特開2017-105767(P2017-105767A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-105767(P2017-105767A)
(43)【公開日】2017年6月15日
(54)【発明の名称】カプセル組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/63 20060101AFI20170519BHJP
   A61K 31/7032 20060101ALI20170519BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20170519BHJP
   A61P 17/18 20060101ALI20170519BHJP
   A61P 39/06 20060101ALI20170519BHJP
   A61P 17/16 20060101ALI20170519BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20170519BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20170519BHJP
【FI】
   A61K36/63
   A61K31/7032
   A61K9/48
   A61P17/18
   A61P39/06
   A61P17/16
   A61P35/00
   A61P35/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2016-230725(P2016-230725)
(22)【出願日】2016年11月29日
(31)【優先権主張番号】特願2015-236735(P2015-236735)
(32)【優先日】2015年12月3日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002819
【氏名又は名称】大正製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】奥平 玄
(72)【発明者】
【氏名】竹田 敏行
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
4C088
【Fターム(参考)】
4C076AA53
4C076BB01
4C076CC18
4C076CC27
4C076CC40
4C076EE30
4C076EE38
4C076FF33
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA07
4C086GA17
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA02
4C086NA05
4C086ZA89
4C086ZB26
4C086ZB27
4C086ZC37
4C088AB64
4C088AC04
4C088BA08
4C088CA03
4C088NA02
4C088NA05
4C088ZA89
4C088ZB26
4C088ZB27
(57)【要約】
【課題】
崩壊遅延を防止した、オリーブ果実抽出物配合カプセル組成物を提供すること。
【解決手段】
内容物としてベルバスコシドを含有するオリーブ果実抽出物を充填したカプセル組成物であって、そのカプセル皮膜はゼラチンを含まないことを特徴とするカプセル組成物。
本発明により、経時的な崩壊遅延を防止したベルバスコシド含有オリーブ果実抽出物配合カプセル組成物を提供することが可能となったので、ベルバスコシドを含有するオリーブ果実抽出物を配合した食品(特にサプリメント)、医薬品又は医薬部外品の分野に有益である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内容物としてベルバスコシドを含有するオリーブ果実抽出物を充填したカプセル組成物であって、そのカプセル皮膜にゼラチンを含まないことを特徴とするカプセル組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、崩壊時間の遅延を防止したオリーブ果実抽出物配合カプセル組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
オリーブはモクセイ科の小さな常緑樹であり、古代ギリシャ時代以来、地中海地方において人々の生活と密接な関わりをもっており、食用・薬用に広く利用されてきた。オリーブの果実にはポリフェノールの一種であるベルバスコシドまたはヒドロキシチロソールと呼ばれる抗酸化物質が含有されていることが知られており、オリーブの果実から得られるオリーブ果実抽出物は、活性酸素除去作用、メラニン生成抑制作用および腫瘍細胞増殖抑制・死滅作用、ヒト白血球エステラーゼ阻害を奏することが報告されている(特許文献1)。 そのため、オリーブ果実抽出物は健康食品素材として注目を集めるようになっている。
一方、カプセルはゼラチン等のタンパク質、デンプン等の多糖類等の溶液を用いて調製した皮膜の内側に、医薬品、健康素材、機能性素材等の有効成分を封入したものであり、主にハードカプセル(硬カプセル)、ソフトカプセル(軟カプセル)がある。食品、医薬品、医薬部外品、化粧品、雑貨等に幅広く用いられている剤形であり、特にソフトカプセルは油状またはペースト状の有効成分も配合可能であるためその用途は広い。ソフトカプセルの皮膜には、製造・保管時の形状安定性や内容物の保存安定性が求められるが、その一方で使用時に速やかに崩壊することが求められている。従って、上記の点を総合的に考慮し、主にゼラチンが皮膜基剤として使用され、ゼラチンに可塑剤等を配合したものがソフトカプセルの皮膜として主に使用されている。
