【解決手段】複数枚の薄板材10、11を重ねて配置した積層材12から、鉄心片を重ねた状態で複数セット打抜いて積層し、回転子鉄心又は固定子鉄心を形成する積層鉄心の製造方法であり、積層材12を、その厚み方向一方側に配置された第1のパンチ13で、厚み方向他方側に配置された第1のダイ14に向けて押圧し、各薄板材10、11に異形状の突出部17、18を形成する第1工程と、この異形状の突出部17、18を、その厚み方向他方側に配置され、第1のパンチ13の外幅W
複数枚の薄板材を重ねて配置した積層材から、所定形状の鉄心片を重ねた状態で複数セット打抜いて積層し、回転子鉄心又は固定子鉄心を形成する積層鉄心の製造方法において、
前記積層材を、その厚み方向一方側に配置された第1のパンチで、厚み方向他方側に配置された第1のダイに向けて押圧し、前記積層材を構成する前記各薄板材に異形状の突出部を形成する第1工程と、
前記積層材に形成した異形状の前記突出部を、その厚み方向他方側に配置され、前記第1のパンチの外幅WP1よりも幅広で、かつ、前記第1のダイの内幅WD1よりも幅広の外幅WP2を有する第2のパンチで、厚み方向一方側に配置された第2のダイに向けて押圧し、前記積層材を打抜く第2工程とを有することを特徴とする積層鉄心の製造方法。
【背景技術】
【0002】
薄板材(例えば、鋼板)を打抜き加工する方法として、複数枚の薄板材を同時に打抜く「複数枚打抜き」という加工方法がある。例えば、
図3(A)、(B)に示すように、重ねて配置した2枚の薄板材70、71に対し、その上方からパンチ72を下降させ、その下方に配置されたダイ73に向けて、各薄板材70、71を同時に打抜く方法である。
この場合、パンチ72により、上側に配置された薄板材70(上側材)が、下側に配置された薄板材71(下側材)を押圧し、この薄板材71が引き伸ばされるように打抜かれるため、打抜き領域におけるバリやダレの発生量が多くなり、また、薄板材70と薄板材71とで打抜き寸法が異なる、という不都合が発生し易かった。
そこで、これら不都合を解決するため、
図4(A)〜(C)に示す2度抜きによるシェービング加工(切口面を僅かに削る剪断加工)を行う技術や、特許文献1に記載のように1枚の薄板材(板材)を打抜く技術を用いることが考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来の技術には、未だ解決すべき以下のような問題があった。
シェービング加工を行う場合、パンチ80の打抜きにより、重ねた2枚の薄板材81、82から、例えば、
図4(B)に示すカス83〜86が発生する。このカス83〜86は、その幅がダイ87に形成された穴88の内幅よりも狭く、この穴88が外部から閉ざされた空間となるため、
図4(C)に示すように、穴88内に留まることなく、パンチ80の上昇と共にパンチ80に付いて上昇し、薄板材81上に散乱して、その後の工程の障害となる場合がある。
なお、シェービング加工を行うことで、積層鉄心の製造の際の工程数も増加するため、製造コストの上昇を招くという問題もある。
また、特許文献1に記載の技術は、1枚の薄板材を打抜き加工する技術であり、重ねて配置した複数枚の薄板材を同時に打抜き加工する技術ではないため、上記した不都合を解決する効果が十分に得られない。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、重ねて配置した複数枚の薄板材から、重ねた状態の鉄心片を、経済的に精度よく打抜き可能な積層鉄心の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的に沿う本発明に係る積層鉄心の製造方法は、複数枚の薄板材を重ねて配置した積層材から、所定形状の鉄心片を重ねた状態で複数セット打抜いて積層し、回転子鉄心又は固定子鉄心を形成する積層鉄心の製造方法において、
前記積層材を、その厚み方向一方側に配置された第1のパンチで、厚み方向他方側に配置された第1のダイに向けて押圧し、前記積層材を構成する前記各薄板材に異形状の突出部を形成する第1工程と、
前記積層材に形成した異形状の前記突出部を、その厚み方向他方側に配置され、前記第1のパンチの外幅W
P1よりも幅広で、かつ、前記第1のダイの内幅W
D1よりも幅広の外幅W
P2を有する第2のパンチで、厚み方向一方側に配置された第2のダイに向けて押圧し、前記積層材を打抜く第2工程とを有する。
【0007】
本発明に係る積層鉄心の製造方法において、前記第1のダイの内幅W
D1は、前記第1のパンチの外幅W
