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特開2016-92387鉄塩酸化剤組成物、固体電解コンデンサ、およびその製造方法
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  • 特開2016092387-鉄塩酸化剤組成物、固体電解コンデンサ、およびその製造方法 図000050
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-92387(P2016-92387A)
(43)【公開日】2016年5月23日
(54)【発明の名称】鉄塩酸化剤組成物、固体電解コンデンサ、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/028 20060101AFI20160418BHJP
   C08G 61/12 20060101ALI20160418BHJP
   C08L 65/00 20060101ALI20160418BHJP
   C08K 5/053 20060101ALI20160418BHJP
   C08L 71/02 20060101ALI20160418BHJP
   C08K 3/10 20060101ALI20160418BHJP
   C08K 5/42 20060101ALI20160418BHJP
   C08K 5/51 20060101ALI20160418BHJP
【FI】
   H01G9/02 331G
   H01G9/02 331H
   C08G61/12
   C08L65/00
   C08K5/053
   C08L71/02
   C08K3/10
   C08K5/42
   C08K5/51
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2014-261078(P2014-261078)
(22)【出願日】2014年12月24日
(31)【優先権主張番号】103138313
(32)【優先日】2014年11月5日
(33)【優先権主張国】TW
(71)【出願人】
【識別番号】390023582
【氏名又は名称】財團法人工業技術研究院
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRIAL TECHNOLOGY RESEARCH INSTITUTE
(71)【出願人】
【識別番号】514136510
【氏名又は名称】駿瀚生化股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100116872
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 和子
(72)【発明者】
【氏名】葉 國良
(72)【発明者】
【氏名】張 雅茹
(72)【発明者】
【氏名】張 學明
(72)【発明者】
【氏名】李 豐存
(72)【発明者】
【氏名】魏 家祥
【テーマコード(参考)】
4J002
4J032
【Fターム(参考)】
4J002CE001
4J002CH022
4J002DA086
4J002EC058
4J002EV256
4J002EW047
4J002EW127
4J002FD202
4J002FD206
4J002FD207
4J002FD208
4J002GF00
4J002GQ00
4J002GQ01
4J002GQ02
4J032BA04
4J032BB01
4J032BC03
4J032BC12
4J032BC13
4J032CG01
(57)【要約】
【課題】
鉄塩酸化剤組成物、固体電解コンデンサ、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】
本発明に係る鉄塩酸化剤組成物は鉄含有化合物および促進剤を含む。該促進剤は式(I)で示される構造を有する。


【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄含有化合物と、
式(I)で示される構造を有する促進剤と、
を含む鉄塩酸化剤組成物。
【化1】
(式中、RおよびRはそれぞれ独立に、C1−10アルキル基、C2−10アルケニル基、C2−10アルコキシアルキル基、C5−12アリール基、もしくはC5−12アルカリール基である、またはRおよびRは繋がっており、それぞれが連結する酸素原子と共にC2−5複素環基を形成している。RおよびRはそれぞれ独立に、水素、ヒドロキシル基、C1−10アルコキシ基、C1−10アルキル基、C2−10アルケニル基、C2−10アルケニルオキシ基、C2−10アルコキシアルキル基、C2−10アルコキシアルコキシ基、C5−12アリール基、C5−12アリールオキシ基、C5−12アルカリール基、またはC5−12アルカリールオキシ基である。AはC2−152価脂肪族基、またはC5−152価アリール基である。nは0、1、または2である。)
【請求項2】
Aが下記のうちのいずれかである請求項1に記載の鉄塩酸化剤組成物。
【化2】

【化3】
【請求項3】
およびRがそれぞれ独立に、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tertブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ビニル基、プロペニル基、アリル基、ブテニル基、メトキシメチル基、エトキシメチル基、エトキシエチル基、プロポキシエチル基、またはブトキシエチル基である請求項1に記載の鉄塩酸化剤組成物。
