【実施例】
【0041】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0042】
<実施例1>
先ず、塩化第一錫20gと、濃度が35%の塩酸15cm
3を、容量1dm
3のメスフラスコを用いて水で1dm
3に希釈(メスアップ)し、30℃に保温した。この水溶液に、母粒子として一次粒子径D
Pが2.0μmであり、かつ粒径の変動係数が2.1%である球状のアクリル樹脂50gを添加して、1時間撹拌し、その後、アクリル樹脂を濾別して水洗することにより前処理を行った。
【0043】
次に、上記前処理により表面に錫被覆層が形成されたアクリル樹脂表面に、無電解めっきにより銀被覆層を形成した。具体的には、先ず、水2dm
3に、錯化剤としてエチレンジアミン四酢酸ナトリウム40g、pH調整剤として水酸化ナトリウム20.0g、還元剤としてホルマリン(ホルムアルデヒド濃度37質量%)15mlを添加し、更に前処理前のアクリル樹脂100質量部に対して0.5質量部となる量のポリカルボン酸アンモニウム(即ち0.25g)を分散剤として添加し、これらを溶解させることにより、錯化剤、還元剤及び分散剤等を含む水溶液を調製した。次に、この水溶液に、上記前処理後のアクリル樹脂を浸漬させることによりスラリーを調製した。
【0044】
次いで、硝酸銀30g、25%アンモニア水35ml、水50mlを混合して硝酸銀含有水溶液を調製し、上記スラリーを攪拌しながら、該硝酸銀含有水溶液を滴下した。更に、硝酸銀含有水溶液滴下後のスラリーに、水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを12に調整し、325℃の温度に保持しながら撹拌することにより、銀を樹脂表面上に析出させた。その後、洗浄、濾過を行い、最後に80℃の温度で乾燥させ、以下の表1に示す銀被覆粒子を得た。
【0045】
<実施例2>
母粒子を、一次粒子径D
Pが1.0μmであり、かつ粒径の変動係数が2.2%である球状のシリカ粒子に変更したこと以外は実施例1と同様にして、以下の表1に示す銀被覆粒子を得た。
【0046】
<実施例3>
母粒子を、一次粒子径D
Pが1.2μmであり、かつ粒径の変動係数が3.8%である球状の銅粒子に変更したこと、前処理を行わずに母粒子表面に銀被覆層を形成したこと以外は実施例1と同様にして、以下の表1に示す銀被覆粒子を得た。
【0047】
<実施例4>
ポリカルボン酸アンモニウムの代わりに、分散剤としてポリカルボン酸ナトリウムを用いたこと以外は実施例1と同様にして、以下の表1に示す銀被覆粒子を得た。
【0048】
<実施例5>
ポリカルボン酸アンモニウムの添加量を、前処理前のアクリル樹脂100質量部に対して0.05質量部となる量に変更したこと以外は実施例1と同様にして、以下の表1に示す銀被覆粒子を得た。
【0049】
<実施例6>
ポリカルボン酸アンモニウムの添加量を、前処理前のアクリル樹脂100質量部に対して2.0質量部となる量に変更したこと以外は実施例1と同様にして、以下の表1に示す銀被覆粒子を得た。
【0050】
<実施例7>
母粒子を、一次粒子径D
Pが0.3μmであり、かつ粒径の変動係数が12.0%である球状のアクリル樹脂に変更したこと以外は実施例1と同様にして、以下の表1に示す銀被覆粒子を得た。
【0051】
<実施例8>
母粒子を、一次粒子径D
Pが5.0μmであり、かつ粒径の変動係数が2.4%である球状のアクリル樹脂に変更したこと以外は実施例1と同様にして、以下の表1に示す銀被覆粒子を得た。
【0052】
<実施例9>
母粒子を、一次粒子径D
Pが9.5μmであり、かつ粒径の変動係数が2.2%である球状のアクリル樹脂に変更したこと以外は実施例1と同様にして、以下の表1に示す銀被覆粒子を得た。
【0053】
<比較例1>
分散剤としてのポリカルボン酸アンモニウムを使用しなかったこと以外は実施例1と同様にして、以下の表1に示す銀被覆粒子を得た。
【0054】
<比較例2>
分散剤としてのポリカルボン酸アンモニウムを使用しなかったこと以外は実施例2と同様にして、以下の表1に示す銀被覆粒子を得た。
【0055】
<比較例3>
分散剤としてのポリカルボン酸アンモニウムを使用しなかったこと以外は実施例3と同様にして、以下の表1に示す銀被覆粒子を得た。
【0056】
<比較例4>
ポリカルボン酸アンモニウムの代わりに、分散剤としてゼラチンを用いたこと以外は実施例1と同様にして、以下の表1に示す銀被覆粒子を得た。
【0057】
<比較例5>
ポリカルボン酸アンモニウムの添加量を、前処理前のアクリル樹脂100質量部に対して0.03質量部となる量に変更したこと以外は実施例1と同様にして、以下の表1に示す銀被覆粒子を得た。
【0058】
<比較例6>
ポリカルボン酸アンモニウムの添加量を、前処理前のアクリル樹脂100質量部に対して2.1質量部となる量に変更したこと以外は実施例1と同様にして、以下の表1に示す銀被覆粒子を得た。
