【解決手段】松樹皮抽出物を有効成分とする2型5−αリダクターゼ産生阻害剤、松樹皮抽出物を有効成分とするHGF産生促進剤、カフェインを有効成分とする2型5−αリダクターゼ産生阻害剤、カフェインを有効成分とするWnt5a産生促進剤であることを特徴とする。
【背景技術】
【0002】
生体では、様々なタンパク質等がその機能を発揮し、相互に調節し合うことにより、生命活動が維持されている。例えば、5−αリダクターゼはテストステロンをジヒドロテストステロンに変換する働きをもつ酵素であり、前立腺肥大等に関与されていることが知られている。また、尋常性ざ瘡(アクネ)にも効果があることが知られており、これらの疾患の治療薬としてテストステロン5α−リダクターゼ阻害作用を有する物質が種々知られている。
これまでに知られている5α−リダクターゼ産生阻害剤としては、例えばビスナフトキノン誘導体を有効成分として含有するもの(特許文献1)、バナナの皮抽出物を有効成分とするもの(特許文献2)、ペルー原産のキク科植物であるヤーコンの抽出物(特許文献3)、東洋カボチャや西洋カボチャを有効成分とするもの(特許文献4)などがある。
【0003】
また、細胞増殖因子は、生体の秩序ある構築や恒常性の維持に重要な役割を果たしており、作用異常はしばしば病気につながることが知られている。これら増殖因子の中でも、HGF(肝細胞増殖因子)は主臓器由来の上皮細胞を中心に、血管内皮細胞や造血系、神経系に働き、多岐の細胞賦活作用を示す。皮膚においても、上皮細胞である角化細胞、毛母および毛包細胞や直下の血管内皮細胞に働き、皮膚の賦活化に関与していることが知られている。このためHGF産生促進作用を有するHGF産生促進剤が求められていた。
これまでに知られているHGF産生促進剤としては、例えばアンジオテンシン変換酵素(Angiotensin-Converting Enzyme)阻害剤及びアンジオテンシンII受容体拮抗薬(特許文献5)があり、また天然物由来のものとして、米抽出物(特許文献6)や蒲公英(ホコウエイ)抽出物(特許文献7)がある。
【0004】
他にも、胚発生に伴う形態形成では分泌性シグナル分子を介した相互作用が細胞間のコミュニケーションの1つの方法として使われることが知られている。この細胞間シグナル分子の1つであるWnt遺伝子群は発生のさまざまな局面で時間的、位置的に特異的な発現を示し、形態形成の誘導因子、細胞の極性決定因子、増殖分化の調節因子として機能している。Wntにより惹起される細胞内シグナル伝達のネットワークには、形態形成だけでなく細胞増殖、形質転換(癌化)に関連する多くの因子が関与している。このようなWntファミリーのうち、Wnt5aに関して、インスリン分泌関与することや、毛乳頭細胞の細胞死を抑制する効果等が知られている。
これまでに知られているWnt5a産生促進剤としては、例えばリナロールオキシド、フェニルエチルアルコール、アンスラニル酸メチルを有効成分とするもの(特許文献8)がある。
【0005】
このような生体内の反応機構を制御するための方法の一つとして、関与する遺伝子の発現を調節する方法がある。しかしながら、上記の遺伝子発現の調節に関与する有効成分は十分な効果を奏するものが少なく、安定性および安全性上問題のあるものも存在しており、より効果的な上記の遺伝子発現作用剤が強く要望されていた。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、2型5−αリダクターゼ産生阻害剤、HGF産生促進剤およびWnt5a産生促進剤に関するものであり、これらの産生阻害剤、産生促進剤は松樹皮抽出物またはカフェインを有効成分とする。以下、詳細を説明する。
【0012】
本発明において、松樹皮抽出物に用いることができる松樹皮としては、例えば、フランス海岸松、カラマツ、クロマツ、アカマツ、ヒメコマツ、ゴヨウマツ、チョウセンマツ、ハイマツ、リュウキュウマツ、ウツクシマツ、ダイオウマツ、シロマツ、カナダのケベック地方のアネダなどのマツ目に属する植物の樹皮が挙げられる。