【請求項4】
およびRがそれぞれ独立に、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2,6−ジメチルフェニル基、2,4−ジメチルフェニル基、または3,4−ジメチルフェニル基である請求項1に記載の鉄塩酸化剤組成物。
【請求項5】
およびRがそれぞれ独立に、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tertブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、tertブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ビニル基、プロペニル基、アリル基、ブテニル基、ビニルオキシ基、プロペニルオキシ基、アリルオキシ基、ブテニルオキシ基、メトキシメチル基、エトキシメチル基、エトキシエチル基、プロポキシエチル基、ブトキシエチル基、メトキシメトキシ基、エトキシメトキシ基、エトキシエトキシ基、プロポキシエトキシ基、またはブトキシエトキシ基である請求項1に記載の鉄塩酸化剤組成物。
【請求項6】
およびRがそれぞれ独立に、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2,6−ジメチルフェニル基、2,4−ジメチルフェニル基、3,4−ジメチルフェニル基、フェノキシ基、ビフェノキシ基、ナフトキシ基、2−メチルフェノキシ基、3−メチルフェノキシ基、4−メチルフェノキシ基、2,6−ジメチルフェノキシ基、2,4−ジメチルフェノキシ基、または3,4−ジメチルフェノキシ基である請求項1に記載の鉄塩酸化剤組成物。
【請求項7】
前記鉄含有化合物が芳香族スルホン酸鉄塩である請求項1に記載の鉄塩酸化剤組成物。
【請求項8】
前記鉄含有化合物が、p−トルエンスルホン酸鉄塩、ベンゼンスルホン酸鉄塩、ナフタレンスルホン酸鉄塩、またはメトキシベンゼンスルホン酸鉄塩である請求項1に記載の鉄塩酸化剤組成物。
【請求項9】
前記促進剤と前記鉄含有化合物との重量比が0.01から0.49である請求項1に記載の鉄塩酸化剤組成物。
【請求項10】
ポリオールをさらに含む請求項1に記載の鉄塩酸化剤組成物。
【請求項11】
前記ポリオールが、グリセロールまたはポリエチレングリコールを含む請求項10に記載の鉄塩酸化剤組成物。
【請求項12】
前記ポリオールと前記鉄含有化合物との重量比が0.01から0.70である請求項10に記載の鉄塩酸化剤組成物。
【請求項13】
前記促進剤が下記のうちのいずれかである請求項1に記載の鉄塩酸化剤組成物。0に記載の鉄塩酸化剤組成物。
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【化15】
【請求項14】
コンデンサ素子と、
前記コンデンサ素子内に配置された電解質と、
を含み、
前記電解質が、前記コンデンサ素子上に塗布される導電性重合体モノマーと、請求項1に記載の鉄塩酸化剤組成物とを重合させて形成されている、固体電解コンデンサ。
【請求項15】
前記導電性重合体モノマーが式(II)で示される構造を有する請求項14に記載の固体電解コンデンサ。
【化16】
(式II)
(式中XおよびXはそれぞれ独立にOまたはSであり、Yは、
【化17】
または
【化18】
であり、Rはそれぞれ独立に水素またはC1−6アルキル基である。)
【請求項16】
前記モノマーが下記のうちのいずれかである請求項14に記載の固体電解コンデンサ。
【化19】
【化20】
【請求項17】
コンデンサ素子を準備する工程と、
前記コンデンサ素子を導電性重合体モノマーおよび請求項1に記載の鉄塩酸化剤組成物に浸漬し、前記導電性重合体モノマーを重合させて、前記コンデンサ素子上に電解質を形成する工程と、
を含む固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項18】
前記コンデンサ素子を前記導電性重合体モノマーおよび前記鉄塩酸化剤組成物中に浸漬し、前記導電性重合体モノマーを重合させる工程が、
前記コンデンサ素子を前記導電性重合体モノマーおよび前記鉄塩酸化剤組成物に同時に浸漬する工程と、
浸漬後の前記コンデンサ素子に加熱プロセスを行う工程と、
を含む請求項17に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項19】
前記コンデンサ素子を前記導電性重合体モノマーおよび前記鉄塩酸化剤組成物中に浸漬し、前記導電性重合体モノマーを重合させる工程が、
前記コンデンサ素子を前記導電性重合体モノマーに浸漬する工程と、
前記コンデンサ素子を前記導電性重合体モノマーに浸漬した後に、前記コンデンサ素子に第1の加熱プロセスを行う工程と、
前記第1の加熱プロセスを行った後に、前記コンデンサ素子を前記鉄塩酸化剤組成物に浸漬する工程と、
前記コンデンサ素子を前記鉄塩酸化剤組成物に浸漬した後に、前記コンデンサ素子に第2の加熱プロセスを行う工程と、
を含む請求項17に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項20】
前記コンデンサ素子を前記導電性重合体モノマーおよび前記鉄塩酸化剤組成物中に浸漬し、前記導電性重合体モノマーを重合させる工程が、
前記コンデンサ素子を前記鉄塩酸化剤組成物に浸漬する工程と、
前記コンデンサ素子を前記鉄塩酸化剤組成物に浸漬した後に、前記コンデンサ素子に第1の加熱プロセスを行う工程と、
前記第1の加熱プロセスを行った後に、前記コンデンサ素子を前記導電性重合体モノマーに浸漬する工程と、
