【課題】第1軸線を中心軸線とする第1伝動部材と、第1軸線回りに回転可能な主軸部、および第2軸線を中心軸線とする偏心軸部が一体に連結された偏心回転部材と、偏心軸部に回転自在に支持される第2伝動部材と、第1軸線を中心軸線として第2伝動部材に対向する第3伝動部材と、第1,第2伝動部材間の第1変速機構と、第2,第3伝動部材間の第2変速機構とを備えた伝動装置において、偏心回転系のためのバランスウェイトを設けても、装置の小型軽量化を達成する。
【解決手段】第2伝動部材8は、偏心軸部6eに回転自在に支持される第1半体8aと、第1半体にバランスウェイトWの収容空間SPを挟んで対向する第2半体8bと、収容空間SPを囲むようにして両半体間を連結する連結部材8cとを備え、連結部材8cは、バランスウェイトWを収容空間SPに挿入する作業を可能とする第1作業窓11を有する。
前記バランスウェイト(W)が前記主軸部(6j)に相対回転不能に嵌合されると共に、そのバランスウェイト(W)の主軸部(6j)からの離脱を阻止する抜け止め部材(10)が該主軸部(6j)に装着され、前記第2半体(8b)は、前記抜け止め部材(10)の前記主軸部(6j)への装着作業を可能とする第2作業窓(12)を有することを特徴とする、請求項1に記載の伝動装置。
前記第2伝動部材(8)は、前記両半体(8a,8b)及び前記連結部材(8c)が一体成形された焼結品で構成されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の伝動装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが特許文献1の伝動装置では、第1伝動部材(固定板3)の径方向内側に形成したウェイト収容空間にバランスウェイト12cを収容し、そのバランスウェイト12cが、第2伝動部材4よりも軸方向外方側で偏心回転部材12の主軸部12bに隣接固定される。そのため、バランスウェイト12cの周囲には、第1,第2伝動部材3,4間に介装される第1変速機構6,7,10が存在することになるから、偏心回転部材12の偏心軸部12dと第2伝動部材4との総合重心の回転半径よりも十分大なる回転半径を有したバランスウェイトの設置は、第1変速機構に邪魔されて困難となる。従って、バランスウェイトに働く遠心力を十分に確保しようとすると、ウェイトの重量を大きく設定せざるを得ず、差動装置の軽量化を図る上で不利となる。
【0006】
また、上記の如く第2伝動部材4よりも軸方向外方側で偏心回転部材12の主軸部12bに隣接固定されるバランスウェイト12cは、それの重心が必然的に偏心軸部12dと第2伝動部材4との総合重心に対して軸方向に少なからずオフセットするので、その両重心に作用する逆向きの遠心力が、偏心回転部材12及び第2伝動部材4を含む偏心回転系に対し少なからず偶力を発生させ、これが振動発生要因となる。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、上記問題を一挙に解決することができる伝動装置及び差動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、第1軸線を中心軸線とするように配置された第1伝動部材と、前記第1軸線回りに回転可能な主軸部、および前記第1軸線から偏心した第2軸線を中心軸線とする偏心軸部が互いに一体に連結された偏心回転部材と、前記偏心軸部に回転自在に支持される第2伝動部材と、前記第1軸線を中心軸線とするように配置されると共に前記第2伝動部材に対向する第3伝動部材と、前記第1及び第2伝動部材間で変速しつつトルク伝達可能な第1変速機構と、前記第2及び第3伝動部材間で変速しつつトルク伝達可能な第2変速機構と、前記第1軸線を挟んで前記偏心軸部及び前記第2伝動部材の総合重心とは逆位相であり且つその総合重心の回転半径よりも大なる回転半径を有していて前記主軸部に設けられるバランスウェイトとを備え、前記第2伝動部材は、前記偏心軸部に回転自在に支持される第1半体と、その第1半体に前記バランスウェイトの収容空間を挟んで対向する第2半体と、その収容空間を囲むようにして両半体間を一体的に連結する連結部材とを備えていて、第1半体と前記第1伝動部材との間に前記第1変速機構が、また第2半体と前記第3伝動部材との間に前記第2変速機構がそれぞれ設けられており、前記連結部材は、前記バランスウェイトを前記収容空間に挿入する作業を可能とする第1作業窓を有することを第1の特徴とする。
