【課題】ポリアミド樹脂と微細炭素繊維とを含む半導電性ポリアミド樹脂組成物をフィルム状又はチューブ状に押出成形する時、半導電性領域の電気抵抗の均一性が高く、電気抵抗の通電上昇が小さく、電子写真用シームレスベルトとして用いる半導電性ポリアミド樹脂成形体の製造方法の提供。
【解決手段】ポリアミド樹脂と微細炭素繊維とを含む半導電性ポリアミド樹脂組成物を、ダイスより溶融押出した後、冷却固化する半導電性ポリアミド樹脂成形体の製造方法で、冷却固化された半導電性ポリアミド樹脂成形体の体積抵抗率(ρv(Ω・cm))を測定し、体積抵抗率の測定値に基づき式(1)を満たす様押出樹脂温度(Tc(℃))を調整する半導電性ポリアミド樹脂成形体の製造方法。微細炭素繊維がカーボンナノチューブ、釣鐘状構造連結集合型体からなる一種である、半導電性ポリアミド樹脂組成物。0<(Tc−Tm)/(logρv)
ポリアミド樹脂と微細炭素繊維とを含む半導電性ポリアミド樹脂組成物を、ダイスより溶融押出しした後、冷却手段により冷却固化する半導電性ポリアミド樹脂成形体の製造方法において、冷却固化された半導電性ポリアミド樹脂成形体の体積抵抗率を測定し、体積抵抗率の測定値に基づき下記式(1)を満たすよう押出樹脂温度を調整することを特徴とする半導電性ポリアミド樹脂成形体の製造方法。
0<(Tc−Tm)/(logρv)2≦0.500・・・式(1)
[式(1)中、Tm(℃)はポリアミド樹脂の融点であり、Tc(℃)はダイスからの押出樹脂温度であり、ρv(Ω・cm)は半導電性ポリアミド樹脂成形体の体積抵抗率の測定値である。]
前記半導電性ポリアミド樹脂組成物における前記ポリアミド樹脂と前記微細炭素繊維との配合割合は、前記ポリアミド樹脂を80〜99重量%に対して、前記微細炭素繊維を20〜1重量%含むことを特徴とする請求項1記載の半導電性ポリアミド樹脂成型体の製造方法。
前記ポリアミド樹脂は、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6,10、ナイロン6,12から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1又は2記載の半導電性ポリアミド樹脂成形体の製造方法。
前記微細炭素繊維は、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、釣鐘状構造連結集合型体から選ばれる少なくとも一種を含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか記載の半導電性ポリアミド樹脂成形体の製造方法。
【背景技術】
【0002】
複写機やレーザービームプリンターなどの電子写真方式を用いた画像形成装置に用いられる転写搬送部材、中間転写体、電子写真感光体および定着部材などには、ドラム形状やローラー形状のもの以外に、ベルト形状の電子写真用シームレスベルトが用いられることがある。
【0003】
電子写真用シームレスベルトとしては、熱可塑性樹脂を主成分とするシームレスベルトが知られ、熱可塑性樹脂を主成分とするシームレスベルトは、汎用の成形機を用いて溶融押出法により低コスト、短工程で製造できるという利点がある。
【0004】
熱可塑性樹脂の中でも、ポリアミド樹脂は、破断伸びが大きく、弾性率が高いという優れた特性を有しているため、ポリアミド樹脂を電子写真用シームレスベルトに用いるという提案は既になされている(特許文献1、特許文献2及び特許文献3参照)。
【0005】
一方、熱可塑性樹脂に半導電性を付与するには、カーボンブラック(CB)や金属酸化物等の電子伝導性材料を熱可塑性樹脂中に配合することが一般的である。これらの電子伝導性材料は、使用環境の変化に対して電気抵抗の変化が小さいという特徴を有するが、電子伝導性材料の接触によって導電性を発現しているため樹脂中への分散が重要である。このため、これらの電子伝導性材料は、僅かな濃度変化や分散状態により電気抵抗が大きくバラつき、ある添加量で急激に導電率が低下する(パーコレーション現象)為、体積抵抗率を10