前記コンデンサ素子を前記導電性重合体モノマーに浸漬した後に、前記コンデンサ素子に第2の加熱プロセスを行う工程と、
を含む請求項17に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄塩酸化剤組成物(Ferric salt oxidant)および固体電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
コンデンサは各種電子製品中に広く用いられている電子素子である。技術の発展に伴って、電子製品はより一層の小型化・軽量化の傾向にあるが、その中に用いられるコンデンサには小型化、大容量、高周波使用下での低抵抗などといった特性が求められている。
【0003】
コンデンサは電解質の形態により、従来の液体電解コンデンサと、新たに開発された固体電解コンデンサとに分けられる。従来の液体電解コンデンサは比較的低いコストで大容量の要求を満たすことができるものの、用いる電解液が液体であるため、導電率が低い、高温に弱い等の欠点が存在する。また液体電解質は水素吸収剤を添加することでコンデンサ破壊の可能性を低減することができるが、これでは根本的な解決になっていない。
【0004】
固体電解質は導電性高分子からなり、従来の電解質コンデンサに用いられる液体の電解液に比して導電度が高く、かつ適度な高温絶縁化特性を備える。既存の固体電解コンデンサの製造では通常、反応性モノマーと鉄塩酸化剤を用いて重合を行い、導電性高分子を得ている。しかしながら、鉄塩酸化剤は一般に強酸であり、コンデンサの陽極アルミニウム箔の誘電体層(例えば酸化アルミニウム)を腐食させ損傷させ易いため、漏れ電流を増加させ、耐電圧を低下させてしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、鉄塩酸化剤による誘電体層の腐食を回避し、コンデンサの漏れ電流および耐電圧の特性を改善するために新規な鉄塩酸化剤組成物を開発することが、固体電解コンデンサ技術における目下の重要課題である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態によれば、本発明は鉄塩酸化剤組成物を提供する。鉄塩酸化剤組成物は、鉄含有化合物および促進剤を含む。促進剤は式(I)で示される構造を有する。
【0007】
【化1】
【0008】
式中、RおよびRはそれぞれ独立に、C1−10アルキル基(alkyl group)、C2−10アルケニル基(alkenyl group)、C2−10アルコキシアルキル基(alkoxyalkyl group)、C5−12アリール基(aryl group)、もしくはC5−12アルカリール基(alkaryl group)である、またはRおよびRは繋がっており、それぞれが連結する酸素原子と共にC2−5複素環基(heterocyclic group)を形成している。RおよびRはそれぞれ独立に、水素、ヒドロキシル基、C1−10アルコキシ基(alkoxy group)、C1−10アルキル基(alkyl group)、C2−10アルケニル基(alkenyl group)、C2−10アルケニルオキシ基(alkenyloxy group)、C2−10アルコキシアルキル基(alkoxyalkyl)、C2−10アルコキシアルコキシ基(alkoxyalkoxy group)、C5−12アリール基(aryl group)、C5−12アリールオキシ基(aryloxy group)、C5−12アルカリール基(alkaryl group)、またはC5−12アルカリールオキシ基(alkaryloxy group)である。AはC2−152価脂肪族基(divalent aliphatic group)、またはC5−152価アリール基(divalent aryl group)である。nは0、1、または2である。
【0009】
本発明の別の実施形態によれば、本発明は、上記鉄塩酸化剤組成物を用いて形成される固体電解コンデンサも提供する。固体電解コンデンサは、コンデンサ素子と、コンデンサ素子内に配置された電解質とを含む。電解質は、コンデンサ素子上に塗布される導電性重合体モノマーと、上記鉄塩酸化剤組成物とを重合させて形成されている。
【0010】
本発明の別の実施形態によれば、本発明は、コンデンサ素子を準備する工程と、コンデンサ素子を導電性重合体モノマーおよび上記鉄塩酸化剤組成物に浸漬し、導電性重合体モノマーを重合させて、コンデンサ素子上に電解質を形成する工程と、を含む上記固体電解コンデンサの製造方法も提供する。
【0011】
本発明の上述およびその他の目的、特徴、および長所がより明らかに理解し易くなるよう、以下に好ましい実施形態を挙げ、添付の図面と対応させながら、詳細に説明する。
【発明の効果】
【0012】
本発明にかかる鉄塩酸化剤組成物は、促進剤の疎水末端が金属酸化物誘電体層表面と作用し易く、自己組織(self assembly)して保護膜を形成することにより、鉄含有化合物と金属酸化物誘電体層との接触を阻むため、得られる固体電解コンデンサの漏れ電流を低減すると共に、耐電圧特性を向上させることができる。また、促進剤は分子レベルのサイズであるので、酸化アルミニウムの腐食孔を塞がず、容量を低下させることがない。コンデンサ加工工場において使用する際は、既存の設備と製造プロセスで製造を行えばよく、生産工程が増えることもない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の1実施形態による固体電解コンデンサの局部断面構造の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、鉄塩酸化剤組成物、およびこれを用いて作製された固体電解コンデンサを開示する。該鉄塩酸化剤組成物の特徴は、鉄含有化合物を含む他に、極性末端官能基および非極性末端官能基を有する促進剤をも含んでいることで、界面にて腐食を阻止する効果を達成することにある。よって、コンデンサ素子が鉄塩酸化剤組成物に浸漬されているとき、促進剤の親水末端が鉄含有化合物と水素結合またはイオン結合を生じ得る一方で、疎水末端が非極性のコンデンサ素子誘電体層(例えば金属酸化物)表面に吸着するため、鉄含有化合物によって腐食されないよう誘電体層表面を保護することができ、得られる固体電解コンデンサが低漏れ電流および高耐電圧の特性を備えるようになる。
