【解決手段】トンネルの剥落防止工法によれば、プラスチック波板10を、トンネル100の覆工壁101の表面に山部11及び谷部12がトンネルの周方向(X)に延在するようにして配置し、繊維強化プラスチック材で形成された繊維軸線方向に延在した細長形状の押え部材30であって、プラスチック波板の谷部に適合される表面外形状がプラスチック波板の谷部の横断面形状に沿った湾曲形状とされる押え部材30を、プラスチック波板10の谷部12に適合してトンネルの周方向に設置し、プラスチック波板10を、アンカーボルト200により押え部材30を介して覆工壁101に固定する。
前記繊維強化プラスチック材は、強化繊維としてガラス繊維、炭素繊維などの無機繊維、又は、アラミド繊維、ビニロン繊維などの有機繊維を使用し、含浸樹脂として、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタンアクリレート樹脂などの熱硬化性樹脂、又は、ポリアミド樹脂、PPS樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ABS樹脂などの熱可塑性樹脂を使用して作製されることを特徴とする請求項1〜7のいずれかの項に記載のトンネルの剥落防止工法。
前記プラスチック波板を作製する前記プラスチック製板部材は、樹脂、又は、強化繊維を含む繊維強化樹脂とされることを特徴とする請求項1〜8のいずれかの項に記載のトンネルの剥落防止工法。
前記押え部材は防水シール部材を介して前記プラスチック波板の谷部に密着され、前記アンカーボルトに螺合されたナットが防水ワッシャを介して前記押え部材を前記プラスチック波板の方へと押圧することを特徴とする請求項1〜9のいずれかの項に記載のトンネルの剥落防止工法。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係るトンネルの剥落防止工法を図面に則して更に詳しく説明する。
【0021】
実施例1
図1(a)、(b)〜
図4を参照して本発明のトンネルの剥落防止工法の一実施例について説明する。
【0022】
本発明のトンネルの剥落防止工法は、トンネル覆工壁の剥落を防止するとともに、トンネル覆工壁からの漏水の導水路を形成する導水機能を備えた点が特徴であり、本発明のトンネルの剥落防止工法を施工するに際して、波形状のプラスチック波板10が準備される。本発明にて使用されるプラスチック波板10は、
図1(a)に示すように、厚さ(T10)が0.5〜3.0mm、通常、0.7〜1.5mmの薄板とされるプラスチック製板部材を山部(凸形状部)11及び谷部(凹形状部)12が交互に且つ平行に配列されるようにして成形された波形状のプラスチック波板であって、プラスチック製板部材としては高靭性のものが好ましく、樹脂、又は、強化繊維を含む繊維強化樹脂とされる。樹脂としては、例えばポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂等の樹脂製の波板が好適に使用される。例えばポリカーボネートの靭性は、衝撃試験(例えばシャルピー試験)で5〜100とされる。このようなプラスチック波板としては、例えば、三菱エンジニアリングプラスチック株式会社にて商品名「ユーピロン・サンガード波板」として市販されているものを使用することができる。繊維強化樹脂としては、塩化ビニル樹脂にメッシュ状のガラス繊維を埋め込むか、更には、ガラス繊維を含む不飽和ポリエステル樹脂或いはビニルエステル樹脂とされる繊維強化プラスチック(FRP)などが使用されるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
図1(b)に、鉄道又は道路トンネル100の一例が、トンネル100の延長方向(Y)に直交する周方向(X)の横断面を示す斜視図にて示される。通常トンネル100は、図示するように、コンクリート、煉瓦などで形成された防護壁である覆工壁101が構築されている。
【0024】
本発明によれば、覆工壁101の天端部101Aから両側壁101Bの上部に亘って、覆工壁101の剥落と漏水を防止するために、導水機能を有したコンクリート剥落防止工法が施工される。