これらの中でも、フランス海岸松(学名:Pinus maritima)の樹皮が好ましく、フランス海岸松は南仏の大西洋沿岸などに生育している海洋性松をいう。
【0013】
松樹皮抽出物は、上記の松樹皮を溶媒で抽出して得られる。ここで用いることができる溶媒としては、例えば、水、有機溶媒、含水有機溶媒(含水エタノールといった含水アルコール)が挙げられる。水を溶媒に用いる場合には、温水または熱水を用いてもよい。抽出に用いる有機溶媒としては、食品あるいは薬剤の製造に許容される有機溶媒が用いられ、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、ブタン、アセトン、ヘキサン、シクロヘキサン、プロピレングリコール、含水エタノール、含水プロピレングリコール、エチルメチルケトン、グリセリン、酢酸メチル、酢酸エチル、ジエチルエーテル、ジクロロメタン、食用油脂、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、および1,1,2−トリクロロエテンが挙げられる。これらの水および有機溶媒は単独で用いてもよいし、組合せて用いてもよい。特に、熱水、含水エタノール、および含水プロピレングリコールが好ましく用いられる。
【0014】
松樹皮抽出物を松樹皮から抽出する方法については特に制限はないが、例えば、加温抽出法、超臨界流体抽出法などが用いられる。
【0015】
超臨界流体抽出法は、物質の気液の臨界点(臨界温度、臨界圧力)を超えた状態の流体である超臨界流体を用いて抽出を行う方法である。超臨界流体としては、二酸化炭素、エチレン、プロパン、亜酸化窒素(笑気ガス)等が用いられるが、二酸化炭素が好ましく用いられる。
【0016】
超臨界流体抽出法では、目的成分を超臨界流体によって抽出する抽出工程と、目的成分と超臨界流体を分離する分離工程とを行う。分離工程では、圧力変化による抽出分離、温度変化による抽出分離、吸着剤・吸収剤を用いた抽出分離のいずれを行ってもよい。
【0017】
また、エントレーナー添加法による超臨界流体抽出を行ってもよい。この方法は、抽出流体に、例えば、エタノール、プロパノール、n−ヘキサン、アセトン、トルエン、その他の脂肪族低級アルコール類、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、ケトン類を2〜20W/V%程度添加し、この流体を用いて超臨界流体抽出を行うことによって、OPC(oligomeric proanthocyanidin:オリゴメリック・プロアントシアニジン)、カテキン類などの目的とする抽出物の抽出溶媒に対する溶解度を飛躍的に上昇させる、あるいは分離の選択性を増強させる方法であり、効率的に松樹皮抽出物を得る方法である。
【0018】
超臨界流体抽出法は、比較的低い温度で操作できるため、高温で変質・分解する物質にも適用できるという利点、抽出流体が残留しないという利点、溶媒の循環利用が可能であるため、脱溶媒工程などが省略でき、工程がシンプルになるという利点がある。
【0019】
また、松樹皮からの抽出は、上記の方法以外でものよく、例えば、液体二酸化炭素回分法、液体二酸化炭素還流法、超臨界二酸化炭素還流法等により行ってもよい。
【0020】
松樹皮からの抽出は、複数の抽出方法を組み合わせてもよい。複数の抽出方法を組み合わせることにより、種々の組成の松樹皮抽出物を得ることが可能となる。
【0021】
上述した抽出により得られた松樹皮抽出物は、限外濾過、あるいは吸着性担体(ダイヤイオンHP−20、Sephadex−LH20、キチンなど)を用いたカラム法またはバッチ法により精製を行うことが安全性の面から好ましい。
【0022】
松樹皮抽出物の市販品としては、例えばフラバンジェノール(株式会社東洋新薬製。なお、「フラバンジェノール」は株式会社東洋新薬の登録商標)が挙げられる。
【0023】
松樹皮抽出物は、ガン・心臓病・脳血栓などの成人病の危険率を低下する効果、関節炎・アトピー性皮膚炎・花粉症などのアレルギー体質の改善効果などを有する。さらに、口腔内のバクテリア増殖を抑制してプラーク(歯こう)を減少させる効果;血管の弾力性を回復させる効果;血液中でのリポタンパク質が活性酸素によりダメージを受けるのを防止して、損傷したリポタンパク質が血管の内壁に凝集し、コレステロールが付着することを防止する効果;活性酸素によって分解されたビタミンEを再生させる効果;ビタミンEの増強剤としての効果なども有する。