【0015】
本発明にかかる鉄塩酸化剤組成物は、鉄含有化合物および促進剤を含み得る。鉄含有化合物は芳香族スルホン酸鉄塩であってよく、例えばp−トルエンスルホン酸鉄塩(iron p−toluenesulfonate)、ベンゼンスルホン酸鉄塩(iron benzenesulfonate)、ナフタレンスルホン酸鉄塩(iron naphthalenesulfonate)、またはメトキシベンゼンスルホン酸鉄塩(iron methoxybenzenesulfonate)である。また、促進剤は、極性末端官能基および非極性末端官能基を有するリン含有化合物であり、式(I)で示される構造を有し得る。
【0016】
【化2】
【0017】
式中、RおよびRはそれぞれ独立に、C1−10アルキル基(alkyl group)、C2−10アルケニル基(alkenyl group)、C2−10アルコキシアルキル基(alkoxyalkyl group)、C5−12アリール基(aryl group)、もしくはC5−12アルカリール基(alkaryl group)である、またはRおよびRは繋がっており、それぞれが連結する酸素原子と共にC2−5複素環基(heterocyclic group)を形成している。RおよびRはそれぞれ独立に、水素、ヒドロキシル基、C1−10アルコキシ基(alkoxy group)、C1−10アルキル基(alkyl group)、C2−10アルケニル基(alkenyl group)、C2−10アルケニルオキシ基(alkenyloxy group)、C2−10アルコキシアルキル基(alkoxyalkyl group)、C2−10アルコキシアルコキシ基(alkoxyalkoxy group)、C5−12アリール基(aryl group)、C5−12アリールオキシ基(aryloxy group)、C5−12アルカリール基(alkaryl group)、またはC5−12アルカリールオキシ基(alkaryloxy group)である。AはC2−152価脂肪族基(divalent aliphatic group)、またはC5−152価アリール基(divalent aryl group)である。nは0、1、または2である。
【0018】
本発明の実施形態によれば、RおよびRはそれぞれ独立に、メチル基(methyl group)、エチル基(ethyl group)、プロピル基(propyl group)、イソプロピル基(isopropyl group)、ブチル基(butyl group)、イソブチル基(isobutyl group)、tertブチル基ブチル基(tertbutyl group)、ペンチル基(pentyl group)、ヘキシル基(hexyl group)、ビニル基(vinyl group)、プロペニル基(propenyl group)、アリル基(allyl group)、ブテニル基(butenyl group)、メトキシメチル基(methoxymethyl group)、エトキシメチル基(ethoxymethyl group)、エトキシエチル基(ethoxyethyl group)、プロポキシエチル基(propoxyethyl group)、ブトキシエチル基(butoxyethyl group)、フェニル基(phenyl group)、ビフェニル基(biphenyl group)、ナフチル基(naphthyl group)、2−メチルフェニル基(2−methyl−phenyl group)、3−メチルフェニル基(3−methyl−phenyl group)、4−メチルフェニル基(4−methyl−phenyl group)、2,6−ジメチルフェニル基(2,6−dimethyl−phenyl group)、2,4−ジメチルフェニル基(2,4−dimethyl−phenyl group)、または3,4−ジメチルフェニル基(3,4−dimethyl−phenyl group)であってよい。
【0019】
本発明の実施形態によれば、RおよびRはそれぞれ独立に、メチル基(methyl group)、エチル基(ethyl group)、プロピル基(propyl group)、イソプロピル基(isopropyl group)、ブチル基(butyl group)、イソブチル基(isobutyl group)、tertブチル基(tertbutyl group)、ペンチル基(pentyl group)、ヘキシル基(hexyl group)、メトキシ基(methoxy group)、エトキシ基(ethoxy group)、プロポキシ基(propoxy group)、イソプロポキシ基(isopropoxy group)、ブトキシ基(butoxy group)、イソブトキシ基(isobutoxy group)、tertブトキシ基(tertbutoxy group)、ペンチルオキシ基(pentyloxy group)、ヘキシルオキシ基(hexyloxy