【課題】高張力鋼の溶接において適正な強度と、低温領域での良好で安定した靭性を有する溶接金属が得られ、溶接作業性に優れたガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤを提供する。
【解決手段】ワイヤ全質量に対する質量%で、鋼製外皮とフラックスの合計で、C:0.08〜0.16%、Si:0.3〜0.75%、Mn:1.2〜2.1%、Cu:0.15〜0.45%、Ni:0.8〜3.0%、Cr:0.35〜0.65%、Mo:0.2〜0.6%、Ti:0.04〜0.30%を含有し、 さらに、フラックスに、F換算値の合計で0.01〜0.1%、SiO
成形された前記鋼製外皮の合わせ目が溶接されることで鋼製外皮に継目を無くしたことを特徴とする請求項1に記載の高張力鋼のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
ワイヤ表面にワイヤ10kg当たり送給潤滑油を0.2〜1.0g含有させることを特徴とする請求項1または2に記載の高張力鋼のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
【背景技術】
【0002】
近年、ビル、橋梁、海洋構造物などの鋼構造物の大型化や軽量化への要求が多くなるに伴い、使用される鋼板の高張力化が進み、最近では引張強さが780MPa級の高張力鋼が一般的に使用されるようになった。
【0003】
これら引張強さ780MPa級の高張力鋼を使用する構造物の製造にあたっては、溶接金属の水素量が少なく耐割れ性に優れ、また高能率化に適するガスシールドアーク溶接方法が多く使用されている。
【0004】
従来、高張力鋼のガスシールドアーク溶接には、例えば特許文献1や特許文献2に開示されているNi、Cr、Moなどの成分を含有したガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤが使用されていた。しかし、特許文献1や特許文献2に記載のガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤは、合金成分を多く含むことからワイヤが硬く剛性が向上し、溶接時のワイヤ送給装置内での抵抗が大きくなってしまう。その結果、ワイヤ送給性を安定化することができず、アークが不安定になってスパッタ発生量が多くなるという問題があった。
【0005】
そこで、特許文献3や特許文献4に開示されているガスシールドアーク溶接用フラックス入りが用いられるようになった。しかし、特許文献3や特許文献4に開示されているガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤは、ワイヤ送給性やアークの安定性は優れているもののスラグ形成剤の含有量が多いので、溶接金属中の酸素量が多く低温における靭性を向上させることができないという問題がある。
【0006】
溶接金属中の酸素量を低減して低温靭性に優れる技術として、特許文献5に金属弗化物を多く含有するガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤの開示がある。しかし、特許文献5に記載のガスシールドアーク溶接用ワイヤは、低温における靭性は優れているものの金属弗化物を多く含むのでアークが荒くスパッタ発生量が多くなるという問題がある。
【0007】
さらに、特許文献6や特許文献7には、合金粉を多く含む、いわゆるメタル系フラックス入りワイヤに関する技術の開示がある。しかし、特許文献6や特許文献7に記載のメタル系フラックス入りワイヤにおいても、アークが荒くビード外観・形状を良好にすることができず、さらに低温における靭性を確保することはできないという問題があった。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決するために、780MPa級高張力鋼のガスシールドアーク溶接において、溶接作業性が良好で、適正な強度を有するとともに−60℃での低温領域でも安定した高靭性が得られる溶接金属を形成できるガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤの成分組成について詳細に検討した。
