【課題を解決するための手段】
【0017】
この課題は、本発明によると、以下のアミノ酸配列:
−軽鎖の可変領域のCDR:CDR1配列番号1、CDR2配列番号2、CDR3配列番号3、および
−重鎖の可変領域のCDR:CDR1配列番号4、CDR2配列番号5、CDR3配列番号6
を含む相補性決定領域(CDR)を含有する、前立腺特異幹細胞抗原(PSCA)に結合する抗体(ここでは、抗PSCA抗体とも呼ばれる)によって解決される。
【0018】
前記のCDRsを特徴とする、本発明による抗体は、ここでは簡略化してMB1とも呼ばれる。本発明者は、広範囲に及ぶ検査の枠内で、意外なことに、組換えにより製造された二重特異性抗体の形態の、本発明による抗体が、非常にわずかな量においてもPSCA陽性腫瘍細胞の特異的溶解を仲介できることを確認した。さらには、意外なことに、新規抗体によって仲介される、PSCA陽性腫瘍細胞の特異的溶解は、より効果的であることが確認された。つまり、本発明による抗PSCA抗体を含有する二重特異性抗体を用いたin vitro検査では、使用されたPSCA陽性腫瘍細胞の90%超を溶解することができた。したがって、新規の抗PSCA抗体を用いることで、使用される抗体量を明らかに減少させることができる。同時に、本発明による抗体を用いると、PSCA陽性腫瘍細胞をより効果的に溶解することができるため、治療上の有効性が上昇する。本発明の抗体を用いることで有効性が達成可能である濃度は低いため、本発明の抗体によると、転移性PSCA陽性細胞の殺滅の改善も可能である。従来技術から公知の、匹敵する二重特異性コンストラクト中の抗PSCA 7F5を用いた比較検査は、in vitro試験(
図3)でもin vivo試験(
図4)でも、本発明による抗体の優位性を明らかに証明する。
【0019】
好ましい、本発明による抗PSCA抗体は、前記で定義されたようなCDR領域を含有し、ただし、軽鎖および重鎖の可変領域のアミノ酸配列は、以下のアミノ酸配列:
−軽鎖の可変領域配列番号24、重鎖の可変領域配列番号26、または
−軽鎖の可変領域配列番号20、重鎖の可変領域配列番号22
に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、特に好ましくは少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を示す。
【0020】
そのうち好ましいのは、上記で定義されたCDR領域を含む、その可変領域がヒト化構造を有する抗PSCA抗体である。特に好ましいのは、その軽鎖可変領域が配列番号24によるアミノ酸配列を含有し、その重鎖可変領域が配列番号26によるアミノ酸配列を含有する抗PSCA抗体である。
【0021】
本発明の主旨での「抗体」という用語は、抗原に特異的に結合することができるすべての抗体または抗体断片を含む。その際、組換え抗体とは、遺伝子工学的に変化させた生物を利用して製造される抗体のことである。抗体という用語は、完全なモノクローナル抗体と同様にそのエピトープ結合性断片も含む。その際、エピトープ結合性断片(ここでは抗体断片とも呼ばれる)は、抗原に結合することができる抗体部分を含む。本発明の主旨での抗体断片は、Fab、Fab‘、F(ab‘)
2、Fd、一本鎖(single−chain)可変断片(scFv)、一本鎖抗体、ジスルフィド結合された可変断片(sdFv)、および軽鎖可変領域(V
L)または重鎖可変領域(V
H)のいずれか一方を含有する断片を含む。抗体断片は、可変領域を、単独か、またはヒンジ領域および定常領域の第一ドメイン、第二ドメイン、第三ドメイン(C
H1、C
H2、C
H3)から選択される別の領域と組み合わせてのいずれか一方で含有する。
【0022】
さらに、抗体という用語は、二重特異性抗体、三重特異性抗体、および四重特異性抗体のような、組換えにより製造された抗体を含む。同じく抗体という用語に含まれているのは、その抗体の異なる部分が様々な種に由来する、例えば、ヒト定常領域と組み合わされているマウス可変領域を含む抗体のようなキメラ抗体である。ここでは、ヒト化抗体も同じく、抗体という用語に含まれている。抗体をヒト化することの目的は、ヒト系で使用するために、例えばマウス抗体のような異種抗体の免疫原性を低下させることにあって、ただし、完全な結合親和性および抗原特異性は維持されたままである。ヒト化抗体は、例えば、リサーフェシング(Resurfacing)およびCDRグラフティングのような、様々な公知のやり方で製造することができる。リサーフェシングでは、分子モデリング、統計分析、および突然変異誘発の組み合わせにより、抗体表面上のすべての非CDR領域を変化させるため、これらの非CDR領域が、標的生物の抗体の表面に類似するようになる。CDRグラフティングでは、ヒト化されるべき抗体のCDR領域を、ヒトの可変領域に導入する。