【0009】
また本発明は、第1の特徴に加えて、前記バランスウェイトが前記主軸部に相対回転不能に嵌合されると共に、そのバランスウェイトの主軸部からの離脱を阻止する抜け止め部材が該主軸部に装着され、前記第2半体は、前記抜け止め部材の前記主軸部への装着作業を可能とする第2作業窓を有することを第2の特徴とする。
【0010】
また本発明は、前記第1又は第2の特徴に加えて、前記第2伝動部材は、前記両半体及び前記連結部材が一体成形された焼結品で構成されることを第3の特徴とする。
【0011】
また本発明は、前記第1〜第3の何れかの特徴を有する伝動装置において、
前記第1変速機構は、第1伝動部材の、第1半体との対向面に在り且つ第1軸線を中心とする波形環状の第1伝動溝と、第1半体の、第1伝動部材との対向面に在り且つ第2軸線を中心とする波形環状で波数が第1伝動溝とは異なる第2伝動溝と、第1及び第2伝動溝の複数の交差部に介装され、第1及び第2伝動溝を転動しながら第1伝動部材及び第1半体間の変速伝動を行う複数の第1転動体とを有し、また前記第2変速機構は、第2半体の、第3伝動部材との対向面に在り且つ第2軸線を中心とする波形環状の第3伝動溝と、第3伝動部材の、第2半体との対向面に在り且つ第1軸線を中心とする波形環状で波数が第3伝動溝とは異なる第4伝動溝と、第3及び第4伝動溝の複数の交差部に介装され、第3及び第4伝動溝を転動しながら第2半体及び第3伝動部材間の変速伝動を行う複数の第2転動体とを有することを第4の特徴とする。
【0012】
また本発明は、前記第4の特徴を有する伝動装置を利用した差動装置であって、
動力を入力されて前記第1軸線回りに前記第1伝動部材と一体に回転するデフケースを備え、このデフケースには、主軸部に接続される第1ドライブ軸と、第3伝動部材に接続される第2ドライブ軸とが回転可能に支持され、第1伝動溝の波数をZ1、第2伝動溝の波数をZ2、第3伝動溝の波数をZ3、第4伝動溝の波数をZ4としたとき、次式
(Z1/Z2)×(Z3/Z4)=2 が成立することを第5の特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の第1の特徴によれば、第2伝動部材は、偏心回転部材の偏心軸部に回転自在に支持される第1半体と、その第1半体にバランスウェイトの収容空間を挟んで対向する第2半体と、その収容空間を囲むようにして両半体間を一体的に連結する連結部材とを備えていて、第1半体と前記第1伝動部材との間に第1変速機構が、また第2半体と前記第3伝動部材との間に第2変速機構がそれぞれ設けられ、バランスウェイトは、第1軸線を挟んで偏心軸部及び第2伝動部材の総合重心とは逆位相であり且つその総合重心の回転半径よりも大なる回転半径を有していて偏心回転部材の主軸部に設けられるので、バランスウェイト延いては伝動装置の軽量化を図りながら、偏心軸部及び第2伝動部材の総合重心に作用する遠心力と、バランスウェイトの重心に作用する遠心力とを略釣り合わせることができて、偏心軸部及び第2伝動部材の偏心回転による振動発生を効果的に抑えることが可能となる。しかも第1,第2半体の重量配分により、偏心軸部と第2伝動部材との総合重心の軸方向位置を容易に調整できるため、その総合重心の、バランスウェイト重心に対する軸方向オフセット量をゼロ又はそれに近づけることが可能となり、従って、その両重心に作用する遠心力に因る偶力の発生をゼロ又はそれに近い値に抑えることができて、その偶力に起因した振動の発生を抑制又は低減可能となる。