P1よりも幅狭にすることができる。
【0008】
本発明に係る積層鉄心の製造方法において、前記第1のダイの内幅W
D1は、前記第1のパンチの外幅W
P1よりも幅広にすることもできる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る積層鉄心の製造方法は、第1工程で、第1のパンチと第1のダイを用いて、積層材を構成する各薄板材に異形状の突出部を形成した後、第2工程で、所定の外幅W
P2を有する第2のパンチを用いて、第1のパンチとは逆方向から、異形状の突出部を押圧して積層材を打抜く。
これにより、各薄板材の打抜き領域におけるバリやダレの発生量を抑制できるため、各薄板材の打抜き形状に寸法差を生じさせることなく、打抜き加工を完了できる。また、積層材の打抜き終了後の第2のパンチを積層材から引抜いても、積層材の打抜きの際に発生するカスを、ダイ内に留まらせることができると考えられる。
従って、重ねた状態の鉄心片を、経済的に精度よく、積層材から打抜くことができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1(A)〜(D)に示すように、本発明の一実施の形態に係る積層鉄心の製造方法は、複数枚(ここでは2枚)の薄板材10、11を重ねて配置した積層材12から、経済的に精度よく、所定形状の鉄心片(図示しない)を重ねた状態で複数セット打抜いて積層し、積層鉄心を製造する方法である。以下、詳しく説明する。
【0012】
ここで、製造する積層鉄心は、回転子鉄心(ロータ)と固定子鉄心(ステータ)のいずれでもよい。
また、積層鉄心の製造に使用する薄板材10(薄板材11も同様)は、厚みが、例えば、0.10〜0.5mm程度の電磁鋼板やアモルファス等からなる条材である。
なお、積層材12は、2枚の薄板材10、11を重ねて(積層枚数2枚で)構成されているが、薄板材の厚み等に応じて(薄い場合は)、例えば、3枚以上で構成することも可能である。ここでは、積層材12を2枚の薄板材10、11で構成しているため、積層鉄心の製造に際しては、重ねた状態の2枚の鉄心片を1セットとして、複数セット積層する。
【0013】
まず、第1工程について、
図1(A)を参照しながら説明する。
ここでは、積層材12の下側(厚み方向一方側)に配置された第1のパンチ13と、積層材12の上側(厚み方向他方側)に配置された第1のダイ14を用いる。なお、符号15は、ストリッパープレートである。
この第1のダイ14に形成された穴16の内幅W
D1は、第1のパンチ13の外幅W
P1よりも幅狭である(即ち、W
D1<W
P1)。例えば、第1のダイ14の穴16の内幅W
D1を、第1のパンチ13の外幅W
P1の50〜80%(W
P1×0.5〜W
P1×0.8)程度にするのがよい。
【0014】
上記した第1のパンチ13と第1のダイ14の間に、積層材12を配置した後、この積層材12を第1のパンチ13で第1のダイ14に向けて押圧(積層材12を半抜き)する。これにより、積層材12を構成する各薄板材10、11に、異形状の突出部17、18を形成する。
なお、ここでは、第1のダイ14の穴16の内幅W
D1と、第1のパンチ13の外幅W
P1との関係が、上記した条件を満足するため、上側の薄板材10に形成された突出部17の上端幅が、下側の薄板材11に形成された突出部18の上端幅よりも、幅狭となっている。
【0015】
また、第1のパンチ13の薄板材11の下面(ストリッパープレート15の上面)に対する突出高さH1は、上側の薄板材10の突出部17が薄板材10から切り離されることなく、しかも、後述する第2工程の打抜き初期において、上記した薄板材11に形成した突出部18が薄板材から分離可能となる高さであればよい。
例えば、第1のパンチ13の突出高さH1を、薄板材10(薄板材11)の厚み(板厚)の30%以上(好ましくは50%以上)100%未満程度にするのがよい。
【0016】
次に、第2工程について、
図1(B)〜(D)を参照しながら説明する。
ここでは、積層材12の上側(厚み方向他方側)に配置された第2のパンチ19と、積層材12の下側(厚み方向一方側)に配置された第2のダイ20を用いる。なお、符号21は、ストリッパープレートである。
この第2のパンチ19の外幅W
P2は、前記した第1のパンチ13の外幅W
P1よりも幅広となっている(即ち、W
P2>W
P1)。例えば、第2のパンチ19の外幅W
P2と、第1のパンチ13の外幅W
