(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-95196(P2016-95196A)
(43)【公開日】2016年5月26日
(54)【発明の名称】熱膨張係数の測定方法および熱機械分析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 25/16 20060101AFI20160422BHJP
【FI】
G01N25/16 E
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-230721(P2014-230721)
(22)【出願日】2014年11月13日
(71)【出願人】
【識別番号】594023722
【氏名又は名称】サムソン エレクトロ−メカニックス カンパニーリミテッド.
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154379
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(72)【発明者】
【氏名】ハン,ヨン ギュ
(72)【発明者】
【氏名】パク,ジョン ファン
(72)【発明者】
【氏名】リ,ドン キュン
(72)【発明者】
【氏名】ソン,キュン ジン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ドン フン
(72)【発明者】
【氏名】チョイ,チョル ホ
【テーマコード(参考)】
2G040
【Fターム(参考)】
2G040AB07
2G040BA25
2G040BA27
2G040CA03
2G040CA18
2G040CA22
2G040CB09
2G040CB12
2G040DA03
2G040DA16
2G040EC08
2G040HA05
2G040HA16
2G040HA18
(57)【要約】
【課題】半導体パッケージ、電気回路などに採用される高分子フィルムのより正確な熱膨張係数を測定することができる熱膨張係数の測定方法および熱機械分析装置を提供する。
【解決手段】本発明の熱膨張係数の測定方法は、2個以上の試料を提供するステップ(S100)と、熱機械分析装置を手段とし、前記2個以上の試料の測定熱膨張係数を取得するステップ(S200)と、前記ステップ(S200)で取得した2個以上の試料の測定熱膨張係数と線形回帰分析により、前記熱機械分析装置に適用される推定熱膨張係数の補正式を導出するステップ(S300)と、を含むものである。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2個以上の試料を提供するステップ(S100)と、
熱機械分析装置を手段とし、前記2個以上の試料の測定熱膨張係数を取得するステップ(S200)と、
前記ステップ(S200)で取得した2個以上の試料の測定熱膨張係数と線形回帰分析により、前記熱機械分析装置に適用される推定熱膨張係数の補正式を導出するステップ(S300)と、を含む、熱膨張係数の測定方法。
【請求項2】
前記ステップ(S100)において、前記2個以上の試料は、互いに異なる異種物質からなる、請求項1に記載の熱膨張係数の測定方法。
【請求項3】
前記試料は、理論熱膨張係数が知られている素材からなる、請求項1に記載の熱膨張係数の測定方法。
【請求項4】
前記ステップ(S200)は、前記ステップ(S100)で提供される異種試料の個数だけ繰り返し行い、各試料ごとの測定熱膨張係数を取得するステップである、請求項1に記載の熱膨張係数の測定方法。
【請求項5】
前記ステップ(S300)において、前記推定熱膨張係数の補正式は、前記測定熱膨張係数を独立変数とする一次方程式からなる、請求項1に記載の熱膨張係数の測定方法。
【請求項6】
前記ステップ(S300)において、前記推定熱膨張係数の補正式は、最小二乗法で算出する、請求項1に記載の熱膨張係数の測定方法。
【請求項7】
前記ステップ(S300)は、決定係数(R2)の値を確認するステップを含む、請求項6に記載の熱膨張係数の測定方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の熱膨張係数の測定方法により制御される、熱機械分析装置。
【請求項9】
試料を加熱および冷却する加熱部と、
前記試料に張力を提供する駆動部と、
変位測定部と、
前記駆動部から前記変位測定部を通って延びているプローブと、
ステージと、
前記プローブに連結されている可動クランプと、
前記ステージの一側に位置固定されている固定クランプと、を具備する、請求項8に記載の熱機械分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱膨張係数の測定方法および熱機械分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
