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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-87628(P2016-87628A)
(43)【公開日】2016年5月23日
(54)【発明の名称】溶接トーチ
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/133 20060101AFI20160418BHJP
   B23K 9/29 20060101ALI20160418BHJP
【FI】
   B23K9/133 504B
   B23K9/29 E
   B23K9/133 504A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-223243(P2014-223243)
(22)【出願日】2014年10月31日
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100086380
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100161274
【弁理士】
【氏名又は名称】土居 史明
(74)【代理人】
【識別番号】100168099
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 伸太郎
(72)【発明者】
【氏名】清水 文夫
(72)【発明者】
【氏名】鶴丸 尚孝
【テーマコード(参考)】
4E001
【Fターム(参考)】
4E001LH02
4E001MB06
4E001QA03
(57)【要約】
【課題】溶接ケーブルに内挿されるライナについて、取付構造の簡素化を図りつつ、溶接ケーブルの伸びや捻れに起因する不都合を解消するのに適した溶接トーチを提供すること。
【解決手段】本発明の溶接トーチは、トーチ本体と、長手筒状とされており、基端部がワイヤ送給機側に取り付けられ、かつ先端部に上記トーチ本体が取り付けられた溶接ケーブル200と、溶接ケーブル200に内挿されており、基端部が溶接ケーブル200の上記基端部に取り付けられ、かつ先端部が上記トーチ本体に取り付けられた、溶接ワイヤを案内するためのライナ300と、溶接ケーブル200の上記基端部に対するライナ300の上記基端部の取付部位に設けられ、溶接ケーブル200に対するライナ300の軸方向への移動を防止し、かつライナ300と溶接ケーブル200との相対回転を許容する係止手段と、を備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トーチ本体と、
長手筒状とされており、基端部がワイヤ送給機側に取り付けられ、かつ先端部に上記トーチ本体が取り付けられた溶接ケーブルと、
上記溶接ケーブルに内挿されており、基端部が上記溶接ケーブルの上記基端部に取り付けられ、かつ先端部が上記トーチ本体に取り付けられた、溶接ワイヤを案内するためのライナと、
上記溶接ケーブルの上記基端部に対する上記ライナの上記基端部の取付部位、および上記トーチ本体に対する上記ライナの上記先端部の取付部位のうち少なくとも一方に設けられ、上記溶接ケーブルもしくは上記トーチ本体に対する上記ライナの軸方向への移動を防止し、かつ上記ライナと上記溶接ケーブルもしくは上記トーチ本体との相対回転を許容する係止手段と、
を備えることを特徴とする、溶接トーチ。
【請求項2】
上記係止手段は、上記ライナに設けられた径方向外向きの環状溝と、上記トーチ本体もしくは上記溶接ケーブルに設けられ、上記環状溝に進入しうる係止部材と、を含んで構成される、請求項1に記載の溶接トーチ。
【請求項3】
上記係止部材は、上記環状溝に対して当該環状溝の径方向に沿って進退移動可能なネジ部材である、請求項2に記載の溶接トーチ。
【請求項4】
上記係止手段は、上記係止部材の上記環状溝からの後退を防止する後退防止機構を有する、請求項2または3に記載の溶接トーチ。
【請求項5】
上記後退防止機構は、上記係止部材が取り付けられた状態における上記環状溝への上記係止部材の進入長さが、上記取り付けられた状態の上記係止部材と当該係止部材が後退するときに当接する当接部との隙間よりも大となる構成を含む、請求項4に記載の溶接トーチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接ケーブル、溶接ケーブルに内挿されるライナ、および溶接ケーブルの先端に接続されるトーチ本体を備えた溶接トーチに関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば消耗電極ガスシールドアーク溶接において、溶接ロボットや走行台車を用いた自動溶接や、作業者が操作する半自動溶接の手法が採用されている。これら自動溶接等の溶接作業時においては、ワイヤ送給機から溶接トーチに向けて溶接ワイヤが送り出され、また、溶接トーチには電力およびシールドガスに供給される。
