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特開2016-98416Ni基金属間化合物合金及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-98416(P2016-98416A)
(43)【公開日】2016年5月30日
(54)【発明の名称】Ni基金属間化合物合金及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 19/03 20060101AFI20160425BHJP
   C22F 1/10 20060101ALN20160425BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20160425BHJP
【FI】
   C22C19/03 H
   C22F1/10 K
   C22F1/00 601
   C22F1/00 602
   C22F1/00 630A
   C22F1/00 650A
   C22F1/00 630Z
   C22F1/00 630B
   C22F1/00 630K
   C22F1/00 640B
   C22F1/00 681
   C22F1/00 682
   C22F1/00 691B
   C22F1/00 691C
   C22F1/00 692A
   C22F1/00 630C
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-236973(P2014-236973)
(22)【出願日】2014年11月21日
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】505127721
【氏名又は名称】公立大学法人大阪府立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【弁理士】
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100149261
【弁理士】
【氏名又は名称】大内 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(72)【発明者】
【氏名】菊池 雄介
(72)【発明者】
【氏名】林 祐宏
(72)【発明者】
【氏名】高杉 隆幸
(72)【発明者】
【氏名】金野 泰幸
(57)【要約】
【課題】軽量性及び耐酸化性に優れながら、高温環境下においても十分な強度や延性を示すNi基金属間化合物合金及びその製造方法を提供する。
【解決手段】Ni基金属間化合物合金10は、初析L12相12と(L12+D022)共析組織14とからなる2重複相組織16を有する。また、2重複相組織16を形成する組成域のAl、V、Niを基本構成元素として含み、基本構成元素のうちの何れか一つの元素の含有量が減じられてSiが添加されることで、基本構成元素とSiとを含む組成の合計が100at%となる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
初析L12相と(L12+D022)共析組織とからなる2重複相組織を有し、且つ前記2重複相組織を形成する組成域のNi、Al、Vを基本構成元素として含み、
前記基本構成元素のうちの何れか一つの元素の含有量が減じられてSiが添加されることで、前記基本構成元素とSiとを含む組成の合計が100at%となることを特徴とするNi基金属間化合物合金。
【請求項2】
請求項1記載のNi基金属間化合物合金において、
前記2重複相組織を形成する組成域として、Ni:74〜77at%、Al:7〜10at%、V:11〜14at%である前記基本構成元素のうちの何れか一つの元素の含有量が、2at%以下のSiの添加量分減じられることで、Ni:72〜77at%、Al:5〜10at%、V:9〜14at%、Si:2at%以下と、Nb:1〜4at%とからなる前記組成の合計が100at%となり、
前記組成の合計重量に対して10〜1000重量ppmの範囲内でBをさらに含むことを特徴とするNi基金属間化合物合金。
【請求項3】
請求項1又は2記載のNi基金属間化合物合金において、
前記2重複相組織を形成する組成域として、Ni:75at%、Al:9at%、V:13at%である前記基本構成元素のうちの何れか一つの元素の含有量が、2at%以下のSiの添加量分減じられることで、Ni:73〜75at%、Al:7〜9at%、V:11〜13at%、Si:2at%以下と、Nb:3at%とからなる前記組成の合計が100at%となり、
前記組成の合計重量に対して10〜1000重量ppmの範囲内でBをさらに含むことを特徴とするNi基金属間化合物合金。
【請求項4】
請求項2又は3記載のNi基金属間化合物合金において、
前記基本構成元素のうちの何れか一つの元素の含有量が、1at%以下のSiの添加量分減じられることで、1at%以下のSiを含む前記組成の合計が100at%となることを特徴とするNi基金属間化合物合金。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載のNi基金属間化合物合金において、
前記基本構成元素のうち、Alの含有量がSiの添加量分減じられることで、前記組成の合計が100at%となり、前記初析L12相の平均粒径が1μm以下であることを特徴とするNi基金属間化合物合金。
【請求項6】
請求項1〜4の何れか1項に記載のNi基金属間化合物合金において、
前記基本構成元素のうち、V又はNiの何れか一方の含有量がSiの添加量分減じられることで、前記組成の合計が100at%となることを特徴とするNi基金属間化合物合金。
【請求項7】
初析L12相と(L12+D022)共析組織とからなる2重複相組織を形成する組成域にあるNi、Al、Vからなる基本構成元素のうち、何れか一つの元素の含有量を減じてSiを添加することで、前記基本構成元素とSiとを含む組成の合計を100at%とした合金を得て、前記合金に第1熱処理を行ってA1(fcc)相の単相とする工程と、
