【実施例】
【0028】
実施例1−ラクトバシラスプランタラムLRCC5309の選別
【0029】
(1)試料採取及び乳酸菌分離
【0030】
低温ショックタンパク質発現量に優れた乳酸菌の選別のために、全国各地の伝統在来市場で約150種のキムチ試料を採取し、ロッテフードパスツール工場(大韓民国、ガンウォンド、フェンソン)で乳牛から搾乳、移送及び集合された市乳を集合地を基準にして44種採取した。採取した試料(194種)に滅菌蒸溜水を添加して希釈液を用意した後、粉砕均質機(Stomacher、Pro−Media SH−001、ELMEX)で試料の内部を均質化した。前記希釈液を滅菌食塩水で段階別に希釈した後、0.1mlを取り、これを0.002重量%のBCP(Bromocresol purple)と1.5重量%の寒天(Agar)が添加されたMRS固体培地に塗抹し、37℃が維持される培養器で48時間培養した。
【0031】
培養後、黄色の環が現れるコロニー(Colony)を選別し、個体別に同じ培地に2〜3回継代培養することによって各菌株を純粋分離した。
【0032】
前記菌株を個体別にMRS液体培地に接種し、37℃で48時間再培養した後、4℃で冷蔵保管しながら使った。
【0033】
(2)耐酸性及び耐胆汁酸性の優秀菌株の選別
【0034】
前記で分離した乳酸菌の耐酸性と耐胆汁酸性を比較し、優れた菌株を選別した。一般に、耐酸性と耐胆汁酸性は、乳酸菌を摂取したとき、胃の低いpHに対する抵抗性と胆汁から分泌される胆汁酸に対する抵抗性を確認し、口腔から摂取した乳酸菌が小腸まで到逹する腸内到達率を確認しようとするときに用いる。したがって、耐酸性及び耐胆汁酸性と冷凍に対する安定性の直接的な連関性は確認されなかったが、低pHあるいは胆汁に対する抵抗性が強いほど外部環境に対する抵抗性が強い可能性が高いと予想されたので、1次選別のための指標として用いた。
【0035】
耐酸性及び耐胆汁酸性試験のために前記分離された乳酸菌をMRS平板培地に接種し、37℃で24時間培養した。培養されたコロニーを一部採取してMRS液状培地に接種した後、37℃で24時間静置培養して種菌培養液を作成した。
【0036】
分離された乳酸菌の耐酸性試験のために、種菌培養液1%をMRS液体培地に接種し、37℃で24時間培養した。収得された培養液に10% H
2SO
4を添加してpH3.0の強酸性条件にし、2時間放置した。その後、試料を多段希釈した希釈液をMRS平板培地に塗抹し、37℃で24時間培養し、初期生菌数とpH3.0処理後の生菌数を測定した。本発明において、耐酸性は(初期生菌数/pH処理後生菌数)の割合で示す。
【0037】
分離された乳酸菌の耐胆汁酸性試験のために、胆汁(bile)を0.1、0.3、0.5重量%で添加して作成したMRS平板培地を用意した。各MRS平板培地に種菌培養液を接種した後、37℃で24時間培養して生長可否を確認した。
【0038】
それぞれの分離菌株の耐酸性と耐胆汁酸性を確認した後、耐酸性を基準にして99%以上、生存可能な耐胆汁酸性濃度が0.5重量%以上の菌株のみを選択し、総38種の菌株を1次選別して以後の実験に使った。
【0039】
(3)低温ショックタンパク質発現量優秀菌株の選別
【0040】
1次選別された38種の菌株の低温ショックタンパク質発現量測定によって低温時耐性に関する比較を進めた。このために、1次選別菌株38種をMRS平板培地で活性化させ、一定のコロニーを採取してMRS液体培地に接種した後、37℃で24時間培養して培養液を作成した。作成した培養液を遠心分離し、上澄み液を除去した後、0.1Mリン酸緩衝液(0.1M Phosphate buffer)を用いて3回洗浄し、菌体のみを回収した。回収した菌体はmRNA抽出キット(mRNA extraction kit、TRIZOL)で破砕してmRNAを抽出し、ナノドロップを用いてmRNA濃度を測定した。DEPC溶液(Diethylpyrocarbonate solution)を用いて、1次選別された38種の菌株のmRNA濃度を一定に調整し、用意された試料は零下80度で維持される極低温冷凍機(Defreezer、 Panasonic co. Ltd., Japan)に保管した。用意されたmRNAはcDNA合成キット(High capacity cDNA reverse transcription kits、#4368813、Applied Biosystems、USA)を用いてcDNAに合成し、qRT−PCRキット(Power SYBR green PCR Master mix、 Cat No. 436759、 Applied Biosystems、 USA)を用いてPCR試料を用意した。
