【課題】平坦な頂部を有する凸部と平坦な底部を有する凹部の繰り返しパターンを有する金属板をプレス加工によって製造する際、金属板の破断を十分に抑制できる成形方法及び成形装置を提供する。
【解決手段】本開示に係る金属板の成形方法は、丸みを帯びた頂部及び底部を有する繰り返しパターンを金属板に形成する第1予備成形工程と、第1予備成形工程後、平坦な頂部及び底部を有する繰り返しパターンを金属板に形成する本成形工程とを含み、本成形工程で形成する繰り返しパターンのピッチPの間に、丸みを帯びた頂部又は丸みを帯びた底部が複数形成されるように第1予備成形工程を実施し、第1予備成形工程後の金属板において丸みを帯びた頂部及び底部であった箇所の間に、本成形工程において平坦な頂部及び底部のそれぞれの両端部を構成する角部を形成する。
前記第1予備成形工程において形成される前記繰り返しパターンのピッチP1は、前記本成形工程において形成される前記繰り返しパターンのピッチPの1/n(nは2以上の整数)である、請求項1に記載の成形方法。
前記第1予備成形工程後であり且つ前記本成形工程前に、前記金属板を更にプレス加工することによって、丸みを帯びた頂部を有する凸部と丸みを帯びた底部を有する凹部の繰り返しパターンを前記金属板に形成する第2予備成形工程を更に含み、
前記第2予備成形工程において形成される前記繰り返しパターンのピッチP2は、前記本成形工程において形成される前記繰り返しパターンのピッチPと同一である、請求項1又は2に記載の成形方法。
前記第1予備成形工程において形成される前記凸部及び前記凹部の高さH1と、前記本成形工程において形成される前記凸部及び前記凹部の高さHは、以下の条件式(1)を満たす、請求項1〜3のいずれか一項に記載の成形方法。
0.6/m≦H1/H≦1.5/m…(1)
[式中、mは2以上の整数であって、前記本成形工程によって形成される前記ピッチPの間に、前記第1予備成形工程によって形成される前記凸部及び前記凹部の数のうち、数の大きい方を示す。]
前記第1予備成形工程において形成される前記繰り返しパターンは、高さが互いに異なる凸部及び/又は凹部の組合せによって構成されている、請求項1〜4のいずれか一項に記載の成形方法。
前記第1予備成形工程において形成される前記繰り返しパターンは、幅が互いに異なる凸部及び/又は凹部の組合せによって構成されている、請求項1〜5のいずれか一項に記載の成形方法。
前記第1予備成形金型によって形成される前記繰り返しパターンのピッチP1は、前記本成形金型によって形成される前記繰り返しパターンのピッチPの1/n(nは2以上の整数)である、請求項7に記載の成形装置。
前記第1予備成形金型によるプレス加工後であり且つ前記本成形金型によるプレス加工前に、丸みを帯びた頂部を有する凸部と丸みを帯びた底部を有する凹部の繰り返しパターンを前記金属板に形成する第2予備成形金型を更に備え、
前記第2予備成形金型によって形成される前記繰り返しパターンのピッチP2は、前記本成形金型によって形成される前記繰り返しパターンのピッチPと同一である、請求項7又は8に記載の成形装置。
前記第1予備成形金型によって形成される前記凸部及び前記凹部の高さH1と、前記本成形金型によって形成される前記凸部及び前記凹部の高さHは、以下の条件式(1)を満たす、請求項7〜9のいずれか一項に記載の成形装置。
0.6/m≦H1/H≦1.8/m…(1)
[式中、mは2以上の整数であって、前記本成形金型によって形成される前記ピッチPの間に、前記第1予備成形金型によって形成される前記凸部及び前記凹部の数のうち、数の大きい方を示す。]
前記第1予備成形金型によって形成される前記繰り返しパターンは、高さが互いに異なる凸部及び/又は凹部の組合せによって構成されている、請求項7〜10のいずれか一項に記載の成形装置。
前記第1予備成形金型によって形成される前記繰り返しパターンは、幅が互いに異なる凸部及び/又は凹部の組合せによって構成されている、請求項7〜11のいずれか一項に記載の成形装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らの検討によると、平坦な頂部を有する凸部と平坦な底部を有する凹部の繰り返しパターンを有する金属板を製造する場合、従来の方法では本成形に先立って予備成形を実施したとしても、その過程で金属板に破断が生じる可能性がある。
図12を参照しながら、その理由を説明する。
【0006】
図12(a)は原材料の金属板80を予備成形金型(上型45及び下型55)内に配置した状態を模式的に示す断面図である。
