(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-93035(P2016-93035A)
(43)【公開日】2016年5月23日
(54)【発明の名称】降圧チョッパ回路、溶接用電源装置、及び降圧チョッパ回路の過電圧保護方法
(51)【国際特許分類】
H02M 3/155 20060101AFI20160418BHJP
B23K 9/073 20060101ALI20160418BHJP
B23K 9/10 20060101ALI20160418BHJP
【FI】
H02M3/155 C
B23K9/073 560
B23K9/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-227138(P2014-227138)
(22)【出願日】2014年11月7日
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】蒲生 勇
【テーマコード(参考)】
4E082
5H730
【Fターム(参考)】
4E082DA01
4E082EE03
4E082EE07
4E082EE08
4E082FA20
4E082GA03
5H730AA20
5H730AS01
5H730AS05
5H730BB13
5H730BB98
5H730CC01
5H730DD02
5H730DD05
5H730EE01
5H730EE57
5H730EE58
5H730EE59
5H730EE60
5H730FD01
5H730FD11
5H730FG01
5H730FG21
5H730XX03
5H730XX12
5H730XX23
5H730XX32
5H730XX46
(57)【要約】
【課題】制御切替時に生じ得る過渡的な過電圧を異常と判定せず、本来の過電圧異常の判定をより適切に行うことができる過電圧保護機能付きの降圧チョッパ回路を提供する。
【解決手段】高圧入力時に行われる降圧チョッパ回路の出力電圧の過電圧判定において、その判定要件に降圧チョッパ回路の出力電圧の変化態様を更に加味する。降圧チョッパ回路の出力電圧が判定値TH以上で且つその出力電圧が上昇中と判定した場合(A矢印)には、降圧チョッパ回路の出力電圧が本来の過電圧異常と判定する。一方、降圧チョッパ回路の出力電圧が判定値TH以上で且つその出力電圧が下降中と判定した場合(B矢印)には、降圧チョッパ回路の出力電圧が制御切替時の過渡的な過電圧状態とし、本来の過電圧異常でないと判定する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源線上に接続されるチョッパ用スイッチと、電源線間に接続される保護用スイッチとを備え、各スイッチを制御する制御部は、
入力電圧が低圧か高圧かの何れかを判定し、低圧入力時には前記チョッパ用スイッチのオン固定制御を行って前記入力電圧を出力電圧として生成し、高圧入力時には前記チョッパ用スイッチのチョッパ制御を行って前記入力電圧から降圧した出力電圧を生成するように前記チョッパ用スイッチの制御態様が切替可能に構成されると共に、
前記高圧入力時において前記低圧入力時の最高電圧よりも低い電圧値に設定された判定値と前記出力電圧との比較に基づいて過電圧異常かを判定し、過電圧異常と判定した際には前記保護用スイッチをオンして後段回路への電力供給を停止する過電圧保護機能を備える降圧チョッパ回路であって、
前記制御部は、前記出力電圧の過電圧判定の要件に前記出力電圧の変化態様を更に加味し、前記出力電圧が前記判定値以上で且つ前記出力電圧が上昇中と判定した場合には前記出力電圧が過電圧異常と判定し、前記出力電圧が前記判定値以上で且つ前記出力電圧が下降中と判定した場合には前記出力電圧が過電圧異常と判定しないようにしたことを特徴とする降圧チョッパ回路。
【請求項2】