【0003】
溶接トーチは、たとえば、溶接ケーブル、ライナ、およびトーチ本体を備えて構成される(たとえば特許文献1を参照)。溶接ケーブルは、筒状導体部に絶縁体が被覆された構成を有し、筒状導体部は多数の金属細線の撚り線構造とされている。溶接ケーブルの基端部はワイヤ送給機側に取り付けられ、溶接ケーブルの先端部には、トーチ本体が取り付けられる。ライナは、ワイヤ送給機から送り出された溶接ワイヤを案内するものであり、溶接ケーブルに内挿されている。ライナの基端部は、溶接ケーブルの基端部に固定的に取り付けられている。ライナは、たとえば、基端側にある筒状の金具と、この金具に接続された螺旋状のコイル部とからなる。上記金具とコイル部とは圧着などの手段によって接続固定されており、上記金具が溶接ケーブルの基端部に固定される。ライナの先端部は、トーチ本体の内部に挿入されており、トーチ本体の先端側に設けられた給電チップに至っている。なお、溶接トーチと溶接ケーブルを区別して呼称する場合もあり、これらを区別して呼ぶ場合、上記したトーチ本体が溶接トーチと呼ばれる。また、溶接ケーブルは、コンジットケーブルなど他の呼び名で表される場合もある。
【0004】
自動溶接において、トーチ本体は溶接ロボットや走行台車に搭載される。溶接ケーブルについては、溶接ロボットや走行台車の動きに追従して取り回す必要があり、溶接ケーブルの長さは比較的に長くされている。溶接作業において、溶接ケーブルが曲げや捻りなどの動作を繰り返す。そうすると、溶接ケーブルにおいては、金属細線の撚りが戻り、溶接ケーブルの全長が伸びる場合がある。溶接ケーブルに内挿されたライナについては、基端部が固定されている一方、先端部が固定されていないと、溶接ケーブルが伸びた分だけ、ライナ先端が給電チップから後退し、給電チップとライナ先端との間に隙間が生じることになる。このように隙間が生じると、溶接ワイヤの送給が不安定、溶接品質の低下を招く虞があった。
【0005】
これに対し、上記特許文献1においては、ライナの先端部をトーチ本体に固定する構成が開示されている。このようにライナの先端部がトーチ本体に固定されていると、ライナ先端が給電チップから離れることは阻止することができ、上記した溶接ケーブルの全長が伸びることに起因する不具合を解消することができる。
【0006】
しかしながら、溶接ケーブルの金属細線の撚りの戻りに起因して、溶接ケーブル自体に捻れが生じる場合がある。上述のようにライナの両端(基端部および先端部)が固定される場合、溶接ケーブルが捻れると、ライナに捻り力が作用する。そうすると、ライナの金具とコイル部との接続部分が破断して、溶接ワイヤの送給不良を招く虞があった。
【0007】
また、ライナは内部を挿通する溶接ワイヤのメッキ粉等が堆積しやすく、交換頻度が比較的に高い部品である。したがって、溶接ケーブルやトーチ本体へのライナの取り付け部分を比較的簡単な構造にして、交換作業性を良くすることが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4739825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような事情のもとで考え出されたものであって、溶接ケーブルに内挿されるライナについて、取付構造の簡素化を図りつつ、溶接ケーブルの伸びや捻れに起因する不都合を解消するのに適した溶接トーチを提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を採用した。
【0011】
本発明よって提供される溶接トーチは、トーチ本体と、長手筒状とされており、基端部がワイヤ送給機側に取り付けられ、かつ先端部に上記トーチ本体が取り付けられた溶接ケーブルと、上記溶接ケーブルに内挿されており、基端部が上記溶接ケーブルの上記基端部に取り付けられ、かつ先端部が上記トーチ本体に取り付けられた、溶接ワイヤを案内するためのライナと、上記溶接ケーブルの上記基端部に対する上記ライナの上記基端部の取付部位、および上記トーチ本体に対する上記ライナの上記先端部の取付部位のうち少なくとも一方に設けられ、上記溶接ケーブルもしくは上記トーチ本体に対する上記ライナの軸方向への移動を防止し、かつ上記ライナと上記溶接ケーブルもしくは上記トーチ本体との相対回転を許容する係止手段と、を備えることを特徴としている。