【0025】
上述の複数枚準備された各プラスチック波板10は、トンネルの斜視図である
図1(b)にて矢印Aで示すトンネルの内部空間部からトンネル覆工壁101を見た際の展開図である
図2に示すように、トンネルの覆工壁101の表面に山部11及び谷部12がトンネルの周方向(X)に沿って連続して延在するようにして配置する。つまり、各プラスチック波板10は、その山部11及び谷部12がトンネルの湾曲した覆工壁101の表面、即ち、天端部101A及びその両側部101Bの内面に沿って位置するように湾曲形状に弾性変形させながら、密着して設置する。
【0026】
このとき、
図2に示すように、トンネル周方向(X)にて互いに隣接する各プラスチック波板10は、隣接する各プラスチック波板の山部11及び谷部12が周方向(X)に整列するようにして、所定長さ(L13x)だけオーバーラップ、即ち、重ね合わせて接合され、接合部13xが形成される。この接合部13xの重ね合わせ長さ(L13x)は、45〜310mmとされる。一方、トンネルの延長方向(Y)にて互いに隣接する各プラスチック波板10の端縁部は、
図3をも参照すると理解されるように、一方のプラスチック波板の少なくとも1つの凸形状部が他方のプラスチック波板の谷部凹形状部に嵌り合うように、即ち、本例では
図3にて、一方のプラスチック波板10aの少なくとも1つの凸形状部(山部)11aが他方のプラスチック波板10bの凹形状部(谷部)12aに嵌り合うように重ね合わせられて設置され、接合部13yが形成される。
【0027】
図2、
図3に示すように、上述のようにして覆工壁101の内面に設置されたプラスチック波板10は、その谷部(凹形状部)12を利用してアンカーボルト200により覆工壁101に固定される。勿論、二枚のプラスチック波板10、10が接合された接合部13x、13yにおいても谷部12がアンカーボルト200により覆工壁101に固定される。
【0028】
本発明の工法の重要な特徴によれば、アンカーボルト200は、
図3、
図4(a)に示すように、各プラスチック波板10の谷部12に配置された押え部材30を介してアンカーボルト200により覆工壁101に取付けられる。次に、押え部材30について説明する。
【0029】
(押え部材)
図4(a)、(b)、
図5(a)、(b)に押え部材30の一例を示す。本実施例によると、押え部材30は、上述のように、プラスチック波板10の凹状溝とされる谷部12に適合して周方向に連続して設置される。即ち、押え部材30は、プラスチック波板10の谷部12に沿って設置される細長形状体とされる。押え部材30は、本実施例では、
図5(a)にて上端面30aは平面形状とされるが、下端面30bは、プラスチック波板10の谷部12に適合するようにその表面外形状が凸状の湾曲形状Raとされる。つまり、
図4(a)、
図5(a)に示すように、押え部材30は、横断面にて一方の面が平面で、他面が凸状の湾曲面とされる、所謂、「かまぼこ形」30Aとされ、
図4(b)、
図5(b)に示す押え部材30は、上述した
図4(a)、
図5(a)に示す押え部材30の「かまぼこ形」湾曲形状部30Aの上面に更に矩形状部30Bを備えた、「かまぼこ形」とされる。
【0030】
押え部材30寸法形状は、使用されるプラスチック波板10の寸法形状に応じて異なるが、通常、プラスチック波板10としては山高さ(H10)が9〜36mm、ピッチ(P10)が32〜130mmのプラスチック波板10が使用されるので、
図5(a)に示す「かまぼこ形」押え部材30は、湾曲部30Aの高さ(H30)が3〜20mm、上面幅(W30)が15〜50mmとされ、
図5(b)に示す「かまぼこ形」押え部材30は、湾曲部30Aの高さ(H30A)が3〜20mm、矩形状部30Bの高さ(H30B)が0〜10mm、上面幅(W30)は15〜50mmとされる。
【0031】
本実施例にて押え部材30は、強化繊維fを一方向に引き揃え、樹脂Rを含浸、硬化して作製された繊維軸線方向に延在する細長形状の繊維強化プラスチック材とされる。
【0032】