6〜10
13Ω・cmの半導電性領域に制御することが困難である。
【0006】
近年、電子伝導性材料として、CBに替えてカーボンナノチューブ(CNT)等の微細炭素繊維を用いることが提案されている(特許文献4及び特許文献5参照)。この微細炭素繊維は、アスペクト比(長さ/外径)が大きいことから、CBなどと比べ、比較的少量の配合で樹脂に導電性を付与することができ、かつその添加量と導電率との関係性が直線的に変化することから、導電率の制御が容易になるという特徴を有する。
【0007】
ところで、電子写真用シームレスベルトは、画像形成装置内で通電を繰り返し行うに従い電気抵抗が上昇すること(通電上昇)が知られている。この電子写真用シームレスベルトの通電上昇は、電子写真方式の画像形成において、初期の抵抗値に対しトナー像の転写を行うのに最適な転写電流値を設定していても、抵抗上昇後にトナー像の転写が最適に行われず、画像不良を引き起こす恐れがある。このトナー像の転写不良を抑制するには、一般的に、電子写真用シームレスベルトの通電上昇を1桁以内とする必要があるとされている。このため、電子写真方式の画像形成装置に用いられる電子写真用シームレスベルトには、電気抵抗の均一性(電気抵抗のバラつき、環境変動による電気抵抗の変化が小さいこと)に加え、電気抵抗の通電上昇が小さいこと(通電上昇が1桁以内)が求められる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の半導電性ポリアミド樹脂成形体の製造方法について説明する。本発明は、ポリアミド樹脂と微細炭素繊維とを含む半導電性ポリアミド樹脂組成物を、ダイスより溶融押出しした後、冷却手段により冷却固化する半導電性ポリアミド樹脂成形体の製造方法において、冷却固化された半導電性ポリアミド樹脂成形体の体積抵抗率を測定し、体積抵抗率の測定値に基づき下記式(1)を満たすよう押出樹脂温度を調整する半導電性ポリアミド樹脂成形体の製造方法である。
0<(Tc−Tm)/(logρv)
2≦0.500・・・式(1)
[式(1)中、Tm(℃)はポリアミド樹脂の融点であり、Tc(℃)はダイスからの押出樹脂温度であり、ρv(Ω・cm)は半導電性ポリアミド樹脂成形体の体積抵抗率の測定値である。]
【0015】
本発明の製造方法によれば、半導電性ポリアミド樹脂組成物を溶融押出しした後、冷却固化した半導電性ポリアミド樹脂成形体の体積抵抗率を測定し、体積抵抗率の測定値に基づき式(1)を満たすよう押出樹脂温度を調整して半導電性ポリアミド樹脂成形体を製造することにより、電気抵抗の均一性が高く、電気抵抗の通電上昇が小さい、具体的には、電気抵抗の通電上昇が1桁以内である半導電性ポリアミド樹脂成形体を得ることができる。
【0016】
ここで、本発明の製造方法の特徴である式(1)を説明するにあたり、表1の実施例1と比較例1とを比較する。実施例1と比較例1とは、ともにポリアミド樹脂に同量の微細炭素繊維を配合した半導電性ポリアミド樹脂組成物を、フラットダイを備えた押出成形装置を用いてフィルム状の半導電性ポリアミド樹脂成形体としたものであるが、製造条件において押出樹脂温度が異なっている。結果、実施例1と比較例1とは、ポリアミド樹脂に同量の微細炭素繊維を配合しているにもかかわらず、押出樹脂温度が比較例1に比べて低い実施例1の方が、電気抵抗の通電上昇が小さい。また、ポリアミド樹脂に同量の微細炭素繊維を配合した他の実施例と比較例とをそれぞれ比較しても同様の傾向を示す。この傾向から解るように、半導電性ポリアミド樹脂成形体の電気抵抗の通電上昇は、溶融押出し時の押出樹脂温度と密接に関係している。
【0017】