公知のように、様々なタイプの試料(例えば、高分子物質、金属試片)の熱膨張係数(Coefficient of Thermal Expansion;以下、CTE)は、熱機械分析装置(Thermal Mechanical Analyzer;以下、TMA)またはディラトメーター(dilatometer)を用いて測定する。TMAまたはディラトメーターは、試料の大きさ変化、体積変化を時間、温度、および力に対する関数で測定する機器であって、上述の熱膨張係数だけでなく、高分子のガラス転移温度などを測定するために用いられている。
【0003】
換言すれば、TMAは、様々な測定値を算出するために、その内部に多数の構成部材を内蔵している。通常、TMAは、熱が加えられた試料の長さが増加する原理を利用するものであって、温度に従属する試料の大きさの変化程度を検知する。
【0004】
TMAは、試料の加熱膨張率と、TMAに装着された多数の構成部材、例えば、プローブ(probe)の膨張率との差、また加熱された試料と加熱炉内部との温度差などの変数によって、既に公知の試料の実際熱膨張係数とは異なる測定値を算出する。そのため、TMAで計測された測定熱膨張係数(CTE
obs)は、理論的に知られている試料の実際熱膨張係数、すなわち、理論熱膨張係数(CTE
ref)に上述の複合的変数を考慮できるように、数学式1のようにTMAに関する補正定数(K)を提供する。
【0005】
【数1】
【0006】
数学式1は、補正定数(K)と理論熱膨張係数(CTE
ref)のみで試料の熱膨張係数を補正する方式であって、試料の実際熱膨張係数とは相当な誤差を有することが事実である。
【0007】
かかる誤差を最小化するために、当該分野における熟練者が様々な方法を研究しているが、特許文献1は、TMAの試料チューブとプローブの材質と既に熱膨張係数を知っている標準試料の熱膨張値を測定して、この標準試料の膨張挙動を基準として試料チューブの推定熱膨張係数を求め、チューブに対するプローブの相対熱膨張値を試料チューブの推定熱膨張係数とともに補正因子を使用して試料の熱膨張係数を算出している。
【0008】
特許文献1に記載の方法は、装備から起因する誤差を除去しようとする点で類似のアイディアを有しており、現在、一般的に使用される方法よりは正確であるが、チューブ型試料のように厚いブロックあるいは厚いシート状のサンプルを測定するには有効であるものの薄いフィルムサンプルを測定するには適しない。
【0009】
フィルムサンプルの熱膨張を測定するためには、
図1に示すような専用プローブ、専用ステージまた専用クランプが必要となる。
【0010】
特許文献2は、フィルム型試料を測定するモードで使用するクランプの影響を無視するか補正する特許であって、熱膨張がほとんどない材料でクランプを作製するか、熱膨張係数が知られた材料でクランプを作製して、温度によるクランプの長さ変化を補正係数として利用する方法を提供する。この方法を利用すれば、フィルムサンプルのより正確な測定が可能となる。
【0011】
しかし、特許文献2は、ステージとプローブの構造的差から生じる温度勾配とそれによる熱膨張、装備内部部品の熱膨張およびモーター等の駆動による振動などによって生じうる誤差を考慮しておらず、測定されたサンプルの信頼性を疑うようになる。また、結果値が標準試料に左右されるにもかかわらず、試料の数が非常に限られているため、試料との熱膨張係数の差が大きい場合、正確な補正が可能となる否かが分からない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】韓国登録特許第10−0119003号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2002/0136262号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上述の問題点を解消するために導き出されたものであって、試料の熱膨張係数を測定するTMAの全般的な挙動(特に収縮挙動)を鑑みて試料の熱膨張係数を測定する方法を提案することにより、半導体パッケージ、電気回路などに採用される高分子フィルムのより正確な熱膨張係数を測定することができる熱膨張係数の測定方法および熱機械分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成するために、本発明の熱膨張係数の測定方法は、2個以上の試料を提供するステップ(S100)と、熱機械分析装置を手段とし、前記2個以上の試料の測定熱膨張係数を取得するステップ(S200)と、前記ステップ(S200)で取得した2個以上の試料の測定熱膨張係数と線形回帰分析により、熱機械分析装置に適用される推定熱膨張係数の補正式を導出するステップ(S300)と、を含むことを特徴とする。
【0015】
本発明のステップ(S100)において、2個以上の試料は、互いに異なる異種物質からなり、既に理論熱膨張係数が知られている。
【0016】
本発明のステップ(S200)は、ステップ(S100)で提供される異種試料の個数だけ繰り返し行い、各試料ごとの測定熱膨張係数を収集するステップである。