【0024】
本発明に用いられるカフェインは、例えば、茶、コーヒー豆、カカオ、コラ、ガラナ、マテ茶、コーラなどの嗜好性食品材料に含有されるものを用いることができる。市販されている合成品や精製品を用いてもよいが、安全性の面から上記嗜好性食品材料またはその抽出物を用いることが好ましい。市販品としては、例えば、和光純薬社によって市販されているカフェイン(031−06792)等が挙げられる。
【0025】
カフェインは、主に中枢神経の興奮を引き起こすことが知られており、眠気覚ましや疲労回復を目的とした医薬品または食品に含有されている。その他、平滑筋の弛緩作用、抗炎症作用などを有することから、風邪や喘息の医薬品としても使用されている。さらに、利尿作用、心拍数の増加、および脂肪酸分解作用による若干の基礎代謝向上作用およびダイエット効果を有する。
【0026】
本発明においては、松樹皮抽出物またはカフェインを有効成分としているが、従来技術では、松樹皮抽出物が2型5−αリダクターゼの産生を阻害することや、HGFの産生を増加させることについては知られていない。また、カフェインが2型5−αリダクターゼの産生を阻害することや、Wnt5aの産生を増加させることについては知られていない。
【0027】
5−αリダクターゼは、テストステロンをジヒドロテストステロンに変換する働きをもつ酵素であり、前立腺肥大等に関与されていることが知られている。また、尋常性ざ瘡(アクネ)にも効果があることが知られている。
【0028】
HGFは、肝細胞増殖因子とも呼ばれ、肝臓の再生を促す因子として単離された因子であり、肝臓だけではなく、様々な種の細胞の増殖、運動、抗アポトーシスや形態形成、血管新生など幅広い生物活性を持つことが知られている。
【0029】
Wntタンパク質は、発生や胚形成など形態形成において重要な役割を果たしているシグナルタンパク質であり、インスリンの分泌に関与すること等が知られている。
【0030】
本発明の2型5−αリダクターゼ産生阻害剤、HGF産生促進剤およびWnt5a産生促進剤においては、松樹皮抽出物、カフェイン以外に、他の素材を配合することに特に制限はなく、必要に応じて、薬学的に許容される基材や担体を添加して、公知の製剤方法によって、例えば錠剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、散剤、液剤、粉末剤、ゼリー状剤、飴状剤等の形態にして、これを経口剤として利用することができる。また、軟膏剤、クリーム剤、ジェル、ローション等の形態にして、これを皮膚外用剤として利用することができる。また、その服用形態としては、水、お湯、牛乳などに溶いて飲むようにしてもよい。
【0031】
本発明の2型5−αリダクターゼ産生阻害剤、HGF産生促進剤およびWnt5a産生促進剤においては、上記有効成分以外に、他の素材を配合し、経口摂取することも可能である。例えば、ローヤルゼリー、プロポリス、ビタミン類(A、C、D、E、K、葉酸、パントテン酸、ビオチン、これらの誘導体など)、ミネラル(鉄、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、セレンなど)、α−リポ酸、レシチン、ポリフェノール(フラボノイド類、これらの誘導体など)、カロテノイド(リコピン、アスタキサンチン、ゼアキサンチン、ルテインなど)、脂肪酸、タンパク質(コラーゲン、エラスチンなど)、ムコ多糖類(ヒアルロン酸など)、アミノ糖(グルコサミン、アセチルグルコサミン、ガラクトサミン、アセチルガラクトサミン、ノイラミン酸、アセチルノイラミン酸、ヘキソサミン、それらの塩など)、オリゴ糖(イソマルトオリゴ糖、環状オリゴ糖など)、リン脂質およびその誘導体(フォスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、セラミドなど)、含硫化合物(アリイン、セパエン、タウリン、グルタチオン、メチルスルホニルメタンなど)、糖アルコール、リグナン類(セサミンなど)、これらを含有する動植物抽出物、根菜類(ウコン、ショウガなど)などを配合することができる。