図12(b)は予備成形後の金属板80を本成形金型(上型65及び下型75)内に配置した状態を模式的に示す断面図である。
図12(c)は本成形金型によって本成形を実施した後の金属板80を模式的に示す断面図である。
図12(b)及び
図12(c)において実線の丸で囲った箇所は、予備成形において金属板80が集中的に延ばされた箇所(頂部81aと底部81b)である。これらの箇所は、必然的に肉厚が薄くなっており且つ応力が集中している。
図12(c)において破線の丸で囲った箇所は、本成形において金属板80が集中的に延ばされた箇所(角部81c)である。予備成形によって肉厚が薄くなっており且つ応力が集中している箇所(頂部81aと底部81b)が角部81cの形成のために再び延ばされると角部81c又はその近傍に破断が生じやすい。
【0007】
本開示は、平坦な頂部を有する凸部と平坦な底部を有する凹部の繰り返しパターンを有する金属板をプレス加工によって製造する際、金属板に破断が生じることを十分に抑制できる成形方法及び成形装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係る金属板の成形方法は、金属板をプレス加工することによって、丸みを帯びた頂部を有する凸部と丸みを帯びた底部を有する凹部の繰り返しパターンを金属板に形成する第1予備成形工程と、第1予備成形工程後、金属板を更にプレス加工することによって、平坦な頂部を有する凸部と平坦な底部を有する凹部の繰り返しパターンを金属板に形成する本成形工程とを含み、本成形工程において形成される繰り返しパターンのピッチPの間に、丸みを帯びた頂部又は丸みを帯びた底部が複数形成されるように第1予備成形工程を実施し、第1予備成形工程後の金属板において丸みを帯びた頂部及び底部であった箇所の間に、本成形工程において平坦な頂部及び底部のそれぞれの両端部を構成する角部を形成する。
【0009】
上記成形方法においては、上述のとおり、第1予備成形工程後の金属板において丸みを帯びた頂部及び底部であった箇所の間に、本成形工程において角部を形成する。これにより、予備成形工程によって肉厚が薄くなっており且つ応力が集中している箇所が本成形によって角部となることを十分に防止でき、その結果、金属板に破断が生じることを十分に抑制できる。
【0010】
第1予備成形工程によって形成される丸みを帯びた頂部及び底部の位置と、本成形工程によって形成される角部の位置とが重ならないように、第1予備成形工程において以下のような工夫をすることが好ましい。
・第1予備成形工程において形成されるパターンのピッチP1を、本成形工程において形成される繰り返しパターンのピッチPの1/n(nは2以上の整数)とする。
・第1予備成形工程において形成する繰り返しパターンを、高さが互いに異なる凸部及び/又は凹部の組合せによって構成する。
・第1予備成形工程において形成する繰り返しパターンを、幅が互いに異なる凸部及び/又は凹部の組合せによって構成する。
【0011】
上記成形方法は、第1予備成形工程後であり且つ本成形工程前に、金属板を更にプレス加工することによって、丸みを帯びた頂部を有する凸部と丸みを帯びた底部を有する凹部の繰り返しパターンを金属板に形成する第2予備成形工程を更に含んでもよい。この場合、第2予備成形工程によって形成される繰り返しパターンのピッチは、本成形工程によって形成される繰り返しパターンのピッチと同一とすればよい。本成形工程の実施に先立って第2予備成形工程の実施によって金属板のピッチを本成形工程後の金属板のピッチと同一にすることで、本成形工程の実施に伴って金属板に破断が生じることをより一層確実に抑制できる。
【0012】
本開示に係る金属板の成形装置は、丸みを帯びた頂部を有する凸部と丸みを帯びた底部を有する凹部の繰り返しパターンを金属板に形成する第1予備成形金型と、第1予備成形金型によるプレス加工後の金属板に、平坦な頂部を有する凸部と平坦な底部を有する凹部の繰り返しパターンを形成する本成形金型とを備え、第1予備成形金型は、本成形金型によって形成される繰り返しパターンのピッチPの間に、丸みを帯びた頂部又は丸みを帯びた底部が複数形成されるように構成され、本成形金型は、第1予備成形金型によって形成される丸みを帯びた頂部及び底部であった箇所の間に、平坦な頂部及び底部のそれぞれの両端部を構成する角部を形成するように構成されている。
【0013】