前記単相とした前記合金に初析L12相を析出させることで、初析L12相とA1(fcc)相との共存相とした後、A1(fcc)相を(L12+D022)共析組織に変化させるように第2熱処理を行うことで、前記2重複相組織を有するNi基金属間化合物合金を得る工程と、
を有することを特徴とするNi基金属間化合物合金の製造方法。
【請求項8】
請求項7記載のNi基金属間化合物合金の製造方法において、
前記2重複相組織を形成する組成域として、Ni:74〜77at%、Al:7〜10at%、V:11〜14at%とした前記基本構成元素のうちの何れか一つの元素の含有量を、2at%以下のSiの添加量分減じることで、前記組成をNi:72〜77at%、Al:5〜10at%、V:9〜14at%、Si:2at%以下と、Nb:1〜4at%との合計100at%とし、
前記組成の合計重量に対して10〜1000重量ppmの範囲内となるようにBをさらに加えて前記合金を得ることを特徴とするNi基金属間化合物合金の製造方法。
【請求項9】
請求項7又は8記載のNi基金属間化合物合金の製造方法において、
前記2重複相組織を形成する組成域として、Ni:75at%、Al:9at%、V:13at%とした前記基本構成元素のうちの何れか一つの元素の含有量を、2at%以下のSiの添加量分減じることで、前記組成をNi:73〜75at%、Al:7〜9at%、V:11〜13at%、Si:2at%以下と、Nb:3at%との合計100at%とし、
前記組成の合計重量に対して10〜1000重量ppmの範囲内となるようにBをさらに加えて前記合金を得ることを特徴とするNi基金属間化合物合金の製造方法。
【請求項10】
請求項8又は9記載のNi基金属間化合物合金の製造方法において、
前記基本構成元素のうちの何れか一つの元素の含有量を、1at%以下のSiの添加量分減じることで、1at%以下のSiを含む前記組成の合計が100at%となるように前記合金を得ることを特徴とするNi基金属間化合物合金の製造方法。
【請求項11】
請求項7〜10の何れか1項に記載のNi基金属間化合物合金の製造方法において、
前記基本構成元素のうち、Alの含有量をSiの添加量分減じて、前記組成の合計が100%となるように前記合金を得ることを特徴とするNi基金属間化合物合金の製造方法。
【請求項12】
請求項7〜10の何れか1項に記載のNi基金属間化合物合金の製造方法において、
前記基本構成元素のうち、V又はNiの何れか一方の含有量をSiの添加量分減じて、前記組成の合計が100at%となるように前記合金を得ることを特徴とするNi基金属間化合物合金の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2重複相組織を有し、Siが添加されたNi基金属間化合物合金及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、航空機の動力源に用いられるタービン等は、800℃を超える高温環境でも十分な強度や硬さ(耐摩耗性)を有し、且つ軽量で耐酸化性に優れた高温構造材料から形成される必要がある。このような要望に応え得る高温構造材料として、Ni3Al(L12)相とNi3V(D022)相とを有する2重複相組織からなるNi基金属間化合物合金の開発が進められている。具体的には、2重複相組織は、初析L12相と(L12+D022)共析組織とから構成される。
【0003】
このような2重複相組織は最密充填構造の金属間化合物相から構成されるため、該2重複相組織を有するNi基金属間化合物合金は、単相の金属間化合物材料に比して著しく優れた延性や靱性を備え、且つ高温環境下でも良好な強度や硬さを示す。また、Ni基金属間化合物合金は、Niを主構成元素とし、そこにNiよりも軽量な(原子量が小さい)AlやVが含まれるために、その密度が約8.1g/cm3であり、他のNi合金等に比しても軽量である。なお、以降の説明では、Ni、Al、VをNi基金属間化合物合金の基本構成元素ともいう。
【0004】
このようなNi基金属間化合物合金では、その実用化に向けてさらなる特性の向上が望まれている。そこで、例えば、特許文献1、2には、特に硬さを良好に向上させるべく、TaやRe等の元素を添加したNi基金属間化合物合金が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】再公表WO2012/039189号
【特許文献2】特開2009−215649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のように、基本構成元素であるNi、Al、Vに比して、原子量が大きいTaやRe等を添加したNi基金属間化合物合金では、その密度が増大してしまい、軽量化を図ることが困難になる懸念がある。また、Ni基金属間化合物合金の耐酸化性についても、改善が望まれている。
【0007】
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、軽量性及び耐酸化性に優れながら、高温環境下においても十分な強度や延性を示すNi基金属間化合物合金及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するために、本発明は、Ni基金属間化合物合金であって、初析L12相と(L12+D022)共析組織とからなる2重複相組織を有し、且つ前記2重複相組織を形成する組成域のNi、Al、Vを基本構成元素として含み、前記基本構成元素のうちの何れか一つの元素の含有量が減じられて、Siが添加されることで、前記基本構成元素とSiとを含む組成の合計が100at%となることを特徴とする。
本明細書において「at%」は原子パーセントを示している。
【0009】
本発明に係るNi基金属間化合物合金では、初析L12相と(L12+D022)共析組織とからなる2重複相組織を有している。ここで、L12相はNi3Alであり、D022相はNi3Vである。
【0010】
すなわち、このNi基金属間化合物合金は、基本構成元素であるNi、Al、Vを、上記の2重複相組織を形成することが可能な組成域となるように含んでいる。このような組成域としては、例えば、Al:5〜13at%、V:10〜18at%、Ni:60at%以上(残部)であることが挙げられる。
