(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-104819(P2017-104819A)
(43)【公開日】2017年6月15日
(54)【発明の名称】水洗浄システム
(51)【国際特許分類】
B08B 3/02 20060101AFI20170519BHJP
H02S 40/42 20140101ALI20170519BHJP
H02S 40/10 20140101ALI20170519BHJP
B08B 11/04 20060101ALI20170519BHJP
A47L 11/38 20060101ALI20170519BHJP
C11D 7/32 20060101ALI20170519BHJP
C11D 7/36 20060101ALI20170519BHJP
B08B 3/08 20060101ALN20170519BHJP
【FI】
B08B3/02 F
H02S40/42
H02S40/10
B08B11/04
A47L11/38
C11D7/32
C11D7/36
B08B3/08 Z
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-241793(P2015-241793)
(22)【出願日】2015年12月11日
(11)【特許番号】特許第5967743号(P5967743)
(45)【特許公報発行日】2016年8月10日
(71)【出願人】
【識別番号】515345263
【氏名又は名称】株式会社ジェイトレイド
(74)【代理人】
【識別番号】100129539
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 康志
(72)【発明者】
【氏名】小原 弘行
(72)【発明者】
【氏名】木山 龍均
【テーマコード(参考)】
3B116
3B201
4H003
5F151
【Fターム(参考)】
3B116AA02
3B116AA31
3B116AA47
3B116AB53
3B116BB22
3B116BB43
3B116CD22
3B201AA02
3B201AA31
3B201AA47
3B201AB53
3B201BB22
3B201BB43
3B201BB92
3B201CD22
4H003BA12
4H003DA05
4H003DA15
4H003DC01
4H003EB12
4H003EB24
4H003ED02
4H003FA07
5F151BA03
5F151BA05
5F151BA18
5F151JA15
5F151JA30
(57)【要約】
【課題】表面の全部又は一部にガラスを有する被洗浄物を水洗浄するにあたり、表面に硬度成分やシリカ等のスケールが発生するのを抑制すること。
【解決手段】表面の全部又は一部にガラスを有する被洗浄物を洗浄する水洗浄システムであって、被洗浄物を洗浄するための洗浄水に、水中でシリカ成分を封鎖するキレート剤を添加する水処理装置と、前記キレート剤が添加された洗浄水を被洗浄物に散水する散水装置と、を備えた構成とする。水洗浄システムが太陽光発電パネルの冷却兼洗浄システムの場合、冷却及び洗浄することによる発電効率の向上機能を果たし、さらに冷却兼洗浄水を散水すること自体に起因して発電効率が低下するのを防ぐことができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面の全部又は一部にガラスを有する被洗浄物を洗浄する水洗浄システムであって、
前記被洗浄物を洗浄するための洗浄水に、水中でシリカ成分を封鎖するキレート剤を添加する水処理装置と、
前記キレート剤が添加された洗浄水を被洗浄物に散水する散水装置と、を備えたことを特徴とする水洗浄システム。
【請求項2】
前記水洗浄システムが、太陽光発電パネルの発電効率を向上させるための冷却兼洗浄システムであり、
被洗浄物である太陽光発電パネルの採光部の表面を冷却及び洗浄するための洗浄水に、水中でシリカ成分を封鎖するキレート剤を添加する前記水処理装置と、
前記キレート剤が添加された洗浄水を太陽光発電パネルに散水して、該太陽光発電パネルを冷却及び洗浄する前記散水装置と、
前記太陽光発電パネルに散水した洗浄水を再利用するために集水する集水装置と、を備えたことを特徴とする請求項1に記載の水洗浄システム。
【請求項3】
