【解決手段】強化外装材10が防護複合シート20と高靭ボード30とを含み、防護複合シート20は高強度シート21と、高強度シート21の側面全面にシート状に形成した接着防護層22とを具備し、接着防護層22を介して防護複合シート21と高靭ボード30とを一体化する。
前記高強度シートは積層した複数の高強度シートと、複数の接着防護層とを具備し、前記接着防護層を介して積層した複数の高強度シートの間を一体化したことを特徴とする、請求項1に記載の強化外装材。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の火山噴火時の減災技術にはつぎのような問題点を有する。
<1>山岳地帯は重機の導入が困難な場合が多い。
そのような山岳地帯へ大型の重量物である退避壕を運搬して設置するには、搬送コストが非常に嵩む。
<2>既存の退避壕は数十年以上前の噴火後に設置したものが大半で、経年劣化が進行している。建て替えが計画されているものの、多数の退避壕の建て替えに多くの時間とコストがかかるために、その実現速度が遅い。
<3>既存の山小屋を補強して、噴火時の防護機能を高めることが試みられている。
例えば屋根をコンクリート板、鋼板等の高強度の補強板で被覆する場合、これらの補強板を山小屋へ搬入して設置する作業や、現場の形状に合せて切断する作業に多くの時間とコストがかかるだけでなく、工事期間中は山小屋を利用できない。
<4>殊に、山小屋は建物強度が低いことから、屋根に搭載できる補強板の重量に制約があり、重量の重たい補強板は適用が難しい。
<5>重たい補強板を屋根に搭載するには、建物自体を補強する必要があるために補強コストがさらに高くつく。
<6>補強板が薄い金属板である場合は、火山ガスによる腐食の問題が残る。
<7>山小屋の防護機能を高める手段として、屋根全面を高強度の軽量シートで被覆して防護することが考えられる。
この防護方法は現場への資材搬入が容易であるものの、屋根材そのものの強度が低いために、噴石が衝突すると屋根材が破損してしまい、軽量シートが保有する強度を十分に発揮することができない。
<8>更に軽量シートを屋根材に固着するために釘やビス等の固定具で固定すると、固定部に応力が集中して軽量シートが破れやすく、また軽量シートを接着しようとしても、凹凸の多い屋根材の表面に軽量シートを貼り付けることが技術的に難しい。
<9>山小屋の防護機能を高める手段として、既存の屋根材の下地に非常に厚い(1m以上)発泡スチロール製の緩衝材を介在して衝撃を緩和することが考えられる。
噴石は高温であることから緩衝材が溶ける問題や、屋根厚が非常に厚くなるので風荷重に対する新たな対策を講じなければならない。
<10>国立公園や国定公園内に建てられた山小屋の場合は、景観や動植物の生息・生育環境を保全する観点から公園内に持ち込める資材に規制がある。特に微生物や種子が混入している可能性がある細骨材や粗骨材等の持ち込みは禁止されており、山小屋補強用の資材の調達範囲が狭い。
<11>2014年の御嶽山噴火では甚大な被害を受けた。その後も日本列島で火山の噴火が相次いでいることから、避難施設の早期拡充が喫緊の課題となっている。
その一方で、より安全性の高い避難施設への建て替えには莫大な費用と長期間を要し、又、既設の山小屋の安全性をより高めるための経済的で、かつ実現可能な防護技術が未だ提案されていない。
【0005】
本発明は既述した点に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、噴石等の飛来物に対する耐衝撃性能が格段に高い強化外装材及び避難建物の防護構造を提供することにある。
さらに本発明の目的は、避難建物の構造に負荷をかけずに低コストで避難建物を防護できる、強化外装材及び避難建物の防護構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、避難建物に外装して取り付ける強化外装材であって、防護複合シートと、前記防護複合シートの一方の面の全面に接着して一体化した高靭ボードとを含み、前記防護複合シートは高強度シートと、高強度シートの側面全面に亘ってシート状に形成した接着防護層とを具備し、前記接着防護層を介して防護複合シートと高靭ボードとを一体化した複合体として構成することを特徴とする。