【0011】
また、このNi基金属間化合物合金では、基本構成元素とSiとを含む組成の合計が100at%となるように、該基本構成元素のうちの何れか一つの元素の含有量が減じられてSiが添加されている。すなわち、この組成では、Al、V、Niのうちの何れか一つの元素がSiに置き換えられている。なお、Ni基金属間化合物合金の強度や延性等の特性を一層良好に向上させるべく、上記の基本構成元素及びSiに、さらに0〜5at%のNbを含んだ組成が100at%となってもよい。
【0012】
ここで、Siの原子量は28.084であり、Taの原子量(180.948)や、Reの原子量(186.207)に比して著しく小さい。従って、上記のようにしてSiが添加されたNi基金属間化合物合金では、例えば、TaやRe等が添加された場合のように、密度が増大してしまうことを回避できる。
【0013】
また、このSiが添加されたNi基金属間化合物合金では、高温環境下での強度を損なうことなく、耐酸化性を効果的に向上させることが可能である。すなわち、本願発明に係るNi基金属間化合物合金は、優れた軽量性及び耐酸化性を備えながら、高温環境下でも十分な強度を示すことができる。
【0014】
上記のNi基金属間化合物合金において、前記2重複相組織を形成する組成域として、Ni:74〜77at%、Al:7〜10at%、V:11〜14at%、である前記基本構成元素のうちの何れか一つの元素の含有量が、2at%以下のSiの添加量分減じられることで、Ni:72〜77at%、Al:5〜10at%、V:9〜14at%、Si:2at%以下と、Nb:1〜4at%とからなる前記組成の合計が100at%となり、前記組成の合計重量に対して10〜1000重量ppmの範囲内でBをさらに含むことが好ましい。
【0015】
この組成とすることで、2重複相組織を良好に形成することができる。また、固溶強化により強度を向上させる効果を有するNbと、粒界割れを抑制することにより延性を向上させる効果を有するBとをさらに含むことで、Ni基金属間化合物合金の特性を一層良好に向上させることができる。また、Siの添加量を2at%以下とすることで、強度や硬さ特性を大きく損なうことなく密度や耐酸化性を向上させることができる。
【0016】
上記のNi基金属間化合物合金において、前記2重複相組織を形成する組成域として、Ni:75at%、Al:9at%、V:13at%である前記基本構成元素のうちの何れか一つの元素の含有量が、2at%以下のSiの添加量分減じられることで、Ni:73〜75at%、Al:7〜9at%、V:11〜13at%、Si:2at%以下と、Nb:3at%とからなる前記組成の合計が100at%となり、前記組成の合計重量に対して10〜1000重量ppmの範囲内でBをさらに含むことが好ましい。
【0017】
すなわち、Nbの添加量を3at%として、上記の組成の合計が100at%となるように調整することで、良好な2重複相組織を形成することが容易になり、Ni基金属間化合物合金の特性を一層向上させることが可能になる。
【0018】
上記のNi基金属間化合物合金において、前記基本構成元素のうちの何れか一つの元素の含有量が、1at%以下のSiの添加量分減じられることで、1at%以下のSiを含む前記組成の合計が100at%となることが好ましい。このように、Siの添加量を1at%以下とすることで、Ni基金属間化合物合金中に、L12相やD022相とは異なる相であって、強度等の特性を向上させる上で好ましくない第3の相が出現することを効果的に抑制できる。すなわち、2重複相組織の均一性を効果的に高めることができる。その結果、軽量性及び耐酸化性の向上を図りつつ、高温環境下でも十分な強度等を示すNi基金属間化合物合金を一層容易に得ることが可能になる。
【0019】
上記のNi基金属間化合物合金において、前記基本構成元素のうち、Alの含有量がSiの添加量分減じられることで、前記組成の合計が100at%となり、前記初析L12相の平均粒径が1μm以下であるようにしてもよい。すなわち、AlがSiに置き換えられた組成からなるNi基金属間化合物合金では、平均粒径が1μm以下となるように初析L12相を効果的に微細化することができる。なお、平均粒径は例えば、切片法により求めることができる。
【0020】
ここで、初析L12相は略立方体形状であり、該初析L12相同士の間隙であるチャンネル部に、(L12+D022)共析組織が形成されている。なお、以降の説明では、初析L12相とチャンネル部とを上部複相組織ともいい、(L12+D022)共析組織を下部複相組織ともいう。
【0021】
従って、上記のように初析L12相を微細化できることによって、該初析L12相とチャンネル部との界面を増大させて、転位の移動を阻害する界面強化の効果を増大させることができる。
【0022】
また、Siの原子半径は0.117nmであり、Alの原子半径は0.143nmであるため、互いの原子半径差が比較的大きい。これによって、Ni基金属間化合物合金に結晶格子歪みを発生させて転位の移動を阻害すること、すなわち固溶強化を生じさせることも可能になる。
【0023】
ここで、Alは、例えば、表面にアルミナの酸化皮膜を形成可能であるため、耐酸化性を向上させるのに有効であるとされている。しかしながら、Siが添加された本願発明に係るNi基金属間化合物合金では、このAlの含有量を増大するよりも、一層優れた高温環境下での耐酸化性を得ることが可能になる。
【0024】
従って、AlをSiに置き換えた組成のNi基金属間化合物合金では、上記の強化機構に加えて、高温環境下での耐酸化性に優れることで、耐熱強度を効果的に向上させることができる。
【0025】
また、上記の通り、Siの原子量は28.084であるため、例えば、Ta(原子量180.948)や、Re(原子量186.207)に比して、Alの原子量26.98に近い。このため、AlをSiに置き換えた組成のNi基金属間化合物合金では、例えば、TaやRe等が添加されたNi基金属間化合物合金に比して軽量性に優れる。
【0026】
以上から、軽量性及び耐酸化性の向上を図りつつ、高温環境下でも優れた強度等を示すことができる。
【0027】
