(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-103393(P2017-103393A)
(43)【公開日】2017年6月8日
(54)【発明の名称】炭素膜処理装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/3065 20060101AFI20170512BHJP
C23C 16/56 20060101ALI20170512BHJP
C23C 14/58 20060101ALI20170512BHJP
C01B 32/15 20170101ALI20170512BHJP
C01B 32/18 20170101ALI20170512BHJP
C01B 32/182 20170101ALI20170512BHJP
B01J 19/08 20060101ALI20170512BHJP
H05H 1/30 20060101ALI20170512BHJP
【FI】
H01L21/302 101E
C23C16/56
C23C14/58 Z
C01B31/02 101Z
B01J19/08 H
H05H1/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-236834(P2015-236834)
(22)【出願日】2015年12月3日
(71)【出願人】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(71)【出願人】
【識別番号】592031444
【氏名又は名称】ナノテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124257
【弁理士】
【氏名又は名称】生井 和平
(72)【発明者】
【氏名】浅井 朋彦
(72)【発明者】
【氏名】佐原 純輝
(72)【発明者】
【氏名】中森 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】平塚 傑工
【テーマコード(参考)】
2G084
4G075
4G146
4K029
4K030
5F004
【Fターム(参考)】
2G084AA03
2G084AA07
2G084BB12
2G084CC03
2G084CC08
2G084CC19
2G084CC20
2G084CC34
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2G084DD14
2G084DD17
2G084FF02
2G084GG02
2G084GG07
2G084GG22
4G075AA24
4G075AA61
4G075BA06
4G075CA51
4G075DA02
4G075EB43
4G075EC01
4G146AA01
4G146AA05
4G146AB07
4G146AD40
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4G146CB35
4K029GA02
4K030DA08
5F004AA09
5F004BA20
5F004DA23
5F004DA24
5F004DA25
5F004DA26
5F004DB00
(57)【要約】
【課題】炭素膜を短時間で簡単に基材表面から除去可能な炭素膜処理装置を提供する。
【解決手段】基材上に生成される炭素膜を大気圧雰囲気下において処理する炭素膜処理装置は、大気圧プラズマ装置10を具備する。大気圧プラズマ装置10は、大気圧雰囲気に置かれる炭素膜2に対して大気圧プラズマを照射可能なものである。大気圧プラズマ装置10は、動作ガスとしてアルゴンガスを用いる。大気圧プラズマ装置10により生成される大気圧プラズマにより、炭素膜2が酸化させられ気化させられる。これにより、基材1が露出するまで化学的に炭素膜2を除去することが可能となる。炭素膜2としては、DLC膜、フッ素化DLC膜、又は中間層を有するDLC膜が挙げられる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に生成される炭素膜を大気圧雰囲気下において処理する炭素膜処理装置であって、該炭素膜処理装置は、
大気圧雰囲気に置かれる炭素膜に対して大気圧プラズマを照射可能な大気圧プラズマ装置を具備し、