【0016】
その結果、アークの安定性及びスパッタ発生量の低減は、弗素化合物のF換算値及びNa化合物とK化合物のNa
2O換算値とK
2O換算値の合計量を適正にすることが有効で、SiO
2を微量含有させることでビード外観・形状を良好にすることを見出した。
【0017】
また、ワイヤ表面に送給潤滑剤を適量含有させることでワイヤ送給性を安定させ、更にアークを安定にできることを知見した
【0018】
さらに、適正な強度と同時に安定した低温靭性の向上をも同時に達成させるためには、C、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo及びTiの各含有量のそれぞれの適正化が有効であることを知見した。
【0019】
本発明の高張力鋼のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤは、各成分組成それぞれの単独及び共存による相乗効果によりなし得たものであるが、以下にそれぞれの各成分組成の添加理由及び限定理由について説明する。なお、以下においては、フラックス入りワイヤの化学成分をワイヤの全質量に対する割合である質量%で表すものとし、その質量%に関する記載を単に%と記載して説明する。
【0020】
[鋼製外皮とフラックスの合計でC:0.08〜0.16%]
Cは、固溶強化により溶接金属の強度を向上するために必要な元素である。しかし、Cが0.08%未満であると溶接金属の強度が得られない。一方、Cが0.16%を超えると、溶接金属の強度が過度に高くなり靭性が低下する。また、溶接割れ感受性が高くなる。従って、鋼製外皮とフラックスの合計でCは0.08〜0.16%とする。なお、Cは、鋼製外皮に含まれる成分の他、フラックスからの金属粉及び合金粉等から添加できる。
【0021】
[鋼製外皮とフラックスの合計でSi:0.3〜0.75%]
Siは、溶接金属の脱酸のために添加する。Siが0.3%未満であると、溶接金属が脱酸不足となり靭性が低下する。一方、Siが0.75%を超えると、低温での靭性が安定して得られない。従って、鋼製外皮とフラックスの合計でSiは0.3〜0.75%とする。なお、Siは、鋼製外皮に含まれる成分の他、フラックスからの金属Si、Fe−Si、Fe−Si−Mn等の合金粉末から添加できる。
【0022】
[鋼製外皮とフラックスの合計でMn:1.2〜2.1%]
Mnは、溶接金属の靭性確保と強度向上のために添加する。Mnが1.2%未満であると、溶接金属の強度が低く靭性が十分に確保できなくなる。一方、Mnが2.1%を超えると、溶接金属の低温靭性が安定して得られない。従って、鋼製外皮とフラックスの合計でMnは1.2〜2.1%とする。なお、Mnは、鋼製外皮に含まれる成分の他、フラックスからの金属Mn、Fe−Mn、Fe−Si−Mn等の合金粉末から添加できる。
【0023】
[鋼製外皮とフラックスの合計でCu:0.15〜0.45%]
Cuは、析出強化作用を有し、変態温度を低下させ組織を微細化して靭性を安定させる。Cuが0.15%未満であると、安定した低温での靭性が得られない。一方、Cuが0.45%を超えると、析出脆化が生じて靭性が低下する。また、高温割れが発生しやすくなる。従って、鋼製外皮とフラックスの合計でCuは0.15〜0.45%とする。なお、Cuは、鋼製外皮及び鋼製外皮表面に施したCuめっき分の他、フラックスからの金属Cu、Fe−Si−Cu等の合金粉末から添加できる。
【0024】
[鋼製外皮とフラックスの合計でNi:0.8〜3.0%]