上記成形装置によれば、上記成形方法を実施できる。すなわち、第1予備成形金型によって第1予備成形工程を実施でき、本成形金型によって本成形工程を実施でき、これにより、金属板から上記形状の成形体を製造する過程において金属板に破断が生じることを十分に抑制できる。
【0014】
第1予備成形金型によって形成される丸みを帯びた頂部及び底部の位置と、本成形金型によって形成される角部の位置とが重ならないように、第1予備成形金型の構成に関し、以下のような工夫をすることが好ましい。
・第1予備成形金型によって形成されるパターンのピッチP1を、本成形金型によって形成される繰り返しパターンのピッチPの1/n(nは2以上の整数)とする。
・第1予備成形金型によって形成される繰り返しパターンを、高さが互いに異なる凸部及び/又は凹部の組合せによって構成する。
・第1予備成形金型によって形成される繰り返しパターンを、幅が互いに異なる凸部及び/又は凹部の組合せによって構成する。
【0015】
上記成形装置は、第1予備成形金型によるプレス加工後であり且つ本成形金型によるプレス加工前に、丸みを帯びた頂部を有する凸部と丸みを帯びた底部を有する凹部の繰り返しパターンを金属板に形成する第2予備成形金型を更に備えてもよい。この場合、第2予備成形金型によって形成される繰り返しパターンのピッチは、本成形金型によって形成される繰り返しパターンのピッチと同一とすればよい。上記成形装置が第2予備成形金型を更に備えることで、上記第2予備成形工程を実施できる。これにより、金属板から目的とする上記形状の成形体を製造する過程において金属板に破断が生じることをより一層確実に抑制できる。
【0016】
本開示において、第1予備成形工程(第1予備成形金型)で金属板に形成される凸部及び凹部の高さH1と、本成形工程(本成形金型)で金属板に形成される凸部及び凹部の高さHは、以下の条件式(1)を満たすことが好ましい。
0.6/m≦H1/H≦1.5/m…(1)
式中、mは2以上の整数であって、本成形工程(本成形金型)によって形成されるピッチPの間に、第1予備成形工程(第1予備成形金型)によって形成される凸部及び凹部の数のうち、数の大きい方を示す。なお、当該凸部の数と当該凹部の数の数が同じである場合、mはその数である。
【0017】
上記高さの比H1/Hを条件式(1)の範囲とすることで、金属板から目的とする上記形状の成形体を安定的に製造できる。高さの比H1/Hが条件式(1)の下限値以上であれば第1予備成形工程において金属板が十分に延伸されており、第2予備成形工程又は本成形工程において金属板を延伸すべき量を十分に少なくでき、これにより、第2予備成形工程又は本成形工程における金属板の破断をより一層確実に抑制できる。高さの比H1/Hが条件式(1)の上限値以下であれば第1予備成形工程において金属板に破断が生じることを十分に抑制できる。
【発明の効果】
【0018】
本開示によれば、平坦な頂部を有する凸部と平坦な底部を有する凹部の繰り返しパターンを有する金属板をプレス加工によって製造する際、金属板の破断を十分に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は燃料電池用の金属セパレータの一例を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図2(a)は
図1に示すII−II線における断面図であり、
図2(b)は燃料電池スタックの構成の一部を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図3(a)は第1実施形態(n=2)に係る第1予備成形工程を実施するための金型の間に金属板を配置した状態を示す断面図であり、
図3(b)は第1予備成形工程を実施している様子を示す断面図である。
【
図4】
図4(a)は第1実施形態に係る第2予備成形工程を実施するための金型の間に第1予備成形工程後の金属板を配置した状態を示す断面図であり、
図4(b)は本成形工程を実施するための金型の間に第2予備成形工程後の金属板を配置した状態を示す断面図であり、
図4(c)は本成形工程によって成形された金属セパレータを示す断面図である。
【
図5】
図5(a)は第1実施形態に係る第1予備成形工程後の金属板を示す断面図であり、
図5(b)は第2予備成形工程後の金属板の断面図であって第1予備成形工程で形成された凸部及び凹部の位置を示す断面図であり、
図5(c)は第1予備成形工程で形成された凸部及び凹部と本成形工程で形成された角部との金属板における位置関係を示す断面図である。
【
図6】
図6は第1実施形態に係る第2予備成形金型内における金属板の配置の他の例を示す模式図である。