【0032】
本発明の2型5−αリダクターゼ産生阻害剤、HGF産生促進剤およびWnt5a産生促進剤においては、液体状、ゲル状、顆粒状、粉末状、固体状等の状態にすることができ、また経口投与(摂取)、経皮投与(塗布)等として用いることができる。例えば、医薬品、医薬部外品、化粧品、食品などとして経口投与(摂取)することや皮膚に塗布する等を行い、経皮投与(塗布)することができる。さらに、吸引して呼吸器系に適用してもよく、その投与形態が特に制限されるものではない。
【0033】
本発明の2型5−αリダクターゼ産生阻害剤、HGF産生促進剤およびWnt5a産生促進剤において、松樹皮抽出物、カフェインの含有量は、各種の形態とした場合に、それらが使用される量と有効投与量との関係を勘案して適宜定めればよく、特に制限されるものではない。
【0034】
2型5−αリダクターゼ産生阻害剤においては、成人1日あたりの摂取量は、特に制限されるものではないが、松樹皮抽出物として1〜1000mg、より好ましくは2〜500mgとなるように含有させることが好ましい。経皮投与の場合は、局所的な投与となるため、所定濃度であることが好ましく、具体的には、松樹皮抽出物が組成物中に固形物換算で0.00001〜20質量%、より好ましくは0.0001〜10質量%、さらに好ましくは0.001〜10質量%の割合で含有され得る。
【0035】
また、2型5−αリダクターゼ産生阻害剤におけるカフェインの含有量については特に制限されるものではない。成人1日あたりの摂取量は、特に制限されるものではないが、1〜10000mg、より好ましくは2〜5000mgとなるように含有させることが好ましい。カフェインは一度に摂取し過ぎると、痙攣などの副作用を生ずるおそれがあることから、上記範囲内であることが好ましい。経皮投与の場合は、松樹皮抽出物と同様に局所的な投与となるため、所定濃度であることが好ましく、具体的には、カフェインが組成物中に固形物換算で0.00001〜20質量%、より好ましくは0.0001〜10質量%、さらに好ましくは0.001〜10質量%、最も好ましくは0.01〜10質量%の割合で含有され得る。
【0036】
HGF産生促進剤においては、成人1日あたりの摂取量は、特に制限されるものではないが、松樹皮抽出物として1〜1000mg、より好ましくは2〜500mgとなるように含有させることが好ましい。経皮投与の場合は、局所的な投与となるため、所定濃度であることが好ましく、具体的には、松樹皮抽出物が組成物中に固形物換算で0.00001〜20質量%、より好ましくは0.0001〜10質量%、さらに好ましくは0.001〜10質量%の割合で含有され得る。
【0037】
また、Wnt5a産生促進剤におけるカフェインの含有量については特に制限されるものではない。成人1日あたりの摂取量は、特に制限されるものではないが、1〜10000mg、より好ましくは2〜5000mgとなるように含有させることが好ましい。上述したように、カフェインは一度に摂取し過ぎると、痙攣などの副作用を生ずるおそれがあることから、上記範囲内であることが好ましい。経皮投与の場合は、松樹皮抽出物と同様に局所的な投与となるため、所定濃度であることが好ましく、具体的には、カフェインが組成物中に固形物換算で0.00001〜20質量%、より好ましくは0.0001〜10質量%、さらに好ましくは0.001〜10質量%、最も好ましくは0.01〜10質量%の割合で含有され得る。
【0038】
本発明の2型5−αリダクターゼ産生阻害剤、HGF産生促進剤およびWnt5a産生促進剤の投与量は、特に制限はないが、例えば経口的に摂取する場合には、成人1日当りおよそ0.001〜100gが好ましい。
【0039】