Niは、変態温度を低下させて組織を微細化すると共に、溶接金属中に固溶して靭性を低下させることなく強度を高める作用を有する。Niが0.8%未満であると、靭性の低下を防止する効果が十分に得られない。一方、Niが3.0%を超えると、粒界が脆化して靭性が低下する。従って、鋼製外皮とフラックスの合計でNiは0.8〜3.0%とする。なお、Niは、鋼製外皮に含まれる成分の他、フラックスからの金属Ni、Fe−Ni等の合金粉末から添加できる。
【0025】
[鋼製外皮とフラックスの合計でCr:0.35〜0.65%]
Crは、変態温度を低下させ、組織を微細化して靭性を向上させる作用を有する。Crが0.35%未満であると、これらの効果が十分に得られない。一方、Crが0.65%を超えると、溶接金属の硬化が著しくなり靭性が低下する。従って、鋼製外皮とフラックスの合計でCrは0.35〜0.65%とする。なお、Crは、鋼製外皮に含まれる成分の他、フラックスからの金属Cr、Fe−Cr等の合金粉末から添加できる。
【0026】
[鋼製外皮とフラックスの合計でMo:0.2〜0.6%]
Moは、Ni及びCrと同様に、変態温度を低下させ、組織を微細化して靭性を向上させる。Moが0.2%未満であると、これらの効果が十分に得られない。一方、Moが0.6%を超えると、低温での靭性が安定して得られない。従って、鋼製外皮とフラックスの合計でMoは0.2〜0.6%とする。なお、Moは、鋼製外皮に含まれる成分の他、フラックスからの金属Mo粉末から添加できる。
【0027】
[鋼製外皮とフラックスの合計でTi:0.04〜0.30%]
Tiは、脱酸剤として作用するとともに溶接金属中にTiの微細酸化物を生成し溶接金属の靭性を向上させる。Tiが0.04%未満であると、低温での靭性が安定して得られない。一方、Tiが0.30%を超えると、溶接金属中の固溶Tiが多くなって靭性が低下する。従って、鋼製外皮とフラックスの合計でTiは0.04〜0.30%とする。なお、Tiは、鋼製外皮に含まれる成分の他、フラックスからの金属Ti、Fe−Ti等の合金粉末から添加できる。
【0028】
[フラックス中に含有する弗素化合物:F換算値の合計で0.01〜0.1%]
弗素化合物は、アークを集中させて安定にする効果がある。しかし、弗素化合物のF換算値の合計が0.01%未満では、この効果が得られない。一方、弗素化合物のF換算値の合計が0.1%を超えると、アークが荒く不安定になりスパッタ発生量が多くなる。従って、フラックス中に含有する弗素化合物のF換算値の合計は0.01〜0.1%とする。なお、弗素化合物は、フラックスからの蛍石、弗化ソーダ、弗化カリ、弗化リチウム、弗化マグネシウム、珪弗化カリウム等から添加でき、F換算値はそれらに含有されるFの含有量の合計である。
【0029】
[フラックス中に含有するSiO
2:0.01〜0.2%]
SiO
2は、ビード止端部のなじみを良好にしてビード外観・形状を良好にする。SiO
2が0.01%未満であると、ビード止端部のなじみが悪くなりビード外観・形状が悪くなる。一方、SiO
2が0.2%を超えると、溶接金属中の酸素量が増加して低温靭性が低下する。また、ビード表面のスラグ量が多くなって、多層盛溶接においてはスラグを除去する必要が生じる。従って、フラックス中に含有するSiO
2は0.01〜0.2%とする。なお、SiO
2は、フラックスからの珪砂、珪酸ソーダ及び珪酸カリからなる水ガラスの固質成分等から添加できる。
【0030】
[フラックス中に含有するNa及びK化合物:Na
2O換算値とK
2O換算値の合計で0.02〜0.15%]
Na及びK化合物は、アークをソフトにして安定にする。Na及びK化合物のNa
2O換算値とK
2O換算値の合計が0.02%未満であると、アークが不安定になりスパッタ発生量が多くなる。一方、Na及びK化合物のNa
2O換算値とK
2O換算値の合計が0.15%を超えると、逆にアークが強くなってスパッタ発生量が多くなる。また、ビード止端部のなじみが悪くなりビード外観・形状が不良となる。さらに、ビード表面のスラグ量が多くなって、多層盛溶接においてはスラグを除去する必要が生じる。従って、フラックス中に含有するNa及びK化合物のNa