【
図7】
図7(a)は第2実施形態(n=3)に係る第1予備成形工程を実施するための金型の間に金属板を配置した状態を示す断面図であり、
図7(b)は第1予備成形工程を実施している様子を示す断面図である。
【
図8】
図8(a)は第2実施形態に係る第2予備成形工程を実施するための金型の間に第1予備成形工程後の金属板を配置した状態を示す断面図であり、
図8(b)は本成形工程を実施するための金型の間に第2予備成形工程後の金属板を配置した状態を示す断面図であり、
図8(c)は本成形工程によって成形された金属セパレータを示す断面図である。
【
図9】
図9(a)は第2実施形態に係る第1予備成形工程後の金属板を示す断面図であり、
図9(b)は第2予備成形工程後の金属板の断面図であって第1予備成形工程で形成された凸部及び凹部の位置を示す断面図であり、
図9(c)は第1予備成形工程において形成された凸部及び凹部と本成形工程において形成された角部との金属板における位置関係を示す断面図である。
【
図10】
図10は第2実施形態に係る第2予備成形金型内における金属板の配置の他の例を示す模式図である。
【
図11】
図11は第1予備成形工程後の金属板の他の例を示す断面図である。
【
図12】
図12(a)は予備成形を実施するための金型の間に金属板を配置した状態を示す断面図であり、
図12(b)は本成形を実施するための金型の間に予備成形後の金属板を配置した状態を示す断面図であり、
図12(c)は本成形によって成形された金属セパレータを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図面を参照しながら、本開示の実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0021】
<燃料電池用の金属セパレータ>
図1は燃料電池用の金属セパレータの一例を模式的に示す斜視図である。金属セパレータ10は、厚さ0.05〜0.3mm程度(好ましくは0.1〜0.2mm程度)の金属板をプレス加工することによって得られたものである。プレス加工の種類としては、張り出し加工が挙げられる。なお、金属セパレータの形状によっては絞り加工を採用してもよい。金属板の種類としては、軟鋼材(例えば、冷間圧延材、熱間圧延材)、高張力鋼板及びこれらの板材の表面に貴金属層をコーティングしたものなどが挙げられる。
【0022】
図1に示すとおり、金属セパレータ10は矩形の板状部材であり、外周に沿って形成されたフレーム部11と、フレーム部11によって囲われた溝形成領域12とを有する。金属セパレータ10が車載用燃料電池のセパレータである場合、金属セパレータ10の一辺の長さは例えば100〜700mm(好ましくは200〜300mm)である。なお、
図1には便宜上、5つの凸部12aを有する溝形成領域12を図示したが、実際の金属セパレータは極めて微細な凸部及び凹部によって形成される多数の溝を有する。
【0023】
図2(a)は、
図1に示すII−II線における断面図である。金属セパレータ10は、金属板1からなり、平坦な頂部10aを有する凸部12aと平坦な底部10bを有する凹部12bの繰り返しパターンを有する。これらの凸部12a及び凹部12bによって複数の溝が構成される。繰り返しパターンのピッチPは、金属板1の厚さなどによるが、例えば1.5〜5mmであり、0.5〜1.0mmであってもよい。平坦な頂部10aの両端部及び平坦な底部10bの両端部はそれぞれ角部10cによって構成されている。金属セパレータ10の凸部12a及び凹部12bの高さH(
図2(a)参照)は、例えば0.3〜1.2mm(好ましくは0.5〜1.0mm)である。
【0024】
角部10cの曲率半径は、好ましくは0.03〜0.3mmであり、より好ましくは0.1〜0.2mmである。角部10cの曲率半径が0.03mm未満であると角部10cにおいて金属板1が破断しやすい。他方、角部10cの曲率半径が0.3mmを超えると頂部10a及び底部10bの幅が狭くなる傾向にあり、これにより、金属セパレータ10の電気的導通が不十分となりやすく、また、ガス(燃料ガス及び空気)用流路の流路断面積が小さくなり圧力損失が増大しやすい。
【0025】