溶接トランスに対して高周波交流電力を供給するインバータ回路の前段に、請求項1に記載の降圧チョッパ回路を配置して構成されていることを特徴とする溶接用電源装置。
【請求項3】
電源線上に接続されるチョッパ用スイッチと、電源線間に接続される保護用スイッチとを備える降圧チョッパ回路に対し、
入力電圧が低圧か高圧かの何れかを判定し、低圧入力時には前記チョッパ用スイッチのオン固定制御を行って前記入力電圧を出力電圧として生成し、高圧入力時には前記チョッパ用スイッチのチョッパ制御を行って前記入力電圧から降圧した出力電圧を生成するように前記チョッパ用スイッチの制御態様が切替可能であると共に、
前記高圧入力時において前記低圧入力時の最高電圧よりも低い電圧値に設定された判定値と前記出力電圧との比較に基づいて過電圧異常かを判定し、過電圧異常と判定した際には前記保護用スイッチをオンして後段回路への電力供給を停止するように構成される降圧チョッパ回路の過電圧保護方法であって、
前記出力電圧の過電圧判定の要件に前記出力電圧の変化態様を更に加味し、前記出力電圧が前記判定値以上で且つ前記出力電圧が上昇中と判定した場合には前記出力電圧が過電圧異常と判定し、前記出力電圧が前記判定値以上で且つ前記出力電圧が下降中と判定した場合には前記出力電圧が過電圧異常と判定しないようにしたことを特徴とする降圧チョッパ回路の過電圧保護方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力電圧が低圧か高圧かで制御態様を切り替える降圧チョッパ回路、溶接用電源装置、及び降圧チョッパ回路の過電圧保護方法に関する。
【背景技術】
【0002】
異なる入力電圧でも使用可能な溶接用電源装置等においては、その入力電圧に応じて内部電圧を調整するための降圧チョッパ回路が用いられる。降圧チョッパ回路は、例えば入力側から順に整流回路、インバータ回路、溶接トランスを含んで構成される溶接用電源装置のその整流回路とインバータ回路との間に組み込まれ、インバータ回路への印加電圧を適切範囲内に調整すべく降圧動作を行う。
【0003】
降圧チョッパ回路の回路構成としては、例えば特許文献1,2に示されるように、一方側の電源線上に接続されてチョッパ動作を行うチョッパ用スイッチと、該チョッパ用スイッチの後段の電源線間に接続されるダイオードと、該ダイオードの後段の一方側の電源線上に接続されるリアクトルとが備えられている。
【0004】
このような降圧チョッパ回路の制御態様としては、電源装置への入力電圧(三相交流)が例えばAC270[V]未満の低圧入力か、AC270[V]以上の高圧入力かでその制御態様を切り替えるものがある。
【0005】
具体的には、先ず電源装置への入力電圧が低圧入力・高圧入力の何れであるかの認識(判定)がなされる。低圧入力と認識した場合では、降圧チョッパ回路のチョッパ用スイッチがオン状態で固定とされ、降圧チョッパ回路の入力電圧が略そのまま出力電圧としてインバータ回路に印加される。つまり、電源装置の入力電圧がAC0〜270[V]の場合、整流回路の全波整流による直流化で√2倍となるため、整流回路の出力電圧はDC0〜382[V]、降圧チョッパ回路の入出力電圧もDC0〜382[V]となり、インバータ回路への印加電圧も同様の電圧範囲となる。
【0006】
一方、高圧入力と認識した場合では、降圧チョッパ回路のチョッパ用スイッチがオンオフ動作(チョッパ動作)されると共に電源装置の入力電圧に応じてそのオン期間が変更され、降圧チョッパ回路の出力電圧が一定電圧としてインバータ回路に印加される。つまり、電源装置の入力電圧がAC270[V]以上、即ち整流回路の出力電圧(降圧チョッパ回路の入力電圧)がDC382[V]以上においては、降圧チョッパ回路のチョッパ制御により出力電圧がDC280[V]で一定とされ、インバータ回路への印加電圧もその一定電圧となる。
【0007】