【0023】
抗体断片は、場合によっては、リンカーを介して互いに結合されている。このリンカーは、短い(好ましくは10〜50個のアミノ酸残基長の)ペプチド配列を含み、このペプチド配列は、その抗体断片が完全な抗体の抗原特異性を示すように、抗体断片がV
LおよびV
Hの三次元フォールディングを有するように、選択される。好ましいのは、グリシン−セリンリンカー、または配列番号75もしくは配列番号76によるアミノ酸配列を有するリンカーペプチドである。
【0024】
「可変領域」という名称は、ここでは、その配列において抗体間で異なり抗体の特異性およびその抗体の抗原への結合を特定する、抗体の重鎖および軽鎖の部分を意味する。その際、その多様性は、可変領域中に均一に分布しているのではなく、通例は、可変領域の三つの定められた区間、相補性決定領域(CDRs、超可変領域とも呼ばれる)内に集中しており、この領域は、軽鎖の可変領域と同様に重鎖の可変領域中にも含有されている。抗体の抗原結合部位、いわゆるパラトープは、抗体の軽鎖および重鎖の超可変領域(CDR)によって特徴づけられている。
【0025】
抗体を記載する際に、ここでは、その抗体が、その名称の中で記載される抗原に特異的に結合する抗体であることを表すために、抗「抗原」抗体という簡略化された名称も使用される。つまり、例えば、「抗PSCA抗体」とは、本発明の主旨では、抗原PSCAに特異的に結合する抗体と理解することができる。ある特定の抗原への、抗体の特異的結合とは、ここでは、ある抗体が、特定の抗原に高い親和性で結合し、別の抗原には明らかに低い親和性で結合し、好ましくは別の抗原には結合しないと理解される。
【0026】
好ましい抗体は、scFv断片またはF(ab‘)
2断片の形態で存在する。さらに好ましい抗体は、組換えにより製造され二つの異なるパラトープを含有する二重特異性抗体であって、そのパラトープのうちの一方は、PSCAに対してであって、もう一方はPSCAに対してではない。その際、二重特異性抗体の他方のパラトープは、好ましくは、エフェクター細胞上の表面構造に対するか、または10〜50個のアミノ酸長のペプチド(好ましくは、ヒトLaタンパク質の10〜50個アミノ酸長配列、特に好ましくは配列番号75または配列番号76によるアミノ酸配列の一つを有するペプチド)に対する。
【0027】
好ましくは、本発明による抗PSCA抗体(ナイーブ抗体または組換え抗体)はエフェクター群と共役している。共役とは、ここでは、ある物質、つまりエフェクター群の、抗体への結合を意味する。エフェクター群への抗体の結合は、好ましくは、融合タンパク質の形態での組換え発現によるか、またはin vitro法により製造され、ただし、エフェクター群は、好ましくは、化学リンカー群を介して抗体に結合される(例えば、チオエーテル結合またはジスルフィド結合を介して)。エフェクター群は、中間担体分子、例えば血清アルブミンを介して抗体に結合されていることも可能である。場合によっては、本発明による抗体は、複数のエフェクター群を含有する。その際、エフェクター群は、好ましくは、有効成分、ペプチド(10〜100個のアミノ酸長)、タンパク質(100個超のアミノ酸長)、共刺激分子、色素、または造影剤から選択される。
【0028】
好ましい本発明による抗PSCA抗体は、有効成分、つまり薬学上有効な物質と共役している。好ましい有効成分は、毒素、好ましくは細胞分裂阻害剤を含み、そのうち好ましくはメイタンシノイドおよびメイタンシノイド類似体、タキソイド、CC−1065およびCC−1065類似体、ドラスタチンおよびドラスタチン類似体、メトトレキサート、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、メルファラン、ミトマイシンC、クロラムブシル、ならびにカリケアミシンから選択される。
【0029】
