【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した能動的表面波探査は、相対的に位相速度を精度よく得ることができ、空間分解能が高く探査の精度が良いものの、探査解析深度が例えば15m程度と浅く、そのため道路高盛土や長大堤防などに対しては盛土下層部や基礎地盤部の情報が充分に得られないという問題があった。また、不均質な地盤、例えば盛土では、高次モードの表面波の影響を受けやすいという問題があった。さらに、かけ矢などの打撃により発生した表面波を用いるため、交通量の多い道路近傍では通行車両によって生起される表面波がノイズとなるという問題があった。
【0006】
一方、受動的表面波探査は、探査解析深度が例えば数10mから数km程度と深いものの相対的に空間分解能が低く、解像度、特に最表層における解像度が良くないという問題があった。さらに従来の受動式表面波探査は、地震計を面的に展開する必要があったため、直線的な測線上での連続的な探査を実現することが困難であるという問題があった。
道路高盛土や堤防高の高い長大堤防などの土工構造物に対して、盛土内部のみならず基礎地盤の2次元S波速度層構造も推定しようとするには、この能動的表面波探査と受動式表面波探査の両方を実施すればよい。しかし、この両方の探査を実施するためには、別々の探査システムを用意する必要が生じ、また各々の探査方法に合わせて地震計を設置し直さなければならないため、探査に要する時間が長くなるという問題があった。
【0007】
受動的表面波探査において地震計を面的に設置するのは、常時微動の到来方向が特定の方向に偏っていても安定的に分散曲線を得るためであるが、本発明者らは常時微動が全ての方向からランダムに到来する場合は1対の地震計、すなわち線状に配列した2点の地震計からでも真の分散曲線を求めることができ、さらに、地震計を配列した直線の方向が微動の卓越到来方向に含まれる場合においても2点の地震計を用いた受動的表面波探査が可能であることを見出した。すなわち、直線的な測線上に多数の地震計を設置したセンサアレイによっても受動式表面波探査が可能であることを見出した。さらに本発明者らは、同一測線上において同一の探査システムを用い、地震計を設置し直さなくても能動的表面波探査と受動的表面波探査とを連続的に行うことができれば、道路高盛土や長大堤防などの高い地盤であっても精度よい探査結果を得ることができると考えた。
【0008】
本発明は、上記した問題点を解決しようとするもので、地盤を大きい深度まで精度よくかつ短時間で探査できるハイブリッド表面波探査方法及びハイブリッド表面波探査システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため本発明のハイブリッド表面波探査方法は、第1に、打撃手段で地面を打撃した際に発生伝播する表面波を測定解析する能動的表面波探査と、常時微動源から発生伝播する表面波の一形態である微動を測定解析する受動的表面波探査とを、探査測線に沿って配置された複数のセンサを共用して同じ場所で、時間的に連続して実施することを特徴としている。
この特徴によれば、能動的表面波探査と受動的表面波探査の両方の利点を生かすことができ、道路高盛土や長大堤防などの高い地盤であっても、地盤を大きい深度まで精度よく探査することができる。また、同一測線上において同一の探査システムを用いることができるため、測定システムを小型化及び簡略化することができる。さらに、地震計を設置し直す必要がないため、現場測定にかかる時間を大幅に短縮することができる。
【0010】
また、本発明のハイブリッド表面波探査方法は、第2に、第1の特徴において、
前記能動的表面波探査で得られた測定データから能動的表面波分散曲線を求めると共に、前記受動的表面波探査で得られた測定データから受動的表面波分散曲線を求め、
前記能動的表面波分散曲線と前記受動的表面波分散曲線とを合成して単一のハイブリッド表面波分散曲線を作成し、
前記ハイブリッド表面波分散曲線をインバージョン解析して1次元S波速度構造を求め、