前記大気圧プラズマ装置は、動作ガスとしてアルゴンガスを用いて生成する大気圧プラズマにより炭素膜を酸化させ気化させることを特徴とする炭素膜処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の炭素膜処理装置において、前記大気圧プラズマ装置は、炭素膜として水素若しくはフッ素を含む炭素膜又はアモルファス構造を有する炭素膜に対して大気圧プラズマを照射することで炭素膜を酸化させ気化させることを特徴とする炭素膜処理装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の炭素膜処理装置であって、さらに、前記大気圧プラズマ装置に用いられる動作ガスの流量を制御する流量制御部を具備し、
前記流量制御部は、大気圧プラズマにより炭素膜から気化するガスが滞留しないように動作ガスの流量を制御することを特徴とする炭素膜処理装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れかに記載の炭素膜処理装置において、前記大気圧プラズマ装置は、動作ガスとしてのアルゴンガスに酸素をドープすることにより炭素膜の酸化反応を促進させることを特徴とする炭素膜処理装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れかに記載の炭素膜処理装置において、前記大気圧プラズマ装置は、炭素膜を大気圧プラズマにより酸化させ気化させ、基材が露出するまで化学的に除去することを特徴とする炭素膜処理装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項4の何れかに記載の炭素膜処理装置において、前記大気圧プラズマ装置は、炭素膜を大気圧プラズマにより酸化させ気化させ、化学的に変質させることを特徴とする炭素膜処理装置。
【請求項7】
請求項6に記載の炭素膜処理装置において、前記大気圧プラズマ装置は、動作ガスとしてのアルゴンガスに、少なくとも水素、水、アルコール、アンモニア、窒素の何れかをドープすることにより炭素膜の表面を化学的に変質させることを特徴とする炭素膜処理装置。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7の何れかに記載の炭素膜処理装置であって、さらに、前記大気圧プラズマ装置に用いられる大気圧プラズマを照射するヘッド部であって、照射口側先端が扁平形状を有するヘッド部と、
前記ヘッド部の扁平形状の扁平面を挟むように配置される接地電極と、
を具備することを特徴とする炭素膜処理装置。
【請求項9】
請求項8に記載の炭素膜処理装置において、前記ヘッド部は、照射口側先端に向かって裾広がり形状を有することを特徴とする炭素膜処理装置。
【請求項10】
請求項9に記載の炭素膜処理装置において、前記ヘッド部は、裾広がり形状の側面に、空気吸入孔を有することを特徴とする炭素膜処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭素膜処理装置に関し、特に、基材上に生成される炭素膜を大気圧雰囲気下において処理する炭素膜処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近来、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)の薄膜が、様々な機能性を有することから多岐に応用されている。DLC膜は、高硬度、高耐摩耗性、低摩擦係数、高絶縁性、高化学安定性、高ガスバリヤ性、高耐焼付き性、高生体親和性、高赤外線透過性等の特徴を有し、表面が平坦で200度程度の低温で合成できることから、電気・電子機器や切削工具、金型、自動車部品、光学部品、PETボトルの酸素バリヤ膜、衛生機器、レンズ・窓、装飾品等、幅広く応用され始めている。
【0003】
一方、基材上に生成されたDLC膜を剥離する必要が生ずる場合がある。例えば、基材の全面ではなく一部のみを保護膜としてDLC膜で覆う場合等には、全面に生成されたDLC膜から不要部分を除去する必要があった。また、基材を再利用する場合や、成膜装置に意図せず付着したDLC膜の除去をしなければならない場合もあった。なお、DLC膜生成時にマスキング等により所望の部分のみにDLC膜を生成しても良いが、この場合、耐熱性のマスキングが必要であるだけでなく、マスキングを剥離する際のDLC膜への影響も問題となり得る。
【0004】
そこで、例えば従来では、真空装置内に酸素プラズマを生成し、真空装置内に置かれたDLC膜に対して酸素プラズマを照射することで、酸素が炭素と結合して二酸化炭素等となり、部材表面のDLC膜を化学的に除去するものがあった。また、例えばガラス等の粒体をDLC膜に衝突させ、DLC膜を物理的に除去させる表面処理加工技術であるショットブラストと呼ばれるものもあった。
【0005】
