【実施例】
【0040】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0041】
A. 本実施例では、ユニペルス キネンシス リンネ ワリエタス サルゲンティ ヘンリイ(Juniperus chinensis L. var. sargentii Henry)の活性成分につき実験し、また、測定を行った。
【0042】
ユニペルス キネンシス リンネ ワリエタス サルゲンティ ヘンリイの細枝と葉(約10g)を8〜10重量倍の水、エタノール、プロパノール、酢酸エチルまたはヘキサンに浸漬し、1時間加熱還流することにより抽出液を得た。次いで、濾紙を使って抽出液を濾過し、濃縮した。得られた残渣に純水を加え、超音波照射することにより懸濁液を得た。当該懸濁液を凍結乾燥した。
【0043】
凍結乾燥により得られた粉末を適切な溶媒に溶解し、in vitroの抗血管新生試験に付した。細胞外マトリックス(ECM)または低増殖因子濃度マトリゲルにおけるヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)の網目構造形成に対する抽出物の阻害能を解析し、その管構造の形成レベルを統合し、定量化のための指標として用いた。結果を表1に示す。
【0044】
表1は、ユニペルス キネンシス リンネ ワリエタス サルゲンティ ヘンリイの細枝および葉から異なる溶媒により抽出した抽出液の、指標成分の含有量と、ヒト臍帯静脈内皮細胞の網目構造形成に対する阻害能を示す。
【0045】
【表1】
【0046】
上記結果により、水抽出物は網目構造(管構造)の形成を阻害することはできない一方で、他の溶媒による抽出物は全て内皮細胞の管構造形成を阻害することができることが示された。
【0047】
B. 本実施例では、ユニペルス キネンシス リンネ ワリエタス サルゲンティ ヘンリイのエタノール抽出物の調製
1.粗抽出物(CBT−143−S)の抽出工程
上記結果にしたがって、ユニペルス キネンシス リンネ ワリエタス サルゲンティ ヘンリイの細枝および葉を抽出対象として選択し、抽出溶媒としてエタノールを選択した。得られた粗抽出物をCBT−143−Sと名付けた。その調製方法を以下に示す。
【0048】
(1) ユニペルス キネンシス リンネ ワリエタス サルゲンティ ヘンリイの細枝および葉(10g)を8〜10重量倍の95%エタノールに浸漬した。
【0049】
(2) 上記工程(1)で浸漬した植物体から溶媒の沸点で1時間抽出した後、孔径:230メッシュの金属篩を使って濾過することにより、抽出液を得た。
【0050】
(3) 上記工程(2)で得た抽出液を、濾紙(Type 5A,直径:9cm,孔径7μm,厚さ:0.22mm,東洋濾紙社製)を使って濾過した。
【0051】
(4) 上記工程(3)で得た濾液をロータリーエバポレーターにより濃縮乾燥することにより、抽出凝固体を得た。
【0052】
(5) 上記工程(4)で得た抽出凝固体を純水と混合し、超音波照射することにより懸濁液を得た。
【0053】
(6) 上記工程(5)で得た懸濁液を、液体窒素を使って凍結乾燥した。
【0054】
(7) 凍結乾燥後、得られたプロダクトを集めてCBT−143−Sとした。
【0055】
2.分割抽出物の調製(CBT−143−S−F6F7)
粗抽出物の活性を高めるために、CBT−143−Sからの単離精製を行った。単離精製工程を以下に示す。当該分割抽出物の調製工程を
図1に示す。
【0056】
(1) CBT−143−S試料(30g)をドライパッキングにより固定化した。即ち、CBT−143−Sを適切な溶媒に溶解した後、2重量倍(60g)のシリカゲルを添加した。よく混合した後、ロータリーエバポレーターにより、シリカゲル上にCBT−143−Sを均一に固定化した(工程S1)。
【0057】
(2) CBT−143−S試料の15重量倍のシリカゲルを含むカラムにより、CBT−143−S試料を単離工程に付した。即ち、シリカゲル(450g)を直径6cmのガラス製カラムに充填した。充填後、シリカゲルの高さは28cm、ドライパッキングマトリックスの高さは4.5cmであった(工程S2)。