本発明の他の実施形態において、前記高強度シートは積層した複数の高強度シートと、複数の接着防護層とを具備し、前記接着防護層を介して積層した複数の高強度シートの間を一体化する。
本発明の他の実施形態において、前記接着防護層は含浸性の樹脂系接着剤で構成する。
本発明の他の実施形態において、前記高強度シートが2方向性の強化繊維シートで構成する。
本発明の他の実施形態において、保護層を更に含み、該保護層が高強度シートの露出面を被覆してもよい。
本発明は、避難建物の外面に強化外装材を取り付けて防護する避難建物の防護構造であって、前記した何れかの強化外装材を使用し、高強度シート側を避難建物へ向けて前記強化外装材を避難建物の外面に取り付けたことを特徴とする。
強化外装材は避難建物の屋根、又は外壁に外装して取り付ける。
避難建物の外面に凹凸のある場合は、凹部に耐熱性の間詰材を配置して強化外装材を外装して取り付けるとよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明は少なくともつぎのひとつの効果を奏する。
<1>軽量、低コストで、噴石等の飛来物に対する耐衝撃性能が格段に高い強化外装材を使用することで、避難施設における火山噴火対策の早期実現が可能となる。
<2>強化外装材が軽量であるため現場への搬入が容易であり、現場における強化外装材の取扱性や切断性にも優れる。
したがって、避難建物の骨格を補強せずに短期間のうちに、低コストで避難施設を強化することができる。
<3>強化外装材は防護複合シートと高靭ボードを接着して分離不能な一体構造を呈することで、防護複合シートと高靭ボードが個々に有する性能以上の貫通抵抗を発揮できる。
殊に、防護複合シートがサンドイッチ構造を呈していて、しかも接着防護層の一部が高強度シートの組織内に含浸して高強度シートを補強するので、単に複数の高強度シートを接着せずに重ね合せた構造体と比べて、飛来物に対する貫通抵抗力が格段に大きくなる。
したがって、強化外装材を取り付けるだけの作業で屋根や外壁が破損し難くなり、避難建物の安全性を格段に高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本発明について説明する。
【0010】
<1>前提とする避難建物
本発明が前提とする避難建物は、既設の避難建物を対象とするが、新設の避難建物も含むものである。
更に、本発明が前提とする避難建物は山小屋に限定されるものではなく、噴石被害が想定される神社仏閣、一般住宅等を含むものであり、屋根と壁を有する非コンクリート製の建物すべてを含む。
【0011】
<2>強化外装材
本発明に係る強化外装材10は、防護複合シート20と、防護複合シート20の一方の面に接着して一体化したボード状の高靭ボード30と、防護複合シート20の他方の面に被覆した保護層40とを具備する。
尚、保護層40は必須の部材ではなく省略する場合もある。
強化外装材10の平面サイズは特に制限はないが、作業員が人力で取扱い可能なサイズで、製造環境の整った工場で高品質に製造する。
【0012】
<3>防護複合シート
飛来物の貫通抵抗部材として機能する防護複合シート20は、複数の高強度シート21と、高強度シート21の側面全面に所定の層厚で塗布して形成した接着防護層22とを具備する。
本例では間に接着防護層22を介して2枚の高強度シート21,21を貼り合せた形態を示すが、3枚以上の高強度シート21を貼り合せて防護複合シート20を形成してもよい。或いは、高強度シート21を単数で構成してもよい。
【0013】
<3.1>高強度シート
高強度シート21は軽量で耐衝撃性に優れた1方向性、又は2方向性を有するシート状、又はネット状の強化繊維シートである。
高強度シート21の素材としては、軽量で耐衝撃性(飛来物の貫通抵抗が大きい)に優れた素材であれば使用可能であり、例えば防弾チョッキ等の素材として用いられるアラミド繊維、スペクトラ繊維、ザイロン(登録商標)等を使用できる。