上記のNi基金属間化合物合金において、前記基本構成元素のうち、V又はNiの何れか一方の含有量がSiの添加量分減じられることで、前記組成の合計が100at%となるようにしてもよい。上記の通りSiの原子量は28.084であり、Re及びTaの原子量よりも著しく小さく、さらにVの原子量(50.942)及びNiの原子量(58.693)よりも小さい。このため、V又はNiの何れか一方がSiに置き換えられたNi基金属間化合物合金では、Siを添加する前よりも密度を小さくすることができ、顕著に軽量化を図ることが可能である。
【0028】
また、上記の基本構成元素のうち、Vは合金表面に形成されるV酸化膜の密着性に劣り、また、蒸発し易いため耐酸化性を損なわせる元素である。このため、VをSiと置き換えた組成のNi基金属間化合物合金では、Siの添加量分、Vの含有量を低減させることができるため、合金材の表面が酸化することを効果的に抑制できる。すなわち、耐酸化性を一層効果的に向上させることができる。
【0029】
上記したNi基金属間化合物合金を得るためのNi基金属間化合物合金の製造方法もこの発明に含まれる。
【0030】
すなわち、本発明は、Ni基金属間化合物合金の製造方法であって、初析L12相と(L12+D022)共析組織とからなる2重複相組織を形成する組成域にあるNi、Al、Vからなる基本構成元素のうち、何れか一つの元素の含有量を減じてSiを添加することで、前記基本構成元素とSiとを含む組成の合計を100at%とした合金を得て、前記合金に第1熱処理を行ってA1(fcc)相の単相とする工程と、前記単相とした前記合金に初析L12相を析出させることで、初析L12相とA1(fcc)相との共存相とした後、A1(fcc)相を(L12+D022)共析組織に変化させるように第2熱処理を行うことで、前記2重複相組織を有するNi基金属間化合物合金を得る工程と、を有することを特徴とする。
【0031】
本発明に係るNi基金属間化合物合金の製造方法では、先ず、2重複相組織を形成することが可能な組成域とした基本構成元素Ni、Al、Vのうち、何れか一つの元素をSiに置き換えた組成の合金を得る。そして、この合金を、第1熱処理によって、A1(fcc)相(Ni固溶体相)の単相とする。次に、第2熱処理によって、A1(fcc)相から初析L12相を析出させて、上部複相組織を形成し、さらに、該初析L12相の間隙(チャンネル部)に残ったA1(fcc)相をD022相とL12相に共析変態させて下部複相組織を形成する。
【0032】
すなわち、第2熱処理では、初析L12相とA1(fcc)相とが共存する領域、及び初析L12相とA1(fcc)相とD022相とが共存する領域の両方又は何れか一方を経てから、共析温度以下に達するように合金を冷却する。これによって、上部複相組織と下部複相組織とからなる2重複相組織を有するNi基金属間化合物合金を形成することができる。
【0033】
上記のようにして得られた、2重複相組織を有するNi基金属間化合物合金は、軽量性及び耐酸化性に優れ、且つ高温環境下でも十分な強度等を示すことができる。
【0034】
上記のNi基金属間化合物合金の製造方法において、前記2重複相組織を形成する組成域として、Ni:74〜77at%、Al:7〜10at%、V:11〜14at%とした前記基本構成元素のうちの何れか一つの元素の含有量を、2at%以下のSiの添加量分減じることで、前記組成をNi:72〜77at%、Al:5〜10at%、V:9〜14at%、Si:2at%以下と、Nb:1〜4at%との合計100at%とし、前記組成の合計重量に対して10〜1000重量ppmの範囲内となるようにBをさらに加えて前記合金を得ることが好ましい。
【0035】
このように合金を調整することで、良好な2重複相組織が形成されたNi基金属間化合物合金を得ることができる。また、NbとBをさらに含むことで、Ni基金属間化合物合金の強度や延性等の特性を向上させることができる。また、Siの添加量を2at%以下とすることで、強度や硬さ特性を大きく損なうことなく密度や耐酸化性を向上させることができる。
【0036】
上記のNi基金属間化合物合金の製造方法において、前記2重複相組織を形成する組成域として、Ni:75at%、Al:9at%、V:13at%とした前記基本構成元素のうちの何れか一つの元素の含有量を、2at%以下のSiの添加量分減じることで、前記組成をNi:73〜75at%、Al:7〜9at%、V:11〜13at%、Si:2at%以下と、Nb:3at%との合計100at%とし、前記組成の合計重量に対して10〜1000重量ppmの範囲内となるようにBをさらに加えて前記合金を得ることを特徴とすることが好ましい。
【0037】
すなわち、Nbの添加量を3at%として、上記の組成の合計が100at%となるように調整することで、良好な2重複相組織を形成することが容易になり、Ni基金属間化合物合金の特性を一層向上させることが可能になる。
【0038】
上記のNi基金属間化合物合金の製造方法において、前記基本構成元素のうちの何れか一つの元素の含有量を、1at%以下のSiの添加量分減じることで、1at%以下のSiを含む前記組成の合計が100at%となるように前記合金を得ることが好ましい。このように、Siの添加量を1at%以下とすることで、Ni基金属間化合物合金中に、第3の相が出現することを効果的に抑制できるため、2重複相組織の均一性を効果的に高めることができる。その結果、軽量性及び耐酸化性の向上を図りつつ、高温環境下でも十分な強度等を示すNi基金属間化合物合金を良好に得ることができる。
【0039】
上記のNi基金属間化合物合金の製造方法において、前記基本構成元素のうち、Alの含有量をSiの添加量分減じて、前記組成の合計が100%となるように前記合金を得てもよい。この場合、平均粒径が1μm以下となるように初析L12相が効果的に微細化されたNi基金属間化合物合金を得ることができる。すなわち、このように初析L12相を微細化できることによって、界面強化の効果を増大させることができる。また、互いの原子半径差が比較的大きいAlとSiとを置き換えることによって、固溶強化を生じさせることができる。従って、軽量性及び耐酸化性の向上が効果的に図られるとともに、高温環境下での強度等を良好に向上させたNi基金属間化合物合金を得ることが可能になる。