図2(b)は、燃料電池スタックの構成の一部を模式的に示す断面図である。この図に示すとおり、隣り合う二枚の金属セパレータ10,10の間に、燃料極8a、電解質層8b及び空気極8cの積層体からなるセル8が配置されている。金属セパレータ10とセル8との組み合わせを多数積層することで、燃料電池スタックが構成される。本実施形態においては、凸部12aと燃料極8aの表面とによって燃料ガス用流路10Aが形成され、他方、凹部12bと空気極8cの表面とによって空気用流路10Cが形成されている。凸部12aの頂部10aから燃料極8aに向かうにしたがって燃料ガス用流路10Aの幅が広がるように側面10dが形成されている。換言すれば、凹部12bの底部10bから空気極8cに向かうにしたがって空気用流路10Cの幅が広がるように側面10dが形成されている。
【0026】
<金属セパレータの製造方法>
(第1実施形態)
次に、金属セパレータ10の製造方法(金属板1の成形方法)について説明する。本実施形態に係る製造方法は、第1予備成形工程と、第2予備成形工程と、本成形工程とをこの順序で含む。
【0027】
第1予備成形工程は、原材料である金属板1をプレス加工することによって、丸みを帯びた頂部1aを有する凸部2aと丸みを帯びた底部1bを有する凹部2bの繰り返しパターンを金属板1に形成する工程である。
図3(a)は上型20と下型30との間に原材料である金属板1を配置した状態を示す断面図であり、
図3(b)は上型20及び下型30(第1予備成形金型)によって金属板1をプレス加工している様子を示す断面図である。上型20及び下型30は、金属板1に形成すべき凸部2aと凹部2bとの繰り返しパターンに応じた形状(凸部20a、凹部20b、凸部30a、凹部30b)を有する。
【0028】
図4に示すように、本実施形態においては第1予備成形工程で形成される繰り返しパターンのピッチP1は、金属セパレータ10のピッチPの1/2(二分の一)である(n=2)。また、本成形工程で形成される繰り返しパターンのピッチPの間に、第1予備成形工程によって、2つの凹部2bが形成される(m=2)。なお、ピッチPの境界線(
図4において紙面の上下方向に互いに平行して延びる2本の一点鎖線参照)と交差する凸部又は凹部は、ピッチPの間の凸部又は凹部としてカウントしないものとする。すなわち、
図4に示す2本の一点鎖線と交差する2つの凸部2aはピッチPの間の凸部2aとしてカウントせず、
図4のピッチPの間の凸部2aの数は1つである。
【0029】
第1予備成形工程で金属板1に形成される凸部2a及び凹部2bの高さH1と、本成形工程で金属板1に形成される凸部2a及び凹部2bの高さHは、以下の条件式(1a)を満たすことが好ましく、以下の条件式(1b)を満たすことがより好ましい。
0.3≦H1/H≦0.75…(1a)
0.4≦H1/H≦0.6…(1b)
【0030】
本実施形態において、H1/Hの値が0.3以上であれば第1予備成形工程において金属板1が十分に延伸されており、第2予備成形工程及び本成形工程において金属板1を延伸すべき量を十分に少なくでき、これにより、第2予備成形工程又は本成形工程における金属板1の破断をより一層確実に抑制できる。他方、高さの比H1/Hが0.75以下であれば第1予備成形工程において金属板1に破断が生じることを十分に抑制できる。
【0031】
第2予備成形工程は、第1予備成形工程後の金属板1をプレス加工することによって、丸みを帯びた頂部3aを有する凸部4aと丸みを帯びた底部3bを有する凹部4bの繰り返しパターンを金属板1に形成する工程である。
図4(a)は上型40と下型50との間に第1予備成形工程後の金属板1を配置した状態を示す断面図である。上型40及び下型50(第2予備成形金型)は、金属板1に形成すべき凸部4aと凹部4bとの繰り返しパターンに応じた形状(凸部40a、凹部40b、凸部50a、凹部50b)を有する。
【0032】
第2予備成形工程において形成される繰り返しパターンのピッチ(
図4(a)に示すピッチP2)は、金属セパレータ10のピッチPと同一である。この工程で金属板1に形成される凸部4a及び凹部4bの高さH2と、本成形工程で金属板1に形成される凸部12a及び凹部12bの高さHは、以下の条件式(2a)を満たすことが好ましく、以下の条件式(2b)を満たすことがより好ましい。
0.8≦H2/H≦1.2…(2a)
0.9≦H2/H≦1.1…(2b)
【0033】
H2/Hの値が0.8以上であれば第2予備成形工程において金属板1が十分に延伸されており、本成形工程において金属板1を延伸すべき量を十分に少なくでき、これにより、本成形工程における金属板1の破断をより一層確実に抑制できる。他方、高さの比H2/Hが1.2以下であれば第2予備成形工程において金属板1に破断が生じることを十分に抑制できる。
【0034】