前記洗浄水に添加するキレート剤が、ジヒドロキシエチルグリシンナトリウム塩及び/又は1−ヒドロキシエチレリデン−1,1−ジホスホン酸を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の水洗浄システム。
【請求項4】
前記キレート剤を、前記洗浄水に対して、洗浄水に含まれているシリカ含有量の10質量%以上となるように添加することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の水洗浄システム。
【請求項5】
前記被洗浄物に散水される洗浄水の蒸発残留物が200mg/L以下となるように懸濁物質(SS)、鉄、マンガン、硬度成分を除去する前処理装置を、前記キレート剤を添加する水処理装置よりも前段に配置していることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の水洗浄システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面の全部又は一部にガラスを有する被洗浄物を洗浄する水洗浄システムに関し、特に被洗浄物を洗浄する水の処理技術に関する。
【0002】
例えば、再生可能エネルギーの一つである太陽光による発電は、国内外において広く普及している。太陽光を電気に変換する太陽光発電パネルは、メガソーラを構成する大型のものから住宅やマンションの屋根の上に設置する比較的小型のものまで実用化されている。
【0003】
太陽光発電パネルの発電効果は、一般的に、設置後にその出力が徐々に低下して10年後には約60%、20年後には半分の50%程度にまで低下すると言われている。その出力低下の主な原因は、次の3つが挙げられている。
(1)太陽光発電パネルの表面温度の上昇による出力低下(10〜15%)
(2)太陽光発電パネルの採光部表面の汚れによる出力低下(3〜9%)
(3)太陽光発電パネルの採光部表面への積雪等による出力低下(1〜3%)
【0004】
例えば国内においても夏場にはパネル表面の温度が70℃近くまで上昇することがあり、温度上昇に起因する発電効率の低下に対しては、従来においても、太陽光発電パネルに水を散水して冷やすことによる解決手段が検討されている。さらに、水の消費量を抑えるために、散水した水を回収・浄化して再び散水することや、上水に代えて雨水を水源にすることなども検討されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−54340号公報
【特許文献2】特許第3751013号公報
【特許文献3】特開2013−38102号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、パネル表面に水を散水すると、水に含まれる硬度成分やシリカ等のスケールがパネル表面に発生してしまう問題がある。硬度成分やシリカ等のスケールがパネル表面に発生すると、太陽光の採光に悪影響を及ぼし、発電効率の低下を招く場合がある。
図8(a)は、スプレーノズル式の散水装置を使って実際に水を散水した際に、パネル表面に発生したスケールを撮影したものである。
図8(a)によると、白濁したスケールがパネル表面に斑状に発生していることが確認できる。これは、散水開始から僅か30日後の様子である。このように、温度上昇したパネル表面への散水によって発生したスケールは、パネル表面のガラスと化学的に結合するなどしており、水洗いや拭き取り作業等で簡単に除去できるものではない。
図8(b)は、拭き取りによりスケールを除去しようとしたものであるが、かえってパネル表面の状態が悪化している。
【0007】
すなわち、例えば特許文献1−3に開示されている技術は、太陽光発電パネルを水で冷やすことしか検討されておらず、実際に散水することによって顕在化するスケールの問題は何ら検討されていない。つまり、散水開始後の初期においては高い発電効率が得られるが、長期的に見ればスケールの発生・蓄積によって発電効率が次第に低下していく。スケールが蓄積してしまうと、除去が困難なことは既述のとおりである。このようなスケールの問題は、特に広い敷地に大型の太陽光発電パネルを多数枚設置した場合に顕著になる。
【0008】
散水することによるスケールの問題は、太陽光発電パネル以外の技術分野においても問題になる。例えば、マンションや公共施設などの建築物、電車や車などの車両を洗浄するために水を散水すると、表面にスケールが発生する。特に、窓ガラスの表面にシリカ由来のスケールが発生すると、その除去は困難である。