group)、ビニル基(vinyl group)、プロペニル基(propenyl group)、アリル基(allyl group)、ブテニル基(butenyl group)、ビニルオキシ基(vinyloxy group)、プロペニルオキシ基(propenyloxy group)、アリルオキシ基(allyloxy group)、ブテニルオキシ基(butenyloxy group)、メトキシメチル基(methoxymethyl group)、エトキシメチル基(ethoxymethyl group)、エトキシエチル基(ethoxyethyl group)、プロポキシエチル基(propoxyethyl group)、ブトキシエチル基(butoxyethyl group)、メトキシメトキシ基(methoxymethoxy group)、エトキシメトキシ基(ethoxymethoxy group)、エトキシエトキシ基(ethoxyethoxy group)、プロポキシエトキシ基(propoxyethoxy group)、ブトキシエトキシ基(butoxyethoxy group)、フェニル基(phenyl group)、ビフェニル基(biphenyl group)、ナフチル基(naphthyl group)、2−メチルフェニル基(2−methyl−phenyl group)、3−メチルフェニル基(3−methyl−phenyl group)、4−メチルフェニル基(4−methyl−phenyl group)、2,6−ジメチルフェニル基(2,6−dimethyl−phenyl group)、2,4−ジメチルフェニル基(2,4−dimethyl−phenyl group)、3,4−ジメチルフェニル基(3,4−dimethyl−phenyl group)、フェノキシ基(phenoxy group)、ビフェノキシ基(biphenoxy group)、ナフトキシ基(naphthoxy group)、2−メチルフェノキシ基(2−methyl−phenoxy group)、3−メチルフェノキシ基(3−methyl−phenoxy group)、4−メチルフェノキシ基(4−methyl−phenoxy group)、2,6−ジメチルフェノキシ基(2,6−dimethyl−phenoxy group)、2,4−ジメチルフェノキシ基(2,4−dimethyl−phenoxy group)、または3,4−ジメチルフェノキシ基(3,4−dimethyl−phenoxy group)であってよい。
【0020】
本発明の実施形態によれば、nが1または2であるとき、Aはそれぞれ独立に、下記の基のうちのいずれかであり得る。
【0021】
【化3】
【0022】
【化4】
【0023】
上の基は、*で示された炭素原子と隣の2つの酸素原子で連結する。
【0024】
本発明の実施形態によれば、本発明にかかる促進剤は下記のうちのいずれかであってよい。
【0025】
【化5】
【0026】
【化6】
【0027】
【化7】
【0028】
【化8】
【0029】
【化9】
【0030】
【化10】
【0031】
【化11】
【0032】
【化12】
【0033】
【化13】
【0034】
【化14】
【0035】
【化15】
【0036】
【化16】
【0037】
また、本発明の実施形態によれば、鉄塩酸化剤組成物中、促進剤と鉄含有化合物との重量比は0.01から0.49、例えば0.01から0.45、0.01から0.40、または0.01から0.35とすることができる。重量比が0.01より低いと、誘電体層に吸着する促進剤の濃度が足りずに保護作用が低下し、漏れ電流および耐電圧特性の向上の効果が顕著でなくなってしまう。一方、重量比が0.49より高いと、鉄塩酸化剤組成物の粘度が高まり易くなり、流動性が悪くなって誘電体層に形成される孔に浸入できなくなり、コンデンサ特性(静電容量(Cs)、エネルギー損失係数(DF)、および等価直列抵抗(ESR))を低下させてしまう。
【0038】
本発明の他の実施形態によれば、鉄塩酸化剤組成物は溶媒をさらに含んでいてよく、溶媒中に鉄含有化合物および促進剤が均一に分散される。溶媒はアルコール系溶媒、例えばメタノール、エタノール、ブタノール、またはこれらの組み合わせであってよい。また、溶媒と鉄含有化合物との重量比は0.2から2.0、例えば0.2から1.5とすることができる。
【0039】
本発明の他の実施形態によれば、鉄塩酸化剤組成物は、ポリオールをさらに含んでいてよい。ポリオールと鉄塩酸化剤の分子間の作用に加え、ポリオールと促進剤とは相溶性が良好であるため、少量のポリオールを添加することで、鉄塩酸化剤における促進剤の分散性が高まり、促進剤の界面における腐食阻止の効果を高めることができる。例えば、ポリオールの例として、グリセロール、ポリエチレングリコール、またはこれらの組み合わせを挙げることができる。さらに、ポリオールと鉄含有化合物との重量比は0.01から0.70とすることができる
【0040】
本発明はまた、コンデンサ素子と、コンデンサ素子内に配置された電解質と、を含み得るコンデンサも提供する。電解質は、コンデンサ素子上に塗布される導電性重合体モノマーと、本発明にかかる鉄塩酸化剤組成物とを重合させることにより形成される。このコンデンサ素子とは、例えば、コンデンサの半製品、つまり電解質がまだ塗布されていないコンデンサのことを指す。コンデンサ素子の製造方法は、例として、陽極金属箔(例えばアルミニウム箔)と陰極金属箔(例えばアルミニウム箔)とにそれぞれリードピンを取り付け、両電極間をセパレータ紙で隔て、両電極とセパレータ紙を巻き取り、最後にテープで固定するものとすることができる。コンデンサ素子をさらに、1〜20%アジピン酸ジアンモニウム水溶液中で電圧を印加して酸化処理し、表面に誘電体層を形成させてから(当該電圧は例えば10Vから100Vとすることができる)、精製水で洗浄することができる。続いて、120℃で30分加熱乾燥し、250℃でセパレータ紙を炭化し、冷却後に使用に備える。