本成形工程は、第2予備工程後の金属板1を更にプレス加工することによって、平坦な頂部10aを有する凸部12aと平坦な底部10bを有する凹部12bの繰り返しパターンを金属板1に形成する工程である。
図4(b)は上型60と下型70との間に第2予備工程後の金属板1を配置した状態を示す断面図である。上型60及び下型70(本成形金型)は、金属板1に形成すべき凸部12aと凹部12bとの繰り返しパターンに応じた形状(凸部60a、凹部60b、凸部70a、凹部70b)を有する。
【0035】
本成形工程を実施することで、
図4(c)に示す金属セパレータ10が得られる。本成形工程を実施するにあたっては、下型70の凸部70aの位置と金属板1の凸部4aの位置とが一致し、上型60の凸部60aの位置と金属板1の凹部4bの位置とが一致するように、上型60と下型70との間に第2予備工程後の金属板1を配置する(
図4(b)参照)。金属板1をこのように配置することにより、プレス加工時に金型内において金属板1の位置がずれることを十分に抑制できるとともに金属板1に破断が生じることを十分に抑制できる。本成形工程後、必要に応じて実施される仕上工程などを経て金属セパレータ10が製造される。
【0036】
本実施形態に係る方法によれば、金属セパレータ10を製造する過程において金属板1に破断が生じることを以下の複数の理由によって十分に抑制できる。
図5を参照しながら、これらの理由について説明する。
【0037】
図5(a)は第1予備成形工程後の金属板1を示す断面図である。頂部1a及び底部1bは、金属板1の他の部分と比較し、第1予備成形工程におけるプレス加工によって延ばされた箇所(実線の丸で囲った箇所)である。しかし、第1予備成形工程によって金属板1に形成される底部1bから頂部1aまでの高さH1は金属セパレータ10の高さHと比較して十分に低いため、第1予備成形工程において、頂部1a又は底部1bに破断が生じることを十分に抑制できる(第1の理由)。
【0038】
図5(b)は第2予備成形工程後の金属板1の断面図であって第1予備成形工程で形成された頂部1a及び底部1bの位置(実線の丸で囲った箇所)を示す断面図であり、
図5(c)は第1予備成形工程で形成された頂部1a及び底部1b(実線の丸で囲った箇所)と本成形工程で形成された角部10c(破線の丸で囲った箇所)との金属板1における位置関係を示す断面図である。
図5(c)に示すとおり、第1予備成形工程で形成された頂部1aと底部1bとの間に、本成形工程において複数の角部10cが形成される。このため、本成形工程において頂部1a又は底部1bが再び延ばされることを十分に抑制でき、これにより、本成形工程において、角部10c又はその近傍に破断が生じることを十分に抑制できる(第2の理由)。
【0039】
なお、本実施形態においては、
図4(a)に示すように、下型50の凸部50aの頂部の位置と金属板1の頂部1aの位置とが一致し、上型40の凸部40aの頂部の位置と金属板1の底部1bの位置とが一致するように、上型40と下型50との間に第1予備成形工程後の金属板1が配置されている。金属板1をこのように配置することにより、プレス加工時に金型内において金属板1の位置がずれることを十分に抑制できる。金属板1の位置のずれをパイロット孔(不図示)などによって十分に抑制できるのであれば、
図6に示すように、下型50の凸部50aの頂部の位置と金属板1の底部1bの位置とが一致し、上型40の凸部40aの頂部の位置と金属板1の底部1bの位置とが一致するように、上型40と下型50との間に第1予備成形工程後の金属板1を配置してもよい。
【0040】
(第2実施形態)
上記第1実施形態においてはピッチPとピッチP1の比(P/P1)が1/2(二分の一)である場合を例示したが、本実施形態においてはピッチPとピッチP1の比(P/P1)が1/3(三分の一)である場合について説明する。
【0041】
図7(a)は上型20と下型30(第1予備成形金型)の間に原材料である金属板1を配置した状態を示す断面図であり、
図7(b)は上型20及び下型30(第1予備成形金型)によって金属板1をプレス加工している様子を示す断面図である。
図8に示すように、本実施形態においては第1予備成形工程で形成される繰り返しパターンのピッチP1は、金属セパレータ10BのピッチPの1/3(三分の一)である(n=3)。また、本成形工程で形成される繰り返しパターンのピッチPの間に、第1予備成形工程によって、3つの凹部2bが形成される(m=3)。なお、
図8に示す2本の一点鎖線と交差する2つの凸部2aはピッチPの間の凸部2aとしてカウントせず、