高強度シート21に2方向性の繊維シートを用いることで、飛来物に対する貫通抵抗が高くなる。
1方向性繊維シートを用いる場合には、2枚の繊維シートを交差させて積層してもよい。
【0014】
<3.2>接着防護層
積層した高強度シート21,21の間と、高強度シート21と高靭ボード30の間に介装した複数の接着防護層22は、シート状の層であり、高強度シート21の間だけでなく、高靭ボード30を含めて一体化する。
高強度シート21の全面に亘って含浸性の樹脂系接着剤を略均一厚に塗布して接着防護層22を形成する。
接着防護層22は接着機能だけでなく、紫外線や高熱等に対して高強度シート21を保護するとともに、飛来物等に対して高強度シート21を防護する保護防護層としての機能と、高強度シート21の組織内に含浸して繊維間を結合して補強する機能を有する。
【0015】
<3.2.1>接着防護層のサンドイッチ構造
接着防護層22は、積層した高強度シート21,21の間、及び高強度シート21と高靭ボード30の間に夫々介装されたサンドイッチ構造(拘束構造)を呈する。
接着防護層22をサンドイッチ構造としたのは、接着防護層22を両側から挟持することにより接着防護層22の拘束効果を高めて、飛来物等に対する接着防護層22自体の貫通抵抗を高めるためである。すなわち、最終的に強化外装材10の耐衝撃性能を高めるためである。
【0016】
<3.2.2>接着防護層の素材
接着防護層22としては公知の樹脂系含浸接着剤を使用でき、高強度シート21の素材に応じて適宜選択する。
高強度シート21がアラミド繊維の場合は、硬化後に可撓性を有するエポキシ系含浸樹脂を適用できる。
【0017】
<3.2.3>接着防護層の層厚
接着防護層22が上記した複数の機能を発揮するためには、接着防護層22の層厚が重要である。
接着防護層22の層厚が薄すぎると上記した防護機能を十分に発揮できず、その層厚が厚すぎると不経済であることから、接着防護層22の層厚は高強度シート21のシート厚とほぼ同じ厚さにすることが望ましい。
本発明における接着防護層22の層厚とは、高強度シート21に含浸した分を含まず、高強度シート21の表面を起点とした厚さ(塗布厚)を指す。
【0018】
<4>高靭ボード
高靭ボード30は紫外線、高熱、飛来物等から高強度シート21を保護する保護材(防護層)であると共に、噴石等の飛来物に対する貫通抵抗部材として機能する高靭性のボードである。
高靭ボード30としては、薄さ、軽さ、及び高い靭性を併有するセメントモルタル、又はコンクリートを主体とした矩形のモルタルボード、セメントボードが適用可能であり、必要に応じてボード内部に高強度なビニロン繊維を混入したり、メッシュ状の鉄製又は繊維製の補強ネットを埋設した高強度ボードを使用する。
高靭ボード30は、例えばその厚さが8〜12mmのセメントボードである場合に重量が約12kg/m
2となり、6mm厚の鋼板と比べて1/2〜1/3程度と軽量である。
高靭ボード30の平面サイズは、高強度シート21の平面サイズと同一である。
【0019】
<5>保護層
保護層40は露出した高強度シート21を保護するもので、例えばポリマーセメントモルタル、又は特殊塗料を使用することができる。
【0020】
[強化外装材10の使用方法]
図3,4を参照しながら強化外装材10を避難建物の屋根50に外装して防護する場合について説明する。
【0021】
<1>強化外装材による屋根の被覆
図3はスレート等の屋根材51を取り外して露出した下地材52の上面に複数の強化外装材10を敷き並べて被覆した後に、強化外装材10の上面に屋根材51を戻して被覆した形態を示す。
本例では、強化外装材10の防護複合シート20側を下地材52に向けて配置し、高靭ボード30側を屋根材51に向けて配置する。
強化外装材10の固定手段としては、強化外装材10に釘やビス等を直接打ち込んで固定してもよいが、
図3に示すような断面T字形、又は断面L字形の取付具53を介して強化外装材10の周縁部を固定してもよい。
単位面積当たりの強化外装材10の重量が軽量であるから、屋根10の全面に取り付けても避難建物の骨格構造要素(柱や梁等)を補強する必要はない。