そして、本発明者らは、この傾向を定量化する為、各種パラメータと電気抵抗の通電上昇との関係性を検討した結果、ポリアミド樹脂の融点Tm(℃)と押出樹脂温度Tc(℃)との差を半導電性ポリアミド樹脂成形体の常用対数表記の体積抵抗率ρv(Ω・cm)の2乗で除算した値(以下、除算値と称する)が特定値以下であれば、電気抵抗の通電上昇が小さい半導電性ポリアミド樹脂成形体が得られることを見出し、本発明の製造方法に至った。
【0018】
つまり、本発明の製造方法は、ある製造条件において溶融押出しされた半導電性ポリアミド樹脂組成物を冷却手段により冷却固化した後、冷却固化された半導電性ポリアミド樹脂成形体の体積抵抗率を測定し、ポリアミド樹脂の融点と押出樹脂温度と体積抵抗率の測定値とに基づき除算値を算出し、除算値が式(1)の範囲を超える場合、除算値が式(1)の範囲内となるよう押出樹脂温度を調整することにより、電気抵抗の通電上昇が小さい半導電性ポリアミド樹脂成形体を得ることができるものである。なお、押出樹脂温度の調整は、除算値が式(1)の範囲内である場合、押出樹脂温度を変更しなくても良い。
【0019】
[原料調製]
本発明の製造方法における原料調製は、特に制限されるものではないが、例えば、ポリアミド樹脂、微細炭素繊維、及び必要に応じて用いられる添加剤を配合してドライブレンドする方法、ポリアミド樹脂を予め溶融混練し、ここに所定量の微細炭素繊維、及び必要に応じて用いられる添加剤を配合する方法、ポリアミド樹脂に所定量の微細炭素繊維、及び必要に応じて用いられる添加剤を配合して溶融混練する方法、ポリアミド樹脂に所定量の微細炭素繊維を配合し、次いで、溶融混練してマスターバッチを作製し、押出成型時にマスターバッチとポリアミド樹脂とを溶融混練する方法等が挙げられる。ポリアミド樹脂と微細炭素繊維とを均一に混合する観点から、ポリアミド樹脂に所定量の微細炭素繊維を配合して溶融混練する工程を有することが好ましい。
【0020】
溶融混練するための装置としては、バッチ式混練機、ニーダー、コニーダー、バンバリーミキサー、ロールミル、単軸もしくは二軸押出機等、従来公知の種々の混練機が挙げられる。これらの中でも、単軸押出機や二軸押出機は、混練能力や生産性に優れることから好ましい。
【0021】
溶融混練時の温度は、使用するポリアミド樹脂の種類や溶融粘度等により適宜選択でき、通常、185℃〜300℃の範囲であり、ポリアミド樹脂の劣化防止、及び成形性の観点から、好ましくは190〜280℃である。
【0022】
[押出成形]
本発明の製造方法は、ダイスを備えた押出機と、該ダイスから押し出される溶融樹脂を冷却固化するための冷却手段と、が配設された押出成形装置を用いる。ダイスとしては、従来公知の種々のダイスを用いることができ、特に制限されるものではないが、例えば、フラットダイ或いは環状ダイスが挙げられる。また、冷却手段としては、フラットダイを備えた押出成形装置の場合、冷却ロール等が挙げられ、環状ダイスを備えた押出成形装置の場合、インサイド或いはアウトサイドマンドレルやエアリング等が挙げられる。
【0023】
また、本発明の製造方法においては、冷却固化された半導電性ポリアミド樹脂成形体の体積抵抗率を測定するために、押出成型工程或いは押出成形工程の後工程などのいずれかの工程において、電気抵抗測定手段を設ける必要がある。電気抵抗測定手段は、溶融状態の半導電性ポリアミド樹脂組成物が冷却固化した後であればいずれの工程に設けても良く、特に制限されるものではないが、例えば、押出成形工程に設ける場合、押出成形装置における冷却手段の後に配設すれば良く、押出成形工程の後工程に設ける場合、押出成形装置を用いて半導電性ポリアミド樹脂成形体を製造した後、次工程に電気抵抗測定手段を配設すれば良い。なお、冷却固化直後の半導電性ポリアミド樹脂成形体は、体積抵抗率が安定していない可能性がある為、体積抵抗率の測定は、冷却固化後、1分以上経過した地点で行うことが好ましい。
【0024】