さらに好ましい本発明による抗PSCA抗体は、造影剤と共役している。好ましい造影剤は、放射性核種であって、そのうち好ましいのは、テクネチウム、レニウム、イットリウム、銅、ガリウム、インジウム、ビスマス、および白金の放射性同位体、特に
99mTc、
90Y、
186Re、
188Re、
68Gaおよび
111Inである。
【0030】
さらに好ましい本発明による抗PSCA抗体は、タンパク質、好ましくは酵素、好ましくはADEPT系に適した酵素、共刺激分子、好ましくはToll様受容体のリガンド、そのうち好ましくはCpG、または核酸と共役している。
【0031】
さらに好ましい抗PSCA抗体は、色素、好ましくは蛍光色素と共役している。
【0032】
さらに好ましい本発明による抗体は、ペプチドと共役しており、このペプチドは、そのペプチドに対して特異的な抗体が特異的に結合する結合領域を含有する。好ましくは、このペプチドは、ヒトLaタンパク質のアルファへリックス領域の、10〜50個のアミノ酸長のペプチド配列を含む(ヒトLaタンパク質のアミノ酸配列は、配列番号77に相応する)。特に好ましいのは、配列番号75または配列番号76によるアミノ酸配列の一つに対して少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、特に好ましくは少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有するペプチドである。
【0033】
特に好ましくは、本発明による抗PSCA抗体は、組換えにより製造される。好ましくは、本発明による組換え抗PSCA抗体は、少なくとも二つの異なる結合単位を含有し、ただし、
−それらの結合単位の少なくとも一つは、PSCAに特異的に結合し、この結合単位は、本発明による抗PSCA抗体のパラトープを含有し、
−それらの結合単位の少なくとももう一つは、PSCAとは異なる一つの抗原、好ましくはエフェクター細胞の表面構造に結合する。
【0034】
したがって、PSCA結合性の結合単位は、本発明による抗PSCA抗体を含み、それに応じて、少なくとも以下のCDR領域:
−以下のアミノ酸配列:CDR1配列番号1、CDR2配列番号2、CDR3配列番号3を含む、軽鎖可変領域のCDR、および
−以下のアミノ酸配列:CDR1配列番号4、CDR2配列番号5、CDR3配列番号6を含む、重鎖可変領域のCDR
を含有する。
【0035】
本発明の主旨での「結合単位」とは、定められた物質または構造を特異的に結合するあらゆる分子構造を意味する。その際、結合される物質または構造に依存して、この結合単位は、様々な構造を有する。したがって、本発明の主旨での「結合単位」という名称により、抗体が含まれている(この場合、結合単位は、少なくとも、抗体の機能性パラトープを含有する)と同様に、抗原と特異的に結合する別の分子、好ましくはタンパク質も含まれている。そのような分子は、好ましくは、細胞、特にエフェクター細胞上の表面構造(例えば表面受容体)に特異的に結合するリガンドである。
【0036】
本発明による抗体に含有されている好ましい結合単位は、エフェクター細胞に特異的に結合する。本発明の主旨でのエフェクター細胞の定義は、免疫反応を仲介するか、または免疫反応に能動的に関与している、自然免疫系および獲得免疫系の全細胞を含む。好ましくは、エフェクター細胞は、Tリンパ球、NK細胞、単球、マクロファージ、樹状細胞、および顆粒球から選択される。特に好ましいのは、Tリンパ球上の表面構造に対して結合する結合単位である。
【0037】
本発明による組換え抗体が、少なくとも二つの異なる抗体(少なくとも一つの本発明による抗PSCA抗体、および少なくとももう一つの、PSCAに特異的に結合するのではない抗体)を含有する場合、この組換え抗体は、好ましくは、二重特異性抗体、三重特異性抗体、または四重特異性抗体の形態で存在する。そのうち好ましいのは、一本鎖抗体に由来する二重特異性抗体(single chain bispecific diabody、scBsDb)、または一本鎖抗体に由来する二重特異性タンデム抗体(single chain bispecific tandem antibody、scBsTaFv)である。特に好ましくは、本発明による組換え抗体は、scBsTaFvの形態で存在する。
【0038】