図9は、散水が原因で窓ガラスに発生したスケールを撮影したものである。
【0009】
本発明は、一例として挙げた上記問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、表面の全部又は一部にガラスを有する被洗浄物を水洗浄するにあたり、表面に硬度成分やシリカ等のスケールが発生するのを抑制することを目的とする。
【0010】
また、本発明の他の目的は、冷却兼洗浄水を散水することで太陽光発電パネルの冷却及び洗浄機能を果たし、発電効率を大幅に向上させることのできる太陽光発電パネルの冷却兼洗浄システムを提供することにある(降雪地帯においては除雪機能も果たす)。とりわけ、被洗浄物である太陽光発電パネルの採光部の表面に硬度成分やシリカ等のスケールが発生するのを抑制し、散水が原因で発電効率が低下するのを防ぐことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明の水洗浄システムは、表面の全部又は一部にガラスを有する被洗浄物を洗浄する水洗浄システムであって、前記被洗浄物を洗浄するための洗浄水に、水中でシリカ成分を封鎖するキレート剤を添加する水処理装置と、前記キレート剤が添加された洗浄水を被洗浄物に散水する散水装置と、を備えたことを特徴とする。
なお、「水中でシリカ成分を封鎖するキレート剤」とは、水中でシリカ成分のみを封鎖する作用を発揮するキレート剤に特定するのではなく、水中でシリカ成分と共に鉄、マンガン、硬度成分の1種以上を封鎖する作用を発揮するキレート剤も含む。
(2)前記水洗浄システムが、太陽光発電パネルの発電効率を向上させるための冷却兼洗浄システムであり、被洗浄物である太陽光発電パネルの採光部の表面を冷却及び洗浄する洗浄水に、水中でシリカ成分を封鎖するキレート剤を添加する水処理装置と、前記キレート剤が添加された洗浄水を太陽光発電パネルに散水して、該太陽光発電パネルを冷却及び洗浄する散水装置と、前記太陽光発電パネルに散水した洗浄水を再利用するために集水する集水装置と、を備えた構成にすることができる。
(3)前記洗浄水に添加するキレート剤が、ジヒドロキシエチルグリシンナトリウム塩及び/又は1−ヒドロキシエチレリデン−1,1−ジホスホン酸を含むことが好ましい。
(4)前記キレート剤を、前記洗浄水に対して10質量%以上となるように添加することが好ましい。
(5)前記被洗浄物に散水される洗浄水の蒸発残留物が200mg/L以下となるように懸濁物質(SS)、鉄、マンガン、硬度成分を除去する前処理装置を、前記キレート剤を添加する水処理装置よりも前段に配置することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の水洗浄システムによれば、水中でシリカ成分を封鎖するキレート剤を添加した洗浄水を被洗浄物に散水することによって、表面の全部又は一部にガラスを有する被洗浄物の表面に硬度成分やシリカ等のスケールが発生するのを抑制することができる。
【0013】
また、水洗浄システムが太陽光発電パネルの冷却兼洗浄システムの場合、冷却及び洗浄することによる発電効率の向上機能を果たし、さらに冷却兼洗浄水を散水すること自体に起因して発電効率が低下するのを防ぐことができる。冷却及び洗浄することによる発電効率の向上機能は、海外における気温の高い地域に設置される太陽光発電パネルに対して、より高い効果を得ることができる。
【0014】
さらに、洗浄水に添加するキレート剤が、ジヒドロキシエチルグリシンナトリウム塩及び/又は1−ヒドロキシエチレリデン−1,1−ジホスホン酸を含むようにすれば、後述する実施例の結果から明らかなように、スケールの発生を抑制する効果が大きい。
【0015】
好ましくは、洗浄水に添加するキレート剤の濃度を、洗浄水に含まれているシリカ含有量の10質量%以上となるように添加する。かかる濃度に調整することによって、より確実にスケールの発生を抑制することができる。
【0016】