【0014】
その上、第1,第2半体間の連結部材は、バランスウェイトを前記収容空間に挿入する作業を可能とする第1作業窓を有するので、例えば両半体及び連結部材からなる第2伝動部材を予め製作して偏心回転部材の偏心軸部に装着した後でも、第1作業窓を通してバランスウェイトを連結部材内側の収容空間に装入して主軸部に取付け可能となり、またこの第2伝動部材の製作を予め行い得ることで、製作後のバリ取りや洗浄等の後処理を、バランスウェイト等の他物に影響を及ぼすことなく実行可能になり、好都合である。しかも上記第1作業窓が連結部材の肉抜き孔となることから、第2伝動部材の軽量化に寄与することができる。
【0015】
また本発明の第2の特徴によれば、バランスウェイトが主軸部に相対回転不能に嵌合されると共に、そのバランスウェイトの主軸部からの離脱を阻止する抜け止め部材が該主軸部に装着され、第2半体は、抜け止め部材の主軸部への装着作業を可能とする第2作業窓を有するので、両半体間の連結部材の第1作業窓を通してバランスウェイトを連結部材内の収容空間に装入し主軸部に回転不能に嵌合した後で、第2半体の第2作業窓を通して抜け止め部材を主軸部に装着可能であり、バランスウェイトの取付作業性が良好となる。しかも上記第2作業窓が第2半体の肉抜き孔となることから、第2伝動部材の軽量化に寄与することができる。
【0016】
また本発明の第3の特徴によれば、第2伝動部材は、前記両半体及び連結部材が一体成形された焼結品で構成されるので、第2伝動部材が継ぎ目のない単一部品となり、部品点数及び組立工数の削減によりコスト節減が図られる。またこのように第2伝動部材を一体物としても、前記作業窓を通してバランスウェイトの取付作業を支障なく行うことが可能となる。
【0017】
また本発明の第4の特徴によれば、第1及び第2伝動部材間では、波数が異なる波形環状の第1及び第2伝動溝相互の複数の交差部に介在する複数の第1転動体を介して(即ち周方向で複数箇所に分散して)トルク伝達が行われ、また、第2及び第3伝動部材間では、波数が異なる波形環状の第3及び第4伝動溝相互の複数の交差部に介在する複数の第2転動体を介して(即ち周方向で複数箇所に分散して)トルク伝達が行われるため、その各々の伝動要素の荷重負担が軽減されて強度増及び軽量化が図られる。しかも伝動装置の第1,第2変速機構を軸方向に扁平化できるため、伝動装置の軸方向扁平化に寄与することができる。
【0018】
また本発明の第5の特徴によれば、上記伝動装置を軸方向に扁平な差動装置として利用可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態を添付図面に基づいて以下に説明する。
【0021】
先ず、
図1〜
図5に示す本発明の一実施形態を説明する。
図1において、自動車のミッションケース1内には、伝動装置としての差動装置Dが変速装置と共に収容される。
【0022】
この差動装置Dは、前記変速装置の出力側に連動回転するリングギヤCgの回転を、差動装置Dの中心軸線即ち第1軸線X1上に相対回転可能に並ぶ左右の駆動車軸S1,S2(即ちドライブ軸)に対して、両駆動車軸S1,S2相互の差動回転を許容しつつ分配する。尚、各々の駆動車軸S1,S2とミッションケース1との間は、シール部材4,4′でシールされる。
【0023】
差動装置Dは、ミッションケース1に第1軸線X1回りに回転可能に支持されるデフケースCと、そのデフケースC内に収容される後述の差動機構3とで構成される。デフケースCは、短円筒状のギヤ本体の外周に斜歯Cgaを設けたヘリカルギヤよりなるリングギヤCgと、そのリングギヤCgの軸方向両端部に外周端部がそれぞれ接合される左右一対の第1,第2側壁板部Ca,Cbとを備える。