強化繊維fとしては、引張強度とコストという点からガラス繊維を好適に使用し得るが、種々の強化繊維を使用することができ、その他に、炭素繊維等の無機繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維等の有機繊維、なども好適に使用し得る。含浸樹脂Rは、限定されるものではなく、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂のいずれでも良い。熱硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタンアクリレート樹脂などが使用され、また、熱可塑性樹脂としては、ポリアミド樹脂、PPS樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ABS樹脂などが使用される。押え部材30の繊維含有率は、30〜70%(体積)、通常、50〜60%とされる。
【0033】
なお、不燃性を要求される箇所においては、樹脂に不燃性を付与するために、水酸化アルミニウムや三酸化アンチモンなどの不燃性付与材を添加することは有効である。
【0034】
より詳しくは後述するが、プラスチック波板10を覆工壁101にアンカーボルト200にて固定するために、プラスチック波板10の谷部11に押え部材30を適合した後、アンカーボルト200の挿通を可能とするために、押え部材30とプラスチック波板10とはドリルで削孔される。この削孔作業の際に、押え部材30が割れるのを防止するために、押え部材30の外周囲を、
図5(c)、(d)に示すように、例えば強化繊維としてガラスマット材を使用し、押え部材30の樹脂と同じ樹脂が含浸、硬化された繊維強化プラスチック被覆層fmにて囲包するのが好ましい。被覆層fmの厚さ(tfm)は、0.1〜2.0mm程度とされる。
【0035】
上記構成の押え部材30は、従来の引抜き成形法にて効率よく製造することができる。
図6(a)〜(c)を参照して、本発明の押え部材30を製造する引抜き成型法の一例について簡単に説明する。
【0036】
本実施例では、押え部材30の強化繊維fとしては、ガラス繊維Gfを使用した。ボビン201に巻回された、一般に、ガラス繊維ロービングと呼ばれるガラス繊維束Gfを必要本数ボビン201より引き出し、引き揃えて樹脂槽202に送給する。樹脂槽202には含浸樹脂Rが収容されており、樹脂槽202に送給されたガラス繊維Gfは、樹脂槽202にディッピングして樹脂Rが含浸され、金型203に送給される。この時、本実施例では、樹脂含浸されたガラス繊維Gfは、割れ防止用の被覆層fm(
図5(c)、(d)参照)としてガラスマットGmに包まれる形で金型203の中に引き込まれる。ガラスマットGmは、金型内にて樹脂含浸されたガラス繊維Gfの樹脂Rが含浸される。樹脂含浸されたガラス繊維及びガラスマットは、金型203の中で所定形状に引抜き成型されながらヒータにより加熱され、樹脂が硬化される。硬化したガラス繊維強化樹脂材(FRP材)(即ち、押え部材30)は、引抜き装置(図示せず)にて金型203から引き抜かれる。
【0037】
図6(b)、(c)に、本実施例にて使用した金型の断面を示す。
図6(b)の金型203は、上述した
図5(a)、(c)に示す「かまぼこ形」の押え部材30を成形するためのものでり、上型203a及び下型203bを備え、両型203a、203bにて、幅(W203)が28mm、高さ(H203)が7mmの「かまぼこ形」引き抜き空洞部V203を備え、引抜き方向の長さ(L203)が1mとされる加熱金型であり、
図5(a)、(c)に示す押え部材30を成形した。この引抜き成型にて作製した押え部材30を「FRP−7」と呼ぶ。
【0038】
本実施例では、ガラス繊維Gfは、日東紡績株式会社製のガラス繊維ロービング(商品名:RS440RR-520)を40本使用し、含浸用の樹脂Rとしては昭和電工株式会社製の不飽和ポリエステル樹脂(商品名:リゴラックPL−100)に対して、硬化剤のパーオキサイド(株式会社日油製の商品名:ナイパーNS)を2.5phr添加したものを使用した。割れ防止のガラスマットGmとしては、日東紡績株式会社製のチョップドストランドマット(商品名:MC450)を所定の幅にスリットしたものを上下から1層づつサンドイッチするように、150℃にセットされた金型203内に導入し、引抜き速度0.3m/分の速度で成形を行った。