前記1次元S波速度構造を測線上の複数点で計算すると共に、空間的に補間して2次元S波速度層構造断面を得ることを特徴としている。
この特徴によれば、能動的表面波探査と受動的表面波探査とによる結果を一つの合成された2次元S波速度層構造断面として示すことができるため、浅部から深部までのS波速度層構造を高精度で、かつ空間的に高い分解能を有する2次元断面として短時間で提供することが可能となる。
【0011】
また、本発明のハイブリッド表面波探査方法は、第3に、第1又は第2の特徴において、
前記複数のセンサからなるセンサアレイを配置して最初の能動的表面波探査と受動的表面波探査を実施し、前記最初の探査の終了後、探査測線に沿って前記センサアレイをセンサアレイ長の一部が重複するようにして再配置し、次の能動的表面波探査と受動的表面波探査を繰り返すことで測線全区間の探査を行うようにしたことを特徴としている。
この特徴によれば、長大な測線に対しても相対的に短い長さのセンサアレイを用いて繰り返し測定することにより、全測線区間にわたって2次元S波速度層構造断面を連続的に把握することができる。
【0012】
また、本発明のハイブリッド表面波探査システムは、第1に、
地盤に打撃を与える打撃手段と、
表面波及び微動を感知できる複数のセンサからなるセンサアレイと、
前記センサアレイからの波形信号を収録するマルチチャンネル記録装置と、
記録された波形信号を解析して能動的表面波分散曲線と受動的表面波分散曲線とを求めると共に、前記両分散曲線を合成してハイブリッド表面波分散曲線を作成する解析処理部と、
合成された前記ハイブリッド表面波分散曲線から2次元S波速度層構造断面を作成するインバージョン処理解析部と、
を備えることを特徴としている。
この特徴によれば、能動的表面波探査と受動的表面波探査とを別々に実施する必要がなく、また同一測線上において同一の探査システムを用いることができると共に、地震計を設置し直す必要がないため、測定システムを小型化及び簡略化することができる。さらに、現場測定にかかる時間を大幅に短縮することができる。
加えて、能動的表面波探査と受動的表面波探査とによる結果を統合的に解析処理して一つの合成された2次元S波速度層構造断面として示すことができるため、個々の結果を別々に解析処理する必要がなく、最適な断面を短時間で提供することが可能となる。
【0013】
また、本発明のハイブリッド表面波探査システムは、第2に、第1の特徴において、一定の長さのアレイ長を有するセンサアレイを用い、最初の探査の終了後、次の探査に向けて、探査測線に沿ってセンサアレイの一部が重複するようにして再配置することによって長大な測線に対しても対応できることを特徴としている。
この特徴によれば、測線長に合わせてセンサアレイの長さをその都度変更する必要がなく、センサアレイの用意にかかる時間と経費を大幅に削減することが可能となる。
【0014】
また、本発明のハイブリッド表面波探査システムは、第3に、第1又は第2の特徴において、前記マルチチャンネル記録装置は、能動的表面波探査記録条件設定部と受動的表面波探査記録条件設定部とを備えることを特徴としている。
この特徴によれば、前記マルチチャンネル記録装置を能動的表面波探査と受動的表面波探査において別々に用意する必要がなく、また測定時に前記能動的表面波探査記録波形と前記受動的表面波探査記録波形の両方の品質を現場でリアルタイムで評価できることから、前記マルチチャンネル記録装置の用意にかかる経費を半減することが可能となるばかりでなく、現地において前記能動的表面波探査と前記受動的表面波探査の両方の記録条件設定に必要な時間を短縮することも可能となる。
【0015】
また、本発明のハイブリッド表面波探査システムは、第4に、第1ないし第3のいずれかの特徴において、前記解析処理部は、前記能動的表面波分散曲線を決定する能動的表面波探査記録解析処理部、前記受動的表面波分散曲線を決定する受動的表面波探査記録解析処理部及び前記能動的表面波分散曲線と前記受動的表面波分散曲線とからハイブリッド表面波分散曲線を合成するハイブリッド表面波探査記録解析処理部を備えることを特徴としている。
