【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するために、本発明は、Ni基金属間化合物合金であって、初析L1
2相と(L1
2+D0
22)共析組織とからなる2重複相組織を有し、且つ前記2重複相組織を形成する組成域のNi、Al、Vを基本構成元素として含み、前記基本構成元素のうちの何れか一つの元素の含有量が減じられて、Siが添加されることで、前記基本構成元素とSiとを含む組成の合計が100at%となることを特徴とする。
本明細書において「at%」は原子パーセントを示している。
【0009】
本発明に係るNi基金属間化合物合金では、初析L1
2相と(L1
2+D0
22)共析組織とからなる2重複相組織を有している。ここで、L1
2相はNi
3Alであり、D0
22相はNi
3Vである。
【0010】
すなわち、このNi基金属間化合物合金は、基本構成元素であるNi、Al、Vを、上記の2重複相組織を形成することが可能な組成域となるように含んでいる。このような組成域としては、例えば、Al:5〜13at%、V:10〜18at%、Ni:60at%以上(残部)であることが挙げられる。
【0011】
また、このNi基金属間化合物合金では、基本構成元素とSiとを含む組成の合計が100at%となるように、該基本構成元素のうちの何れか一つの元素の含有量が減じられてSiが添加されている。すなわち、この組成では、Al、V、Niのうちの何れか一つの元素がSiに置き換えられている。なお、Ni基金属間化合物合金の強度や延性等の特性を一層良好に向上させるべく、上記の基本構成元素及びSiに、さらに0〜5at%のNbを含んだ組成が100at%となってもよい。
【0012】
ここで、Siの原子量は28.084であり、Taの原子量(180.948)や、Reの原子量(186.207)に比して著しく小さい。従って、上記のようにしてSiが添加されたNi基金属間化合物合金では、例えば、TaやRe等が添加された場合のように、密度が増大してしまうことを回避できる。
【0013】
また、このSiが添加されたNi基金属間化合物合金では、高温環境下での強度を損なうことなく、耐酸化性を効果的に向上させることが可能である。すなわち、本願発明に係るNi基金属間化合物合金は、優れた軽量性及び耐酸化性を備えながら、高温環境下でも十分な強度を示すことができる。
【0014】
上記のNi基金属間化合物合金において、前記2重複相組織を形成する組成域として、Ni:74〜77at%、Al:7〜10at%、V:11〜14at%、である前記基本構成元素のうちの何れか一つの元素の含有量が、2at%以下のSiの添加量分減じられることで、Ni:72〜77at%、Al:5〜10at%、V:9〜14at%、Si:2at%以下と、Nb:1〜4at%とからなる前記組成の合計が100at%となり、前記組成の合計重量に対して10〜1000重量ppmの範囲内でBをさらに含むことが好ましい。
【0015】
この組成とすることで、2重複相組織を良好に形成することができる。また、固溶強化により強度を向上させる効果を有するNbと、粒界割れを抑制することにより延性を向上させる効果を有するBとをさらに含むことで、Ni基金属間化合物合金の特性を一層良好に向上させることができる。また、Siの添加量を2at%以下とすることで、強度や硬さ特性を大きく損なうことなく密度や耐酸化性を向上させることができる。
【0016】
上記のNi基金属間化合物合金において、前記2重複相組織を形成する組成域として、Ni:75at%、Al:9at%、V:13at%である前記基本構成元素のうちの何れか一つの元素の含有量が、2at%以下のSiの添加量分減じられることで、Ni:73〜75at%、Al:7〜9at%、V:11〜13at%、Si:2at%以下と、Nb:3at%とからなる前記組成の合計が100at%となり、前記組成の合計重量に対して10〜1000重量ppmの範囲内でBをさらに含むことが好ましい。
【0017】
すなわち、Nbの添加量を3at%として、上記の組成の合計が100at%となるように調整することで、良好な2重複相組織を形成することが容易になり、Ni基金属間化合物合金の特性を一層向上させることが可能になる。
【0018】
上記のNi基金属間化合物合金において、前記基本構成元素のうちの何れか一つの元素の含有量が、1at%以下のSiの添加量分減じられることで、1at%以下のSiを含む前記組成の合計が100at%となることが好ましい。このように、Siの添加量を1at%以下とすることで、Ni基金属間化合物合金中に、L1
2相やD0
22相とは異なる相であって、強度等の特性を向上させる上で好ましくない第3の相が出現することを効果的に抑制できる。すなわち、2重複相組織の均一性を効果的に高めることができる。その結果、軽量性及び耐酸化性の向上を図りつつ、高温環境下でも十分な強度等を示すNi基金属間化合物合金を一層容易に得ることが可能になる。