【0039】
また、
図6(c)の金型203は、上述した
図5(b)、(d)に示す「かまぼこ形」の押え部材30を成形するためのものでり、
図6(b)に示す金型203の上型203a及び下型203bの間にスペーサ203cが設置されたものである。スペーサ203cの厚さ(H203B)は2mmとした。この場合も、上記と同様の工程にて、トータル厚み(H30A+H30B)が9mmの押え部材30を成形した。ただ、ガラス繊維ロービング本数は、40本から60本に増加した。それ以外は、先の「かまぼこ形」押え部材(「FRP−7」)の引抜き成形と同一条件で成形した。この引抜き成型にて作製した押え部材30を「FRP−9」と呼ぶ。
【0040】
なお、上述したように、プラスチック波板10を覆工壁101にアンカーボルト200にて固定するために、プラスチック波板10の谷部11に押え部材30を適合した後、アンカーボルト200の挿通を可能とするために、押え部材30とプラスチック波板10とはドリルで削孔される。この削孔作業時に削孔ドリルをガイドする目的で、
図7(a)に示すように、押え部材30の上面30aの中央部に、押え部材30の長手方向に沿って溝31を形成するのが好ましい。溝31は、その横断面形状は任意のものとすることができ、
図7(a)に示すように各々数ミリ程度の幅W31、深さH31を有した三角形状とすることもできるし、
図7(b)、(c)に示すように、矩形状、或いは、湾曲形状の溝とすることもできる。
【0041】
このように、押え部材30に溝加工を施すことは、本発明の施工をより効率的に行うために有効である。溝加工は、
図6を参照して説明したように、押え部材30を引抜き成形する際には、型203bに突起を形成することにより引抜き成形時に同時に成形することが可能である。勿論、引抜き成形後にカッターなどで後加工することも可能である。
【0042】
(押し抜き載荷試験)
次に、本発明に係るトンネル剥落防止工法の剥落防止性能を確認するために,試験装置を製作して押し抜き試験を実施した。
【0043】
図8(a)、(b)を参照すると、試験装置300は,フレーム材にて矩形箱状に枠組みされた基台枠体301を有し、基台枠体301の上面にプラスチック波板10を保持するために、保持枠体302が複数個、本例では中央部に一つの中央保持枠体302Aと、この中央保持枠体302Aを中心として該中央保持枠体302Aの両側に対称配置にて外方へと順次所定の距離だけ離隔配置して、本例ではそれぞれ2個づつの外側保持枠体302B、302Cが一体に取付けられる。外側保持枠体302B、302Cは、中央保持枠体302Aより高くされ、且つ、各外側保持枠体302B、302Cは、中央保持枠体302Aより外側へと行くに従って高くされ、つまり、本例では、外側保持枠体302Cが外側保持枠体302Bより高くされる。
【0044】
中央部保持枠体302Aは、基台枠体301の中心に対して対称配置にて基台枠体301に立設された4個の支柱303A(303Aa、303Ab、303Ac、303Ad)と、この支柱303Aa、303Ab、303Ac、303Adの頂部に取り付けられた支持台304Aとを有する。支持台304Aは、少なくともその上面が曲面とされ、また、支持台304Aの中央部には、本例では直径450mmとされる穴306が形成されている。
【0045】
外側の保持枠体302Bは、基台枠体301に立設された対をなす支柱303B(303Ba、303Bb)と、両支柱303Ba、303Bbの頂部を接続して設置された支持板304Bとを有する。同様に、外側の保持枠体302Cは、基台枠体301に立設された対をなす支柱303C(303Ca、303Cb)と、両支柱303Ca、303Cbの頂部を接続して設置された支持板304Cとを有する。
【0046】