本発明による組換え抗体中に含有されている好ましい非PSCA結合性抗体は(この場合は、組換え抗体は二重特異性抗体である)、エフェクター細胞の表面構造に特異的に結合する抗体である。この場合、非PSCA結合性結合単位は、少なくとも、エフェクター細胞の表面構造に結合する抗体のパラトープを含有する。特に好ましくは、この抗体は、エフェクター細胞上の以下の表面構造、つまり、CD3、CD8、CD4、CD25、CD28、CD16、NKG2D、NKp46、NKp44、活性化KIR受容体(activating Killer Cell Immunoglobulin−like Receptors)に対する。特に好ましいのは、CD3に対する抗体であって(抗CD3抗体)、ただし、抗CD3抗体は、以下のアミノ酸配列:
−重鎖可変領域のCDR:CDR1配列番号66、CDR2配列番号67、CDR3配列番号68、および
−軽鎖可変領域のCDR:CDR1配列番号58、CDR2配列番号59、CDR3配列番号60
を含むCDR領域を含有する。
【0039】
さらに好ましいのは、少なくとも二つの異なる結合単位を含有する組換え抗PSCA抗体であって、ただし、結合単位の少なくとももう一つは、エフェクター細胞上の表面構造に特異的に結合するリガンド(好ましくはタンパク質またはグリカン)である。好ましいリガンドは、(エフェクター)細胞表面への、その結合によって、エフェクター細胞の活性に影響を及ぼす。その際、このリガンドは、リガンドがエフェクター細胞の表面構造に特異的に結合し、その結合によりエフェクター細胞を活性化するためのシグナルカスケードを引き起こすように選択されている。リガンドとして好ましいのは、エフェクター細胞の表面上で特異的に発現される受容体に特異的に結合するタンパク質構造またはグリカンであって、ただし、このリガンドは、受容体へのその結合によって、エフェクター細胞の活性化を引き起こす。特に好ましいのは、ULB−Ps(例えば、ULB−P2)、MICA、MICB、および(例えば、IL2およびIL15のような)サイトカインから選択されるタンパク質構造である。
【0040】
本発明による抗体、特に本発明による組換え抗体は、in vivoおよびin vitroでのPSCA陽性細胞への特異的結合に適している。したがって、本発明は、本発明による抗PSCA抗体の、特に、腫瘍疾患好ましくは前立腺癌を治療するための医薬品として、または診断薬としての使用も含む。
【0041】
本発明は、さらに、腫瘍疾患、特に前立腺癌を治療するための、本発明による抗体を含む。同じく本発明によって含まれているのは、腫瘍疾患、特に前立腺癌の治療薬を製造するための、本発明による抗体の使用である。
【0042】
本発明による(好ましくは組換え)抗体の好ましい治療的適用は、腫瘍疾患、好ましくは前立腺癌の治療である。治療的適用においては、本発明による抗体を、好ましくは、治療上有効な物質またはエフェクター細胞の、腫瘍組織へのターゲティングに使用する。治療上有効な物質の、腫瘍組織へのターゲティングには、好ましくは、有効成分と共役している本発明による組換え抗体が使用される。エフェクター細胞の、腫瘍組織へのターゲティングには、好ましくは、少なくとも二つの異なる結合単位を含有する本発明による組換え抗体が使用され、ただし、結合単位の少なくとも一つは本発明による抗PSCA抗体であって、結合単位のもう一方は、エフェクター細胞、好ましくはT細胞上のCD3に特異的に結合する。そのために、好ましくは、上記の抗体を使用する。
【0043】
本発明によって、薬学的に許容される希釈剤または担体と関連して本発明による抗体を含有する医薬組成物も含まれている。好ましくは、本発明による医薬組成物は、静脈内投与に適した形態で存在する。
【0044】
好ましくは、本発明による医薬組成物中の抗体は、組換え形態で、キメラ抗体として、または特に好ましくは、低下した免疫原性を有するヒト化抗体として存在する。
【0045】
本発明による医薬組成物は、様々な剤形を含み、好ましくは、腸管外投与、特に好ましくは静脈内投与に適している。好ましくは、腸管外医薬組成物は、注入用に適した剤形で存在する。したがって、特に好ましい医薬組成物は、薬学的に許容される希釈剤または担体中での、抗体の溶液、乳濁液、または懸濁液である。
【0046】