さらに好ましくは、被洗浄物に散水される洗浄水の蒸発残留物が200mg/L以下となるように懸濁物質(SS)、鉄、マンガン、硬度成分を除去する前処理装置を設けて、キレート剤を添加するよりも前に洗浄水を前処理する。この前処理を行うことによって、キレート剤の封鎖作用をシリカに対して効果的に働かせることができ、パネル表面のガラスとシリカが化学的に結合したスケールの発生を、より確実に抑制することができる。また、前処理を行うことによって、シリカ以外の異種元素によるスケールの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第1実施形態に従う太陽光発電パネルの冷却兼洗浄システムである。
【
図2】上記冷却兼洗浄システムの散水装置と集水装置を説明する図である。
【
図3】本発明の第2実施形態に従う水洗浄システムである。
【
図4】本発明の効果を確認するために行った実施例1の結果を示す図である。
【
図5】本発明の効果を確認するために行った実施例1の結果を示す図である。
【
図6】本発明の効果を確認するために行った比較例の結果を示す図である。
【
図7】本発明の効果を確認するために行った実施例2の結果を示す図である。
【
図8】太陽光発電パネルの表面に発生したスケールを説明する図である。
【
図9】建築物の窓ガラスの表面に発生したスケールを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施形態に従う水洗浄システムについて添付図面を参照しながら説明する。但し、以下に説明する実施形態によって本発明の技術的範囲は何ら限定解釈されることはない。
【0019】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に従う太陽光発電パネル1の冷却兼洗浄システム2(以下、単に「冷却兼洗浄システム」と称す)の全体構成を示す図である。
図1に示すように、冷却兼洗浄システム2は、冷却と洗浄を行う水(本明細書では「冷却兼洗浄水」と称する)を貯留する貯留槽3、太陽光発電パネル1に冷却兼洗浄水を散水する散水装置4、散水した冷却兼洗浄水を集水する集水装置5、集水した冷却兼洗浄水を再使用可能にする再使用化装置6を備えている。
図1に示すように、貯留槽3、散水装置4、集水装置5及び再使用化装置6は、冷却兼洗浄水を循環使用するループを形成しており、これによって水の消費量を抑えている。但し、蒸発等によるロスが生じるので、冷却兼洗浄システム2は、ロス分を補うための補給水経路7を備えている。冷却兼洗浄水及びその補給水としては、水資源を有効活用するために地下水、河川水、湖沼水等の自然環境水を用いることが好ましい。その他、工業用水、水道水を用いることもできるが、これらはコスト的に割高になる短所がある。
【0020】
地下水、河川水、湖沼水等の自然環境水は、懸濁物質を含め、スケールの原因となる鉄、マンガン、カルシウム、マグネシウム、シリカ等の金属イオンや有機物等が存在しているので、補給水経路7には、これらの成分を封鎖することのできるキレート剤を冷却兼洗浄水に添加するキレート剤添加装置8、キレート剤を添加する前に所定の前処理を行うための前処理装置9が配置されている。以下、各装置の詳しい説明を行う。
【0021】
散水装置4は、太陽光発電パネル1の表面に向けて冷却兼洗浄水を散水する装置である。太陽光発電パネル1の一般的な構造は、例えばアルミニウム等の枠部材に多数の太陽電池を配列したパネル構造であり、採光側のパネル表面を例えばガラス等の透明性部材で覆っている。また、透明性部材の一面に太陽電池を形成した構造の太陽光発電パネルもある。散水装置4は、太陽光採光部の表面をなす透明性部材の表面に向けて、冷却兼洗浄水を散水する。
【0022】
散水装置4の好ましい一例として、
図2に示すようなスプレーノズル式の散水装置41を挙げることができる。但し、
図2の構成に制限されることはなく、スプリンクラー、シャワー式等の公知の散水手段を採用することができる。また、パネルの上方側の一辺に沿って配管を設置し、配管に複数設けた吐出孔から散水するようにすることもできる。
【0023】
図2に示すように、スプレーノズル式の散水装置41は、例えば大型の太陽光発電パネル1の下方側の一辺の中央あたりに設置され、冷却兼洗浄水Wを噴射しながら、ノズルヘッドを旋回することによってパネル表面の全体に冷却兼洗浄水Wを散水する構成になっている。敷地内に太陽光発電パネル1を複数設置している場合、ポンプを用いて貯留槽3内の冷却兼洗浄水を散水装置4の各々に送液し、ポンプの吐出圧力を利用してノズルヘッドから噴射することができる。
【0024】