この特徴によれば、前記能動的表面波探査記録解析処理、前記受動的表面波探査記録解析処理及びハイブリッド表面波探査記録解析処理を別々のシステム上で別個に実施する必要がなく、相互参照も容易であることから前記解析処理に係る経費と時間を大幅に削減することが可能である。
【0016】
また、本発明のハイブリッド表面波探査システムは、第5に、第4の特徴において、前記能動的表面波探査記録解析処理部は、前記能動的表面波分散曲線を求める際に,能動的表面波探査の全ての波形記録に対し、任意の2本の波形を抽出して相互相関を計算し、前記2本の波形の中点の距離が共通するものを集積して相互相関波形を作成することを特徴としている。
この特徴によれば、起伏のある地盤や不均質な地盤に対しても、それらを識別可能な高い空間分解能を担保する能動的表面波分散曲線を得ることができる。
【0017】
また、本発明のハイブリッド表面波探査システムは、第6に、第4の特徴において、前記受動的表面波探査記録解析処理部は、前記受動的表面波分散曲線を求める際に,直線状のセンサアレイに対して空間自己相関法を適用して解析する2次元リニアアレイ微動解析法を採用することを特徴としている。
この特徴によれば、設置したセンサアレイ区間で得られた前記受動的表面波探査記録を用いて、前記センサアレイ設置区間のほぼ全域に対して同時に複数の受動的表面波分散曲線を得ることができる。
【0018】
また、本発明のハイブリッド表面波探査システムは、第7に、第4の特徴において、前記ハイブリッド表面波探査記録解析処理部は、前記ハイブリッド表面波分散曲線を求める際に、第1の周波数より低い周波数帯域では前記受動的表面波分散曲線を採用し,第2の周波数よりも高い周波数帯域では前記能動的表面波分散曲線を採用し、前記第1の周波数から第2の周波数の間では前記能動的表面波分散曲線と前記受動的表面波分散曲線とを合成することを特徴としている。
この特徴によれば、前記能動的表面波分散曲線と前記受動的表面波分散曲線から各々の信頼性の高い領域を抽出することによって、最適な分散曲線を決定することが可能となる。
【0019】
また、本発明のハイブリッド表面波探査システムは、第8に、第1ないし第7のいずれかの特徴において、前記インバージョン処理解析部は、インバージョン処理部と2次元S波速度層構造断面作成処理部を備えることを特徴としている。
この特徴によれば、前記ハイブリッド表面波分散曲線に対する前記インバージョン処理にかかる最適条件の設定と、前記2次元S波速度層構造断面作成処理にかかる最適条件設定とを、同一システム上においてフィードバックさせながら実行できるため、最適な2次元S波速度層構造断面を短時間で効率的に得ることができる。
【0020】
また、本発明のハイブリッド表面波探査システムは、第9に、第8の特徴において、前記インバージョン処理部は、前記ハイブリッド表面波分散曲線から非線形最小二乗法インバージョンにより1次元S波速度構造を推定することを特徴としている。
この特徴によれば、安定的に、かつ短時間で最適な1次元S波速度構造モデルを求めることができる。
【0021】
また、本発明のハイブリッド表面波探査システムは、第10に、第8の特徴において、前記2次元S波速度層構造断面作成処理部は、前記1次元S波速度構造を空間的に補間して2次元S波速度層構造断面を得ることを特徴としている。
この特徴によれば、前記1次元S波速度構造モデルから、局所的なノイズの影響や最適解からの乖離の影響を低減し、最適な2次元S波速度層構造断面を得ることができる。
【0022】
また、本発明のハイブリッド表面波探査システムは、第11に、第1ないし第10のいずれかの特徴において、前記インバージョン処理解析部は、前記能動的表面波分散曲線と前記受動的表面波分散曲線から別個に非線形最小二乗法インバージョンにより1次元S波速度構造を推定し、さらにそれを空間的に補間して求めた2つの2次元S波速度層構造断面を合成し、最終的な2次元S波速度層構造断面を得ることを特徴としている。
この特徴によれば、均質な地盤に対して、簡易的に2次元S波速度層構造断面を得ることができる。