薬学的に許容される担体は、好ましくは無菌液、特に水、緩衝水、0.4%塩溶液、0.3%グリシン等々である。この医薬組成物は、従来の、よく知られた技術によって滅菌される。この組成物は、好ましくは、薬学的に許容される、例えば、およそ生理学的条件をもたらすため、および/または組成物中に含有されている抗体の安定性を上げるために必要とされるような、例えば、pH値調整剤、および緩衝剤、毒性調整剤(Mittel zur Einstellung der Toxizitaet)等々のような補助物質を含有し、好ましくは、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、および乳酸ナトリウムから選択される。
【0047】
好ましくは、この医薬組成物は、0.1〜500mg/mlの抗体、特に好ましくは0.1〜250mg/mlの抗体を、特に、1〜500mMol/lの緩衝液と共に含有する、注入可能な緩衝溶液である。この注入可能な溶液は、好ましくは、液体剤形でも凍結乾燥剤形でも存在する。緩衝液は、好ましくは、ヒスチジン、スクシン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、およびリン酸カリウムから選択される。
【0048】
好ましくは、本発明による医薬組成物は、少なくとも二つの異なる(好ましくは組換え)抗体を含有し、ただし、少なくとも一つの本発明による抗PSCA抗体、および本発明による抗PSCA抗体と特異的結合をするもう一つの組換え抗体が含有されている。特に好ましいのは、以下の組み合わせ:
a)10〜50個のアミノ酸長のペプチドと共役している組換え抗PSCA抗体、およびそのペプチドに特異的に結合するもう一つの組換え抗体、または
b)10〜50個のアミノ酸長のペプチドに結合するさらに一つの抗体を含有する二重特異性抗PSCA抗体、およびPSCAとは異なる抗原に対して結合し、二重特異性抗PSCA抗体が結合するペプチドを含有するもう一つの組換え抗体
である。
【0049】
その際、少なくとも二つの異なる抗体は、本発明による医薬組成物中に、好ましくは個別に包装されて存在する。
【0050】
a)で定義される組み合わせを含有する、好ましい医薬組成物は、以下を含む:
−ヒトLaタンパク質のアルファへリックス領域の、10〜50個のアミノ酸長のアミノ酸配列を含有するペプチドと共役している組換え抗PSCA抗体(ヒトLaタンパク質のアミノ酸配列は、配列番号77に相応する)。好ましくは、抗PSCA抗体は、配列番号75または配列番号76によるアミノ酸配列の一つに対して少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、特に好ましくは少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有するペプチドと共役している。
−抗PSCA抗体のペプチドに対して特異的に結合するパラトープを含有し、エフェクター細胞の表面構造に特異的に結合するもう一つの結合単位を含有する、もう一つの(好ましくは組換え)抗体。そのうち好ましい結合単位は、上記で定義されたものに対応する。組換え抗PSCA抗体が、配列番号75または配列番号76によるアミノ酸配列の一つに対して少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、特に好ましくは少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有するペプチドと共役している場合には、さらなる組換え抗体は、好ましくは、このペプチドに結合するパラトープとして、以下のアミノ酸配列:
○軽鎖可変領域のCDR:CDR1配列番号78、CDR2配列番号79、CDR3配列番号80、および重鎖可変領域のCDR:CDR1配列番号81、CDR2配列番号82、CDR3配列番号83(ここでは「5B9」パラトープとも呼ばれる)、または
○軽鎖可変領域のCDR:CDR1配列番号84、CDR2配列番号85、CDR3配列番号86、および重鎖可変領域のCDR:CDR1配列番号87、CDR2配列番号88、CDR3配列番号89(ここでは「7B6」パラトープとも呼ばれる)
を含有する。
【0051】
そのうち好ましい組み合わせは、
−配列番号75によるアミノ酸配列の一つに対して少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、特に好ましくは少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有するペプチドを含有する抗PSCA抗体、および5B9パラトープを含有するもう一つの抗体、または