散水時間及び散水量については実際に操業しながら適宜調整するのが好ましい。散水時間の一例として、例えば温度計でパネル表面温度をモニタリングして所定の温度(例えば、50℃)を超えると散水を開始したり、日照時間のうちの所定の時間(例えば12時〜14時の間)散水したりするようにしてもよい。さらに、散水量の一例として、例えばパネル単位面積あたり2〜4L/Hrの流量で散水するようにしてもよい。また気温の低い冬場であっても、パネル上に積雪した雪を解かす目的で散水してもよい。
【0025】
集水装置5は、冷却兼洗浄水を再利用するために回収する装置である。集水装置5の一例として、
図2に示すように、例えばパネルの下方側の一辺に沿って樋51を配置し、傾斜配置されたパネル表面を流れ落ちてくる冷却兼洗浄水を樋51で受け止める構成にすることができる。敷地内に太陽光発電パネル1を複数設置している場合、各パネルに配置した樋51に連結した配管等を介して集水タンク(不図示)に集めるようにする。但し、
図2の構成に制限されることはなく、例えば敷地表面に水路(回収路)を構築するなど、公知の集水方法を採用することができる。このように集水装置5を設けることにより、冷却兼洗浄水の消費量が抑えられるだけでなく、雨天時にパネル表面に降った雨水を冷却兼洗浄水として取り込むことができる。
【0026】
なお、雨天時は散水しないことが多い為、この場合、雨水だけを集水装置で集めて補給水経路7に送り、前処理とキレート剤添加を行うようにすることもできる。或いは、雨水はスケールの原因となる成分が少ないので、前処理とキレート剤添加を省略してもよい。
【0027】
再使用化装置6は、回収した冷却兼洗浄水を再使用可能なように処理する装置である。冷却と洗浄を兼ねる冷却兼洗浄水は、パネル表面に付着していた汚れを含んでいる。この汚れは、散水装置4のノズルヘッドを閉塞させたり、雑菌繁殖など水質劣化の原因となったりする場合がある。そこで、例えば濾過機等で再使用化装置6を構成して回収した冷却兼洗浄水に含まれる懸濁物質等を除去するようにする。濾過機の一例として、マイクロフィルターなどを採用することができる。本実施形態の冷却兼洗浄システム1は、前処理とキレート剤添加を予め行うことによってスケール発生を抑制しているので、その後は懸濁物質等を除去するだけで再使用化が可能になるという利点がある。但し、例えば雑菌繁殖を抑制する殺菌装置など、水質維持に必要な装置を組み合わせて再使用化装置6を構成することもできる。さらには、回収される冷却兼洗浄水の温度が高い場合には、冷却装置を更に追加してもよい。
【0028】
続いて、補給水経路7に配置される前処理装置9とキレート剤添加装置8について説明する。既述のように、地下水、河川水、湖沼水などの自然環境水は、懸濁物質を含め、鉄、マンガン、カルシウム、マグネシウム、シリカ等の金属イオンや有機物等が存在しており、これらの成分は冷却・洗浄を繰り返すことにより太陽光発電パネル1の表面に無機系・有機系のスケールを形成する。その対策として、本実施形態は、前処理装置9とキレート剤添加装置8を配置している。
【0029】
前処理装置9は、取水した自然環境水に含まれる懸濁物質を除去する濾過機、鉄及びマンガンを除去するイオン交換樹脂装置、及び硬度成分を除去する軟水化装置によって構成されている。実際に評価試験を行った結果、太陽光発電パネル1に散水される冷却兼洗浄水の蒸発残留物が200mg/L以下となるように懸濁物質、鉄、マンガン、硬度成分を除去することによってスケール発生の抑制効果が高まることを、実際に試験を行って確認している。
【0030】
すなわち、前処理の評価項目を個々の金属イオン、懸濁物質あるいは有機物の濃度と合わせて蒸発残留物で総合的に評価することで、スケール発生を効果的に抑制するのである。前処理装置9は、この要件を満たすことのできる装置で構成されていればよく、各装置の種類等が制限されることはない。例えば、鉄及びマンガンを除去する装置として接触酸化装置を採用してもよく、酸化剤を添加する場合は更に活性炭塔を追加で配置することもできる。
【0031】
一方で、蒸発残留物に代えて、特定の成分の濃度を指標としてもよい。一例として、懸濁物質;1mg/L以下、鉄;0.01mg/L以下、マンガン;0.01mg/L以下、硬度成分;2mg/L以下となるように前処理を行うようにする。
【0032】