【0041】
38種の菌株の中で低温ショックタンパク質発現量が高いほど冷凍ストレスに安定的であると推定し、市乳から分離された菌株の一つを本発明の最終菌株として選別した。
【0042】
最終に選別された菌株はMRS液体培地に接種し、37℃で48時間培養して増殖させ、遠心分離(10,000g、10分)して菌体を獲得した。前記菌体をMRS液体培地:グリセロール(Glycerol)が4:1の割合で含まれた冷凍保管溶液(Freezing solution)に1ml添加した後、クライオチューブ(Cryo−tube)に入れ、−70℃で冷凍保管した。冷凍された菌株を以後のテストのためのスターターとして使った。
【0043】
実施例2−菌株の特徴分析及び同定
【0044】
(1)特徴分析
【0045】
選別された菌株の形態学的及び生化学的特徴を分析した。以下、表1を参照すると、前記菌株はグラム陽性、桿菌で、胞子形成能及びカタラーゼ(Catalase)陰性であると確認された。
【0046】
【表1】
【0047】
(2)菌株同定
【0048】
前記菌株の糖利用性をAPI 50 CHLキット(Biomerieux(登録商標) France)で分析した。以下、表2及び
図1を参照すると、ラクトバシラスプランタラム標準菌株と99.9%一致することが確認され、この時の相反する糖利用性としてはN−アセチル−グルコサミンが100%違うことが確認された。したがって、正確な同定のために、16s rDNA塩基配列を分析して遺伝子同定を進行することにした。
【0049】
【表2】
【0050】
前記菌株の16s rRNA遺伝子塩基配列は配列番号1の通りである。塩基配列分析の結果、前記菌株はラクトバシラスプランタラム菌株と最大99%の相同性を有する。これは
図2から確認することができる。
【0051】
そこで、本発明者は前記菌株を新規のラクトバシラスプランタラム菌株として同定し、ラクトバシラスプランタラムLRCC5309と名付け、韓国微生物保存センターに2015年10月28日付で寄託した(寄託番号KCCM11781P)。
【0052】
実施例3−ラクトバシラスプランタラムLRCC5309菌株の冷凍及び解凍の繰り返しに対する安定性
【0053】
新規の乳酸菌ラクトバシラスプランタラムLRCC5309菌株について低温冷凍及び常温解凍を繰り返したときの生菌安定性を確認しようとした。一般的なアイスクリームの場合、製造の際、原料の配合後−10℃〜−30℃での急速冷凍によって完成することになる。この際、極度の冷凍ストレスによって多数の乳酸菌が死滅すると推定されている。また、製造されたアイスクリームの流通中に意図に反して常温付近の温度に露出する場合がある。この場合、短時間ではあるが温度が少し上昇してから冷凍される場合が発生する。このような場合に備えるために−20℃で冷凍したのち常温で全て溶解させてから再冷凍する場合の乳酸菌安定性を確認しようとした。
【0054】
前記実施例で述べたものと同様な方法でMRS平板培地でLRCC5309菌株を活性化させた後、MRS液状培地に接種して種菌培養液を作成した。作成した種菌培養液0.5体積%を30ml MRS液状培地が入っている50ml滅菌チューブに接種し、37℃で24時間培養して培養液を用意した後、0.1Mリン酸緩衝液(0.1M Phosphate buffer、pH6.8±0.2)で、生菌数が10
7CFU/mlの水準となるように希釈することにより、冷凍−解凍繰り返し実験のための培養液を作成した。作成した培養液を−20℃に冷凍させ、24時間冷凍庫に放置させた後、冷凍されたサンプルの一部を採取し、サンプル採取後、25℃に維持される培養器で24時間放置して解凍させ、さらに一部のサンプルを採取した。これと同様な冷凍及び解凍を3回繰り返し、初期冷凍直前に採取したサンプル内の生菌数と冷凍及び解凍を1回繰り返すごとに生菌数を測定した。