−配列番号76によるアミノ酸配列の一つに対して少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、特に好ましくは少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有するペプチドを含有する抗PSCA抗体、および7B6パラトープを含有するもう一つの抗体である。
【0052】
b)で定義される組み合わせを含有する、好ましい医薬組成物は、
−エフェクター細胞の表面構造に特異的に結合し、ヒトLaタンパク質のアルファへリックス領域の、10〜50個のアミノ酸長のアミノ酸配列、好ましくは配列番号75または配列番号76によるアミノ酸配列の一つに対して少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、特に好ましくは少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有するペプチドを含有するもう一つの抗体
−ヒトLaタンパク質のアルファへリックス領域の、10〜50個のアミノ酸長のアミノ酸配列を特異的に結合する抗体と共役している二重特異性抗PSCA抗体を含む。さらなる組換え抗体が、配列番号75または配列番号76によるアミノ酸配列の一つに対して少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、特に好ましくは少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有するペプチドを含有する場合、二重特異性抗PSCA抗体は、好ましくは、上記で定義された5B9パラトープまたは7B6パラトープを含有する。
【0053】
そのうち好ましい組み合わせは、
−5B9パラトープを含有する二重特異性抗PSCA抗体、および配列番号75によるアミノ酸配列の一つに対して少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、特に好ましくは少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有するペプチドを含有するもう一つの組換え抗体、または
−7B6パラトープを含有する二重特異性抗PSCA抗体、および配列番号76によるアミノ酸配列の一つに対して少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、特に好ましくは少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有するペプチドを含有するもう一つの組換え抗体である。
【0054】
好ましい診断的適用は、in vivo診断法であって、造影剤と共役した本発明による抗PSCA抗体が、造影剤を、腫瘍組織へと意図的に輸送するために使用される。本発明による抗PSCA抗体の、さらに好ましい診断的適用は、in vitro診断法であって、好ましくは、色素と共役した本発明による抗PSCA抗体が、サンプル中、特に組織サンプル中のPSCA陽性細胞を検出するために使用される。
【0055】
本発明によって、本発明による抗PSCA抗体を含有する診断用組成物も含まれている。その診断用組成物中で、抗PSCA抗体は、好ましくは緩衝溶液中、好ましくは緩衝された塩溶液中に存在する。
【0056】
本発明は、同様に、そのヌクレオチド配列が本発明による抗PSCA抗体をコードする核酸も含む。好ましくは、軽鎖および重鎖の可変領域のCDRをコードする断片は、以下のヌクレオチド配列:
−軽鎖可変領域のCDR:CDR1配列番号7、CDR2配列番号9、CDR3配列番号11および重鎖可変領域のCDR:CDR1配列番号13、CDR2配列番号15、CDR3配列番号17、または
−軽鎖可変領域のCDR:CDR1配列番号8、CDR2配列番号10、CDR3配列番号12および重鎖可変領域のCDR:CDR1配列番号14、CDR2配列番号16、CDR3配列番号18を含有する。
【0057】