電気抵抗測定手段としては、従来公知の電気抵抗測定機を用いることができ、特に制限されるものではないが、例えば、電気抵抗測定手段を押出成形工程に設ける場合、特開平9−201870号公報、特開平9−201871号公報に記載の電気抵抗測定機が挙げられる。押出成形装置を用いて半導電性ポリアミド樹脂成形体を製造した後、次工程に電気抵抗測定手段を設ける場合、JIS K 6911に記載の電気抵抗測定機が挙げられる。
【0025】
押出樹脂温度とは、ダイス先端における溶融状態の半導電性ポリアミド樹脂組成物の温度である。ダイス先端における押出樹脂温度は、熱電対や放射温度計を用いて測定することができる。
【0026】
押出樹脂温度は、ポリアミド樹脂の種類により好適な範囲が異なる為、特に制限されるものではないが、例えば、ナイロン12の場合、融点は176〜180℃であり、その押出樹脂温度は、185〜280℃であり、好ましくは190〜270℃であり、さらに好ましくは195〜260℃である。ナイロン6、12共重合体の場合、融点は、共重合割合(ナイロン12の共重合割合は、通常20〜60重量%)にもよるが、130〜205℃であり、それに対応して押出樹脂温度を設定する。
【0027】
ダイスと冷却手段とのエアーギャップ(フラットダイ先端又は環状ダイス先端から冷却手段までの距離)は、特に制限されるものではないが、通常、10〜500mmである。エアーギャップは、20〜450mmであることが好ましく、30〜400mmであることがより好ましい。
【0028】
押出速度(或いは引取速度)は、特に制限されるものではないが、通常、0.5m/min以上である。押出速度は、1.0m/min以上であることが好ましく、1.5m/min以上であるとこがより好ましい。
【0029】
冷却手段における冷却温度は、溶融状態の半導電性ポリアミド樹脂組成物を冷却固化することが可能な温度に制御されていればよく、特に制限されるものではないが、例えば、冷却手段が冷却ロール又はマンドレルである場合、1〜50℃であることが好ましく、5〜40℃であることがより好ましく、10〜30℃であることがより好ましい。このような温度制御は冷却ロール又はマンドレル内部に温調した液体、気体を通すことで達成できる。冷却手段がエアーである場合、吹き出すエアー温度を上記範囲に設定し、溶融状態の半導電性ポリアミド樹脂組成物が冷却固化するようエアー量を適宜設定すれば良い。
【0030】
次に、本発明の半導電性ポリアミド樹脂成形体の製造方法の実施形態の一例について、
図1及び
図2に基づき説明する。
【0031】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の半導電性ポリアミド樹脂成形体の製造方法の実施形態に係る押出成形装置1を示す概略図である。本装置には、ホッパー2を備えた押出機3と、押出機3の下方に押出機3に連通してフラットダイ4が配設され、該フラットダイ4の下方には、該フラットダイから押し出される溶融樹脂を冷却固化するための冷却ロール5とタッチロール6とが配設され、該冷却ロール5と巻取りロールフィルム8との間に電気抵抗測定機7が配設されている。
【0032】
本装置を用いた本発明の製造方法の一例を説明する。まず、ポリアミド樹脂に微細炭素繊維を配合した半導電性ポリアミド樹脂組成物を用意し、これをホッパー2に投入し、押出機3に供給する。押出機3にて溶融され加圧された半導電性ポリアミド樹脂組成物はフラットダイ4へと供給され、フラットダイ4の先端から所定の樹脂温度でフィルム状に押出される。押出された直後の半導電性ポリアミド樹脂組成物は溶融状態であるが、冷却ロール5にて冷却固化されてフィルム状の半導電性ポリアミド樹脂成形体となる。ここで、半導電性ポリアミド樹脂成形体の体積抵抗率が冷却ロール5と巻取りロールフィルム8との間に配設された電気抵抗測定機7により測定される。本発明の製造方法では、測定される体積抵抗率及び押出樹脂温度が常に式(1)を満たすように押出機3やフラットダイ4の温度設定を制御する。本発明においては、このような手順により押出樹脂温度と体積抵抗率との関係が所定の条件を満たすよう制御することにより、電気抵抗の通電上昇が小さい半導電性ポリアミド樹脂成型体を得ることができる。なお、本発明においては、測定される体積抵抗率及び押出樹脂温度が式(1)を満たす範囲で、押出速度や冷却ロール5の冷却温度等、その他の製造条件を変更しても良い。半導電性ポリアミド樹脂成形体の形状は、特に限定されず、成形体の形状としては、フィルム、シートなどが挙げられる。