LRCC5309菌株の明らかな効能の究明のための比較菌株としては、ラクトバシラスデルブルッキーエスエスピーブルガリクスATCC11842(Lactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricus ATCC11842)、ラクトバシラスデルブルッキーエスエスピブルガリクスKCTC3635(Lactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricus KCTC3635)、ラクトバシラスプランタラムKCCM40708(Lactobacillus plantarum KCCM40708)などを用い、前述した方法と同様に冷凍−解凍の繰り返し実験を進めた。また、本発明のラクトバシラスプランタラムLRCC5309菌株と前記比較菌株の冷凍−解凍繰り返し時の生菌数を分析して下記表3に示した。
【0055】
【表3】
【0056】
前記表3によると、本発明によるLRCC5309菌株は、冷凍−解凍繰り返し実験でも大きな有意差なしに生菌数がそのまま維持されるが、比較菌株ATCC11842及びKCCM40708の場合は、約10分の1に生菌数が減少し、KCTC3635の場合は1000分の1程度に生菌数が減少したことが確認された。
【0057】
したがって、LRCC5309菌株が冷凍時にも非常に安定的に生菌数を維持し、3回程度の冷凍−解凍繰り返し時にも乳酸菌数に大きな変化なしに維持されることを確認することができる。
表3から、LRCC5309菌株の冷凍−解凍を2回行った後の生菌数は、最初の冷凍前の生菌数の1/(10の0.52乗)倍(=0.302)であり、30%以上である。
【0058】
実施例4−ラクトバシラスプランタラムLRCC5309菌株の冷凍温度変化による安定性
【0059】
ラクトバシラスプランタラムLRCC5309菌株の冷凍中に冷凍温度に変化を与えた場合の生菌数安定性を確認しようとした。一般に、国内のアイスクリーム流通は、消費者に販売されるまで通常アイスショーケースに保管されて陳列される場合が多く、この場合は−18℃程度を維持することになる。しかし、この温度は通常ショーケースの下端部を基準にして設定される温度であり、外部との接触が多いショーケースの上端部は通常この温度より高い温度を維持することになる。また、気温が高い夏季の場合、ショーケースが開かれるか新製品が補充される都度、アイスクリーム個体別に保管温度が随時変わることになる。アイスクリームの保管温度が変わる都度、内部の氷結晶が解凍と冷凍を繰り返すことになり、結果的に乳酸菌に持続的に打撃を加えることになる原因の一つであると推定されている。このような場合に備えるために、アイスクリーム保管温度を−20℃と−10℃に繰り返し変更する場合の乳酸菌安定性を確認しようとした。
【0060】
前記実施例で述べたものと同様な方法で、LRCC5309菌株と比較菌株をMRS平板培地で活性化させた後、MRS液状培地に接種して種菌培養液及び種培養液を作成した。作成した培養液を0.1Mリン酸緩衝液(0.1M Phosphate buffer、pH6.8±0.2)で、生菌数が10
7CFU/mlの水準になるように希釈することで、冷凍温度変化繰り返し実験のための培養液を作成した。作成した培養液の一部をサンプルとして採取した後、−20℃で24時間冷凍させ、−10℃で24時間放置した。前記と同様な方法で3回繰り返し、初期冷凍直前に採取したサンプル内の生菌数と3回繰り返し後、つまり6日後のサンプル内の生菌数を測定した。
【0061】
本発明のラクトバシラスプランタラムLRCC5309菌株と前記比較菌株の冷凍温度変化後の生菌数を分析して下記表4に示した。
【0062】
【表4】
【0063】
前記表4によると、実施例3と同様に、冷凍温度に変化を与えた時にもLRCC5309菌株は大きな有意差なしに生菌数が維持されることを確認し、比較菌株ATCC11842とKCCM40708の場合は、約10分の1に生菌数が減少することを確認した。KCTC3635の場合、100分の1程度に生菌数が減少したことが確認され、実施例3と同様に、冷凍温度変化によって多少安定性が落ちることを確認することができる。
表4から、LRCC5309菌株の温度変化後の6日目の生菌数は、最初の冷凍前の生菌数の1/(10の0.25乗)倍(=0.5623)であり、半数以上である。
【0064】
実施例5−ラクトバシラスプランタラムLRCC5309菌株の低温ショックタンパク質mRNA発現量の確認
【0065】