【0012】
好ましい実施の形態においては、上記係止手段は、上記ライナに設けられた径方向外向きの環状溝と、上記トーチ本体もしくは上記溶接ケーブルに設けられ、上記環状溝に進入しうる係止部材と、を含んで構成される。
【0013】
好ましい実施の形態においては、上記係止部材は、上記環状溝に対して当該環状溝の径方向に沿って進退移動可能なネジ部材である。
【0014】
好ましい実施の形態においては、上記係止手段は、上記係止部材の上記環状溝からの後退を防止する後退防止機構を有する。
【0015】
好ましい実施の形態においては、上記後退防止機構は、上記係止部材が取り付けられた状態における上記環状溝への上記係止部材の進入長さが、上記取り付けられた状態の上記係止部材と当該係止部材が後退するときに当接する当接部との隙間よりも大となる構成を含む。
【0016】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る溶接トーチの一例を示す外観図である。
図2】溶接ケーブルおよびライナの基端部を示す要部斜視図である。
図3】溶接ケーブルおよびライナの基端部を示す要部縦断面図であり、(a)は係止部材を取り付ける前の状態、(b)は係止部材を取り付けた状態を示す。
図4】溶接ケーブルの基端部をワイヤ送給機側に取り付けた状態の一例を示す要部縦断面図である。
図5図4のV−Vに沿う断面図である。
図6】トーチ本体周辺の要部縦断面図である。
図7】係止手段の他の構成例を示す要部縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施形態につき、図面を参照しつつ具体的に説明する。
【0019】
図1は、本発明に係る溶接トーチの一例を示す外観図である。本実施形態の溶接トーチ100は、溶接ケーブル200と、ライナ300と、トーチ本体400とを備えている。溶接トーチ100は、たとえば、消耗電極ガスシールドアーク溶接を行うための溶接装置に使用され、走行台車を用いた自動溶接に適したものである。
【0020】
溶接ケーブル200は、ワイヤ送給機(図示略)から送り出された溶接ワイヤをトーチ本体200に導くものであり、全体として長手筒状とされている。溶接トーチ100を自動溶接に用いる場合において、溶接ケーブル200の長さは比較的に長くされる。図1では中間部を省略しているが、溶接ケーブル200の全長は、たとえば6m〜10m程度である。
【0021】
溶接ケーブル200は、ケーブル本体210、ホルダ220,230、および接続部材240を備えて構成されている。詳細な図示説明は省略するが、ケーブル本体210は、筒状導体部が絶縁カバーによって被覆された構成を有し、筒状導体部は多数の金属細線の撚り線構造とされている。
【0022】
接続部材240は、ケーブル本体210の一方の端部に連結固定されている。当該連結部がホルダ220によって保持されている。接続部材240は、本発明でいう「溶接ケーブルの基端部」に相当する部分である。
【0023】
図2図3に示すように、接続部材240は、概略円筒状とされており、後述するライナ300の取付金具310を支持している。より詳細には、図3に示すように、接続部材240の基端部241には、他の部位よりも内径寸法が大である取付穴242が形成されており、ライナ300の取付金具310がこの取付穴242にほぼ隙間のない状態で内挿される。また、図2に示すように、接続部材240の基端部241は、外周部分が一部切除されたような形状とされており、平坦面243を有する。図3(a)に示すように、基端部241には、平坦面243から取付穴242まで径方向に通じるネジ穴245が形成されている。
【0024】
図1に示すように、ホルダ230は、ケーブル本体210の他方の端部に設けられており、トーチ本体400を保持している。詳細は後述するが、本実施形態においては、接続部材240は、ワイヤ送給機に設けられた筒状のワイヤ出口600に接続されている(図4参照)。
【0025】
なお、溶接ケーブル200は、トーチ本体400へ電力およびシールドガスを供給する役割も担う。図1に示すように、溶接ケーブル200の適所には、シールドガスを供給するためのホース261、ならびに、電力供給用、スイッチ用、および制御用の各ケーブル262,263,264が連結されている。
【0026】