また、2型5−αリダクターゼ産生阻害剤、HGF産生促進剤およびWnt5a産生促進剤が液体状であっても、松樹皮抽出物、カフェインの濃度は特に制限されるものではない。2型5−αリダクターゼ産生阻害剤、HGF産生促進剤中に、松樹皮抽出物が0.1〜50.0μg/ml含まれていることが好ましく、2型5−αリダクターゼ産生阻害剤、Wnt5a産生促進剤中にカフェインが0.01〜20.0μg/ml含まれていることが好ましい。
【0040】
上記のように、松樹皮抽出物またはカフェインを有効成分とする2型5−αリダクターゼ産生阻害剤により、2型5−αリダクターゼを抑制することができ、前立腺肥大、尋常性ざ瘡(アクネ)等の発生や症状を抑えることができる。
【0041】
また、松樹皮抽出物を有効成分とするHGF産生促進剤により、HGFの産生が促進され、主臓器由来の上皮細胞を中心に、血管内皮細胞や造血系、神経系に働き、多岐の細胞賦活作用を得ることができる。皮膚においても、上皮細胞である角化細胞、毛母および毛包細胞や直下の血管内皮細胞に働き、皮膚の賦活化を得ることができる。
【0042】
また、カフェインを有効成分とするWnt5a産生促進剤により、Wnt5aの産生が促進され、糖尿病、高脂血症、耐糖脳異常などの予防、治療等に良好な効果が得られる。
【実施例】
【0043】
本発明について以下に実施例を挙げてさらに詳述するが、本発明はこれによりなんら限定されるものではない。
【0044】
1.材料、サンプル調製及び試験方法
1−1.被験物質
松樹皮抽出物(商品名:フラバンジェノール、株式会社東洋新薬製)、カフェインを用いた。
【0045】
1−2.細胞
東洋紡株式会社より入手したCELL APPLICATION社製ヒト毛乳頭細胞(HFDPC,カタログNo.602−05a,ロットNo.1710,白人40歳女性由来)を使用した。
【0046】
1−3.試薬及び器具等
(i)毛乳頭細胞増殖培地(以下、PCGMと略す)(東洋紡社製)
(ii)リン酸緩衝生理食塩水(以下、PBSと略す)(Sigma社製)
(iii)トリプシンEDTA(Sigma社製)
(iv)コラーゲンコート溶液(東洋紡社製)
(v)RNeasy Mini Kit(Qiagen社製)
(vi)37℃CO
2インキュベーター(ESPEC社製)
(vii)プレートリーダー(VARIOSKAN,Thermo electron社製)
(viii)75cm
2培養フラスコ(以下、T75フラスコと称す)(IWAKI社製)
(ix)6ウェル培養プレート(IWAKI社製)
(x)96ウェル培養プレート(IWAKI社製)
(xi)顕微鏡(OLYMPUS社製,IX−70)
【0047】
1−4.サンプル調製
PCGMに各被験物質を10mg/mLとなるように懸濁させ、その後、0.2μmフィルターで処理し、PCGMで段階希釈して試験に供した。
【0048】
1−5.試験方法
1−5−1.細胞の準備
(i)T75フラスコ、6ウェル培養プレート、96ウェル培養プレートにコラーゲンコート溶液をそれぞれ1ml、0.5ml、50μl入れ、2時間静置させた。
(ii)コラーゲンコート溶液を除去し、PBSで2回洗浄し、上記フラスコ及びプレートを密封した後、使用するまで冷蔵庫で保管した。
(iii)コラーゲンコートしたT75フラスコに、HFDPC(P5)を播種し、これを37℃の5%CO
2インキュベーター内で4日間培養した。
(iv)上記T75フラスコをPBSで洗浄した後、HFDPCをトリプシン処理により浮遊させ、1.2×10
5cells/mLの細胞懸濁液を作製し、次いで、コラーゲンコートした6ウェル培養プレート、96ウェル培養プレートに、該細胞懸濁液をそれぞれ1ml、0.1ml入れ、37℃の5%CO
2インキュベーター内で一晩培養した。
【0049】
1−5−2.細胞賦活活性の測定
(i)上記「1−5−1.細胞の準備」に従い、96ウェル培養プレートで培養されたHFDPCの培地を除去し、その後、PBSで2回洗浄した。
(ii)上記「1−4.サンプル調製」に従い調製された松樹皮抽出物の濃度が1.9、5.6、16.7、50、150μg/mlであるサンプルを96ウェル培養プレート中のHFDPCに添加した。同様に、カフェインの濃度が0.1、0.4、1.1、3.3、10μg/mlであるサンプルを96ウェル培養プレート中のHFDPCに添加した。