次に、キレート剤添加装置8は、前処理を終えた自然環境水に所定のキレート剤を添加して冷却兼洗浄水を調製する装置である。添加するキレート剤は、水中でシリカ成分を封鎖する作用を発揮するものを選択する。特に好ましいのは、ジヒドロキシエチルグリシンナトリウム塩、1−ヒドロキシエチレリデン−1,1−ジホスホン酸を成分として含むキレート剤である。これらのキレート剤は、鉄等の金属成分も封鎖し得るが、一般的なキレート剤には無い水中でシリカ成分を封鎖できるという特長的な性質を有する。添加するキレート剤は、1種であってもよく、2種以上を添加してもよい。ジヒドロキシエチルグリシンナトリウム塩又は1−ヒドロキシエチレリデン−1,1−ジホスホン酸を成分として含むキレート剤としては、例えば液状で市販されているものを使うことができる。
【0033】
キレート剤添加装置8は、例えば撹拌手段を備えた撹拌層、ラインミキサー等のインライン型の撹拌装置などで構成することができる。他の例として、前処理を終えた自然環境水を貯留するタンクを設置し、タンクにキレート剤を投入するようにしてもよい。キレート剤の添加量は、例えば洗浄水に含まれているシリカ含有量の10質量%以上、好ましくは10質量%〜80質量%、さらに好ましくは20質量%〜30質量%とする。添加量が少ないと、封鎖できないシリカ成分が残ってしまう場合があり、反対に添加量が多過ぎるとランニングコスト高になる。
【0034】
但し、雨水を冷却兼洗浄水として取り込んだ場合にも雨水に含まれる成分を封鎖できるよう添加量を多めに設定するようにしてもよい。さらに、キレート剤を添加すると冷却兼洗浄水のpHによっては水中で封鎖した成分が固体化・沈殿する場合があるので、酸又はアルカリを添加してpH調整を行うようにしてもよい。こうして調製された冷却兼洗浄水は、貯留槽3に送られ、散水装置4を通じて太陽光発電パネル1に散水される。
【0035】
(作用)
上述の冷却兼洗浄システム2を用いて太陽光発電パネル1を冷却及び洗浄する手順について説明する。まず、システムの初期稼働時においては、原料となる水(好ましくは自然環境水)を補給水経路7に取り込み、前処理及びキレート剤添加を行って冷却兼洗浄水を調製する。調製した冷却兼洗浄水は、貯留槽3に溜めておく。次に、太陽光発電パネル1の発電が行われている最中に散水が必要な条件が揃うと、散水装置4を起動させて散水を開始する。
【0036】
図2に示したスプレーノズル式の散水装置41の場合、パネル表面に向けて冷却兼洗浄水が噴射され、表面を流れ落ちながら冷却と洗浄が行われる。冷却兼洗浄水は、前処理を行ったことで蒸発残留物が所定量以下となっており、さらにキレート剤によってシリカ成分が封鎖されているので、スケールの原因となる成分はパネル表面には付着しないで流れ落ちる。或いは、水分が蒸発してパネル表面に残ったとしても後続の冷却兼洗浄水によって流れ落とされる。
【0037】
特に、ジヒドロキシエチルグリシンナトリウム塩又は1−ヒドロキシエチレリデン−1,1−ジホスホン酸からなるキレート剤を採用した場合は、封鎖作用だけでなく界面活性作用をも発揮し、パネル表面を滑らかに且つムラなく流れて冷却と洗浄を行うことができる。かかる界面活性作用は、実際に試験を行うことで発見された有利な効果である。一方で、キレート剤を添加しなかった場合、パネル表面に噴射された冷却兼洗浄水は、表面張力によってパネル表面の流れやすいところに集中して流れることが多く、冷却と洗浄にムラが生じることも確認している。
【0038】
パネル表面を流れ落ちた冷却兼洗浄水は、集水装置5によって回収されて再使用化装置6に送られる。そして再使用化装置6において、懸濁物質や異物等の汚れが除去される。再使用化された冷却兼洗浄水は、貯留槽3に戻される。一方で、循環使用される冷却兼洗浄水には蒸発等のロスが生じるので、ロス分を補うための自然環境水を補給水経路7に取り込み、補給用の冷却兼洗浄水の調製を行う。
【0039】
上述の冷却兼洗浄システム2によれば、ジヒドロキシエチルグリシンナトリウム塩や1−ヒドロキシエチレリデン−1,1−ジホスホン酸などの水中でシリカ成分を封鎖する作用を発揮するキレート剤を冷却兼洗浄水に添加し、これを太陽光発電パネル1に散水することによって、後述する試験結果からも明らかなように、パネル表面に硬度成分やシリカ等のスケールが発生するのを抑制することができる。その結果として、冷却及び洗浄することによる発電効率の向上機能を果たす一方で、冷却兼洗浄水を散水すること自体に起因して発電効率が低下するのを防ぐことが可能となる。さらに本実施形態の冷却兼洗浄システム2は、冷却及び洗浄が高性能であること以外にも、コンパクト且つ低コストで具現化できる利点もある。