【0019】
上記のNi基金属間化合物合金において、前記基本構成元素のうち、Alの含有量がSiの添加量分減じられることで、前記組成の合計が100at%となり、前記初析L1
2相の平均粒径が1μm以下であるようにしてもよい。すなわち、AlがSiに置き換えられた組成からなるNi基金属間化合物合金では、平均粒径が1μm以下となるように初析L1
2相を効果的に微細化することができる。なお、平均粒径は例えば、切片法により求めることができる。
【0020】
ここで、初析L1
2相は略立方体形状であり、該初析L1
2相同士の間隙であるチャンネル部に、(L1
2+D0
22)共析組織が形成されている。なお、以降の説明では、初析L1
2相とチャンネル部とを上部複相組織ともいい、(L1
2+D0
22)共析組織を下部複相組織ともいう。
【0021】
従って、上記のように初析L1
2相を微細化できることによって、該初析L1
2相とチャンネル部との界面を増大させて、転位の移動を阻害する界面強化の効果を増大させることができる。
【0022】
また、Siの原子半径は0.117nmであり、Alの原子半径は0.143nmであるため、互いの原子半径差が比較的大きい。これによって、Ni基金属間化合物合金に結晶格子歪みを発生させて転位の移動を阻害すること、すなわち固溶強化を生じさせることも可能になる。
【0023】
ここで、Alは、例えば、表面にアルミナの酸化皮膜を形成可能であるため、耐酸化性を向上させるのに有効であるとされている。しかしながら、Siが添加された本願発明に係るNi基金属間化合物合金では、このAlの含有量を増大するよりも、一層優れた高温環境下での耐酸化性を得ることが可能になる。
【0024】
従って、AlをSiに置き換えた組成のNi基金属間化合物合金では、上記の強化機構に加えて、高温環境下での耐酸化性に優れることで、耐熱強度を効果的に向上させることができる。
【0025】
また、上記の通り、Siの原子量は28.084であるため、例えば、Ta(原子量180.948)や、Re(原子量186.207)に比して、Alの原子量26.98に近い。このため、AlをSiに置き換えた組成のNi基金属間化合物合金では、例えば、TaやRe等が添加されたNi基金属間化合物合金に比して軽量性に優れる。
【0026】
以上から、軽量性及び耐酸化性の向上を図りつつ、高温環境下でも優れた強度等を示すことができる。
【0027】
上記のNi基金属間化合物合金において、前記基本構成元素のうち、V又はNiの何れか一方の含有量がSiの添加量分減じられることで、前記組成の合計が100at%となるようにしてもよい。上記の通りSiの原子量は28.084であり、Re及びTaの原子量よりも著しく小さく、さらにVの原子量(50.942)及びNiの原子量(58.693)よりも小さい。このため、V又はNiの何れか一方がSiに置き換えられたNi基金属間化合物合金では、Siを添加する前よりも密度を小さくすることができ、顕著に軽量化を図ることが可能である。
【0028】
また、上記の基本構成元素のうち、Vは合金表面に形成されるV酸化膜の密着性に劣り、また、蒸発し易いため耐酸化性を損なわせる元素である。このため、VをSiと置き換えた組成のNi基金属間化合物合金では、Siの添加量分、Vの含有量を低減させることができるため、合金材の表面が酸化することを効果的に抑制できる。すなわち、耐酸化性を一層効果的に向上させることができる。
【0029】
上記したNi基金属間化合物合金を得るためのNi基金属間化合物合金の製造方法もこの発明に含まれる。
【0030】
すなわち、本発明は、Ni基金属間化合物合金の製造方法であって、初析L1
2相と(L1
2+D0
22)共析組織とからなる2重複相組織を形成する組成域にあるNi、Al、Vからなる基本構成元素のうち、何れか一つの元素の含有量を減じてSiを添加することで、前記基本構成元素とSiとを含む組成の合計を100at%とした合金を得て、前記合金に第1熱処理を行ってA1(fcc)相の単相とする工程と、前記単相とした前記合金に初析L1
2相を析出させることで、初析L1
2相とA1(fcc)相との共存相とした後、A1(fcc)相を(L1
2+D0
22)共析組織に変化させるように第2熱処理を行うことで、前記2重複相組織を有するNi基金属間化合物合金を得る工程と、を有することを特徴とする。
【0031】
本発明に係るNi基金属間化合物合金の製造方法では、先ず、2重複相組織を形成することが可能な組成域とした基本構成元素Ni、Al、Vのうち、何れか一つの元素をSiに置き換えた組成の合金を得る。そして、この合金を、第1熱処理によって、A1(fcc)相(Ni固溶体相)の単相とする。次に、第2熱処理によって、A1(fcc)相から初析L1