上記構成とされる試験装置300の中央保持枠体302A及び両外側保持枠体302B、302Cは、各保持枠体302A、302B、302Cの上面に設置されたプラスチック波板10が所定の湾曲形状をなすように構成されている。つまり、本例の試験装置300は、プラスチック波板10の載荷フレームを構成する複数の保持枠体302A、302B、302Cは、その上面にて画成される湾曲形状R300が鉄道の単線トンネルのアーチクラウン部の曲率に合わせた半径2280mmの曲面とされる。
【0047】
上記構成の試験装置300を使用しての押し抜き載荷試験を行うに際し、
図8(b)、(c)に示すように、先ず、本発明の工法に用いるプラスチック波板10の谷部12に押え部材30を適合し、プラスチック波板10と押え部材30とを、M8のボルト320で中央保持枠体302Aの支持台304A、及び、各外側保持枠体302B、302Cの各支持板304B、304Cに固定する。特に、中央部保持枠体302Aにおいては、
図8(a)に示すように、プラスチック波板10は、支持台304Aに対してボルト320により4か所にてしっかりと固定される。
【0048】
本試験では、プラスチック波板10は、三菱エンジニアリングプラスチック株式会社製の商品名「ユーピロン・サンガード波板552A−63/1820mm長さ」のポリカーボネート樹脂製の製品であり、
図1をも参照して、長さ(L10)が約1820mm、幅(W10)が730mmm、山ピッチ(P10)が63mm、山高さ(H10)が18mmのものを使用した。
【0049】
そこで、押え部材30は、幅(W10)730mmのプラスチック波板10の両サイドと中央部の3か所を固定することを想定して、
図8(a)、(c)にて、プラスチック波板10の谷部12に、本例では、波板の山5個分(間隔PW=約320mm)隔てて中央支持台304A及び各支持板304B、304Cに固定した。また、プラスチック波板10の長手方向については、
図8(b)に示すように、特に、中央支持台304Aにて波板10の谷部12の溝に沿った固定ボルト320の間隔PLは、実際の使用時に設定される約1820mm長さの波板の長手方向両端領域におけるオーバーラップ長さ(L13x=約130mm)を除いて両端と中央部の2か所、即ち、波板10の長さを3分割する位置に相当する間隔(PL)である約564mmとした。即ち、プラスチック波板10は、中央支持台304Aでは、幅方向に長さ(W10)約730mm、長手方向に長さ(PL)約564mmのトータル4点で固定した。なお、本例では、中央支持台304Aと支持板304Bの間の間隔(PLab)、及び、支持板304Bと支持板304Cの間隔(PLbc)は、約250mmとした。
【0050】
本試験装置300は、試験装置に取付けられた波板10に負荷をかけるための油圧ジャッキ310が付設されている。油圧ジャッキ310は、基台枠体301の中央に設けた支持台304Aに形成した直径450mmの穴306の下から直径360mmの圧子311を押し上げて載荷を行うことができる。本試験では、図示してはいないが、油圧ジャッキ310の下にセットしたロードセルによる荷重と、上面に設置した変位計により荷重と変位の関係を求めた。
【0051】
本試験に使用したプラスチック波板10は、上述のように、三菱エンジニアリングプラスチック株式会社製の「ユーピロン・サンガード波板552A−63/1820mm長さ」の製品であり、押え部材30は、本実施例で作製した上記「FRP−7」及び「FRP−9」とした。また、比較例として押え部材を使用しないケースでも試験を実施した。試験結果は、
図9に示した通りである。試験結果より、本発明に従って、押え部材30を配置した場合、即ち、FRP−7及びFRP−9を使用した場合が良好であることが確認された。
【0052】
一例として変位20mmでの耐荷重を示すと、下表のようになる。
【0054】
FRP製の押え部材30を使用してプラスチック波板10をトンネル覆工壁101などに固定することで剥落防止に対する耐荷重の増加効果が認められた。
【0055】
(試験施工)
更に、本発明に係る剥落防止工法の施工性を確認するために廃坑になったトンネルにて試験施工を実施した。
【0056】
図10は、本試験施工により実施されたトンネル周方向(X)におけるプラスチック波板10と押え部材30との隣接領域における接合態様を説明する概略図である。