2O換算値とK
2O換算値の合計は0.02〜0.15%とする。なお、NaやK化合物は、フラックスからカリ長石、珪酸ソーダ及び珪酸カリからなる水ガラスの固質成分、弗化ソーダ、珪弗化カリウム等の粉末から添加できる。
【0031】
[Pts:0.8〜1.2]
前記C、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo及びTiの含有量(ワイヤ全質量に対する質量%)を独立変数、溶接金属の強度及び靭性を従属変数とする重回帰分析を行い[C]の係数を1として他の成分の回帰係数として表現したのが下記式(1)のPtsであって、この式(1)によりフラックス入りワイヤの成分に基づいて算出される溶接金属の強度及び靭性の推定値をPtsとした。C、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo及びTiの含有量を、下記式(1)Ptsで0.8〜1.2にすることによって、強度を確保しつつ低温での良好で安定した靭性を有する溶接金属が得られる。Ptsが0.8未満であると、溶接金属の強度が低くなる。一方、Ptsが1.2を超えると、溶接金属の強度が高くなり安定した低温靭性が得られない。
Pts=[C]+[Si]/7+[Mn]/5+[Cu]/7+[Ni]/20+[Cr]/8+[Mo]/2+[Ti]/5 ・・・式(1)
但し、[C]、[Si]、[Mn]、[Cu]、[Ni]、[Cr]、[Mo]、[Ti]は、C、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、Tiのそれぞれのワイヤ全質量に対する質量%を示す。
【0032】
本発明の高張力鋼のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤの残部は、鋼製外皮のFe、成分調整のために添加する鉄粉、Fe−Si、Fe−Mn,Fe−Ti合金などの鉄合金粉のFe分及び不可避的不純物である。
【0033】
なお、不可避不純物の内Alは、鋼製外皮の製鋼時に微量必然的に含有するが、溶接金属中に非金属介在物を形成して靭性を低下させるので少ない方が好ましく、鋼製外皮とフラックスの合計で0.01%以下に制限する。P及びSは、溶接金属の靭性を低下させるため、その含有量を鋼製外皮とフラックスの合計でそれぞれ0.020質量%以下とするのが好ましい。
【0034】
Nは、溶接金属の靭性を安定に向上させるために、溶接金属中の固溶Nを低下させることが必須となり、鋼製外皮とフラックスの合計で0.01%以下とする。
【0035】
また、フラックス充填率は特に限定しないが、生産性の観点からワイヤ全質量に対して8〜20%とするのが好ましい。
【0036】
[成形された前記鋼製外皮の合わせ目が溶接されることで鋼製外皮に継目を無くす]
本発明の高張力鋼のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤは、鋼製外皮をパイプ状に成型し、その内部にフラックスを充填した構造である。ワイヤの種類としては、成形された鋼製外皮の合わせ目を溶接して得られる鋼製外皮に継目の無いワイヤと、鋼製外皮に合わせ目の溶接を行わないままとした鋼製外皮に継目を有するワイヤとに大別できる。本発明においては、何れの断面構造のワイヤを採用することができるが、鋼製外皮に継目を有するワイヤは、溶接金属の強度が高くなると低温割れが生じやすくなるので水分含有量の少ない原材料を用いる必要がある。一方、鋼製外皮に継目が無いワイヤは、ワイヤ中の全水素量を低減することを目的とした熱処理が可能であり、また製造後のフラックスの吸湿が無いため、溶接金属の拡散性水素量を低減し、耐低温割れ性の向上を図ることができるので、より好ましい。