【0017】
本発明のステップ(S300)において、推定熱膨張係数の補正式は、測定熱膨張係数と公知の熱膨張係数を独立変数とする一次方程式からなる。
【0018】
本発明のステップ(S300)において、推定熱膨張係数の補正式は、最小二乗法で算出することができる。
【0019】
さらに、ステップ(S300)は、決定係数(R
2)の値を確認するステップを含む。決定係数は、変数値が一次方程式からなる推定熱膨張係数の補正式に対する接近性を確認させることができる。好ましくは、決定係数は、1に近いほど最適の状態であることを知らせる指標である。
【0020】
本発明は、上述のような熱膨張係数の測定方法により制御される熱機械分析装置を具備する。
【0021】
本発明の熱機械分析装置は、試料を加熱および冷却する加熱部と、試料に張力を提供する駆動部と、変位測定部と、駆動部から前記変位測定部を通って延びているプローブと、ステージと、プローブに連結されている可動クランプと、ステージの一側に位置固定されている固定クランプと、からなっている。
【発明の効果】
【0022】
以上、上述の通り、本発明は、熱膨張係数の測定に用いられる同一TMA設備で生じうる誤差を最小化する測定方法を提供する。換言すれば、本発明は、TMA設備で試料を測定する前に正確な熱膨張係数を取得するために設備ごとの補正が必要となるが、かかる各設備に対する補正式の算出を容易にする。
【0023】
本発明の測定方法は、既に補正式を提供するTMA設備で未知の試料に対する測定熱膨張係数から実際推定熱膨張係数を取得することができる。
【0024】
また、本発明は、低い熱膨張係数の測定を可能とする。
【0025】
本発明は、精密で信頼できる試料の熱膨張係数を測定して、試料の品質を制御するとともに試料の挙動に関する理解を容易にすることができる。
【0026】
さらに、本発明は、半導体パッケージ、プリント回路基板などに採用される薄い有機・無機複合材フィルムの正確な熱膨張係数を測定する方法を提供し、各組成物の熱膨張係数の差による反り(warpage)現象を制御することに役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】熱機械分析装置(TMA)を概略的に示す図である。
【
図2】本発明による同一TMA内における試料の熱膨張係数の測定方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の目的、特定の長所および新規の特徴は、添付図面に係る以下の詳細な説明および好ましい実施例によってさらに明らかになるであろう。本明細書において、各図面の構成要素に参照番号を付け加えるに際し、同一の構成要素に限っては、たとえ異なる図面に示されても、できるだけ同一の番号を付けるようにしていることに留意しなければならない。また、「一面」、「他面」、「第1」、「第2」などの用語は、一つの構成要素を他の構成要素から区別するために用いられるものであり、構成要素が前記用語によって限定されるものではない。以下、本発明を説明するにあたり、本発明の要旨を不明瞭にする可能性がある係る公知技術についての詳細な説明は省略する。
【0029】
以下、添付図面を参照して、本発明の好ましい実施例を詳細に説明する。
【0030】
図1は、熱機械分析装置(TMA)を概略的に示す図である。
【0031】
熱機械分析装置1(以下、TMA)は、加熱部10、駆動部20、変位測定部30、およびプローブ40(probe)からなっている。
【0032】
試料100は、ステージ60あるいはチャンバー(図示せず)で2個のクランプ51、52で支持される。可動クランプ51は、プローブ40に連結されている一方、固定クランプ52は、ステージ60の一側面に位置固定される。
【0033】
試料100は、駆動部20を媒介とし、張力(tensile force)あるいは荷重を受けるが、可動クランプ51と固定クランプ52との間に配置された試料100の最初の長さがまず記録される。次に、熱膨張係数を測定するために、TMA1は、ステージ60の周辺に配置された加熱部10により試料100を加熱および/または冷却させる。この際、加熱(あるいは冷却)によって試料100の長さが変化し、可動クランプ51に連結されたプローブ40が試料100の長さ変化に従属して変位されうる。ここで、試料100は、温度変化に応じて長さ変化を提供するために薄膜のフィルム状であってもよい。
【0034】
具体的に、プローブ40は、変位測定部30を通って変位可能な可動クランプ51から駆動部20まで長さが延長している。変位測定部30は、試料100の長さ変化に従属したプローブ40の挙動を測定する。
【0035】
ここで、変位測定部30として、当該分野における熟練者に既に広く知られている線形可変変位計(LVDT;Linear Variable Differential Transformer)を適用してもよく、プローブ40が挙動すると変位測定部30内で挙動変位を測定する。
【0036】