【0040】
さらに好ましくは、前処理によって蒸発残留物が200mg/L以下となるように懸濁物質、鉄、マンガン、硬度成分を除去することにより、シリカ以外の無機系又は有機系のスケールが発生することを防ぐことができる。さらに、キレート剤を添加するよりも前に前処理を行うことによって、キレート剤の封鎖作用をシリカに対して効果的に働かせることができ、パネル表面のガラスとシリカが化学的に結合したスケールの発生を、より確実に抑制する効果が高まる。
【0041】
(第2実施形態)
続いて、第2実施形態に従う水洗浄システムについて、
図3を参照しながら説明する。本実施形態に従う水洗浄システム10は、洗浄を主たる機能とする水洗浄システムである。
図3に示すように、本実施形態に従う水洗浄システム10は、被洗浄物が太陽光発電パネルでないことを除けば第1実施形態と同様の構成である。従って、同じ符号を付すことによって詳しい説明は省略する。
【0042】
本実施形態で洗浄する被洗浄物は、表面の全部又は一部にガラスを有する物である。一例として、マンションや公共施設などの建築物、電車や車などの車両を挙げることができる。例えば建築物が被洗浄物である場合、洗浄水を回収することが困難な場合があるため、集水装置5と再使用化装置7を有しないシステム構成とすることもできる。さらに、水の消費量が少ない場合は、工業用水や上水を水源にすることもできる。かかる構成の第2実施形態にあっても、第1実施形態と同様の理由でスケールの発生を抑制することが可能である。勿論、被洗浄物が限定されることはなく、表面の全部又は一部にガラスを有していれば、被洗浄物となり得る。
【実施例1】
【0043】
続いて、本発明の効果を確認するために行った実施例1について説明する。
本実施例は、前処理とキレート剤の添加を行って冷却兼洗浄水を調製し、太陽電池パネルの表面に実際に散水してスケール発生の有無を確認した実施例1である。比較のため、前処理のみ行いキレート剤を添加しなかった冷却兼洗浄水を用いて同様の試験を行った。
【0044】
試験に先立ち、鉄、マンガン、硬度成分の蒸発残留物、水垢付着に対する影響を確認した。具体的には、硬度成分が70mg/L程度含まれている水道水に、鉄、マンガンの標準試薬(1000mg/L)を添加して、鉄濃度及びマンガン濃度をそれぞれ1mg/Lにした原水を調製し、さらに除鉄・除マンガン処理、硬度成分の処理を行って処理水を調製した。すなわち、前処理に相当する処理を施した処理水を得た。そして、原水と処理水の夫々について蒸発残留物試験を行い、鉄、マンガン、硬度と蒸発残留物の量を測定した。その結果と写真を
図4に併せて示す。
図4の結果から、前処理を行うことによって鉄、マンガン及び硬度成分によるスケールの発生を抑制できることが分かる。なお、原水の蒸発残留物は、鉄を含んでいることから赤錆色を呈していた。
【0045】
続いて、シリカ標準液を用いて前述の処理水のシリカ濃度を100mg/Lに調整し、更にキレート剤をシリカ含有量の30%添加して実施例用の冷却兼洗浄水を調製した。キレート剤には、ジヒドロキシエチルグリシンナトリウム塩(中部キレスト株式会社製、商品名;キレストG−50)の溶液を用いた。さらに、キレート剤添加無しのものを比較例用の冷却兼洗浄水とした。
【0046】
冷却兼洗浄水を散布する太陽光発電パネルには、株式会社オータムテクノロジー社製の太陽光発電パネル(型式;AT−MA5A)を用いた。公称最大出力5W、外形寸法185×250×15mmである。太陽光発電パネルは実施例用と比較例用に2枚準備した。実施例及び比較例共に、200mLの冷却兼洗浄水が無くなるまで連続して噴射を続け、パネル表面にシリカ成分によるスケールが発生するか否かを確認した。なお、夏場の状態を再現するために、ヒーターの輻射熱で太陽光発電パネルを加熱した。その結果を
図5と
図6に示す。
【0047】
図5の結果から明らかなように、キレート剤を添加した冷却兼洗浄水を散水した実施例1では、シリカ成分によるスケールの発生は確認できなかった。これに対し、
図6の結果から明らかなように、キレート剤を添加しなかった比較例では、シリカ成分によるスケールがパネル表面の全体に発生した。すなわち、キレート剤を添加したことによって、シリカ成分のスケールの発生を抑制できることが確認された。