一方、例えば特許文献1には、動作ガスとしてアルゴンガスを用いた大気圧プラズマ装置を用いて光学素子や複合セラミック、炭化ケイ素を除去できる技術が開示されている。
【0006】
また、非特許文献1には、動作ガスとしてヘリウムガスを用いた大気圧プラズマ装置を用いてDLC膜をエッチングする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−147028号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Jun−Seok Ohら著「Localized DLC etching by a non−thermal atmospheric−pressure helium plasma jet in ambient air」Diamond & Related Materials 50 (2014) 91-96
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の真空装置内でDLC膜を化学的に除去する技術は、真空装置を用いるため時間がかかり、装置も大がかりでコストも高いという問題があった。また、ショットブラストについては基材の表面が荒れてしまったり、基材にガラス粒体が埋まり残留して再利用が難しくなる等の問題があった。
【0010】
また、特許文献1の手法では、光学素子や複合セラミック、炭化ケイ素は除去できるものの、DLC膜等の炭素膜を除去できるものではなかった。
【0011】
さらに、非特許文献1の手法では、10分の照射を行っても電子顕微鏡で確認できるレベルの表面上の加工程度しかできない技術であり、DLC膜を基材表面まで除去できるものではなかった。
【0012】
そこで、基材にはダメージを与えることなく、真空装置も不要な大気圧雰囲気下において基材表面まで短時間でDLC膜等の炭素膜を綺麗に除去できる装置が望まれていた。
【0013】
本発明は、斯かる実情に鑑み、炭素膜を短時間で簡単に基材表面から除去可能な炭素膜処理装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した本発明の目的を達成するために、本発明による炭素膜処理装置は、大気圧雰囲気に置かれる炭素膜に対して大気圧プラズマを照射可能な大気圧プラズマ装置を具備し、大気圧プラズマ装置は、動作ガスとしてアルゴンガスを用いて生成する大気圧プラズマにより炭素膜を酸化させ気化させるものである。
【0015】
ここで、大気圧プラズマ装置は、炭素膜として水素若しくはフッ素を含む炭素膜又はアモルファス構造を有する炭素膜に対して大気圧プラズマを照射することで炭素膜を酸化させ気化させれば良い。
【0016】
さらに、大気圧プラズマ装置に用いられる動作ガスの流量を制御する流量制御部を具備し、流量制御部は、大気圧プラズマにより炭素膜から気化するガスが滞留しないように動作ガスの流量を制御しても良い。
【0017】
また、大気圧プラズマ装置は、動作ガスとしてのアルゴンガスに酸素をドープすることにより炭素膜の酸化反応を促進させても良い。
【0018】
また、大気圧プラズマ装置は、炭素膜を大気圧プラズマにより酸化させ気化させ、基材が露出するまで化学的に除去するものであれば良い。
【0019】
また、大気圧プラズマ装置は、炭素膜を大気圧プラズマにより酸化させ気化させ、化学的に変質させるものであっても良い。
【0020】
また、大気圧プラズマ装置は、動作ガスとしてのアルゴンガスに、少なくとも水素、水、アルコール、アンモニア、窒素の何れかをドープすることにより炭素膜の表面を化学的に変質させるものであっても良い。
【0021】
さらに、大気圧プラズマ装置に用いられる大気圧プラズマを照射するヘッド部であって、照射口側先端が扁平形状を有するヘッド部と、ヘッド部の扁平形状の扁平面を挟むように配置される接地電極と、を具備するものであっても良い。
【0022】
また、ヘッド部は、照射口側先端に向かって裾広がり形状を有するものであれば良い。
【0023】
また、ヘッド部は、裾広がり形状の側面に、空気吸入孔を有するものであっても良い。
【発明の効果】
【0024】
本発明の炭素膜処理装置には、炭素膜を短時間で簡単に基材表面から除去可能であるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、本発明の炭素膜処理装置を説明するための概略側断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の炭素膜処理装置により大気圧プラズマの照射時間に対するオゾンの発生量の変化を示すグラフである。