【0041】
導電性重合体モノマーは、重合に導電性ポリマーを形成することのできる反応性モノマーであってよい。例えば、当該反応性モノマーは式(II)で示される構造を有し得る。
【0042】
【化17】
【0043】
式中XおよびXはそれぞれ独立にOまたはSであり、Yは、
【化18】
または
【化19】
であり、Rはそれぞれ独立に水素またはC1−6アルキル基である。本発明の実施形態によれば、式(II)で示される構造を有するモノマーは下記のうちのいずれかであってよい。
【0044】
【化20】
【0045】
【化21】
【0046】
また、導電性重合体モノマーを、使用前に先ず溶媒中に溶解して固形分10〜60%の導電性重合体モノマー溶液を得てから、その溶液でコンデンサ素子を浸漬することもできる。溶媒はアルコール系溶媒、例えばメタノール、エタノール、ブタノール、またはこれらの組み合わせであってよい。
【0047】
図1を参照されたい。図1は、本発明の1実施形態による固体電解コンデンサの局部拡大図である。コンデンサ素子10は陽極金属箔12(例えばアルミニウム箔)および陰極金属箔14(例えばアルミニウム箔)を含み、陽極金属箔12と陰極金属箔14との間はセパレータ紙16で隔てられ、かつ陽極金属箔12上には金属酸化物層18(例えば酸化アルミニウム(Al))が形成されている。金属酸化物層18は複数の凹溝を含み得る。電解質20をコンデンサ素子内に形成した後、電解質20は金属酸化物層18に形成された凹溝内に充填される。
【0048】
本発明の実施形態はまた、コンデンサ素子を準備し、コンデンサ素子内に電解質を形成する工程を含む固体電解コンデンサの製造方法も提供する。本発明の1実施形態によれば、電解質を形成する方式は、コンデンサ素子を導電性重合体モノマーおよび鉄塩酸化剤組成物に同時に浸漬し、浸漬後のコンデンサ素子に加熱プロセスを行ってモノマーを重合させる工程を含み得る。本発明の別の実施形態によれば、電解質を形成する方式は、コンデンサ素子を導電性重合体モノマーに浸漬する工程と、次いでコンデンサ素子に第1の加熱プロセスを行う工程と、次いでコンデンサ素子を鉄塩酸化剤組成物に浸漬する工程と、コンデンサ素子に第2の加熱プロセスを行う工程と、を含み得る。本発明のまた別の実施形態によれば、電解質を形成する方式は、コンデンサ素子を鉄塩酸化剤組成物に浸漬する工程と、次いでコンデンサ素子に第1の加熱プロセスを行う工程と、次いでコンデンサ素子を導電性重合体モノマーに浸漬する工程と、コンデンサ素子に第2の加熱プロセスを行う工程と、を含み得る。
【0049】
なお、コンデンサ素子が鉄塩酸化剤組成物に浸漬される際、その鉄塩酸化剤組成物は鉄含有化合物および促進剤を同時に含んでいなければならない点に留意すべきである。言い換えると、コンデンサ素子は促進剤の存在下で鉄含有化合物(例えばp−トルエンスルホン酸鉄塩)に浸漬される。よって、コンデンサ素子が鉄塩酸化剤組成物に浸漬しているとき、促進剤の親水末端が鉄含有化合物と水素結合またはイオン結合を生じ得る一方で、疎水末端が非極性のコンデンサ素子の誘電体層表面に吸着する。このようにして促進剤は、界面における腐食阻止の効果を達成し、鉄含有化合物によって腐食されないよう誘電体層表面を保護することができる。
【0050】
本発明の上述およびその他の目的、特徴、および長所がより明らかに理解し易くなるよう、以下に実施例を挙げ、本発明にかかる鉄塩酸化剤組成物およびこれを用いて作製される固体電コンデンサについて説明する。
【実施例】
【0051】
鉄塩酸化剤組成物の作製
実施例1
p−トルエンスルホン酸鉄(Ferric(III) p−toluenesulfonate)(Synmax Biochemical社製)を100重量部、およびエタノールを66.7重量部取り反応容器に入れた。続いて、反応容器を約70℃に加熱し、回転速度400rpmで30分撹拌して、p−トルエンスルホン酸鉄を溶解させた。室温まで冷却した後、1μmのろ過膜でろ過して不溶物を除き、ろ液を収集して、鉄塩酸化剤組成物(1)を得た。
【0052】
実施例2
p−トルエンスルホン酸鉄(Synmax Biochemical社製)を100重量部、エタノールを65重量部、およびリン酸トリエチル(triethyl phosphate、TEP)を1.7重量部取り反応容器に入れた。続いて、反応容器を約70℃に加熱し、回転速度400rpmで30分撹拌して、p−トルエンスルホン酸鉄を溶解させた。室温まで冷却した後、1μmのろ過膜でろ過して不溶物を除き、ろ液を収集して、鉄塩酸化剤組成物(2)を得た。
【0053】
実施例3
エタノールを65重量部から58.3重量部に変え、かつリン酸トリエチルを1.7重量部から8.3重量部に変えたこと以外は、実施例2と同じように進行して、鉄塩酸化剤組成物(3)を得た。
【0054】
実施例4
エタノールを65重量部から50重量部に変え、かつリン酸トリエチルを1.7重量部から16.7重量部に変えたこと以外は、実施例2と同じように進行して、鉄塩酸化剤組成物(4)を得た。
【0055】
実施例5
エタノールを65重量部から33.3重量部に変え、かつリン酸トリエチルを1.7重量部から33.3重量部に変えたこと以外は、実施例2と同じように進行して、鉄塩酸化剤組成物(5)を得た。