【0058】
(3) 当初の移動相としてアセトン:n−ヘキサン=1:2の混合溶媒(3300mL)を用い、溶出した。溶出液を20mL毎にチューブに集め、分割した(工程S3)(F1〜F7チューブ)。
【0059】
(4) カラムをアセトンで洗浄した(工程S3’)(F8チューブ)。
【0060】
(5) カラムをメタノールで洗浄した(工程S3’’)(F9チューブ)。
【0061】
(6) 分割収集した溶出液を、順相薄層クロマトグラフィーで分析した。即ち、移動相としてアセトン:n−ヘキサン=2:3の混合溶媒を用い、分割収集した溶出液を展開した。展開後、分割収集した溶出液を、硫酸の10%酢酸エチル溶液を付けた後に105℃で加熱することにより染色した。得られた主な染色スポットのRf値を算出した。
【0062】
(7) Rf値が0.35〜0.55の溶出液を集めた(工程S4)。
【0063】
(8) 上記溶出液を合わせ、ロータリーエバポレーターで濃縮乾燥することにより、分割抽出物凝固体を得た。
【0064】
(9) 得られた分割抽出物凝固体を等量の純水に添加し、超音波照射により懸濁した後、液体窒素により凍結乾燥した。
【0065】
(10) 凍結乾燥後、得られた凍結乾燥粉末をCBT−143−S−F6F7とした。
【0066】
3.活性成分の単離、精製および同定
分割抽出物であるCBT−143−S−F6F7の活性成分を、カラムクロマトグラフィーと活性解析により単離精製した。調製工程を
図2に示す。
図2のとおり、CBT−143−S−F6F7を原料とし、条件P1により分割した後、活性を試験し、条件P’により濃縮乾燥した。それにより、JC−5活性成分を含むフラクションであるCBT−143−S−F6F7−A2が得られた。当該フラクションを条件P2で分割した後、活性を試験し、条件P’により濃縮乾燥することにより、JC−5活性成分を含むフラクションであるCBT−143−S−F6F7−B2が得られた。当該CBT−143−S−F6F7−B2フラクションを条件P3でさらに分割し、活性を試験し、条件P’により濃縮乾燥した後、条件P4により再結晶することにより、純粋なJC−5物質が得られた。条件P1〜P4と条件P’を以下に示す。
【0067】
P1: フラッシュパフォーマンス液体クロマトグラフィー − FPLC
カラム: シリカゲルカラム(0.015〜0.040μm)(内径:2.0cm×長さ:30cm)
移動相: 酢酸エチル:n−ヘキサン=1:1
流速: 5mL/分
フラクションコレクター: 10mL容チューブ
【0068】
P2: フラッシュパフォーマンス液体クロマトグラフィー − FPLC
カラム: シリカゲルカラム(0.015〜0.040μm)(内径:2.0cm×長さ:30cm)
移動相: 酢酸エチル:n−ヘキサン=1:1.5
流速: 5mL/分
フラクションコレクター: 10mL容チューブ
【0069】
P3: フラッシュパフォーマンス液体クロマトグラフィー − FPLC
カラム: シリカゲルカラム(0.015〜0.040μm)(内径:1.5cm×長さ:30cm)
移動相: 酢酸エチル:n−ヘキサン=1:1.5
流速: 5mL/分
フラクションコレクター: 10mL容チューブ
【0070】
P4: メタノールを用いた再結晶
【0071】
P’: 薄層クロマトグラフィー − TLC
【0072】
薄層クロマトグラフィーアルミニウムシート(TLC Silica gel 60 F254,メルク社製)を長さ:5cm×幅:7cmにカットし、カットしたアルミニウムシートの下から1cmの箇所に、定量キャピラリーを用いて試料1μLを滴下した。サンプルをアルミニウムシートに滴下し、乾燥した後、当該アルミニウムシートを展開タンクに入れ、展開液として酢酸エチル:n−ヘキサン=1:1の混合溶媒を用い、試料を4cmまで展開した。展開が完了し、アルミニウムシートを乾燥した後、着色剤(硫酸の10%酢酸エチル溶液)をアルミニウムシートへ均一に塗布し、105℃で5分間加熱した。着色工程後、JC−5を含む領域(Rf値:0.55〜0.61,黒点)を観察し、当該スポットを含む試料の一部を集め、濃縮乾燥した。
【0073】
精製したJC−5を、核磁気共鳴分光(NMR)で同定した。結果を