【0040】
上記のNi基金属間化合物合金の製造方法において、前記基本構成元素のうち、V又はNiの何れか一方の含有量をSiの添加量分減じて、前記組成の合計が100at%となるように前記合金を得てもよい。すなわち、V及びNiを、これらよりも原子量が小さいSiに置き換えるため、密度を効果的に小さくして、顕著に軽量化が図られたNi基金属間化合物合金を得ることができる。
【0041】
また、上記の通り、基本構成元素の中で、最も耐酸化性を低下させ易いVをSiと置き換えた場合、Siの添加量分、Vの含有量を低減させることができるため、合金表面の酸化を抑制できる。すなわち、耐酸化性を一層向上させたNi基金属間化合物合金を得ることができる。
【発明の効果】
【0042】
本発明では、初析L12相と(L12+D022)共析組織とからなる2重複相組織を形成する組成域のNi、Al、Vのうち、何れか一つの元素をSiに置き換えた組成とすることで、軽量性及び耐酸化性に優れ、且つ高温環境下においても十分な強度等を示すNi基金属間化合物合金を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1図1Aは試料a1のSEM観察結果であり、図1Bは試料b1のSEM観察結果であり、図1Cは試料c1のSEM観察結果である。
図2図2は、図1Aに比して高倍率で行った試料a1のSEM観察結果である。
図3】本発明の実施形態に係るNi基金属間化合物合金の基本となる組成系合金の一具体例について、Nb含有量3at%における温度とAl含有量に関する縦断面状態図である。
図4図4Aは試料a2のSEM観察結果であり、図4Bは試料b2のSEM観察結果であり、図4Cは試料c2のSEM観察結果である。
図5】比較試料のSEM観察結果である。
図6図6Aは試料a3のSEM−EPMA観察結果であり、図6BはNi成分、図6CはAl成分、図6DはV成分、図6EはNb成分、図6FはSi成分をそれぞれ分析した結果をマッピングした図である。
図7】試料a1〜a3及び比較試料のX線回折結果である。
図8】試料a1〜a3、b1、b2、c1、c2及び比較試料のそれぞれの密度を示すグラフである。
図9】試料a1、b1、c1及び比較試料のそれぞれについての900℃での大気暴露時間と質量増加量との関係を示すグラフである。
図10】試料a2、b2、c2及び比較試料のそれぞれについての900℃での大気暴露時間と質量増加量との関係を示すグラフである。
図11】試料a1〜a3、b1、b2、c1、c2及び比較試料のそれぞれについて、900℃で48時間の大気暴露を行った後の質量増加量を示すグラフである。
図12】試料a1〜a3、b1、b2、c1、c2及び比較試料のそれぞれの800℃での引張強度測定の結果を示すグラフである。
図13】試料a1〜a3、b1、b2、c1、c2及び比較試料のそれぞれの800℃での破断伸び測定の結果を示すグラフである。
図14】試料a1〜a3、b1、b2、c1、c2及び比較試料のそれぞれの室温でのビッカース硬さ試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明に係るNi基金属間化合物合金及びその製造方法につき好適な実施形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0045】
本実施形態に係るNi基金属間化合物合金について、図1A及び図2に示すNi基金属間化合物合金は10を例に挙げて説明する。なお、図1Aは、後述するようにAlを減じて1at%のSiを添加することで得たNi基金属間化合物合金10(試料a1)のSEM観察結果である。図2は、図1Aよりも高倍率で行った試料a1のSEM観察結果である。
【0046】
Ni基金属間化合物合金10は、初析L12相12と(L12+D022)共析組織14とからなる2重複相組織16を有している。L12相はNi3Alであり、D022相はNi3Vである。このように、Ni基金属間化合物合金10は、2重複相組織16として、何れも最密充填構造の金属間化合物である複相を有することで、単相の金属間化合物材料にはない優れた延性や靱性を備え、且つ高温環境下でも良好な強度や硬さを示すことができる。
【0047】
また、初析L12相12は略立方体形状であり、該初析L12相12同士の間隙であるチャンネル部に、(L12+D022)共析組織14が形成されている。すなわち、2重複相組織16は、初析L12相12とチャンネル部とからなる上部複相組織と、(L12+D022)共析組織14からなる下部複相組織とを備えて構成されているともいえる。
【0048】
このNi基金属間化合物合金10は、Ni、Al、Vを基本的な構成元素(基本構成元素)として含み、このうちのAlが減じられてSiが添加されている。すなわち、AlがSiに置き換えられた組成を有している。また、本実施形態に係るNi基金属間化合物合金10は、固溶強化により強度を向上させる効果を有するNbと、粒界割れを抑制することにより延性を向上させる効果を有するBとをさらに含んでいる。しかしながら、基本構成元素及びSiを除く成分は必須の構成ではなく、必要に応じて添加されればよい。また、Nb及びB以外の添加元素や、不純物元素が含まれていてもよい。
【0049】
具体的には、本実施形態に係るNi基金属間化合物合金10では、2重複相組織16を出現させることが可能な組成域としてNi:75at%、Al:9at%、V:13at%を採用し、この基本構成元素のうちのAlを減じて1at%のSiを添加している。また、3at%のNbをさらに含むことで、Ni:75at%、Al:8at%、V:13at%、Si:1at%、Nb:3at%の組成の合計が100at%となっている。Bの含有量は、この組成の合計重量に対して50重量ppmである。
【0050】
上記の組成とすることで、後述するように、均一性に優れる2重複相組織16を得ることが可能になる。しかしながら、2重複相組織16を出現させることが可能な組成域は、特に、上記の範囲に限定されるものではなく、例えば、Al:5〜13at%、V:10〜18at%、Ni:60at%以上(残部)であること等が挙げられる。また、後述するように、Siについても、特に上記の含有量に限定されるものではない。