しかしながら、この高圧入力時にチョッパ動作(オンオフ動作)すべきチョッパ用スイッチが短絡故障で導通状態(オン固定状態)になると、降圧チョッパ回路の入力電圧、即ちDC382[V]以上の整流回路の出力電圧が略そのままインバータ回路に印加されてしまう。そのため、このような降圧チョッパ回路においては、後段のインバータ回路、即ちインバータ回路を構成する半導体スイッチを過電圧から保護する等の目的で過電圧保護機能が付加されている。
【0008】
過電圧保護機能(回路)としては、例えばチョッパ用スイッチの後段の電源線間に保護用スイッチが接続されると共に、保護用スイッチより前段側の電源線上にヒューズが接続され、高圧入力時における降圧チョッパ回路の正常な出力電圧値がDC280[V]であるのに対し、過電圧状態かを判定する判定値が例えばDC350[V]に設定される。そして、高圧入力時において降圧チョッパ回路の出力電圧値が判定値のDC350[V]以上になると過電圧異常であるとして保護用スイッチがオンされ、以降の回路への電力伝達の遮断と共に、チョッパ用スイッチの短絡により生じる大電流にてヒューズが溶断するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−247927号公報(第1図、第3図参照)
【特許文献2】特開2005−130593号公報(第4図参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、降圧チョッパ回路の仕様として、制御態様を切り替える境界付近の低圧入力で動作させることを想定した場合(積極的には使用しない領域ではあるものの、仕様としてその入力電圧で動作させた場合)、具体的には例えば、AC269[V]で降圧チョッパ回路を動作させた場合を考えてみる。整流回路の出力電圧は、DC380[V]である。
【0011】
この場合、電源装置の入力電圧が何らかの要因で数[V]上昇し、AC270[V]以上になった場合、降圧チョッパ回路としては高圧入力になったと認識し、チョッパ用スイッチの制御を低圧入力時のオン固定制御から高圧入力時のチョッパ制御に切り替える。また同時に、降圧チョッパ回路の出力電圧に対し、過電圧状態かを判定する判定値(DC350[V])が設定される。
【0012】
しかしながら、降圧チョッパ回路のリアクトルの後段の電源線間には、一般に電圧安定化のための平滑コンデンサが備えられている。つまり、先の低圧入力時のチョッパ用スイッチのオン固定制御により、整流回路の出力電圧が降圧チョッパ回路自身の入出力電圧となるため、平滑コンデンサの充電電圧も同電圧(約DC380[V])となっている。
【0013】
このような状況にあって、電源装置の入力電圧が上記のようにAC269[V]から数[V]上昇して低圧入力から高圧側に切り替わり、これに応答してチョッパ用スイッチがオン固定からチョッパ動作に切り替わって降圧チョッパ回路の出力電圧がDC280[V]一定に向けて正常に動作しようとしても、出力電圧は急峻に下降せず、特に電圧安定化のための平滑コンデンサを備えるものでは電圧を急峻に下降させることは困難である。
【0014】
そのため、降圧チョッパ回路の出力電圧は、電源装置の入力電圧が高圧入力に切り替わってからチョッパ動作が効いてくるまでの間、過電圧状態かを判定する判定値(DC350[V])を超える電圧値となって過電圧異常と判定されてしまう。つまり、チョッパ用スイッチが短絡故障しておらず単に制御態様を移行するだけであっても、過電圧異常と判定されてしまう状況が生じ得る。このように過電圧異常と一旦判定されてヒューズが溶断されてしまうと、その後に電源装置を使用するには、ヒューズ、チョッパ用スイッチ、保護用スイッチの交換作業が必要となる。
【0015】
ただ一方で、チョッパ用スイッチの短絡故障による過電圧異常は適切に判定して過電圧からの保護を図る必要があるため、上記した制御切替時に生じ得る過渡的な過電圧状態と明確に区別する判定手法が望まれている。