図3Aと
図3Bに示す。
図3Aは、化合物JC−5の
1H NMRスペクトルであり、当該スペクトルには、化合物JC−5の構造に含まれる水素原子の数が示されている。水素原子が検出された位置(δ値)と積算値の割合により、JC−5の構造中には合計で24の水素原子が存在していることが推定された。
図3Bは、化合物JC−5の
13C NMRスペクトルであり、当該スペクトルには、化合物JC−5中には合計で22の炭素原子が存在していることが示されていた。
【0074】
図3Aと
図3Bから得られるデータを、文献(Ikeda,R.;Nagao,T.;Okabe,H.;Nakano,Y.;Matsunaga,H.;Katano,M.;Mori,M.,Chem.Pharm.Bull.,1998,46,871-874)に示されているヤテインに関する記載と比較した。データを表2にまとめる。上記結果を比較したところ、化合物JC−5はヤテインであると同定された。ヤテインの構造を
図4に示す。
【0075】
表2は、ヤテインの構造に含まれる水素原子と炭素原子の分布を示す。
【0076】
【表2】
【0077】
さらに、マトリックスとしてマトリゲル(BD社製,Cat.No.356231)を用い、マトリックス上に網目構造を構築するヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)の状態を観察することにより、HUVECの網目構造形成に対するJC−5(ヤテイン)の阻害能を分析した。分析の基準や条件を以下に示す。網目構造の合計長さは、NIS element image analysis software(ニコン社製,代理店:Lin Trading社,台湾)により算出した。薬剤を添加しない群で形成された網目構造の合計長さを100%とし、HUVECによる網目構造形成に対するJC−5の阻害状態を分析した。
【0078】
上記の網目構造形成阻害能の分析結果により、管形成に対するヤテインの50%阻害濃度(IC
50)は0.335μMであることが分かった(
図5)。よって、ヤテインは活性成分であると決定された。
【0079】
4. 粗抽出物(CBT−143−S)と分割抽出物(CBT−143−S−F6F7)の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)フィンガープリント
分析方法
試料調製: CBT−143−Sの粉末(10mg)とCBT−143−S−F6F7の粉末(10mg)をそれぞれ10mLの容量フラスコに入れた。次いで、95%エタノールを添加して各容量を10mLとし、当該フラスコに超音波を照射することにより粉末を完全に溶解した。
【0080】
高速液体クロマトグラフィーの条件
クロマトグラフィーカラム: Cosmosil 5C18−MS−II 4.6×250
流速: 0.8mL/分
観測波長: 280nm
移動相: A:0.1% H
3PO
4; B:CH
3CN; C:MeOH
グラディエント: A/B/C=65/25/10(60分間) → A/B/C=25/60/15(1分間) → A/B/C=65/25/10(9分間)
【0081】
分析結果
図6Aと
図6Bは、それぞれ粗抽出物(CBT−143−S)と分割抽出物(CBT−143−S−F6F7)の品質管理分析のための高速液体クロマトグラフィーグラフを示し、本願発明に係る抽出物の品質管理の基準として用いることができる。
【0082】
精製したヤテイン(JC−5)の純品を管理基準として用いることにより、粗抽出物(CBT−143−S)および分割抽出物(CBT−143−S−F6F7)のための高速液体クロマトグラフィー質的/量的分析方法を開発し、粗抽出物(CBT−143−S)および分割抽出物(CBT−143−S−F6F7)の高速液体クロマトグラフィーグラフを、ヤテインの管理基準の高速液体クロマトグラフィーフィンガープリント(
図6C)とそれぞれ比較した。
図6Aと
図6Bにより、粗抽出物(CBT−143−S)および分割抽出物(CBT−143−S−F6F7)の高速液体クロマトグラフィーグラフには、両方ともJC−5活性成分のメインピークが存在していた。また、ユニペルス キネンシス リンネ ワリエタス サルゲンティ ヘンリイの細枝と葉から様々な溶媒により抽出された抽出物も分析した。それらのヤテイン含有量は、表1に示す。