【0051】
さらに、Nb、Bの含有量も上記の範囲に限定されるものではなく、Ni基金属間化合物合金10の強度や延性等を効果的に向上させることが可能な範囲であればよい。従って、例えば、Nbの含有量は、上記の組成の合計が100となるように、0〜5at%の範囲内、一層好適には、1〜4at%の範囲内で調整されればよい。また、Bの含有量は、上記の組成の合計重量に対して10〜1000重量ppmの範囲内、一層好適には、30〜300重量ppmの範囲内で調整されればよい。
【0052】
上記のように構成されるNi基金属間化合物合金10の製造方法について、図3を参照しつつ説明する。このNi基金属間化合物合金10の製造方法としては、例えば、溶解法や粉末冶金法等を採用することができる。なお、図3は、Ni基金属間化合物合金10の基本となる組成系合金の一具体例について、Nb含有量3at%における温度とAl含有量に関する縦断面状態図であり、横軸がAl含有量(%)を示し、縦軸が温度(K)を示す。
【0053】
先ず、上記の組成に調整した合金に第1熱処理を行って、A1(fcc)相の単相とする。なお、A1(fcc)相は、規則構造を有しない(不規則構造の)fcc構造のNi固溶体相である。
【0054】
次に、第2熱処理を行って、A1(fcc)相から初析L12相12を析出させ、さらに、初析L12相12の間隙(チャンネル部)に残ったA1(fcc)相をD022相とL12相に共析変態させる。これによって、初析L12相12及びチャンネル部からなる上部複相組織と、(L12+D022)共析組織14からなる下部複相組織とを形成する。
【0055】
すなわち、第2熱処理では、初析L12相12とA1(fcc)相とが共存する領域、及び初析L12相12とA1(fcc)相とD022相とが共存する領域の両方又は何れか一方を経てから、共析温度以下に達するように合金を冷却する。これによって、上部複相組織と下部複相組織とからなる2重複相組織16を有するNi基金属間化合物合金10を得ることができる。
【0056】
なお、図3からも、例えば、Alの含有量が5at%〜13at%の範囲内(V:10〜18at%、残部のNi60at%以上)であれば、上記の第1熱処理及び第2熱処理を行うことで、比較的に容易に2重複相組織16を形成できることが分かる。
【0057】
具体的に、Ni基金属間化合物合金10の製造方法として、例えば、小型アーク炉等を用いる場合では、合金を溶解して溶湯にした後の冷却速度(凝固速度)が比較的大きい。このため、第1熱処理として、凝固後の合金を加熱することで、A1(fcc)相の単相を得ることができる。この第1熱処理では、上記の通り単相領域を得る溶体化処理を目的とするとともに、合金を均質化する均質化熱処理を目的とすることができる。従って、これらの目的を達成するために適した範囲となるように、第1熱処理では、加熱温度や該加熱温度での保持時間が設定されればよい。
【0058】
また、上記のようにして第1熱処理を行った後の合金を、所定の速度で共析温度まで連続的に炉冷を行う工程を第2熱処理とすることができる。すなわち、第2熱処理によって、合金に初析L12相12を析出させる工程と、該初析L12相12と共存するA1(fcc)相を(L12+D022)共析組織14に変化させる工程とを連続的に行って、2重複相組織16を形成することができる。
【0059】
なお、図1A及び図2は、第1熱処理として、真空中において、合金を1280℃の加熱温度で5時間保持した後、第2熱処理として、10℃/分の降温速度で連続的に炉冷を行って得たNi基金属間化合物合金10のSEM観察結果である。
【0060】
また、この第2熱処理では、連続的に炉冷を行うことに代えて、合金の炉冷を2段階で行ってもよい。すなわち、第2熱処理として、先ず、合金を共析温度よりも高い温度で保持して上部複相組織を形成し、その後、合金を共析温度よりも低い温度で保持して下部複相組織を形成するようにしてもよい。
【0061】
また、Ni基金属間化合物合金10の製造方法として、例えば、真空誘導溶解法等を用いることもできる。この場合、冷却速度が比較的小さいため、溶湯の冷却過程において、該溶湯を凝固させて固相とする工程を第1熱処理として、A1(fcc)相の単相を得ることができる。
【0062】
その後の合金を連続的に冷却して共析温度以下とする過程を第2熱処理として、上部複相組織及び下部複相組織のそれぞれを形成することができる。その結果、2重複相組織16を有するNi基金属間化合物合金10を得ることができる。
【0063】
なお、この第2熱処理においても、合金の冷却を2段階で行ってもよい。すなわち、第2熱処理として、先ず、合金を共析温度よりも高い温度で保持して上部複相組織を形成し、その後、合金を共析温度よりも低い温度で保持して下部複相組織を形成するようにしてもよい。
【0064】
また、基本構成元素のうち、V又はNiを減じてSiを添加したNi基金属間化合物合金の何れも、上記のNi基金属間化合物合金10と同様に得ることができ、下部複相組織及び上部複相組織からなる2重複相組織16を有する。図1Bには、Vを減じて1at%のSiを添加することで得たNi基金属間化合物合金18(試料b1)のSEM観察結果を示す。また、図1Cには、Niを減じて1at%のSiを添加することで得たNi基金属間化合物合金20(試料c1)のSEM観察結果を示す。
【0065】
さらに、Siの添加量を1at%以下又は1at%以上となるように変更したNi基金属間化合物合金であっても、基本的には上記のNi基金属間化合物合金10と同様にして製造することができる。一例として、図4Aには、Alを減じて2at%のSiを添加することで得たNi基金属間化合物合金22(試料a2)のSEM観察結果を示す。図4Bには、Vを減じて2at%のSiを添加することで得たNi基金属間化合物合金24(試料b2)のSEM観察結果を示す。また、図4Cには、Niを減じて2at%のSiを添加することで得たNi基金属間化合物合金26(試料c2)のSEM観察結果を示す。
【0066】
なお、Siを添加せずに得た比較用のNi基金属間化合物合金28(比較試料)のSEM観察結果を併せて図5に示す。