【実施例2】
【0048】
本実施例は、3種類のキレート剤を用いて、実施例1と同様の試験を行った実施例2である。実施例1ではキレート剤をシリカ含有量の30%添加したが、実施例2では更に10%と20%添加した冷却兼洗浄水を調製して同様の試験を行った。その結果を
図7に示す。
図7の結果から明らかなように、ジヒドロキシエチルグリシンナトリウム塩及び1−ヒドロキシエチレリデン−1,1−ジホスホン酸を用いると、シリカ成分のスケールの発生を抑制できることが確認された。但し、10%のときは効果が不十分になる場合が見られたので、より確実な効果を得るためには20%以上にするのが好ましいことも確認された。一方で、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム四水塩を用いると、シリカ成分のスケールの発生を抑制できないことも確認された。
【符号の説明】
【0049】
1 太陽光発電パネル
2 冷却兼洗浄システム
4 散水装置
5 集水装置
8 キレート剤添加装置
9 前処理装置
10 水洗浄システム
【手続補正書】
【提出日】2016年4月11日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽光発電パネルの発電効率を向上させるための水洗浄システムであって、
前記太陽光発電パネルの採光部の表面を冷却及び洗浄する冷却兼洗浄水に、水中でシリカ成分を封鎖するキレート剤を添加する水処理装置と、
前記キレート剤が添加された冷却兼洗浄水を太陽光発電パネルに散水して、該太陽光発電パネルを冷却及び洗浄する散水装置と、
前記太陽光発電パネルに散水した冷却兼洗浄水を再利用するために集水する集水装置と、を備えたことを特徴とする水洗浄システム。
【請求項2】
前記冷却兼洗浄水に添加するキレート剤が、ジヒドロキシエチルグリシンナトリウム塩及び/又は1−ヒドロキシエチレリデン−1,1−ジホスホン酸を含むことを特徴とする請求項1に記載の水洗浄システム。
【請求項3】
前記キレート剤を、前記冷却兼洗浄水に対して、冷却兼洗浄水に含まれているシリカ含有量の10質量%以上となるように添加することを特徴とする請求項1又は2に記載の水洗浄システム。
【請求項4】
前記太陽光発電パネルに散水される冷却兼洗浄水の蒸発残留物が200mg/L以下となるように懸濁物質(SS)、鉄、マンガン、硬度成分を除去する前処理装置を、前記キレート剤を添加する水処理装置よりも前段に配置していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の水洗浄システム。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0011
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0011】
(1)本発明の水洗浄システムは、
太陽光発電パネルの発電効率を向上させるための水洗浄システムであって、前記太陽光発電パネルの採光部の表面を冷却及び洗浄する冷却兼洗浄水に、水中でシリカ成分を封鎖するキレート剤を添加する水処理装置と、前記キレート剤が添加された冷却兼洗浄水を太陽光発電パネルに散水して、該太陽光発電パネルを冷却及び洗浄する散水装置と、前記太陽光発電パネルに散水した冷却兼洗浄水を再利用するために集水する集水装置と、を備えたことを特徴とする。
なお、「水中でシリカ成分を封鎖するキレート剤」とは、水中でシリカ成分のみを封鎖する作用を発揮するキレート剤に特定するのではなく、水中でシリカ成分と共に鉄、マンガン、硬度成分の1種以上を封鎖する作用を発揮するキレート剤も含む。
(
2)前記
冷却兼洗浄水に添加するキレート剤が、ジヒドロキシエチルグリシンナトリウム塩及び/又は1−ヒドロキシエチレリデン−1,1−ジホスホン酸を含むことが好ましい。
(
3)前記キレート剤を、前記
冷却兼洗浄水に対して
、冷却兼洗浄水に含まれているシリカ含有量の10質量%以上となるように添加することが好ましい。
(
4)前記
太陽光発電パネルに散水される
冷却兼洗浄水の蒸発残留物が200mg/L以下となるように懸濁物質(SS)、鉄、マンガン、硬度成分を除去する前処理装置を、前記キレート剤を添加する水処理装置よりも前段に配置することができる。