試料100に加えられる熱を精密に制御することができる加熱部10が使用される必要があり、試料の変化温度を正確に測定するために熱電対をさらに具備することができる。
【0037】
図2は、本発明のTMA設備に対応する熱膨張係数の測定方法を示すフローチャートであり、特に、本発明は、熱膨張係数が既に知られている異種素材の試料を測定したTMA設備の熱膨張係数補正式を算出して、信頼性のある熱膨張係数を測定することができる。かかる本発明の測定方法は、使用されたTMA設備で生じる誤差を最小化することができ、低い熱膨張係数の測定を可能とする。
【0038】
まず、本発明による熱膨張係数の測定方法は、2個以上の試料を提供するステップ(S100)を含む。
【0039】
ステップ(S100)は、上述のように2個以上の試料を提供するが、それぞれの試料は、既に熱膨張係数が知られている物質からなる。試料の長さ、厚さは特に制約されないが、加熱炉の大きさより大きくてはならず、TA Instrument社製のQ400の場合、長さは約8mm、16mm、24mm、厚さは400μm以下の試料を用いることができる。
【0040】
好ましくは、試料は、温度変化に敏感に反応するように、長さ16mm以上、厚さ200μm以下のフィルム(あるいはホイル)である。
【0041】
次に、本発明による熱膨張係数の測定方法は、熱機械分析装置(TMA)を用いて各試料の測定熱膨張係数(CTE
obs)を取得するステップ(S200)を含む。測定熱膨張係数(CTE
obs)は、TMA設備により手に入れたプローブの変位量、温度差、時間などに関するデータに基づき分析プログラムにより計算することができる。
【0042】
本発明は、ステップ(S100)に記載の通り、2個以上の試料を提供するが、それぞれの試料は、互いに異なる素材の異種物質からなる一方、理論熱膨張係数が知られている物質でなければならない。
【0043】
ステップ(S200)は、それぞれの試料に対する測定熱膨張係数(CTE
obs)を取得するために試料の個数だけ実験を繰り返し行い、各試料に対する測定熱膨張係数を測定するステップである。
【0044】
特に、ステップ(S200)は、例えば、2個の試料を採択する場合、互いに異なる試料、すなわち、第1および第2試料を同一のTMA内で測定しなければならない。換言すれば、第1試料の熱膨張係数を測定したTMA内で第2試料の熱膨張係数を再測定する。これは、使用されるTMAに基づき試料の熱膨張係数を補正するためである。
【0045】
TMA設備の熱膨張係数測定に対する信頼性を向上させるために、本発明は、上述の2個の試料を提供することに限らず、互いに異なる3個以上の試料を提供することができる。第3試料、第4試料、…、第N試料は、互いに異なる異種物質であって、第1および第2試料とも異なる物質からなる必要がある。したがって、本発明は、異種試料の種類数(N)に応じて試料の提供ステップと測定熱膨張係数の取得ステップをN回繰り返し行う必要がある。
【0046】
それぞれの異種試料に対する測定熱膨張係数を収集した後、本発明による熱膨張係数の測定方法は、線形回帰分析(linear regression analysis)によりTMAの推定(実際)熱膨張係数(CTE
cal)を計算するステップ(S300)を含む。
【0047】
具体的に、本発明による熱膨張係数の測定方法におけるステップ(S300)において、各試料の理論熱膨張係数(CTE
ref)を測定したTMAで測定された各試料の測定熱膨張係数(CTE
obs)のデータに対する相関関係の有限要素解析により一次方程式の補正式を算出することができる。
【0048】
まず、本発明のステップ(S300)は、独立変数である各試料の測定熱膨張係数(CTE
obs)を代替することで、従属変数である各試料の理論熱膨張係数(CTE
ref)のデータ対を得る。換言すれば、各試料に該当する測定熱膨張係数(CTE
obs)と理論熱膨張係数(CTE
ref)の所定の規則性を有することになり、二つの変数間の相関関係は、y=f(x)という関数で定義され、この関数は、一次方程式(y=ax+b;yは従属変数、xは独立変数、aは回帰係数、bは誤差項)に近接する。ステップ(S300)において、補正値(y)と関数値(f(x))の差の二乗の値の和が最小になるようにする関数値(f(x))を求めることができる最小二乗法(method of least squares)を使用する。
【0049】
2個以上の試料から導出できる2個以上のデータ対から一次方程式の回帰係数(a)と誤差項(b)を算出することができる。このように算出された一次方程式の補正式は、測定熱膨張係数を実際に測定したTMAの熱膨張係数に対する補正式として用いることができる。かかる補正式は、各測定に用いられたTMA設備に対応する関係式であって、測定に用いられたTMAでは、以降、別の補正式を算出する必要がないだけでなく、正確な成分を確認できない試料に対しては、逆に、熱膨張係数を確認して正確な試料の成分を確認することもできる。
【0050】
選択可能に、本発明による熱膨張係数の測定方法は、二つの変数値の一次補正式により推定熱膨張係数(CTE