【0067】
また、図6Aには、Alを減じて4at%のSiを添加することで得たNi基金属間化合物合金30(試料a3)のSEM−EPMA観察結果を示す。なお、Ni基金属間化合物合金18、20、22、24、26、28、30は何れも、Ni基金属間化合物合金10と同様の条件で製造されたものである。すなわち、アーク溶解炉を用いて溶解した合金に対して、第1熱処理として、真空中において1280℃で5時間加熱保持を行った後、第2熱処理として、10℃/分の降温速度で連続的に炉冷を行った。
【0068】
上記の試料a1〜a3、b1、b2、c1、c2及び比較試料のそれぞれの基本構成元素、Si、Nbの組成と、該組成の合計重量に対するBの重量ppm(wt.ppm)は表1に示す通りである。
【0069】
【表1】
【0070】
先ず、図1A図1Cから、Siの添加量を1at%とした、試料a1、b1、c1では、全体的に微細な初析L12相12(上部複相組織)を含む2重複相組織16が形成されていることが分かる。このため、試料a1、b1、c1は何れも、単相の金属間化合物材料に比して著しく優れた延性や靱性を備え、且つ高温環境下でも良好な強度や硬さを示すことができる。また、特に、Alを1at%のSiに置き換えた試料a1では、他の試料b1、c1や比較試料に比して、初析L12相12(上部複相組織)が一層微細化され、平均粒径が1μm以下となっている。なお、平均粒径は例えば、切片法により求めることができる。
【0071】
このように初析L12相12を微細化できることによって、該初析L12相12とチャンネル部との界面を増大させて、転位の移動を阻害する界面強化の効果を増大させることができる。
【0072】
次に、図4A図4C及び図6Aから、Siの添加量を1at%より大きくした試料a2、b2、c2、a3においても、2重複相組織16が形成されていることが分かる。このため、強度や硬さ特性を大きく損なうことなく密度や耐酸化性を向上させることができる。
【0073】
さらに、試料a2、a3、b2、c2の2重複相組織16のマトリックス中には、L12相やD022相とは異なる、第3の相が出現していることが確認された。なお、図4Aから、試料a2では、上記の第3の相を除く、2重複相組織16の初析L12相12について、効果的に微細化されていることが分かった。
【0074】
この第3の相の組成を特定するべく、試料a3について、電界放出型電子線マイクロアナライザ(FE−EPMA)を使用して組成分析を行った。具体的には、図6AのSEM観察像について、FE−EPMAによる組成マッピングを行い、Ni、Al、V、Nb、Siについての濃度分布をそれぞれ調べた。その結果を、図6B図6Fに示す。なお、図6B図6Fでは、各成分の濃度が高い部分が白色(淡色)で観察され、濃度が低い部分が黒色(濃色)で観察されている。
【0075】
また、図6Aにおいて、点Aで示される2重複相組織16と、点Bで示される第3の相に対して定量分析を行った結果を表2に示す。なお、表2には、試料a3の作製時に調整した組成である公称組成についても併せて示している。
【0076】
【表2】
【0077】
図6B図6Fから、第3の相では、NbとSiの濃度が高くなっていることが分かる。また、表2から、点Aにおける2重複相組織16での各元素の含有量は、公称組成と略同じ値であるが、NbとSiの含有量が若干減少していることが分かる。一方、点Bにおける第3の相はNi、Nb、Siを主成分としている。また、第3の相は、表2に示す組成がNi59.3Si23.4(Nb14.62.2)であり、且つNbとVとが全率固溶であることから、Ni16Si7(Nb、V)6に近い組成を有しているといえる。
【0078】
さらに、試料a1〜a3及び比較試料に対してX線回折を行った結果を図7に示す。図7から、試料a3を除いては、第3の相の存在が検出されなかった。なお、試料a2については、図4Aに示すSEM観察結果では、第3の相の出現が確認されたが、図7に示すX線回折結果では、第3の相の存在が検出されなかった。すなわち、試料a2では、全体に対する第3の相の体積の割合がかなり小さいといえる。
【0079】
一方、試料a3では、L12(Ni3Al)相及びD022(Ni3V)相以外の回折ピークが出現している。従って、これらのX線回折結果や、上記のFE−EPMAによる組成分析結果等から、第3の相は、G相やA2相であると同定することができる。G相は、D8a相構造を有するNi16Si7Nb6である。また、A2相は、Nb、Vに少量のNiが固溶した体心立方構造からなる固溶体相であり、結晶粒界三重点に優先的に存在していた。
【0080】
ここで、試料a1〜a3、b1、b2、c1、c2のそれぞれについて、組織を同定した結果を表3に示す。
【0081】
【表3】
【0082】
このような硬質相である第3の相(特に、G相)が生じたNi基金属間化合物合金では、該第3の相を起点として亀裂等が生じ易くなる懸念がある。つまり、第3の相(特に、G相)の出現は、強度等の特性を向上させる上で好ましくない。従って、第3の相の出現を抑制するためには、図7に示すX線回折結果から、Siの添加量を4at%未満とすることが好ましいといえる。また、図1A図1C及び図4A図4Cに示すSEM観察結果からは、Siの添加量を2at%以下とすることが一層好ましく、表3からは、Siの添加量を1at%以下とすることがさらに好ましいといえる。この場合、均一性を高めた2重複相組織16を得ることが可能となり、Ni基金属間化合物合金の強度等の特性を一層効果的に向上させることが可能になる。
【0083】
図8に、試料a1〜a3、b1、b2、c1、c2及び比較試料のそれぞれについて、アルキメデス法を用いて密度測定を行った結果を示す。なお、図8及び後述する図11図14では、試料a1〜a3を△で示し、試料b1、b2を□で示し、試料c1、c2を○で示し、比較試料を■で示している。また、図8には、一般的に用いられているNi超合金であるRene80(登録商標)の密度(8.16g/cm3)を併せて示している。
【0084】