【0083】
5. 粗抽出物(CBT−143−S)と分割抽出物(CBT−143−S−F6F7)の活性のin vitro評価
(1) 血管チューブ形成の阻害
マトリックスとしてマトリゲル(BD社製,Cat.No.356231)を用い、マトリックス上に網目構造を構築するヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)の状態を観察することにより、粗抽出物(CBT−143−S)と分割抽出物(CBT−143−S−F6F7)の阻害能を分析した。分析の基準や条件を以下に示す。網目構造の合計長さは、NIS element image analysis software(ニコン社製,代理店:Lin Trading社,台湾)により算出した。薬剤を添加しない群で形成された網目構造の合計長さを100%とし、HUVECによる網目構造形成に対する粗抽出物(CBT−143−S)と分割抽出物(CBT−143−S−F6F7)の阻害状態を分析した。
【0084】
図7と
図8に示される実験結果から、被検物質の濃度が高くなるほど、粗抽出物(CBT−143−S)と分割抽出物(CBT−143−S−F6F7)の管形成に対する阻害効果も高くなり、有意な用量依存的な効果が明らかとなった。
【0085】
また、計算したところ、粗抽出物(CBT−143−S)と分割抽出物(CBT−143−S−F6F7)の管形成に対する50%阻害濃度(IC
50)は、それぞれ0.221μg/mLと0.0123μg/mLであった(
図9と
図10)。かかる結果から、精製工程により、分割抽出物(CBT−143−S−F6F7)の活性は、粗抽出物(CBT−143−S)に比べて20.3倍になったことが明らかとなった。
【0086】
(2) 血管内皮細胞の運動性の阻害試験(HUVEC移動アッセイ)
BDトランスウェルシステムを用い、HUVECを活性化する栄養の存在下、膜を透過して下方に移動するHUVECの状態を観察した。活性化のための血清を用いない群を陰性対照として用い、活性化のための血清を用いる群を陽性対照として用いて、細胞の移動の観察が容易になるようクリスタルバイオレットで細胞を染色し、内皮細胞の移動に対する抽出物の阻害作用を観察した。その結果、分割抽出物(CBT−143−S−F6F7)が内皮細胞の移動に対する阻害活性を有することが明らかとなった。
【0087】
(3) 肝細胞がん細胞の運動性の阻害試験(創傷治癒移動アッセイ)
高い運動性を示す肝細胞がん細胞株であるSK−Hep−1株を選択した。先ず、当該細胞株を6ウェルプレートに接種した。細胞がプレートに付着した後、その一部を分離してプレート上に線を形成した。24時間後と48時間後に当該線から細胞を分離し、洗浄した後、線上に移動した細胞の状態を観察した(
図12)。得られた結果より、様々な濃度の粗抽出物(CBT−143−S)と分割抽出物(CBT−143−S−F6F7)で処理することによって、細胞の移動が抑制されることが明らかとなった。
【0088】
48時間後、観察を終了し、細胞の生存能力を測定するために、プレート中の細胞に対してMTTアッセイを直ぐに行った。細胞の生存能力と細胞の運動性を比較することにより、粗抽出物(CBT−143−S)と分割抽出物(CBT−143−S−F6F7)が、SK−Hep−1株の運動性の阻害効果を有することを明らかにすることができた。
【0089】
以上の試験結果により、SK−Hep−1株の移動に対する粗抽出物(CBT−143−S)と分割抽出物(CBT−143−S−F6F7)の阻害効果は、経時的に高まることが分かった。
【0090】
6. 粗抽出物(CBT−143−S)と分割抽出物(CBT−143−S−F6F7)のin vivo抗血管新生試験
BALB/cマウスにマトリゲルを皮下注射して埋設物を形成し、被検物質が、血管内皮細殖因子またはHep−3Bコンディショナルメディウム(CM)により誘導された血管新生に対する阻害能を有するか否か、試験を行った。
【0091】