【0037】
[ワイヤ表面の送給潤滑油:ワイヤ10kg当たり0.2〜1.0g]
ワイヤ表面の送給潤滑油は、特に半自動溶接の場合にワイヤの送給性を良好にして、アークが安定でスパッタの発生量を少なくするとともに、溶接欠陥の発生を防止する。ワイヤ表面の送給潤滑油がワイヤ10kg当たり0.2g未満であると、ワイヤ送給性が不良となりアークが不安定でスパッタ発生量が多くなる。また、スラグ巻き込み欠陥が生じやすくなる。一方、ワイヤ表面の送給潤滑油がワイヤ10kg当たり1.0gを超えると、送給ローラ部でワイヤがスリップして、アークが不安定でスパッタ発生量が多くなる。また、溶接金属の拡散性水素量が多くなって低温割れが生じやすくなる。
【0038】
送給潤滑油は、動植物油、鉱物油あるいは合成油の何れでもよい。動植物油としてはパーム油、菜種油、ひまし油、豚油、牛油、魚油等を、鉱物油としてはマシン油、タービン油、スピンドル油等を用いることができる。合成油としては炭化水素系、エステル系、ポリグリコール系、ポリフェノール系、シリコーン系、フロロカーボン系を用いることができる。さらに、油脂またはエステルの1種以上の基油に硫黄を含有する硫化油脂、硫化エステル、硫化脂肪酸または硫化オレフィンの1種または2種以上である硫黄含有の潤滑油を用いることもできる。
【0039】
なお、シールドガスは、Ar+CO
2とするが、CO
2の混合量は5〜25体積%の範囲として溶接金属の酸素量を低減する。また、シールドガスの流量は耐欠陥性および大気からの窒素の混入を防ぐために20〜35リットル/分であることが好ましい。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の効果を実施例により具体的に説明する。
【0041】
JIS G3141に規定されるSPCCを鋼製外皮(C:0.01〜0.05%)として使用し、鋼製外皮を成形する工程でU字型に成形した後、鋼製外皮の合わせ目を溶接した継目が無いワイヤと、溶接しない隙間のあるワイヤとを造管、伸線し、ワイヤ表面にパーム油を塗布して表1に示す各種成分のフラックス入りワイヤを試作した。ワイヤ径は1.2mmとした。なお、鋼製外皮の合わせ目を溶接した継目が無いワイヤは、伸線途中で焼鈍を実施したが、鋼製外皮の合わせ目のあるワイヤは、フラックスを充填前に乾燥させ、ワイヤ製造後はフラックスの吸湿を防ぐために、ビニール製の袋に封入して、溶接直前までその状態で保管した。
【0042】
【表1】
【0043】
試作したフラックス入りワイヤを用いて、溶接作業性、溶着金属性能及び耐割れ性の調査を行った。
【0044】
溶接作業性及び溶着金属性能は、JIS G3128 SHY685に規定される板厚20mmの鋼板を用いて、JIS Z3111に準じて表2に示す溶接条件で溶着金属試験を実施した。調査項目は溶接時のアークの安定性、スパッタの発生状況及びビード外観・形状等の溶接作業性を調べた。なお、溶接時のワイヤ送給は、6m長さのコンジットケーブルを用いた。また、溶着金属部からA1号引張試験片及び衝撃試験を採取して機械的性能を調査した。
【0045】
引張強さの評価は800〜920MPaを良好とした。また、靭性の評価は、−60℃におけるシャルピー衝撃試験を実施し、吸収エネルギーの平均は90J以上、最低値70J以上を良好とした。
【0046】
耐割れ性の試験は、JIS G3128 SHY685に規定される板厚40mmの鋼板を用いて、JIS Z3257に準拠して表2に示す溶接条件でU形溶接割れ試験を実施した。溶接後48時間経過した試験体について、表面割れ及び断面割れ(5断面)の割れ発生有無を浸透探傷試験(JIS Z2343)により調査した。これらの結果を表3にまとめて示す。
【0047】
【表2】
【0048】
【表3】
【0049】