ここで、Siの原子量は28.084であり、Taの原子量(180.948)や、Reの原子量(186.207)に比して著しく小さい。このため、基本構成元素の何れか一つの元素がSiに置き換えられた組成を有する試料a1〜a3、b1、b2、c1、c2では、例えば、TaやRe等が添加されたNi基金属間化合物合金のように、密度が増大してしまうことを回避できる。すなわち、効果的に軽量化を図ることができ、Rene80よりも軽量とすることができる。
【0085】
図8から、VがSiに置き換えられた試料b1、b2、及びNiがSiに置き換えられたc1、c2は、Siを添加する前の比較試料よりも密度を小さくできることが分かった。また、試料c1、c2では、試料b1、b2よりもさらに密度を小さくできることが分かった。これは、Siの原子量がVの原子量(50.942)及びNiの原子量(58.693)よりも小さく、且つNiとSiとの原子量の差が最も大きいためである。従って、V及びNiの何れか一方をSiと置き換えた組成とすることでNi基金属間化合物合金の軽量化を効果的に図ることができる。さらに、NiをSiと置き換えた組成とすることで、Ni基金属間化合物合金の軽量化を一層顕著に図ることが可能になる。
【0086】
図9に、試料a1、b1、c1及び比較試料のそれぞれについて、TG−DTAにより耐酸化試験を行った結果を示し、図10に、試料a2、b2、c2及び比較試料のそれぞれについて、同様に耐酸化試験を行った結果を示す。具体的には、耐酸化試験は、試料a1、a2、b1、b2、c1、c2及び比較試料について、900℃で大気に暴露したときの単位面積あたりの質量増加量をそれぞれ測定して行った。
【0087】
すなわち、ここでの質量増加は、試料a1、a2、b1、b2、c1、c2及び比較試料の酸化に伴う質量増加であり、図9は、大気暴露時間と質量増加量との関係を示すグラフである。なお、図9及び図10では、試料a1、a2を実線で示し、試料b1、b2を破線で示し、試料c1、c2を一点鎖線で示し、比較試料を二点鎖線で示している。
【0088】
さらに、図11に、上記の耐酸化試験において、大気暴露時間を48時間としたときの質量増加量を試料a1〜a3、b1、b2、c1、c2及び比較試料のそれぞれについて示す。
【0089】
図9図11から、試料a1〜a3、b1、b2、c1、c2の何れも、比較試料よりも質量増加量が少ないことが分かった。すなわち、上記のようにして、基本構成元素のうちの何れか一つの元素をSiで置き換えることで、Siを添加していない比較試料よりも酸化を抑制することができ、耐酸化性を効果的に向上させることができる。
【0090】
また、図9図11から、VをSiに置き換えた試料b1、b2では、特に顕著に耐酸化性を向上させることができることが分かった。基本構成元素のうち、Vは、合金表面に形成されるV酸化膜の密着性に劣り、また、蒸発し易いため耐酸化性を損なわせる元素である。このようなVをSiと置き換えた試料b1、b2では、該Vの含有量を低減させることができる分、上記の通り良好な耐酸化性得られたと考えられる。従って、VをSiと置き換えた組成とすることでNi基金属間化合物合金の表面に耐酸化性に優れた酸化膜を効果的に形成でき、耐酸化性を一層効果的に向上させることができる。
【0091】
さらに、図9図11からは、Ni基金属間化合物合金の表面にアルミナの酸化皮膜を形成することで、耐酸化性を向上させることが可能とされているAlをSiに置き換えた試料a1〜a3についても、比較試料よりも質量増加量が少ないことが分かった。すなわち、Siを添加することで、例えば、Alの含有量を増大するよりも優れた耐酸化性を得ることができる。
【0092】
試料a1〜a3、b1、b2、c1、c2及び比較試料のそれぞれに対して、800℃での引張試験を行った結果のうち、引張強度について図12に示し、伸びについて図13に示す。
【0093】
図14に、試料a1〜a3、b1、b2、c1、c2及び比較試料のそれぞれについて、室温でのビッカース硬さ測定を行った結果を示す。具体的には、試料a1〜a3、b1、b2、c1、c2及び比較試料のそれぞれに対して、10箇所で試験を行い、これから最大値及び最小値を除いた8点の測定値の平均値を算出し硬さとした。マイクロビッカース硬さ計の測定条件は、荷重1kg、保持時間10秒とした。
【0094】
図12図14から、試料a1〜a3、b1、b2、c1、c2の何れにおいても、引張強度、伸び、ビッカース硬さが過度に低下することがなく、十分な値を維持できることが分かった。従って、本実施形態に係るNi基金属間化合物合金では、上記の通り、軽量性及び耐酸化性を効果的に向上させつつ、高温環境下で十分な強度や延性等を示すことができる。
【0095】
また、図12図14から、Alを1at%のSiで置き換えた試料a1では、引張強度、伸び、ビッカース硬さの全てが、比較試料よりも向上していることが分かった。これは、試料a1では、図1Aに示す通り、初析L12相12を効果的に微細化できることによる界面強化と、互いの原子半径差が比較的大きいAlとSiとを置き換えることによる固溶強化とが生じることによると考えられる。
【0096】
以上から、Ni基金属間化合物合金では、密度、耐酸化性、硬さ等の特性が、その用途等に応じた所望の値となるように、Ni、Al、Vから選択した何れかの元素を減じてSiが添加されればよい。この際のSiの添加量としては、第3相の出現を抑制する観点からは、4at%未満とすることが好ましい。また、強度や硬さ特性を大きく損なうことなく密度や耐酸化性を向上させる観点からは、2at%以下とすることがより好ましく、さらに、1at%以下とすることで、2重複相組織の均一性を効果的に高めることができるため一層好ましい。
【0097】
本発明は、上記した実施形態に特に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0098】
10、18、20、22、24、26、28、30…Ni基金属間化合物合金
12…初析L12相 14…(L12+D022)共析組織
16…2重複相組織
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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