本体を十分に保護できない可能性があり、表層の厚みが0.45mmよりも大きければ、表層の白化が重畳的に表出して目立つ虞がある。
【0038】
本発明の内装シートに用いられる表層は、透明であることが好ましい。
表層の曇度(ヘーズ値)は、好ましくは8.0%以下であり、特に好ましくは7.0%以下である。ヘーズ値が8.0%以下であれば、表層よりも下に配置された層(例えば、意匠層)の表面を視認することができる。なお、ヘーズ値(%)は、JIS K7136(プラスチック―透明材料のヘーズの求め方)に準拠して濁度計(日本電色工業(株)製、製品名「NDH2000」。D65光源)を用いて、表層の表面側から入光させて測定した値である。
【実施例】
【0039】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を更に詳述する。但し、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。
【0040】
[使用材料]
(1)サスペンションタイプの塩化ビニル樹脂:(株)カネカ製の商品名「800Y」。重合度800。
(2)架橋塩化ビニル樹脂:信越化学工業(株)製の商品名「GR1300S」。サスペンションタイプの塩化ビニル樹脂を部分架橋したもの。K値68。
(3)塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体:(株)カネカ製の商品名「MB1008」。酢酸ビニル量:10モル%。K値58。
(4)可塑剤:フタル酸ジオクチル(新日本理化(株)製、商品名「サンソサイザーDOP」)。
(5)第1の液状熱安定剤:液状エポキシ化大豆油(三和合成化学(株)製、商品名「T−4000」)。
(6)第2の液状熱安定剤:液状バリウム系熱安定剤((株)ADEKA製、商品名「AC704」)。
(7)固体状熱安定剤:粉状のバリウム−亜鉛系熱安定剤((株)ADEKA製、商品名「AP−623G」)。
(8)その他の添加剤:滑剤、エチレン酢酸ビニル、及び防黴剤。
【0041】
[実施例1乃至6及び比較例1]
上記使用材料を、表1に示す割合で配合し、十分に混合した後、二軸ロール機にて175℃で5分間混練し、厚み0.2mmのシート状に作製した。このようにして厚み0.2mmの試験用表層(縦100mm×横100mm)を形成した。
なお、表層の表面の白化の有無を確認することが目的である実施例及び比較例では、表層の下方に
図2に示すようなシート本体を設ける必要はないので、シート本体は省略した。また、かかる目的の下では、表層の表面を凹凸状に形成する必要もないので、表層の表面は平坦状に形成した。
作製した試験用表層の白化、及び、各試験用表層の使用材料の混合物の熱安定性を下記の評価方法に則り評価した。その結果を表1に示す。
なお、表1において、各使用材料(組成)の数値は、質量部表示である。また、表1では、実験結果を分かり易くするため、液状熱安定剤の量が少ない順に実施例と比較例を並べている。
【0042】
(熱安定性の評価)
熱安定性は、実機の加工を想定した温度(160℃〜200℃)において、上記使用材料の混合物をシート状に成形したものが熱劣化(変色や硬化)するのに要した時間を測定して評価した。具体的には、200℃のオーブンに上記使用材料の混合物を投入し、投入後5分毎に60分間試料を採取し続け、採取した試料の熱劣化を評価した。各表において、「×」は、熱安定性が悪かった(オーブン投入後20分までに劣化)ことを意味し、「△」は、十分な熱安定性を有した(オーブン投入後30分までに劣化)ことを意味し、「○」は、優れた熱安定性を有した(オーブン投入後40分以降に劣化)ことを意味する。
【0043】
(白化の評価)
JIS Z 8722(色の測定方法−反射及び透過物体色)に基づき、試験用表層を40℃の温水に24時間浸漬させ、浸漬前後における色差(白化の度合い)を、色差計(日本電色工業(株)製、製品名「Color Mater ZE2000」)を用いて測定した。
具体的には、CIE−L*a*b*表色系における浸漬前の表層の色と浸漬後の表層の色の差が色差に相当する。なお、黒色の基材上に試験用表層を重ねたうえで色差を測定した。数値が大きいほど白化が顕著であることを表す。
各表において、「×」は、浸漬前後で色差が4.0を超え、顕著な白化が生じたことを意味し、「△」は、浸漬前後で色差が3.0を超え4.0以下であり、白化が生じたものの許容範囲であったことを意味し、「○」は、浸漬前後で色差が2.0を超え3.0以下であり、白化があまり見られなかったことを意味し、「◎」は、浸漬前後で色差が2.0以下であり、白化が殆ど見られなかったことを意味する。
【0044】
【表1】
【0045】
[実施例7乃至実施例12]
上記使用材料を、表2に示す割合で配合し、実施例1と同様に厚み0.2mmの試験用表層を形成し、色差を測定し、さらにその柔軟性を評価した。また、使用材料の混合物の熱安定性を評価した。表2では、実験結果を分かり易くするため、可塑剤の量が少ない順に実施例を並べている。なお、実施例9の試験用表層は、実施例3の試験用表層と同じである。
試験用表層の柔軟性は、それを手で折り曲げて評価した。「×」は、手で折り曲げ難かったことを意味し、「△」は、手で十分に折り曲げ可能であったことを意味し、「○」は、手で容易に折り曲げ可能であったことを意味する。
【0046】
【表2】
【0047】
[実施例13乃至実施例18]
上記使用材料を、表3に示す割合で配合し、実施例1と同様に厚み0.2mmの試験用表層を形成し、色差を測定した。また、使用材料の混合物の熱安定性を評価した。表3では、実験結果を分かり易くするため、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体の量が少ない順に実施例を並べている。なお、実施例13の試験用表層は、実施例3の試験用表層と同じである。
【0048】
【表3】
【0049】
[実施例19乃至実施例21]
上記使用材料を、表4に示す割合で配合し、実施例1と同様に試験用表層を形成し、色差を測定した。但し、実施例20の試験用表層は、厚みを0.3mmとし、実施例21の試験用表層は、厚みを0.4mmとした。また、使用材料の混合物の熱安定性を評価した。なお、実施例19の試験用表層は、実施例3の試験用表層と同じである。
【0050】
【表4】
【0051】
[評価]
表1から、液状熱安定剤(エポキシ化大豆油及びバリウム系熱安定剤)の含有量が少なければ少ないほど熱安定性が劣化することが分かる。また、液状熱安定剤が多すぎれば白化が生じやすくなることが分かる。表1から、液状熱安定剤の含有量が、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して1.5質量部以上であれば、熱安定性を満足でき、1.5質量部〜6.5質量部であれば、白化の抑制と熱安定性の両方を満足できると言える。
表2から、可塑剤の含有量が少なければ少ないほど色化が生じ難くなり且つ柔軟性が低下することが分かる。表2から、試験用表層の可塑剤の含有量が塩化ビニル系樹脂100質量部に対して26.0質量部〜38.0質量部であれば、白化の抑制と柔軟性の両方を満足できると言える。
表3から、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体の含有量が少なければ少ないほど白化が生じ難いことが分かる。表3から、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体の含有量が塩化ビニル系樹脂100質量部に対して25.0質量部以下であれば、白化の抑制と熱安定性の両方を満足できると言える。
表4から、表層の厚みが薄ければ薄いほど白化が生じ難いことが分かる。表4から、表層の厚みが0.45mm以下であれば白化の抑制と熱安定性の両方を満足できると言える。