表1及び表3中のワイヤ記号W1〜W10が本発明例、ワイヤ記号W11〜W27は比較例である。本発明例であるワイヤ記号W1〜W5、W9及びW10は、フラックス入りワイヤのC、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、Ti、弗素化合物のF換算値の合計、SiO
2、Na化合物及びK化合物のNa
2O換算値とK
2O換算値の合計量が適量で、Pts値及びワイヤ表面の送給潤滑剤量も適量あるので、アークが安定してスパッタ発生量が少なく、ビード外観・形状が良好で、溶着金属の引張強さ、吸収エネルギーの平均値及び最低値ともに良好で、割れの発生もなく極めて満足な結果であった。
【0050】
なお、ワイヤ表面の送給潤滑剤量が多いワイヤ記号W6、送給潤滑剤量が少ないワイヤ記号W7及びW8は、ややアークが不安定でスパッタ発生量もやや多かった。
【0051】
比較例中ワイヤ記号W11は、Cが少ないので、溶着金属の引張強さが低かった。また、Tiが少ないので、溶着金属の吸収エネルギーの最低値が低かった。
【0052】
ワイヤ記号W12は、Cが多いので、溶着金属の引張強さが高く吸収エネルギーの平均値が低かった。また、クレータ部に割れが生じた。さらに、ワイヤ表面の送給潤滑剤量が少ないので、ワイヤ送給性が不良でアークが不安定になってスパッタ発生量も多かった。
【0053】
ワイヤ記号W13は、Siが少ないので、溶着金属の吸収エネルギーの平均値が低かった。また、弗素化合物のF換算値の合計が少ないので、アークが不安定であった。
【0054】
ワイヤ記号W14は、Siが多いので、溶着金属の吸収エネルギーの最低値が低かった。また、弗素化合物のF換算値の合計が多いので、アークが荒くスパッタ発生量が多かった。
【0055】
ワイヤ記号W15は、Mnが少ないので、溶着金属の引張強さ及び吸収エネルギーの平均値が低かった。また、ワイヤ表面の送給潤滑剤量が多いので、アークが不安定でスパッタ発生量が多かった。
【0056】
ワイヤ記号W16は、Mnが多いので、溶着金属の吸収エネルギーの最低値が低かった。また、SiO
2が少ないので、ビード止端部のなじみが悪くビード外観・形状が不良であった。
【0057】
ワイヤ記号W17は、Cuが少ないので、溶着金属の吸収エネルギーの最低値が低かった。また、Na化合物及びK化合物のNa
2O換算値とK
2O換算値の合計量が少ないので、アークが不安定でスパッタ発生量が多かった。
【0058】
ワイヤ記号W18は、Cuが多いので、溶着金属の吸収エネルギーの平均値が低かった。また、クレータ部に割れが生じた。さらに、Na化合物及びK化合物のNa
2O換算値とK
2O換算値の合計量が多いので、アークが強くスパッタ発生量が多かった。
【0059】
ワイヤ記号W19は、Niが少ないので、溶着金属の吸収エネルギーの平均値が低かった。
【0060】
ワイヤ記号W20は、Niが多いので、溶着金属の吸収エネルギーの平均値が低かった。また、ワイヤ表面の送給潤滑剤量が多いので、アークが不安定でスパッタ発生量が多く、溶接割れ試験で割れが生じた。
【0061】
ワイヤ記号W21は、Crが少ないので、溶着金属の吸収エネルギーの平均値が低かった。 ワイヤ記号W22は、Crが多いので、溶着金属の引張強さが高く吸収エネルギーの平均値が低かった。また、鋼製外皮に継目を有するので、溶接割れ試験で割れが生じた。
【0062】
ワイヤ記号W23は、Moが少ないので、溶着金属の吸収エネルギーの平均値が低かった。
【0063】
ワイヤ記号W24は、Moが多いので、溶着金属の吸収エネルギーの最低値が低かった。
【0064】
ワイヤ記号W25は、Tiが多いので、溶着金属の吸収エネルギーの平均値が低かった。
【0065】
ワイヤ記号W26は、SiO
2が多いので、溶着金属の吸収エネルギーの平均値が低かった。また、Ptsが低いので、溶着金属の引張強さも低かった。
【0066】
ワイヤ記号W27は、Ptsが高いので、溶着金属の引張強さが高く吸収エネルギーの最低値が低かった。また、鋼製外皮に継目を有するので、溶接割れ試験で割れが生じた。