本発明のLRCC5309菌株の低温ショックタンパク質mMRA発現量の確認のために、前記実施例1と同様な方法で実験を進めた。比較菌株としては、前記実施例3及び4と同様に、ATCC11842、KCTC3635、KCCM40708を用いた。
【0066】
LRCC5309菌株と比較菌株3種の低温ショックタンパク質mRNA発現量を分析した結果は
図3に示した。
図3に示したように、他の菌株の発現量に比べてLRCC5309の発現量が一番著しいことが確認された。これは、低温ショックを受けたとき、それに対する抵抗を高めるための低温ショックタンパク質の発現量が高いという意味であり、結局低温ショックにおける安定性が他の菌株に比べて高いことを推定することができる。
【0067】
したがって、LRCC5309菌株を用いてアイスクリームを製造する場合、高い菌株安定性が確保可能であると思われる。
【0068】
実施例6−ラクトバシラスプランタラムLRCC5309菌株を用いたアイスクリームの製造
【0069】
本発明のラクトバシラスプランタラムLRCC5309菌株は、前記実施例で述べたように、冷凍−解凍繰り返しと冷凍温度変化の際に生菌数安定性に優れ、低温ショックタンパク質mRNA発現量が高いことが確認された。したがって、LRCC5309菌株を用いて実際のアイスクリームを製造したときの生菌数安定性を確認しようとした。
【0070】
LRCC5309菌株及び前記実施例の比較菌株をMRS平板培地に接種して活性化し、MRS液体培地を用いて種菌培養した後、800mlのMRS液体培地が入っている1Lガラス瓶に0.5体積%となるように接種し、37℃で48時間培養した。培養の終わった培養液を遠心分離(8,000rpm、10分)し、菌体のみを回収し、0.1Mリン酸緩衝液で洗浄した。3回以上洗浄した菌体は、最初の培地体積の20分の1である40mlの0.1Mリン酸緩衝液に添加した後、懸濁することで乳酸菌の菌体液を用意した。
【0071】
適正濃度の糖類、油及び脂肪、乳固形分、乳化剤、安定剤を精製水に混合して基本(base)ミックスを製造し、60℃に加温させてから均質機で脂肪球の大きさを2μm以下に分散させた後、90℃で20秒間殺菌を実施し、5℃以下に冷凍させた。ミックス温度が5℃である時点で前記製造した乳酸菌の菌体液1重量%と適正濃度の香料を投入し、12時間以上5℃以下の温度でエージングさせた後、フリーザー(Freezer)によって空気含有量(overrun)が30〜40%となるように凍結させた。同様な方法でLRCC5309と比較菌株が添加されたアイスクリームをそれぞれ1kg以上製造し、乳酸菌分析のために約85gずつ分けて入れた後、零下20度で保管した。アイスクリーム内の乳酸菌安定性分析のために急速冷凍前のサンプルと急速冷凍後のサンプルを採取し、零下20度で4週間保管しながら1週間に1回ずつ乳酸菌数分析を行った。
【0072】
本発明のLRCC5309菌株と比較菌株3種の菌体液内の乳酸菌数及びアイスクリーム製造後の乳酸菌数の測定結果を下記表5に示し、急速冷凍前及び急速冷凍後、4週間の乳酸菌数も一緒に示した。
【0073】
【表5】
【0074】
前記表5によると、比較菌株の場合、冷凍時に生菌数が多少減少することが確認され、特にKCTC3635の場合は、急速冷凍時に約1000分の1未満(1/(10の3.10乗))に菌数が減少したことが確認され、ATCC11842は急速冷凍時に生菌数が10分の1程度に減少し、KCCM40708は4分の1近くに減少することが確認された。一方、LRCC5309菌株の場合、ここでは9割以上であり、最低でも急速冷凍時の生菌数は冷凍前の半数以上という安定性を有しており、また、及び4週経過時の生菌数に有意差がなかった。これは冷凍時に優れた安定性を維持することができる能力によるものであると思われる。
表5から、LRCC5309菌株の最初の冷凍後の生菌数は、最初の冷凍前の生菌数の1/(10の0.01乗)倍(=0.977)であり、半数以上である。
【0075】
したがって、本発明のラクトバシラスプランタラムLRCC5309菌株を用いてアイスクリームを製造する場合、最初添加される濃度に比べ、大部分の乳酸菌が安定に冷凍されることが確認された。これは、乳酸菌アイスクリーム製造時にコスト節減及び製品品質向上に寄与することになると予想される。
【0076】
以上、本発明について詳細に説明した。ただ、本発明の権利範囲はこれに限定されずに、以下の特許請求範囲によって決定される。