図8のピッチPの間の凸部2aの数は2つである。
【0042】
第1予備成形工程で金属板1に形成される凸部2a及び凹部2bの高さH1と、本成形工程で金属板1に形成される凸部2a及び凹部2bの高さHは、以下の条件式(1c)を満たすことが好ましく、以下の条件式(1d)を満たすことがより好ましい。
0.2≦H1/H≦0.5…(1c)
0.25≦H1/H≦0.4…(1d)
【0043】
本実施形態において、H1/Hの値が0.2以上であれば第1予備成形工程において金属板1が十分に延伸されており、第2予備成形工程及び本成形工程において金属板1を延伸すべき量を十分に少なくでき、これにより、第2予備成形工程又は本成形工程における金属板1の破断をより一層確実に抑制できる。他方、高さの比H1/Hが0.5以下であれば第1予備成形工程において金属板1に破断が生じることを十分に抑制できる。
【0044】
図8(a)は上型40と下型50(第2予備成形金型)の間に第1予備成形工程後の金属板1を配置した状態を示す断面図である。第2予備成形工程において形成される繰り返しパターンのピッチ(
図8(a)に示すピッチP2)は、金属セパレータ10のピッチPと同一である。この工程で金属板1に形成される凸部4a及び凹部4bの高さH2と、本成形工程で金属板1に形成される凸部12a及び凹部12bの高さHは、以下の条件式(2a)を満たすことが好ましく、以下の条件式(2b)を満たすことがより好ましい。
0.8≦H2/H≦1.2…(2a)
0.9≦H2/H≦1.1…(2b)
【0045】
H2/Hの値が0.8以上であれば第2予備成形工程において金属板1が十分に延伸されており、本成形工程において金属板1を延伸すべき量を十分に少なくでき、これにより、本成形工程における金属板1の破断をより一層確実に抑制できる。他方、高さの比H2/Hが1.2以下であれば第2予備成形工程において金属板1に破断が生じることを十分に抑制できる。
【0046】
図8(b)は上型60と下型70(本成形金型)の間に第2予備工程後の金属板1を配置した状態を示す断面図である。本成形工程後、必要に応じて実施される仕上工程などを経て金属セパレータ10Bが製造される。
【0047】
本実施形態に係る方法によれば、金属セパレータ10Bを製造する過程において金属板1に破断が生じることを以下の複数の理由によって十分に抑制できる。
図9を参照しながら、これらの理由について説明する。
【0048】
図9(a)は第1予備成形工程後の金属板1を示す断面図である。頂部1a及び底部1bは、金属板1の他の部分と比較し、第1予備成形工程におけるプレス加工によって延ばされた箇所(実線の丸で囲った箇所)である。しかし、第1予備成形工程によって金属板1に形成される底部1bから頂部1aまでの高さH1は金属セパレータ10Bの高さHと比較して十分に低いため、第1予備成形工程において、頂部1a又は底部1bに破断が生じることを十分に抑制できる(第1の理由)。
【0049】
図9(b)は第2予備成形工程後の金属板1の断面図であって第1予備成形工程で形成された頂部1a及び底部1bの位置(実線の丸で囲った箇所)を示す断面図であり、
図5(c)は第1予備成形工程で形成された頂部1a及び底部1b(実線の丸で囲った箇所)と本成形工程で形成された角部1c(破線の丸で囲った箇所)との金属板1における位置関係を示す断面図である。
図9(c)に示すとおり、第1予備成形工程で形成された頂部1aと底部1bとの間に、本成形工程において複数の角部1cが形成される。このため、本成形工程において頂部1a又は底部1bが再び延ばされることを十分に抑制でき、これにより、本成形工程において、角部1c又はその近傍に破断が生じることを十分に抑制できる(第2の理由)。
【0050】
金属セパレータ10Bは、上記第1実施形態に係る金属セパレータ10と比較し、平坦な頂部10a(及び平坦な底部10b)と側面10dとのなす角が直角に近い。製造すべき金属セパレータの形状に応じて、第1予備成形工程のピッチP1及び高さH1を設定すればよい。すなわち、本成形工程において形成される角部1cの位置と、第1予備成形工程によって形成される頂部1a及び底部1bの位置とが一致しないように、第1予備成形工程のピッチP1及び高さH1を設定すればよい。
【0051】
なお、本実施形態においては、