【0016】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、制御切替時に生じ得る過渡的な過電圧を異常と判定せず、本来の過電圧異常の判定をより適切に行うことができる過電圧保護機能付きの降圧チョッパ回路、降圧チョッパ回路を備える溶接用電源装置、及び降圧チョッパ回路の過電圧保護方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決する降圧チョッパ回路は、電源線上に接続されるチョッパ用スイッチと、電源線間に接続される保護用スイッチとを備え、各スイッチを制御する制御部は、入力電圧が低圧か高圧かの何れかを判定し、低圧入力時には前記チョッパ用スイッチのオン固定制御を行って前記入力電圧を出力電圧として生成し、高圧入力時には前記チョッパ用スイッチのチョッパ制御を行って前記入力電圧から降圧した出力電圧を生成するように前記チョッパ用スイッチの制御態様が切替可能に構成されると共に、前記高圧入力時において前記低圧入力時の最高電圧よりも低い電圧値に設定された判定値と前記出力電圧との比較に基づいて過電圧異常かを判定し、過電圧異常と判定した際には前記保護用スイッチをオンして後段回路への電力供給を停止する過電圧保護機能を備える降圧チョッパ回路であって、前記制御部は、前記出力電圧の過電圧判定の要件に前記出力電圧の変化態様を更に加味し、前記出力電圧が前記判定値以上で且つ前記出力電圧が上昇中と判定した場合には前記出力電圧が過電圧異常と判定し、前記出力電圧が前記判定値以上で且つ前記出力電圧が下降中と判定した場合には前記出力電圧が過電圧異常と判定しないようにした。
【0018】
この構成によれば、高圧入力時に行われる降圧チョッパ回路の出力電圧の過電圧判定において、その判定要件に降圧チョッパ回路の出力電圧の変化態様が更に加味される。即ち、チョッパ用スイッチの短絡故障(オン固定状態)が生じて降圧動作が行われなくなると、高圧入力であるが故に降圧チョッパ回路の出力電圧は上昇して過電圧状態になり得る。そのため、降圧チョッパ回路の出力電圧が判定値以上で且つその出力電圧が上昇中と判定した場合には、降圧チョッパ回路の出力電圧が過電圧異常であると判定する。一方、降圧チョッパ回路の制御態様が切り替わる境界付近の低圧入力にて動作しており、使用途中で入力電圧が何らかの要因で上昇して高圧入力側に移行すると、降圧チョッパ回路がオン固定からチョッパ動作に切り替わることにより出力電圧が下降しようとするが、即座に判定値を下回ることが困難である。そのため、降圧チョッパ回路の出力電圧が判定値以上で且つその出力電圧が下降中と判定した場合には、降圧チョッパ回路の出力電圧が制御切替時に生じ得る過渡的な過電圧であり本来の過電圧異常でないと判定する。このような判定とすることで、チョッパ用スイッチの短絡故障による過電圧状態と、制御切替時に生じ得る過渡的な過電圧状態とを明確に区別でき、本来の過電圧異常の判定をより適切に行うことが可能となる。
【0019】
また、上記課題を解決する溶接用電源装置は、溶接トランスに対して高周波交流電力を供給するインバータ回路の前段に、上記の降圧チョッパ回路を配置して構成されている。
この構成によれば、インバータ回路の前段に降圧チョッパ回路が備えられる溶接用電源装置は、降圧チョッパ回路によりインバータ回路への印加電圧が調整可能なため、異なる入力電圧でも使用可能である。しかも、過電圧保護機能がより適切に動作する上記の降圧チョッパ回路が備えられることで、信頼性の高い電源装置として構成できる。
【0020】