【
図3】
図3は、本発明の炭素膜処理装置により大気圧プラズマを炭素膜に照射した際の照射時間に対する炭素質量濃度の変化を示すグラフである。
【
図4】
図4は、本発明の炭素膜処理装置により炭素膜を除去した際の実際の光学像である。
【
図5】
図5は、本発明の炭素膜処理装置の大気圧プラズマ装置の他の例を説明するための概略側断面図である。
【
図6】
図6は、本発明の炭素膜処理装置の大気圧プラズマ装置のさらに他の例を説明するための概略側断面図である。
【
図7】
図7は、本発明の炭素膜処理装置の大気圧プラズマ装置にヘッド部を用いた例を説明するための概略図である。
【
図8】
図8は、本発明の炭素膜処理装置の大気圧プラズマ装置のさらに他の例を説明するための概略側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための形態を図示例と共に説明する。本発明の炭素膜処理装置は、基材上に生成される炭素膜を大気圧雰囲気下において処理するものである。炭素膜としては、水素若しくはフッ素を含む炭素膜又はアモルファス構造を有する炭素膜であれば良い。例えばDLC膜等、硬度の高いものであっても良く、DLC膜とまでは呼べないような、ある程度硬度の低い炭素膜であっても良い。本発明の炭素膜処理装置は、硬度が高く従来の手法では除去が難しかった炭素膜を処理するものとして特に有用である。さらに、従来のショットブラスト等の物理的な表面加工技術では除去が最も難しいと考えられているフッ素化DLC膜や、チタニウム等の中間層を有するDLC膜に対しても本発明の炭素膜処理装置は有用である。
【0027】
本発明の炭素膜処理装置は、動作ガスとしてアルゴンガスを用いる。そして、動作ガスとしてアルゴンガスを用いて生成する大気圧プラズマにより、炭素膜を酸化させ気化させる。即ち、大気中の酸素によるプラズマ内の酸素ラジカルが炭素膜2の炭素と反応し二酸化炭素として気化する。これにより、炭素膜を基材が露出するまで化学的に除去することが可能となる。
【0028】
本発明の炭素膜処理装置は、大気圧プラズマ装置を具備するものである。大気圧プラズマ装置は、低周波プラズマジェット装置や誘電体バリア放電プラズマ装置等を利用可能である。大気圧プラズマ装置は、構造的には従来の又は今後開発されるべきあらゆる装置が適用可能である。以下、大気圧プラズマ装置の具体的構造について、図面を参照して説明する。
【0029】
図1は、本発明の炭素膜処理装置を説明するための概略側断面図である。図示例では、低周波プラズマジェット装置を例に説明する。図示の通り、大気圧プラズマ装置10は、誘電体管11と、印加電極12と、接地電極13と、低周波高圧電源14と、動作ガス供給部15とから主に構成される。
【0030】
誘電体管11は、所謂ガラス管である。誘電体管11は、例えば石英ガラスにより形成されれば良い。誘電体管11は、円筒状であり、内部に動作ガスであるアルゴンガスが通るように構成されれば良い。
【0031】
印加電極12は、誘電体管11の外周を囲むように配置されている導体である。また、接地電極13も、誘電体管11の外周を囲むように配置されている導体である。印加電極12と接地電極13は、所定の間隔を開けて配置されており、誘電体管11が両電極の短絡を防ぐ誘電体バリアとして作用する。そして、プラズマが放出される側に接地電極13を、動作ガス供給部15側に印加電極12を配置する。
【0032】
低周波高圧電源14は、低周波数、例えば数kHz程度の高電圧、例えば数kV程度の交流高電圧を印加電極12に印加可能なものである。低周波高圧電源14は、例えば矩形波等のパルス出力であっても良い。
【0033】
動作ガス供給部15は、動作ガスとしてアルゴンガスを誘電体管11に供給するものである。なお、動作ガス供給部15は、必ずしもアルゴンガスのみを供給するものではなく、主動作ガスとしてアルゴンガスを供給可能なものであれば良いものである。
【0034】
図2は、本発明の炭素膜処理装置により大気圧プラズマの照射時間に対するオゾンの発生量の変化を示すグラフである。アルゴンガスとヘリウムガスを比較するため、動作ガスとしてそれぞれ用いて測定した。測定条件は、動作ガス供給部によるガス流量を1.00L/min,2.00L/minのそれぞれで測定した。また、オゾン測定センサから大気圧プラズマ装置の照射口までの距離は60mmとした。図示の通り、アルゴンガスを用いると、ヘリウムガスを用いた場合と比べて2ケタ以上、オゾンの発生効率が高い。このため、非常に高効率にオゾンを炭素膜と反応させることが可能となる。
【0035】