(iii)24時間の培養後、96ウェル培養プレートをPBSで2回洗浄した。
(iv)無血清ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)(シグマアルドリッチ社製)で30倍の体積に希釈したCell Counting Kit−8溶液(同仁化学研究所社製)を96ウェル培養プレートに100μl/ウェル添加した。
(v)37℃の5%CO
2インキュベーター内に静置させ、適度に発色させた後、450nmにおける吸光度を測定した。
(vi)得られたデータを基に、下記式に従い、コントロールに対する割合(%コントロール)を算出した。
%コントロール=[(データ
サンプル−データ
ブランク)/(データ
コントロール−データ
ブランク)]×100
1−5−3.細胞賦活作用
後述するマイクロアレイ解析を行う際の松樹皮抽出物およびカフェインの濃度を決定するため、様々な濃度の松樹皮抽出物およびカフェインによる毛乳頭細胞の賦活活性を調べた。各濃度の松樹皮抽出物およびカフェインを含むサンプルを添加した際の毛乳頭細胞の賦活活性を
図1および表1に示す。なお、
図1は表1に示される%コントロールの結果をグラフ化したものである。
【0050】
【表1】
【0051】
細胞賦活活性の最も大きい濃度は、松樹皮抽出物が5.6μg/ml、カフェインが3.3μg/mlであったため、マイクロアレイ解析での濃度を松樹皮抽出物が5.6μg/ml、カフェインが3.3μg/mlにした。
【0052】
1−5−4.細胞の回収、RNAの抽出
(i)上記「1−5−1.細胞の準備」に従い、6ウェル培養プレートで培養された毛乳頭細胞をPBSで2回洗浄し、上記「1−4.サンプル調製」に従い調製された松樹皮抽出物の濃度が5.6μg/mlであるサンプル、カフェインの濃度が3.3μg/mlであるサンプルを6ウェル培養プレートに添加し、24時間培養した。
(ii)培養後、6ウェル培養プレートを氷冷したPBSで2回洗浄し、その後、RNeasy Mini Kitに付属の細胞溶解バッファーを加えた。次いで、RNeasy Mini Kitの説明書に従い、RNAの抽出を行った。
(iii)抽出後、速やかに液体窒素に浸けて凍結させ、ディープフリーザーにて保管した。
【0053】
1−5−5.マイクロアレイ
ミルテニーバイオテク社でマイクロアレイ解析を行った。
【0054】
1−6.結果の解析
マイクロアレイ解析の結果から、毛乳頭細胞で発現している遺伝子を抽出し、その遺伝子の発現量の変化を検討した。
【0055】
2.結果及び考察
2−1.マイクロアレイ解析
マイクロアレイの結果より、松樹皮抽出物およびカフェインにより処理された毛乳頭細胞内における遺伝子の発現量の変化を解析した。
【0056】
結果の解析にあっては、2型5−αリダクターゼ、HGF、Wnt5aの倍率変化(フォールド・チェンジ)を算出し、検討を行った。なお、倍率変化は、処理前後のサンプルのデータ値を基に次のようにして求めることができる。
まず、以下のように処理前後のサンプルのデータ値の比を求める。
比=(処理後のサンプルのデータ値)/(処理前のサンプルのデータ値)
次に、比>1の場合はこのまま倍率変化の値とする。一方、比<1の場合は、倍率変化の値=処理前のサンプルのデータ値/処理後のデータ値×(−1)とする。
【0057】
松樹皮抽出物により処理された毛乳頭細胞では、2型5−αリダクターゼの倍率変化が−4.15を示しており、2型5−αリダクターゼの発現量を低減することが分かった。また、HGFの倍率変化は、2.05を示しており、松樹皮抽出物により処理された毛乳頭細胞では、HGFの発現量が増加することが分かった。
【0058】
カフェインにより処理された毛乳頭細胞では、2型5−αリダクターゼの倍率変化が−1.93を示しており、2型5−αリダクターゼの発現量を低減することが分かった。また、Wnt5aの倍率変化は、22.27を示しており、カフェインにより処理された毛乳頭細胞では、Wnt5aの発現量が増加することが分かった。