ライナ300は、ワイヤ送給機から送り出される溶接ワイヤをトーチ本体400まで案内するものであり、溶接ケーブル200に内挿されている。図3に示すように、ライナ300は、基端側にある筒状の取付金具310と、この取付金具310に接続されたコイル部320とを備えている。コイル部320は、金属線材が螺旋状に巻回された構成であり、概略円筒状である。コイル部320の基端部は、圧着等の適宜手段によって取付金具310に接続固定されている。なお、コイル部320の外周は、取付金具310に当接する部位から軸方向へ所定長さの範囲において樹脂カバー321に覆われている。詳細な図示説明は省略するが、ケーブル本体210とコイル部320との間の空間はシールドガスを流すための通路として機能する。
【0027】
取付金具310は、概略円筒状とされており、コイル部320よりも外径寸法が大きい。取付金具310は、ライナ300の装着時において接続部材240に支持される部分である。取付金具310の外径寸法は、接続部材240(取付穴242)の内径寸法よりも僅かに小さい。ライナ300を装着する際には、コイル部320の先端を接続部材240の基端から挿入し、取付金具310を接続部材240の取付穴242に挿入する。
【0028】
取付金具310の適所には、径方向外向きの環状溝311が形成されている。ライナ300の装着時において、環状溝311と接続部材240のネジ穴245とは、径方向に見て重なる位置にある。ネジ穴245には、セットボルト500が取り付けられている。セットボルト500は、たとえば頭部510およびネジ軸部520を有し、いわゆる六角穴付ボルトと呼ばれる形態である。図3(a)、(b)から理解されるように、ネジ軸部520をネジ穴245に螺合させて頭部510を回すと、セットボルト500は、環状溝311の径方向に沿って進退移動する。図3(b)に示すように、セットボルト500を締め付けた状態において、頭部510は接続部材240の平坦面243に圧接している。このとき、ネジ軸部520は環状溝311に進入しており、ネジ軸部520の先端と環状溝311の底部とは接触しておらず、また、両者間には僅かな隙間がある。ここで、ライナ300に軸方向(図中左右方向)の力が作用しても、セットボルト500(ネジ軸部520)が接続部材240(環状溝311を構成する側壁部)によって係止され、取付金具310(溶接ケーブル200基端部)に対するライナ300の基端部の軸方向への移動は防止される。
【0029】
一方、ネジ軸部520の先端および環状溝311の底部の間には隙間があるため、ライナ300と接続部材240(溶接ケーブル200)との相対回転は許容される。環状溝311を有する取付金具310(ライナ300)、ネジ穴245を有する接続部材240(溶接ケーブル200)、およびセットボルト500は、係止手段を構成する。また、セットボルト500は、本発明でいう「係止部材」に相当する。
【0030】
図3(b)に示されるように、セットボルト500の締め付け時(頭部510が平坦面243に圧接する状態)において、環状溝311へのネジ軸部520の進入長さは一定となる。なお、本実施形態において、セットボルト500は、頭部510の厚みが小さいものが用いられるが、その意義については後述する。
【0031】
接続部材240(溶接ケーブル200の基端部)は、たとえばワイヤ送給機のワイヤ出口に接続される。図4図5は、接続部材240をワイヤ送給機(図示略)のワイヤ出口600に接続した状態の一例を示す。ワイヤ出口600は、接続部材240の外径寸法とほぼ同じ内径寸法を有する接続用穴610を備えており、接続部材240は、接続用穴610に挿入されている。
【0032】
図5に示されるように、セットボルト500の頭部510の厚みが小さいことにより、当該頭部510は接続用穴610の内面と干渉することなく接続用穴610に収容される。このとき、頭部510と接続用穴610の内面との間には僅かな隙間が設けられている。そして、環状溝311へのセットボルト500(ネジ軸部520)の進入長さL1は、頭部510と接続用穴610の内面において頭部510が当接しうる部位(当接部)との間の隙間L2よりも大きい。これら寸法の一例を挙げると、進入長さL1が3mm程度、隙間L2が0.5mm程度であり、進入長さL1が隙間L2よりも十分に大きい。図5に示した状態において、仮にセットボルト500が緩んで環状溝311から後退したとしても、セットボルト500の頭部510がすぐに接続用穴610の内面(当接部)に当たり、セットボルト500の緩みが止まる。このようにセットボルト500が緩んでも、進入長さL1と隙間L2とが上記のような関係にあることにから、環状溝311へのセットボルト500(ネジ軸部520)の進入長さL1は十分に確保され、接続部材240(溶接ケーブル200)に対する取付金具310(ライナ300)が軸方向への移動は防止される。このようなワイヤ出口600への接続部材240の接続構造は、後退防止機構を構成する。