図11は、本試験施工に使用したプラスチック波板10における押え部材30の適用態様を説明する概略図である。
【0057】
本試験施工では、施工性を考慮して、
図12(a)に示すように、押え部材30はプラスチック波板10に予め両面テープ41にて仮止めを行った。両面テープ41は、詳しくは後述するが、防水シール部材としても機能する。両面テープ41は、好ましくはプラスチック波板10の谷部12に沿って、即ち、トンネルの周方向に連続して設ける。これにより、押え部材30は、押え部材30の長手方向に沿った両側面部がプラスチック波板10の谷部12に密着固定される。
【0058】
また、押え部材30を貼り付けたプラスチック波板10は、
図10及び
図11(a)、(b)に示すように、天端用と側面用の2種類に分けて作製した。つまり、天端用のプラスチック波板10は、
図11(a)に示すように、トンネル周方向(X)、即ち、波板10の長手方向両端領域(長さL13x)のオーバーラップ領域13xに押え部材30を設けず、側面用のプラスチック波板10は、
図11(b)に示すように、トンネル周方向(X)、即ち、波板の長手方向全領域に亘って押え部材30を設けた。
【0059】
本試験施工においては、
図10に示すように、先ず、トンネル天端部分101Aを最初に施工後、次いで、トンネル側壁部分101Bに、L13x=約120mmのオーバーラップ13xを設けて側面用の波板10を施工した。なお、本施工では、オーバーラップ(重ね部)には、図示するように、2か所にてアンカー止めを行った。また、各波板10は、周方向に略564mmの等間隔にてトータルで4箇所にてアンカーボルト200により固定した。
【0060】
これにより、天端部101Aからの漏水を側壁101B下方へと逃がすことができた。また、トンネル延長方向(Y)においては、隣接するプラスチック波板10を波板の1山半(
図2、
図3にて領域13y)をオーバーラップすることで漏水を防止することができた。
【0061】
施工は高所作業車の作業台上で作業員2名にて押え部材付きのプラスチック波板10を押え付け、別の作業員により所定箇所に直径8.5mmのドリルで押え部材30とプラスチック波板10にアンカー孔201a、201bを削孔し、その後に、覆工壁101に対してコンクリート用のハンマードリルにて直径8.5mmで170mmの深さまで削孔してアンカー孔201cを形成する。
【0062】
その後、
図12(a)に示すように、上記アンカー孔201a〜201cに対してM8/180mmの拡張式アンカー200を差し込み、打撃によって拡張固定し、ワッシャ42を当てた後に緩み止めナット43にて締めて固定した。ワッシャ42は、
図12(b)に示すように、座金42aにゴム部42bが一体に形成されたゴム付き座金とされる防水機能を備えた防水ワッシャ42Aを使用するのが好ましい。例えば、株式会社オー・ピー・ジ製の防水ワッシャ(商品名「ボンデッドワッシャ」)などを好適に使用し得る。ナット43がアンカーボルト200に螺合されると、ナット43が防水ワッシャ42Aを介して押え部材30をプラスチック波板10の方へと押圧することにより、防水ワッシャ42Aは、押え部材30の座面と、アンカーボルト200のねじ部をゴムで密封する。
【0063】
なお、比較例として、押え部材30として矩形断面の繊維強化プラスチック材(FRP)を用いて同様の施工を試みたが、矩形断面の押え部材とプラスチック波板を仮固定することが難しく、削孔作業時にドリル刃が躍るなどの危険性があることが判明した。また、拡張式アンカーを打撃固定する際に誤って押え部材を打撃した際などには、FRP押え部材が割れたりするトラブルが発生した。
【0064】
これに対して、本発明に従って作製された、プラスチック波板10の谷部湾曲に沿った湾曲形状面を有した、所謂、「かまぼこ形」の押え部材30を使用した場合は、プラスチック波板10と押え部材30の間にほとんど隙間が無く、アンカーボルト用の削孔時のブレなども少ない。また、誤って押え部材面を打撃した場合でも割れることはなかった。
【0065】