【0024】
その両側壁板部Ca,Cbは、各々の内周端部においてボス部Bを一体に有しており、そのボス部Bの外周部は、ミッションケース1に軸受2,2′を介して第1軸線X1回りに回転自在に支持される。またボス部Bの内周部には、第1軸線X1を回転軸線とする第1,第2駆動車軸S1,S2がそれぞれ回転自在に嵌合、支持される。
【0025】
第1,第2側壁板部Ca,Cbの外周端部とリングギヤCgとの相互の接合面間は、溶接、接着、かしめ等の適当な結合手段により一体的に接合される。またその接合面には、段差sが形成されており、この段差sにより、各側壁板部Ca,Cbの外周端部とリングギヤCgとの互いの軸方向位置決め精度及び結合強度が効果的に高められる。
【0026】
次にデフケースC内の差動機構3の構造を説明する。差動機構3は、第1側壁板部Caに一体的に設けられて第1軸線X1回りに回転自在な第1伝動部材5と、第1駆動車軸S1にスプライン嵌合16されて第1軸線X1回りに回転自在な主軸部6j、および第1軸線X1から所定量eだけ偏心した第2軸線X2を中心軸線とする偏心軸部6eを互いに一体に連結してなる偏心回転部材6と、第1伝動部材5に一側部が対向配置され且つ前記偏心軸部6eに軸受7を介して回転自在に支持される円環状の第2伝動部材8と、第2伝動部材8の他側部に対向配置されると共に第2駆動車軸S2にスプライン嵌合17されて第1軸線X1回りに回転自在な円環状の第3伝動部材9と、第1及び第2伝動部材5,8間で変速しつつトルク伝達可能な第1変速機構T1と、第2及び第3伝動部材8,9間で変速しつつトルク伝達可能な第2変速機構T2とを備える。
【0027】
而して、第1軸線X1回りに回転自在に支持される主軸部6jを有した偏心回転部材6の偏心軸部6eに第2伝動部材8が第2軸線X2回りに回転自在に嵌合支持されることで、その第2伝動部材8は、偏心回転部材6の第1軸線X1回りの回転に伴い、それの偏心軸部6eに対し第2軸線X2回りに自転しつつ、主軸部6jに対し第1軸線X1回りに公転可能である。
【0028】
また第2伝動部材8は、偏心回転部材6の偏心軸部6eに軸受7を介して回転自在に支持される円環状の第1半体8aと、その第1半体8aに後述するバランスウェイトWの収容空間SPを挟んで対向する円環状の第2半体8bと、その収容空間SPを囲むようにして両半体8a,8b間を一体的に連結する基本的に円筒状の連結部材8cとを備えていて、第1半体8aと第1伝動部材5との間に前記第1変速機構T1が、また第2半体8bと第3伝動部材9との間に前記第2変速機構T2がそれぞれ設けられる。
【0029】
また第3伝動部材9は、第2駆動車軸S2にスプライン嵌合17されて第1軸線X1回りに回転自在な主軸部9jと、その主軸部9jの内端部に同軸状に連設される円板部9cとを結合一体化して構成される。尚、第2側壁板部Cbの内側面と第3伝動部材9(円板部9cの背面)との間には、スラストワッシャ15が相対回転自在に介装される。
【0030】
更に差動機構3は、第1軸線X1を挟んで偏心回転部材6の偏心軸部6e及び第2伝動部材8の総合重心Gとは逆位相であり且つその総合重心Gの回転半径よりも大なる回転半径を有していて偏心回転部材6の主軸部6jに取付けられるバランスウェイトWを備えている。このバランスウェイトWは、環状の取付基部Wmと、その取付基部Wmの周方向特定領域に固設される重錘部Wwとから構成される。
【0031】
第2伝動部材8(連結部材8c)の内部空間は、バランスウェイトWを収容する収容空間SPとなっている。そして、偏心回転部材6の主軸部6jは、その内端部が前記収容空間SPに延出しており、その延出端部6jaの外周にバランスウェイトWが装着される。そして、前記取付基部Wmは、主軸部6jの延出端部6ja外周に嵌合されており、その嵌合面間には、その間の軸方向摺動は許容するが相対回転を規制する回り止め用の平坦な係合面14が設けられる。バランスウェイトWの主軸部6jへの固定は、前記取付基部Wmの主軸部6jからの離脱を阻止する抜け止め部材としてのサークリップ等の止輪10を主軸部6jの延出端部6jaに着脱可能に装着することで行われる。その装着のために、主軸部6jの延出端部6jaの外周には、止輪10が弾力的に係止可能な係止溝が凹設される。