また、上記課題を解決する降圧チョッパ回路の過電圧保護方法は、電源線上に接続されるチョッパ用スイッチと、電源線間に接続される保護用スイッチとを備える降圧チョッパ回路に対し、入力電圧が低圧か高圧かの何れかを判定し、低圧入力時には前記チョッパ用スイッチのオン固定制御を行って前記入力電圧を出力電圧として生成し、高圧入力時には前記チョッパ用スイッチのチョッパ制御を行って前記入力電圧から降圧した出力電圧を生成するように前記チョッパ用スイッチの制御態様が切替可能であると共に、前記高圧入力時において前記低圧入力時の最高電圧よりも低い電圧値に設定された判定値と前記出力電圧との比較に基づいて過電圧異常かを判定し、過電圧異常と判定した際には前記保護用スイッチをオンして後段回路への電力供給を停止するように構成される降圧チョッパ回路の過電圧保護方法であって、前記出力電圧の過電圧判定の要件に前記出力電圧の変化態様を更に加味し、前記出力電圧が前記判定値以上で且つ前記出力電圧が上昇中と判定した場合には前記出力電圧が過電圧異常と判定し、前記出力電圧が前記判定値以上で且つ前記出力電圧が下降中と判定した場合には前記出力電圧が過電圧異常と判定しないようにした。
【0021】
この構成によれば、上記と同様に、チョッパ用スイッチの短絡故障による過電圧状態と、制御切替時に生じ得る過渡的な過電圧状態とを明確に区別でき、本来の過電圧異常の判定をより適切に行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の降圧チョッパ回路、降圧チョッパ回路を備える溶接用電源装置、及び降圧チョッパ回路の過電圧保護方法によれば、制御切替時に生じ得る過渡的な過電圧を異常と判定せず、本来の過電圧異常の判定をより適切に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】一実施形態における過電圧保護機能付きの降圧チョッパ回路を備えた溶接用電源装置の構成図である。
【
図2】降圧チョッパ回路の制御態様を説明するため入出力特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、降圧チョッパ回路を備える電源装置の一実施形態について説明する。
図1に示すように、電源装置としての溶接用電源装置10は、入力側から順に整流回路11、降圧チョッパ回路12、インバータ回路13、溶接トランス14を含んで構成され、入力された三相交流電力から溶接負荷15に適切な出力電力を生成する。溶接用電源装置10は、異なる入力電圧でも使用可能とするために降圧チョッパ回路12を備え、該降圧チョッパ回路12は、後段のインバータ回路13への印加電圧を適切範囲内に調整すべく降圧動作を行う。降圧チョッパ回路12の詳細については後述する。
【0025】
因みに、整流回路11は、例えばダイオードブリッジよりなる全波整流回路であり、三相交流の入力電力の直流化を行う。インバータ回路13は、例えばIGBT(半導体スイッチ)を用いたフルブリッジ回路であり、整流回路11から降圧チョッパ回路12を介して入力される直流電力を高周波交流電力に変換する。溶接トランス14は、インバータ回路13からの高周波交流電力を一次側で受け、二次側にて溶接負荷15に適した直流出力電力を生成するための電圧変換を行っている。
【0026】
降圧チョッパ回路12は、インバータ回路13への印加電圧を適切範囲内に調整すべく、整流回路11とインバータ回路13との間に組み込まれている。降圧チョッパ回路12は、過電圧保護機能(回路)を備えるべく、降圧チョッパ動作を行うチョッパ回路部21に対し保護回路部22が付加されて構成されている。
【0027】
チョッパ回路部21は、チョッパ用スイッチTR1、ダイオードDR1、リアクトルL1、平滑コンデンサC1,C2を備える。チョッパ回路部21の接続態様としては、整流回路11の出力端子とインバータ回路13の入力端子間の一対の電源線La,Lbに対し、先ずその電源線La,Lb間に平滑コンデンサC1が接続されている。平滑コンデンサC1の後段の電源線La上には、例えばIGBTよりなるチョッパ用スイッチTR1が接続されている。チョッパ用スイッチTR1の後段の電源線La,Lb間にはダイオードDR1が接続、この場合アノード側が電源線Lbに、カソード側が電源線Laにそれぞれ接続されている。ダイオードDR1の後段の電源線Lb上には、リアクトルL1が接続されている。リアクトルL1の後段(後述の保護用スイッチSCR1の後段)の電源線La,Lb間には、平滑コンデンサC2が接続されている。