【0033】
なお、ワイヤ出口600の適所には、抜け止めボルト620が設けられている。抜け止めボルト620は、接続用穴610の径方向外寄り部分を周方向に横切るように取り付けられている。抜け止めボルト620が接続部材240の段部246と係合することにより、接続部材240の接続用穴610(ワイヤ出口600)からの抜け出しが防止される。
【0034】
図1に示すように、トーチ本体400は、溶接ケーブル200(ケーブル本体210)の先端部に取り付けられている。図6に示すように、トーチ本体400は、トーチボディ410、チップボディ420、絶縁部材430、給電チップ440、およびノズル450を備えている。ライナ300(コイル部320)の先端部は、チップボディ420に内挿されつつ給電チップ440まで延びている。チップボディ420の適所には、セットビス460が取り付けられている。セットビス460は、チップボディ420の径方向に沿って形成されたネジ穴に螺合されている。セットビス460は、先端が鋭利な形状を有し、いわゆる六角穴付止めネジと呼ばれる形態である。セットビス460を締め付けると、当該セットビス460の先端がコイル部320の外面に食い込み、ライナ300(コイル部320)の先端部がトーチ本体400に固定される。なお、絶縁部材430はチップボディ420に外嵌されており、セットビス460が緩んでもすぐに絶縁部材430に当たる。このような構成により、絶縁部材430はセットビス460の緩み止めとして機能しており、トーチ本体400へのライナ300(コイル部320)の先端部の固定状態が適切に維持される。
【0035】
次に、上記した実施形態に係る溶接トーチ100の作用について説明する。
【0036】
溶接トーチ100を用いて自動溶接を行うと、溶接ケーブル200は曲げや捻じりなどの動作が繰り返す。そうすると、溶接ケーブル200において、筒状導体部の金属細線の撚りが戻り、溶接ケーブル200の全長が伸びたり、溶接ケーブル200自体に捻れが生じる場合がある。
【0037】
本実施形態の溶接トーチ100によれば、溶接ケーブル200に内挿されたライナ300の先端部はトーチ本体400に固定されている。ライナ300の基端部(取付金具310)については、上述のように、接続部材240に取り付けたセットボルト500がライナ300の環状溝311に進入する構成によって、接続部材240(溶接ケーブル200基端部)に対するライナ300の基端部の軸方向への移動は防止される。したがって、ライナ300は溶接ケーブル200の伸びに追従するので、溶接ケーブル200が伸びることによって生じる不具合を解消することができる。
【0038】
また、上述のように、ライナ300の基端部(取付金具310)と接続部材240(溶接ケーブル200)との相対回転は許容される。これにより、溶接ケーブル200が捻れても、ライナ300に捻り力は作用しない。したがって、溶接ケーブル200の捻れに起因するライナ300の破損等の不具合を回避することができる。
【0039】
また、ライナ300の基端部における上記の係止構造は、セットボルト500および環状溝311を設けるといった比較的に簡単な構造によって実現可能である。また、ライナ300を交換する際には、セットボルト500、セットビス460を外すことによって交換可能であるので、交換作業性に優れている。
【0040】
セットボルト500の締め付け時には、環状溝311へのセットボルト500(ネジ軸部520)の進入長さは一定となる。これにより、セットボルト500による係止が的確になされ、ライナ300の不用意な抜け出し等が防止される。
【0041】
図5等を参照して上述したように、本実施形態においては、セットボルト500が緩んでも当該セットボルト500の環状溝311からの後退が防止されている。これにより、セットボルト500による係止がより確実になされる。
【0042】
図1図5を参照した上述の実施形態では、ライナ300の基端部側に係止手段を設ける場合について説明したが、図7は、ライナ300の先端部側に係止手段を設ける場合を示している。
【0043】
図7は、トーチ本体400におけるチップボディ420および絶縁部材430の要部断面を示している。図7に示すように、ライナ300(コイル部320)の先端部には、係止用金具330が圧着等の適宜手段によって外嵌固定されている。係止用金具330には、径方向外向きの環状溝331が形成されている。環状溝331とチップボディ420に形成されたネジ穴421とは、径方向に見て重なる位置にある。