【0032】
また第2伝動部材8には、その連結部材8cの周壁において、バランスウェイトWの取付けのためにバランスウェイトWを収容空間SPに挿入する作業を許容する第1作業窓11が形成される。この第1作業窓11の開口形態は、バランスウェイトWが連結部材8cの外側方より収容空間SPに挿入可能な形状・サイズに設定される。
【0033】
また第2伝動部材8には、その第2半体8bにおいて、止輪10の主軸部6j(前記延出端部6ja)に対する装着作業を可能とする第2作業窓12が形成される。この第2作業窓12の開口形態は、止輪10が第2半体8bの外方より収容空間SPに挿入可能な形状・サイズ(例えば止輪10よりも大径)に設定される。
【0034】
従って、両半体8a,8b及び連結部材8cを相互に結合してなる第2伝動部材8を予め製作して、これを偏心回転部材6の偏心軸部6eに軸受7を介して装着した後でも、第1作業窓11を通してバランスウェイトWを連結部材8c内側の収容空間SPに挿入して偏心回転部材6の主軸部6jに取付け(具体的には回転不能に嵌合)でき、その後で、第2半体8bの第2作業窓12を通して止輪10を主軸部6jに装着して、バランスウェイトWを主軸部6jに固定できるので、この一連のバランスウェイトWの取付作業を容易且つ的確に行うことができる。また、このように第2伝動部材8の組立、製作を予め独立して行い得ることで、製作後のバリ取りや洗浄等の後処理を、バランスウェイトW等の他物に影響を及ぼすことなく実行可能になり、好都合である。しかも上記第1,第2作業窓11,12が連結部材8c及び第2半体8bの肉抜き孔となることから、第2伝動部材8の軽量化が図られる。
【0035】
尚、デフケースCの組立作業は、上記した第2伝動部材8の組立やそれへの偏心回転部材6の組付及びバランスウェイトWの装着等の工程が終了した後で、それらを一纏めにデフケースC内に組み込むようにして実行可能である。
【0036】
図1〜
図3に示すように、第1伝動部材5の、第2伝動部材8の一側面(即ち第1半体8a)に対向する内側面には、第1軸線X1を中心とした波形環状の第1伝動溝21が形成され、この第1伝動溝21は、図示例では第1軸線X1を中心とする仮想円を基礎円としたハイポトロコイド曲線に沿って周方向に延びている。一方、第2伝動部材8の、第1伝動部材5に対向する一側面(第1半体8a)には、第2軸線X2を中心とした波形環状の第2伝動溝22が形成される。この第2伝動溝22は、図示例では第2軸線X2を中心とする仮想円を基礎円としたエピトロコイド曲線に沿って周方向に延びており、上記第1伝動溝21の波数よりも少ない波数を有して第1伝動溝21と複数箇所で交差する。これら第1伝動溝21及び第2伝動溝22の交差部(即ち重なり部)には、第1転動体としての複数の第1伝動ボール23が介装されており、各々の第1伝動ボール23は、それら第1及び第2伝動溝21,22の内側面を転動自在である。
【0037】
第1伝動部材5及び第2伝動部材8(第1半体8a)の相対向面間には、円環状の扁平な第1保持部材H1が介装される。この第1保持部材H1は、複数の第1伝動ボール23の、第1、第2伝動溝21,22相互の交差部での両伝動溝21,22への係合状態を維持し得るように、複数の第1転動ボール23をそれらの相互間隔を一定に規制しつつ回転自在に保持する複数の円形の保持孔31を有している。これにより、各々の第1伝動ボール23は、第1、第2伝動溝21,22の各々の曲率急変部を通過する際にも溝内での暴れが効果的に抑制されるため、その曲率急変部でもスムーズに転動可能となり、伝動効率が高められる。