【0028】
また、保護回路部22は、保護用スイッチSCR1、ヒューズFを備える。保護回路部22の接続態様としては、チョッパ回路部21の平滑コンデンサC1とダイオードDR1との間の電源線Lb上にヒューズFが接続されている。また、リアクトルL1と平滑コンデンサC2との間の電源線La,Lb間には、例えばサイリスタよりなる保護用スイッチSCR1が接続、この場合アノード側が電源線Laに、カソード側が電源線Lbにそれぞれ接続されている。
【0029】
また、降圧チョッパ回路12には、入力側及び出力側のそれぞれに電圧センサ23,24が備えられている。電圧センサ23は降圧チョッパ回路12の入力電圧を検出、電圧センサ24は降圧チョッパ回路12の出力電圧をそれぞれ検出し、各電圧センサ23,24からの検出信号はチョッパ制御部25に入力される。そして、チョッパ制御部25は、各電圧センサ23,24からの検出信号に基づき、チョッパ用スイッチTR1の制御端子(ゲート端子)及び保護用スイッチSCR1の制御端子(ゲート端子)に出力する制御信号を生成し、各制御信号によるチョッパ用スイッチTR1及び保護用スイッチSCR1の制御を行う。因みに、チョッパ制御部25は、降圧チョッパ回路12の制御のために個別に設けられるもの、若しくは溶接用電源装置10の全体を制御する制御回路(図示略)と一体的に設けられるものの何れであってもよい。
【0030】
次に、降圧チョッパ回路12の動作(チョッパ制御部25の制御態様)について、
図2に示す降圧チョッパ回路12の入出力特性を併用して説明する。
本実施形態では、溶接用電源装置10への入力電圧が例えばAC270[V]未満で低圧入力、AC270[V]以上で高圧入力とし、チョッパ制御部25はその何れの入力であるかを判定する。その際、チョッパ制御部25は、電圧センサ23の検出による降圧チョッパ回路12の入力電圧に基づいてその判定を行っている。電源装置10への入力電圧が整流回路11を経て直流化した降圧チョッパ回路12の入力電圧は√2倍となるため、チョッパ制御部25は、降圧チョッパ回路12の入力電圧がDC382[V]未満では低圧入力、DC382[V]以上では高圧入力と判定し認識する。
【0031】
[低圧入力の場合]
溶接用電源装置10への入力電圧がAC270[V]未満、即ち降圧チョッパ回路12の入力電圧がDC382[V]未満である場合、チョッパ制御部25は、電圧センサ23を通じて低圧入力と認識している。
【0032】
チョッパ制御部25は、この低圧入力時においてはチョッパ用スイッチTR1の制御をオン固定制御とし(保護用スイッチSCR1はオフ)、降圧チョッパ回路12の入力電圧をそのまま出力電圧とする。そのため、インバータ回路13への印加電圧は、降圧チョッパ回路12の入出力電圧と同じDC0〜382[V]内の何れかの電圧値となる。つまり、この低圧入力時において降圧チョッパ回路12が正常動作している状況では、インバータ回路13に対してDC382[V]以上の過電圧は印加されない。
【0033】
また、この低圧入力時に万一、チョッパ用スイッチTR1が短絡故障によりオン固定状態となっても、元々チョッパ用スイッチTR1をオン固定制御としているこの低圧入力時においては、インバータ回路13に対してDC382[V]以上の過電圧が印加される状況は生じない。
【0034】
[高圧入力の場合]
溶接用電源装置10への入力電圧がAC270[V]以上、即ち降圧チョッパ回路12の入力電圧がDC382[V]以上である場合、チョッパ制御部25は、電圧センサ23を通じて高圧入力と認識している。
【0035】