(1) マトリゲルプラグアッセイ
Engelbreth−Holm−Swarm(EHS)マウスの肉腫からマトリゲルを抽出した。当該マトリゲルは、細胞外マトリックスタンパク質を豊富に含み、また、血管の成長に必要な様々な因子も含む。室温および37℃の条件では、マトリゲルは固体ゲル状に重合することができ、血管内皮細胞の増殖にとりより好適な環境を提供することができる。
【0092】
マトリゲルと、血管内皮細殖因子(FGFb+VEGF)またはHep−3Bコンディショナルメディウム(CM)を混合した後、被検物質を加えて混合した。
【0093】
実験方法を以下に示す。
【0094】
(a) 動物系統:雌性BALB/cマウス(BALB/cAnNCrlBltw,BioLasco Taiwan社から購入)6〜8週齢
【0095】
(b) PBSと混合したマトリゲルで処理した群を陰性対照として用い、FGFb(500ng/ml)+VEGF(500ng/ml)またはHep−3Bコンディショナルメディウム(CM)と混合したマトリゲルで処理した群を陽性対照として用いた。血管内皮増殖因子を含むマトリゲルと被検物質を混合した後、BALB/cマウスへ皮下注射し、被検物質がマトリゲル中の血管新生を阻害できるか否か観察した。
【0096】
(c) マトリゲル中の新生血管量を評価するために、マトリゲル中のヘモグロビン含量を、QuantiChromTM Hemoglobin Assay Kit(DIHB−250)で定量した。
【0097】
BALB/cマウスに14日間皮下注射した後、マウスの皮下組織におけるマトリゲルプラグを取り出し、等量のディスパーゼを加えて混合し、37℃で16時間反応させることにより、細胞間物質ゲルを溶解した。次いで、反応混合物を14,000rpmで10分間遠心分離し、上清を別の微量遠心管に移した。50μLの上清と、ヘモグロビンアッセイキットに含まれている反応試薬200μLとを混合した。上清と当該試薬とを5分間反応させた後、400nmの光学濃度(O.D.)を測定した。下記式により、光学濃度(O.D.)の値を単位濃度に変換した。
【0098】
((OD
Sample−OD
Blank)/(OD
Calibration−OD
Blank))×100×n (mg/dL)
[式中、100は校正濃度を示し、nは希釈倍率を示す]
【0099】
実験結果は、以下のとおりである。
【0100】
(a) 増殖因子により誘導される血管新生のin vivo評価アッセイ
増殖因子により誘導される血管新生のin vivo評価アッセイにおいて、PBSでのみ処理した陰性対照群では、マウスの皮下組織に14日間埋め込まれたマトリゲルプラグのヘモグロビン濃度は、バックグラウンド値に近い17.68±11.64mg/dLであった。一方、FGFb(500ng/mL)+VEGF(500ng/mL)を添加した場合、マトリゲルプラグには有意な血管新生が見られ、ヘモグロビン濃度は52.64±26.18mg/dLに達した。ネクサバール(30mg/kg/day)を毎日経口投与された群では、ヘモグロビン濃度は27.09±5.88mg/dLと有意に低減された。粗抽出物(CBT−143−S)(100μg/mL)を投与された群では、ヘモグロビン濃度は27.92±9.62mg/dLであった。さらに、30μg/mLおよび100μg/mLの分割抽出物(CBT−143−S−F6F7)で処理された群では、ヘモグロビン濃度はそれぞれ56.70±5.58mg/dLおよび25.08±9.59mg/dLとなった。
【0101】
上記結果により、粗抽出物(CBT−143−S)(100μg/mL)と分割抽出物(CBT−143−S−F6F7)は、より高用量で血管新生阻害能を示すことが明らかとなった(
図13)。
【0102】
(b) コンディショナルメディウムで誘導されたHep−3B肝細胞がん細胞の血管新生のin vivo評価アッセイ