【0033】
図1ではタッチロールを用いて半導電性ポリアミド樹脂組成物を冷却ロール5に押し当てたが、タッチロール6は必須ではなく、必要に応じて使用すればよい。また、静電ピニング方法を用いて半導電性ポリアミド樹脂組成物を冷却ロール5に沿わせても良い。
【0034】
[第2の実施形態]
図2は、本発明の半導電性ポリアミド樹脂成形体の製造方法の別の実施形態に係る押出成型装置11を示す概略図である。本装置には、ホッパー12を備えた押出機13と、押出機13の下方に押出機13に連通して環状ダイス14が配設され、該環状ダイス14の下方には、該環状ダイス14から押し出される溶融樹脂をその外周に担持させて冷却固化するマンドレル15が配設され、該マンドレル15の下方に電気抵抗測定機16が配設されている。
【0035】
本装置を用いた本発明の製造方法を説明する。まず、ポリアミド樹脂に微細炭素繊維を配合した半導電性ポリアミド樹脂組成物を用意し、これをホッパー12に投入し、押出機13に供給する。押出機13にて溶融され加圧された半導電性ポリアミド樹脂組成物は環状ダイス14へと供給され、環状ダイス14からチューブ状に押出される。押出された直後の半導電性ポリアミド樹脂組成物は溶融状態であるが、マンドレル15の外周に担持させて冷却固化することによりチューブ状の半導電性ポリアミド樹脂成形体となる。ここで、半導電性ポリアミド樹脂成形体の体積抵抗率がマンドレル15の下方に配設された電気抵抗測定機16により測定される。本発明の製造方法では、測定される体積抵抗率及び押出樹脂温度が常に式(1)を満たすように押出機13や環状ダイス14の温度設定を制御する。本発明においては、このような手順により押出樹脂温度と体積抵抗率との関係が所定の条件をみたすよう制御することにより、電気抵抗の通電上昇が小さい半導電性ポリアミド樹脂成型体を得ることができる。なお、本発明においては、測定される体積抵抗率及び押出樹脂温度が式(1)を満たす範囲で、押出速度やマンドレル15の冷却温度等、その他の製造条件を変更しても良い。チューブ状の成形体は、所望の幅に切断することでベルト状の成形体とすることができる。
【0036】
また、ポリアミド樹脂と微炭素繊維とを含む半導電性ポリアミド樹脂成形体の製造においては、製造現場における季節変動の影響や昼夜の気温変化等の要因により、連続生産中に体積抵抗率が変動することがある。このため、本発明の半導電性ポリアミド樹脂成形体の製造においては、体積抵抗率を連続的に測定して、体積抵抗率が一定の基準範囲を超えないよう傾向管理し、得られた傾向管理の結果に基づき押出機やダイスの温度設定を調整するようフィードバックすることで、電気抵抗の通電上昇が小さい半導電性ポリアミド樹脂成形体を安定的に連続生産することができる。
【0037】
なお、これらの説明は単層に関するものであったが、2層の場合は更に別の押出機を配設し、2層用のダイスにそれぞれの押出機から溶融状態の組成物を供給し、ダイスから2層同時に押し出すことで得ることができる。また、3層以上の時は、層数に応じ相応に押出機を準備すれば良い。
【0038】
[半導電性ポリアミド樹脂組成物]
次に、本発明に用いられる半導電性ポリアミド樹脂組成物について説明する。本発明の半導電性ポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂と微細炭素繊維とを含み、半導電性領域の体積抵抗率を示すものである。なお、ここでいう半導電性領域とは、温度23℃、相対湿度50%RHにおける体積抵抗率が10