P1との寸法差を、薄板材10(薄板材11)の厚みの0を超え70%以下(好ましくは50%以下)程度にするのがよい。
【0017】
また、前記したように、第1のダイ14の穴16の内幅W
D1と、第1のパンチ13の外幅W
P1との関係(W
D1<W
P1)から、当然のことながら、第2のパンチ19の外幅W
P2は、第1のダイ14の穴16の内幅W
D1よりも幅広となっている(即ち、W
P2>W
D1)。例えば、第2のパンチ19の外幅W
P2と、第1のダイ14の穴16の内幅W
D1との寸法差を、薄板材10(薄板材11)の厚みの0を超え70%以下(好ましくは50%以下)程度にするのがよい。
【0018】
更に、第2のダイ20に形成された穴22の内幅W
D2は、鉄心片を積層材12から打抜き可能とするため、第2のパンチ19の外幅W
P2と同等以上となっている(即ち、W
D2≧W
P2)。例えば、第2のダイ20の穴22の内幅W
D2と、第2のパンチ19の外幅W
P2との寸法差を、薄板材10(薄板材11)の厚みの5%以上10%以下程度にすることが好ましい。
【0019】
上記した第2のパンチ19と第2のダイ20の間に、積層材12を配置した後、この積層材12に形成した異形状の突出部17、18を、突出部17の突出面23側から、第2のパンチ19で第2のダイ20に向けて押圧し、積層材12に形成した突出部17、18を打抜く(即ち、積層材12を打抜く)。このように、第2のパンチ19の押圧方向は、上記した第1のパンチ13の押圧方向とは、逆方向である。
この打抜き過程の概略を、以下に説明する。
【0020】
まず、
図1(B)に示す第2のパンチ19による打抜き初期(下降初期)では、第2のパンチ19で上側の突出部17を押圧することにより、下側の薄板材11の引き伸ばし量を最小限に抑えた状態で、薄板材11から突出部18を分離できる(打抜くことができる)。
これは、前記した第1工程により、下側の突出部18の周辺領域の材料が脆くなっていることによる。
【0021】
また、上側の薄板材10に対しては、
図1(B)に示す打抜き初期から、
図1(C)に示す打抜き中期(下降中期)にかけて、第2のパンチ19によりシェービング加工と同様の加工がなされる。
そして、突出部18が分離された下側の薄板材11に対しては、
図1(C)に示す打抜き中期から、
図1(D)に示す打抜き後期(下降後期)にかけて、第2のパンチ19によりシェービング加工がなされる。
【0022】
上記した各薄板材10、11に対するシェービング加工及びこれと同様の加工は、前記した第2のパンチ19と第2のダイ20の構成(寸法)により実施できる。
従って、上側の薄板材10と下側の薄板材11の各打抜き領域(輪郭部分)におけるバリやダレの発生量を抑制できるため、各薄板材10、11の打抜き形状に寸法差を生じさせることなく、打抜き加工を完了できる。
【0023】
なお、下側の薄板材11に対してシェービング加工を行った際に発生したシェービングカス(以下、単にカスともいう)24、25は、
図1(D)に示すように、第2のダイ20の穴22の内面26と、打抜かれた突出部17との間に挟まれた状態となる。
従って、積層材12の打抜き終了後、第2のパンチ19を上昇させた際にも、カス24、25が第2のパンチ19の上昇と共に上昇することなく、第2のダイ20の穴22内に留まるため、カス24、25が薄板材10上に散乱することを抑制、更には防止できる。
【0024】
続いて、本発明の他の実施の形態に係る積層鉄心の製造方法について、
図2(A)〜(E)を参照しながら説明する。
まず、第1工程について、
図2(A)を参照しながら説明する。
ここでは、2枚の薄板材30、31(薄板材10、11と同様)で構成される積層材32の下側(厚み方向一方側)に配置された第1のパンチ33と、積層材32の上側(厚み方向他方側)に配置された第1のダイ34を用いる。なお、符号35は、ストリッパープレートである。
この第1のダイ34に形成された穴36の内幅W
D1は、第1のパンチ33の外幅W
P1よりも幅広である(即ち、W
D1>W
P1)。例えば、第1のダイ34の穴36の内幅W
D1を、第1のパンチ33の外幅W
P1の120〜150%(W
P1×1.2〜W
P1×1.5)程度にするのがよい。
【0025】
上記した第1のパンチ33と第1のダイ34の間に、積層材32を配置した後、この積層材32を第1のパンチ33で第1のダイ34に向けて押圧(積層材32を半抜き)する。これにより、積層材32を構成する各薄板材30、31に、異形状の突出部37、38を形成する。