【0056】
実施例6
リン酸トリエチルを16.7重量部から8.3重量部に変え、かつ8.3重量部のポリエチレングリコール(分子量約600)を反応容器に添加したこと以外は、実施例4と同じように進行して、鉄塩酸化剤組成物(6)を得た。
【0057】
実施例7
リン酸トリエチルを33.3重量部から16.7重量部に変え、かつ16.7重量部のグリセロールを反応容器に添加したこと以外は、実施例5と同じように進行して、鉄塩酸化剤組成物(7)を得た。
【0058】
実施例8
リン酸トリエチルを、下式で示される構造のテトラキス(2,6−フェニルジメチルフェニル)1,3−フェニレンビホスフェート(tetrakis(2,6−dimethylphenyl)1,3−phenylene biphosphate, TDPB)(GO YEN CHEMICAL社製)に変えたこと以外は、実施例2と同じように進行して、鉄塩酸化剤組成物(8)を得た。
【0059】
【化22】
【0060】
実施例9
p−トルエンスルホン酸鉄(Synmax Biochemical 社製)を100重量部、エタノールを63.3重量部、およびOP1312(次亜リン酸エステル誘導体、GO YEN CHEMICAL社製)を3.3重量部取り反応容器に入れた。続いて、反応容器を約70℃に加熱し、回転速度400rpmで30分撹拌して、p−トルエンスルホン酸鉄を溶解させた。室温まで冷却した後、1μmのろ過膜でろ過して不溶物を除き、ろ液を収集して、鉄塩酸化剤組成物(9)を得た。
【0061】
実施例10
リン酸トリエチルを、下式で示される構造のADK STAP FP−700(長春化工社製)に変えたこと以外は、実施例4と同じように進行して、鉄塩酸化剤組成物(10)を得た。
【0062】
【化23】
【0063】
実施例11
リン酸トリエチルを、リン酸トリブチル(tributyl phosphate、TBP)に変えたこと以外は、実施例4と同じように進行して、鉄塩酸化剤組成物(11)を得た。
【0064】
実施例12
エタノールを65重量部から17.3重量部に変え、かつリン酸トリエチルを1.7重量部から49.9重量部に変えたこと以外は、実施例2と同じように進行して、鉄塩酸化剤組成物(12)を得た。
【0065】
表1を参照されたい。表1は、実施例1〜12で作製した鉄塩酸化剤組成物(1)〜(12)の成分および重量割合である。
【0066】
【表1】
【0067】
コンデンサ素子の作製
作製例1:高電圧化成のコンデンサ素子
陽極アルミニウム箔と陰極アルミニウム箔とにそれぞれリードピンを取り付け、両電極の間をセパレータ紙で隔てると共に、両電極とセパレータ紙とを巻き取り、最後にテープで固定して、未化成のコンデンサ素子を得た。次いで、その未化成のコンデンサ素子を、10%アジピン酸ジアンモニウム水溶液中で80Vの電圧を印加することにより酸化処理し、表面に誘電体層を形成させ(材質は酸化アルミニウム(Al))、精製水で洗浄した後、120℃で30分加熱乾燥し、250℃で3時間加熱してセパレータ紙を炭化させ、冷却して、化成済みのコンデンサ素子(1)を得た。
【0068】
作製例2:低電圧化成のコンデンサ素子
作製例1と同じように進行したが、10%アジピン酸ジアンモニウム水溶液中で10Vの電圧を印加することで未化成のコンデンサ素子を酸化処理した。よって化成済みのコンデンサ(2)を得た。
【0069】
EDOT溶液の作製
3,4−エチレンジオキシチオフェン(3,4−ethylenedioxythiophene、EDOT)(Synmax Biochemical社製)を100重量部、およびエタノールを300重量部、反応容器に加え、回転速度400rpmで5分撹拌し、EDOT溶液を得た。
【0070】
固体電解コンデンサの作製
実施例13〜24
続いて、上記化成済みのコンデンサ素子(1)を上記EDOT溶液に30分浸漬した。コンデンサ素子を取り出した後、80℃で下30分加熱乾燥した。次いで、EDOT溶液に浸漬してから加熱乾燥したコンデンサ素子をいくつか取り、それぞれ実施例1〜12の鉄塩酸化剤組成物(1)〜(12)中に浸漬した。浸漬完了後、60℃で30分加熱乾燥、90℃で30分加熱乾燥、120℃で30分加熱乾燥した。冷却後、それぞれ固体電解コンデンサI〜XIIを得た(各種類のコンデンサをそれぞれ3個ずつ作製した)。続いて、120℃で通電エージングテスト(120℃下10V、15V、および20Vの電圧をそれぞれ1時間印加)を行った後、固体電解コンデンサI〜XIIに対し、コンデンサ特性(静電容量(Cs)、エネルギー損失係数(DF)、および等価直列抵抗(ESR)を含む)テスト、漏れ電流分析、ならびに耐電圧分析を行った。その結果は表2に示されている。
【0071】
実施例25〜26
エタノールを90重量部、およびリン酸トリエチル(triethyl phosphate、TEP)を10重量部取り、反応容器に入れてから、回転速度400rpmで5分撹拌し、リン酸トリエチル溶液を得た。
【0072】
エタノールを90重量部、およびADK STAP FP−700を10重量部取り、反応容器に入れてから、回転速度400rpmで5分撹拌し、ADK STAP FP−700溶液を得た。
【0073】