図8(a)に示すように、下型50の凸部50aの頂部の位置と金属板1の頂部1aの位置とが一致し、上型40の凸部40aの頂部の位置と金属板1の底部1bの位置とが一致するように、上型40と下型50との間に第1予備成形工程後の金属板1が配置されている。金属板1をこのように配置することにより、プレス加工時に金型内において金属板1の位置がずれることを十分に抑制できる。金属板1の位置のずれをパイロット孔(不図示)などによって十分に抑制できるのであれば、
図10に示すように、下型50の凸部50aの頂部の位置と金属板1の底部1bの位置とが一致し、上型40の凸部40aの頂部の位置と金属板1の頂部1aの位置とが一致するように、上型40と下型50との間に第1予備成形工程後の金属板1を配置してもよい。
【0052】
<金属セパレータの製造装置>
次に、金属セパレータを製造するための装置(金属板1の成形装置)について説明する。本実施形態に係る製造装置は、第1予備成形工程と、第2予備成形工程と、本成形工程とをそれぞれ実施するための複数の金型を備える。すなわち、本実施形態に係る製造装置は、丸みを帯びた頂部1aを有する凸部2aと丸みを帯びた底部1bを有する凹部2bの繰り返しパターンを金属板1に形成する第1予備成形金型(上型20及び下型30)と、第1予備成形工程後の金属板1をプレス加工することによって、丸みを帯びた頂部3aを有する凸部4aと丸みを帯びた底部3bを有する凹部4bの繰り返しパターンを金属板1に形成する第2予備成形金型(上型40及び下型50)と、第2予備工程後の金属板1を更にプレス加工することによって、平坦な頂部10aを有する凸部12aと平坦な底部10bを有する凹部12bの繰り返しパターンを金属板1に形成する本成形金型(上型60及び下型70)とを備える。
【0053】
上述のとおり、上型20及び下型30は、金属板1に形成すべき凸部2aと凹部2bとの繰り返しパターンに応じた形状(凸部20a、凹部20b、凸部30a、凹部30b)を有する。上型40及び下型50は、金属板1に形成すべき凸部4aと凹部4bとの繰り返しパターンに応じた形状(凸部40a、凹部40b、凸部50a、凹部50b)を有する。上型60及び下型70は、金属板1に形成すべき凸部12aと凹部12bとの繰り返しパターンに応じた形状(凸部60a、凹部60b、凸部70a、凹部70b)を有する。上記実施形態においては、第1予備成形金型によって形成される繰り返しパターンのピッチP1は、本成形金型によって形成される繰り返しパターンのピッチPの1/2又は1/3であり、第2予備成形金型によって形成される繰り返しパターンのピッチP2は、本成形金型によって形成される繰り返しパターンのピッチPと同一である。
図5及び
図9に示したとおり、本成形金型は、第1予備成形金型によって形成される頂部1aと底部1bとの間に角部10cが形成されるように構成されている。
【0054】
上記構成の製造装置によれば、第1及び第2予備成形金型によって第1及び第2予備成形工程をそれぞれ実施でき、その後の本成形金型によって本成形工程を実施できる。これにより、金属板1から金属セパレータ10,10Bを製造する過程において金属板1に破断が生じることを十分に抑制できる。
【0055】
以上、本開示の一実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態においては、第1予備成形工程によって形成される複数対の凸部12a及び凹部12bの高さH1が全て等しい場合を例示したが、
図11に示すように、第1予備成形工程において、高さが互いに異なる凸部12a,12cの組合せによって構成させる繰り返しパターンを形成してもよい。
図11に示す高さH1c及び高さH1aの比H1c/H1aは以下の条件式(3)を満たすことが好ましい。
1.1≦H1c/H1a≦1.4…(3)
【0056】
高さが互いに異なる凸部及び/又は凹部の組み合わせることで、第1予備成形工程によって金属板1が延ばされる位置をある程度調整することができる。あるいは、特に図示しないが、第1予備成形工程において、幅が互いに異なる凸部及び/又は凹部の組合せによって構成させる繰り返しパターンを形成してもよい。これらにより、形成可能な金属セパレータの形状にバリエーションを持たせることができる。
【0057】
上記実施形態においては、二段階の予備成形(第1及び第2予備成形工程)の後に本成形を実施する場合を例示したが、金属板1の加工性又は金属セパレータの形状によっては一段階の予備成形又は三段階以上の予備成形の後に本成形を実施してもよい。
【0058】
上記実施形態においては、燃料電池用の金属セパレータを製造する場合を例示したが、これ以外の用途に使用される凹凸溝付き金属板の製造に本発明を適用してもよい。