上記構成の本発明のトンネル剥落防止工法によれば、高靭性のプラスチック波板を、波板の凹形状に沿った断面形状を有する繊維強化プラスチック製の押え部材30を介してアンカーボルト200にて固定することで、プラスチック波板を面圧力で固定することが可能となる。また、プラスチック波板にかかる剥落荷重を、強靱な繊維強化プラスチック製の押え部材30を通して、アンカーボルトに伝達し、剥落荷重を受け持つことができる。
【0066】
更に、トンネル覆工壁からの漏水は、プラスチック波板の谷部にて形成される導水路にてトンネル覆工壁の側面へと案内され排出される。つまり、トンネル天端部から複数枚のプラスチック波板10をオーバーラップして固定することによりトンネル周方向(X)に連続して形成されたプラスチック波板10の谷部溝部分(導水路)500により、漏水個所からの水をトンネル側壁の排水路へと導水することが可能である。
【0067】
図12(a)、(b)に示す上記構成の削孔部防水機構によれば、導水路500からの水Eがプラスチック波板10に形成したアンカー孔201b、更には、押え部材30に形成したアンカー孔201aから外方漏水するのが有効に防止される。つまり、上述したように、導水路500からの水Eがプラスチック波板10のアンカー孔201bからアンカーボルト200を伝って押え部材30側へと漏出した水は、防水シールとしての両面テープ41によりプラスチック波板30外方へと漏出することが防止される。更に、押え部材30に形成したアンカー孔201aからアンカーボルト200を伝って押え部材外方へと漏出した水は、防水ワッシャ42Aにより外方への漏水は完全に阻止される。
【0068】
実施例2
上述の実施例1では、本発明の工法に使用する押え部材は、繊維強化プラスチックにて一体に形成されるものとして説明したが、これに限定されるものではない。
【0069】
図13を参照して、押え部材30の他の実施例について説明する。
【0070】
本実施例にて、細長形状とされる押え部材30は、長手軸線に直交する方向の断面形状が、一面30Abが湾曲面とされ、他面30Baが平面とされる点では、実施例1と同様の形状とされるが、当て座部材30Aと押え板部材30Bとの二つの部材にて構成される点で実施例1の構成とは異なる。
【0071】
つまり、当て座部材30Aは、一面30Abはその表面外形状がプラスチック波板10の湾曲形状とされる谷部(凹形状部)12に合致して嵌り合うように湾曲形状Raとされ、他面30Aaは、押え板部材30Bと当接するべく、本実施例では平面形状とされる。
【0072】
また、当て座部材30Aは、樹脂にて作製され、不燃という点で、塩化ビニル、発泡塩化ビニルなどが好適に使用される。斯かる構成の当て座部材30Aは、押し出し成形により作業性良く作製することができる。
【0073】
一方、押え板部材30Bは、強化繊維fに樹脂Rを含浸、硬化させて作製される繊維強化プラスチック(FRP)材とされる。本実施例にて押え板部材30Bは、強化繊維fを一方向に引き揃えて作製され、繊維軸線に直交する方向の断面形状にて上下両面30Baが平行な矩形状とされる。
【0074】
押え板部材30Bは、実施例1と同様に、強化繊維fとしては、引張強度とコストという点からガラス繊維を好適に使用し得るが、種々の強化繊維を使用することができ、その他に、炭素繊維等の無機繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維等の有機繊維、なども好適に使用し得る。含浸樹脂Rは、限定されるものではなく、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂のいずれでも良い。熱硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタンアクリレート樹脂などが使用され、また、熱可塑性樹脂としては、ポリアミド樹脂、PPS樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ABS樹脂などが使用される。押え部材30の繊維含有率は、30〜70%(体積)、通常、50〜60%とされる。
【0075】
なお、不燃性を要求される箇所においては、樹脂に不燃性を付与するために、水酸化アルミニウムや三酸化アンチモンなどの不燃性付与材を添加することは有効である。