6〜10
13Ω・cmである。
【0039】
本発明に用いるポリアミド樹脂とは、ジアミンとジカルボン酸との重縮合、ω−アミノカルボン酸の自己縮合、ラクタム類の開館重合などによって得られ、十分な分子量を有する熱可塑性樹脂である。
【0040】
ポリアミド樹脂としては、例えば、ナイロン6、ナイロン4、ナイロン6,6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6,10、ナイロン6,12、ナイロン6/6,6、ナイロン6/6,6/12、ナイロン6,MXD(MXDはm−キシリレンジアミン成分を表す)、ナイロン6,6T(Tはテレフタル酸成分を表す)、ナイロン6,6I(Iはイソフタル酸成分を表す)などが挙げられる。
【0041】
また、ジアミンとジカルボン酸の重縮合により得られるポリアミド樹脂の場合、ジアミンの具体例としては、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、1,9−ノナンジアミン、2−メチル−1,8−オクタンジアミン、イソホロンジアミン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミンなどの脂肪族および芳香族ジアミンが挙げられる。ジカルボン酸の具体例としては、アジピン酸、スリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ダイマー酸、シュウ酸、シュウ酸エステル等の脂肪族、脂環族、芳香族ジカルボン酸が挙げられる。
【0042】
これらの中でも、吸水率が低いポリアミド樹脂が好ましく、吸水率が低いポリアミド樹脂は、微細炭素繊維の分散性に優れるとともに、湿潤環境における電気抵抗の安定性に優れる。ポリアミド樹脂の吸水率は、1.5%以下であることが好ましく、1.0%以下であることがより好ましい。吸水率が1.5%以下のポリアミド樹脂としては、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6,10、ナイロン6,12などが挙げられ、吸水率が1.0%以下のポリアミド樹脂としては、ナイロン11、ナイロン12が挙げられる。なお、これらのポリアミド樹脂は単独、或いは2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0043】
本発明に用いる微細炭素繊維とは、繊維の芯部に中空空間を有するものであり、繊維径が小さく、アスペクト比の高い繊維状のものが好ましく、カーボンナノチューブと通称されるものも含まれる。具体的には、平均繊維径が1nm〜200nm、平均繊維長が0.1μm〜100μm、アスペクト比が10〜10000の範囲内であることが好ましい。
【0044】
微細炭素繊維としては、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ(特開平1−270543、特公平3−64606、特公平3−77288、特開2004−299986)、カップ積層型カーボンナノチューブ(特開2003−73928、特開2004−360099)、プレートレット型カーボンナノファイバー(特開2004−300631)、釣鐘状構造単位集合体(特開2012−46864、特開2011−47081、特開2011−46852)などが挙げられる。これらの中でも、釣鐘状構造単位集合体は、ファンデルワールス力の弱い力で結合している釣鐘状構造単位の集合体の連結部が、混練や押出しにおける剪断力によりその接合部で容易に分離し、微炭素繊維同士が絡まり合った凝集物となりにくく、分散性に優れることから好ましい。
【0045】