【0044】
ネジ穴421には、セットボルト500が取り付けられている。当該セットボルト500は、図2図5等に示したセットボルト500と同様の構成であり、頭部510およびネジ軸部520を有する。ネジ軸部520をネジ穴421に螺合させて頭部510を回すと、セットボルト500は、環状溝331の径方向に沿って進退移動する。セットボルト500を締め付けた状態において、頭部510はチップボディ420の外周面に圧接している。このとき、ネジ軸部520は環状溝331に進入しており、また、ネジ軸部520の先端と環状溝331の底部とは接触しておらず、両者間には僅かな隙間がある。ここで、ライナ300に軸方向(図中左右方向)の力が作用しても、セットボルト500(ネジ軸部520)が係止用金具330(環状溝331を構成する側壁部)によって係止され、チップボディ420(トーチ本体400)に対するライナ300の先端部の軸方向への移動は防止される。
【0045】
一方、ネジ軸部520の先端および環状溝331の底部の間には隙間があるため、ライナ300とチップボディ420(トーチ本体400)との相対回転は許容される。セットボルト500の締め付け時(頭部510がチップボディ420の外周面に圧接する状態)において、環状溝331へのネジ軸部520の進入長さは一定となる。
【0046】
図7に示すように、セットボルト500を締め付けた状態において、頭部510と絶縁部材430の内面との間には僅かな隙間が設けられている。そして、環状溝331へのセットボルト500(ネジ軸部520)の進入長さL3は、頭部510と絶縁部材430の内面において頭部510が当接しうる部位(当接部)との間の隙間L4よりも大きい。図7に示した状態において、仮にセットボルト500が緩んで環状溝331から後退したとしても、セットボルト500の頭部510がすぐに絶縁部材430の内面(当接部)に当たり、セットボルト500の緩みが止まる。このようにセットボルト500が緩んでも、進入長さL3と隙間L4とが上記のような関係にあることにから、環状溝331へのセットボルト500(ネジ軸部520)の進入長さL3は十分に確保され、チップボディ420(トーチ本体400)に対する係止用金具330(ライナ300)の軸方向への移動は防止される。このようなライナ300の先端部の係止構造は、後退防止機構を構成する。そして、図7に示したライナ300先端部の係止構造は、図1図5を参照して上述したライナ300の基端部の係止構造と同様の効果を奏する。
【0047】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明の範囲は上記した実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載した事項の範囲内でのあらゆる変更は、すべて本発明の範囲に包摂される。
【0048】
上記実施形態において、係止手段がライナの基端部に設けられた構成、および係止手段がライナの先端部に設けられた構成についてそれぞれ説明したが、ライナの両端部(基端部および先端部の各々)に係止手段を設けてもよい。
【0049】
係止手段の具体的な構成についても、セットボルト500を用いた上記実施形態の構成に限定されるものではない。溶接ケーブルもしくはトーチ本体に対するライナの軸方向への移動を防止し、かつライナと溶接ケーブルもしくはトーチ本体との相対回転を許容するものであれば、種々の変更が可能である。
【0050】
上記実施形態において、ライナはコイル部を具備する構成としたが、これに代えて、たとえば樹脂製のチューブを備えたライナを用いてもよい。
【符号の説明】
【0051】
100 溶接トーチ
200 溶接ケーブル
210 ケーブル本体
220,230 ホルダ
240 接続部材
241 基端部
242 取付穴
243 平坦面
245 ネジ穴
246 段部
261 ホース
262,263,264 ケーブル
300 ライナ
310 取付金具
311 環状溝
320 コイル部
321 樹脂カバー
330 係止用金具
331 環状溝
400 トーチ本体
410 トーチボディ
420 チップボディ
421 ネジ穴
430 絶縁部材
440 給電チップ
450 ノズル
460 セットビス
500 セットボルト(係止部材)
510 頭部
520 ネジ軸部
600 ワイヤ出口
610 接続用穴
620 抜け止めボルト
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7