チョッパ制御部25は、この高圧入力時においてはチョッパ用スイッチTR1の制御をチョッパ制御とし(保護用スイッチSCR1はオフ)、降圧チョッパ回路12の入力電圧が何れの電圧値であっても出力電圧を例えばDC280[V]で一定とする。チョッパ制御は、電源装置10の入力電圧(降圧チョッパ回路12の入力電圧)が高いほどチョッパ用スイッチTR1のオン期間を短く、入力電圧が低いほどチョッパ用スイッチTR1のオン期間を長く調整して、降圧チョッパ回路12の出力電圧をDC280[V]で一定とする。そのため、降圧チョッパ回路12の入力電圧はDC382[V]以上でありながらも、出力電圧はDC280[V]で一定であり、インバータ回路13への印加電圧もDC280[V]となる。つまり、この高圧入力時において降圧チョッパ回路12が正常動作している状況では、インバータ回路13に対してDC382[V]以上の過電圧は印加されない。
【0036】
一方、この高圧入力時に万一、チョッパ用スイッチTR1が短絡故障によりオン固定状態となるような場合、降圧チョッパ回路12の入出力電圧は略同じとなり、インバータ回路13への印加電圧がDC382[V]以上の過電圧となり得る。これは、降圧チョッパ回路12の出力段に備えられる平滑コンデンサC2の破損やインバータ回路13を構成する半導体スイッチの破損を招きかねない。そのため、この高圧入力時においては、インバータ回路13の前段である降圧チョッパ回路12の出力電圧が例えばDC350[V]以上とならないように電圧センサ24を通じてチョッパ制御部25が監視している。過電圧異常と判定した場合には、チョッパ制御部25は、保護用スイッチSCR1をオンに切り替えて、以降の回路(平滑コンデンサC2やインバータ回路13等)への電力伝達の遮断と共に、チョッパ用スイッチTR1の短絡により生じる大電流にてヒューズFを溶断へと導く。
【0037】
ここで、降圧チョッパ回路12の出力電圧の過電圧判定において、仮に、チョッパ制御部25が高圧入力と認識した時点でその出力電圧とDC350[V]の判定値THとを単純に比較する手法(従来手法)を採用した場合、当然ながらチョッパ用スイッチTR1の短絡故障による過電圧異常は判定可能である。しかしながら、背景技術でも記載したように、降圧チョッパ回路12の仕様としてチョッパ用スイッチTR1のオン固定からチョッパへの制御態様が切り替わる境界付近の低圧入力(例えばAC269[V])で動作させることを想定した場合、電源装置10の入力電圧が何らかの要因で数[V]上昇して高圧入力側に移行すると問題が生じる。
【0038】
即ち、高圧入力側への移行に伴い、降圧チョッパ回路12の出力電圧はDC380[V]付近から下降しようとするものの即座に判定値THのDC350[V]を下回ることができず、降圧チョッパ回路12の正常な制御態様の切り替わりであっても過電圧異常と判定されてしまう。これは、電源装置10への入力電圧は電源装置10の設置時に決定され、その後の使用時において電源装置10の入力電圧が上昇して降圧チョッパ回路12の制御態様がオン固定からチョッパに切り替わるような状況変化は起こり難いためである。
【0039】
そこで、本実施形態のチョッパ制御部25における過電圧判定は、電圧センサ24を通じて得られる降圧チョッパ回路12の出力電圧の変化態様を更に検出し、その出力電圧が判定値TH以上となった時点の出力電圧の変化が上昇中(正側の変化)であったかについてもその判定要件に組み込まれる。
【0040】
詳しくは、降圧チョッパ回路12の出力電圧が判定値TH以上と判定される場合の中で、チョッパ用スイッチTR1の短絡故障に起因するものは、
図2のA矢印のように出力電圧が上昇して判定値THを超える。一方、降圧チョッパ回路12の制御態様が切り替わる境界付近(例えばAC269[V])の低圧入力にて動作しており、使用途中で電源装置10の入力電圧(降圧チョッパ回路12の入力電圧)が何らかの要因で数[V]上昇して高圧入力側に移行したことに起因するものは、