本発明の半導電性ポリアミド樹脂組成物におけるポリアミド樹脂(A)と微細炭素繊維(B)との配合割合は、特に制限されるものではないが、ポリアミド樹脂(A)80〜99重量%に対して、微細炭素繊維(B)を20〜1重量%含むことが好ましく、ポリアミド樹脂(A)90〜99重量%に対して、微細炭素繊維(B)を10〜1重量%含むことがより好ましい。微細炭素繊維(B)の配合量が20重量%を超えると半導電性ポリアミド樹脂組成物は押出適正に劣る為、得られる成形体の表面が平滑でなくなる恐れがある。また、微細炭素繊維(B)の配合量が1重量%未満では、半導電性領域の体積抵抗率(10
6〜10
13Ω・cm)の性能を付与することが困難となる。
【0046】
本発明の半導電性ポリアミド樹脂組成物には、必要に応じてその特性を損なわない範囲で他の樹脂や添加剤を配合してもよい。添加剤としては、イオン伝導性材料、カーボンブラックや金属酸化物等の電子伝導性材料、酸化防止剤、熱安定剤、有機フィラーや無機フィラー、可塑剤、滑剤、相溶化剤、加工助剤、顔料等が挙げられる。これらの添加剤は、それぞれの目的に応じて適量を使用することができる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の製造方法について、実施例によりさらに詳しく説明する。尚、実施例において行った物性の測定方法は次の通りである。
(1)溶融粘度
長さ10mm×直径1mmのダイを取り付けた島津製作所製高化式フローテスターを用い、測定温度200℃、荷重100kgの条件にて溶融粘度を測定した。尚、その単位を(poise)として表した。
(2)電気抵抗(体積抵抗率)及び電気抵抗の均一性
URSプローブを取り付けたハイレスタUP(MCP−HT450、ダイヤインスツルメンツ社製)を用い、100mm×1000mmのサンプルをTD方向に3点、MD方向に20点の合計60点で体積抵抗率を測定した。上記60点の体積抵抗率の測定値の平均値を求め、それをサンプルの体積抵抗率とした。(測定条件:温度23℃、相対湿度50%RH、荷重2kg、印加電圧500V、10秒)また、体積抵抗率の測定値の最大値と最小値との差(バラつき)を求め、以下の評価基準に基づき評価した。
○:体積抵抗率のバラつきが1.0桁以内
×:体積抵抗率のバラつきが1.0桁を超える
(3)電気抵抗(体積抵抗率)の通電上昇
下記装置を用い、サンプルに500Vの電圧を5時間連続で印加し、所定時間毎に電流値を読み取り、下記式を用いて所定時間毎の体積抵抗率を算出した。次いで、得られた体積抵抗率を常用対数表記に換算し、電圧印加後の常用対数表記の体積抵抗率から電圧印加前の常用対数表記の体積抵抗率で引くことにより算出した。
・電源:MODEL 610C(Trek製)、印可電圧:500V
・電極:P−618(主電極外径50mm、ガード電極内径70mm(両側導電ゴム付)、川口電機製作所製)
・電流計:DIGITAL MULTIMETER(IWATSU製)
ρv=(V[V]/I[A])×(W[cm]×L[cm])/t[cm]
[ここで、V=印加電圧[V]、I=測定電流値[A]、W×L=主電極面積[cm
2]=19.625cm
2、t=厚さ[cm]]
【0048】
原料としては、下記のものを用いた。
<ポリアミド樹脂(A)>
・ポリアミド樹脂(A−1)[ナイロン12、Tm:178℃、比重:1.02、溶融粘度:1700poise]
・ポリアミド樹脂(A−2)[ナイロン12、Tm:178℃、比重:1.02、溶融粘度:5400poise]
<微炭素繊維(B)>
・微細炭素繊維(B)[釣鐘状構造単位集合体、平均繊維径:11nm、DBP吸油量:330ml/100g、比表面積:230m
2/g]
【0049】
[マスターバッチの調製]
ポリアミド樹脂(A−1)90重量%と微細炭素繊維(B)10重量%とをスクリュー径38φmm二軸混練機押出機を用いて溶融混練し、微細炭素繊維10重量%のマスターバッチを調製した。
【0050】
[比較例1]
表1に示した配合比となるよう、上記マスターバッチとポリアミド樹脂(A−2)とを