【0076】
また、本実施例の押え部材30を使用した場合においても、実施例1で説明したと同様に、アンカーボルトのためにドリルで削孔される。この削孔作業の際に、押え部材30が割れるのを防止するために、押え板部材30Bの外周囲を、実施例1にて
図5(c)、(d)を参照して説明したと同様に、例えば強化繊維としてガラスマット材を使用した繊維強化プラスチック被覆層fmにて囲包するのが好ましい。被覆層fmの厚さ(tfm)は、0.1〜2.0mm程度とされる。
【0077】
斯かる構成の押え板部材30Bは、従来の引抜き成形法にて効率よく製造することができる。
【0078】
上記当て座部材30Aと押え板部材30Bとの二つの部材は、使用時においては、接着剤などにより一体に接合した後、一体の押え部材30として使用するのが好適である。
【0079】
本実施例の当て座部材30Aと押え板部材30Bとの二つの部材が一体とされたときの押え部材30の寸法形状の一例を挙げれば、
図13にて、幅(W30A、W30B)は、15〜50mm、当て座部材30Aの高さ(H30A)は、3〜20mm、押え板部材30Bの厚さ(H30B)は、2〜10mmとすることができる。
【0080】
本実施例の押え部材30を使用した場合も、実施例1の場合と同様に、複数枚のプラスチック波板10が山部及び谷部がトンネルの湾曲した覆工壁101の表面(即ち、凹形状外壁面)に沿って湾曲形状に弾性変形して設置され、且つ、当て座部材30A及び押え板部材30Bにて構成される押え部材30を介してアンカーボルト200によりトンネル覆工壁101に固定される。このとき、本実施例においても、
図12(a)、(b)を参照して説明した実施例1と同様に、削孔部の防水機構を採用することができる。
【0081】
本実施例の押え部材30を使用した場合も、本発明の工法によれば、実施例1と同様の作用効果を達成し得る。
【0082】
(変形実施例)
上記実施例1、2においては、押え部材30は、プラスチック波板10の谷部12に適合して周方向に設置し、プラスチック波板10をアンカーボルト200により押え部材30を介して覆工壁101に固定するものとして説明した。また、上記実施例では、限定されるものではないが、
図4(a)、(b)からも理解されるように、アンカーボルト200の頭部は、プラスチック波板10の山高さH10内に収まるように構成することができ、トンネル内空のクリアランスに余裕があまりない場合にも対応することができる。
【0083】
しかし、
図14(a)、(b)に示すように、トンネル内空のクリアランスに余裕が有る場合は、プラスチック波板10の谷部12の溝に受け込む形で配置される押え板部材30と重ね合わせて、この押え部材30と直交する形で、第二の押え部材60を配置することができる。この場合は、押圧部材30、即ち、第一の押え部材30は、実施例1、2の場合と同様に、プラスチック波板10の谷部(凹形状部)12に適合して周方向に設置し、更に、第二の押え部材60を第一の押え部材30と直交する形で、且つ、プラスチック波板10の山部(凸形状部)11の頂部に当接するようにして設置する。次いで、プラスチック波板10をアンカーボルト200により第二の押え部材60及び第一の押え部材30を介して覆工壁101に固定する。
【0084】
第二の押え部材60は、好ましくは、図示するように、横断面が矩形状とされる細長部材が好ましい。一具体的寸法例を挙げれば、幅W60が15〜50mm、厚さT60が2〜10mmとすることができる。また、第一の押え部材30と同様に繊維強化プラスチック材(FRP材)にて形成するのが好ましく、第一の押え部材30と同様の上記諸材料を使用して作製することができる。
【0085】
勿論、第一の押え部材60は、
図14(b)に示すように、上述の実施例1のように、繊維強化プラスチックにて一体に形成することもできるが、
図14(c)に示すように、実施例2で説明した当て座部材30Aと押え板部材30Bとの二つの部材にて構成される押え部材とすることもできる。
【0086】
本変更実施例の工法によれば、実施例1、2と同様の、或いは、それ以上の載荷性能を達成することもできる。