図2のように移行直後の判定で出力電圧が判定値THを超えると共に、その際の出力電圧の変化態様はB矢印のように下降するものとなる。
【0041】
このように本実施形態の降圧チョッパ回路12(チョッパ制御部25)は、チョッパ用スイッチTR1の短絡故障による過電圧状態と、制御切替時に生じ得る過渡的な過電圧状態とを明確に区別可能である。従って、本実施形態の降圧チョッパ回路12(チョッパ制御部25)は、制御切替時に生じ得る過渡的な過電圧を異常と判定することなく、チョッパ用スイッチの短絡故障による本来の過電圧異常の判定をより適切に行うことが可能となっている。このことは降圧チョッパ回路12の信頼性向上、ひいては溶接用電源装置10の信頼性向上に繋がるものである。
【0042】
次に、本実施形態の特徴的な効果を記載する。
(1)高圧入力時に行われる降圧チョッパ回路12の出力電圧の過電圧判定において、本実施形態ではその判定要件に降圧チョッパ回路12の出力電圧の変化態様が更に加味される。即ち、チョッパ用スイッチTR1の短絡故障(オン固定状態)が生じて降圧動作が行われなくなると、高圧入力であるが故に降圧チョッパ回路12の出力電圧は上昇して過電圧状態になり得る。そのため、降圧チョッパ回路12の出力電圧が判定値TH以上で且つその出力電圧が上昇中と判定した場合(
図2のA矢印)には、降圧チョッパ回路12の出力電圧が過電圧異常であると判定する。一方、降圧チョッパ回路12の制御態様が切り替わる境界付近の低圧入力にて動作しており、使用途中で入力電圧が何らかの要因で上昇して高圧入力側に移行すると、降圧チョッパ回路12がオン固定からチョッパ動作に切り替わることにより出力電圧が下降しようとするが、即座に判定値THを下回ることが困難である。そのため、降圧チョッパ回路12の出力電圧が判定値TH以上で且つその出力電圧が下降中と判定した場合(
図2のB矢印)には、降圧チョッパ回路12の出力電圧が制御切替時に生じ得る過渡的な過電圧であり本来の過電圧異常でないと判定する。このような判定とすることで、チョッパ用スイッチTR1の短絡故障による過電圧状態と、制御切替時に生じ得る過渡的な過電圧状態とを明確に区別でき、本来の過電圧異常の判定をより適切に行うことができる。
【0043】
(2)降圧チョッパ回路12が備えられる溶接用電源装置10は、降圧チョッパ回路12によりインバータ回路13への印加電圧が調整可能なため、異なる入力電圧でも使用可能である。しかも、過電圧保護機能がより適切に動作する降圧チョッパ回路12が備えられることで、信頼性の高い電源装置10として構成することができる。
【0044】
なお、上記実施形態は、以下のように変更してもよい。
・数値を記載した具体的な電圧値は一例であり、この限りでない。
・降圧チョッパ回路12の入力端に入力電圧を検出する電圧センサ23を、出力端に出力電圧を検出する電圧センサ23をそれぞれ設置したが、降圧チョッパ回路12以外に設置される電圧センサにて電圧検出を代用してもよい。例えば、電源装置10の入力電圧(交流)を検出する態様であってもよい。
【0045】
・チョッパ用スイッチTR1を電源線Laに設けたが、電源線Lbに設けてもよい。また、リアクトルL1を電源線Lbに設けたが、電源線Laに設けてもよい。また、保護用スイッチSCR1をチョッパ用スイッチTR1よりも後段に設けたが、前段に設けてもよい。尚、ヒューズFは、保護用スイッチSCR1の前段に設ける。
【0046】
・チョッパ用スイッチTR1にIGBT、保護用スイッチSCR1にサイリスタを用いたが、他の半導体スイッチを用いてもよい。また、ダイオードDR1を半導体スイッチとしてもよい。
【0047】
・溶接用電源装置10以外の電源装置に適用してもよい。
【符号の説明】
【0048】
12 降圧チョッパ回路
13 インバータ回路
14 溶接トランス
25 チョッパ制御部(制御部)
La,Lb 電源線
SCR1 保護用スイッチ
TR1 チョッパ用スイッチ
TH 判定値