ドライブレンドし、得られた混合物をフラットダイ(押出樹脂温度:215℃、リップ幅150mm)を備えた単軸押出機に供給し、溶融状態でフィルム状に押出した(押出速度:1.3m/min)。そして、このフィルム状の溶融樹脂を表面が鏡面仕上げされているチルロール(表面設定温度:30℃、エアーギャップ:100mm)上に吐出し、タッチロールで押しつけながら冷却し、厚さ170μmのフィルム状の半導電性ポリアミド樹脂成形体を得た。得られたフィルム状成形体の体積抵抗率、電気抵抗の均一性、電気抵抗の通電上昇の測定結果を表1に示す。
【0051】
[実施例1]
比較例1にて得られたフィルム状成形体の体積抵抗率を測定し、体積抵抗率の測定値に基づき式(1)を満たすよう押出樹脂温度を210℃に調整し、厚さ170μmのフィルム状の半導電性ポリアミド樹脂成形体を得た。得られたフィルム状成形体の体積抵抗率、電気抵抗の均一性、電気抵抗の通電上昇の測定結果を表1に示す。
【0052】
[実施例2乃至5、比較例2乃至5]
比較例1と同様にして、表1に示した配合比及び製造条件で比較例2乃至5のフィルム状成形体を得た。さらに、比較例2乃至5のフィルム状成形体の体積抵抗率を測定し、体積抵抗率の測定値に基づき式(1)を満たすよう押出樹脂温度を調整し、実施例2乃至5のフィルム状成形体を得た。得られた各フィルム状成形体の体積抵抗率、電気抵抗の均一性、電気抵抗の通電上昇の測定結果を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
表1に示すように、式(1)を満たすよう押出樹脂温度を調整した実施例1乃至5の半導電性ポリアミド樹脂成形体は、半導電性領域の電気抵抗の均一性が高く、電気抵抗の通電上昇が小さい、具体的には、電気抵抗の通電上昇が1桁以内となる結果を示した。一方、表1に示すように、比較例1乃至5の半導電性ポリアミド樹脂成形体は、実施例の同量の微細炭素繊維を含む半導電性ポリアミド樹脂成形体に比べ、電気抵抗の通電上昇が1桁を超える結果をした。
【0055】
[実施例6]
表2に示した配合比となるよう、上記マスターバッチとポリアミド樹脂(A−2)とをドライブレンドし、得られた混合物を環状ダイス(設定温度:205℃、押出径50φmm)を備えた単軸押出機に供給し、溶融状態でチューブ状に押出した(押出速度:3.0m/min)。そして、このチューブ状の溶融樹脂をマンドレル(表面設定温度:25℃、エアーギャップ:400mm)の外周に担持させて冷却固化し、厚さ140μmのチューブ状の半導電性ポリアミド樹脂成形体を得た。得られたチューブ状成形体の電気抵抗の均一性、電気抵抗の通電上昇の測定結果を表2に示す。
【0056】
[実施例7]
実施例6にて得られたフィルム状成形体の体積抵抗率を測定し、体積抵抗率の測定値に基づき式(1)を満たすよう押出樹脂温度を200℃に調整し、厚さ140μmのフィルム状の半導電性ポリアミド樹脂成形体を得た。得られたフィルム状成形体の体積抵抗率、電気抵抗の均一性、電気抵抗の通電上昇の測定結果を表2に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
表2に示すように、式(1)を満たす製造条件で製膜した実施例6の半導電性ポリアミド樹脂成形体は、半導電性領域の電気抵抗の均一性が高く、電気抵抗の通電上昇が小さい、具体的には、電気抵抗の通電上昇が1桁以内となる結果を示した。また、実施例6の製造条件よりも押出樹脂温度が低い製造条件で製膜した実施例7の半導電性ポリアミド樹脂成形体は、実施例6の半導電性ポリアミド樹脂成形体よりも電気抵抗の通電上昇が小さい結果を示した。
【0059】
以上の如く、本発明によれば、式(1)を満たすよう、押出樹脂温度を調整することにより、電気抵抗の均一性が高く、電気抵抗の通電上昇が小さい電子写真用シームレスベルトとして好適に使用できる半導電性ポリアミド樹脂成形体を得ることができる。