2相を析出させて、上部複相組織を形成し、さらに、該初析L1
2相の間隙(チャンネル部)に残ったA1(fcc)相をD0
22相とL1
2相に共析変態させて下部複相組織を形成する。
【0032】
すなわち、第2熱処理では、初析L1
2相とA1(fcc)相とが共存する領域、及び初析L1
2相とA1(fcc)相とD0
22相とが共存する領域の両方又は何れか一方を経てから、共析温度以下に達するように合金を冷却する。これによって、上部複相組織と下部複相組織とからなる2重複相組織を有するNi基金属間化合物合金を形成することができる。
【0033】
上記のようにして得られた、2重複相組織を有するNi基金属間化合物合金は、軽量性及び耐酸化性に優れ、且つ高温環境下でも十分な強度等を示すことができる。
【0034】
上記のNi基金属間化合物合金の製造方法において、前記2重複相組織を形成する組成域として、Ni:74〜77at%、Al:7〜10at%、V:11〜14at%とした前記基本構成元素のうちの何れか一つの元素の含有量を、2at%以下のSiの添加量分減じることで、前記組成をNi:72〜77at%、Al:5〜10at%、V:9〜14at%、Si:2at%以下と、Nb:1〜4at%との合計100at%とし、前記組成の合計重量に対して10〜1000重量ppmの範囲内となるようにBをさらに加えて前記合金を得ることが好ましい。
【0035】
このように合金を調整することで、良好な2重複相組織が形成されたNi基金属間化合物合金を得ることができる。また、NbとBをさらに含むことで、Ni基金属間化合物合金の強度や延性等の特性を向上させることができる。また、Siの添加量を2at%以下とすることで、強度や硬さ特性を大きく損なうことなく密度や耐酸化性を向上させることができる。
【0036】
上記のNi基金属間化合物合金の製造方法において、前記2重複相組織を形成する組成域として、Ni:75at%、Al:9at%、V:13at%とした前記基本構成元素のうちの何れか一つの元素の含有量を、2at%以下のSiの添加量分減じることで、前記組成をNi:73〜75at%、Al:7〜9at%、V:11〜13at%、Si:2at%以下と、Nb:3at%との合計100at%とし、前記組成の合計重量に対して10〜1000重量ppmの範囲内となるようにBをさらに加えて前記合金を得ることを特徴とすることが好ましい。
【0037】
すなわち、Nbの添加量を3at%として、上記の組成の合計が100at%となるように調整することで、良好な2重複相組織を形成することが容易になり、Ni基金属間化合物合金の特性を一層向上させることが可能になる。
【0038】
上記のNi基金属間化合物合金の製造方法において、前記基本構成元素のうちの何れか一つの元素の含有量を、1at%以下のSiの添加量分減じることで、1at%以下のSiを含む前記組成の合計が100at%となるように前記合金を得ることが好ましい。このように、Siの添加量を1at%以下とすることで、Ni基金属間化合物合金中に、第3の相が出現することを効果的に抑制できるため、2重複相組織の均一性を効果的に高めることができる。その結果、軽量性及び耐酸化性の向上を図りつつ、高温環境下でも十分な強度等を示すNi基金属間化合物合金を良好に得ることができる。
【0039】
上記のNi基金属間化合物合金の製造方法において、前記基本構成元素のうち、Alの含有量をSiの添加量分減じて、前記組成の合計が100%となるように前記合金を得てもよい。この場合、平均粒径が1μm以下となるように初析L1
2相が効果的に微細化されたNi基金属間化合物合金を得ることができる。すなわち、このように初析L1
2相を微細化できることによって、界面強化の効果を増大させることができる。また、互いの原子半径差が比較的大きいAlとSiとを置き換えることによって、固溶強化を生じさせることができる。従って、軽量性及び耐酸化性の向上が効果的に図られるとともに、高温環境下での強度等を良好に向上させたNi基金属間化合物合金を得ることが可能になる。
【0040】
上記のNi基金属間化合物合金の製造方法において、前記基本構成元素のうち、V又はNiの何れか一方の含有量をSiの添加量分減じて、前記組成の合計が100at%となるように前記合金を得てもよい。すなわち、V及びNiを、これらよりも原子量が小さいSiに置き換えるため、密度を効果的に小さくして、顕著に軽量化が図られたNi基金属間化合物合金を得ることができる。
【0041】
また、上記の通り、基本構成元素の中で、最も耐酸化性を低下させ易いVをSiと置き換えた場合、Siの添加量分、Vの含有量を低減させることができるため、合金表面の酸化を抑制できる。すなわち、耐酸化性を一層向上させたNi基金属間化合物合金を得ることができる。