【0038】
また、
図1,2,4に示すように、第2伝動部材8の他側面(即ち第2半体8b)には、第2軸線X2を中心とした波形環状の第3伝動溝24が形成され、この第3伝動溝24は、図示例では第2軸線X2を中心とする仮想円を基礎円としたハイポトロコイド曲線に沿って周方向に延びている。一方、第3伝動部材9の、第2伝動部材8との対向面すなわち円板部9cの内側面には、第1軸線X1を中心とした波形環状の第4伝動溝25が形成される。この第4伝動溝25は、図示例では第1軸線X1を中心とする仮想円を基礎円としたエピトロコイド曲線に沿って周方向に延びており、上記第3伝動溝24の波数よりも少ない波数を有して第3伝動溝24と複数箇所で交差する。これら第3伝動溝24及び第4伝動溝25の交差部(重なり部)には、第2転動体としての複数の第2伝動ボール26が介装されており、各々の第2伝動ボール26は、それら第3及び第4伝動溝24,25の内側面を転動自在である。
【0039】
第3伝動部材9及び第2伝動部材8(第2半体8b)の相対向面間には、円環状の扁平な第2保持部材H2が介装される。この第2保持部材H2は、複数の第2伝動ボール26の、第3、第4伝動溝24,25相互の交差部での両伝動溝24,25への係合状態を維持し得るように、複数の第2転動ボール26をそれらの相互間隔を一定に規制しつつ回転自在に保持する複数の円形の保持孔32を有している。これにより、各々の第2伝動ボール26は、第3、第4伝動溝24,25の各々の曲率急変部を通過する際にも溝内での暴れが効果的に抑制されるため、その曲率急変部でもスムーズに転動可能となり、伝動効率が高められる。
【0040】
以上において、第1伝動溝21の波数をZ1、第2伝動溝22の波数をZ2、第3伝動溝24の波数をZ3、第4伝動溝25の波数をZ4としたとき、下記式が成立するように、第1〜第4伝動溝21,22,24,25は形成される。
(Z1/Z2)×(Z3/Z4)=2
望ましくは、図示例のように、Z1=8、Z2=6、Z3=6、Z4=4とするか、又はZ1=6、Z2=4、Z3=8、Z4=6とするとよい。
【0041】
尚、図示例では、8波の第1伝動溝21と6波の第2伝動溝22とが7箇所で交差し、この7箇所の交差部(重なり部)に7個の第1伝動ボール23が介装され、また6波の第3伝動溝24と4波の第4伝動溝25とが5箇所で交差し、この5箇所の交差部(重なり部)に5個の第2伝動ボール26が介装される。
【0042】
而して、第1伝動溝21、第2伝動溝22及び第1伝動ボール23は互いに協働して、第1伝動部材5及び第2伝動部材8間で変速しつつトルク伝達可能な第1変速機構T1を構成し、また第3伝動溝24、第4伝動溝25及び第2伝動ボール26は互いに協働して、第2伝動部材8及び第3伝動部材9間で変速しつつトルク伝達可能な第2変速機構T2を構成する。
【0043】
次に、前記実施形態の作用について説明する。
【0044】
いま、例えば右方の第1駆動車軸S1を固定することで偏心回転部材6(従って偏心軸部6e)を固定した状態において、エンジンからの動力でリングギヤCgが駆動され、デフケースC、従って第1伝動部材5を第1軸線X1回りに回転させると、第1伝動部材5の8波の第1伝動溝21が第2伝動部材8の6波の第2伝動溝22を第1伝動ボール23を介して駆動するので、第1伝動部材5が8/6の増速比を以て第2伝動部材8を駆動することになる。そして、この第2伝動部材8の回転によれば、第2伝動部材8の6波の第3伝動溝24が第3伝動部材9の円板部9cの4波の第4伝動溝25を第2伝動ボール26を介して駆動するので、第2伝動部材8が6/4の増速比を以て第3伝動部材9を駆動することになる。
【0045】
結局、第1伝動部材5は、
(Z1/Z2)×(Z3/Z4)=(8/6)×(6/4)=2
の増速比を以て第3伝動部材9を駆動することになる。