【0059】
<比較例7>
分散剤としてのポリカルボン酸アンモニウムを使用しなかったこと以外は実施例7と同様にして、以下の表1に示す銀被覆粒子を得た。
【0060】
<比較例8>
分散剤としてのポリカルボン酸アンモニウムを使用しなかったこと以外は実施例8と同様にして、以下の表1に示す銀被覆粒子を得た。
【0061】
<比較例9>
分散剤としてのポリカルボン酸アンモニウムを使用しなかったこと以外は実施例9と同様にして、以下の表1に示す銀被覆粒子を得た。
【0062】
<比較試験及び評価>
実施例1〜9及び比較例1〜9で得られた銀被覆粒子について、銀(銀被覆層)の結晶子径、銀被覆粒子の分散粒子径D
50、体積抵抗率を測定し、銀被覆粒子の外観を評価した。これらの結果を、以下の表1に示す。また、実施例1、比較例1、4で得られた銀被覆粒子を走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製 型式名:SU−1500)で観察したときの写真図を、それぞれ
図1〜
図3に示す。
【0063】
(i) 結晶子径:X線回折装置(リガク社製 型式名:RINT2000)と、デバイ・シェラ−の式を用いて算出した。
【0064】
(ii) 分散粒子径D
50:水にヘキサメタリン酸ナトリウムを0.5質量%添加して調製した水系溶液20mlを用意した。この水系溶液に、銀被覆粒子を0.1質量%の割合で添加した後、超音波照射により十分に分散させた。その後、銀被覆粒子が分散する水系溶液を、回転速度500rpmで撹拌し、この撹拌した状態にある銀被覆粒子について、レーザー回折散乱式粒度分布測定器(島津製作所社製、型式名:SALD−200V ER)を用いて体積基準の粒子径におけるメジアン値D
50を測定した。また、測定された分散粒子径D
50の値と母粒子の一次粒子径D
Pの値から、D
50/D
Pの値を算出した。
【0065】
(iii) 体積抵抗率:銀被覆粒子について、抵抗率計(三菱化学アナリテック社製 型式名:ロレスタGP MCP)を用い、100kPaの圧力をかけた状態の粉体の体積抵抗率を測定した。
【0066】
(iv) 外観:銀被覆粒子の外観を走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製 型式名:SU−1500)で観察し、評価した。表1中、「A」は、SEM画像に写し出された銀被覆粒子1個の面積100%に対し、銀が占める面積が80%以上であった場合を示し、「B」は、銀が占める面積が50%以上80%未満であった場合を示し、「C」は、銀が占める面積が50%未満であった場合を示す。
【0067】
【表1】
【0068】
表1から明らかなように、実施例1〜9と比較例1〜9と比較すると、分散剤としてポリカルボン酸塩を使用せず、銀の結晶子径が17.9μmを超える比較例1〜3及び比較例7〜9では、体積抵抗率及び外観の評価では、いずれも実施例1〜9と同程度の優れた結果が得られた。一方、
図2に示すように、比較例1等では隣接する銀被覆粒子同士の銀による架橋凝集が起こり、一つの銀被覆粒子の大きさが連鎖的に肥大化したため、分散粒子径D
50の値等は、実施例1〜8に比べて大きい値を示した。このことから、微細印刷等の面では、実施例1〜8の方が優れることが判る。なお、実施例9では、母粒子に一次粒子径D
Pが比較的大きいものを使用しているため、比較例1に比べると分散粒子径D
50が大きい値を示しているが、外観の評価が高く、しかもD
50/D
10の値が1.1と非常に小さい値を示していることから、凝集も少なく、極めて薄い銀被覆層で高い被覆率を達成している。そのため、生産性の面で比較例1よりも優れる。
【0069】
また、ポリカルボン酸塩以外の分散剤を使用した比較例4では、銀による架橋凝集が若干抑えられ、分散剤を全く使用していない比較例1等よりも分散粒子径D
50の値等が小さくなっているものの、分散剤自体が銀被覆層の形成を阻害する原因になったこと等から、
図3に示すように母粒子表面の一部が銀によって被覆されていない粒子が多くみられた。そのため、銀の被覆率が大幅に低下し、体積抵抗率が実施例1〜9に比べて非常に高い値を示した。
【0070】
また、分散剤としてポリカルボン酸塩を使用したものの、その使用量が所定の量に満たない、銀の結晶子径が17.9μmを若干上回った比較例5では、実施例5よりも、凝集や肥大化の程度が大きくなり、「分散粒子径D
50」や「D
50/D
P」が高い値を示した。また、分散剤としてポリカルボン酸塩を使用したものの、その使用量が所定の量を超える比較例6では、銀の被覆率が低下し、体積抵抗率が高い値を示した。
【0071】
これに対して、実施例1〜9では、
図1に示すように、銀被覆粒子同士の凝集や被覆ムラ等はみられず、微細印刷による電極等の形成に適し、導電性にも優れた銀被覆粒子が得られた。