cal)の分散程度を確認するステップをさらに含む。無論、変数値の分散程度が大きい場合には、線形回帰方程式の予測度が著しく低下するが、かかる変化程度を説明することができる指標、R
2(決定係数)を確認することができる。かかる最小二乗法による一次方程式と決定係数は、変数値(あるいはデータ対)により容易に導き出すことができるものであって、本発明を明瞭に理解するために詳細な説明は排除する。
【0051】
したがって、本発明は、同一TMA内で2個以上の異種試料を測定して多数の変数値を取得するほど、より信頼できる補正式である線形回帰方程式を得ることができる。
【0052】
決定係数(R
2)は、0〜1の値を有するが、決定係数が1に近いほどすべての変数値が直線に近接して線形的関係を維持することを意味する。これとは異なり、決定係数が0に近いほど変数値の座標が線形的関係を有することなく、分散していることが分かる。
【0053】
このように導き出された線形回帰方程式は、試料の測定に用いられたTMAの挙動に従属して異種試料の推定熱膨張係数(CTE
cal)を得ることができる。
【実施例】
【0054】
(実施例1)
実施例1は、本発明の測定方法によりTMA設備に対応する補正式、すなわち、線形回帰方程式を算出するものである。
【0055】
実施例1において、TA Instrument社から購入できるQ400の製品をTMAとして使用し、0.1Nの荷重、N
2 flow 100ml/minの条件下で測定が行われた。
【0056】
試料は、タングステン(W)と銅(Cu)およびアルミニウム(Al)を24mm×2mmのホイル状態で熱膨張係数を測定する。
【0057】
下記の表1は、試料として用いられるタングステンと銅およびアルミニウムの各理論熱膨張係数(CTE
ref)を記載したものである。
【0058】
【表1】
【0059】
各試料は、上述のTMAに装着して10℃/minで加熱する。各試料は、
図1に記述されたように、プローブにより変位測定部で測定された長さ変化量と温度差に基づき、測定熱膨張係数(CTE
obs)を計算することができる。測定熱膨張係数は、表2に記載する。
【0060】
【表2】
【0061】
本発明は、表2に記載の変数値(測定熱膨張係数、理論熱膨張係数)に基づき、最小二乗法で一次方程式(y=ax+b)を導出し、この一次方程式は、数学式2に開示される。ここで、数学式2は、実施例1のTMA装備と条件下でのみ適用可能であることを予め説明しておく。
【0062】
【数2】
【0063】
銅の測定熱膨張係数(CTE
obs)を数学式2に代入して銅の推定熱膨張係数(CTE
cal)を実際に計算すると、銅の推定熱膨張係数(CTE
cal)=0.9226×2.2+2.5763=4.60602であることを確認することができる。
【0064】
これは、銅の推定熱膨張係数と銅の理論熱膨張係数を一致させることができ、これにより、測定に用いられるTMAによる各試料の正確な熱膨張係数を測定することができる。このように、正確な熱膨張係数の測定は、例えば、回路基板の組成物間の熱膨張係数により生じうる反り(warpage)現象を最小化することができる。
【0065】
(実施例2)
実施例1で算出された数学式2の線形回帰方程式を他の試料に適用する一例である実施例2において、実施例1に用いられたTA Instrument社から購入できるQ400の製品内で実施例1の条件と同じ条件下で測定された白金(Pt)の測定熱膨張係数(CTE
obs)を数学式2に代入する(参考までに、白金の理論熱膨張係数(CTE
ref)は8.8ppm/℃であり、実施例1で測定された白金の測定熱膨張係数(CTE
obs)は6.6ppm/℃である)。
【0066】
白金の推定熱膨張係数(CTE
cal)=0.9226×6.6+2.5763≒8.7ppm/℃と計算される。
【0067】
本発明による熱膨張係数の測定方法は、測定された白金の測定熱膨張係数を補正式に代入すると、白金の理論熱膨張係数と一致(あるいは近似)することを確認することができる。
【0068】
以上、本発明を具体的な実施例に基づいて詳細に説明したが、これは本発明を具体的に説明するためのものであり、本発明はこれに限定されず、該当分野における通常の知識を有する者であれば、本発明の技術的思想内にての変形や改良が可能であることは明白であろう。
【0069】
本発明の単純な変形乃至変更はいずれも本発明の領域に属するものであり、本発明の具体的な保護範囲は添付の特許請求の範囲により明確になるであろう。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、熱膨張係数の測定方法および熱機械分析装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0071】
1 熱機械分析装置(TMA)
10 加熱部
20 駆動部
30 変位測定部
40 プローブ
51 可動クランプ(クランプ)
52 固定クランプ(クランプ)
60 ステージ
100 試料