【0046】
一方、左方の第2駆動車軸S2を固定することで第3伝動部材9を固定した状態において、デフケース(従って第1伝動部材5)を回転させると、第1伝動部材5の回転駆動力と、第2伝動部材8の、不動の第3伝動部材9に対する駆動反力とにより、第2伝動部材8は、偏心回転部材6の偏心軸部6e(第2軸線X2)に対し自転しながら第1軸線X1回りに公転して、偏心軸部6eを第1軸線X1回りに駆動する。その結果、第1伝動部材5は、2倍の増速比を以て偏心回転部材6を駆動することになる。
【0047】
而して、偏心回転部材6及び第3伝動部材9の負荷が相互にバランスしたり、相互に変化したりすると、第2伝動部材8の自転量及び公転量が無段階に変化し、偏心回転部材6及び第3伝動部材9の回転数の平均値が第1伝動部材5の回転数と等しくなる。こうして、第1伝動部材5の回転は、偏心回転部材6及び第3伝動部材9に分配され、したがってリングギヤCgからデフケースCに伝達された回転力を左右の駆動車軸S1,S2に分配することができる。
【0048】
その際、Z1=8、Z2=6、Z3=6、Z4=4とするか、又はZ1=6、Z2=4、Z3=8、Z4=6とすることにより、差動機能を確保しつゝ構造の簡素化を図ることができる。
【0049】
ところで、この差動装置Dにおいて、第1伝動部材5の回転トルクは、第1伝動溝21、複数の第1伝動ボール23及び第2伝動溝22を介して第2伝動部材8に、また第2伝動部材8の回転トルクは、第3伝動溝24、複数の第2伝動ボール26及び第4伝動溝25を介して第3伝動部材9にそれぞれ伝達されるので、第1伝動部材5と第2伝動部材8、第2伝動部材8と第3伝動部材9の各間では、トルク伝達が第1及び第2伝動ボール23,26が存在する複数箇所に分散して行われることになり、第1〜第3伝動部材5,8,9及び第1、第2伝動ボール23,26等の各伝動要素の強度増及び軽量化を図ることができる。
【0050】
ところで本実施形態では、偏心回転部材6の偏心軸部6eと第2伝動部材8の総合重心重心Gの位置が、第1軸線X1から第2軸線X2の方向に離間した位置に偏在する。そのため、前述のように第2伝動部材8が第2軸線X2回りに自転しつつ第1軸線X1回りに公転するときに、その偏心回転系の遠心力が第1軸線X1に関して特定方向(第2軸線X2のオフセット側)に偏って作用することから、その偏心回転系の回転がアンバランスな状態となるが、その回転のアンバランス状態を解消又は軽減するために、本実施形態では前記総合重心Gとは逆位相で且つその総合重心Gの回転半径よりも大なる回転半径を有するバランスウェイトWが偏心回転部材6の主軸部6jに取付けられる。そのため、バランスウェイトW延いては差動装置Dの軽量化を図りながら、前記総合重心Gに作用する遠心力と、バランスウェイトWの重心に作用する遠心力とを略釣り合わせることが可能となるため、偏心軸部6e及び第2伝動部材8の偏心回転による振動発生が効果的に抑制可能となる。
【0051】
しかも第2伝動部材8を分割構成する第1,第2半体8a,8bを適宜に重量配分することにより、前記総合重心Gの軸方向位置を容易に調整可能であるため、その総合重心Gの、バランスウェイト重心に対する軸方向オフセット量をゼロ又はそれに近づけることが可能となり、これにより、その両重心に作用する遠心力に因る偶力の発生をゼロ又はそれに近い値に抑えることができて、その偶力に起因した振動発生も抑制又は低減することができる。
【0052】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0053】
例えば、前記実施形態では、伝動装置として差動装置Dを例示し、動力源からデフケースC(第1伝動部材5)に入力された動力を、第2伝動部材8や第1,第2変速機構T1,T2を介して偏心回転部材6及び第3伝動部材9に差動回転を許容しつつ分配するようにしたものを示したが、本発明は差動装置以外の種々の伝動装置にも実施可能である。