なお、ここでは、第1のダイ34の穴36の内幅W
D1と、第1のパンチ33の外幅W
P1との関係が、上記した条件を満足するため、上側の薄板材30に形成された突出部37の上端幅が、下側の薄板材31に形成された突出部38の上端幅よりも、幅広となっている。
また、第1のパンチ33の薄板材31の下面(ストリッパープレート35の上面)に対する突出高さH2は、前記した突出高さH1と同様、例えば、薄板材30(薄板材31)の厚み(板厚)の30%以上(好ましくは50%以上)100%未満程度にするのがよい。
【0026】
次に、第2工程について、
図2(B)〜(E)を参照しながら説明する。
ここでは、積層材32の上側(厚み方向他方側)に配置された第2のパンチ39と、積層材32の下側(厚み方向一方側)に配置された第2のダイ40を用いる。なお、符号41は、ストリッパープレートである。
この第2のパンチ39の外幅W
P2は、第1のダイ34の穴36の内幅W
D1よりも幅広となっている(W
P2>W
D1)。また、第2のパンチ39の外幅W
P2は、第1のパンチ33の外幅W
P1よりも幅広となっている(W
P2>W
P1)。更に、第2のダイ40の穴42の内幅W
D2は、第2のパンチ39の外幅W
P2と同等以上となっている(W
D2≧W
P2)。
なお、これらの寸法には、例えば、前記した実施の形態の寸法を適用できる。
【0027】
上記した第2のパンチ39と第2のダイ40の間に、積層材32を配置した後、この積層材32に形成した異形状の突出部37、38を、突出部37の突出面43側から、第2のパンチ39で第2のダイ40に向けて押圧し、積層材32に形成した突出部37、38を打抜く(即ち、積層材32を打抜く)。このように、第2のパンチ39の押圧方向は、上記した第1のパンチ33の押圧方向とは、逆方向である。
この打抜き過程の概略を、以下に説明する。
【0028】
まず、下側の薄板材31に対しては、
図2(B)〜
図2(C)に示す第2のパンチ39による打抜き初期(下降初期)で、第2のパンチ39で上側の突出部37を押圧することにより、下側の薄板材31の引き伸ばし量を最小限に抑えた状態で、薄板材31から突出部38を分離できる(打抜くことができる)。
これは、前記した第1工程により、下側の突出部38の周辺領域の材料が脆くなっていることによる。
【0029】
また、上側の薄板材30に対しては、
図2(C)に示す打抜き初期から、
図2(D)に示す打抜き中期(下降中期)にかけて、第2のパンチ39によりシェービング加工と同様の加工がなされる。
そして、突出部38が分離された下側の薄板材31に対しては、
図2(D)に示す打抜き中期から、
図2(E)に示す打抜き後期(下降後期)にかけて、第2のパンチ39によりシェービング加工がなされる。
従って、上側の薄板材30と下側の薄板材31の各打抜き領域(輪郭部分)におけるバリやダレの発生量を抑制できるため、各薄板材30、31の打抜き形状に寸法差を生じさせることなく、打抜き加工を完了できる。
【0030】
また、上側の薄板材30に対してシェービング加工と同様の加工を行った際に発生したシェービングカス(以下、単にカスともいう)44、45と、下側の薄板材31に対してシェービング加工を行った際に発生したシェービングカス(以下、単にカスともいう)46、47は、
図2(E)に示すように、第2のダイ40の穴42の内面48と、打抜かれた突出部37との間に挟まれた状態となる。
従って、積層材32の打抜き終了後、第2のパンチ39を上昇させた際にも、カス44〜47が第2のパンチ39の上昇と共に上昇することなく、第2のダイ40の穴42内に留まるため、カス44〜47が薄板材30上に散乱することを抑制、更には防止できる。
【0031】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組合せて本発明の積層鉄心の製造方法を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
なお、第1工程での第1のパンチの押圧方向と、第2工程での第2のパンチの押圧方向は、反対方向であれば、前記実施の形態に限定されるものではなく、例えば、第1工程での第1のパンチの押圧を積層材の上側から行い、第2工程での第2のパンチの押圧を積層材の下側から行うこともできる。
また、本実施の形態において、第1工程での第1のパンチは、下方より上方へ可動させて、積層材を押圧しているが、これに限らず、例えば、第1のパンチをダイ表面に突起状に固定した状態に設けてもよい。