コンディショナルメディウムで誘導されたHep−3B肝細胞がん細胞の血管新生のin vivo評価アッセイにおいて、PBSでのみ処理した陰性対照群では、マウスの皮下組織に14日間埋め込まれたマトリゲルプラグのヘモグロビン濃度は16.23±11.64mg/dLであった。一方、コンディショナルメディウムを添加した場合、マトリゲルプラグには有意な血管新生が見られ、ヘモグロビン濃度は52.61±13.14mg/dLに達した。ネクサバール(30mg/kg/day)を経口投与された群では、ヘモグロビン濃度は25.05±17.59mg/dLと有意に低減された。粗抽出物(CBT−143−S)(100μg/mL)を投与された群では、ヘモグロビン濃度は22.91±15.95mg/dLであった。さらに、30μg/mLおよび100μg/mLの分割抽出物(CBT−143−S−F6F7)で処理された群では、ヘモグロビン濃度はそれぞれ51.49±8.97mg/dLおよび20.61±7.52mg/dLとなった。
【0103】
上記結果により、粗抽出物(CBT−143−S)(100μg/mL)と分割抽出物(CBT−143−S−F6F7)は、より高用量で血管新生阻害能を示すことが明らかとなった(
図14)。
【0104】
(2) in vivo抗血管新生実験(しょう尿膜(CAM)アッセイ)
濾紙に被検物質またはPBSを浸み込ませた後、ニワトリ胚のしょう尿膜(CAM)の上に置き、血管新生を観察した。
【0105】
特定病原体除去(SPF)ホワイトレグホン種ニワトリのニワトリ胚を、37.3℃、相対湿度55〜60%のインキュベーター中に横方向に置いた。インキュベーションの4日目に、20G注射針を使って2.5mLのアルブミンを吸引し、胚上に擬似空気室を設けた。次いで、注射針穴と擬似空気室のオープニングを3M通気性テープで覆った。7日目に、被検物質をDMSOに溶解し、PBSで希釈した。PBS対照群を含んだ各群において、DMSOの最終濃度は1%とした。直径6mmの円形Advantec(登録商標)濾紙(東洋濾紙社製)を使い、希釈した被検物質を吸収した。吸収量は25μLであった。各被検物質は、胚当たり50,25および10μgの3投与量準備した。さらに、7日目に濾紙をしょう尿膜上に置き、9日目に、1.25×対物レンズを付けた解剖顕微鏡SZX16(オリンパス社製)を使って、しょう尿膜を撮影した。血管新生の状態を評価するために、濾紙を中心として、直径7,8,9および10mmの4つの同心円を写真上にマークした。4つの同心円の総外周は106.8mmであり、総外周は濾紙への近さを示す。同心円と交差する血管の量、即ち、血管濃度指標またはVDIは、裸眼で測定した。写真毎に、血管濃度指標を3名により測定し、その平均値を採用した。各被検物質処理群の血管濃度指標を、対照群と比較することにより、有意差の有無を求めた。4×および8×の対物レンズを用い、血管形態が異常な部位を観察して撮影した。
【0106】
実験結果
表3と
図15のとおり、胚あたり25μgの分割抽出物(CBT−143−S−F6F7)と胚あたり50μgの粗抽出物(CBT−143−S)は、両方とも、しょう尿膜血管新生を有意に低減した。
図15において、1301との数字は、被検物質を含む濾紙を示す。また、
図16のとおり、分割抽出物(CBT−143−S−F6F7)の中程度投与群および高度投与群は、毛細血管の形態的変化を引き起こした。
図16において、1401との数字は、被検物質を含む濾紙を示す。
【0107】
表3は、in vivo抗血管新生実験(絨毛尿膜(CAM)アッセイ)の結果を示す。
【0108】
【表3】
【0109】
7. 粗抽出物(CBT−143−S)と分割抽出物(CBT−143−S−F6F7)の正常細胞に対する毒性試験
粗抽出物(CBT−143−S)と分割抽出物(CBT−143−S−F6F7)の上記の阻害作用が毒性によるものか否か試験するために、粗抽出物(CBT−143−S)と分割抽出物(CBT−143−S−F6F7)について、正常細胞であるPBMCに対する細胞生存アッセイとHUVECに対する増殖阻害アッセイを行った。比較対象として、市販の臨床薬であるソラフェニブを用いた。
【0110】
(1) 正常細胞であるPBMCに対する毒性試験(アラマーブルー細胞生存アッセイ)
アラマーブルーは、通常、青色を示す植物色素である。当該色素は、細胞増殖により分解し、青色からピンク色に還元される。その結果、570nmでのO.D.が高まることが観察される。逆に、死細胞の方が多いと、測定される当該O.D.値はより低くなる。