カプセルの崩壊遅延を防止する方法としては、ゼラチン、レシチン、クエン酸をカプセル剤皮中に配合した皮膜を用いる方法(特許文献1)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−51945
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、オリーブ果実抽出物を配合した製品の提供にあたり、オリーブ果実抽出物を一般的なカプセルに充填し調製を試みたところ、経時的に崩壊時間が遅延する(以下、崩壊遅延という)という課題を見出した。崩壊遅延が起こった場合、当該組成物を摂取した際に、内容物の溶出が遅延することで、内容物中の成分が消化・吸収されず排泄されてしまう懸念がある。
本発明は、上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、崩壊遅延を防止した、オリーブ果実抽出物配合カプセル組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、カプセル組成物の崩壊遅延の原因が、カプセル皮膜に含まれるゼラチンと、ベルバスコシドを含むオリーブ抽出物との相互作用にあることを突き止め、それによりカプセル皮膜を不溶化することが原因であることを明らかにした。
そこで、カプセル組成物の内容物にベルバスコシドを含むオリーブ果実抽出物を含有せしめる場合、ゼラチンを含まないカプセル皮膜を用いることにより、カプセル皮膜の不溶化を防止し、崩壊遅延を防止できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、
(1)内容物としてベルバスコシドを含有するオリーブ果実抽出物を充填したカプセル組成物であって、そのカプセル皮膜はゼラチンを含まないことを特徴とするカプセル組成物、
である。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、ベルバスコシドを含むオリーブ果実抽出物を配合し、崩壊遅延を防止でき、崩壊性の良好な、品質の高いカプセル組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のカプセル皮膜にはゼラチンを含まない。カプセル組成物の種類としては、ハードカプセルとソフトカプセルが挙げられるが、服用し易さ等の点からソフトカプセルが好ましい。本発明のカプセル皮膜を構成する成分としてはゼラチンを含まなければ特に制限はない。カプセル皮膜の主な成分としては、例えば、増粘多糖類、セルロース誘導体、デンプン及びその誘導体が挙げられ、そのほかの成分としては可塑剤、水等通常カプセル皮膜を調製する際に配合し得る成分が挙げられる。上記の増粘多糖類として、カラギーナン(ι、λ、κ)、ローカストビーンガム、サイリウムシードガム、タマリンドシードガム、グルコマンナン、ペクチン、寒天、アルギン酸類、キサンタンガム、ジェランガム、カードラン及びプルラン等を挙げることができる。セルロース誘導体としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース等を挙げることができる。上記デンプンとして、トウモロコシデンプン、タピオカデンプン、馬鈴薯デンプン、小麦デンプン等を挙げることができる。またその誘導体としては、ヒドロキシプロピル化、アセチル化、リン酸化、オクテニルコハク酸化等の処理をしたデンプンを挙げることができる。上記可塑剤としては、グリセリン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、グルコース、フルクトース、ガラクトース、スクロース、マルトース、トレハロース、ラフィノース、プルラン、アラビアガム、アラビノガラクタン、セルロース、ソルビトール、マルチトール、ラクチトール、パラチニット、キシリトール、マンニトール、ガラクチトール等が挙げられる。
【0009】
本発明のベルバスコシドを含有するオリーブ果実抽出物は、天然のオリーブ(Olea europaea)から分離される抽出物であり、市販品のOLEASELECT(オリーブ果実より水とエタノールの混合溶媒にて抽出し粉末化したもの、総フェノール量:30質量%以上含有、ベルバスコシド量:5質量%以上含有)、OPEXTAN(オリーブ果実より水とエタノールの混合溶媒にて抽出し粉末化したもの、総フェノール量:10質量%以上含有、ベルバスコシド量2質量%以上含有)等を使用することができる。本発明のオリーブ果実抽出物は、好ましくはベルバスコシドを2質量%以上含有するオリーブ果実抽出物である。
【0010】
本発明のオリーブ果実抽出物の配合量は、特に制限されないが、好ましくは本発明のカプセル組成物中1〜50質量%、好ましくは4〜50質量%である。
【0011】
本発明のカプセル組成物は、常法に従って製造すればよい。例えば、ソフトカプセルであれば、ロータリーダイ式、シームレス式または平板法などの公知の方法に従って、適宜添加物を用いて製造すればよい。本発明のベルバスコシドを含むオリーブ果実抽出物に、基剤油、乳化剤、所望の有効成分含有粉末等を混合し、常法(例えば特開2015−155384に記載されている方法)に従い調製することができる。また、上記の基剤油としては、特に制限はなく、一般にソフトカプセルの内容物として知られているものが使用可能である。具体的には、例えば、大豆油、ゴマ油、コーン油、綿実油、ヤシ油、パーム油、オリーブ油、落花生油、米糠油、椿油、サフラワー油、シソ油、魚油、EPA、DHA、中鎖脂肪酸トリグリセリド、長鎖脂肪酸トリグリセリド等が挙げられる。上記の乳化剤としては、特に制限はなく、ミツロウ、カルナウバロウ、キャンデリラロウ、コメヌカロウ、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル類(酢酸モノグリセリド、乳酸モノグリセリド、クエン酸モノグリセリド、ジアセチル酒石酸モノグリセリド、コハク酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リノシール酸エステル等)、ショ糖脂肪酸エステル類等が挙げられる。