このように構成された大気圧プラズマ装置10により放射される大気圧プラズマ(プラズマジェット)を炭素膜2に照射すると、大気中の酸素によるプラズマ内の酸素ラジカルが炭素膜2と反応し、炭素膜2が酸化し気化する。即ち、炭素膜2が二酸化炭素となり気体となる。これにより、炭素膜2が化学的に短時間に除去可能となる。
【0036】
なお、大気圧プラズマ装置により照射される大気圧プラズマとは、直接照射されるものに限定されず、プラズマ生成位置を離したり分離して照射されるものも含むものである。また、酸素イオン等のプラズマであっても、オゾン等の中性の活性種であっても良いものである。
【0037】
また、動作ガス供給部15の動作ガスの流量を制御するために、流量制御部16を用いても良い。例えば、流量制御部16は、大気圧プラズマにより炭素膜2から気化するガスが滞留しないように、動作ガスの流量を制御するのに用いられれば良い。即ち、炭素膜2の表面にエアフローを発生させ、炭素膜2から気化するガスを吹き飛ばすように構成可能である。これにより、炭素膜から気化した二酸化炭素の影響を最小限とし、動作ガス濃度を一定とすることが可能となる。
【0038】
本発明の炭素膜処理装置によれば、例えば数十ナノメートルから数十マイクロメートルの膜厚のDLC膜を数秒から数十秒で完全に基材上から除去することが可能となる。本発明は、大気圧プラズマ装置の動作ガスにアルゴンガスを用いて放射された大気圧プラズマを基材上の炭素膜に照射すると、極めて短時間に炭素膜が簡単に基材表面から除去可能であることを初めて見出したものである。
【0039】
以下、本発明の炭素膜処理装置による炭素膜除去の効果について具体例を挙げて説明する。
図3は、本発明の炭素膜処理装置により大気圧プラズマを炭素膜に照射した際の照射時間に対する炭素質量濃度の変化を示すグラフである。測定条件は、動作ガスとしてアルゴンガスを用い、動作ガス供給部によるガス流量を1.00L/minとした。また、炭素膜から大気圧プラズマ装置の照射口までの距離は20mmとした。また、低周波高圧電源の電圧は、9kV,10kV,11kVのそれぞれで測定した。なお、炭素質量濃度は、基材上の炭素の残留量であるが、炭素膜除去処理が施されていない領域も測定範囲に入っているため、最終的にゼロにはなっていないが、中心付近の炭素膜は完全に除去されている。また、
図4は、本発明の炭素膜処理装置により炭素膜を除去した際の実際の光学像である。具体的には、上述の条件のうち低周波高圧電源の電圧が10kVの場合と11kVの場合に30秒,60秒,90秒の時間、大気圧プラズマを炭素膜に照射した場合のものである。
【0040】
図示の通り、大気圧プラズマの当たっている中心付近は30秒で基材表面が見えており、また、炭素質量濃度も一気に下がっており、炭素膜が完全に除去されていることが確認できる。また、低周波高圧電源の電圧による効果の違いについては、高い方が若干早く炭素膜を除去できることも分かる。
【0041】
なお、概ね同一条件で動作ガスとしてアルゴンガスではなくヘリウムガスを用いて比較してみたところ、大気圧プラズマを90秒間照射しても、炭素膜は僅かに剥がれる程度であり、測定できる変化は無かった。
【0042】
ここで、動作ガス供給部15では、動作ガスとしてのアルゴンガスに、例えば酸素をドープすることにより炭素膜の酸化反応を促進させるように構成することも可能である。即ち、プラズマ内の酸素ラジカルの量を増やすことで、より酸化反応を促進させることが可能である。
【0043】
さらに、本発明の炭素膜処理装置は、基材上の炭素膜を単に除去するだけではなく、炭素膜を化学的に変質させても良い。即ち、例えば動作ガスとしてのアルゴンガスに水素をドープすることにより、放射される大気圧プラズマの水素濃度が高くなる。これにより、大気圧プラズマが照射された炭素膜は、その表面の水素濃度が高まる。例えば炭素膜がDLC膜の場合、DLC膜の硬度は水素濃度に依存するため、表面の水素濃度が高まるとDLC膜の表面の硬度を低くすること等が可能となる。即ち、DLC膜の表面修飾が、DLC膜を生成した後にも可能となる。したがって、用途によって表面の硬度を変えたDLC膜等を、DLC膜生成後にも容易に実現可能となる。
【0044】
また、炭素膜の表面修飾を目的として、例えば水やアルコール、アンモニア、窒素等を動作ガスにドープしても良い。これにより、例えば炭素膜の親水性を高めたり、生物模倣材料としての機能を付加したりすることも可能となる。
【0045】
ここで、
図1に示した例では、印加電極12が誘電体管11の外周を囲むように配置されているものであったが、本発明はこれに限定されない。