【0111】
1×10
5cells/wellのPBMC細胞を、96ウェルプレートでインキュベートし、様々な濃度(300,100,30,10,3および1μg/mL)の粗抽出物(CBT−143−S)や分割抽出物(CBT−143−S−F6F7)などを、当該プレートに添加した。72時間インキュベートした後、当該プレートにアラマーブルーを添加し、37℃で24時間インキュベートした。次いで、ELISAリーダーを用い、570nm/600nmのO.D.値を測定した。その後、測定されたO.D.値を、以下の計算式に代入した。
【0112】
【数1】
λ
1=570
λ
2=600
(ε
OX)λ
2=117,216(OXは酸化を示す)
(ε
OX)λ
1=80,586
Aλ
1=0.65 テストウェルで測定された吸光度
Aλ
2=0.36 テストウェルで測定された吸光度
A
0λ
2=0.78 陽性テストウェルで測定された吸光度
A
0λ
1=0.19 陽性テストウェルで測定された吸光度
【0113】
試験結果(表4)によれば、分割抽出物(CBT−143−S−F6F7)の濃度が30μg/mLであった場合には、PBMCの細胞生存率は50%よりも高かった。この結果は、分割抽出物(CBT−143−S−F6F7)のIC
50値が30μg/mLよりも高いことを示している。
【0114】
表4は、正常細胞であるPBMCに対する粗抽出物(CBT−143−S)と分割抽出物(CBT−143−S−F6F7)の毒性試験結果を示す。
【0115】
【表4】
【0116】
(2) HUVECに対する増殖阻害アッセイ
同様に、細胞の生存活性を評価するために、アラマーブルーアッセイを用いた。1×10
4cells/wellのHUVEC細胞を96ウェルプレートに接種した。様々な濃度(300,100,30,10,3および1μg/mL)の粗抽出物(CBT−143−S)および分割抽出物(CBT−143−S−F6F7)試料などをプレートに添加し、細胞増殖が被検物質により影響を受けているか否か評価するために、0時間後および48時間後における吸光度を記録した。得られた結果によれば、粗抽出物(CBT−143−S)および分割抽出物(CBT−143−S−F6F7)の50%増殖阻害濃度(GI
50)は、それぞれ0.52μg/mLおよび0.006μg/mLであった(
図17)。以上のとおり、ユニペルス キネンシス リンネ ワリエタス サルゲンティ ヘンリイ抽出物のHUVEC増殖に対する阻害活性は極めて明白である。
【0117】
8. ラット角膜血管新生アッセイ
ヒドロンポリマー(ポリHEME)と被検物質またはDMSOからなるペレットを、ラットの角膜表面に移植し、その血管新生を観察した。
【0118】
撹拌器を用い、37℃で一晩、ヒドロンポリマー(ポリHEME)を12w/v%の濃度で無水エタノールに溶解した後、ペレットの作製まで室温で保管した。角膜ポケットアッセイに用いた各ペレットは、ヒドロンポリマーとファクター−スクラルファート−PBSの50:50(vol/vol)混合物で構成されているキャスティングゲル3μL中、60ngのbFGF、または1μgのJC−5および20μgのスクラルファートを含むものであった。当該キャスティングゲルは、直ぐに、オートクレーブされて滅菌され、約2×2mmの孔径を有する20×20mmのナイロンメッシュ片上にピペットでとった。当該ペレットは、無菌状態の層流フード中、角膜手術の前日に調製した。次に、メッシュの繊維を除去し、2×2×0.4mm
3の均一な大きさのものを選択して移植に用いた。全ての手順は、無菌状態で行った。かかるペレットは、生物活性が低減することなく、−20℃で数日凍結保存することができる。各群には、6つの眼球がある。雄性ラット(Sprague Dawley,National Laboratory Animal Center,Taiwanより購入)をケタミンで麻酔し、眼球を0.5%プロパラカインで局所麻酔した。手術用顕微鏡を用い、12時の位置に手術用ナイフで2.5mmの長さの中央基質内直線状角膜切開を行った。層状のマイクロポケットを、縁から2mmのところで切断した。上記ペレットを、当該ポケットの端まで置いた。感染を防ぎ、また、眼球表面の違和感を低減するために、抗生物質軟膏(エリスロマイシン)を手術した目に一度適用した。ペレットの移植から7日目と14日目に、ケタミンによりラットを麻酔した。眼球を露出させ、角膜と結膜の間の血管網からペレットまで広がった血管新生ゾーンの最大血管長さ(VL)を測定した。写真も撮影した。血管新生の連続的な円周ゾーン(CN)を、時計での時間で(即ち、30°は1時間に相当する)360°網線で測定した。