本発明の主旨での「核酸」という用語は、デオキシリボ核酸(DNA)およびリボ核酸(RNA)のほかに、塩基のアデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)およびチミン(T)またはウラシル(U)が適した順序で配置されている(核酸配列)別のすべての鎖状ポリマーも含む。その際、本発明は、(チミンがウラシルで置換されている)対応するRNA配列、相補性配列、および修飾された核酸骨格または3’末端または5’末端を有する配列も含む。その際、「変化した骨格をもつ核酸配列」という用語は、例えば、ホスホチオエート誘導体化、アミド亜リン酸エステル誘導体化、もしくはO−メチル−誘導体化された骨格、ペプチド核酸(PNA)、およびロックド核酸(LNA)、または混合骨格をもつ配列のような、そのポリマー中では塩基のアデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)およびチミン(T)またはウラシル(U)が適した順序で配置されている別のすべての鎖状ポリマーを含む。「修飾された3’末端または5’末端」という用語は、その際、安定化に役立つ修飾と同様にマーカーの結合も含む。マーカーの例は、酵素、色素、または蛍光色素、放射性ヌクレオチド、ならびに、例えばジゴキシゲニンまたはビオチンのようなハプテンである。
【0058】
本発明によって、本発明による核酸を含有するベクター(同じく:「発現ベクター」)も含まれている。本発明の主旨では、発現ベクターとは、本発明による核酸配列を挿入または取り込みにより組換えて含有するプラスミド、ウイルス、または別の担体と理解される。この発現ベクターは、典型的には複製開始点、プロモーター、ならびに発現ベクターを含有する宿主細胞の表現型選択を可能にする特異的遺伝子配列を含有する。
【0059】
さらに、本発明は、本発明によるヌクレオチド配列もしくは本発明によるベクターを含有する宿主細胞または非ヒト宿主生物を含む。その際、ヌクレオチド配列またはベクターは、宿主細胞または非ヒト宿主生物中に組換えにより含有されている。
【0060】
本発明の主旨での宿主細胞は、少なくとも一つの本発明によるベクターを含有する、自然に存在する細胞または形質転換細胞株もしくは遺伝子改変細胞株である。その際、本発明は、少なくとも一つの本発明による発現ベクターがプラスミドまたは人工染色体として含有されている一過性形質転換体(例えば、mRNAインジェクションによる)または宿主細胞、ならびに本発明の発現ベクターが宿主のゲノムに安定に組み込まれている宿主細胞を含む。
【0061】
この宿主細胞は、好ましくは、原核生物および真核生物の細胞から選択される。胚を破壊しながら獲得されたヒト胚性幹細胞は、本発明の主旨での宿主細胞ではない。好ましい原核生物細胞は、Escherichia coliおよびBacillus subtilisの細胞から選択される。好ましい真核生物細胞は、酵母細胞(好ましくはSaccharomyces cerevisiaeまたはPichia pastoris)、昆虫細胞、両生類細胞、および哺乳類細胞(好ましくはCHO、HeLa、HEK293)から選択される。
【0062】
非ヒト宿主生物は、宿主生物のゲノムまたは宿主生物の単一細胞のゲノムに安定に組み込まれている本発明によるベクターを含有する。好ましい宿主生物は、植物、無脊椎動物、または脊椎動物、特にBovidae、Drosophila melanogaster、Caenorhabditis elegans、Xenopus laevis、Medaka、ゼブラフィッシュもしくはMus musculus、または挙げた生物の細胞もしくは胚である。
【0063】
本発明は、それを使用するとヒトPSCAをより効率よく結合することができる、抗PSCA抗体およびその抗体に帰属の発現系を記載する。その結果、本発明による抗PSCA抗体は、エフェクター細胞のリクルーティングにより腫瘍細胞の殺滅が仲介可能である治療系での使用に特に適している。本発明の抗体はPSCAへの親和性がより高いため、(例えば、治療的適用における)結合には、本質的によりわずかな量の抗体しか必要とされない。本発明による抗PSCA抗体は、明らかにより低い濃度かつ明らかにより高い効率で、PSCA陽性腫瘍細胞の特異的溶解を仲介し得るということを示すことができた。このことは、一方では、抗体消費量を軽減できることから、コスト面での利点を有する。他方、治療的適用においては、中でも転移性細胞についても改善されたターゲティングが期待でき、ならびに使用量がよりわずかであるゆえに、見込まれる副作用はよりわずかである。
【0064】
以下の図および例示的実施形態を手がかりに、それらに本発明を制限することなしに本発明をより詳細に説明する。