次いで、化成済みのコンデンサ素子(1)を上記EDOT溶液に30分浸漬した。コンデンサ素子を取り出した後、80℃で30分加熱乾燥した。続いて、EDOT溶液に浸漬してから加熱乾燥したコンデンサ素子を、実施例1の鉄塩酸化剤組成物(1)(促進剤を含まない)に浸漬した。浸漬完了後、60℃で30分加熱乾燥、90℃で30分加熱乾燥、120℃で30分加熱乾燥した。次いで、得られたいくつかのコンデンサ素子をさらにリン酸トリエチル溶液またはADK STAP FP−700溶液にそれぞれ浸漬し、取り出した後、80℃で30分加熱乾燥した。冷却後、固体電解コンデンサXIIIおよびXIVをそれぞれ得た(それぞれ3個ずつ作製した)。続いて、120℃で通電エージングテスト(120℃下10V、15V、および20Vの電圧をそれぞれ1時間印加)を行った後、固体電解コンデンサXIIIおよびXIVに対し、コンデンサ特性(静電容量(Cs)、エネルギー損失係数(DF)、および等価直列抵抗(ESR)を含む)テスト、漏れ電流分析、ならびに耐電圧分析を行った。その結果は表2に示されている。
【0074】
【表2】
注:静電容量テスト、エネルギー損失係数テスト、および等価直列抵抗テストは、ヒューレット・パッカード(HP)社製LCR Meter4263Bにより測定することで行った。静電容量(周波数120Hzで測定)>20μFは合格(○)、そうでなければ不合格(×)、エネルギー損失係数(DF)(周波数120Hzで測定)<10%は合格(○)、そうでなければ不合格(×)、等価直列抵抗(ESR)(周波数100kHzで測定)<40mΩは合格(○)、そうでなければ不合格(×)とした。漏れ電流および耐電圧をコンデンサ漏れ電流計(クロマ社製capacitor leakage current/IR meter model 1120)で測定した。漏れ電流は16Vで60秒充電した後に測定した。耐電圧は、1分ごとに1V上げていき、電圧破壊が生じた電圧をその耐電圧とすることで測定した。
【0075】
表2から分かるように、鉄塩酸化剤組成物中に促進剤としてリン酸エステル化合物を添加してから、その鉄塩酸化剤組成物で固体電解コンデンサの作製を行うと、得られたコンデンサの漏れ電流を減少し、耐電圧を上げることができた。促進剤のそれぞれ異なる添加濃度および異なる成分によって、本発明により得られる固体電解コンデンサの耐電圧は(促進剤を添加していない鉄塩酸化剤組成物で作製した固体電解コンデンサ(固体電解コンデンサI)と比較して)19.6%〜95.7%高まった。また、実施例25〜26より分かるように、EDOT溶液およびp−トルエンスルホン酸鉄塩溶液(実施例における鉄塩酸化剤組成物(1))に浸漬した後に加熱乾燥して得られた固体電解コンデンサを、さらにリン酸エステル化合物に浸漬して加熱乾燥した場合(つまり、p−トルエンスルホン酸鉄塩への浸漬時、促進剤は同時に加えていない場合)は、固体電解コンデンサの漏れ電流の減少および耐電圧の増加において、顕著な効果は現れなかった。さらに、表2から分かるように、ポリオールを添加した鉄塩酸化剤組成物(6)および(7)で作製した固体電解コンデンサVIおよびVIIでは、その耐電圧上昇の割合は80%にも達した。その理由は、ポリオールと鉄塩酸化剤は分子間力が大きくかつ相容性が良好であるために、鉄塩酸化剤における促進剤(リン酸エステル化合物)の分散性が高まり、ひいては促進剤の界面における腐食阻止の効果が高まるからである。
【0076】
実施例27〜28
次いで、上記化成済みのコンデンサ素子(2)を上記EDOT溶液に30分浸漬した。コンデンサ素子を取り出した後、80℃で30分加熱乾燥した。続いて、EDOT溶液に浸漬してから加熱乾燥したコンデンサ素子をいくつか取り、鉄塩酸化剤組成物(1)および(4)にそれぞれ浸漬した。浸漬完了後、60℃で30分加熱乾燥、90℃で30分加熱乾燥、120℃で30分加熱乾燥した。冷却後、固体電解コンデンサXVおよびXVIをそれぞれ得た(各種類のコンデンサをそれぞれ3個ずつ作製した)。続いて、120℃で通電エージングテスト(120℃下10V、15V、および20Vの電圧をそれぞれ1時間印加)を行った後、固体電解コンデンサXVおよびXVIに対し、コンデンサ特性(静電容量(Cs)、エネルギー損失係数(DF)、および等価直列抵抗(ESR)を含む)テスト、ならびに漏れ電流分析を行った。その結果は表3に示されている。
【0077】
【表3】
注:静電容量(周波数120Hzで測定)>500μFは合格(○)、そうでなければ不合格(×)、エネルギー損失係数(DF)(周波数120Hzで測定)<10%は合格(○)、そうでなければ不合格(×)、等価直列抵抗(ESR)(周波数100kHzで測定)<10mΩは合格(○)、そうでなければ不合格(×)とした。
【0078】
表3から、低電圧で化成したコンデンサ素子を、本発明にかかる鉄塩酸化剤組成物を用いて固体電解コンデンサに作製しても同様に、得られた固体電解コンデンサの漏れ電流が低減し得ることがわかる。
【0079】
上記によれば、本発明にかかる鉄塩酸化剤組成物は、促進剤の疎水末端が金属酸化物誘電体層表面と作用し易く、自己組織(self assembly)して保護膜を形成することにより、鉄含有化合物と金属酸化物誘電体層との接触を阻むため、得られる固体電解コンデンサの漏れ電流を低減すると共に、耐電圧特性を向上させ得る。また、促進剤は分子レベルのサイズであるので、酸化アルミニウムの腐食孔を塞がず、容量を低下させることがない。コンデンサ加工工場において使用する際は、既存の設備と製造プロセスで製造を行えばよく、生産工程が増えることもない。
【0080】
本発明を実施形態により以上のように開示したが、これらは本発明を限定するものではなく、当業者であれば、本発明の精神および範囲を逸脱しない限りにおいて、いくらかの変更および修飾を加えることができる。よって、本発明の保護範囲は、添付の特許請求の範囲の記載を基準とすべできある。
【符号の説明】
【0081】
10…コンデンサ素子
12…陽極金属箔
14…陰極金属箔
16…セパレータ紙
18…金属酸化物層
20…電解質
図1