【0119】
実験結果は、以下のとおりである。
【0120】
徐放性ポリマーであるヒドロンに加えてPBSのみ、bFGFのみ、またはbFGFとJC−5を含むペレットを、ラットの角膜に移植した。PBSのみ含むペレット(全ての群において眼球数N=6)では、血管新生は誘導されなかった(
図18A、18Bおよび18Cの「PBS」)。bFGFを60ng含むペレットでは、手術から7日目に血管新生が誘導された(
図18A、18Bおよび18Cの「bFGF」)。移植を受けた角膜における60ngのbFGFによる血管新生応答は、7日目において、1μgのJC−5により阻害された(
図18A、18Bおよび18Cの「bFGF+JC−5」)。ラット角膜ポケットアッセイのこれら結果により、JC−5は角膜の血管新生を阻害することが明らかにされた。
【0121】
9. レーザー誘導脈絡膜血管新生(CNV)アッセイ
雄性ラット(ブラウンノルウェイラット,BioLASCO Co.(台湾)より購入)を用いた。ラットの眼球に、レーザー光凝固によりCNV病変を誘導した。簡潔にいえば、ラットを麻酔した後、その瞳孔を1%トロピカミドで拡張させた。18×24mm
2の標準カバーガラスを、光凝固を適用するためのコンタクトレンズとして用いた。アルゴンレーザーを、スリットランプを通して照射した。レーザーのパラメーターは、以下のとおりに設定した。
【0122】
スポットサイズ: 50μm
強度: 120mW
照射時間: 0.1秒間
【0123】
臨床的には中央の気泡形成として認められる、ブルッフ膜の破壊を企てた。その際、網膜内または脈絡膜に出血が認められる場合と認められない場合とがあった。各眼底の主要な網膜血管の間に、4〜6の病変部位が形成された。レーザー処理の1日前に、実験動物の硝子体内の両側に、2μLのJC−5(1μg/眼球,N=6)または2μLの溶媒(DMSO,N=6)を注射した。14日後、管理を容易にするために、眼球に自己保持型眼検鏡をおいた。30ゲージ針を用い、眼球ごとに、2μLのJC−5または溶媒の硝子体内注射を行った。硝子体内注射に続いて、抗生物質点眼剤であるビガモックス(0.5%塩酸モキシフロキサシン)を局所投与した。デジタルイメージングシステムを用い、フルオレセイン血管造影により、レーザー誘導CNVを解析した。瞳孔の拡張とそれに続く2.5%フルオロセインナトリウム(Alcon,CITY,ドイツ)2.5mLの腹腔内注射の後、一般的な麻酔状態下でマウスを解析した。各実験においては、注射から1〜3分間後という初期段階の画像を撮影した。フルオロセイン漏出の定量的分析のため、フルオロセイン漏出領域をそれぞれImageJソフトウェア(NIH,米国)を用いて測定した。フルオロセイン漏出領域は、通常の網膜血管が全く観察されない過蛍光領域として測定した。
【0124】
結果を以下に示す。
【0125】
JC−5処理後、レーザー誘導CNVを解析するためのフルオレセイン血管造影法を使って、JC−5(1μg/μL DMSO溶液)の経時的な治療効果を評価した。JC−5で処理した眼球は、フルオレセント色素の取り込みとCNVの範囲がより小さかった(
図19A)。また、JC−5処理ラットの7日目および14日目のCNV病変部位は、DMSOラットに比べて、有意に低減されていた(
図19Aおよび
図19B)。これら結果から、局所的なJC−5投与によって、実験的なCNVの重篤度が低減されることが明らかにされた。
【0126】
当業者であれば、記載された態様に様々な修飾や変更を加えられることは明らかである。本願明細書や実施例は、単なる例示に過ぎないとされるべきであり、本願発明の真の範囲は特許請求の範囲やその等価物として解釈されるべきである。