図5は、本発明の炭素膜処理装置の大気圧プラズマ装置の他の例を説明するための概略側断面図である。図中、
図1と同一の符号を付した部分は同一物を表している。
【0046】
図5に示されるように、この大気圧プラズマ装置の例では、印加電極12が誘電体管11の内部に設けられている。具体的には、誘電体管11に電極導入孔が設けられており、そこから印加電極12が誘電体管11内部に導入されている。これにより、低周波高圧電源14からのエネルギを動作ガスに直接供給することが可能となる。このように構成することで、低周波高圧電源14の出力電圧を抑えることが可能となる。
【0047】
図6は、本発明の炭素膜処理装置の大気圧プラズマ装置のさらに他の例を説明するための概略側断面図である。図中、
図1と同一の符号を付した部分は同一物を表している。
図6に示される例は、印加電極12のみを誘電体管11の外周を囲むように配置し、低周波高圧電源14により印加電極12に交流高電圧を印加する構成の大気圧プラズマ装置である。このような単電極構成であっても、アルゴンガスを動作ガスとして用いて大気圧プラズマを炭素膜に照射可能である。
【0048】
これまで上述した図示例においては、誘電体管11から放射されるプラズマは鋭く細いものとなるため、例えば所定のパターンに炭素膜をエッチング除去するといった、細かい除去作業を行うのに有利なものである。しかしながら、用途によっては広範囲に炭素膜を除去する場合もある。以下では、炭素膜の広範囲な除去に有利な炭素膜処理装置について説明する。
【0049】
図7は、本発明の炭素膜処理装置の大気圧プラズマ装置にヘッド部を用いた例を説明するための概略図であり、
図7(a)が側面図であり、
図7(b)が正面図である。図中、
図1と同一の符号を付した部分は同一物を表している。なお、図示例では誘電体管11とヘッド部20のみを示し、他の構成要素の図示は省略した。
【0050】
ヘッド部20は、誘電体管11の大気圧プラズマ放射端に接続されるものである。ヘッド部20は、その照射口21側先端が扁平形状を有している。ヘッド部20も、誘電体、例えば石英ガラスにより形成されれば良い。照射口21は、細長い形状を有している。そして、接地電極13は、ヘッド部20の扁平形状の扁平面22を挟むように配置される。接地電極13は、図示のようにヘッド部20の扁平面22を挟んで対向電極となっている。
【0051】
ここで、図示の通り、ヘッド部20は、誘電体管11側から照射口21側先端に向かって裾広がり形状を有している。即ち、所謂撫で肩形状である。また、ヘッド部20の裾広がり形状の側面には、空気吸入孔25が設けられている。これにより、大気中の空気を積極的に取り込み、酸素ラジカルの量を増やすことで、より酸化反応を促進させることが可能である。
【0052】
放射される大気圧プラズマは、照射口21の細長い形状に応じて幅広く形成される。その結果、炭素膜に対して広範囲に大気圧プラズマを照射可能となる。即ち、幅広い形状の大気圧プラズマを炭素膜上で走査することで、広範囲なエリアの炭素膜を短時間に除去可能である。
【0053】
さらに、本発明の炭素膜処理装置では、誘電体バリア放電プラズマ装置を用いることでより広範囲なエリアの炭素膜除去が可能となる。
図8は、本発明の炭素膜処理装置の大気圧プラズマ装置のさらに他の例を説明するための概略側断面図である。図中、
図1と同一の符号を付した部分は同一物を表している。図示例は、誘電体バリア放電プラズマ装置を用いたものである。
【0054】
図示の通り、炭素膜2が設けられた基材1が接地電極13上に配置されている。そして、プラズマ発生エリア17となる所定の間隔を介して誘電体板18が設けられている。さらに、誘電体板18上に印加電極12が設けられている。そして、側面から動作ガス供給部15により動作ガスとしてアルゴンガスを供給する。この例では、基材に直接放電すると共に、別途動作ガス供給部15から動作ガスとしてアルゴンガスを供給している。このような構成の誘電体バリア放電プラズマ装置を用いることで、広範囲に大気圧プラズマを発生させ、広範囲なエリアの炭素膜を短時間に一気に除去することが可能となる。
【0055】
なお、本発明の炭素膜処理装置は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0056】
1 基材
2 炭素膜
10 大気圧プラズマ装置
11 誘電体管
12 印加電極
13 接地電極
14 低周波高圧電源
15 動作ガス供給部
16 流量制御部
17 プラズマ発生エリア
18 誘電体板
20 ヘッド部
21 照射口
22 扁平面
25 空気吸入孔