強化外装材10の取付工事は避難建物を利用しながら行える。
更に、強化外装材10が軽量であるから現場への搬入が容易であるだけでなく、現場の形状に合せて強化外装材10の切断加工も容易に行える。
【0022】
<2>紫外線の保護作用
図4を参照して説明すると、屋根50に設置した強化外装材10は防護複合シート20を構成する高強度シート21の上面を接着防護層22と高靭ボード30が被覆した積層構造となっている。
そのため、高靭ボード30と接着防護層22が遮蔽部材となって、長期間に亘って紫外線から高強度シート21を保護できる。
【0023】
<3>衝撃の拡散作用
屋根50に噴石等の飛来物が飛来して高靭性で硬質の強化外装材10の一部に衝撃Fが作用すると、衝撃Fは高靭ボード30を通じて防護複合シート20の全域に分散して下地材52へ伝達される。
高靭ボード30が存在しない屋根50に衝撃Fが作用した場合と比べて、下地材52への衝撃Fの分散伝達範囲が広範となって、下地材52が破損し難くなる。
【0024】
<4>曲げ変形の抑制作用
強化外装材10に衝撃Fが作用すると強化外装材10が下向きに変形する。
強化外装材10を構成する高靭ボード30は高靭性により曲げによる破壊がし難く、更に
図4に左右の矢印で示すように高靭ボード30の引張側に相当する底面に一体に貼付した防護複合シート20が引張抵抗部材として機能する。
そのため、防護複合シート20と高靭ボード30とを接着せずに積層しただけの構造と比べて、強化外装材10による下方へ向けた曲げ変形を効果的に抑制する。
尚、飛来物が噴石で高温を有している場合には、高靭ボード30が高熱を遮断して防護複合シート20を高温から護る。
【0025】
<5>貫通抑制作用
強化外装材10が防護複合シート20と高靭ボード30とを一体化した複合体で構成されている。
そのため、飛来物は一体化した高靭ボード30の貫通抵抗及び防護複合シート20の貫通抵抗を受けて下地材21に作用する衝撃Fを減衰できる。
【0026】
特に、防護複合シート20と高靭ボード30とを接着せずに積層しただけの構造であると、飛来物の貫通抵抗力は防護複合シート20と高靭ボード30が個々に有する貫通抵抗の総和を超えることがない。
本発明のように防護複合シート20と高靭ボード30を接着して分離不能な一体構造とすることで、防護複合シート20と高靭ボード30が互いに補強し合うこととなる。
したがって、強化外装材10では、防護複合シート20と高靭ボード30が個々に有する貫通抵抗の総和以上の貫通抵抗力を生成する。
【0027】
殊に、防護複合シート20が高強度シート21とシート状の接着防護層22とを積層したサンドイッチ構造を呈しており、しかも接着防護層22の一部が高強度シート21の組織内に含浸して高強度シート21を補強している。
そのため、高強度シート21は接着防護層22が含浸していないシートと比べてより大きな貫通抵抗を示すと共に、高強度シート21で拘束された複数の接着防護層22も貫通抵抗を発揮する。高強度シート21及び接着防護層22は構造的に一体の関係にあるだけでなく、飛来物の貫通抵抗力に対しても相乗的に効果を発揮し合う関係にある。
したがって、接着せずに単に複数の高強度シートを重ね合せたものと比べて、防護複合シート20による飛来物の貫通抵抗力は格段に大きくなる。
飛来物は高靭ボード30に食い込む事があるが、防護複合シート20を容易に貫通することはない。
このように屋根50を強化外装材10で覆うだけの簡単な防護構造により、飛来物に対する避難建物の屋根50の防護性能を格段に高めることが可能となる。
【0028】
[他の実施形態]
強化外装材10の設置場所は、避難建物の屋根50以外に、噴石等の飛来物の貫通が予想される避難建物の外壁表面や床の上面等に設置してもよい。
又、強化外装材10の設置形態としては、屋根材51や外壁材の表面に直接強化外装材10を取り付けて防護することも可能である。
避難建物の外表面に凹凸がある場合は、その凹部内に凹部と同形の耐熱間詰材を間詰めしてその表面をフラットにしてから強化外装材10を取り付けるとよい。
強化外装材10はその表裏の向きを逆にして使用してもよい。