【0054】
また、前記実施形態のデフケースCに相当するケーシングを固定のミッションケースとし、偏心回転部材6又は第3伝動部材9の何れか一方を入力軸、またその何れか他方を出力軸とすることで、前記実施形態の差動装置Dを、入力軸に入力される回転トルクを変速(減速又は増速)して出力軸に伝達し得る変速機(減速機又は増速機)として転用実施可能であり、その場合には、そのような変速機(減速機又は増速機)が本発明の伝動装置となる。
【0055】
また、前記実施形態では、伝動装置としての差動装置Dを自動車のミッションケースM内に収容しているが、差動装置Dは自動車用の差動装置に限定されるものではなく、種々の機械装置用の差動装置として実施可能である。
【0056】
また、前記実施形態では、伝動装置としての差動装置Dを、左・右輪伝動系に適用して、左右の駆動車軸S1,S2に対し差動回転を許容しつつ動力を分配するものを示したが、本発明では、伝動装置としての差動装置を、前・後輪駆動車両における前・後輪伝動系に適用して、前後の駆動車輪に対し差動回転を許容しつつ動力を分配するようにしてもよい。
【0057】
また前記実施形態の第2伝動部材8は、第1,第2半体8a,8b及び連結部材8cを別々に製作した後、その三者を一体的に結合する構造のものを例示したが、本発明では、第2伝動部材8を、第1,第2半体8a,8b及び連結部材8cが一体成形された一体物(例えば焼結品)で構成するようにした別実施形態(図示せず)も想定される。この別実施形態によれば、第2伝動部材8が継ぎ目のない単一部品となり、部品点数及び組立工数の削減によりコスト節減が図られる。尚、図示例の実施形態のように第1,第2半体8a,8b及び連結部材8cを別々に製作すれば、個々の部品を小型化でき、製作が容易となる等の利点がある。
【0058】
また、前記実施形態では、第1,第2変速機構T1,T2として何れも転動ボール式の変速機構を用いたものを示したが、本発明の第1,第2変速機構のうちの少なくとも一方の変速機構は、前記実施形態の構造に限定されない。即ち、偏心回転部材と、それの回転に連動して第2軸線回りの自転及び第1軸線回りの公転が可能な第2伝動部材とを少なくとも含む種々の変速機構、例えば内接式遊星歯車機構や、種々の構造のサイクロイド減速機(増速機)或いはトロコイド減速機(増速機)を、本発明の第1,第2変速機構のうちの少なくとも一方に適用するようにしてもよい。
【0059】
また、前記実施形態では、第1,第2変速機構T1,T2の各伝動溝21,22;24,25をトロコイド曲線に沿った波形環状の波溝としているが、これら伝動溝は、実施形態に限定されるものでなく、例えばサイクロイド曲線に沿った波形環状の波溝としてもよい。
【0060】
また、前記実施形態では、第1,第2変速機構T1,T2の第1及び第2伝動溝21,22間、並びに第3及び第4伝動溝24,25間にボール状の第1及び第2転動体23,26を介装したものを示したが、その転動体をローラ状又はピン状としてもよく、この場合に、第1及び第2伝動溝21,22、並びに第3及び第4伝動溝24,25は、ローラ状又はピン状の転動体が転動し得るような内側面形状に形成される。
【0061】
また前記実施形態では、偏心回転部材6及び第3伝動部材9を、デフケースCに支持される駆動車軸S1,S2に接続(スプライン嵌合)して、これら駆動車軸S1,S2を介してデフケースCに支持させるようにしたものを示したが、本発明では、偏心回転部材6及び第3伝動部材9をデフケースCに直接支持させるようにしてもよい。
【0062】
また前記実施形態では、第1,第2転動ボール23,26を円滑に転動させるために第1,第2保持部材H1,H2を用いたものを示したが、第1,第2保持部材H1,H2無しでも第1,第2転動ボール23,26が円滑に転動可能な場合は、第1,第2保持部材H1,H2を省略してもよい。