【0012】
また、ハードカプセルの場合、キャップとボディーを分離して本発明のベルバスコシドを含むオリーブ果実抽出物と適宜添加物を混合したものを充填し、分離したキャップをはめればよい。
【実施例】
【0013】
以下に実施例等を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例等に何ら限定されるものではない。
【0014】
(カプセル充填用内容物の調製)
加温した基剤油に、乳化剤を溶解させ、室温にて放冷することで内容物基剤を調製した。その内容物基剤中濃度が12.8質量%となるように、テフロン(登録商標)ホモジナイザーを用いて内容物基剤にオリーブ果実抽出物(ベルバスコシド5%含有)を分散させ、カプセル充填用内容物とした。
【0015】
試験例1:皮膜不溶化防止効果の確認
上記カプセル充填用内容物をネジ口試験管(10mL)に5g量り取った。さらに、ゼラチンを含まない皮膜(主にカラギーナン、デンプンを含む)にて調製され、内容物が充填されていない空カプセルを接合部より上下半分に切り開いたもの(実施例1)及びゼラチンを含む皮膜にて調製され、内容物が充填されていない空カプセルを接合部より上下半分に切り開いたもの(比較例1)を、ネジ口試験管中の内容物に浸漬させるように投入し、栓をした後、40℃75%RHに2週間保管した。また、コントロールとして、上記切り開いたカプセル皮膜を、別の空のネジ口試験管に投入し、栓をした後、40℃75%RHに2週間保管したものを調製した。
保管後、浸漬したソフトカプセル皮膜を取り出し、付着した内容物を拭き取った後、日本薬局方一般試験法「崩壊試験法」(補助盤なし)に準じ、崩壊時間を確認した(n=3)。同時に、空カプセルを切り開いた直後のもの(以下、直後品という)及び上記コントロールの崩壊時間を確認し、比較した。崩壊時間は、残留物をガラス管に認めない時点とした。試験は最大120分まで実施した。結果を表1に示す。
【0016】
【表1】
【0017】
表1の通り、ゼラチンを含むカプセル皮膜を使用した比較例1では、カプセル充填用内容物に浸漬したことで、カプセル皮膜が溶解せず、顕著な崩壊時間の遅延が認められたのに対し(コントロール2との比較)、ゼラチンを含まないカプセル皮膜である実施例1は、ほとんど崩壊遅延が認められなかった(コントロール1との比較)。
また、40℃75%RH環境下に2週間保管したことによる温湿度及び保管期間による崩壊遅延は軽微であることが示された(実施例1、コントロール1)。本結果から、カプセル皮膜の崩壊遅延の原因が、ベルバスコシドを含むオリーブ果実抽出物とゼラチンとの相互作用にあり、カプセル皮膜を不溶化することが原因であることが分かった。
【0018】
(ソフトカプセル組成物の製造)
加温した基剤油に、乳化剤を溶解させ、室温にて放冷することで内容物基剤を調製した。その内容物基剤中濃度が12.8質量%となるように、ホモジナイザーを用いて内容物基剤にベルバスコシド5%以上含有するオリーブ果実抽出物とベルバスコシドを含まないオリーブ果実抽出物を混合して分散させ、懸濁液状のカプセル充填用内容物とした。このカプセル充填用内容物をロータリーダイ式ソフトカプセル充填機にてゼラチンを含まない皮膜(主にカラギーナン、デンプンを含む)に包接し、ソフトカプセル組成物とした(実施例2)。同様に、上記の懸濁液状のカプセル充填用内容物をゼラチンを含む皮膜に包接し、ソフトカプセル組成物とした(比較例2)。
【0019】
試験例2:ソフトカプセルの崩壊時間の確認(皮膜不溶化防止効果の確認)
製造直後(室温1ヶ月保管、以下製造直後品という)及び40℃75%にてRH2ヶ月保管後(以下、40℃75%RH2ヶ月保管品という)の上記ソフトカプセル組成物(実施例2、比較例2)について、日本薬局方一般試験法「崩壊試験法」(補助盤あり)に準じ、崩壊時間を確認した(製造直後品はn=6、40℃75%RH保管品はn=2で試験を実施)。崩壊時間は、カプセル皮膜が開口して内容物が試験液中に分散し、さらに試料の残留物が原形を留めない状態になった時点とした。試験は最大120分まで実施し、同試料の試験結果において、120分以内に崩壊したものと120分以上崩壊しなかったものがあった場合には、120分以上崩壊しなかったものの崩壊時間を120分として平均値を算出した。結果を表2に示す。
【0020】
【表2】
【0021】
表2の通り、ゼラチンを含む皮膜を用いたカプセル組成物(比較例2)では顕著に崩壊時間が長く、保存後に崩壊時間の遅延が認められたのに対し、ゼラチンを含まない皮膜を用いたカプセル組成物(実施例2)では、保存後の崩壊遅延はほとんど認められなかった。この結果、カプセル組成物の内容物としてベルバスコシドを含有するオリーブ果実抽出物を含む場合は、ゼラチンを含まないカプセル皮膜を用いることによって相互作用を抑制し、崩壊遅延を防止できることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明により、経時的な崩壊遅延を防止したベルバスコシド含有オリーブ果実抽出物配合カプセル組成物を提供することが可能となった。よって、ベルバスコシドを含有するオリーブ果実抽出物を配合した食品(特にサプリメント)、医薬品又は医薬部外品の分野に有益である。